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2015年2月2日月曜日

海外で報道される東電福島原発の水タンクからの墜落死亡事故

 今回は、2015年1月19日、福島県双葉郡にある東京電力㈱福島第1原子力発電所のタンクエリアで、工事請負会社の社員がタンク建設工事の準備作業中にタンク上から墜落して死亡した事故情報を紹介します。本事故は日本でもニュースの一つとして報じられましたが、海外メディアは廃炉作業中の福島原発で起きた人身事故として切り込んだ内容で報じています。
墜落死亡事故のあった雨水受け用の組立式円筒タンク 
 (写真は東京電力提供のCTVNewsから引用
<事故の状況>
■ 2015年1月19日(月)午前9時過ぎ、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力㈱福島第1原子力発電所のタンクエリアで、工事請負会社の社員がタンク建設工事の準備作業中に墜落の死亡事故が起った。

■ 東京電力の報道配布資料によると、つぎのとおりである。
 ● Jタンクエリア用雨水受けタンクNo.2の建設中、19日(月)はタンクの内面防水検査が予定されていた。このため、東京電力社員1名とタンク設置工事の請負会社社員2名がタンク側面にあるマンホールからタンク内に入った。しかし、内部が暗かったので、タンク屋根(天板部)より太陽光を入れるため、請負会社の社員1名がタンク屋根へ上った。
 ● 午前9時6分頃、請負会社社員は、タンク屋根部にあるマンホールの蓋を動かしたところ、約10mの高さからタンク内へマンホールの蓋(重さ約51kg)とともに墜落した。
 ● 事故発生に伴い、被災者は救急車で病院へ搬送され、入院した。
              人身事故発生場所 (図・写真は東京電力の報道配布参考資料から引用)

                   人身事故発生状況  (図・写真は東京電力の報道配布参考資料から引用)
■ 事故直後、被災者は意識があったが、病院の診断では肋骨や骨盤が折れる重傷だった。被災者は手当てを受けていたが、20日(火)未明に死亡した。警察の発表によると、被災者はゼネコン安藤ハザマの男性社員(55歳)で、名前も公表された。(氏名を報じたメディアもある)

■ 事故のあった雨水受けタンクは組立式円筒タンクで、汚染水タンクを囲む堰に溜まった雨水を移送して保管するために建設されていたものである。

■ 福島労働局によると、福島第1原子力発電所の廃炉作業で、2014年に発生した休業4日以上の重大な労働災害事故は死亡1件を含めて8件で、前年の4件(死亡事故無し)から倍増したという。福島労働局は、1月16日(金)、東京電力を指導し、東京電力も元請会社の担当者を集めて、安全総決起大会を開いたばかりだったが、今回の事故を防げなかったと、日本のメディアは報じている。

<海外メディアによる報道>
 海外メディアが今回の事故についてどのように報じたか、一部を紹介する。

■ 通信社のロイターは、20日(火)、つぎのように報じている。
 ● 日本の損壊してしまった福島原子力発電所において、1月19日(月)、作業員1名が水貯蔵タンク内に落下して死亡した。チェルノブイリ以降、 2011年3月に世界で最悪となった原子力災害を起こした現場では、産業災害が続発している中で、もっとも新しい事故である。
 ● この死亡事故は1年経たないうちに起った2件目の事例である。労働基準局はプラントの操業者である東京電力に対して事故の多いことを注意し、問題に対処する措置を講じるよう命じていた。

 ● 被災者は、建設会社安藤ハザマで働いている男性50歳代の社員で、19日月曜、高さ10mの水タンクから墜落したものである。当日、この社員は水タンクの検査を行なう予定だった。当時、タンクは空だったといい、被災者は地元の病院へ搬送された後、20日火曜に死亡したと、東京電力は語った。福島原発の小野明所長は、「私どもは、亡くなられた方に心からご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆さまには心からお悔やみ申し上げます。私どもは、今回のような悲劇を再び起こさない確実な措置を実施することを約束いたします」と、声明の中で述べた。安藤ハザマからは、即時のコメントは出されていない。

