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2015年12月1日火曜日

貯蔵タンクにおける事故の発生頻度

 今回は、2010年にOGP(International Association of Oil & Gas Producers)から出されたリスク・アセスメント・データ一覧(Risk Assessment Data Directry)のためのレポート「Storage  Incident  Frequencies」(貯蔵タンク事故の頻度)について紹介します。 
< 事故の発生頻度に関する推奨データ >
1.地上式常圧貯蔵タンク
タンクの定義
■ 地上式常圧貯蔵タンクは、大気圧で、常温近くで液を貯蔵するものをいう。タンクは、通常、コンクリート基礎に鋼製で製作され、周囲には低い防油堤が設けられる。設計のための内部圧力/減圧度は0.07 barである。一般には固定屋根式タンクが多い。
  ● 固定屋根式タンク: この型式は液面とタンク屋根の間が気相である。このため、タンクの頂部にはベーパー用のベントを必要とする。屋根の種類には2つに分けられる。
    〇 ドーム・ルーフ: 一般に直径は約20mまでである。
    〇 コーン・ルーフ: 一般に直径は約76mまでである。
  ● 浮き屋根式タンク: この型式は、ベーパーの蒸発損失を減らすため、液面にフロートを浮かべている。屋根部には、タンク壁との間にシール部を設ける必要がある。屋根の種類はつぎの3つがある。
    〇 パン・ルーフ
    〇 円環形ポンツーン・ルーフ
    〇 ダブルデッキ・ルーフ
  ● 内部浮き屋根式タンク: 固定屋根式タンクの内部に浮き屋根を組み合わせた型式である。

■ 次節で、タンク本体に関する事故について言及する。厳密には、入口/出口バルブ、防油堤内の配管、安全弁などのような付帯設備の事故は除外すべきである。実際の事例には、これらの箇所における事故を含んでいる。というのは、参考にした事故のデータの中には、タンク本体の事故とはっきり区別できないものがある。なお、タンクの破壊と屋根火災についてははっきりしている。
 
事故の発生頻度
■ 地上式常圧貯蔵タンクにおいて、漏洩の発生頻度について推奨する推測値は表1のとおりである。
表1 地上式常圧貯蔵タンクの漏洩発生頻度
■ タンク型式の違いによる火災・爆発の発生頻度は、表2のとおりである。
表2 地上式常圧貯蔵タンクの火災発生頻度
2.冷凍貯蔵タンク
タンクの定義
■ 冷凍貯蔵タンクはいろいろ異なった設計がとられている。このために、事故の発生頻度に差異が出るとみられる。一般に使用されているのは二重殻タンクが多い。
  ● 一重殻タンク(Single Containment Tank): 1次封じ込めのタンク壁は一重で、一般にアウター・シェルで設計・製作される。このため、タンク壁は製品の貯蔵に適した低温で延性の性質をもった材料にする必要がある。
  ● 二重殻タンク(Double Containment Tank): 自立式1次封じ込め用タンクと2次封じ込め用タンクの両方とも、個々に冷凍液を貯蔵できるように設計・製作される。漏洩した液の滞留を最小にするため、2次封じ込め用タンク壁は、1次封じ込め用タンク壁から6mを超えないようにすべきであろう。1次封じ込め用タンクは、常用運転条件の冷凍液を保持できるようにする。2次封じ込め用タンクは冷凍液の漏洩を保持するのが目的であるが、漏洩液によるベーパーを対象にしていない。
  ● 全封じ込めタンク(Full Containment Tank): 自立式1次封じ込め用タンクと2次封じ込め用タンクの両方とも、個々に冷凍液を貯蔵できるように設計・製作され、そのうちひとつはベーパーも対象にされる。 2次封じ込め用タンク壁は、1次封じ込め用タンク壁から1~2mの間隔とされる。 1次封じ込め用タンクは、常用運転条件の冷凍液を保持できるようにする。アウター屋根は2次封じ込め用タンクによって支持される。 2次封じ込め用タンクは冷凍液を保持するとともに、想定した事象による漏洩液から出るベーパーをベントで制御する。
  ● 球形貯蔵タンク(Spherical Storage Tank): 1次封じ込め用タンク壁は球形で、赤道部に立て形の柱で支持される。陸上用タンクでは、支持柱の下部はコンクリートで覆い、タンクはドーム形のコンクリートでカバーされる。タンクの外側と支持柱のアルミニウム部は、蒸発を防ぐために必要な厚さのパネル・システムの方法によって断熱される。
  ● メンブレン・タンク(Membrane tank): 1次封じ込め用タンクはメンブレンで構成され、常用運転条件の液化ガスとベーパーの両方を保持できるように設計・製作される。2次封じ込め用タンクはコンクリート製で、1次封じ込め用タンクを支持し、1次封じ込め用タンクに貯蔵した液化ガスのすべてを保持できるようにするとともに、インナータンクの製品漏れによって生じるベーパーをベントで制御できるようにする。1次封じ込め用タンクのベーパーは、密封性のあるメンブレンを構成する鋼製ライナーによって保持される。1次封じ込め用タンク(金属製メンブレン)の液化ガスは、ロード・ベアリング・インシュレーションを通じて、直接、プレストレスト・コンクリート製の2次封じ込め用タンクに流れる。
  ● 地下タンク: 冷凍用の地下タンクが建設されていた時代がある。しかし、冷凍液によるタンクまわりの凍結の問題があり、現在ではほとんど無い。

