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2017年9月10日日曜日

米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出

 今回は、2017年8月25日に米国テキサス州に上陸したハリケーン・ハービーによる石油施設への影響や油流出の事故について紹介します。
(写真はFoxnews.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ヒューストン(Houston)周辺のメキシコ湾岸にある石油施設である。

■ テキサス州南部にハリケーン・ハービー(Hurricane Harvey)が上陸し、洪水が発生したため、各所の石油施設が影響を受けたものである。
                             テキサス州のヒューストン周辺 (丸印は石油施設の場所 
(写真はGoggleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はUsatoday.comから引用)
■ 2017年8月25日(金)、米国テキサス州南部にハリケーン・ハービーが上陸した。上陸時の勢力は中心気圧938hPa、最大風速58m/sで、ハリケーン分類の上から2番目に強い「カテゴリー4」だった。上陸後、勢力は弱まったものの、速度が落ち、テキサス南部に停滞した。ヒューストン周辺では、5日連続で雨が降り続き、総降水量が米国本土の最高記録である1,318mmに達し、このため1,000年に一度と言われる大洪水が発生した。洪水の面積は、秋田県2つ分以上に相当する25,000km2といわれ、多数の死者を出したほか、多くの被害家屋が出ている。このような状況の中で、石油施設にも影響が及んで製油所の操業停止や石油の流出事故などが起こった。

石油タンクの事故
■ 8月27日(日)、テキサス州パサデナにあり、128基の石油貯蔵タンクを有するキンダーモーガン社(Kinder Morgan)のパサデナ・ターミナルで、浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が豪雨により沈降し、油流出と汚染物質の大気放散が生じた。流出した油は構内に留まった。このほかに2基の浮き屋根式タンクの浮き屋根が豪雨により沈降したと報じられている。  

■ 8月27日(日)午前5時頃、テキサス州ポートアーサーにあるカーバーン・オイル社(Karbuhn Oil Co)所有の油井施設で、ファイバーグラス製の原油貯蔵タンクにハリケーン・ハービーに伴う雷が落ちた。落雷によって2基のタンクで火災が起こり、原油約5バレル(800リットル)と塩水約20バレル(3,200リットル)が流出した。消防隊が到着時したときには、火災はほとんど燃え尽きていた。

■ 8月29日(火)、テキサス州南部のデウィット郡にあるコノコフィリップス社(ConocoPhillips)の子会社であるバーリングトン・リソーシーズ・オイル・アンド・ガス社(Burlington Resources Oil and Gas)の油井施設用の貯蔵タンク4基が押し流された。油井施設はウェストホフの近郊にあり、タンクは油井から出てきた原油と廃水を保管するものとして使用されていた。4基のタンクには、約385バレル(61KL)の原油と約76バレル(12KL)の廃水が入っていた。流出した量は分かっていない。なお、当時、油井施設は停止されており、油井から直接の原油の流出は無かった。
 同じくバーリングトン・リソーシーズ・オイル・アンド・ガス社のデウィット郡ホーホハイムの近郊にある油井施設の貯蔵タンクも通信が途絶えて懸念されたが、現地を確認した結果、タンク内にあった約316バレル(50KL)の原油と廃水は流出を免れていた。
(写真はCrossroadstoday.comから引用)
■ 8月29日(火)、テキサス州ベイタウンにあるエクソンモービル社(ExxonMobil)のベイタウン製油所で、浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が豪雨により沈降し、貯蔵されていた油が大気に曝露され、揮発性有機化合物などの環境汚染を引き起こす要因が生じた。

■ 8月29日(火)、テキサス州スウィーニーにあるフィリップス66社(Phillips66)のスウィーニー製油所で、浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が豪雨により沈降し、ガソリンベーパーが大気に放散した。

■ 8月30日(水)、テキサス州ヒューストンにあるヴァレロ・エナージー社(Valero Energy Corp)のヒューストン製油所で、浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が豪雨により沈降し、貯蔵されていた原油が防油堤内に漏洩した。漏洩した油量は分からないが、堤内に留まっており、クリーンアップ作業が行われた。

■ 9月4日(月)の報道では、つぎのように報じられている。
 ● テキサス州パサデナにあるフィリップス66社のパサデナ製品タンクターミナルで、浮き屋根式タンク4基の浮き屋根が豪雨により沈降した。
 ● テキサス州ディアパークにあるシェル・オイル社(Shell Oil)のディアパーク製油所では、 2基の浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降した。このうち1基からは油が漏洩し、防油堤内に流出した。漏洩は封じ込まれており、クリーンアップ作業が行われた。
 ● テキサス州テキサスシティにあるマラソン・ペトロリアム社(Marathon Petroleum)テキサスシティ製油所では、 浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が沈降した。

