今回は、2018年9月28日に “prsync”というプロのニュースおよび情報配信サイトに掲載された「浮き屋根貯蔵タンクの事故を回避する」(原題:
Avoiding Floating Roof Storage Tank Incidents)を紹介します。内容はレーダー技術を使った浮き屋根のモニタリング・システムによって浮き屋根の傾きを監視し、屋根の沈降を未然防止しようというものです。
< はじめに >
■ 2017年8月末にテキサス州を襲ったハリケーン・ハービーは、記録的な暴風雨によってテキサス湾岸地域の浮き屋根式貯蔵タンクを15基以上損傷させた。環境当局に提出された報告では、これらの損傷によって地域全体で310万ポンド(1,406トン)の揮発性化学物質が大気中に放出した。屋根排水が機能せず浮き屋根が傾いて、油面が大気に直接曝露してしまうほどの損傷に至るには、いくつかの要因がある。
■ 浮き屋根式タンクが初めて建設されたのは、1923年で、現在、貯蔵タンクの半分以上がこの型式だと推定されている。通常の状態では、浮き屋根式タンクは、他の型式の貯蔵タンクよりもつぎのような利点がある。
● 蒸発による製品ロスの削減
● 火災のリスクを軽減することによる安全性の向上
● ベーパー放出の減少による健康と環境条件の改善
< タンクの事故と回避方法 >
■ 国際石油・ガス生産者協会(International
Association of Oil & Gas Producers;IOGP)の研究によれば、タンクの事故頻度はつぎのとおりである。
● 625基のタンク中、1基がタンク浮き屋根上に内部流体を流出させる。
● 900基のタンク中、1基が浮き屋根を沈没させる。
● 8,300基のタンク中、1基が全面火災を発生させる。
■ 浮き屋根をモニタリングして事故を防止する従来の方法は、定期的に人手による検査を行うことだった。これには、ポンツーン部のマンウェイを開けて内部の検査や大気試験を行うこと、屋根の脚の検査やバキューム試験を行うこと、ローリング・ラダーが適切に機能するかを確認すること、シール部の手の届く箇所を点検したり検査を行うこと、継ぎ目部や溶接部の腐食を点検することなどである。
■ しかし、この従来からの方法には多くの課題がある。例えば、危険な場所に人を配置したり、タンクへのアクセスを広範囲に許可したり、検査を実施できる箇所が制限されたり、検査にかかる時間に制約が出るなどである。これらの定期的な検査は、検査と検査の間に現れる問題点を見落として、事故につながる可能性もある。
< 浮き屋根自動モニタリングの有用性 >
■ タンクの損傷防止策して、レーダー技術を使った浮き屋根のモニタリング・システムがある。
■ 浮き屋根自動モニタリング(Automatic
Floating Roof Monitoring;AFRM)システムによって、オペレーターは浮き屋根式タンクが正常に機能していることを確認できる。屋根の状況を24時間切れ目なく監視し続け、もし浮き屋根に異常な動きが生じた場合、計器室に直接接続された自動警報装置がただちに注意喚起する。
■ このシステムは、屋根の傾斜状態を測定することによって屋根が正常に浮いているかを検出する。屋根が通常よりも傾いていれば、何かがおかしいという初期の兆候である。例えば、ポンツーンに穴が開いたり、屋根の上に液体が溜まったり、屋根の下にベーパー溜まりができていたりすることである。
■ レーダー装置は、通常、大型の貯蔵タンクのレベル測定に使用されているが、傾斜状態の測定にも非常に適している。レーダー装置は屋根周囲の円周上に等間隔で3台(以上)配置されている。(図1を参照)レーダー装置で計測されたデータは計器室に送信され、オペレーターは距離計測値の自動比較によって屋根の傾き状況を知ることができる。もし、屋根の傾斜が正常な動きを示していないような値になったとき、オペレーターに警告する警報装置を設置することができる。
■ モニタリング・システムには、計測精度に影響する要因がある。各タンクのアラーム制限を設定するとき、この計測精度に影響する要因を考慮する必要がある。これらの要因には、例えば、つぎのような事項がある。
● タンク側板と屋根の動き・・・大型の貯蔵タンクでは、日に当たるところと影のところによって熱膨張あるいは熱収縮があるので、屋根と側板には常にわずかな動きがある。
● 気象条件・・・強風や強雨によって、スイベルアーム、浮き屋根、タンク側板がわずかに動いたり、傾いたりすることがある。
● タンクの充填レベル・・・タンクに液体が充填されていくと、タンク側板が膨らみ、側板に取付けられた計測器が動く。
● 浮き屋根に存在する固有の問題・・・浮き屋根が100%レベルになることはない。完璧な状態でも、多少の傾きは常に存在する。
■ これら要因は、異常な傾き値を示すことがあり、正常な値としては取扱えない。これは設置場所ごとや個々のタンクによってもかなり変化することがある。アラーム制限を決めるためには、設置後の屋根の動きを追跡し、常用運転中に個々のタンクごとに生じる傾きの標準的な値を把握してアラーム制限を設定しなければならない。
< 測定機能の追加 >
■ 非接触型レーダー装置は、屋根の浮力を観察することもできる。すなわち、屋根が通常より高い位置で浮いているか、あるいは低い位置で浮いているかを知ることができる。
■ このためには、通常のレベル測定用として別に自動タンクゲージを固定パイプ内に取付けて、製品レベルを測定する必要がある。(図2を参照) タンクゲージによる製品レベル(d 4)と傾斜ゲージによる屋根からの距離(d 1,2,3)を比較することで、屋根が通常よりも高く浮いているか、低く浮いているかを知ることができる。
図2 屋根の浮力測定機能付きレーザー式屋根傾斜モニタリング・システム
