今回は、
2019年3月17日(日)、米国テキサス州ハリス郡ディア・パーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった13基の貯蔵タンクの火災事故を紹介します。火災は6日間にわたり、大気汚染や海上汚濁の問題が続く最悪の事故になっています。
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(写真はMedia.graytvinc.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ハリス郡(Harris
County)ディア・パーク市(Deer Park)にあるインターコンチネンタル・ターミナル社(Intercontinental
Terminals Company)のタンク施設である。インターコンチネンタル・ターミナル社は日本の三井物産が所有する施設である。
■ 発災は、ヒューストン(Houston)都市圏にあるターミナル施設のタンク設備で起こった。ターミナル施設には合計242基のタンクがあり、石油化学製品の油やガス、燃料油、バンカー油、各種蒸留油を貯蔵しており、総容量は1,300万バレル(207万KL)である。
テキサス州ハリス郡ディア・パーク周辺
(写真はGoogleMapから引用)
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火災のあったタンク地区 (写真はGoogleMapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年3月17日(日)午前10時20分頃、容量80,000バレル(12,700KL)のTank80-8(ナフサ)で火災が起こった。ナフサ・タンク内には90%の油が入っていた。
■ 周辺地区には空気中に濃い黒煙が漂った。地方自治体などは煙に毒性はなく、問題ないといっている。しかし、住民の中には、この発表を懐疑的に受け取った人もいる。孫のいる住民は、「子どもには外に出ないように言っている」と語った。
■ 火災が起こったとき、インターコンチネンタル・ターミナルの現場には約30名の従業員がいたが、けが人は出なかった。
■ 発災に伴い、消防隊が出動し、火災への対応を行った。午後3時頃、火災が拡大しないよう、防御的消火戦略をとった。しかし、午後7時に、火災は2基目のTank80-5(キシレン)へ延焼した。
消火用水の水圧が一時低下し、消防活動を妨げ、さらに2基のタンクが爆発的に燃焼して、火災は夜通し激しく燃えた。その後、水圧の低下は復旧した。
■ パサデナ・フリーウェイ225号線がベルトウェイ8号線からインディペンデンス・パークウェイまでの間で交通規制が行われ、上下線の両方が閉鎖された。また、ディア・パーク市は住民のために避難所を開設した。避難指示は出されていないが、住民には室内に留まることが推奨された。
■ 3月17日(日)の発災直後から大気の監視が行われ、健康に影響が出る状態では無かった。しかし、避難して帰ってきた住民のひとりは、近所の屋根の上に煙が立ち昇るのを見たが、目と喉にかゆみを感じたという。
■ ハリス郡は、3月17日(日)午後にインターコンチネンタル・ターミナル社に対して地方自治体として必要な物資を支援する旨申し出た。同社は発災のあった日に地方自治体の支援を求めなかったという。
■ 3月18日(月)午前1時30分時点、火災は隣接していた5基のタンクへ拡大した。新しく火災になったタンクの内液はガソリン用のブレンド油と潤滑油のベースオイルだった。消防活動はインターコンチネンタル・ターミナル社の消防隊が第一線で作業を行ったおり、泡を用いて火災を制御し、さらに火災が広がらないよう、防御的消火戦略がとられた。
■ 3月18日(月)午前5時30分時点で、タンク火災は8基に広がった。爆発する危険性は少ないが、インターコンチネンタル・ターミナル社の消防隊は、チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(Channel
Industries Mutual Aid;CIMA、チャンネル産業協同組合)の支援を受け、泡消防車と高所泡放水車を用いて火災を制御し、さらなる火災の拡大がないよう消防活動が続けられた。CIMAは、ヒューストン圏内の石油精製・石油化学業界において消防業務および危険物取扱いを専門とする非営利団体である。
■ 3月18日(月)午前6時、ディア・パーク市は発災現場の近くにある学校の休校を決めた。
■ ヒューストンには、9つの製油所があり、1日当たり230万バレルの原油を処理しており、これは米国国内の12%を占める。この火災による製油所や港の出荷に影響は出ていない。
■ 3月18日(月)の早朝に近くの住民に対して避難勧告が出ていたが、その日のうちに解除された。しかし、屋内に留まるよう推奨された。テキサス環境保全委員会は、月曜昼の時点で、ただちに健康被害にかかわる汚染物質は出ていないと発表した。高度での排出量を監視するため、特別な航空機が飛ばされた。