■ 9月2日(土)、テキサス州ボーモントにあるエクソンモービル社のボーモント製油所で、市内で起った洪水の水が高さ10フィート(3m)の製油所用堤防を越えて構内に流入した。このため、製油所内の油がオーバーフローしてジェファーソン郡の郡道に出て油膜が浮かんだ。

製油所の操業停止
■ ハリケーン・ハービーの上陸によって、製油所が停止し、8月31日(水)時点で米国内の石油精製の生産能力は20%以上低下したといわれている。テキサス州のコーパス・クリスティからルイジアナ州境までのメキシコ湾岸沿いは石油およびケミカルの主要な供給地域であり、米国経済の約3%を担っている。

■ テキサス州のコーパス・クリスティ地域には複数の製油所があるが、ハリケーン上陸前の8月25日(金)に6つの製油所が稼働を停止させていた。精製設備の一部は8月30日(水)に稼働を再開したが、メキシコ湾岸沿いの製油所は、洪水によって8月31日時点で停止したままである。
 
■ テキサス州のヒューストン/ガルベストン地区にある複数の製油所のうち、8月29日(火)時点で、エクソンモービル社、ヴァレロ・エナージー社(Valero Energy Corp)、マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社(Magellan Midstream Partners)、バックアイ・パートナーズ社(Buckeye Partners)、フィリップス66社(Phillips 66)の5つの製油所が、洪水のため、稼働を停止している。

■ テキサス州のポートアーサーにある米国最大の精製能力60万バレル/日を有するサウジアラビアン・オイル社(Saudi Arabian Oil)とシェル・オイル社(Shell Oil)の合弁企業であるモティバ・エンタープライズ社(Motiva Enterprises)のポートアーサー製油所も、地域の洪水によって、8月27日(水)に停止した。 

■ ルイジアナ州のレイク・チャールスにあるヴァレロ・エナージー社とモティバ・エンタープライズ社の2つの製油所は通油量を落として稼働している。
(写真はNewsrepublic.comから引用)
(写真はFoxnews.comから引用)
(写真はBreitbart.com から引用)
 港の閉鎖
■ テキサス州にある港のうち、ボーモント港、ネダーランド港、オレンジ港、ポートアーサー港、ポートネーチス港、サビーネ港、サバインバー港が閉鎖され、ルイジアナ州のレイクチャールス港も閉鎖された。

石油ターミナルの運転停止
■ マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社は、長距離パイプラインのブリッジ・テックス・パイプラインとロングホーン・パイプラインの2本の運転を停止した。キンダー・モルガン社は、テキサス州を走る30万バレル/日の通油能力をもつ原油・天然ガスのパイプラインを選択停止させた。

■ マゼラン・ミッドストリーム・パートナーズ社はコーパス・クリスティにある原油ターミナルの運転を停止した。 バックアイ・パートナーズ社もコーパス・クリスティにあるマリーン・ターミナルの稼働を停止し、原油、天然ガス、燃料油、ナフサ貯蔵施設の運転を停止した。

■ フィリップス66社は、テキサス州のフリーポート港が閉鎖された後、フリーポート・ターミナルとテキサス・ターミナルの運転を停止した。また、同社はテキサス州のネダーランドにある原油および石油製品の貯蔵ターミナルの運転を停止した。

■ ニュースター・エナージー社(NuStar Energy)は、コーパス・クリスティにある原油および石油製品の貯蔵ターミナルの運転を停止した。

■ コロニアル・パイプライン社(Colonial Pipeline)は、8月30日(水)、ハリケーン襲来のため、ルイジアナ州レークチャールスの西にあるパイプライン施設を一時的に運転を停止した。30日(水)の夜には、ディーゼル燃料と航空機燃料を移送するコロニアル・ライン2の施設が停止された。8月31日(木)には、ガソリンを移送するコロニアル・ライン1が停止された。
(写真はBusinessinsider.comから引用)
被 害
■ 石油施設において物損や操業ロスなどの被害が出ているが、被害額は分かっていない。

■ 9月3日(日)、テキサス州知事はハリケーン・ハービーによる州の被害総額は1,800億ドル(約20兆円)に達する可能性があると語った。ハリケーンによる死者は50人とみられ、被害家屋は20万戸を越え、家を追われた人は100万人を超えるといわれている。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は、ハリケーン・ハービーによる風水害である。

< 対 応 >
■ 9月2日(土)、環境保護団体のスカイ・トゥルース(Sky Truth)は、ハリケーン・ハービーの環境への影響を衛星写真による分析を行い、インターネットへの投稿を始めた。
スカイ・トゥルースが発表した衛星写真の分析例
ドレイヤーから西に2kmほど離れた油井施設が洪水で冠水した地区の衛星写真である。洪水の水が濃い色になっているのは、油またはケミカルが流出していることを示す。
(写真と解説はSkytruth.orgから引用)
■ 9月6日(水)、ハリケーン・ハービーで停止した米国テキサス州の製油所の復旧が進んでいると報じられてる。エクソンモービル社のベイタウンの製油所は9月初めに操業を再開した。マラソン・ペトロリアム社のガルベストン製油所は稼働率45%の水準で操業再開した。シェル・オイル社はディアパーク製油所の9月5日再開を発表した。フィリップス66社のボーモントの製油所およびシトゴ社(Citgo)のコーパスクリスティーの製油所はまもなく再開すると発表した。一方、モティバ・エンタープライズ社のポートアーサー製油所の再開は2週間ほど先となる見込みだという。

