(写真はTelegraph.co.ukから引用)
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< 製油所の概要 >
■ 事故のあった製油所は、フランス南東部マルセイユ近郊のベールレタンにあるリヨンデルバゼル社所有の工場である。リヨンデルバゼル社(LyondellBasell
Industries)はオランダの化学大手企業で、ニューヨーク株式市場に上場し、従業員11,000人を擁して世界的に展開する会社である。リヨンデルバゼル社は、2007年にバセル社(Basell)とリヨンデル社(Lyondell Chemical)が合併して誕生した。
ベールレタンの製油所はマルセイユ空港の近くにあり、
1929年に建設され、2008年にロイヤル・ダッチ・シェルからリヨンデルバゼル社が取得した。石油化学プラントの一つとして精製能力80,000バレル/日の製油所を有し、従業員は約1,000名で、請負会社の社員が同じほどの人数いる。
■ 発災のあったのは、製油所のタンク地区にある貯蔵タンクである。
ベールレタン付近(中央上部が発災のあったタンク地区) (写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年7月14日(火)午前3時、フランスの革命記念日であるパリ祭の日に、製油所のタンク地区にある2基の貯蔵タンクで同時に爆発があり、火災が発生した。発災のあった貯蔵タンクはガソリン用とナフサ用で、これらの2基のタンクは互いに500mほど離れていた。2基のタンクとも、ほぼ満杯の状態だった。
■ フランスで2番目に大都市近郊の空には、巨大な煙の柱が立ち、炎は数km先からも見ることができた。黒煙は、北西の風に乗って、マリグナネ、レ・ペンヌ=ミラボー、サン=ヴィクトレの町の方へ広がっていった。
■ 火災の発生に伴い、消防署の消防隊が出動した。ガソリン貯蔵タンクの火災は比較的早く消すことができた。鎮火時間は午前6時30分頃とみられる。ナフサ貯蔵タンクの火災には手こずった。当初は、製油所の自衛消防隊によって消火活動が行われていたが、公設消防隊による消火活動が必要となった。公設消防隊は液面上に“泡による巨大カーペット”を放射した。ナフサタンク火災は14日午前中まで数時間にわたって燃え、その後、消火された。鎮火時間は午前10時30分頃とみられる。
■ 「互いに500mほど離れているタンクで同時に爆発があったということは、技術的な問題による事故とは考えにくい。犯罪の意図がはっきり感じられる」とリヨンデルバゼル社の関係者は語っている。
■ 7月15日(水)に爆発・火災現場で、起爆装置とみられる電子機器が見つかった。
被 害
■ 被災したのは、ガソリン貯蔵タンクとナフサ貯蔵タンクの2基である。燃焼した油の量は数千KLとみられる。
■ 事故後の調査で、発災タンクにあった起爆装置とみられる電子機器と同様の機器が、別な3番目のタンクで見つかった。これは爆破に失敗したものとみられている。
■ 爆発・火災に伴う、死者や負傷者は出ていない。
■ 発災現場から立ち昇る印象的な巨大な煙がはっきりと見え、地元ラジオでは、発災現場から半径1.5km以内のエリアでは大気汚染の恐れがあると報じた。地元当局は、人の健康にただちに影響することはないと語った。
■ 近くにあるマルセイユ空港の旅客機発着に支障は出ていないという。マルセイユ空港は事故のあったベールレタンの町から11.5kmしか離れておらず、フランスで5番目に発着数の多い空港である。
■ 製油所の操業には影響せず、製油所施設は通常どおり運転している。
(写真はBBC.com
から引用)
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(写真はTelegraph.co.uk
から引用)
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(写真はBBC.com
の動画から引用)
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(写真はBouches-du-rhone.gouv.fr
から引用)
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< 事故の原因 >
■ 2基の貯蔵タンクの爆発・火災の原因について、警察は犯罪行為による可能性が高いとみている。
■ 7月15日(水)に爆発・火災現場で、起爆装置とみられる電子機器が見つかった。現場には、事件に関連するとみられる不審物が残されていたが、損傷が激しいという。
■ 検察官は、電子機器と同様の機器が別な3番目のタンクで見つかったことを明らかにした。また、タンク近傍の外周フェンスに穴が開いているのが見つかっており、こちらも捜査が進められている。
