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2023年3月18日土曜日

インドネシアの燃料油貯蔵所でガソリン火災、民家に延焼して死者21名

 今回は、202333日(金)、インドネシアのジャカルタにあるプルタミナ社の燃料油貯蔵所でガソリン配管の漏洩から火災となり、事業所外の民家に延焼し、死傷者21名を出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、インドネシア(Indonesia)ジャカルタ(Jakarta)のプランパン(Plumpang)にあるプルタミナ社(Pertamina)の燃料油貯蔵所である。この貯蔵所の貯蔵容量は約30KLで、インドネシアの燃料需要の25%を供給している。

■ 事故があったのは、プランパン燃料油貯蔵所である。同燃料油貯蔵所は、ジャカルタのタナメラ地区の人口密集地域の近くにある。


<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202333日(金)午後8時頃、プランパン燃料油貯蔵所で火災が発生した。

■ 火災が始まった直後、大きな爆発音が聞こえた。黒煙とオレンジ色の炎が夜空に立ち昇った。

■ プランパン燃料油貯蔵所の境界外側には民家が密集しており、火災が燃料油貯蔵所から民家側に広がった。複数の家屋を焼き払い、人口密集地域の住民はパニックに陥り、持ち物を持って逃げた人も出た。 住民のひとりは、「現場は大騒ぎで混乱し、身体に火傷を負った人とともに逃げ惑い、パニックを引き起こしていました」と語った。

■ 発災に伴い、消防署に通報があり、現場に51の部隊が出動した。少なくとも260人の消防士と52台の消防車が火災を封じ込めようと活動した。

■ 300人以上の人が自宅から避難し、近くのモスクに避難した。避難した人のためにテントが4つ建てられた。その後、避難した住民は1,300人以上になり、10の政府機関、赤十字の指揮所、スポーツ・スタジアムが避難場所になった。

■ 発災に伴い、少なくとも17人が死亡し、こども1人を含む50人が負傷した。死亡した中には、こども2人が含まれるという。314日(火)、死亡者は21人になったと報じられた。

■ 負傷した人のほとんどはやけどを負っていた。政府は負傷者の治療費を負担するという。

■ プルタミナ社は、33日(金)発災直後ウェブサイトで事故の原因は分かっておらず、現在、避難の努力が進行中であると述べた。また、同社は、他の石油ターミナルからの供給を計画しているため、ジャカルタ地域の燃料供給は引き続き確保できると語った。

■ 火災はタンクではなく、プランパン燃料油貯蔵所の燃料配管から発生したとみられる。

■ 火災は、3日(金)午後1030分頃に制圧された。しかし、その後も住民の家のまわりで火災が見られた。 火災は34日(土)午前220分頃に消火された。

■ 消防士が遺体袋を運んでいる貯蔵所の近くでは、大勢の住民が詰めかけた。


■ 発災時の状況や避難の状態などがユーチューブの動画に投稿されている。

   Indonesia: Deadly fire breaks out at Pertamina fuel storage station in Jakarta | Oneindia News2023/03/04

  ● Moment flames shoot up at petrol depot explosion in JakartaThe Sun)」2023/03/04

  ● Fire at Indonesian fuel storage depot kills at least 18, displaces over 1300 in JakartaGlobal News)」 2023/03/05

被 害

■ 燃料油貯蔵所内の燃料配管などの設備が焼損した。また、燃料油貯蔵所近くの民家に延焼した。

■ 死傷者は71人以上だった。内訳は死亡者21人、負傷者50人だった。

■ 近くの住民1,300人以上が避難した。

< 事故の原因 >

■ 火災の要因は、ガソリン配管からの漏洩から何らかの引火源によって火災になったものとみられる。漏洩に至った要因は調査中で分かっていない。 

< 対 応 >

■ プルタミナ社は、34日(土)のウェブサイトで自衛消防隊と公設消防隊によって火災は午後10時頃に消火したと発表した。その後に出したウェブサイトでは、燃料受入れパイプライン・エリアの火災処理は3時間(午後8時~午後11時)で消火したと発表した。

■ 公設消防は、今回の消火活動について、プランパン地域の水源が比較的遠くにあり、水の確保に苦慮したと語っている。また、すぐに火を消すのが難しかったのは、消防士が下から放水した場合、風化した建物が倒壊する恐れがあったため、建物の側面から散水する方法をとったからだという。

■ プルタミナ社は、 「犠牲者の家族に深い哀悼の意を表します。この事件についてお詫び申し上げます」という声明を出した。

■ プルタミナ社は、 34日(土)のウェブサイトで、火災が33日(金)午後8時頃に受入れ配管の1本から発生したという。また、33日(金)の午後733分頃、燃料受入れ配管に漏れが発見され、その後住宅地で火災が発生したため、プルタミナ社は直ちに緊急事態を宣言したという。