 ● 福島原発の熱中症を含めた災害件数は、今年度55件と倍増している。東京電力が廃炉作業の推進を強化し、動員する作業員を約7,000人と倍増させたことに伴い、災害が増えている。この3月には、掘削作業中の土砂が崩壊して作業員1名が生き埋めになり、死亡する事故があった。
 ● 東京電力の廃炉業務についてはかなり批判されている。昨年来、現場に急いで作ったタンクからの放射能汚染水の漏洩対策にあがいているし、作業条件を改善する約束を何度も繰り返してきている。
 ● プラント内で働く作業員の大半は、多層構造の建設会社から雇われた契約労働者である。ロイターが2013年に調査したところ、労働者の酷使が広範囲に行われていることがわかった。この中には、賃金の上前(うわまえ)をはねられているという労働者の話や、プラント内での作業条件について事前の確認がほとんど行われていなかったという話がある。

 ● 福島発電所を査察した労働基準監督署の伊藤監督官は、「災害件数が増えていることだけが問題ではありません。死亡事故や重傷事故を含む重大な災害が増えているのです。そこで、私どもは東京電力に状況の改善を求めたのです」と語っている。

■ BBC(英国放送協会)は、20日(火)、つぎのように報じている。
福島第1原子力発電所で労働者が水タンクに墜落して死亡
 ● 機能不全に陥った福島第1原子力プラントで働いていた日本人の労働者が、水タンクに墜落した後、死亡した。2011年の地震と津波によって破壊されたプラントにおける死亡事故としては、今回の被災者が二人目である。
 ● 津波によってプラントの冷却系統が機能せず、3基の原子炉がメルトダウンに至った。プラントのメルトダウンによって周辺地域が汚染され、80,000人の住民に避難命令が出された。多くの住民は今も自宅へ戻ることができないでいる。
 ● 大量の毒性汚染水の問題をかかえるとともに、プラントには7,000人近くの労働者を入れて安定化を図っている。今回の事故は、前年に比べプラント内での労働災害が増えているというレポートを裏付ける形となった。

 ● 現在、プラントは毒性汚染水による一連の漏洩問題に直面している。原子炉を冷やすために極めて大量の水がポンプで移送され、このため放射性汚染水が生じている。この汚染水は、管理上、厳重にタンクに保管しなければならない。
 ● 19日(月)、50歳代の男性の労働者が、高さ10mの水タンクへ墜落して死亡した。当時、タンクは空だった。被災者は、他の労働者2名と一緒にタンクの検査を行なう予定でタンク上部にいた。東京電力広報担当者は、「被災者は安全帯を身に付けていました。しかし、フックは安全帯に付いたままでした。このことから、安全帯は使用されなかったと思われます。私どもは安全な方法がとられていたか調査中です」とAFP通信の問いに答えている。
毒性汚染水の封じ込めと廃炉作業のため、数千名の労働者が雇用され、大半は下請会社の契約労働者である。     (写真・文はBBCNewsから引用)
増加する人身災害
 ● 東京電力が1月初旬に明らかにしたところによると、3月をエンドにする年度の労働災害の件数が増えており、すでに昨年度の件数を上回っているという。時事通信のレポートによると、 “協力会社による現場の調整能力とマネジメント能力の貧弱さ”とともに、プラント内の作業人数が増えているのが主要因だと、東京電力は述べているという。発表によれば、前年度の死者1名を含む死傷者23名に対して、2014年4月~11月の間だけで39名の負傷者と1名の発病者があったという。
 ● 労働者の数は昨年度に比べ倍近くになっている。作業員の大半は契約労働者である。東京電力は、低賃金への非難を受けるとともに、未熟な労働者が雇用される問題にぶつかっている。東京電力は、現従業員と元従業員のグループから危険手当の不払いについて訴えられている。

■ 米国のニュース専門放送局であるCNNは、20日(火)、つぎのように報じている。
 ● 日本の機能不全となった福島原子力プラントで働いていた労働者が水タンクに墜落した後、死亡したと、施設操業者が発表した。東京電力の声明によると、19日(月)朝、墜落した被災者は高さ10mのタンク内で漏れ試験の準備をしていたという。病院に搬送された後、まもなく死亡が告げられた。
 ●  「私どもは、亡くなられた方に心からご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆さまには心からお悔やみ申し上げます」と東京電力ウェブサイトに掲載された声明の中で述べられた。また、調査を実施中だとも述べられている。

