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2023年3月4日土曜日

オランダのタンク貯蔵分野における環境保全の将来

 今回は、2023年2月15日付けのTank Storage Magazineに載った“Much to be Gained in Tank Storage Safety ”(タンク貯蔵の安全性で得られるものは大きい)について紹介します。

< はじめに >

■ オランダのロッテルダム市を囲む大都市圏はラインモンド地域(Rijnmond Area)と呼ばれています。 この地域にDCMRという環境保護機関があります。DCMRはラインモンド地域にある13の市町村における共同の環境保護機関として約50年前に設立され、同地域の120万人の住民のために清潔で健康的で安全な生活環境に取り組んでいます。ラインモンド地域には、たくさんの人が住んでいるだけでなく、多くの企業や重工業があります。自治体はこの地域の経済発展を進めて生活の質と安全性を両立させたいと考えています。

 DCMRの業務は、この目標を実現することに重点を置いています。環境保護機関として、企業への許認可、環境規制の遵守状況のモニタリング、規制に違反した場合の統制を行っています。また、土壌保全、騒音防止、大気質、安全性などの分野では、諮問機関としての役割も担っています。さらに、オランダにはBrzoHazards of Major Accidents Decree)と呼ばれる「重大事故の危険性に関する法令」が 2013年に制定され、こうしたBrzoの企業がラインモンド地域に140社あり、DCMRは許可の付与、監督、執行を行う役割を担っています。

■ ロッテルダム地域のタンク貯蔵容量は過去10年間で倍増し、3,000KLに達しました。一方、2013年に1件の環境汚染事故がありましたが、それ以降、環境に関して重大なリスクを伴う事故は繰り返されていません。これは大きな成果ですが、一部の企業がいまだに規制当局に強く依存していることには驚かされます。もっと責任を持って、積極的に行動しないのでしょうか?

■ 例えば、ある規模の大きな貯蔵タンクの会社で6か月に1回、ポンプ送液に際して同じ場所でラプチャーディスクが故障するとします。半年毎に油漏れが発生し、近隣住民から油の臭いがするという苦情が相次ぎます。そして、この状況は規制当局が対応を講じるまで続きます。

■ しかし、なぜ環境保護機関であるDCMRが対応するのを待つのでしょうか? 自分自身で調べて、自分の改善計画を立ててみてはどうでしょう? たとえ安全計画が整っていても、定期的に現場検証を行い、検査官の目で自分の設備を見てみてはどうでしょうか?

規制および協力 

■ 私たちのいるDCMRは規制機関である以上、時には即座に行動しなければならないこともあります。半世紀にわたる活動で学んだことは、私たちの仕事はチェックして罰するだけではないということです。一般に、私たちはできるだけ早い段階で、企業との対話を進めるようにしています。ルールについて駆け引きすることはなく、お互いの信頼関係があれば、安全文化について話し合う機会が生まれます。多くの場合、そのことがコンプライアンスの向上につながります。また、透明性を確保するために、安全意識調査のモデルを公開し、企業自身に活用してもらうことで、検査のポイントを予測できるようにしています。

■ オランダには、VOTOBVereniging van onafhankelijke tankopslagbedrijven)というタンク貯蔵会社の業界団体があります。VOTOB1980 年に設立され、現在19のメンバーを擁しています。1990 年代、VOTOB は欧州における統括組織である FETSA (欧州タンク貯蔵協会連合) の発起人のひとつでした。現在、FETSA には12か国からメンバーが参加しています。

■ 欧州におけるタンク貯蔵部門の役割は、今後数年で変化していくでしょう。例えば、欧州では水素を大量に輸入するようになりますが、この分野では重要な役割を果たすことになります。VOTOBとそのメンバー会社は、このために集中的に準備を進めています。例えば、バイオ燃料貯蔵への取組み、臭化水素電池の容量拡大、バイオディーゼルやバイオケロシンなどの新しいバイオ燃料の原料としてリサイクルされたフライ油脂や動物性脂肪の貯蔵などです。

■ 環境保護機関のDCMRは、安全性向上のための検討手法についてタンク貯蔵の業界団体であるVOTOBに協力を求めました。そして、私たちは総合的な共同改善プログラムを立ち上げました。現在、VOTOBは変更管理、事故の管理、物質管理、安全性の研究のためのモジュール・システムである安全成熟度ツール(Safety Maturity ToolSMT)を提供しています。企業は自ら監査を取り計らうことできます。私たちは、企業が規制当局の意見を待つのではなく、安全ポリシーとして何が必要かを考えていくようになるのを期待しています。