■ 事件の1週間ほど前に、製油所から30kmほど離れたミラマの軍事施設でプラスチック爆弾、起爆装置、手りゅう弾が盗まれる事件が起きており、テロ対策当局が調べているという。
プラスチック爆弾と起爆装置の盗難があった軍事施設
(切断されたフェンスの前にいる警察車両)
(写真はTelegraph.co.ukから引用)
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< 対 応 >
■ 発災に伴い、消防署は120名の消防隊と50台の消防車を現場に出動させた。
■ 当局によると、消防隊は町や地元に火災活動による汚染の影響を防止するため、特別な方法である「予防ダム」をとったという。この予防ダムは消火用水と関係する炭化水素汚染を防止するため、工場近くの町に設置された。
■ ガソリン貯蔵タンクの火災は比較的早く消すことができ、鎮火時間は午前6時30分頃とみられる。
■ ナフサ貯蔵タンクの火災には手こずった。当初は、製油所の自衛消防隊による消火活動が行われていたが、公設消防隊による消火活動が必要となり、液面上に“泡による巨大カーペット”を放射する消火活動が行なわれた。ナフサタンク火災は午前中半ばまで燃え、その後、消火された。鎮火時間は午前10時30分頃とみられる。
■ 英国BBCは、カスヌーブ氏の談として、フランス全土には危険性物質を扱っている施設が1,100箇所ほどあり、セキュリティを強化する必要があると報じた。
補 足
■ ベールレタン(Berre-l‘Etang)はブーシュ・デュ・ローヌ(Bouche
du Rhone)県にあり、フランスで2番目の大都市であるマルセイユ(Marseille)の北方約20kmにある。
(図はグーグルマップから引用)
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■ 発災したナフサ貯蔵タンクは火災写真から場所が特定でき、タンク地区の中央部にある直径約60mの浮き屋根式タンクである。貯蔵容量は50,000KL級と思われる。一方、ナフサ貯蔵タンクから500m離れた位置にあるタンクは南側に何基か見られる。火災になったのはガソリン貯蔵用であり、浮き屋根式と思われるので、西端にあるタンク2基のいずれかと思われる。この2基のタンクは、直径が約35mと約32mであり、10,000KL級と思われる。
発災のナフサ貯蔵タンクと半径500mの円
(写真はグーグルマップから引用)
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直径32mと35mの浮き屋根式タンク 発災のナフサ貯蔵タンク(直径約60m)
(写真はグーグルマップから引用)
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■ ナフサ貯蔵タンクの火災を火災写真で見ると、全面火災ではなく、リムシール火災から屋根火災に近いものと思われる。爆弾は、タンク下部でなく、屋根上に仕掛けられたものと思われる。爆破によってどのような損傷があったのか情報はない。被災程度としては激しいものではないと思われるが、浮き屋根上にナフサが漏れ出た可能性は高い。
■ ナフサタンク火災の消火活動は、公設消防隊による液面上に“泡による巨大カーペット”(Massive
Carpet of Foam)を放射する戦術がとられたと報じられている。断定はできないが、これは大容量泡放射砲によるもの思われる。欧州の大容量泡放射は、米国のフットプリント方式などと異なり、泡放射量10L/㎡/min以上でタンク側板に沿って投入する方法をとる。直径60mのタンクでは、28,300L/minの放射能力を有する泡モニターが必要である。複数台の大型化学消防車(スクワート車)による一斉放射では、10台分に相当し、消防車の配置上難しい。おそらく、大容量泡放射砲によって消火させたものと思われる。
■ 火災活動に入る前に特別な「予防ダム」をとったと報じられており、大量の消火排水による地表水系への汚染防止のために構築された仮設堤と思われるが、実態はよく分からない。
所 感
■ テロ攻撃や戦争行為によるタンク火災は少なくない。このブログで紹介した「貯蔵タンクの事例研究」(2011年8月)によると、1960年~2003年までに起こった242件のタンク事故のうち、「故意の過失」は5番目に多い原因で18件を数え、うち15件がテロ攻撃または戦争行為である。最近でも、つぎのような事例がある。
● 2014年 7月、「リビアで国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災」
