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2012年9月14日金曜日

米国ルイジアナ州の製油所でハリケーン襲来後に油漏出

 今回は、2012年9月2日、米国ルイジアナ州ベルチャスにあるフィリップス66社のアライアンス製油所においてハリケーン・アイザックが来襲した後に貯蔵タンク地区に油が漏出した事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・Reutrs.com, Phillips66 Alliance Refinery Reports Leakage at Oil Storage Facility,  September  4, 2012
  ・FirstEnercastFinancial.com, U.S. Guard: Oil Polluted Louisiana Wetlands after Isaac,  September  4, 2012
    ・UBS.WallST.com, Phillips66 Says  No  Sign of Oil Leak  from Refinery,  September  10, 2012
      ・Nola.com, Oil, Chemical, Coal Releases during Hurricane Isaac Should Have Been Avoided, Environmental Groups Say,
        September  6,  2012
      ・Blog.Skytruth.org,  Post-Isaac  Aerial  Survey  Photography  Now  Available from  NOAA,  September  6,  2012 

<事故の状況> 
■  2012年9月2日(日)午後、米国ルイジアナ州のベルチャスにあるフィリップス66社のアライアンス製油所で油漏出の事故があった。事故は、2日(日)午後1時過ぎに貯蔵タンク地区から油が漏出しているのが発見され、漏出量は不詳だという。
 同製油所は247,000バレル/日の精製能力を持っているが、ハリケーン・アイザックの襲来によって8月30日(木)以降、電力が止まって操業を停止しており、当日は洪水によって施設が冠水の状況に直面していた。
■ アメリカ沿岸警備隊は、9月6日(木)に、ルイジアナ州の湿地帯がハリケーン・アイザックの襲来によって油汚染の影響を受けたことを明らかにした。沿岸警備隊のニュースリリースによると、カッショクペリカンなどの水鳥や動物が油まみれになっていたり、死んでいたことから、マトル・グローブ湿地帯、プラックマイン教区にある各施設と野生生物について調査しているという。同ニュースリリースでは、評価チームは、バイユー・セントデニスやポート・サルファー近隣でも油を発見し、ブレトン・サウンドでキラキラした光沢が見られるとの報告に注目しているという。ニュースリリースによれば、湾岸警備隊とルイジアナ州の担当官が、ハリケーンで大きな被害を受けたブレイスウェイトにあるストートヘブン貯蔵施設を詳しく調査しているという。
 沿岸警備隊によると、ポンチャーントレイン湖を飛行機で上から調査したところ、油の流出や漏洩といった状況は見られなかったが、見慣れないドラム缶やコンテナーが見つかったという。沿岸警備隊が9月2日(日)に話したところによると、マトル・グローブの近くにある沼地で見つかった油が、停っていた2箇所の油生産施設から出たものかどうかわからなかったといい、漏れたという兆候も認められなかったという。     
■ 国家対応センター(NRC)から出された9月2日(日)の報告では、マトル・グローブ湿地帯への油流出はベルチャスにあるフィリップス66社のアライアンス製油所の貯蔵施設からだとしている。
 フィリップス社広報担当のリッチ・ジョンソン氏はこの情報を否定し、「私どもは、施設内のタンクや油槽を調べましたが、言われているようなことの証拠は見当たりませんでした」と語っている。ジョンソン氏によると、フィリップス社は漏洩について報告していないし、そのような話を誰がしたか分からないという。
 フィリップス社の製油所は、ハリケーン・アイザックがメキシコ湾岸に上陸したときに運転を停止しており、ジョンソン氏によると、ハリケーンが原因と思われる損傷被害はなく、ハリケーンが通り過ぎた後も、数日間は電力がなく、装置も停ったままだったという。同社によると、9月4日(火)の朝に電力が回復したので、製油所の装置を立ち上げているところだという。ただし、数週間で通常通りの運転に戻るかどうかわからないといっている。
■ 誰かわからない人物が、9月3日(月)に国家対応センターへアライアンス製油所の近くにある湿地帯へ油が漏れていると連絡したものと思われる。フィリップス社広報担当のジョンソン氏は、「製油所から漏洩していると連絡したようですが、そのような事実を裏付けるものはありませんでした」と話している。
 フィリップス社は、国家対応センターへ油漏洩の連絡をした人物を探そうとしたが、確認できなかった。なお、国家対応センターの事故報告システムはアメリカ沿岸警備隊によって運営されている。
■ その後、フィリップス社の広報担当は、ハリケーンが来るとわかって製油所の装置を停止する工程に入っていたが、製油所構内の道路と(排水)集積系統が洪水で冠水してしまったと話している。暗渠は閉止されており、製油所内の含油水は封じ込められていた。フィリップス社は、現在、構内の植生や土の上に残っている光沢上のもののクリーンアップ作業を進めている。
 光沢上のものは、8月30日(木)に製油所排水口近くの川でも見つかったが、このエリアにはオイルフェンスが張られた。広報担当は、それ以降、光沢上のものは確認されていないと語った。この二つの問題とも会社側から国家対応センターへ報告されている。
■ 環境保護団体の一つである「スカイ・トゥルース」(Sky Truth)はリモート・センシングとデジタル・マッピング技術を保有しているが、今回のハリケーンによる環境汚染の状況調査に適用し、ウェブサイトでつぎのように述べ、航空写真画像を公開した。
 「先の大きなハリケーン通過後、NOAA(米国海洋大気庁)は沿岸部および浸水区域に航空写真調査飛行を行いました。このため、関係の画像が利用可能となりました。地図上にあなたの知りたい場所をクリックすれば、詳細な画像を見ることができます。例えば、ルイジアナ州ベルチャス南のミシシッピー川沿いで洪水を受けたコノコフィリップス社のアリアンス製油所付近を見てください。水面の油膜がはっきり見えます。しかし、 NOAAが撮影した時点では、油膜は施設内に限定しているように見えます。メキシコ湾岸復興ネットワークのジョナサン・ヘンダーソン氏は今回の流出問題について自らのブログに投稿しています」
NOAAによる航空写真調査飛行から得られた写真によると、ルイジアナ州ベルチャスにあるコノコフィリップスの製油所構内において水面の油膜が確認できる。          (解説および写真はSkyTruthのWebSiteから引用)