■ 3月18日(月)午前10時時点で、火災になったTank80-8(ナフサ)の内液を減らすために、ポンプで別なタンクへの移送を始めた。また、火災のタンクは7基になったが、1基は空のタンクである。この時点で、火災を封じ込めることができず、あと2日間燃え続けるという予測であった。燃えている6基のタンクは同じ防油堤内にあり、この防油堤には計15基の貯蔵タンクが設置されている。消防隊は、これ以上火災が広がらないように消防活動を続けた。
■ 3月18日(月)大気排出物試験によって、施設から6マイル(9.6km)離れた場所で揮発性有機化合物が存在することが分かった。その濃度レベルは危険域を下回っているという。住民は屋内に留まり、ドアと窓を閉め、空調は止めるように推奨された。
■ 3月18日(月)午後3時時点で、消防隊が直面している火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、
Tank80-8(ナフサ)、Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基である。
■ 3月18日(月)の午後、火災から発生した煙は4,000フィート(1,200m)の高さに昇った。空気は比較的乾燥して澄んだ状態だったので、地上での汚染粒子は消散した形になった。しかし、ハリス郡当局は、空気が冷えて重くなるにつれて、煙は一晩で約400フィート(120m)の高さに落ちてくる可能性があるとみている。これは住民の健康に影響を与える恐れがあるという。
■ 3月18日(月)夜、インターコンチネンタル・ターミナル社から委託を受けた環境計測専門会社CTEHから測定場所や風向などとともに大気測定データが公表された。健康被害のある危険なレベルには無かった。
■ 3月18日(月)、現場に消火水を供給していた消防艇の水ポンプ2台が故障し、午後4時から10時までの6時間、水源が途切れたため、火炎が強まった。
■ 3月18日(月)夜、追加の泡薬剤が手配され、3月19日(火)午前10時に到着した。
■ 3月19日(火)早朝、インターコンチネンタル・ターミナル社から派遣要請されていたタンク火災の経験豊富な消防士15名が現場に到着した。派遣されたのはルイジアナ州の専門消防士のチームで、大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送してきた。
■ 3月19日(火)午前10時時点の火災のタンクは計8基だった。従来のTank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、
Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基に加え、ほかにTank80-9とTank80-12の空タンクも火に包まれた。このうち、空のTank80-9(空タンク)とTank80-11(潤滑油ベースオイル)は火災の熱で崩壊した。
早朝にTank80-14とTank80-15(いずれも熱分解ガソリン)の2基が火災という情報があったが、当時、火は出ていなかった。
■ 3月19日(火)午後3時45分時点で火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-4(潤滑油ブレンドオイル)、
Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、
Tank80-7(熱分解ガソリン)、Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ブレンドオイル)の8基で、火に包まれているのがTank80-9とTank80-12の空タンクである。なお、同じ防油堤内にあるTank80-1(潤滑油ベースオイル)とTank80-10(熱分解ガソリン)は火災を免れている。
■ 消火活動に参加しているチャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(CIMA)は、3月19日(火)に防御的戦略から積極的戦略へ移行し、Tank80-7(熱分解ガソリン)とTank80-8(ナフサ)に攻撃を開始した。CIMAは、火災がタンクの配置されている施設の区画外に広がるとは思っていないと語った。
■ 3月19日(火)、はっきりと火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)の4基だった。
■ 消防隊は、10,000~20,000ガロン/分(37,800~75,700
L/min)の消火泡をタンク施設へ放出した。タンク周辺から流れ出てくる油や消火泡は高さ6フィート(1.8m)の防油堤内に封じ込めようとした。しかし、油と水の一部が現場から出て、近くの水路と港に流出した。このため、漏れ出た液を回収するため、オイルフェンスが展張された。。
■ 3月19日(火)時点で大気の環境監視はテキサス環境保全委員会、米国環境保護庁、ハリス郡、インターコンチネンタル・ターミナル社の4つの組織がそれぞれ行っていた。モニタリング結果では、空気に毒性物質は無く、住民の健康に危険な状態ではないという。
