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2018年8月8日水曜日

多摩市の建設中のビルでウレタン製断熱材の火災、死傷者48名

 今回は、2018年7月26日(木)、東京都多摩市の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で起こった火災事故を紹介します。貯蔵タンクの事故ではありませんが、日本で起こった死傷者48名という大きな事故であり、取り上げました。
(写真はArtide.auone.jp から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、東京都多摩市唐木田の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で、三井不動産が100%出資する南多摩特定目的会社が発注し、安藤ハザマが施工していた。

■ 事故があったのは、地上3階、地下3階建ての工事中の建物(建築面積5,360㎡)で、工事は2016年10月に着工し、2018年10月に完成する予定だった。事故当時は内装工事を中心に作業しており、足場の解体や内装など、仕上げ工事に入りつつある段階だった。
事故のあった多摩市唐木田の多摩テクノロジービルディング(仮称)周辺 (矢印が発災場所)
(図はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年7月26日(木)午後1時45分頃、多摩市で建設中のオフィスビル(鉄骨造り、地上3階地下3階)の地下3階の床下から出火した。火災による黒煙が広範囲に立ち上り、周辺は騒然となった。

■ 事故発生の通報を午後1時52分に受けた東京消防庁は、ただちに現場へ出動した。

■ 黒煙が白昼の住宅街を包み込んでいた。昔ながらの平屋がならび、公園で子どもたちが遊んでいた閑静な住宅街を通り抜けた先に、サイレンを回した消防車や救急車が多数立ち並んでいた。緊急車両は、防音シートがところどころ破け、煤けた建物を取り囲んでいた。現場近くの道路は規制線が張られ、交差点では複数の警官が車を誘導する姿も見えるなど、物々しい雰囲気に包まれていた。

■ 現場では当時、約320人の作業員が働いていたが、逃げ遅れた男性作業員5人が煙を吸うなどして死亡した。負傷者は気道熱傷など43人にのぼり、このうち約24人は症状が重いという。死亡した5人は屋上で1人、地下3階で2人、地下3階の下の免震階で2人が発見された。亡くなった作業員は全員男性で、年齢は52歳、51歳、49歳、44歳で、一名は60歳代である。

■ 地下で配線作業をしていた男性は「火事を伝える大声に気づいて階段を駆け上がったが、煙で何も見えない状態で、どこから外に出たらいいか分からなかった」と声を震わせた。火が燃え始めるところを目撃した男性は「はじけるような音がして、炎が見えたが、すぐに灰色の煙が一直線に上がった」と振り返った。

■ 警視庁などによると、作業員2人が地下3階でガスバーナーを使い、鉄骨(金属製のくい)を切断していたところ、地下3階の下の免震階の天井部分に貼られたウレタン製の断熱材に火花が飛んで、出火したとみられる。ひとりが切断、もうひとりが火花を水で消す役割だったという。火がついた後、作業員は消火器を使うなどして消火を試みたが、火の回りが早く、瞬く間に燃え広がったという。

■ 東京消防庁によると、この火災で約70台の消防車や救急車が出動。延べ床面積約17,656㎡のうち約5,000㎡が燃え、約6時間後の午後7時40分に火災を鎮圧した。正式な鎮火時間は午後10時38分だった。

■ 5人が死亡した建設現場では、建物内で出火直後に停電が起きていたことが分かった。現場の地下3階では、出火直後に作業リーダーが「火事だ」と、トランシーバーで別な作業員に連絡した。多くの作業員が避難を始めたが、直後に停電して照明が消えたという。黒煙が充満し、作業員の避難の遅れにつながった可能性がある。警視庁は、工事用の電源ケーブルが焼けて断線したのではないかとみている。

被 害
■ 人的被害として死者5名、負傷者43名(重症13 名、中等症11 名、軽症14 名ほか)が発生した。

■ 物的被害は分かっていない。 

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。
 安藤ハザマは、「地下3階にて鉄骨のガスバーナーによる溶断作業中に、何らかの原因で火が付近の可燃物に移り、急速に延焼したもの」とみている。
(写真はArtide.auone.jp.から引用)
(写真はBrandnews-s.comから引用)
< 対 応 >
■ 東京消防庁から出動した車両は、消防車両74 台、消防防災ヘリコプター3機だった。

■ 警視庁は業務上過失致死傷容疑で捜査を始めた。7月27日(金)午前、捜査員ら数十人が現場に入った。

(図はTokyo-np.co.jpから引用)
■ バーナーの作業は、通常、火花がウレタン製の断熱材に触れないよう引火防止シートを使う。警視庁は、作業員が出火当時、工事手順に問題がなかったか調べている。27日(金)の捜査によって、地下3階の床に隙間があったことが分かった。ガスバーナーの火花が隙間から落ち、地下3階の下の免震階の天井部分にあるウレタン製の断熱材(厚さ15mm)に引火したとみられる。地下3階ではアセチレンガスのバーナー作業が二人一組で行われ、ひとりが鉄骨を切断、ひとりがコップの水をかけ、飛び散った火花を消す役割だった。床には、柱を囲むようにベニヤ板を敷き、さらに不燃シートをかぶせていた。免震階でも、作業リーダーがウレタン製の断熱材に引火しないよう警戒していた。

