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2017年6月21日水曜日

メキシコのペメックス社の製油所で浸水による火災で死傷者9名

 今回は、2017年6月14日(水)、メキシコのオアハカ州サリナ・クルス市にあるペメックス社サリナ・クルス製油所において豪雨による洪水で貯蔵タンク地区が浸水し、溢流した油による火災が発生して、死傷者9名を出した事故を紹介します。
(写真はRazon.com.mx から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、メキシコのオアハカ州(Oaxaca)サリナ・クルス市(Salina Cruz)にあるメキシコ国営石油会社ペメックス社(Petroleos Mexicanos: Pemex)のサリナ・クルス製油所である。サリナ・クルス製油所は、1979年に操業を開始し、330,000バレル/日の精製能力を保有している。

■ 発災があったのは、製油所のオフサイト・エリアで、貯蔵タンク地区だった。
サリナ・クルス市にあるペメックス社の製油所付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 6月12日(月)、メキシコは熱帯低気圧“カルバン”に襲われた。6月13日(火)、サリナ・クルス地区は豪雨が降って洪水となり、製油所の脱硫装置や14基の貯蔵タンクのある地区などが浸水した。貯蔵タンク群の排水溜めから原油のガソリン残渣(Crude Petrol Residue)を含んだ水が溢流し、油が広がっていった。製油所の各施設は、異常気象の措置として運転が停止された。
洪水による貯蔵タンク地区の浸水
(写真はMilenio.com から引用)
■ 2017年6月14日(水)朝、製油所の浸水した区域にあるポンプ室付近から火災が発生した。浸水した製油所の一区域から巨大な火炎と厚い黒煙が噴き出した。

■ 火災発生に伴い、製油所の自衛消防隊が出動し、緊急事態の火災対応をした。

■ この事故によって、1名が死亡し、8名の負傷者が発生した。負傷者は病院へ搬送され、治療を受けている。亡くなったのは自衛消防隊の消防士で、火災の消火活動に従事していたという。

■ 洪水によって製油所の近くに住む一部の人たちが避難していたが、火災が発生して避難した人は約550名になった。その後、約3,000人近い人が避難したと報じられている。

■ 火災は貯蔵タンクに近い場所だったが、タンクに延焼することはなかった。6月15日(木)になって下火になったが、火災はポンプ室付近で続いた。 

■ 6月16日(金)午前3時30分、火災は鎮火した。

■ 火災が鎮火した後、周辺地区の環境への影響が調査されている。実際、酸性を示す黒い雨の降ったことが確認されている。しかし、どこからもそのリスクや対処方法を注意喚起されていない。また、近くの海岸が油で汚染されており、漁師への影響が心配されている。
(写真はNvinoticias.com から引用)
(写真はNvinoticias.com から引用)
(写真はMxpolitico.com から引用)
(写真はMxpolitico.com から引用)
                   避難する市民    (写真はMilenio.com から引用)
被 害
■ 死亡1名、負傷8名の人身被害が出た。

■ 製油所構内にあるポンプ室などの設備が火災で損壊した。また、流出した油が焼失した。被害の状況や程度は不詳である。

■ 製油所近隣に住む人約3,000名が避難した。このほか、漁業や環境への被害が懸念されている。

< 事故の原因 >
■ 燃焼源は、洪水によって貯蔵タンク群の排水溜めから溢流した原油のガソリン残渣(Crude Petrol Residue)で、引火源は不明で、調査中である。

■ 一部のメディアでは、公式の情報ではないが、油は14基ある原油タンクのうちの1基から漏れた原油(Crude Oil)で、約500KLが火災で焼失したと報じている。

< 対 応 >
■ ペメックス社は、6月14日(水)、同社のウェブサイトにサリナ・クルス製油所で火災があったことを発表した。翌15日(水)、続報として消防隊員が亡くなったことを発表した。さらに、16日(金)、火災は鎮火したことを発表した。

■ ペメックス社は、消防士を各所から動員し、80名で対応した。

■ 6月15日(木)、メキシコ安全・エネルギー・環境庁(Safety, Energy and Environment Agency:ASEA)が現場への立入りを行い、火災事故の調査を始めた。

■ ペメックス社は、被害の状況を評価した後、停止していた施設の再稼働に向けて準備を行うという。しかし、6月20日(火)、製油所の生産開始時期は未定で、ガソリンを追加輸入するとの見通しであることが報じられている。

■ ペメックス社では、今回の事故が今年に入って2度目の重大事故である。2017年3月、サラマンカで8人が亡くなるという事故「メキシコのペメックス社の石油ターミナルで爆発、死傷者8名」が起こっている。
(写真はReuters.comから引用)
(写真はMexiconewsdaily.com から引用)
(写真はMexiconewsdaily.com から引用)
ペメックス社が公開した火災消火後の状況
(写真はPemex.comから引用)
ペメックス社が公開した火災鎮火後の状況
(写真はPemex.comから引用)
補 足
■ 「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家で、人口約1億2,800万人の国である。
 「サリナ・クルス市」(Salina Cruz)は、「オアハカ州」(Oaxaca)の南東部の太平洋側にあり、人口約76,000人の港湾都市である。
メキシコ合衆国とサリナ・クルス市の位置
(図はBorderhopper.main.jp から引用)
■ 「ペメックス社」(Petroleos Mexicanos: Pemex)は1938年に設立された国営石油会社で、原油・天然ガスの掘削・生産、製油所での精製、石油製品の供給・販売を行っている。ペメックス社はメキシコのガソリンスタンドにガソリンを供給している唯一の組織で、メキシコシティに本社ビルがあり、従業員数約138,000人の巨大企業である。
 オアハカ州サリナ・クルス市には、精製能力330,000バレル/日のサリナ・クルス製油所(Salina Cruz Refinery)がある。当製油所は、別名Ingeniero Antonio Dovalí  Jaime Refineryといい、1979年に操業を開始した。
 なお、ペメックス社の関連事故については、つぎのような事例がある。