黒煙の流れの足跡(3月19日)
(写真はTwitter.comから引用)
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■ 3月19日(火)夜、新たにTank80-14(熱分解ガソリン)が火災になった。熱分解ガソリンはエチレンとプロピレン製造時の副産物で芳香族の高いナフサ留分である。午後9時45分時点での火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-14(熱分解ガソリン)の4基だった。以前に燃えていたタンクの消火ができたため、燃えているタンクへ集中して泡薬剤による泡放射が可能となった。
■ 3月20日(水)午前3時頃、すべてのタンク火災が消えた。しかし、現場では、蒸気と煙が目でわかるくらいに立ち昇っており、再引火の可能性があるため、消防隊は泡と水による冷却作業を続けた。
■ 発災状況の動画が各メディアなどから流されている。主なユーチューブの動画を紹介する。
● 「Emergencycrews continue to fight massive fire near Deer Park」 (KHOU11、2019/3/17)
● 「 ITC Fire Deer Park: 7 tanks onfire」 (ABC13Houston、2019/3/18)
● 「LIVE:ITC FIRE UPDATE」 (ABC13Houston、2019/3/19)
● 「KHOU 11 Top Headlines at 10 p.m.March 20, 2019」 (KHOU11、2019/3/20)
● 「Raw video: ITC fire reignites inDeer Park」 (KHOU11、2019/3/20)
● 「WATCH LIVE: ITC Deer Park tanks onfire again」(KHOU11、2019/3/22)
(写真はYoutube.comから引用)
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(写真はNbcdfw.comから引用)
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(写真はNbcdfw.comから引用)
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(写真はYoutube.comから引用)
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(写真はAbc.comから引用)
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(写真はYoutube.comから引用)
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(写真はYoutube.comから引用)
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(写真はFox10phoenix.comから引用)
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(写真はFiredirect.net.jpgから引用)
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(写真はYoutube.comから引用)
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(写真はYoutube.comから引用)
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大容量と思われる泡放射 (写真はYoutube.comから引用)
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被 害
■ 13基の貯蔵タンクが火災で焼損した。内液の石油が焼失(量は不詳)したほか、防油堤や配管が損傷した。発災時や消防活動によるけが人は無かった。
■ ベンゼンなどの大気放出で1,000名以上の住民に健康被害が出た。
■ 油や消火泡が港湾(水路)に流出し、海水の水質汚濁が出た。油まみれの鳥魚やカメの死体が浮かんだりした。
< 事故の原因 >
■ 事故の詳細要因は調査中である。
Tank80-7(ナフサ)と配管マニホールド付近
(写真はGoogleMapから引用)
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■ ナフサ・タンクの配管マニホールドで油漏洩が起こった。この漏れた油に引火し、配管マニホールド内で火災となり、続いてナフサ・タンクが火災となり、隣接するタンクに延焼していったとみられる。
■ 3月20日(水)、タンクが過熱し、安全弁が機能しなかった際に火災が始まったという情報が一部のメディアから報じられている。