■ 冷凍タンクの設計・製作の基準としてはBS EN 1473(Installation and Equipment for Liquefied Natural Gas – Design of Onshore Installations)がある。
                 一重殻タンクの例  (図はBS EN 1473から引用)
                   二重殻タンクの例   (図はBS EN 1473から引用)
                        全封じ込めタンクの例   (図はBS EN 1473から引用)
                            球形貯蔵タンクの例   (図はBS EN 1473から引用)
                               メンブレン・タンクの例   (図はBS EN 1473から引用)
事故の発生頻度
■ タンク設計の違いによる冷凍貯蔵タンクにおける壊滅的破壊の発生頻度の推測値は表3のとおりである。
表3 冷凍貯蔵タンクの漏洩発生頻度
                          (1) 液滞留部は2次封じ込め設備内とする。
                          (2) 一重殻タンクの場合、このシナリオは防液堤溢流とする。
                          (3) コンクリート製屋根の場合、この型式のタンクは破壊しないとする。
3.圧力貯蔵タンク
タンクの定義
■ 圧力貯蔵タンクは、少なくとも0.5barの圧力をかけて運転される貯蔵タンクをいう。このタンクは多種多様で、QRA(Quantified Risk Assessment; 定量的リスク・アセスメント)による分類はつぎのとおりである。
  ● 貯蔵ベッセル(Storage Vessel): 内部の液を安定な条件で保持できる。貯蔵ベッセルについては、さらにつぎのように分類される。
   〇 大型貯蔵ベッセル: 球形または横型円筒のタンクで、容量はおよそ50㎥を超えるものをいい、通常、貯蔵専用施設で用いられる。
   〇 中型貯蔵ベッセル: 固定式の円筒タンクで、容量はおよそ50㎥以下のものをいい、通常、産業界の施設で用いられる。
  ● 小型容器: 可搬式の円筒容器またはドラムで、容量はおよそ2㎥以下のものである。

■ 圧力タンクの設計・製作の基準としては、BS 5500(Specification for Unfired Fusion Welded
Pressure Vessels)や米国のASME Boiler and Pressure Vessel Codeがある。

事故の発生頻度
■ 圧力貯蔵タンクにおける開口の大きさごとに漏洩発生頻度は表4のとおりである。
表4 圧力貯蔵タンクの漏洩発生頻度
(1) または接続配管の最大サイズの直径
■ BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion: 沸騰液膨張蒸気爆発)の発生頻度は、この事象を引き起こす近くの火災源を考慮して、フォールト・ツリー解析を用いて計算すべきである。過去の解析例によれば、BLEVEの発生頻度は大型貯蔵ベッセル・年当たり10-7 ~ 10-5の範囲の推測になっている。