■ VOTOBは、関連メンバーとともに、タンク貯蔵部門に適用される法規やガイドラインを用いて、安全に関する安全成熟度ツール(SMT)を開発しました。この安全成熟度ツールは、企業のハードウェア(タンク、配管)、ソフトウェア(管理システム)、マインドウェア(安全文化)を評価するものです。安全成熟度ツールは紙上で書かれた事象を見るだけでなく、実際の安全性をテストします。監査はモジュール方式で、その都度新しいモジュールを追加していくことが可能です。独立性を保証するために、安全成熟度ツールは外部の監査人によって実施されます。監査は、“成熟した” 企業がどのように安全に対処しているかを示し、継続的に改善していくためのツールを提供します。安全成熟度ツールは単なる監査ではなく、安全分野における企業の成熟度をテストするためのアプローチなのです。VOTOBは、安全成熟度ツールに基づいて関連企業のメンバーが互いに学ぶことができるようにしています。これにより、業界全体がより高い安全性のレベルに引き上げられるのです。結局のところ、成熟とは、常に自分を磨き、他人を助けることなのです。

コンプライアンス 

■ ルール(規則)への対応にはエネルギーと時間がかかることを私たちは知っています。しかし、オランダには、危険物質の保管と輸送に関して幅広いコンプライアンス・システムがあります。危険物質に関する出版物のシリーズは、欧州のREACH (リーチ)規則に沿った運用管理の基礎となるものです。

REACHRegistration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)は、 2007年からスタートした欧州における化学物質の総合的な登録・評価・認可・制限の制度です。欧州では、既存化学物質の安全性評価が進まないことなどを克服するため、新たな化学物質規制への取組を始め、20076月から施行されました。REACH規則の主な特徴は次のとおりです。 

 ・既存化学物質と新規化学物質の扱いをほぼ同等に変更

 ・これまでは政府が実施していたリスク評価を事業者の義務に変更

 ・サプライチェーンを通じた化学物質の安全性や取扱いに関する情報の共有を双方向で強化

 ・成型品に含まれる化学物質の有無や用途についても情報の把握を要求

■ これには、いろいろな方法でアプローチすることができます。ひとつの例をあげると、できるだけ長く無視しようとすることです。しかし、それでは業務上のリスクをどんどん負うことになり、会社の将来を危うくすることになります。コンプライアンスを守らない会社ほど、私たちは頻繁に訪問し、より多くの罰金を課します。場合によっては、操業を停止することが唯一の解決策となることもあります。

■ 問題を無視するのではなく、そのルールがある以上、問題に先んじることです。長い目で見れば、私たち全員が恩恵を受けることになります。社会全体がより良くなるのはもちろん、企業自身も安全レベルが向上するためです。事故によって操業ができなくなることは、大きな代償を払うことになりますからね。

将来を見据えた運用

■ 貯蔵タンクの業界分野はさまざまな形で変化しています。ドローン技術はテクノロジーが検査の専門をどのように変えていくかを示す一例にすぎません。ドローンは、インスペクターにとって確認しずらいオイルタンクの部分を見ることができます。

■ もう一つの進展分野はサイバーセキュリティです。私たちは、企業がデジタルに強くなるよう積極的に働きかけています。ロッテルダムでは、私たちは港湾局と協力して専門の作業部会をつくって実施しています。

■ そして、つぎにエネルギーの移行があります。現在、私たちは実際にその結果を目にしています。

タンクターミナルは、ディーゼルや燃料油のような黒物製品の貯蔵から、バイオ製品のような白物製品への切り替えが進められています。そのためには、貯蔵について異なった方法が必要になり、別なルールを適用する必要があります。

■ また、それらの物質の中には、腐食性が強く、タンクの劣化を早めるものもあります。これらは、あなた方の安全ポリシーの中で考慮しなければならないことです。さらに、もう一つ検討しなければならないことがあります。この種の製品は、多くの場合、加熱タンクでの貯蔵を必要とします。屋根に断熱材がない加熱タンク1基は年間300世帯分のエネルギーを消費します。これからも、私たちの検査官は省エネ義務の遵守をますます厳しく監視するようになるでしょう。タンク事業者はこれらのことを考慮して計画を立てる必要があります。メンテナンス周期の計画に入る場合、または新しいタンクを建設する予定がある場合は、計画に断熱材の設置を含めることです。“ここではまだ義務化されていない”なんて考えないでください。自ら率先して行動してください。エネルギー価格が高くなっているので、かなりの節約を生み出すでしょう。