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対 応 >
■ 火災が消えた3月20日(水)の午後、タンク施設から煙が上がっているのが見えた。Tank80-5(キシレン)で覆っていた泡が切れたため、まだタンクの熱い金属部によって再引火したものだった。この火災は約30秒で消えた。
3月20日の再引火 (写真はYoutube.comから引用)
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■ 3月20日(水)の夜、風向きが変わり、ベンゼンを含む熱分解ガソリンのTank80-14(熱分解ガソリン)を覆っていた泡が移動した。このため、ベーパーが大気へ放出され、住民に避難勧告が出た。インターコンチネンタル・ターミナル社は熱分解ガソリンを別なタンクへ移送する計画だという。
■ 3月21日(木)の午前6時20分、火災は消えたがベンゼン濃度が上昇しており、火災の影響が終わっていないことが明らかになった。施設の東側境界線でベンゼン濃度が検出されたので、午前6時55分、この地区の避難勧告が出された。
米国環境保護庁はすべてクリアしていると語っていた一方、テキサス環境保全委員会は若干の問題があることを認めた。3月20日(水)午後1時、大気の状況は「健全とはいえない」としていた。7時間後には数値が減少し、改善傾向にあるとしていた。
■ 問題のタンクは最後に火災になったタンクのひとつで、通常は浮き屋根で保護されているが、火災によって屋根が損傷し、代替として泡で覆っていた。風が変わったとき、Tank80-14(熱分解ガソリン)には20,000バレル(3,180KL)弱の油が入っていたが、その後、別なタンクへ移送を始めた。この作業は8~10時間かかる見込みであるという。
■ 避難勧告が出されている間、家の中にベーパーが侵入してこないよう、住民はエアコンを切り、ドアの下にタオルを詰めるよう言われた。大気の状況が改善したため、3月21日(木)午前11時40分に避難勧告は解除された。また、パサデナ・フリーウェイ225号線がベルトウェイ8号線からテキサス146号線までの間で閉鎖されていた交通規制は午後1時11分に再開された。状況は刻々と変わっていた。
■ 3月22日(金)の朝、Tank80-7(熱分解ガソリン)の内液を別な容器への移送が始められた。しかし、午後12時15分頃、
タンク施設の周囲にある防油堤の一部が壊れたため、その対処が終わるまで、Tank80-7(熱分解ガソリン)の移送は中断された。
■ 3月22日(金)午後3時45分頃、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)が再引火し、状況が激しくなった。火災は防油堤から漏れ出た液が広がっていった。新たに発生した火災に対して、ただちに水と泡を放射し始め、発災から約1時間後の午後4時45分頃に消された。防油堤の壊れた原因は分かっていない。漏れ出した液は火災で燃えたタンクの内液と消火で使った泡と水の混合液だった。その後、堤の修復部分を補強するとともに、ほかの防油堤についても調査が実施された。
(写真はYoutube.comから引用)
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■ 3月23日(土)午後3時30分に中断していたTank80-7(熱分解ガソリン)の内液を、水中ポンプを使って流速1,300バレル/時(206KL/h)で別な容器への移送が始められた。また、構内の排水溝に溜まった液をバキューム車で汲み上げる作業が始められた。
■ 再引火の恐れがあるため、発災地区のまわりに追加の大容量の消火泡ポンプが設置され、泡による覆いが切れた場合、すぐに泡を供給できるようにした。
■ 3月23日夜~24日朝にかけて夜を通してTank80-7(熱分解ガソリン)の内液移送が続けられた。3月24日(日)午前2時時点で、12,647バレル(2,010KL)を移送した。移送速度は最高で1,700バレル/時(270KL/h)だった。タンク内には約20,000バレル(3,180KL)あったと推定され、あと残りの液回収が続けて行われる。
タンクには固定屋根と内部に浮き屋根が付いており、浮き屋根上の油はすべて回収できた。この結果、タンクは安定した位置にあり、泡を張り込みながら残りの液を回収する予定だという。今後24時間で、タンク施設内のすべての油を系統的に回収し、きれいにして地元の心配がないようにするという。
■ 3月24日(日)、発災タンク近くの溝からバキューム車で回収された液は、午前6時30分時点で650バレル(103KL)だった。構内の排水溝に溜まった液の回収は2,080バレル(330KL)だった。
■ タンク施設の2次防止堤エリア内の液レベルは、3月23日(土)朝の時点で2フィート(60cm)だったのが、3月24日(日)朝には2インチ(5cm)に低下した。
■ ベンゼン成分を放出した熱分解ガソリン・タンクの近くの北側に設置されていた2次防止堤の一部が損壊していたことが分かった。これを受けて、この近くの住民に避難するよう促された。また、ヒューストン港の一部が閉鎖された。