< データの活用にあたって >
■ ここで示したデータは、常温液や冷凍液を保有する陸上用の貯蔵タンクや容器に対して使用することができる。

■ 一方、推定した漏洩や火災の発生頻度については不確実性を含んでいる。特に、壊滅的な破壊については、過去の実例が少ないことからデータの不確実性は高いと言わざるを得ない。また、近年、タンク設計が改善してきたことにより、過去の歴史的事例による失敗モードを当てはめることが妥当とはいえないものを含んでいることもある。地上式常圧タンクの推定値は、少なくとも10倍ほど増減するような不確実性があるかもしれない。大型圧力ベッセルに関する漏洩発生頻度の推定値は、10の累乗による指数で4の範囲の不確実性を含んでいるかもしれない。

補 足
■  OGP(International Association of Oil & Gas Producers)は、1974年に設立された石油・天然ガスの生産に関わる国際的な協会である。石油開発のアップストリーム企業のほかに、API(米国石油協会)などの団体・機関が参画している。日本では、国際石油開発帝石㈱がメンバーになっている。オフィスはイギリスのロンドンおよびベルギーのブリュッセルにある。

■ 当該資料の原文では、事故発生頻度の検討に際して参照された資料について言及されている。例えば、地上式常圧タンクに関する検討では、つぎのような資料が参考にされている。このほかにも検討に関する参照資料と解析に際しての説明が記載されている。
 ● Technica 1990. 「Atmospheric Storage Tank Study, Confidential Report for Oil & Petrochemical Industries Technical and Safety Committee」(Singapore, Project No. C1998): 1965~1988年における世界で起った122件の地上式常圧タンクの火災例がまとめられている。
 ● LASTFIRE 1997. 「Large Atmospheric Storage Tank Fires」(A Joint Oil Industry Project to Review the Fire Related Risks of Large Open-Top Floating Roof Storage Tanks): 1981~1986年における69件の地上式常圧タンクの火災例がまとめられている。
 ● API 1998. 「Prevention and Suppression of Fires in Large Aboveground Atmospheric Storage Tanks」(American Petroleum Institute Publication 2021A): 1951~1995年における107件の地上式常圧タンクの事故例がまとめられている。


所 感
■ このブログの巻頭に記載した「貯蔵タンクの事故は世界的に見ると少なくなく、かなりの頻度で起こっている」としたが、これを定量的に示したものだといえる。
 興味深いデータ解析であるが、タンク1基・年間当たりの事故発生頻度の数値を見ると、小さ過ぎてピンと来ないので、例えば、同一種類の地上式常圧タンク100基を保有する施設で10年間に起こる事故の頻度をみると、つぎのようになる。
■ 日本における事故の頻度を考えると、推定値は高いように思う。解析の中で述べている不確実性について、日本では低い方に振れているのは確かであろう。しかし、日本でも事故は皆無ではなく、地震などに伴ったタンク事故が起こっている。世界規模で見ると、この資料に示すような頻度で事故が起こりうるリスクをもっているということである。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Ogp.org.uk,  Storage  Incident  Frequencies, International Association of Oil & Gas Producers(OGP), Risk Assessment Data Directry,  Report No. 434-3,  March  2010 


後 記: 今回のような事故の発生頻度のデータをどのように活かすかというと、事故が起った場合の周辺地区への緊急対応について考えることになります。例えば、タンク施設が人のいない砂漠のようなところにあれば、浮き屋根が沈降しても臭気や空気質の汚染問題はすぐに出ることはないでしょうが、住宅が近くにあれば、住民の避難を優先して考える必要があります。最悪ケースであるタンクの壊滅的破壊や火災も同様です。このようにリスク・アセスメントへの展開に活かされます。日本では、このような使われ方はしていませんが、タンク施設では一貫した考え方で活かすことは可能でしょう。というのも、火災は燃え尽きれば、住民は避難場所から帰宅し、「元の生活に戻る」ことができます。
 一方、原子力発電所でも、このような事故の発生頻度を解析し、リスク・アセスメントの検討を行う考え方があります。しかし、タンク施設と決定的に違うのは、福島原子力発電所のような最悪の炉心溶融事故が起これば、住民は避難場所から帰宅できず、「元の生活に戻ることができない」ということです。合理的な考え方でリスク・アセスメントを行えば、ドイツのように狭い国では、脱原発に行き着くでしょう。曖昧なまま避難訓練をしている日本は情緒的な国だと思いますね。 



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