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2019年6月13日木曜日

山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)

 今回は、2019年2月6日(水)、山形県上山市金谷にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマスガス化発電所の水素タンク(生成ガスホルダー)で起こった爆発の原因について紹介する。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山形県上山市(かみのやま市)金谷の工業団地にある山形バイオマスエネルギー社のバイオマス発電所である。この発電所は木のチップを使う木質バイオマスガス化発電で、2018年12月に完成し、今年3月末に発電事業を始める予定だった。

■ 事故があったのは、バイオマスガス化発電所にある燃料用の水素タンク(生成ガスホルダー)である。水素タンクは燃料となるガスを貯めるために設置されており、水素のほか一酸化炭素やメタンなどが貯蔵されていた。
 上山市の工業団地周辺 (矢印は事故のあった建設前の場所) 
図はGoogleMapから引用)
バイオマスガス化発電所と爆発のあったタンク(矢印)    
(写真はSakuranbo.co.jpから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月6日(水)午後4時10分頃、バイオマスガス化発電所で爆発が起こった。

■ 「爆発音がした」との近所の住民の110番の通報を受け、消防署が出動した。

■ バイオマスガス化発電所の設備の試運転を始めて10分ほどして、水素タンクが爆発した。水素タンクの屋根部(直径3m、厚さ6mm、重さ約500kgの円形の金属板)が飛び、南西に約130m離れた民家の2階部分を突き破った。家の中にいた30代の女性が、衝撃で落ちてきたものに頭をぶつけて首にけがをした。
被害を受けた住宅と飛んできたタンク屋根 
写真は左;Kahoku.co.jp、右; Sakuranbo.co.jpから引用)
Yamagata-np.jpから引用)
■ 発電施設で発生した爆発事故による建物被害は13地点の計16棟に上った。窓ガラスが割れる被害は、施設から約450m離れた民家でも確認されていた。住民の男性は、「事故当日はものすごい音だったが、まさかこんなに離れた所まで影響があるとは思わなかった」と驚いた様子で話した。施設から450m北西側には県立山形盲学校やかみのやま病院もある。いずれも被害はなく、関係者は「不幸中の幸い」と語っている。火災や爆発のメカニズムに詳しい山形大工学部の桑名一徳准教授(燃焼工学)は、「水素の爆発が起きると、圧力が一気に解放されるため、爆風の影響は半径数百メートルの範囲に及ぶ」と説明する。

■ 試運転を担っていたのは木質バイオマス発電施設などの設計・施工を請負った「テスナエナジー社」で、事故当日は午後4時ごろから、試運転に向けた作業を進めていた。

■ 事故を起こしたバイオマス発電施設は「ガス化式」と呼ばれるもので、チップにした木材を熱して水素などのガスを抽出し、それを燃料にエンジンを回して発電する。爆発したタンクは燃料を貯めるためのもので、当時は水素のほか一酸化炭素やメタンなどのガスも充満していたとみられている。山形バイオマスエネルギーによると、当時、タンクには、燃料に使う水素などのガスが入っていて、試運転のため発電施設のエンジンの電源を入れたところ、突然、タンクの屋根が吹き飛んだという。
(写真はFnn.jp から引用)
住宅に落下したタンク屋根の撤去作業 
(写真Yamagata-np.jpから引用)
■ 事故発生から3週間以上が経過した3月2日(土)、爆発事故で吹き飛び、約130m離れた住宅を直撃した水素タンクの金属製屋根部(重さ約500kg)の撤去作業が実施された。撤去作業は、午前8時半頃から、大型のクレーン車を使って行われた。

注; 発災直後の状況は、「山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷」(2019年2月)を参照。

被 害
■ 人的被害として、住民1名が負傷した。

■ 発電所の燃料用水素タンク(生成ガスホルダー)が損壊した。

■ 施設を中心に半径約450mの範囲にある建屋で、16棟に被害が出た。有害物質の漏洩は無かったと思われ、環境への影響はない。 

< 事故の原因 >
■ 事故原因は、タンク内の水素ガス等の可燃性ガスにエンジンの火が逆火したによって爆発したものとみられる。

■ 事故の要因は、タンクや配管内のパージが不十分で、このため空気中の残存酸素と貯蔵タンク内の水素やメタンの混合ガスが結びつき、爆発混合気が形成された。そして、試運転でエンジンのスイッチを入れて数秒で、エンジンから漏れ出した炎がタンク側に伝わる、いわゆる「逆火(ぎゃっか)」という現象が起き、爆発混合気に引火して爆発したとみられる。 