■ 米国沿岸警備隊は、港湾内に流出した油と泡を封じ込めるのため、オイルフェンスの展張強化を行った。海へ流れ出た液による影響は約2マイル(3.2km)にわたるエリアであったが、大半は封じ込めができた。3月23日(土)は8,500フィート(2,590m)のオイルフェンスを展張したが、場所によっては2重、3重にする必要があり、
3月24日(日)は27,000フィート(8,230m)を展張した。
■ 3月24日(日)、インターコンチネンタル・ターミナル社は、作業目標を各タンクからの油除去、構内の排水溝の修復、港湾の機能回復の3つに焦点を当てたが、けが人を出すこともなく、3つの目標を順調に達成しつつあると語っている。特に、Tank80-7(熱分解ガソリン)から追加の油抜出しが実施されつつある。Tank80-14(熱分解ガソリン)の油が移送され、タンクは空となって安全な状態である。また、Tank80-10(熱分解ガソリン)の油は移送中で、もうすぐ空になる予定だという。つぎの油移送はTank80-13(熱分解ガソリン)が予定されている。なお、事故が始まって以来、構内の排水溝の修復も続けられている。
■ 3月26日(火)、Tank80-7(熱分解ガソリン)とTank80-14(熱分解ガソリン)は空になり、安全な状態になった。つぎに、Tank80-10(熱分解ガソリン)の油移送を実施中で、これが終われば、Tank80-13(熱分解ガソリン)を空にする作業が始められる予定である。
■ 3月26日(火)、火災になったタンク施設は少なくとも2フィート(60cm)の泡を保持する必要があり、消火泡を供給している。また、バキューム車とホースを使用して、排水溝からの残った油(水との混合液)を抜き出している。この混合液はTank100-28へ移されている。
■ 3月26日(火)午前6時45分時点、タンク施設からの水の混じった油と消火泡の回収量は約33,394バレル(5,300KL)である。港湾(水路)からの油と水の混合液の回収量は約12,897バレル(2,050KL)である。
■ 3月26日(火)、テキサス州は環境汚染防止違反に当たるとし、数日間の火災の災害による化学物質の大気中への放出や水路への流出の対応費用に関する損害賠償をインターコンチネンタル・ターミナル社求めた。例えば、米国環境庁によると、地元、州、政府機関は請負者を含めて1,100人以上が発災現場や水路で作業している。
■ ハリス郡公衆衛生局によれば、発災のあった週に1,000人以上の人が郡の診療所を訪れた。その多くは、呼吸器の問題、頭痛、肌の刺激、吐き気に関連したものだったという。この地域の大気モニタリングでは、先週、ベンゼン濃度が急に高くなった。これらの数値は長期的な健康への影響を引き起こすほど高いものでなかったが、空気質の監視は継続するという。
■ 3月27日(水)、熱分解ガソリンの入ったタンクの油移送は完了した。現時点では、排水溝や水源を含めたタンク施設全体の修復作業を継続している。
■ 3月27日(水)午前6時時点、タンク施設からの水の混じった油と消火泡の回収量は約35,724バレル(5,680KL)である。港湾(水路)からの油と水の混合液の回収量は約28,528バレル(4,500KL)である。
(写真はChron.comから引用)
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(写真はFox10phoenix.comから引用)
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壊れた防油堤 (写真はYoutube.comから引用)
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3月20日の湾内(水路)の状況
(写真はItcreponse.comから引用)
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(写真はChron.comから引用)
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(写真は、左:Icis.com、右:
Itcresponse.com から引用)
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補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、メキシコと国境を接し、人口約2,510万人の州である。テキサス州はスピンドルトップで原油が発見されて以来、石油が州内の政治と経済を牽引する存在になってきた。テキサス州一人当たりエネルギー消費量および全消費量で国内最大である。従来、メキシコ湾の海底油田が主であったが、
21世紀に入るとシェールオイル採掘の技術が進歩し、内陸部を中心に石油生産量が増加した。
「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約465万人の郡である。
「ディア・パーク」(Deer
Park)は、ハリス郡の南東にあり、人口約32,000人の市である。