補 足 
■  「ルイジアナ州」は、米国南部のメキシコ湾に面しており、州都はバトンルージュ、最大の都市はニューオリンズである。人口は約457万人であるが、2005年のハリケーン・カトリーナなど何度も大型のハリケーンに襲われたため、移転する州民が多く、他の州に比べて人口が伸び悩む傾向にある。
 「ベルチャス」は、ルイジアナ州の南東部のプラックマイン教区にあり、人口約12,600人の町である。

■ 「フィリップス66」(Phillips66)は、スーパーメジャーと呼ばれる石油会社の一つであるコノコフィリップスの系列会社である。2011年7月に石油開発部門と石油精製・販売部門を分割し、石油精製・販売部門は「フィリップス66」という名称の会社になった。フィリップス66はコノコと合併したフィリップス石油のガソリンブランド名である。このフィリップス66というガソリン名は、1927年に米国ハイウェイのルール66でテストを行ったとき、時速66マイルが出たことを記念して付けたものである。 なお、石油開発部門の会社が「コノコフィリップス」の名称を継承している。
 フィリップス66は、ルイジアナ州ベルチャス南のミシシッピー川沿いに精製能力247,000バレル/日のアリアンス製油所を持っている。
     フィリップス66アライアンス製油所  (左側が油漏出のあった場所)   (下はミシシッピー川) 
                                              (写真はグーグルマップから引用)
    23号線から見るアライアンス製油所の発災場所付近   (写真はグーグルマップのストリートビューから引用)

■ 「アメリカ沿岸警備隊」(United States Coast Guard)は、米国の沿岸警備を行う部隊で、国土安全保障省に所属し、人員は約42,000名である。米国では、陸軍、海軍、空軍、海兵隊に次ぐ5番目の軍隊(準軍事組織)として認識されている。沿岸警備や監視のほか、搜索救難や海上汚染の調査まで幅広い任務に当たっている。