< 対 応 >
■ 4月26日(金)、発電所を運営する山形バイオマスエネルギー社とプラントの設計・施工を担当したテスナエナジー社は、山形県庁で記者会見を開き、これまでの調査結果を報告した。  

■ テスナエナジー社によると、爆発はプラントで生成した水素ガスなどを貯めるタンクで起こった。事故原因について配管内の排気が不十分で、この残存酸素と貯蔵タンク内の水素やメタンの混合ガスが結びつき、エンジンから漏れ出した炎が伝って引火、爆発した可能性があると説明した。

■ 逆火防止装置を設置していたが、火が想定以上に広範囲に広がって機能しなかったという。テスナエナジー社は北海道にも同様のプラントがあり、問題は発生していないとした。その上で、より大規模な上山市のプラントでは、スイッチを入れた際に火花などが発生し、エンジンからタンク側に火が逆流する「逆火」が起こったとみている。
 テスナエナジー社は、「酸素濃度は問題ないと判断した。エンジンからタンクへ燃え移ったのは想定外だった」とした。 一方、「配管の酸素濃度は測っていたが、運転マニュアルに濃度の基準値がなく、現場の作業員が経験で判断してしまった」と説明した。複数の酸素濃度計の設置や逆火防止装置の性能向上、酸素濃度計を連動した安全システム、マニュアルの改訂などの再発防止策を行うとしている。 

■ 山形バイオマスエネルギー社は住民に説明する考えを示し、稼働については「白紙状態」と語った。

■ 5月11日(火)、山形バイオマスエネルギー社とテスナエナジー社は、事故原因の説明を行う住民説明会(非公開)を開いた。説明会には、事故現場の金谷地区の住民約50人が参加した。
 テスナエナジー社は、事故後、県警の実況見分などを受け、住民への謝罪が遅れたことを陳謝した。その上で想定上の事故原因と断った上で、配管内の酸素の排気が不十分で、配管内にあった残存酸素と貯蔵タンク内の水素やメタンの混合ガスが結びつき、エンジンから漏れ出た炎が配管を伝って引火して爆発した可能性が高いと説明した。

■ 住民からは、「事故はヒューマンエラーで起きた」、「専門家が施設を管理している割には、事故原因が稚拙すぎる」といった同社のバイオマスガス化発電技術に対する不信や、説明内容自体を疑問視する質問が出された。また、「具体的な安全策を示してほしい」、「住民の同意がなければ稼働させるべきではない」などの声が出された。住民の質問に明確な回答も出せない同社に、複数の住民から「(金谷地区から)出て行ってほしい」という強い意見や、「再稼働は反対」といった意見が出されたという。

■ 稼働するための条件として専門家や市、県を含めた第三者委員会設立を求める声もあったが、山形バイオマスエネルギー社は、「検討中」として明言を避けた。金谷地区の町内会は月内にも意見を集約し、必要に応じて両社などに要請文を提出する考えという。 

補 足
■ 「上山市」(かみのやま市)は、山形県の南東部にあり、人口約3万人の市である。上山市は、江戸時代には上山藩の城下町や羽州街道の宿場町として栄え、現在は上山温泉で知られる。

