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2020年3月16日月曜日

フランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災(原因)

 今回は、2015年7月14日(火)、フランス南東部マルセイユ近郊のベールレタンにあるリヨンデルバゼル社の製油所で起こった貯蔵タンクの爆発事故について、その後、この爆発を計画して実行した犯罪者が逮捕され、2020年3月11日(水)に15年の禁固刑を受けたという情報を紹介します。
 発災当時の情報はフランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災」を参照。
(写真はProtectionimages.bobitstudios.comから引用)
< 工場の概要 >
■ 事故のあった製油所は、フランス南東部マルセイユ近郊のベールレタンにあるリヨンデルバゼル社所有の工場である。リヨンデルバゼル社(LyondellBasell Industries)はオランダの化学大手企業で、ニューヨーク株式市場に上場し、従業員11,000人を擁して世界的に展開する会社である。リヨンデルバゼル社は、2007年にバセル社(Basell)とリヨンデル社(Lyondell Chemical)が合併して誕生した。
 ベールレタンの製油所はマルセイユ空港の近くにあり、 1929年に建設され、2008年にロイヤル・ダッチ・シェルからリヨンデルバゼル社が取得した。石油化学プラントの一つとして精製能力80,000バレル/日の製油所を有し、従業員は約1,000名で、請負会社の社員が同じほどの人数いる。

■ 発災のあったのは、製油所のタンク地区にある貯蔵タンクである。
                     ベールレタン付近 (中央上部が発災のあったタンク地区)  
(写真GoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年7月14日(火)午前3時、フランスの革命記念日であるパリ祭の日に、製油所のタンク地区にある2基の貯蔵タンクで同時に爆発があり、火災が発生した。発災のあった貯蔵タンクはガソリン用とナフサ用で、これらの2基のタンクは互いに500mほど離れていた。2基のタンクとも、ほぼ満杯の状態だった。
(写真はBBC.com から引用)
■ フランスで2番目に大都市近郊の空には、巨大な煙の柱が立ち、炎は数km先からも見ることができた。黒煙は、北西の風に乗って、マリグナネ、レ・ペンヌ=ミラボー、サン=ヴィクトレの町の方へ広がっていった。

■ 火災の発生に伴い、消防署の消防隊が出動した。ガソリン貯蔵タンクの火災は比較的早く消すことができた。鎮火時間は午前6時30分頃とみられる。ナフサ貯蔵タンクの火災には手こずった。当初は、製油所の自衛消防隊によって消火活動が行われていたが、公設消防隊による消火活動が必要となった。公設消防隊は液面上に“泡による巨大カーペット”を放射した。ナフサタンク火災は14日午前中まで数時間にわたって燃え、その後、消火された。鎮火時間は午前10時30分頃とみられる。

■ 「互いに500mほど離れているタンクで同時に爆発があったということは、技術的な問題による事故とは考えにくい。犯罪の意図がはっきり感じられる」とリヨンデルバゼル社の関係者は語っている。

■ 7月15日(水)、事故後の調査で、発災タンクにあった起爆装置とみられる電子機器と同様の機器が、別な3番目のタンクで見つかった。これは爆破に失敗したものとみられている。

被 害
■ 被災したのは、ガソリン貯蔵タンクとナフサ貯蔵タンクの2基である。燃焼した油の量は数千KLとみられる。損害は1,800万ドル(20億円)とみられる。

■ 爆発・火災に伴う、死者や負傷者は出ていない。

■ 爆発・火災事故に伴い、土壌と水質汚染が発生したが、解決には数年かかるといわれている。

< 事故の原因 >
■ 2基の貯蔵タンクの爆発・火災の原因は、犯罪行為による故意の過失である。

■ 犯人は印刷工場を営む男(38歳)で逮捕され、2020年3月11日(水)、フランスの法廷で15年の禁固刑を受けた。

■ 男は反米感情をもつ元ジャーナリストで、裁判の中では、米国の石油資源に関する好戦的な政策に対してフランスの外交政策が米国の追随者だとフランスに警告することを意図したと述べている。
(写真はStatique.lamarseillaise.frから引用)
< 対 応 >
■ 発災に伴い、消防署は120名の消防隊と50台の消防車を現場に出動させた。

■ 当局によると、消防隊は町や地元に火災活動による汚染の影響を防止するため、特別な方法である「予防ダム」をとったという。この予防ダムは消火用水と関係する炭化水素汚染を防止するため、工場近くの町に設置された。

■ ガソリン貯蔵タンクの火災は比較的早く消すことができ、鎮火時間は午前6時30分頃とみられる。

■ ナフサ貯蔵タンクの火災には手こずった。当初は、製油所の自衛消防隊による消火活動が行われていたが、公設消防隊による消火活動が必要となり、液面上に“泡による巨大カーペット”を放射する消火活動が行なわれた。ナフサタンク火災は午前中半ばまで燃え、その後、消火された。鎮火時間は午前10時30分頃とみられる。

■ 英国BBCは、カスヌーブ氏の談として、フランス全土には危険性物質を扱っている施設が1,100箇所ほどあり、セキュリティを強化する必要があると報じた。
(写真はBouches-du-rhone.gouv.fr から引用)
プラスチック爆弾と起爆装置の盗難があった施設
(切断されたフェンスの前にいる警察車両)
(写真はTelegraph.co.ukから引用)