 ● 2011年、この地域に壊滅的な地震と津波が襲い、1986年チェルノブイリ以降、世界で最悪となった原子力災害が起きた。この現場において1年も経たないうちに起きた2件目の死亡事故である。昨年3月、掘削作業中の土砂が崩壊して請負者1名が生き埋めになり、死亡する事故があった。
 ● 東京電力は、いずれも放射能に関係した事故ではないと話している。

 ● 原子炉のメルトダウン後、3年経つが、福島の現場と多くの周辺地域は荒廃した荒地のままで、放射性物質によって水と土壌が汚染されている。防護服を着用した労働者たちは危険な環境条件に勇気をもって耐えなければならない。そして、ゆっくりと労を惜しまずプラントの解体に試みている。このプロセスは何十年もの期間が予想される。

■ カナダのニュース専門放送局であるCTVNewsは、20日(火)、つぎのように報じている。
墜落のあった雨水受けタンク屋根の開口部
(写真は東京電力提供のCTVNewsから引用)
 ● 日本の崩壊してしまった原子力発電所で働いていた労働者が水タンクに墜落した後、死亡した。2011年の福島原発事故でめちゃくちゃになったプラントを一掃するのにもがいている現場では、最近、災害件数が増加している中での人身事故だった。
 ● 福島第一プラントの操業者によると、被災した労働者(55歳)は高さ10mのタンク上部にある開口部から墜落し、複数部位の重傷で、20日(火)未明に死亡したという。被災者はタンクの検査を実施する3名のうちのひとりだった。プラントを操業している東京電力は、事故の原因を調査中だと語っている。

 ● 現在、数十年かかるプラントの廃炉作業には、7,000名近くの労働者が動員されている。昨年4月~11月の間の負傷者数は40名で、前年の12名に比べ増加している。これは安全対策のずさんさを憂慮すべき事態であることを示唆している。

補 足               
■ 「雨水受けタンク」の型式は、汚染水や真水の保管用として使用されている組立式円筒タンクである。汚染水タンクから堰外への汚染水漏れ問題があり、汚染水タンクエリアに降った雨水を別に区分するために雨水受けタンクが建設されている。組立式円筒型タンクは、もともと、土木工事用の仮設の水タンクに用いる目的で製作されたもので、接続部にパッキン(ガスケット)を使用しており、水密性能に限界があり、パッキン寿命は5年といわれる。東京電力における組立式円筒タンクの問題を当ブログで取り上げたのはつぎのとおりである。

■ 雨水受けタンクの「屋根部のマンホール」は四角形で、大きさは100cm×80cm(重量約51kg)である。通常の溶接構造式円筒型タンクの屋根部マンホール(丸形)とは形状が異なるし、サイズがタンク規模の割に大きい。マンホールは、本来、人が出入りするためのものである。東京電力の発表資料には「マンホール」という用語が使われているが、この四角形の穴は「作業口」である。汚染水タンクでは、屋根部の「作業口」から水中ポンプや移送用ホースを投入する。このため、大きなサイズになっていると思われる。作業口の蓋には取っ手が4個設けられており、二人で取扱うのを標準にしているものとみられる。
組立式円筒タンクの屋根部作業口(開口部)の使い方の例
(写真は東京電力提供資料から引用)
■ 「安藤ハザマ」は、正式には㈱安藤・間(あんどうはざま)で、東京に本社をおく建設会社である。安藤建設と間組が2013年に合併してできた。安藤建設は中高層ビル・工場の建設に強みを持ち、プレハブ工法で先駆けた建築主力の会社で、間組はダムやトンネル工事に強みを持ち、高層ビルや特殊建築も手掛ける土木・建築会社であった。

