2014年8月19日火曜日

リビアで国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災

 今回は、2014年7月27日、リビアのブレガ・ペトロリアム・マーケティング社の首都トリポリ郊外にある石油貯蔵施設においてガソリン貯蔵タンクに武装勢力の放ったロケット弾が当たり、火災を起こした事例を紹介します。
武装勢力の砲撃により火災となったリビアの石油貯蔵施設
(写真はDunyanews.tvから引用
 <事故の状況> 
■  2014年7月27日(日)、リビアにある石油貯蔵施設で燃料タンクがロケット弾を受け、火災を起こす事故があった。事故があったのは、国営石油会社ナショナル・オイル・コーポレーション(National Oil Corpo.:NOC)の子会社であるブレガ・ペトロリアム・マーケティング社(Brega Petroleum Marketing)の首都トリポリ(Tripoli)の郊外にある石油貯蔵施設において6,000KLのガソリンが入ったタンクに武装勢力の放ったロケット弾が当たり、火災を起こしたものである。
トリポリ郊外のブレガ・ペトロリアム・マーケティング社の石油貯蔵施設付近
(写真はグーグルマップから引用)
■ 石油貯蔵施設はトリポリ国際空港へつながる道路沿いにあり、市街地から約10km離れたところにある。事故のあった地区周辺では、7月中旬から世俗派民兵とイスラム系民兵の武装勢力間の対立による激しい戦闘が繰り返されていた。

■ 被弾に伴い、燃料タンクは大量の黒煙を上げて炎上した。消防隊が出動して消火活動に当たったが、戦闘が続いているため、何度も現場からの避難を余儀なくされた。国営石油会社のナショナル・オイル・コーポの広報担当モハメド・アルハラリ氏は、「消防隊は何時間も火災を消そうと試みましたが、うまくいきませんでした。最終的に消火用水を使いきり、現場を離れざるをえませんでした」と語り、火災は制御不能な事態に陥っているという。

■ リビア政府は火災現場から半径3km圏内の住民に対し、「自宅からの即時避難」を呼びかけた。同時に、政府は武装勢力に対して声明で「直ちに停戦」するように改めて訴えた。


■ 7月28日(月)には、別な燃料タンクが被弾して火災を起こしたと報じられている。当局によると、地上からの消火活動が失敗したため、空中消火のみが唯一の打開策とみているという。リビア政府は、数か国が国際支援として消火用航空機の派遣を申し出ていると語った。 

■ 731日(木)、リビア当局によると、イタリア政府が消火活動の支援のため、7機の航空機をリビアに派遣したという。暫定政府のアブドラ·アル·タニ首相の発表した声明によると、日曜夜のミサイル攻撃によって始まったブレガ・ペトロリアム・マーケティング社構内の火災を消火させるために、イタリアの石油会社ENI社もまた航空機と技術専門家を派遣したという。

■ 8月3日(日)の報道では、8基の燃料タンクが火災になっており、リビアでは人道的・環境的な災害への危険をひしひしと感じる日曜日だと伝えている。燃料タンク地区の近くには、全部で9,000㎥の燃料・調理用ガスタンクがあり、爆発の危険性の増大が懸念されている。
 石油省は、「朝方、ブレガ・ペトロリアム・マーケティング社の消防隊が火災を制御し、残りのタンクへの延焼を食い止めようと試みたが、砲撃がときどき起こるような状況のため、残念ながら消防隊は貯蔵施設に近づくことできなかった」と述べている。リビア当局は、火災現場から少なくとも半径4km内の住民に対して避難するように呼びかけている。

■ 8月6日(水)、ナショナル・オイル・コーポ広報担当によれば、石油貯蔵施設の大火災は制圧下に入ったという。しかし、武装勢力による戦闘は続いており、施設は依然としてリスクに直面しているという。ナショナル・オイル・コーポ広報担当アルハラリ氏は、「8基の燃料タンクが炎上しましたが、現在のところ制圧下に入っています。消防隊は他のタンクへ延焼しないように現場で監視を行っています。私どもは最悪の大災害を回避できましたが、空港近くの戦闘が続けば、別な火災が起こる危険性は今もあります」と語った。