■  「発災場所」をグーグルマップで調べてみると、貯蔵タンク地区であることが確認できる。 この地区には14基の貯蔵タンク(実際に設置されているのは13基)があり、ポンプ室と思われる設備がある。ポンプ室から最も近い貯蔵タンクまでの距離は約200mである。なお、この地区の貯蔵タンクは原油用とみられ、原油タンクの直径は約89mであり、容量は10~12万KLクラスの大型タンクである。
サリナ・クルス製油所の貯蔵タンク地区付近 (矢印がポンプ室とみられる)
(写真はGoogleMapから引用)
発災場所とみられるポンプ室付近 
(写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ ペメックス社の公式発表は不明点や疑問点が多い。例えば、「原油のガソリン残渣」(Crude Petrol Residue)という油名は聞いたことがない。この点、一部のメディアが報じている「油は原油タンクのうちの1基から漏れた原油(Crude Oil)で、約500KLが火災で焼失した」という情報は合点がいく。この情報から考えられるのは、原油タンクの水切り作業のミスである。豪雨・洪水・浸水という非定常な状況から、水切り作業において何らかのミスがあり、原油タンク内の原油500KLを排出してしまったという推測である。そして、含油排水系統を通じて浸水区域に原油が流出し、原油の揮発分から形成された爆発混合気がポンプ室の何らかの火源によって引火し、大火災になったのではないだろうか。
 事故の多くは非定常な状況から発生するといわれるが、豪雨・洪水・浸水から火災発生というシナリオは考えつかない。しかし、現実には、思ってもみなかった状況から事故が起こることを示す事例である。

■ 亡くなった1名は消防活動を行っていたということから、ほかの8名の負傷者も消防活動によって被災したものと思われる。消防活動に関する情報は報じられていないが、発災写真の中に消火活動を撮した写真があり、腰の高さまで水に浸かりながら、同じ水面上の火災を消火するという極めて困難な状況だったことがうかがえる。この点、「米国フィラデルフィア製油所のタンク火災で消防士8名死亡(1975年)」の事例と類似した状況だったと感じる。
 最近、異常気象による豪雨や洪水が頻繁に起こっている。これまで、想定したことはないと思われる浸水条件でのタンク火災や水上火災への対応を考えておく必要性を示す事例でもある。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Pemex.com,  Pemex Fights Fire in the Salina Cruz Refinery,  June 14,  2017  
    ・Pemex.com,  Progress in the Efforts to Fight the Fire in the Salina Cruz Refinery Pump House,  June 15,  2017    
  ・Pemex.com,  Fire in the Salina Cruz Refinery Extinguished,  June 16,  2017 
  ・Abcnews.go.com,  Fire Reported at Partially Flooded Mexican Refinery; 9 Hurt,  June 14,  2017
    ・Reuters.com,  Fire Breaks out at Mexico’s Top Refinery, 9 People Hurt,  June 14,  2017
    ・Taiwannews.com.tw,  1 Dead,  9 Injured in Refinery Fire in Southern Mexico,  June 15,  2017
    ・Hazmatnation.com,  9 injured in Pemex Refinery Blaze,  June 15,  2017
    ・Oilprice.com,  Pemex  to Restart Mexico’s Biggest Refinery after Major Fire,  June 15,  2017     
  ・Mexiconewsdaily.com, Pemex  Refinery  Fire Produced  Toxic Rain,  June 17,  2017 
  ・Ogj.com,  Fire Halts Operations at Pemex’s Salina Cruz Refinery,  June 16,  2017
    ・Theoilandgasyear.com,  Fire at Salina Cruz Refinery  Causes  Injuries,  June 15,  2017
    ・Radioyucatanfm.com, No cede el fuego en refinería de Pemex,  June 16,  2017
    ・Reuters.com, Mexico's Pemex to up Gasoline Imports after Refinery Fire ,  June 20,  2017



後 記: 前回の中国の事故に比べると、メキシコの情報公開はオープンだと感じます。国営企業のペメックス社はウェブサイトを通じて事故情報(声明)を3日連続で発信しています。しかし、火災の発生状況の説明が判然としません。事実を把握していないためか、意図的に理解しづらくしているようです。声明を出す前の取材からだと思いますが、当初は「含油廃水池が洪水によって油が溢流して火災になった」という情報を出したメディアもありました。失敗は小さく見せたがるという保身的な声明の典型例だと感じます。1日目の声明では、「負傷者が出たが、命にかかわるような状態ではない」と言っていた翌日、ひとりが死亡したと変わりました。今回の報道で知ったのですが、今年3月のペメックス社石油ターミナルの爆発事故でも、死傷者8名(4名死亡、4名負傷)は全員亡くなっていました。一方、今回も発災写真や消防活動の写真が事故の状況を理解する上で非常に参考になりました。

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