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2020年10月4日日曜日

FRP (繊維強化プラスチック)製タンクの落雷保護と接地系統の評価

  今回は、米国の落雷保護、接地システム、サージ保護設備(SPD)の設計・エンジニアリングの専門技術会社であるアルテック社が2014年に同社ウェブサイトに掲載した「FRP (繊維強化プラスチック)製タンクの落雷保護と接地系統の評価」の資料について紹介します。

 <  はじめに  >                                                                                             

■ 近年、石油産業、水処理・廃水処理産業、化学産業では、FRP(繊維強化プラスチック)製貯蔵タンクを利用する傾向が多くなっている。FRP製貯蔵タンクは、標準的な金属製貯蔵タンクと比較して耐腐食性に優れており、これらの産業では一般的になっている。 FRP製貯蔵タンクは、金属製ではないが、落雷条件にさらされており、火災の危険性がある。非導電性であるため、高速の雷電流インパルスに対して強い抵抗性を有し、落雷箇所において高い熱を生成する。また、1基のFRP製タンクで発生した火災は、施設全体に及ぶ可能性がある。

■ 間接的な落雷であっても、絶縁されたFRP製タンクと近くにある接地された金属製構造物との間の不均一なイオン放電率によって電位差が生じ、このため火花を発生してタンクの爆発・火災につながることも考えられる。

 ■ タンク施設の落雷データは数多くあるわけでなく、多くは写真に示す事例などのようにメディア向けの報道によるものである。20146月~7月、ノースダコタ州の3箇所で塩水処理施設が落雷によって火災になった。このような塩水処理施設はノースダコタ州だけでも440箇所以上存在する。 油井施設における生産用タンクとしては主に油回収と塩水処理に使用される。報告書によると、米国には、油井が144,000箇所ある。落雷事故による休止期間は長く、復旧費用は非常に高く、人員面、主要なインフラ面、貯蔵タンクの余裕面に対して問題点を生じる可能性がある。

米国テキサス州マーティン郡ミッドランドの落雷火災(2013916
米国テキサス州グラッドフォードの落雷火災(2014625日)
米国ノースダコタ州ワットフォードの落雷火災(2014931日)
 ■ 落雷保護の方法を理解して使用することによって、取替え費用、運転停止による損失、安全性の問題を最小限に抑えることができる。 避雷針、等電位ボンディング、接地を組み合わせて設計することで、FRP製貯蔵タンクを保護できる。 この資料では、直撃雷に襲われるようなFRP製貯蔵タンクのリスクについて説明し、直撃雷や二次的な落雷の影響から施設を保護するための手引きを提供する。

 落雷のリスク分析・・・ 電気幾何学モデル >                                                                    

■ 地球上では、どこかで約1,800件の雷雨が起こっている。 そして、毎秒約100個の雷が地面に落ちている。過去の雷データは、世界のあらゆる地域の年間平均雷雨日数を示すイソケラウニック・マップ(Isokeraunic Map)を作成するために編集されている。標準的なFRP製貯蔵タンク用の三次元モデルが開発されている。施設を三次元で表し、電気幾何学モデルを適用して、雷の落雷点を計算し、視覚的に表示する。

 ■ FRP製貯蔵タンク施設に対して効果的な落雷保護の設計や設備を検討する際、単に直撃雷だけが考慮すべき事項ではない。というのは、間接的な落雷も、施設内に貯蔵されている内容液のベーパーに対して火花やフラッシュオーバーを引き起こす可能性がある。

 ■ もちろん、モデル化された施設のタンク基数は、検討対象のFRP製貯蔵タンクの施設よりも多い場合も少ない場合もあるだろう。落雷確率とタンク基数の関係は極めて直線的であり、おおむねタンク基数が倍になればリスクの確率も倍になる。このことは、条件によって有用な計算ができることを意味している。たとえば、タンク施設の所有者(運営者)がテキサスにおいて表に示す14倍のタンク基数を保有している場合、毎年、直撃雷を受けるタンクの推定値は1基となる。しかし、どのタンクに落雷を受けるかは事前に分からないため、すべてのタンクに落雷保護を行うべきである。

