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2016年5月25日水曜日

イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上

 今回は、2016年5月15日、イラクのタジにある国営の天然ガス工場にイスラミック・ステート(IS)の武装グループがテロ攻撃を行い、工場内の3基の球形タンクが爆発・炎上し、死者14人・負傷者29人が出た事例を紹介します。
写真Youube.comの動画 から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、イラク(Iraq)の首都バグダッド(Baghdad)の北20kmのタジ(Taji)にある国営の天然ガス工場である。この工場では、調理用ガスや発電用ガスなどを製造してユーザへ供給していた。

■ 工場には、11基の貯蔵用球形タンク(球形ガスホルダー)があった。
             タジの天然ガス工場付近(矢印が発災場所)  (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年5月15日(日)午前6時頃、イスラミック・ステート(IS)の武装グループ8人が3台の自動車に乗って天然ガス工場を襲撃し、正門で一人が爆弾を積んだ自動車とともに爆発したあと、施設内に侵入した。警備に当たっていた警官などの警備部隊と武装グループが銃撃戦になった。
 イラク軍の治安部隊が到着すると、武装グループは駐車していた車の爆弾を爆発させ、自爆用ベストを身に付けた3人が自ら爆発させた。この自爆によって、工場内の3基の球形タンクが爆発や炎上したほか、製品配管の1本が破損した。

■ タンクが爆発したときに、大きなファイヤーボールが舞い上がった。工場の近くに住んでいた従業員によると、ものすごい爆発音が聞こえたあと、工場内から炎と黒煙の上がるのが見えたという。そのあと、警察と軍隊の車両が何台も、1時間ほど続いた銃撃戦のあった現場へ急行したという。
  
■ 治安部隊は2機の軍用ヘリコプターを飛ばすなどして事態を鎮圧した。爆発によって発生した火災は消防隊によって制圧下に入れられた。この襲撃やタンク爆発によって工場の従業員6人と警備部隊8人の計14人が死亡し、少なくとも29人が負傷した。自爆以外の武装グループメンバーは銃撃戦で死亡した。

■ テレビでは、炎と黒煙が工場から立ち昇る映像や、工場から炎が上がったあと、タンクのカバーが飛んでくる様子の映像を流している。 (YouTube 「CamerasCapture Islamic State Gas-Plant Explosion」

■ イラク石油省は、この攻撃によって天然ガス工場の生産に影響が及ぶことはないと語った。しかし、イラク電力省は、タジからのガス供給が止まったことによって、近くにある2基の発電所の運転が停止したと語った。

被 害
■ 貯蔵エリア内のタンク3基が損壊した。このほかに施設内の配管など設備に損害が出ている。 被害状況は政府の調査官が調べている。

■ テロによる攻撃によって死者14人、29人以上の負傷者が出た。テロリスト8人は自爆または銃撃戦で全員死亡した。
(写真ABC13.com の動画から引用)
  2箇所で上がる爆発の炎(左)、飛んでくるタンクのカバー(右) (写真はWSJ.comの動画から引用)
< 事故の原因 >
■ 貯蔵タンクの爆発・炎上は、武装グループの自爆用ベストによるテロ攻撃である。
  
■ 事件の背景: イスラミック・ステート(IS)は、イラクの北部と西部の重要な領域を制圧しているが、最近の戦場における痛手を転じようとして、前線から遠くて人口の多い場所への攻撃を増やす戦法をとっているとみられている。  

< 対 応 >
■ テロ攻撃を受けたあと、治安部隊が増強され、銃撃戦は1時間ほど続いたあと、事態は鎮圧された。爆発によって発生した火災は消防隊によって制圧下に入れられたあと、鎮火した。

■ テロ攻撃を受けてから2日後の5月17日(火)、天然ガス工場での作業を再開したと石油省は発表した。工場内の3本の製品配管によって運転を再開したという。被災しなかったタンクや配管によって、調理用ガスボンベの充填は、従来の30,000本/日に戻すという。
(写真Energylivenews.com から引用)
(写真Youtube.comの動画 から引用
(写真Youtube.com動画から引用)
(写真Youtube.com動画から引用)
(写真News.xinhuanet.com から引用)
(写真AFPbb.comから引用)
 (写真WST.com から引用)
補 足
■ 「イラク」(Iraq)は、正式にはイラク共和国で、連邦共和制国家である。古代メソポタミア文明を受け継ぐ土地にあり、人口約3,300万人で、世界で3番目の原油埋蔵国である。フセイン政権崩壊後、内政は混乱が続いている。
 「タジ」(Taji)は、バグダッド州にあり、イラク首都のバクダッドから北へ約20kmにある人口約40万人の都市である。
                  イラク周辺  (図はグーグルマップから引用)
■ 「天然ガス」は、産出される場所によって組成に違いがあるが、主にメタン・エタンを主成分とする炭化水素である。特性としては、揮発性が高く、常温では急速に蒸発する。空気より軽いため、大気中に拡散しやすい。この点で、空気より重く、低い場所に滞留しやすいプロパンやブタンに比べれば、取扱い上の危険性は低いといえる。