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< ガイド波レーダー式の浮き屋根自動モニタリング >
■ ガイド波レーダーの場合、レーダー装置は浮き屋根の上面に直接取付ける。3台(以上)のワイヤレスでバッテリー駆動のガイド波レーダー送信機は、屋根周囲に等間隔で配置されたパイプ内に設置される。
ガイド波レーダー送信機には、屋根を貫通して下の液体内に浸かった固定プローブが設置されている。(図3を参照)
図3 ガイド波レーダーによる屋根の傾斜モニタリング・システム
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■ ガイド波レーダーによる傾きの検出原理は、アレージ、すなわち液体の入ったパイプ内の未充填スペースの量を測定することにもとづく。屋根が傾き始めると、レーダー送信機が図4に示すように距離d 1、d 2、d 3の偏差値を記録することによって傾斜値を計算する。
■「Sandie
Hughes」(サンディ・ヒューズ)は、テキサス州を本拠地とする産業機器メーカーのエマソン・オートメーション・ソリューション社(Emerson
Automation Solutions)の女性の営業担当マネージャーである。
■ 当該資料では「2017年8月末にテキサス州を襲ったハリケーン・ハービーは、記録的な暴風雨によってテキサス湾岸地域の浮き屋根式貯蔵タンクを15基以上損傷させた」とあるが、当時の事故情報はつぎのブログを参照。
● 「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」(2017年9月)
● 「テキサス州バレロ社のタンク浮き屋根沈降による環境汚染」(2017年10月)
■ タンク浮き屋根が沈降した事故で、教訓として参考になる事例はつぎのとおりである。
● 2007年7月、「フランスで原油タンクのダブルポンツーン型浮き屋根が沈没」
ダブルポンツーン型浮き屋根でも、屋根沈降が起こり得ることを示す事例である。
● 2012年11月、「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故」
本事例は、浮き屋根沈降の経緯、事故発見後の対応、再発防止策などについて詳細な事故報告書が公表されており、参考になる。
● 2005年2月、「九州石油大分製油所のタンク浮き屋根の沈没事故」
本事例の事故報告者では、浮き屋根沈降の反省からタンク点検の改善点が示されている。また、類似事故の再発防止の観点から、総務省消防庁が「浮屋根式屋外タンク貯蔵所の保安対策の徹底について」という通知を出した事例である。
■ 国際石油・ガス生産者協会(International
Association of Oil & Gas Producers;IOGP)によるタンクの事故頻度がつぎのように掲載されている。
● 625基のタンク中1基がタンク浮き屋根上に内部流体を流出させる。
● 900基のタンク中1基が浮き屋根を沈没させる。
● 8,300基のタンク中1基が全面火災を発生させる。
この国際石油・ガス生産者協会の資料は当ブログの「貯蔵タンクにおける事故の発生頻度」(2015年12月)を参照。発生頻度の表現が異なるが、数値は同じである。
所 感
■ 2017年8月末にテキサス州を襲ったハリケーン・ハービーによってテキサス湾岸地域の浮き屋根式貯蔵タンクを15基以上損傷させたという。その中で、浮き屋根式貯蔵タンクの屋根沈降による大気汚染や流出油の問題が起こった。この資料は、ハリケーン襲来1年後の2018年9月に発表されたものである。
レーダー式レベル計はすでに世の中に出回っているので、新技術ではないが、浮き屋根式貯蔵タンクの屋根の傾きを計測する点が注目される。
■ 資料では、計測精度に影響する要因を考慮する必要があるとし、これらの要因の例としてつぎのような事項をあげている。
● タンク側板と屋根の動き・・・大型の貯蔵タンクでは、日に当たるところと影のところによって熱膨張あるいは熱収縮があるので、屋根と側板には常にわずかな動きがある。
● 気象条件・・・強風や雨によって、スイベルアーム、浮き屋根、タンク側板がわずかに動いたり、傾いたりすることがある。
● タンクの充填レベル・・・タンクに液体が充填されていくと、タンク側板が膨らみ、側板に取付けられた計測器が動く。
● 浮き屋根に存在する固有の問題・・・浮き屋根が100%レベルになることはない。完璧な状態でも、多少の傾きは常に存在する。
この点は単なるアイデアだけでなく、実際のタンクの状況を認識して開発してきたことが伺える。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Prsync.com,
Avoiding Floating Roof Storage Tank Incidents, September 28, 2018
・Processonline.com.au,
Floating roof monitoring using radar technology —
Part 1, Part2, October 01, 2019
後 記: 初めは新しい計器の宣伝のような気がしてブログの掲載は躊躇(ちゅうちょ)していましたが、最近、タンクの事故情報をあまり聞かないので、まとめてみようかと思い立ちました。まとめてみると、システムの精度とアラーム制限などなかなか興味深いところもありました。日本では、大型貯蔵タンクの建設案件はありませんので、このような新しい計器の導入環境としては厳しいのですが、世界的に見ると、新しいタンクターミナル建設はあり、このようなところでは、前向きに導入を考えるでしょう。
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