 ■ 直撃雷の確率だけが、効果的な落雷保護の設計や設備を検討する際の唯一の考慮事項ではない。間接的な落雷も、施設内に貯蔵されている内容液のベーパーに対して火花やフラッシュオーバーを引き起こす可能性があることは前にも述べた。

 ■ 貯蔵タンク施設への直撃雷の確率は、相対的な場所を考慮して決まる。 次表は、ふたつの異なるイソケラウニック値をもつモデル化された施設の年間予想落雷の総数を示す。

三次元モデルの貯蔵タンク施設の例

15kA帰流電流における落雷分析
落雷保護および接地システムの考え方 >  
■ アルテック社(ALLTEC)では、FRP製貯蔵タンク施設の多くが静電荷の放散に十分なボンディングと接地を実施していることを確認している。静電気の蓄積した貯蔵タンクまたは電圧差のある帯電物体から地面に放電した場合、そこに可燃性物質や爆発混合気が存在すると、火災や爆発を引き起こす可能性がある。アルテック社としては、FRP製タンクを使用した油井やタンク施設において既設のボンディングや接地を検査し、NFPA77“Recommended Practice on Static Electricity” (静電気対策の推奨基準)に対して順守していない事項を明らかにして改善方法を提案している。 ボンディングの方法は推奨基準に従って実施すべくである。

 注記: 静電荷の放散に効果のあるボンディングや接地設備は、落雷保護の接地系統には適切ではないことに注意することが重要である。静電気の接地には、1MΩの接地抵抗でも十分である。(IEEE142Recommended Practice for Grounding of Industrial and Commercial Power Systems3.2.6.2項を参照)

 ■ FRP製貯蔵施設のボンディングと接地系統は、落雷保護のボンディングと接地方法の基準に準拠して実施すべきである。金属製はしご、オーバーヘッド配管、ベント(通気口)は、すべて、適切なボンディングと接地を行うべきである。屋根のある金属製タンクはベント(通気口)付近において可燃性雰囲気にあり、そしてFRP製タンクは直撃雷を受ければ激しく破裂する可能性があるため、落雷保護について適切な設計と装備を行うことが不可欠である。 FRP製タンク施設に必要な高度な落雷保護を得るためには、技術とともに世界的に認められた基準を取り入れる必要がある。

 ■ たとえば、API RP 2003 “Protection Against Ignitions Arising out of Static, Lightning, and Stray Current: Appendix C,” (静電気、落雷、迷走電流から発生する発火に対する保護:付録C)では、落雷の入ってくる経路を軽減するため、落雷保護技術のひとつとして電荷放散端子(Charge Dissipation Terminals CDT)について説明している。また、落雷保護規格のNFPA 780IEC 62305などには、落雷保護システムの設計と装備ついて最低限の必要事項が記載されている。電荷放散端子(CDT)を用いる設計はこれらの規格を満足しているほか、CDT技術によってさらに強化された性能を有する。

 ■ FRP製貯蔵タンクのエリアでは、すべて、抵抗値が10Ω未満の低インピーダンス接地システムにすることが推奨される。 落雷保護に関する米国ミリタリー・ハンドブック(MIL-HDBK-1004 /6)とIEC 62305規格では、効果的な落雷保護システム(LPS)を得るため、接地システムについて最低10Ωの抵抗値とするよう推奨している。 金属製部品、特に可燃性雰囲気にある部品は、ひとつにまとめて接地すべきで、一点接地Single Point Ground)方式を用いる適切な接地を行うべきである。