■ 国営の天然ガス工場は「タジ・ガス充填会社」(Gas Filling Company–Taji)と思われる。会社の詳細は分からないが、天然ガス田から産出された天然ガスを精製し、調理用ガスボンベに充填したり、発電用ガスとしてパイプラインで供給する事業だとみられる。
                 タジ・ガス充填会社のタンク群  (写真はグーグルマップから引用)
■ 工場内の「球形タンク」(球形ガスホルダー)は、グーグルマップでは10基あり、建設中の基礎が1基ある。被災状況の写真によれば、この基礎に球形タンクが建っているので、タンク数は11基とみられる。
 グーグルマップによれば、直径13mの球形タンクが8基、直径約16mの球形タンクが2基である。従って、直径約13mのタンク容量が約1,000㎥級、直径16mのタンク容量が約2,000㎥級と推測される。
 被災したのは、直径約13m(容量約1,000㎥級)の球形タンク3基とみられる。被災写真とマップを見比べると、被災タンクは写真のA、B、Cの3基で、被災状況はつぎのとおりだと思われる。
 ● タンクA: タンク支持柱が折れ、タンク頂部が開口しており、爆発があったと思われる。
 ● タンクB: 支持基礎部にタンクがないので、タンクは爆発・破裂して噴き飛んだものと思われる。破片の一部は矢印のように飛んだとみられる。
 ● タンクC: タンク支持柱が折れて横転している。 火災は起こっているが、爆発に至ったかどうかはわからない。
                  被災したタンクの位置  (写真はグーグルマップから引用)
所 感
■ テロ攻撃は、ソフトターゲットのほか、石油・天然ガス施設が目標にされやすいことを示す事例(事件)だといえよう。これまでは、ロケット砲などの砲撃によるテロ攻撃だったが、今回は爆弾を身に付ける自爆ベストが使用された。しかも、正門突破には爆弾を積んだ自動車が使用された。今の日本では考えずらい方法であるが、テロ攻撃の想定には、今回のような戦法がとられることを認識しておく必要があろう。
 なお、イスラミック・ステート(IS)の関係した貯蔵タンクへのテロ攻撃については、つぎのような事例がある。

■ 今回の事例では、球形タンク(球形ガスホルダー)を狙ったテロ攻撃なので、確かに大きなファイヤーボールを形成し、犠牲者も出たが、被災写真を見ると、印象としてまわりへの影響が大きくないと感じた。これがプロパン・ブタンの液化石油ガスの球形タンクだった場合、タンクや配管から漏れた液化石油ガスが地上に滞留したあと、爆発や火災が起こり、周囲の設備へ延焼していっただろう。この点、今回は天然ガスだったので、漏れたガスが上方へ拡散していき、隣接タンクへの影響が比較的小さくなったと思われる。

■ これは想像であるが、テロリストは東日本大震災時のコスモ石油の液化石油ガスタンクの爆発火災(「東日本大震災によるタンク被災(海外報道)」「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故の原因」「コスモ石油の液化石油ガス爆発火災の放射熱解析」を参照)あるいは「フランス フェザンのLPGタンク爆発・火災事故」を知っていて、壊滅的な破壊を期待したのではないだろうか。球形タンクのテロ攻撃では、内液によって被災の状況が異なることを示す事例であるといえよう。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・3.NHK.or.jp, イラク 武装グループがガス工場終劇7人死亡,  May  15,  2016 
  ・Jiji.com,  ガス工場で自爆、11名死亡=IS、犯行認めるーイラク,  May  15,  2016
  ・News.TBS.co.jp, イラク 天然ガス工場でテロ、少なくとも14人が死亡,  May  15,  2016  
  ・FNN-news.com,  イラクの工場で爆弾積んだ車突っ込む 「イスラム国」が犯行声明,  May  15,  2016
    ・AFPbb.com,  イラク、ガス工場襲撃で7人死亡 IS犯行声明、劣勢で自爆増加か,  May  15,  2016
    ・Gibraltarglobe.com,  ISがバグダッド西部攻撃、北部ではガス施設炎上 イラク,  May  15,  2016
    ・Reuters.com,  Islamic State Attacks Gas Plant North of Baghdad, Killing 11,  May  15,  2016
    ・ABC13.com,  ISIS Sets off Fiery Explosion at Iraqi Natural Gas Plant,  May  15,  2016
  ・USAtoday.com, Bloody Sunday in Iraq: 5 Attacks, at Least 29 Dead,  May  15,  2016
    ・WSJ.com,  Islamic State Attacks Iraqi Gas Plant,  May  15,  2016
    ・TheGuardian.com,  Suicide Bombers Launch Attack on Iraqi Gas Plant near Baghdad,  May  15,  2016
    ・Aljazeera.com, Iraq Death Toll Rises Coordinated ISIL Attacks,  May  16,  2016
    ・CP24.com,  Iraq Resumes Work at Gas Plant Two Days after IS Attack,  May  17,  2016


後 記: 今回の事故(事件)は、日本のテレビ局でもニュースとして報じています。インターネットでもたくさんの報道情報がありました。しかし、貯蔵タンクの事故というとらえ方ではなく、テロという事件として伝えていますので、タンクの仕様(大きさなど)について言及したものはありません。また、どのような正門管理(警備)をしていたのか、テロリストの侵入経路はどのようなものだったのかなど、テロ対策を考える上で参考になるような情報が少なかったですね。(そのような情報を求める方が無理?)  天然ガス工場の名称さえ明らかでなく、第一、テロリストの人数や自爆ベストを着用した人数も記事によって異なっていました。いろいろ調べたり、読み比べたりして最も妥当だと思われる内容でまとめました。

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