所 感
■ 事故に至った大きな要因は、マンホールと呼ばれている作業口の設計不良である。
 ● 100cm×80cmの開口部に対して人の墜落防止策が考慮されていない。
 ● 重量51kgの蓋の位置・構造が、人間の動作を考慮したものになっていない。(持ち上げるためには、人が最も不安定で腰に悪い姿勢になる)
 ● 蓋を持ち上げるための足元のスペースが配慮されていない。(屋根用の梁が足場の邪魔になる)
 ● 安全帯のフックを掛ける場所がない。(タンク屋根外周の手すりは遠すぎる)

■ 被災者は、タンク建設完了時の検査を行なう予定だったというので、建設会社の工事監督クラスとみられる。しかし、この組立式円筒タンクの構造や設計に関する知識が十分でなかったと思われる。作業口の蓋の重量を知っていれば、タンク屋根に一人で上がることはない。作業口の蓋をとれば、大きな開口部が現れることを認識していれば、自分がとる行動の危険予知(KY活動)をしていただろう。(当然、分かっていたと思われれようが、「知っている」のと「理解して認識する」ことは違う)

■ 海外の事故情報に接して感じるのは、けが人の有無を大きく報じる傾向ということである。今回の墜落死亡事故は日本のメディアでも報じられたが、単発的で総じて「仕方がない」という印象のように思う。しかし、海外メディアによる記事は予想以上に大きく取り上げている。発災場所が廃炉作業中の福島原発ということもあるが、人身事故の増えている事実がわかっている工事現場において、改善されない背景を指摘している。 「仕方がない」ではなく、辛辣(しんらつ)な表現もあるが、ジャーナリストとして人の命が奪われることを回避させたいという思いがあるように感じる。

備 考
 本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp, 東京電力報道配布参考資料雨水受けタンク天板部からの元請社員の墜落について, January 19, 2015
  ・Tepco.co.jp,  東京電力プレスリリース福島第一原子力発電所構内雨水受けタンク設置工事における当該タンク天板からの墜落による協力企業社員の死亡について,  January 20, 2015
     ・Tokyo-np.co, 福島第一タンクに転落、重傷、止まらぬ作業事故,  January 20, 2015
     ・Asahi.com, 福島第一・第二原発で作業員2人死亡 転落や頭挟む事故,   January 20, 2015
     ・Headline.yahoo.co.jp, 福島第一作業員が死亡=タンク設置工事で落下ー東電,  January 20, 201
     ・Rueters.com,  Fukushima Workers Dies after Falling into Water Storage Tank,  January 20, 2015   
     ・BBC.com,  Japan Worker Killed in Fukushima Nuclear Plant Accident,  January 19, 2015
     ・Edition.CNN.com, Man Dies after fall at Crippled Fukushima Nuclear Plant,  January 20, 2015
     ・CTVNews.ca, Worker at Japan’s Fukushima Plant Dies after Falling into Water Tank,  January 20, 2015


後 記:以前、東京電力福島原子力発電所で起きている貯蔵タンク関連事故は、ハード面もソフト面も普通の会社と違う特異な事例で、取り上げるのは終わりにしようと思いました。今回、再び取り上げたのは、海外メディアが大きく報じ、廃炉作業中の東電福島原発を海外の目ではどのように見ているのかということに注目したからです。

 今回、調べていてTPM活動の逸話を思い出しました。 東電の発表では、被災者への哀悼の念に続いて、事故原因について、「当社といたしましては、今回の災害の発生原因について詳細に調査するとともに、再発防止に努めてまいります」と述べられています。このような発表文は日本でよく見かける文章です。一方、この文章について海外通信社ロイターは、「今回のような悲劇を再び起こさない確実な措置を実施することを約束いたします」(We promise to implement measures to ensure that such tragedy does not occur again)としています。(主語・述語をはっきりさせる海外では、このような表現がよく使われます)

 あるTPMコンサルタントの先生が、TPM活動版の「・・・に努める」、「・・・を検討する」の文言を見て、「君たちは、努めるだけか? 検討するだけか?」といい、何としても達成するという意志の無さが表れていると指摘しました。東電発表の文章とロイターの文章を見比べて、この逸話を思い出しました。

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