■ 「木質バイオマス発電」は、燃料となる木材を燃やしたり、熱することでタービンやエンジンを動かして発電している。大きく分けて2つの方式がある。
 ● 「直接燃焼方式」 ;木材を燃やして水を温め、発生した蒸気でタービンを回し、発電する。
 ● 「ガス化方式」;木材から発生する可燃性ガスを利用し、ガスエンジンを動かし、発電する
 近年、バイオマス発電が注目を浴びているが、発電方式の選択を先行しているドイツと比較すると、図のようになる。 日本では、ORC(蒸気タービンと同じくランキンサイクルによる発電方式の一種で、蒸気タービンとは異なり、熱媒として水ではなく、シリコンオイルなどの有機媒体を利用して発電を行う)の技術がなく、
1,000kW前後の中小規模帯での選択肢が無かった。今回、事故があった施設の最大出力は約2,000kW弱で、ガス化方式を広げたものである。ガス化方式は直接燃焼方式と比べ、熱排水の処理の必要がなく、小規模施設でも発電効率が高いなどの利点がある。
 山形県で稼働中の木質バイオマス発電施設は7か所で、うちガス化方式が3か所、直接燃焼方式が4か所となっており、現在、稼働中の施設は約1,000~50,000kWの範囲にある。
バイオマス発電技術の選択の幅
(注;現在は日本の空白部はガス化に変えているが)
(図はNpobin.netから引用)
■ 「山形バイオマスエネルギー」は、間伐材や果樹の剪定枝をチップ化し、燃焼させる木質バイオマス発電事業をしている。 同社は、2015年に山形県の建設業・産業廃棄物処理業の㈱荒正と不動産業の㈱ヤマコーなどがバイオマス発電の新会社として設立された。事故のあった発電設備は2018年12月に完成したもので、ガス化方式を採用している。投資総額は約13億円で、年4億円程度の売電収入を見込んでいる。

■ 「テスナエナジー社」は、2014年に木質バイオマスのガス化プラント事業を専業として設立された会社である。テスナプロセスバイオマス発電システムと特徴である炭化炉・ガス改質炉は図のとおりである。
テスナプロセスバイオマス発電システム 
図はTesnaenergy.co.jpから引用)
テスナプロセスバイオマス発電システムの炭化炉とガス改質炉
(図はTesnaenergy.co.jpから引用)

爆発があったのは、発電設備の前にある生成ガスホルダー(水素タンク)である。
 なお、山形バイオマスエネルギーの施設は配管の変更などのため、稼働時期が当初の構想から約2年ずれ込んでいたという。当初の構想では、2017年春に操業を開始するとしていたが、熱効率を高めるため配管を変更する必要性が出てきたため、その後に運転開始時期を2018年4月頃に延期した。しかし、各地の発電施設の点検時期と重なり、配管の設置を担当する請負業者が確保できず、工期は再び遅れ、さらに1年ほどずれ込み、稼働開始が2019年の春まで延びていたという。

水素の予混合エンジンにおける逆火現象の例 
(写真はHess.jpから引用)
■ 「逆火」はバックファイヤーと呼ばれ、過去にはガソリンエンジンでもときどき話題になっていた現象である。エンジンの改良によって今ではまったく聞かなくなり、逆火やバックファイヤーという用語が一般に通じない言葉になった。
 ガソリンエンジンなどより、水素エンジンは逆火しやすいと言われ、開発時の課題のひとつが逆火現象である。水素エンジンの逆火をわかりやすくするため、図に予混合エンジンの逆火現象を示す。水素と空気が図のように吸気管で混合してエンジンの吸込工程中、吸気弁が開いてピストンにより吸い込まれて燃焼室に入る。燃焼室内の熱源によって混合気が着火されるが、吸入弁が開いているので、吸気管に逆火する。この逆火を防ぐために、いろいろな改善が行われてきている。今回の2,000kW級という大型エンジンの種類などは報じられておらず、どのような逆火防止システムが開発され、実証されているかは分からない。
 水素の爆発限界は4.0%~75%で、メタン5%~15%、プロパン2.2%~9.5%と比べて下限界から上限界まで広く、空気(酸素)が少ない条件でも爆発を起こしやすいガスである。今回のガス化プロセスは改質ガス中の水素濃度を44%と上げ、水素の割合を高めた燃料ガスであった。

所 感
■ 原因は、前回の所感であげた2つのケースのひとつであった。所感ではつぎのように述べた。
 「試運転前に系内の空気を不活性ガス(窒素など)で置換していなかった。このため、空気の残った水素タンクに生成ガスが入り、爆発混合気が形成した。引火源は、流動による静電気またはガスエンジンの逆火ではないだろうか。事故の背景として、試運転を行ったメンバーが、このような非定常運転について十分な知識と経験がなかったのではないかと感じる」   
 また、事故を防ぐためには、 ①ルールを正しく守る、②危険予知活動を活発に行う、③報連相(報告・連絡・相談)を行って情報を共有化するの3つの要素が重要であり、前回の所感ではつぎのように述べた。
 「木質バイオマス発電といっても、新規のプロセス装置と同様の設備である。定常運転時のマニュアルはあっただろうが、今回のような運転始めの際のマニュアルに問題があったのではないだろうか」
 今回、試運転を担っていたバイオマスガス化発電施設設計・施工の請負会社であるテスナエナジー社の調査結果は、意外性は無く、予想どおりだったといえる。