■ 7月27日(金)、施工した安藤ハザマの社長が記者会見し、謝罪した。記者会見の中で、昨年、別の現場で、同じ原因とみられる火災を起こしていたことを明らかにした。同社は、現場で火を使う際、周囲を不燃シートで覆ったり、初期消火用にバケツの水を用意したりするなど、六つのルールを定めていたという。社員や下請け業者を含めて現場での朝礼などで周知し、下請け業者が変わる際には説明の場を設けていたという。同社は、「過去の件にも触れて火災の怖さを伝えていたが、こういう結果になってしまった」と謝罪した。

■ 7月27日(金)、日経コンピュータは、建設中で火災になった「多摩テクノロジービルディング(仮称)」のオフィスビルが、米国アマゾン・ウェブ・サービスのクラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)向けのデータセンターである可能性が高いと報じている。

■ 建設工事中の建物では、スプリンクラーなどの消火設備が未整備な上、資材がむき出しの部分もあり、火災のリスクは高いとされる。東京消防庁管内では、2007年~2016年の過去10年間、工事現場の火災件数は年間80~130件程度で推移している。2016年に発生した82件のうち、ガスバーナーなどを使用した溶接・溶断作業中の火災が26件で最多だった。

(図はSankei.comから引用)
■ 火元が地下の最下層だったことも、被害を急速に拡大させた一因とみられる。閉鎖的な地下では煙や熱がこもりやすい。近畿大工学部の難波義郎教授(建築防火)によると、階段などを通じて煙が3~5m/s程度で上昇するといい、今回のケースについて「地下に充満した煙が最上階まで一気に到達した可能性がある」とみる。高温の黒煙が充満した地下では、消防隊員の救助活動も難しくなる。死者の5人のうち、最後のひとりが見つかったのは免震階付近で、搬送されたのは出火から数時間後だった。

■ 業界団体のガイドラインでは、ウレタンなど燃えやすい資材の近くでは、原則火気厳禁としている。やむを得ず作業する場合は、防火シートで周囲を覆うなどの措置を求めている。安藤ハザマは7月27日(金)の会見で、「(火花が出る鉄骨の)切断作業が終わった後に、断熱材を設置する手順もある」と説明している。今回の現場でウレタン設置後に火気を伴う作業を行った経緯について、作業員らから聴き取るとした。
近畿大難波教授は、「手順を守っていれば、通常ではありえない火災である。ハード・ソフトの両面で複合的な原因を検証していく必要がある」と指摘する。

■ 石油素材のウレタンにいったん火が付くと、一気に燃え広がる「爆燃」と呼ばれる現象が発生する。急な延焼で逃げ遅れの死者が出た火災は過去にもあり、業界団体などは安全管理の徹底を改めて呼びかけている。

■ 7月27日(金)、総務省消防庁予防課は、類似の火災による被害の発生を防止するため、 「新築の工事中の建築物の防火対策に係る注意喚起等について」という通達を出し、同様の建築物に対し、個々の施設の態様に応じて防火対策に係る注意喚起を行うよう指導した。

■ 7月27日(金)、厚生労働省労働基準局は、類似の火災による労働災害の発生を防止するため、「建設現場における火災による労働災害防止について」という通達を出した。

■ 7月30日(月)、多摩市長は「唐木田で発生した火災に関する多摩市長コメント」と題して、「二度とこのような惨事が起こらないことを切に願う」旨のコメントを同市のウェブサイトに載せた。この中で、「東京消防庁、多摩市消防団、医療関係者をはじめ、応援に駆けつけてくださった町田市消防団など、現場で救助・消火活動等にあたられた全ての皆さまに、あらためて感謝する」と述べている。
(写真はArtide.auone.jpから引用)
(写真はResuponsu240.comから引用)
(写真はnews.jorudan.co.jpから引用)
(写真はToyokeizai.netから引用)
(写真はNikkei.comから引用)
(写真はTokyo-np.co.jpから引用)
補 足 
■ 「多摩市」は、東京都23区外の多摩地域南部にあり、人口約147,000万人の市である。
            東京都多摩市の位置   (図はIhin.freshman-s.com から引用)
■ 「安藤ハザマ」は、正式には㈱安藤・間(Hazama Ando Corp.)で、東京都港区に本社をおく大手建設会社である。安藤建設と間組(はざま・ぐみ)が合併してできた会社で、両社は対等な精神に基づく吸収合併の方式による合併(存続会社は間組)により、2013年に新会社としてスタートし、社名はそれぞれの旧社名をとり「安藤・間」(呼称は「安藤ハザマ」)となった。従業員は約3,500名である。