ハリス郡のヒューストン、ディアパークの周辺
(図はGoogleMapから引用)
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■ 「インターコンチネンタル・ターミナル社」(Intercontinental
Terminals Company)は、1972年にMitsui&Company(USA) Inc.によって設立された石油ターミナル会社で、日本の商社である三井物産の子会社である。ディア・パーク市の施設には約270人が働いているが、役員を含めて従業員は米国人である。
ディア・パーク施設は242基のタンクで総容量は1,300万バレル(207万KL)である。タンクの大きさは1,200~25,000KL級である。最長182mの船が着桟できる桟橋など5つのタンカー・バースがある。
三井物産はテキサス州にいくつかの会社を保有しており、石油・ガス投資会社のMEPテキサスホールディング、メタノール製造施設のMMTX社、飼料添加物製造工場のノーバス・インターナショナル社などである。
インターコンチネンタル・ターミナル社のディアパーク施設 (矢印が発災地区)
(写真はIterm.comから引用)
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■ 最初に発災したナフサ・タンクは内部浮き屋根式で、容量が80,000バレル(12,700KL)である。グーグルマップによると、直径は約33mであり、高さは約15mとなる。今回の発災したタンク地区には15基の貯蔵タンクがあり、同じ防油堤内にある。15基の貯蔵タンクはいずれも同じ大きさで、内部浮き屋根式とみられる。油種はナフサ、ガソリン・ブレンド、キシレン、熱分解ガソリン、潤滑油ベースオイルといろいろあるが、内部浮き屋根を必要とする油を対象にしたタンク地区だと思われる。このタンク地区のタンク間距離は、グーグルマップによると約11mで、タンク直径の1/3であり、仕切り堤はない。
■ 「チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド」(Channel
Industries Mutual Aid;CIMA、チャンネル産業協同組合)は、ヒューストン圏内の精製・石油化学業界において消防業務および危険物取扱いを専門とする非営利団体である。1955年にヒューストン船水路産業災害援助組織として設立され、自然災害から産業事故に至るあらゆる種類の緊急事態に協力的な支援と専門知識を提供している。
なお、ディア・パーク市消防署はボランティア型の消防署である。また、途中からインターコンチネンタル・ターミナル社に要請され、派遣されてきたルイジアナ州の専門消防士のチーム(タンク火災の経験豊富な消防士15名)は大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送してきた。このチームの組織は明らかにされていないが、ルイジアナ州で消防活動の相互応援を牽引している“ハイアード・ガン・ギャング” のグループだと思われる。このグループについては、つぎのブログを参照。
● 「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」 (2016年3月)
チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(CIMA )の装備や訓練風景
(写真はCimatexas.orgから引用)
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所 感
■ 今回のタンク火災の消火活動は、つぎのように極めて難しい条件にあった。
● タンク地区の同じ防油堤内に多く(15基)の貯蔵タンクがあった。
● 発災タンクが15基の真ん中であり、消火活動の最も困難な位置だった。
● 最初の発災がナフサの防油堤内火災だった。堤内には仕切り堤が無く、油が堤内に広がる恐れがあった。
● タンク型式が内部浮き屋根式タンクで、固定屋根が覆われたまま、火災になり、消火方法が難しかった。
● タンク油種がナフサのほか、ガソリンブレンド、キシレン、熱分解ガソリンと危険性の高いものが多かった。
● タンク間距離が直径の約1/3(11m)と狭く、延焼しやすかった。
● タンクに固定泡消火設備や散水配管は無かったものと思われ、移動式の泡消火設備や散水ノズルに頼らざるを得なかった。
■ さらに、緊急事態の対応組織に問題があったように思う。
● 発災日が日曜であり、発災事業所の緊急事態対応の体制が整っていなかったと思われる。
● 発災事業所の消防隊は、CIMAという消防協同組合組織であり、プラント内の設備や油種に熟知していなかったのではないか。
● 市の公設消防はボランティア型消防署であり、プラントの火災は発災事業所に頼らざるを得ないと思われる。このように主導する緊急事態対応の長が曖昧であったと思われる。
● 初期のタンク火災戦略ついて防御的戦略をとってしまった。
● 大容量の泡消火砲を保有していたものと思われるが、有効に活用できなかった。