■ 今回の報告が遅くなったのは、原因追究でなく、対応策にあったのではないかと感じる。
 ● 2,000kWクラスというバイオマスガス化発電は新規のプロセス装置と同様である。水素エンジンの逆火対策として設置していた逆火防止装置(具体的には不詳だが)が機能しないという根本問題に立ち返ってしまったのではないか。
 ● 改質ガス中の水素濃度を44%と上げるのが、このプロセス装置の特長である。バイオマスガス化発電用のエンジンは開発されておらず、バイオマス発電システムとして確立していないとみられる。水素濃度を低くしてブタンなど石油系ガスと同レベルにすれば、エンジンの問題は解消しやすいが、特長が無くなる。
 今回の事故要因である系内の空気を系外へパージすることはそれほど難しいことでない。しかし、今回のバイオマスガス化発電施設は新規のプロセス装置と同様であり、本来ならば、実証プラントで様々な問題を解決すべきであったのではないかと思う。2,000kWクラスというバイオマスガス化発電を商業プラントとして確立していくのは、相当な苦労がいると感じている。 

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Kahoku.co.jp,   「作業員経験で判断」プラント爆発運営会社が初会見 山形・上山,  April  22,  2019
    ・Sankei.com,    山形県のプラント爆発事故「酸素と結びつき爆発」,  April  27,  2019
    ・Sankei.com,   バイオマス爆発で説明会、住民から厳しい声相次ぐ 山形・上山,  May  12,  2019
    ・Yamagata-np.jp,   水素タンクから酸素抜き取り不十分か 今年2月発生、上山の爆発,  April  24,  2019
    ・Yamagata-np.jp,   住民「具体的な安全策を示して」 上山爆発事故会社側説明会、要望相次ぐ,  May  12,  2019
    ・Yamagata-np.jp,  450メートル離れた民家も破損 上山・発電施設爆発、建物被害計16棟に,  February  15,  2019
    ・Yamagata-np.jp,吹き飛んだふたは500キロ 上山・爆発事故、施工業者が撤去,  February  15,  2019
    ・Mainichi.jp,  上山の爆発事故「酸素の排気不十分」 山形バイオマスエネ、初めて原因説明,  March  02,  2019
    ・Anzendaiichi.blog.shinobi.jp,  産業安全と事故防止について考える,  April  28,  2019
    ・Hess.jp , 水素エンジンの開発の思い出 一水素エンジンの“ガン” はパックファイヤーだった ー、(水素エネルギ ーシステム Vol.11. Ho.2. 1992)


後 記: 本事故はフォローするつもりで、ときどき、検索していたのですが、後報が出なくて、あきらめていました。久々に検索してみると、原因報告がされていることがわかりました。事故が起こったときには大々的に報じられ、その後は音沙汰なしという日本では、めずらしいケースといえます。
 今回、事故のあったバイオマス発電施設も従来だと選択肢のなかった2,000kWクラスのガス化発電で、アイデアは良いと思います。一方、経済産業省の補助事業の場合、2月中に試運転を終えて完了届を出さなければ補助金が貰えないので、締切が最優先になり、安全性がおろそかになる懸念があったという意見があります。その真偽はさておき、企業は頑張っています。県庁で報告しているので、県には報告しているのでしょうが、県のウェブサイトを見ても何も言及されていません。結局、企業がひとり悪者になっているという印象です。再生可能エネルギーの開発を奨励している県や経済産業省や国はどう考えているのだろうかと思います。今回の事故は警察にまかせているのでしょうが、警察にとっても厄介な事案でしょう。


1 件のコメント:

  1. 窒素置換は5回する事で
    爆発下限界4%の1/4まで下がり
    爆発しません
    ノルウェーの事故もよろしくお願いします

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