■ 予備調査の一報によると、大雨が降っている最中に燃料油パイプラインが破裂した。落雷による可能性があるという。インドネシア政府は、プルタミナ社に対して事故原因調査と施設を監査することを要求した。

■ 近くに住んでいる人によれば、「火災が起こる約30分前に燃料の臭いがした」と語った。別な目撃者は「息ができないほど強い臭いがした」と話している。

■ インドネシア政府は、今回の火災事故によってプランパン地域が地元地域にとって安全ではないことを示しており、燃料油貯蔵所の火災の近くに住む住民を移転するか、燃料油貯蔵所を移すか検討するという。

■ 34日(土)、国家警察署長が火災のあった燃料油貯蔵所を訪問した。その際、事故はバロンガンから移送されるガソリンを燃料油貯蔵所で受入れまたは充填しているときに発生したといい、この時、技術的な問題で過剰な圧力が発生し、その後、火災が起こったと説明した。火災の原因や火元がどこにあったのかなどはチームによって調査中だという。バロンガンには、製油所と貯蔵所があり、210kmのパイプラインを介してプランパン燃料油貯蔵所に石油製品を供給している。

■ 35日(日)、救助隊と消防士は、焼け焦げた家や建物のがれきの中をまだ行方の分からない3人を捜索した。

■ 2014年には、同じ燃料油貯蔵所で火災が発生し、少なくとも40棟の家屋が焼失したが、死傷者は出ていない。







補 足

■「インドネシア」(Indonesia)は、インド洋と太平洋の間にある東南アジアとオセアニアに属し、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島(カリマンタン)など17,000以上の島々で構成される人口約27,000万人の国である。

「ジャカルタ」(Jakarta)は、ジャワ島北西の海岸に位置するインドネシアの首都で、人口約1,050万人の都市である。

■「プルタミナ社」(Pertamina)は、 1957年に設立され、インドネシア政府が株式を所有する国有の石油・天然ガス会社である。国内に6箇所の製油所を持ち、5,000箇所以上のガソリンスタンドを有している。

 プルタミナ社の事故を紹介したのは、つぎのとおりである。

    201610月、「インドネシアの製油所でアスファルト・タンクが爆発・火災」

  ● 20183月、「インドネシアのボルネオ島で海底パイプラインから油流出、死者5名」

   20213月、「インドネシア西ジャワ州で製油所の大型ガソリン・タンクが複数火災」

   20216月、「インドネシア中部ジャワ州で製油所のベンゼン・タンクが火災」

   202111月、「インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災」

■「プランパン燃料油貯蔵所」 は、1974年に約48,000ヘクタールの面積で60,000KLのタンク容量で操業を開始した。1978年には貯蔵容量が80,000KLに、1987年には200,000KLに増加し、現在、324,000KLに達している。元々、燃料油貯蔵所には周辺に緩衝地帯があり、1987年までは周囲に広大な空き地があった。しかし、時間が経つにつれて、現在のようなプランパン周辺地域は人口が密集してきた。

所 感

■ 事故発生に関する断片的な情報を整理すると、つぎのようになる。

 ● 事故の前に、移送されてくるガソリンを燃料油貯蔵所で受入れまたは充填していた。

 ● 午後733分頃、燃料受入れ配管に漏れが発見された。(その後住宅地で火災が発生した)

 ● 火災が起こる約30分前に住宅地で燃料の臭いがした。

 ● 技術的な問題で過剰な圧力(過圧)が発生した。(その後、火災が起こった)  

 ● 火災は午後8時頃に受入れ配管の1本から発生した。

 このような経緯で事故が起こったとすれば、原因の推測はつぎのようになる。

 ● ガソリンの受入れ配管に経年劣化の腐食孔による漏れまたはフランジ継手の漏れが発生した。

 ● このガソリンの漏れを事業所作業員が発見した。その旨、計器室へ連絡した。

 ● ガソリン漏洩はかなり多く、ベーパーが事業所境界を越えて民家に達した。

 ● 民家側に流れて行ったガソリンベーパーが住宅地の何らかの引火源(裸火など)で火災が発生した。

 ● 計器室で漏洩の報告を受けたオペレーターは、配管の流れを停止する操作を行った。

 ● タンク受入れ配管の遮断弁を閉止した。

 ● 当時移送されていたガソリンは長距離のパイプラインを介していた。このため、高い圧力で運転されていたため、バルブ閉止で水撃現象の過剰な圧力(過圧)が発生した。

 ● 受入れ配管に過剰な圧力がかかったため、配管が破裂またはフランジ継手が緩み、大量のガソリンが噴出した。

 ● 大量のガソリンベーパーが構内の電気機器などの引火源または発生していた火災の裸火によって爆発した。

 今回の事故は、計装システムや運転マニュアルに問題がありそうであるが、事業所の幹部やオペレーターの判断力にも課題があるように感じる。

■ インドネシアは落雷の多いところであるが、今回の事故では引火源が落雷の可能性は低いと考える。タンク事故であれば、落雷が引火源となることはあるが、低い場所にある配管に対してピンポイントで落雷することは考えにくい。