■ このタンク火災の経緯や消火活動の詳細が明らかにされ、教訓として広く知らしめるべきだと思う。
ここでは、現在の情報からとるべきだった初期の消火戦略・戦術を考えてみた。
● 発災が配管マニホールド漏れによる防油堤内火災であり、まず配管からの漏れを最小限に抑える。(関連配管のバルブを閉めるなど)
● 防油堤内に仕切り堤がないので、漏洩の油が止められない状態であれば、堤内に広がることを念頭に置いておく。(散水によって水が溜まれば、油は表面に浮き、堤内に広がる)
● 堤内火災に引き続き、タンク火災になれば、積極的消火戦略を指向し、大容量の泡放射砲と泡薬剤の確保(手配)を行う。必要な資機材が整うまで待つ。
● タンクへの延焼を防止しなければならないので、隣接タンクへの曝露対策(散水)を行う。曝露対策として冷却放水をしている場合、タンク側板部に水蒸気が出ている限り、冷却効果があると見て放水を継続する。散水量は、「タンク火災への備え」を参考にすれば、1基あたり3,780L/分である。今回の場合、内部浮き屋根式タンクであり、特に固定屋根の金属温度上昇に気を配る必要がある。(固定屋根の通気口付近で引火する恐れが高い)
● 隣接タンクへの散水によって配管から漏れた油が浮遊して遠い場所で引火する恐れがあるので、消火泡で覆う。高発泡の泡放射設備があれば、そちらを使用する。
● 大容量の泡放射砲と泡薬剤が揃った段階で、タンク上部に一斉に泡を放射する。通気口からの火炎の場合、一方向だけでは死角になる場所が出てくるので、2方向から放射する。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Firedirect.net, USA – ITC Plant – Naptha
Fire Spreads To Multiple Tanks,
March 18, 2019
・Jp.reuters.com,
Texas Petrochemical Storage Fire Rages, May Burn for Two Days, March
18, 2019
・Houstonpress.com, ITC Fire Extinguished Early Wednesday
Morning, School Closures Continue,
March 20, 2019
・Houstonpress.com,
ITC Plant Fire Spreads Overnight,
March 19, 2019
・Houstonpress.com, Benzene Levels From ITC Worsen
Overnight. Shelter In Place Issued For Deer Park and Pasadena, March
21, 2019
・Houstonpress.com, ITC Transitions Into Clean Up, EPA
Reassures Still No Hazardous Levels,
March 21, 2019
・Houstonpress.com, Critical Hours Ahead as ITC
Attempts to Remove Last Barrels of Benzene From Tank , March
22, 2019
・Houstonpress.com, ITC Reports Breach Cause Unknown, New
Fire is Out, Pumping Suspended,
March 23, 2019
・Bloomberg.com, Houston Officials Vow Public Is Safe as
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後 記: 今回の事故は、最近における最悪のタンク火災事故です。日本でも、テレビで報道されましたが、米国でもいろいろなメディアが報じています。長いタンク火災に続いて、大気汚染による住民への健康被害の問題があり、さらに漏れた油や消火泡による港湾の海上汚濁問題と災害の連鎖が引きずり、事故情報の報道は見きれないほどたくさんありました。
このブログの趣旨から、タンク火災の経過や消防活動の状況に関する内容を焦点を当てて調べました。しかし、刻々と変わる事故は期間が長く、いつの時点の話なのか分かりにくいものでした。特に、記事がアップデートしたものだと余計に混乱してしまいました。事故経過がはっきりしない中、ディア・パーク市が発災事業所の情報発表をインターネットで公表していることを知りました。この情報が役立ちましたが、感じたのは、発災事業所自身が事故や消火活動の状況を十分に把握できていないということでした。米国の緊急事態対応のマニュアルは官民問わず、形はキチンとできているように感じましたが、事故は後手後手の典型のような経緯をたどり、現場の実行力が伴っていないように感じました。世界の石油産業を牽引する米国テキサス州における実情を見たように思いました。
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