■ 首都トリポリとベンガジにおいて武装勢力間の激しい戦闘が2週間以上続いており、死者は200人を超えている。各国の大使館は業務を停止し、リビアに入国している自国民の避難を行っている。 2011年、長年、独裁者ムアマール・カダフィによる政権を倒して以降、今回の戦闘は最も暴力的で、7月13日(日)、イスラム系民兵の武装勢力が空港襲撃を行なったことから始まった。戦闘による爆発音はトリポリの市街地からも聞こえるという。
消火活動に努める消防隊
(写真は左:News.nationalpost.comおよび右:Geo.tvから引用)
燃料タンクの火災状況
(写真は左:Channelnewssasia.comおよび右:Businessinsider.comから引用)
              燃料タンクの火災状況   (写真はOnline.wsj.comから引用)
補 足                                                        
■ 「リビア」は、地中海に面する北アフリカに位置し、人口約640万人共和制国家である。海を隔てて旧宗主国のイタリアが存在する。2011年、カダフィ打倒を旗印にしたリビア国民評議会とカダフィ政権側の間でリビア内戦が勃発した。一時期はカダフィ政権側が評議会側の拠点だったベンガジ進攻寸前まで至ったが、NATO(北大西洋条約機構)などから軍事的な支援を受けた評議会軍が同年8月に首都トリポリを制圧した。10月にカダフィがシルトで射殺され、42年間続いたカダフィ政権は崩壊するに至った。
 「トリポリ」(Tripoli)は、リビアの北西部に位置する地中海に面した港町で、人口約170万人の首都である。
■ 「ナショナル・オイル・コーポレーション」(National Oil Corp.NOC)は1970年に設立されたリビアの国営石油会社で、石油・天然ガスの掘削・生産のほか、製油所・石油化学工場を有する。
 「ブレガ・ペトロリアム・マーケティング社」(Brega Petroleum Marketing)は1974年に設立されたNOCの子会社(公社)で、石油製品の貯蔵・物流・販売を行っている。トリポリに石油貯蔵施設を有している。グーグルマップによれば、この施設は直径約35m×6基、直径約40m×1基、直径約43m×5基、合計12基の浮き屋根式タンクが設置されている。従って、推定10,000KL級×6基、12,000KL級×1基、14,000KL級×5基の貯蔵タンクで合計86,000KL級の貯蔵能力を有しているとみられる。また、直径約14m×6基の球形タンクがあり、1,500㎥×6基で合計9,000㎥のガス貯蔵能力を有しているとみられる。
トリポリのブレガ・ペトロリアム・マーケティング社の石油貯蔵施設
(写真はグーグルマップから引用)
■ 「空中消火」は航空機やヘリコプターを用いて、空から消火活動を行うことである。山火事などでは、地上から消防車などのよる消火が困難であり、消火用航空機やヘリコプターの活用が図られてきた。一般に旧型機を消火用航空機に転用する例が多いが、ボンバルディアCL-415は、空中消火機として造られたカナダの水陸両用飛行艇である。大型機の例としては、ボーイング747が消火用飛行機として転用されている。今回の事故時に出動したイタリアの消火用航空機の種類や成果は明らかになっていない。
 日本でも林野火災の対応として1960年代から空中消火方法が実施されてきたが、ヘリコプターによるものである。しかし、各自治体の所有するヘリコプターは放水能力が小さく、小規模火災の対応しかできない。実際の林野火災では、自衛隊の大型ヘリコプターを活用しているのが実情である。なお、東日本大震災でも、津波被害で地上からの消火活動が困難となった仙台や気仙沼の大規模火災に対して出動している。
消火用航空機の例
所 感
■ 戦闘の砲撃によるタンク火災という稀な事例である。しかし、世界的に見ると、それほど珍しい事例とはいえない。このブログで紹介した「貯蔵タンクの事例研究」(2011年8月)によると、1960年~2003年までの43年間に起こった242件のタンク事故のうち、「故意の過失」は5番目に多い原因で18件を数え、うち15件がテロ攻撃または戦争行為である。1991年には、イラクのクウェート占領中、数個所のタンク基地施設に火がつけられ、2・3個所は消火活動が行われたが、その他は戦争行為のため燃え尽きさせた事例がある。最近の故意の過失によるタンク火災の事例としては、2012年1月に起きた「米国オクラホマ州で銃弾によるタンク火災」がある。

■ 今回のタンク火災事故では、戦闘が行われている中、消火活動が困難で、消防隊が退避したような報道もあったが、写真や情報を総合的に見てみると、消防隊は懸命に消火活動を行っていたようだ。今回の事例では、消火用航空機による空中消火が試みられた。この消火活動の成否については何も報道されていないが、おそらく効果は無かったものと思われる。大容量泡放射砲を理解していれば、空中消火が大型タンク火災に有効だとは考えられない。しかし、戦闘が継続し、消火用水が尽きた状況下では、選択肢としては空中消火しか残されていなかった。
 戦闘中のタンク火災に関する消火戦略について過去に言及した資料はないが、とり得る隣接タンクへの延焼防止策を講じるとともに、火災タンクは燃え尽きさせる戦略をとるのが基本だと考える。

備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
        ・ChannelNewsAsia.com, Huge Oil Depot Blaze Puts Tripoli under Threat, July 28, 2014
        News.Yahoo.com, Libiya Oil Depot Fire Rages, Raising Fears of Major Disaster, July 28, 2014   
        ・NDTV.com, Huge Oil Depot Blaze Puts Tripoli under Threat, July 28, 2014
        BBC.co.uk, Tripoli Fuel Depot Fire: Italy to Help Douse Blaze, July 29, 2014
        AFPbb.com, リビア、燃料貯蔵粗切の火災が「制御不能」に戦闘で消火できず, July 29, 2014
        ・Mainichi-jp, リビア:首都で燃料タンク炎上 高まる内戦突入への懸念, July 29, 2014
        NewsPakistan.pk, Italy Sent Aircraft to Extinguish the Fire in the Libyan Oil Tank, July 31, 2014
        Online.WSJ.com, Libya Says Tripoli Fuel-Tank Fire Spreads, Warns of Disaster, August 03, 2014
        Online.WSJ.com, Libya Says Tripoli Fuel-Tank Fire under Control, August 06, 2014



 後 記: ブログ更新はしばらく夏休みでした。孫が帰省していたこともありますが、ぎっくり腰が出てしまい、安静にせざるを得ない状態でした。タンク事故の情報もあまり無いようでした。今回のリビアの戦闘によるタンク火災の報道の情報は断片的で、当初はロケット砲によるタンク火災があったという事実だけにとどめようと思っていました(というより、その程度の情報しかないと見ていました)が、消火用航空機の派遣という興味深い情報などがありました。
 ところで、以前から地元の出光徳山製油所のプラント解体工事を紹介していますが、現在は流動接触分解装置(FCC装置)の反応塔が撤去されました。ときを同じくしてスポーツクラブ「ルネサンス」(以前、出光興産が建てた旧アルテミス)が道路反対側に建て替えられ、波型が特徴だった旧施設も解体される予定です。

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