所 感
■ 今回の事例は、貯蔵タンク関連ではないが、火災直後のニュース映像で猛烈な煙を見て、これは石油タンクの火災と同じという気がして、調べることとした。やはり、燃えたのは、断熱材に使用されていた石油系のウレタンだった。以前、断熱材としては石綿(アスベスト)が使用されていたが、肺がんを起こす恐れから使用が禁止され、現在は、繊維系断熱材のグラスウールやロックウールなどに代わり、さらに発泡プラスチック系断熱材が使用されるようになった。
 最近では、施工性の容易さから発泡プラスチック系断熱材が多く使用される。繊維系断熱材のグラスウールやロックウールは、ガラスを主原料としているため、燃えにくい特性がある。一方、例えば、ポリウレタンは、軽く、断熱性が高く、様々な形状で加工できるといった特徴から建材として幅広く使用されるようになったが、燃えやすいという弱点がある。また、火災時、猛烈な発煙や有毒ガスを発生する。今回は、このウレタンフォームの燃えるという弱点(欠点)が前面に出てしまった事例だといえよう。不燃性(難燃性)でない断熱材の使用が果たして適切なのだろうかという疑問をもつ。

■ 事故を防ぐためには、つぎの3つの要素が重要である。この3つがいずれも行われなかった場合、事故が起こる。
 ① ルールを正しく守る
 ② 危険予知活動を活発に行う
 ③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
 今回の事故では、「ルールを正しく守る」という点において問題がありそうである。「ルールを守る」ことは行われていたかもしれない(法的に許されている不燃性でない断熱材の使用という点を含め)が、そのルールができた背景を知って「正しく」守ったか疑問がある。
 これと通じるが、作業員がウレタンの燃焼実験を見ておれば(ウレタンの危険性の本当の認識)、「危険予知活動」は違ったものになっただろう。自分たちの工事では、火災は起きないだろうという「正常性バイアス」が働いていたものだと感じる。「危険予知活動を活発に行う」は、この「正常性バイアス」を取り除いておこなわなければならない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Mainichi.jp,  火災建設現場、5人死亡 作業員40人けが 東京・多摩,  July  27,  2018
    ・Nikkei.com, 多摩市の建設現場で火災 5人死亡、30人重症 ,  July  26,  2018
    ・Asahi.com, 東京・多摩の建築現場で火災 5人死亡、約25人が重傷,  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 建設現場火災で5人死亡、東京 約40人けが警視庁捜査,  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 多摩5人死亡火災 出火直後に停電 逃げ遅れ影響か,  July  26,  2018
    ・Ad-hzm.co.jp, 弊社の工事現場での火災発生に関するお知らせ(第1報),  July  26,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, B3階、床の隙間から火花落下か 東京・多摩市のビル建設現場火災,  July  27,  2018
    ・Tokyo-np.co.jp, 多摩5人死亡火災 床隙間から火花落下か ウレタン引火の可能性,  July  28,  2018
    ・Sankei.com , 東京・多摩のビル建設現場火災、悪条件重なり被害拡大か 作業工程に疑問も,  July  27,  2018
    ・Asahi.com, 断熱材引火、昨年に別現場でも ビル火災の安藤ハザマ,  July  27,  2018
    ・Ad-hzm.co.jp, 弊社の工事現場での火災発生について,  July  27,  2018
    ・Fdma.go.jp , 東京都多摩市における工事中の建物火災(第5報),  July  27,  2018
    ・Fdma.go.jp , 建設現場における火災による労働災害防止に係る 厚生労働省の通知等について(情報提供),  July  27,  2018
    ・Mhlw.go.jp, 建設現場における火災による労働災害防止について,  July  27,  2018
    ・Nikkei.com, 多摩のビル火災、アマゾンのデータセンターか ,  July  30,  2018
    ・Toyokeizai.net , 多摩市火災、建物は「データセンター」だった,  July  31,  2018
    ・Cafe-dc.com , 東京・多摩のビル建設現場火災でAWSのビルが炎上,  August  3,  2018
    ・Nikkei.com, ウレタン火災、「爆燃」で急延焼 業界団体が注意促す,  August  3,  2018


後 記: 今回の事故の状況はいろいろ報じられていますが、消防活動についてはあまり報道されていません。消防庁の情報でも、消防士の動員数を含めてほとんど言及されていません。人が建物内にいることが分かっており、救助と消火活動の進め方にタンク火災よりも難しい判断があったはずです。消火戦略の判断などいろいろと聞いてみたいところです。このことは、地方の消防署の第一線は感じているでしょう。今回は、建設工事中のビルということでしたが、すでに建設が終わった大量に発泡プラスチック系断熱材を使用したビルが火災になれば、今回と同じような状況になる可能性が高いといえます。



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