補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,780万人の州で、州都はオースティンである。人口はカルフォルニア州に次いで全米第2位、面積はアラスカ州に次いで全米第2位の州で、日本より広い。原油が発見されて以来、テキサス州の経済は石油産業の状況に大きく依存してきた。テキサス州では、25個所の製油所がある。
 今回のハリケーン・ハービーの進路とテキサス州の石油施設の場所は図のとおりである。
ハリケーン・ハービーの進路とテキサス州の石油施設の場所 
(図はNrdc.orgから引用)
所 感
■ 過去にハリケーンや集中豪雨によって起った石油施設の事故事例はつぎのとおりである。

 今回のハリケーン・ハービーによる石油施設の被害や影響の特徴はつぎのとおりであろう。
 ● ヒューストンなどテキサス州のメキシコ湾岸の25,000km2という広い地域で洪水が起こり、製油所など多くの石油施設が浸水や冠水の影響を受けた。
 ● 5日間で最大1,300mmを超える猛烈な降水量の雨が降り、浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降するという事例が多く発生した。

■ ハリケーン・ハービーによる被害範囲があまりにも多く、浮き屋根式タンクの浮き屋根が沈降するという本来は注目すべき事故は個々の状況が報じられていない。おそらく、浮き屋根の雨水排水管入口部がサビやゴミで詰まり気味だったタンクで起ったものと思われる。ハリケーン襲来前には、事前点検が行われていると思うが、抜けや大丈夫だろうという予断があったのだろう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。 
      ・News.yahoo.co.jp, ハリケーン・ハービー、ニ度目の上陸 これから懸念されること,  August 30,  2017 
      ・Conocophillips.com,  ConocoPhillips Responds to Harvey,  August 31,  2017  ​   
  ・Washingtonpost.com,  ExxonMobil Refineries are Damaged in Hurricane Harvey, Releasing Hazardous Pollutants,  August 31,  2017  
  ・Tankstoragemag.com, Tropical Storm Harvey Battles Gulf Coast,  August 29,  2017 
      ・Tankstoragemag.com, Storage Spill & Explosion as Harvey Continues to Thrash Gulf Coast,  August 31,  2017
      ・Foxnews.com, Harvey Damages Oil Tanks, Spilling 30,000 gallons of Crude,  August 31,  2017   
      ・Nbcnews.com, Harvey Releases 2 Million Pounds of Pollutants from Refineries, Plants,  August 30,  2017 
      ・Expressnews.com, Harvey Halts 20 percent U.S. Refining  Operations,  August 30,  2017 
      ・Chron.com, Lightning from Hurricane Harvey Hits Oil Storage Tank near Wildlife Management Area,  August 29,  2017 
      ・Crossroadstoday.com, Oil Spill in Dewitt Caused by Hurricane Harvey,  September  01,  2017
      ・Nola.com, Hurricane Harvey Aftermath: Chemical Plants Already Released 1 Million Pounds of Extra Air Pollutants ,  September  04,  2017 
      ・Fortune.com, Hurricane Harvey Damages Could Cost up to $180 Billion,  September 03,  2017 
      ・Breitbart.com, Exxon Mobil Oil Spills over ‘Harvey’ Flooded Levee,  September 03,  2017
      ・Nikkei.com, 原油価格が反発 ハリケーン被害の米製油所復旧見込みで,  September 06,  2017 
      ・Jetro.go.jp , テキサス州の製油所が徐々に操業再開-ハリケーンの影響、港湾やパイプラインは復旧遅れる,  September 04,  2017
      ・Skytruth.org Fortune.com, Hurricane Harvey Damages Could Cost up to $180 Billion,  September 02,  2017     



後 記: 前回のブログの後記で、8月下旬、テキサス州にハリケーン・ハーベイ(Hurricane Harvey)が襲来し、ヒューストンで洪水が起こっていることを書きましたが、おそらく、油流出の事故(被害)が生じているだろうと思って調べ始めました。ハリケーンの被害は思っていた以上に広範囲で深刻なものが多く、個々の事故(被害)に関する情報は埋もれているような状況でした。浮き屋根沈降や油流出に関することは、多くの記事の中のほんの数行といった感じでした。
 なお、今回はハリケーン「ハービー」としました。日本語の表記では、ハーベイとハービーの2つに分かれていましたが、多い方のハービーにしました。

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