 ■ アルテック社では、大地抵抗率のテスト値を用いて土壌モデルを作成することによって、既設や新規施設の接地系統のモデル化を行っている。得られたデータは、いろいろな深さにおける大地抵抗率を正確に計算できるように作成された接地ソフトウェアに入力する。アルテック社は、接地系統を設置するため、TerraDyne®Electrolytic Ground Electrodes(電解質接地電極)、TerraFill®Ground Enhancing Backfill(接地強制埋め戻し)、TerraWeld® Exothermic Welding  System(発熱性溶接システム)を含む一連の接地製品を提供している。落雷エネルギーを効果的に放散する標準的な10Ω接地システムの設計の例を次図に示す。この例では、約950フィートの導体と4つのElectrolytic Ground Electrodes(電解質接地電極)をモデル化している。

2AWGジャケット付きワイヤボンディングは静電気の放散には十分であるが、
落雷保護には適していない。内部の
カーボンベールへの接地取付けに注意。
FRP製タンクのCDT落雷保護の設計
 サージ保護
■ 適切な接地とボンディングに加えて、タンク地域のAC配電システム全体のキーポイントにサージ保護設備(Surge Protective Devices; SPD) を設置することが重要である。効果的なサージ保護設備(SPD)を組み込んだネットワークは、重要な機器を落雷などによるサージやノイズ異常から保護できる。

 ■ 相互に連携して作動するように設計したサージ保護設備(SPD) のカスケード・ネットワークは、外部要因で発生するサージによる悪影響から保護するために、480 V主配電盤とモーター・コントロール・センター(MCC)に設置すべきである。また、それらは重要機器の負荷に電力を供給する120/208 V UPSパネルやその他のサブパネルに設置し、タンク地域内から発生するサージから保護すべきである。 

 ■ また、配電内の保護ポイントから電気的に50フィート(15m)以上離れたところに設置されている機器の負荷を個別に保護することが推奨される。このサージ保護設備(SPD) には、配電盤の接地回路に誘導雷サージ電流を回避するためのコモンモード抑圧素子を組み込むべきである。また、内部で生成されたサージ電流は、通常モード抑制回路を用いてAC電力系の電力相の間および中性線の間に流すべきである。また、一次ノイズフィルタを設置し、大きな乱れをもたらすノイズ電圧を安全なレベルまで減衰させるべきである。さらに、操業の乱れによって中断や作業低下が発生するような場合、機器制御とデータ・インターフェイスの保護に関して慎重な検討を行うべきである。少なくとも、構造物に出たり入ったりする制御ラインとデータラインには、すべて、サージ保護設備(SPD) を組み込むべきである。

 ■ 同様に、思いがけなく絶縁破壊を受けたり、またはこの種の損傷に対して脆弱だとみられるような中電圧変圧器または回転機械の負荷は、サージ保護設備(SPD)を強化した独立の避雷設備よって個別に保護すべきである。この場合、すでにノーマルまたはヘビー・デューティのサージ防止装置を装備されていてもである。

 ■ これらの推奨事項を実際に装備すると、タンク地域の機器のサージやノイズ耐性レベルが最大限に強化されるので、動作寿命が延び、効率レベルが向上し、保守・修理・取替費用が削減できる。

FRP製タンクのCDT落雷保護の設計
D接地系統のモデル

< 参考;過渡的な要因源とその影響 > 

■ 一般的に、電力線ノイズは周波数パターンによって区別された低い振幅(<50 V)の外乱として定義される。一方、一時的なサージは、持続時間がミリ秒単位の瞬間的なエネルギーのバースト(破裂)である。典型的なサージ波形は、電圧と電流が急上昇してマイクロ秒の短い時間でピーク値に達し、ミリ秒未満でそのレベルの半分に減衰することを特徴としている。

 ■ ノイズの乱れは周波数パターンによって区別される。高周波ノイズのスペクトルは無線周波数干渉(Radio Frequency Interference ; RFI)として分類され、低周波ノイズパターンは電磁干渉(Electromagnetic Interference EMI)として分類される。サージ異常は機器の作動を中断させて、電子ハードウェアが損傷するおそれが高くなる一方、瞬間的な誘導ノイズ干渉も繊細な機器の作動を乱すおそれがある。