補 足
■ ベールレタン(Berre-l‘Etang)はブーシュ・デュ・ローヌ(Bouche du Rhone)県にあり、フランスで2番目の大都市であるマルセイユ(Marseille)の北方約20kmにある。
(図GoogleMapから引用)
■ 発災したナフサ貯蔵タンクは火災写真から場所が特定でき、タンク地区の中央部にある直径約60mの浮き屋根式タンクである。貯蔵容量は50,000KL級と思われる。一方、ナフサ貯蔵タンクから500m離れた位置にあるタンクは南側に何基か見られる。火災になったのはガソリン貯蔵用であり、浮き屋根式と思われるので、西端にあるタンク2基のいずれかと思われる。この2基のタンクは、直径が約35mと約32mであり、10,000KL級と思われる。
(図GoogleMapから引用)
(写真GoogleMapから引用)
■ ナフサ貯蔵タンクの火災を火災写真で見ると、全面火災ではなく、リムシール火災から屋根火災に近いものと思われる。爆弾は、タンク下部でなく、屋根上に仕掛けられたものと思われる。爆破によってどのような損傷があったのか情報はない。被災程度としては激しいものではないと思われるが、浮き屋根上にナフサが漏れ出た可能性は高い。

■ ナフサタンク火災の消火活動は、公設消防隊による液面上に“泡による巨大カーペット”(Massive Carpet of Foam)を放射する戦術がとられたと報じられている。断定はできないが、これは大容量泡放射砲によるもの思われる。欧州の大容量泡放射は、米国のフットプリント方式などと異なり、泡放射量10L/㎡/min以上でタンク側板に沿って投入する方法をとる。直径60mのタンクでは、28,300L/minの放射能力を有する泡モニターが必要である。複数台の大型化学消防車(スクワート車)による一斉放射では、10台分に相当し、消防車の配置上難しい。おそらく、大容量泡放射砲によって消火させたものと思われる。

■ 火災活動に入る前に特別な「予防ダム」をとったと報じられており、大量の消火排水による地表水系への汚染防止のために構築された仮設堤と思われる。

所 感
■ テロ攻撃や戦争行為によるタンク火災は少なくなく、近年は中東などで多くなっている。これまでは、政情の不安定な国でロケット弾、迫撃砲、手りゅう弾といった戦闘行為によるものだったが、今回の事例はフランスという先進国で、個人による過激な行動である。集団によるテロ攻撃とは違った脅威を感じる事例である。

■ 前回の所感の中で、「報を聞いて感じたのは、製油所のセキュリティの甘さである。フランス国内でもテロ事件が続く中で、フェンスを破って複数のタンクに爆弾を仕掛けられている。工場の正門に「テロ対策中」という看板が掛かっていなかったにしても、所内ではテロへの警戒心はあっただろう。それがいとも簡単に破られている。しかし、このようなセキュリティの弱点を有する事業所は、リヨンデルバゼル社のベールレタン製油所だけに限ったものではないだろう。テロリストや悪質な犯罪者が意図をもって攻撃する可能性のあることを前提に、施設のセキュリティを考えなければならない。先進国のフランスで起きており、日本では起こらないという保証はどこにもないのである」と述べたが、この考えは現在も変わらない。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Industrialfireworld.com, French Refinery Arsonist Sentenced to 15 Years in Prison,  March  12,  2020
      Lemonde.fr, Quinze ans de prison pour l’incendiaire de la raffinerie de Berre-l’Etang,  March  12,  2020
      UK.Reuters.com,  Criminal Intent Seen in Petrochemical Fire on French Bastille Day,  July  14,  2015
      Telegraph.co.uk,  Two Blasts in French Chemical Plant Caused by Malicious Act,  July  14,  2015
      RT.com,  2 Blasts Rock Oil Refinery in Southern France 10km from Marseille Airport,  July  14,  2015
      BBC.com,  France Explosions: Devices Found near Berre-L’Etang Plant,  July  15,  2015
      Breithart.com,  There Was a Significant Terrorist Attack in France This Week and The Mainstream Media Hasn’t even Bothered Telling You,  July  15,  2015
      RT.com,  France Blasts:  Foul Play Suspected as Electronic Device Found at The Scene,  July  15,  2015
      News.NNA.jp,  マルセイユ近郊の製油所爆発、起爆装置発見,  July  16,  2015
  ・Mainichi.jp,フランス:マルセイユ近郊の工場 薬品タンク二つ同時爆発,  July  16,  2015
  ・Tokyo-np.co.jp, 仏工場で同時爆発 現場近くで起爆装置?発見,  July  16,  2015
      Chunichi.co.jp,仏南部の工場で同時爆発 発火装置?発見,  July  16,  2015



後 記: 今回の裁判結果は、フランスという先進国で個人的な思想の違いによるテロ行為でタンク火災を起こしたという話題に事欠かないため、メディアで取り上げられたので、知り得たものです。原因が犯罪らしいということから故意の過失だったことが確定しました。しかし、個人の犯罪でこうも簡単に侵入し、爆発物を仕掛けられるのかという素朴な疑問が再び浮かんできました。そういえば、最近、世の中では「テロ対策中」という看板を見ることが少なくなったように思いますが、対策は抜けなくできているのでしょうね。今回のような個人的な犯罪による事故が発生してから、「想定外」だったということはないでしょうね。

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