テキサス州ハリス郡で落雷によって噴き飛んだタンク (写真はABClocal.comから引用)
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本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・KHOU.com, Shelter-in-place Lifted for Area
near Atascocita Road, September 07, 2013
・ABClocal.go.com,
Lightning Reportedly Hits Storage Tank, Propels It into Atascocita, September 07, 2013
・OurTribune.com,
‘Shelter-in-place’ Order Lifted after Crews Clean Atascocita
Haz-Mat Spill,
September 07, 2013
<事故の状況>
■ 2013年9月7日(土)午後1時30分頃、米国テキサス州にある天然ガス施設に落雷があり、貯蔵タンクが公共道路に噴き飛ぶという事故があった。事故があったのは、テキサス州ハリス郡アタスコチータにある天然ガスの計量ステーションに設置されていたメチル・メルカプタンの貯蔵タンクで、落雷によって爆発し、空中へ飛翔し、公共道路のアタスコチータ通りへ落下した。
ハリス郡アタスコチータ通りの発災現場付近
タンクは矢印のように約40m噴き飛んだ (写真はグーグルマップから引用)
■ 落雷を目撃していたロバート・アギラールさんは、「車を運転していて曲がっているとき、雷がタンクに落ちるのが見えたよ。タンクが空中にまっすぐに飛び出し、電線を越えて私の車をかすめて落ちた。実際、タンクは付属していたはしごをつけたまま、こっちへ向かってきたよ。はしごはくるくる回っていたね。雷が落ちるのを見たのは2回目だったが、今度のはまったく強烈だったね」と語った。
■ 消防隊によると、そのときタンクは1台の車の上に落ちたという。タンクからは天然ガスに臭いを付けるためのケミカルが漏れ始めていた。ハリス郡緊急対応班によると、付臭剤はメチル・メルカプタンで、無色・可燃性の物質だという。事故現場に遭遇したアギラールさんは、「ガスか何かが燃えて出るような異様な臭いがしたね」と当時を振り返って語った。ケミカルは高濃度では有毒であるため、当局は、事故発生に伴い、アタスコチータ通り5,000区の東地区の住民にクリーンアップが終わるまで外へ出ないよう緊急避難警報を出した。
■ アタスコチータ消防署によると、爆発したのはメチル・メルカプタンを保管していたタンクだという。当日の嵐通過中、タンクに落雷があり、爆発したものだという。アタスコチータ消防署のアーネスト・ベズデック氏は、「事故は計量ステーションで起こりました。実際に爆発したタンクはメチル・メルカプタン用タンクです。メチル・メルカプタンは天然ガスに入れられ、臭いを付けることは常識的に行われています。こうすることによって、天然ガスが漏れたとき、私たちは臭いで気がつきます。タンクの中には、このようなケミカルが入っていたのです」と説明した。
■ ハズマット隊(Haz-Mat)が出動し、こぼれ出たもののクリーンアップを行い、事故から1時間後にすべて問題ない状態になったと発表した。アタスコチータ通りは現場のクリーンアップが終わるまで閉鎖された。道路上に落下したタンクは移動され、2時間後に通りの交通規制は解除された。この事故による負傷者は出なかった。
■ 当局によると、緊急避難警報(Shelter-in-place)は、住民に対して最も近いシェルターにただちに避難するよう促す警報だという。この警報は、ケミカルや放射能が放出されるような環境汚染の事故時に、大気から隔離するための予防的措置として出される。この警報が出されたときには、そのまま屋内にとどまるか、家族とさらに対策をとるかはテレビやラジオを聞いて判断してほしいと、アタスコチータ消防署は補足した。
(写真はABClocal.comから引用) |
(写真はKHOU.com から引用) |
設置場所付近に移動したタンク残骸 (写真はABClocal.comから引用) |
アタスコチータ通りの天然ガス計量ステーション付近の風景
(写真はグーグルマップのストリートビュー
から引用) |
アタスコチータの天然ガス計量ステーション
注:中央に見えるはしご付きのタンクが発災タンク (写真はグーグルマップのストリートビュー
から引用)
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補 足
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。
「ハリス郡」はテキサス州東部にあり、人口約425万人の州で、郡都はヒューストンである。
「アタスコチータ」はハリス郡の北東部に位置し、人口約65,000人の町である。アタスコチータ(Atascocita)はアタスコシと称されることもある。
■ 「メチル・メルカプタン」(CH3-SH)は、メタンチオールとも呼ばれ、アルコール分子中の酸素原子の代わりに硫黄原子の入った化合物で、揮発しやすく、たまねぎの腐ったような不快臭のある液体である。ガスの付臭剤のほか、医薬品、殺虫剤、反応促進剤などに使用されている。液体の比重は0.9で、引火点は-18℃、気体時の密度は1.7、爆発範囲は3.8~21.8%である。加熱または燃焼すると分解して、引火性の有毒なガスを生成する。
漏出した場合、周辺は立入り禁止措置をとり、処理者はゴム手袋、保護眼鏡、保護服を着用し、風上から作業を行う。漏出が少量の場合、ウェス等に吸収させて密封できる容器に回収する。
所 感
■ 今回の事故は、一般ユーザー向けの天然ガスに付臭剤を注入する計量ステーションにおいて、付臭剤のメチル・メルカプタンの貯蔵タンクが落雷を受け、爆発して飛翔したものと思われる。日本では、北海道の一部で都市ガス原料に天然ガスが使用されているが、米国では一般的に天然ガスが使用されており、このような施設は少なくないと思われる。発災タンクはそれほど大きくなく、まわりの施設や木々に比べても低いが、落雷は高い施設に落ちるわけでないことが理解できる事例である。
■ 欧米では、石油タンクの火災や流出の事故でも、ハズマット隊(Haz-Mat)が出動する。今回は、特殊なケミカルであり、当然、ハズマット隊が対応している。アタスコチータは人口約65,000人の町であるが、消防署にハズマット隊が編成されている。従来、日本では化学テロを想定して大都市のみにしかハズマット隊を置いていなかったが、最近は石油コンビナートのある地方都市の消防署にもハズマット隊を編成する傾向になっている。今回のような事例を見ると、日本にも広くハズマット隊を置くべきである。
後 記: 今回の事故情報で一番惑わされたのが、発災場所です。情報源の中に現場の地図を示していたメディアが2つありましたが、双方の場所が違っていました。現場の写真がありましたので、グーグルマップで探せば、すぐ分かると思っていたら、これがなかなか大変でした。写真は望遠カメラで撮っているため、遠近感がよくわからず、写真とストリートビューを見比べながら調べ、やっとたどり着きました。結局、現場の地図を示していた2つとも間違っていました。
ところで、落雷の事故といえば、今年8月20日、ベネズエラの国営石油公社PDVSAのアムアイ製油所において蒸留装置に雷が落ち、火災となる事故がありました。ベネズエラPDVSAでは、
当ブログで紹介したように、今年2013年8月11日、プエルト・ラ・クルス製油所において「ベネズエラの製油所でタンク地区に落雷して火災発生」の事故が起こったばかりです。また、アムアイ製油所では、1年前の2012年8月25日に「ベネズエラの製油所で爆発してタンク火災、死者41名」の事故がありました。天罰ではないでしょうが、
PDVSAで働いている人たちはいやになるでしょうね。
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