● 2014年12月、「リビアでロケット弾による原油貯蔵タンク火災」
これまでは、政情の不安定な国でロケット弾、迫撃砲、手りゅう弾といった戦闘行為によるものだったが、今回の事例はフランスという先進国で、起爆装置を使った悪質な犯罪行為である。明らかに世の中の動きが変わって来ているという印象の事例である。
■ 一方、報を聞いて感じたのは、製油所のセキュリティの甘さである。フランス国内でもテロ事件が続く中で、フェンスを破って複数のタンクに爆弾を仕掛けられている。工場の正門に「テロ対策中」という看板が掛かっていたかどうかは分からないが、所内ではテロへの警戒心はあっただろう。それがいとも簡単に破られている。
しかし、このようなセキュリティの弱点を有する事業所は、リヨンデルバゼル社のベールレタン製油所だけに限ったものではないだろう。テロリストや悪質な犯罪者が意図をもって攻撃する可能性のあることを前提に、施設のセキュリティを考えなければならない。先進国のフランスで起きており、日本では起こらないという保証はどこにもないのである。
参 考
■ 日本人が巻き込まれたテロ攻撃の悲惨な例として、2012年のアルジェリア人質事件がある。この世界的に注目された事件の情報の中から、プラントの警備に関する事項をブログで紹介したことがある。今回のような犯罪行為やテロ攻撃を念頭にして読むと、セキュリティを考える参考になろう。
● 「アルジェリア人質事件・天然ガスプラントの警備状況」(2012年2月)
● 「アルジェリア人質事件 スタトイル社の調査報告」(2013年10月)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・UK.Reuters.com, Criminal Intent Seen in
Petrochemical Fire on French Bastille Day,
July 14, 2015
・Telegraph.co.uk,
Two Blasts in French Chemical Plant Caused by Malicious
Act, July 14, 2015
・RT.com,
2 Blasts Rock Oil Refinery in Southern France 10km from
Marseille Airport, July 14, 2015
・BBC.com,
France Explosions: Devices Found near Berre-L’Etang
Plant, July 15,
2015
・Breithart.com,
There Was a Significant Terrorist Attack in France This
Week and The Mainstream Media Hasn’t even Bothered Telling You, July 15,
2015
・RT.com,
France Blasts:
Foul Play Suspected as Electronic Device Found at The Scene, July 15,
2015
・News.NNA.jp,
マルセイユ近郊の製油所爆発、起爆装置発見,
July 16, 2015
・Mainichi.jp,フランス:マルセイユ近郊の工場 薬品タンク二つ同時爆発, July
16, 2015
・Tokyo-np.co.jp,
仏工場で同時爆発 現場近くで起爆装置?発見, July 16,
2015
・Chunichi.co.jp,仏南部の工場で同時爆発 発火装置?発見, July
16, 2015
後 記: 以前、日本中に散見する「テロ対策中」という看板は抑止力にはなるだろうと皮肉めいたことを言いましたが、プラントやタンク施設へのテロ攻撃の恐れが現実味を帯びてきた時代になったと思います。マーフィの法則(「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」)を感じざるを得ません。最近では、ドローンという新しい機器を警備の対象として考えなければならなくなりました。対策としてドローン対ドローンという漫画なような話も笑っておられませんね。
フランス政府は、今回の事件について「テロ」という言葉を使うには早いといっています。(メディアの中には「テロ」という言葉を使っていましたが) 「テロ」の定義はともかく、今回、爆弾が大きなタンク損傷に至らなかったので、大火災にならず、消火することができました。幸いといってよいでしょう。どこに仕掛けたのだろうか、一番の弱点はどこだろうなどと詰まらない(?)ことを想像しながら、まとめました。
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