■ 「国家対応センター」(National Response Center)は、米国領土において環境に影響を及ぼした石油、化学、放射能、生物学、病原体の汚染に関する情報の報告を一元化する機能と、問題への対応を行う機能をもった連邦政府組織である。NRCでは、新たにオンライン報告システムを導入し、インターネットのユーザーが簡単に事故情報を報告できるようにし、またアメリカ沿岸警備隊の職員が24時間体制で電話による対応を行っている。

■ 「ハリケーン・アイザック」による環境汚染被害は、国家対応センターに報告されただけで93件に上る。このような事態を見て、9月4日(火)、3つの環境団体は、石油、化学、石炭ハンドリング施設に対して事前の対策を行って問題が起こらないようにすべきだったと声明を出した。 Nola.comでは、この情報とともに汚染が起こった場所の写真などを紹介している。
   地図は9月4日(火)までに米国沿岸警備隊の国家対応センターに報告されたミシシッピー川沿いで起こった
  汚染事故を示す。                                (解説と写真はNora.comから引用)
    マトル・グローブ近くにあるキンダー・モーガン・インターナショナル・マリン・ターミナルの貯炭場では囲い用
   の盛り土から石炭が流出                          (解説と写真はNora.comから引用)

     マトル・グローブ近くのプラットフォームにあったタンク数基が損傷し、封じ込めのために展張したオイル
    フェンスを越えて出た油の光沢が見える(プラットフォームの左側)    (解説と写真はNora.comから引用)

所 感
■ 今回の事故はタンクから直接、油が漏洩したものではないと思われる。油膜の広がっているエリアにはタンク施設のほか廃水処理装置とみられる施設がある。事故は9月2日午後に発生と報道されているが、おそらく冠水したときに、含油排水系の地下設備などから油が浮き出たという事故ではないだろうか。ただ、写真で見ると、少量の油が広がったキラキラ程度の漏れでなく、かなりの量のように見える。
 もともと、フィリップス66社から報告をしたのではなく、構外地区の油汚染が製油所からの漏洩によるという第三者からの報告(通報)があったため、フィリップス66社の回答は歯切れが悪く、曖昧な表現が続いている。 大型ハリケーンの襲来、事前の装置停止、電力喪失、洪水による冠水などの問題処理で、製油所内は混乱していたと思うが、冠水しているにもかかわらず、暗渠を閉止して構外に出るのを防止したようにも思える。しかし、今回の油漏れの対応は、会社の隠蔽体質を感じさせ、信頼性を損ねる結果になっている。
■ 今回の事故で一番興味深かった点は「スカイ・トゥルース」のデジタル・マッピング技術である。 NOAA(米国海洋大気庁)の撮った航空写真から環境汚染のあった場所(あるいは無かった場所)をいち早くインターネットで公開している。フィリップス66社は曖昧な発表しかしていないが、スカイ・トゥルース(の写真)は、製油所構内で油漏洩があり、かなり広がっているが、構外には出ていないとはっきり語っている。
 以前、日本の市原でのアスファルト流出事故でも述べたように、海あるいは今回のような洪水エリアでの油漏れの状況は地上から視認しづらい。上空から見ることや航空写真が威力を発揮する。“事故は隠れたがる”といわれ、構内の小さな問題として対処しようとみられるが、環境汚染の問題は隠し通せるものではないと感じる事例である。 

後記; 今回の事故は情報源によって発災の状況や印象の変わる事例でした。 最初は、タンクから漏洩という表現もあり、単純に考えていましたが、発災事業所が事故を否定した発表を見ると、事実は何かよく把握できませんでした。もし、ここで製油所上空から撮った写真がなければ、まとめることができなかったと感じています。いろいろな情報源と航空写真を見ながら、最初に「油漏洩」という言葉を「油漏出」に変え、整理していきました。ちょっとした謎解きのような事例でしたが、これも面白みの一つでしょう。



















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