補 足

■ 将来を見据えた運用の中で「エネルギーの移行」が挙げられている。そして、「現在、私たちは実際にその結果を目にしています。タンクターミナルは、ディーゼルや燃料油のような黒物製品の貯蔵から、バイオ製品のような白物製品への切り替えが進められています。そのためには、貯蔵について異なった方法が必要になり、別なルールを適用する必要があります」と述べられている。

 このエネルギー移行についてはオランダのハーグ戦略研究センター(HCSS)の 「新しいエネルギー・システムにおける欧州のタンク貯蔵部門」20223月)に触れられており、その中で、「e-fuels、アンモニア、液体有機水素キャリアー(LOHC)などの貯蔵と取扱いは、タンク貯蔵の新たな役割になる」としている。

 日本では、経済産業省(資源エネルギー庁)が積極的に燃料アンモニア導入の検討を進めているが、先日、ニュースで出光興産が燃料アンモニア・サプライチェーン実現に向け、山口県周南市の徳山事業所をアンモニア基地化の計画をしていると発表した。 オランダで「現在、私たちは実際にその結果を目にしています。黒物製品の貯蔵から白物製品への切り替えが進んでいる」という話が日本でも現実化してきた。

■ 同じく将来を見据えた運用の中で「サイバーセキュリティ」が取り上げられている。そして「私たちは、企業がデジタルに強くなるよう積極的に働きかけています。ロッテルダムでは、私たちは港湾局と協力して専門の作業部会をつくって実施しています」という。

 サイバーセキュリティについては、「タンク施設におけるサイバーセキュリティの危険性」20185月)について紹介したが、実際に、つぎのようなサイバー攻撃が起こっている。

 ●「米国東海岸に石油を供給するコロニアルパイプラインにサイバー攻撃(身代金払う)」 20215月)

 ●「ドイツの石油タンクターミナルにサイバー攻撃、石油サプライチェーンに混乱」 20222月)

 このサイバー攻撃に対するサイバーセキュリティについて紹介したのは、つぎのとおりである。

 ●「米国における石油パイプラインのサイバーセキュリティの動向」20229月)

 ●「制御システムへのサイバー攻撃が増加、いま、あなたは何ができるか?20211月)

所 感

■ 環境保護や将来を見据えたタンク貯蔵の話は、米国のような広大な土地に恵まれたところよりも欧州での実情の方が日本にとって参考になる。オランダの環境保護機関であるDCMRが建前でなく、本音の話をしているのが良い。例えば、「なぜ環境保護機関であるDCMRが対応するのを待つのでしょうか? 自分自身で調べて、自分の改善計画を立ててみてはどうでしょう?」という話は日本でもありそうであるが、このような情報公開の場で話をしている自由さがよい。

■ 意外に思ったのは、「ロッテルダム地域のタンク貯蔵容量は過去10年間で倍増し、3,000KLに達した」ということである。確かに産油国などを中心にタンク貯蔵基地が増えているが、成熟した欧州のオランダでこの10年間に大幅に増えているという。日本との情勢の違いを感じる。資料では、話題が広範囲で、「エネルギーの移行」や「サイバーセキュリティ」といった単なる環境保護の規制機関の役割だけでなく、「補足」の中で記載したように最近の世界的な課題にも触れているのが興味深い。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com,  Much to be Gained in Tank Storage Safety, February  15,  2023

    Votob.nl, Voor een veilige en duurzame opslag van vloeibare producten,  2023

    Dcmr.nl, DCMR Environmental Protection Agency,  2023

    Meti.go.jp, 欧州の新たな化学品規制(REACH規則)に関する解説書, March,  2008

    Mofa.go.jp,  EUの新たな化学物質規制(REACH規則案)の動向, June,  2007


後 記: 興味深い話が記載されていたので、紹介することとしました。しかし、オランダの組織や法規制が出てくるので、すぐには理解しずらい資料でした。そのため、本来は「補足」の中で書き添えるのですが、それでは分かりにくいので、今回は資料の文章中に追記する形をとりました。

 ところで、所感で「米国のような広大な土地に恵まれたところよりも欧州での実情の方が日本にとって参考になる」と述べましたが、書きながら明治維新前後に欧州へ勉学のために出かけた各藩や明治政府のようで、歴史は繰り返すのかなあと思いました。

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