 ■ 過渡サージは、雷によって誘発した電気エネルギーのバーストのような外的に形成されたインパルスか、あるいは内的または人工的に形成された一時的な不規則性のいずれかに分類される。力率補正に関連する減衰振動リンギング・トランジェント(ノイズ)は、後者の異常の例である。最も激しいサージ現象は落雷時に形成する。しかし、他の場所で形成したサージが高電圧レベルになる可能性はある。

 ● 直撃雷によって発生する誘導雷サージは、落雷地点で最大75kVの瞬間的な電圧を形成する可能性がある。

 ● 一方、近くに落ちた雷から発生したサージ・インパルスは、最大25kVの電圧バーストを形成する。

 ● 力率補正コンデンサや負荷制限作動によって起こる電源サージでは、最大15kVのサージ電圧を形成することがある。

 ● 瞬間的に内部で起こった負荷変動、接地の電位差、パワー・サイクリングによる負荷変動は、それぞれ10kVの高いサージ電圧を形成する可能性がある。

 ■ 従って、上記のようなサージの脅威から機器の負荷を保護するためには、タンク地域全体のキーポイントにサージ保護設備(SPD) を設置することが重要である。

 補 足                                                                                                                                        

■「アルテック社」(Alltec LLC)は、1991年に設立され、米国ノースカロライナ州に本社を置く電気・電子分野の会社である。落雷保護、接地システム、サージ保護設備(SPD)の技術分野で設計およびエンジニアリング・ソリューションを専門とし、現在、社員は38名である。


所 感
■ 「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その3)」によると、場所(施設)別にみた事故の割合は、「製油所」(23%)、「タンクターミナル」(32%)に次いで「油田」(19%)となっている。油田の事故件数は51件であった。さらに詳細にみていくと、油田の事故の大半が米国の49件で、このうち原因が落雷の場合が24件だった。

 日本から見れば、油田の事故の割合が多いと感じるが、これは米国における小規模の陸上油田のタンク事故が多く、かつNASAによる雷マップ」によると、テキサス州などメキシコ湾岸では、落雷の多いところである。今回の資料で、「米国には、油井が144,000箇所ある」(2014年時点)と具体的な油井数が述べられており、確率的に言って米国での油田の落雷事故が多いのはうなずける。

 ■ 最近の油田落雷事故では、FRP製タンクの火災事故が目に付く。金属製タンクの場合の落雷対策は「石油貯蔵タンクの落雷リスクと雷保護」で紹介したが、FRP製タンクの落雷対策についても米国では検討されていることがうかがえる。油井の数から、 FRP製タンクの落雷対策のニーズが高いからだろう。


備 考                                      

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。 

  ・Alltecglobal.com, Lightning Protection and Grounding System Evaluation For Fiberglass Reinforced Plastic (FRP) Storage,   October  03,  2014

   一般的な落雷対策について掲載しているウェブサイトは、つぎのようなものがある。

  Jlpa.jp,  雷保護対策とは・・・(日本雷保護システム工業会)

  ・Sdn.co.jp, 雷害対策(昭和電工)

  ・Chademo.com,  落雷のメカニズムと最新の雷保護 (雷保護テック・タケタニ)

  ・Janu-s.co.jp, 落雷のメカニズムと被害軽減対策(三井住友海上火災)

  ・Enaa.or.jp,  雷保護対策の技術動向について(株式会社サンコー),  20155

 

後 記: 油井におけるタンクの落雷事故が多いことは分かっていました。最近になっても塩水処理用などのFRP製タンクが爆発・火災を起こしています。 FRP製タンクの雷に対する保護はなく、タンク所有者は落雷がないように祈るだけだと思っていました。しかし、今回、FRP製タンクの落雷対策に関する資料を知り、興味をひかれましたので、ブログへ紹介しようとまとめました。まとめてみて感じたのは、ひとつ分かると、分からないことが広がっていくということです。雷サージなどはFRP製にかかわらず起きる恐れのある問題ですが、果たして今回の推奨事項を行えば、 FRP製タンクの落雷による爆発・火災は無くなるのかという新たな疑問が生じてきました。



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