■ 消防活動の概況は報じられているが、活動の詳細は分からない。特に“鎮火時間”が情報によってバラバラである。この要因は、プルタミナ社の発表が事業所内の火災の消火時間を指しているからだといえる。事業所境界から民家側は確かに社外であり、事業所の消防活動の適用外であるが、もともと民家の火災もガソリン漏れによるものである。火災に境界はなく、この点を認識して情報を発表すべきである。

 事業所内外の区別を明確にするような事故は日本で起こらないと考えてはならないと思う。いま南海トラフ地震の話が出ているが、2011年の東日本大震災のときのように地震被害が広範囲になると、貯蔵タンクだけでなく、パイプラインや桟橋設備からの発災で事業所外への影響が出ることを想定しておく必要があろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Reuters.com, Fire at Indonesia's Pertamina fuel storage station kills 17,  March  04,  2023

      Tankstoragemag.com,  17 killed at Indonesian fuel storage,  March  06,  2023

      Apnews.com,  Fire at Indonesian oil depot kills 17; thousands evacuated,  March  04,  2023

      Aljazeera.com, Hundreds evacuated as Pertamina fire kills at least 17 in Jakarta,  March  04,  2023

      Time.com, Indonesia Fuel Depot Fire Kills 18. More Than a Dozen Remain Missing,  March  04,  2023

      Thejakartapost.com, Government to relocate residents or move fuel facility after fire,  March  05,  2023

      Ndtv.com, In Pics: Homes "Completely Destroyed" In Massive Indonesia Fire,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Pertamina Focuses on Providing the Best Handling for Victims,  March  03,  2023

      Pertamina.com,  Moving Swiftly, Pertamina Focuses on Providing the Best Handling for Victims,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Emergency Team Extinguished the Fire in 3 Hours, Fuel Distribution Back in Operation,  March  04,  2023

      Pertamina.com, Visiting the Plumpang Fuel Terminal, the National Police Chief Ensures Refugees' Handling and Needs Are Fulfilled,  March  04,  2023

      Dailypioneer.com, 19 killed in fuel depot fire in Indonesia,  March  06,  2023

      Channelnewsasia.com, Explainer-Indonesia's Pertamina faces pressure to move oil terminal after deadly fire,  March  10,  2023

      Cnbcindonesia.com, Dugaan Ahli: Ini yang Jadi Pemicu Kebakaran Depo BBM Plumpang,  March  06,  2023

      Kompas.id, Relokasi Terminal BBM Plumpang dari Lokasi Strategis Tidak Disarankan,  March  05,  2023

      Suarasurabaya.net, Dirut Pertamina: Insiden Kebakaran di Depo Plumpang Bukan dari Tangki BBM,  March  05,  2023

      Antaranews.com, Korban jiwa kebakaran depo Pertamina Plumpang menjadi 21 orang,  March  14,  2023

      Manado.antaranews.com, Lokasi kebakaran terminal BBM Plumpang ditinjau Wapres Ma‘ruf Amin,  March  04,  2023

      Megapolitan.kompas.com, Dinginkan Depo Pertamina Plumpang Usai Api Padam, Damkar: Agar Tak Ada Panas Penyebab Kebakaran Lagi,  March  04,  2023


後 記: インドネシアの事故情報を調べるのは、掛けた時間の割に内容が薄いと感じます。インターネット記事はあり過ぎるほどたくさんあります。第一報の記事を読むと、とにかく時間や死傷者数などがメディアによってバラバラだし、どのように発災しているのかよく分かりませんでした。この点、毎度のことですが、理解の手助けになったのは上空からの発災写真でした。また、特に今回のように亡くなった人が大勢出ると、どうしても死傷者や避難者の記事になります。このブログで必要な事故の原因につながる内容の記事を見つけるのは、時間を掛けた割に少なかったですね。今回の事故が夜に起こっているので、さらに発災事業所自身が曖昧な情報しか持っていないのではないかと思ってしまいます。結局、頭の体操として断片的な情報から事故要因を推測する機会を得た(?)といえる事故でした。

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