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2020年4月3日金曜日

北九州市の日本製鉄構内にある化学工場でフタル酸タンク爆発

 今回は、2020年3月23日(月)、福岡県北九州市戸畑区にある日鉄ケミカル&マテリアル(株)九州製造所でフタル酸の入った貯蔵タンクが爆発した事例を紹介します。
(写真Stat.ameba.jpから引用)
< 施設の概要 >
■ 事故があったのは、福岡県北九州市戸畑区中原にある日鉄ケミカル&マテリアル(株)の九州製造所である。同社は日本製鉄(株)のグループ会社である。

■ 発災があったのは、日本製鉄八幡製鉄所構内にある九州製造所の化学物質のフタル酸が入った貯蔵タンクである。
北九州市の日鉄ケミカル&マテリアル(株)の九州製造所付近(矢印が発災場所とみられる)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年3月23日(月)午前10時頃、九州製造所コールケミカル工場にあるフタル酸が入った貯蔵タンクが爆発した。

■ 発災に伴い、北九州市消防局の消防隊が消防車20台とともに出動した。

■ 事故のあった工場は設備点検のため、作業を順次停止していたという。爆発のあったプラントは樹脂原料を製造する施設で、プラント内にいた作業者4人にけがは無かった。しかし、数人が「目がしみる」と訴えた。
(写真はNews.yahoo.co.jpから引用)
被 害 
■ フタル酸が入った貯蔵タンクが爆発し、損壊したとみられる。

■ 事故に伴う死傷者は無かった。

< 事故の原因 >
■ 原因は分かっていない。
 

補 足
■「福岡県」は、九州地方の北に位置し、人口約511万人の県で、県庁所在地は福岡市である。
「北九州市」は、福岡県の北部に位置し、人口約94万人の政令指定都市である。 1963年に門司、小倉、若松、八幡、戸畑の五市の対等合併を経て政令指定都市となった。

■「日鉄ケミカル&マテリアル(株)」は、1956年10月に設立された化学会社で、2018年10月に新日鉄住金化学と新日鉄住金マテリアルズが経営統合され、現在の会社名になった。コールケミカル事業はコールタールから石炭系炭素材を生産し、各種電極用素材をはじめ、半導体産業や自動車・航空宇宙産業などで幅広く用いられている。 また、コールタールの軽質留分からナフタリン類や無水フタル酸を生産している。
 コールタールからの製品の流れは図のとおりである。また、同社は日本製鉄(株)のグループ会社であり、両者の関係は図を参照。
                            コールタールからの製品の流れ   (図はNipponsteel.comから引用)
              日本製鉄と日鉄ケミカル&マテリアルの関係  (図はNipponsteel.comから引用)
 ■「無水フタル酸」は、化学式 C8H4O3で、特異臭をもつ針状晶、融点131℃沸点284℃(昇華)である。フタル酸(化学式 C6H4(COOH)2を硫酸を用いて分子内脱水したのが無水物の無水フタル酸である。無水フタル酸は、元々安定な化合物を分子内で脱水することで得られる物質なので、他のカルボン酸無水物と同じように水と反応してもとのフタル酸に変化する。無水フタル酸は、アルキド樹脂原料、色素、染料中間体などの原料となり、プラスチック可塑剤として用いられる。可塑剤とは、プラスチックなどに柔軟性、弾力性を与えたり、加工しやすくするために添加する物質である。無水フタル酸の製造方法の例は図を参照。なお、事故のあったタンク(容器)にあった液体が無水フタル酸かフタル酸かは不明である。
                       無水フタル酸の製造方法の例  (図はJstage.jst.go.jp.jpgから引用)
■ グーグルマップで調べると、報道写真と一致する発災場所分かったが、「貯蔵タンク」(容器)は分からず、仕様も分からない。
          日鉄ケミカル&マテリアル九州製造所の発災場所付近   (写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ 爆発の原因はもちろん、事故の状況やタンク(容器)の仕様など詳しいことは分からない。定期補修中だったとみられるので、運転中の事故ではなく、タンク周辺の火気工事だと思われる。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」(2011年7月)のつぎの項目のいずれかが欠けたのではないだろうか。
  ①代替方法の採用、  ②危険度の分析、 ③作業環境のモニタリング、
  ④作業エリアのテスト、⑤着工許可の発行、⑥徹底した訓練、⑦請負者への監督

■ 消火活動についても情報がない。報道ヘリコプターによる写真によると、発災場所と思われるところに大勢の人が集まっており、消防車も活動をしていないので、タンク(容器)は爆発した後、火災は起こしていないとみられる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Mainichi.jp, 北九州市の製鉄所化学製品タンクが爆発、けが人な, March  23, 2020
    ・Ameblo.jp, 日鉄ケミカル&マテリアル九州製造所で爆発事故、怪我人はなし, March  24, 2020



後 記: タンク事故情報がしばらく無く、2020年2月4日の「米国ペンシルバニア州の化学工場で火災、タール用タンクへ延焼」以来で約2か月ぶりでした。そして、奇しくも米国の事故は、今回と同じようにコールタールを扱っている化学工場で起こったものでした。
 米国の事故はローカルなため、ほとんど内容が分からない状況でした。近年の米国の状況は報道機関に厳しい経営環境で、死亡事故であっても事故があったという状況を伝えるだけの記事が多くなったと感じています。事故から学ぶ教訓を共有しようという考えを放棄しているように思います。最近、この傾向は日本にも感じています。今回の日鉄ケミカル&マテリアル社の事故も報道ヘリコプターは出ていますが、内容は事故があったという状況を伝えるだけです。1週間経てば、ニュース記事さえインターネット配信から消されています。日鉄ケミカル&マテリアル社はウェブサイトを保有しており、4月1日付けの人事異動は掲載されていますが、事故に関してはひと言もありません。そういえば、2019年12月24日にあった東亜石油の事故も第一報は同社のウェブサイトに掲載されていますが、その後3か月経った今も続報はありません。

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