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2020年6月1日月曜日

マレーシアの製油所で原油タンクが落雷でリムシール火災

 今回は、 2020522日(金) 、マレーシアのヌグリ・スンビラン州ポート・ディクソンにあるヘンユアン製油所の原油貯蔵タンクで落雷によってリムシール火災が起こった事例を紹介します。

 (写真はCyber-rt.infoから引用)

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、マレーシア(Malaysia)ヌグリ・スンビラン州(Negeri Sembilan)のポート・ディクソン(Port Dickson)にあるヘンユアン製油所(Hengyuan Refinery)である。製油所の通油能力は156,000バレル/日である。


■ 事故があったのは、ヘンユアン製油所の貯蔵タンク地区にある原油貯蔵タンクである。貯蔵タンクは直径60m×高さ23mで、容量53,500KLである。  

                               ヘンユアン製油所(事故前)(矢印が発災タンク) (写真Rediff.comから引用)

                           ポート・ディクソンのヘンユアン製油所付近(矢印が発災タンク) (写真はGoogleMapから引用)

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020年5月22日(金)午後4時20分頃、原油貯蔵タンクで火災が起こった。


■ 目撃した人の話によると、火災は落雷をきっかけに発生したという。黒煙が立ち昇り、遠いところからも見えた。


■ 発災に伴い、消防隊が出動した。ポートディクソン消防署のほか、テルックケマン消防署とスレンバン消防署から消防士38名がハズマット隊(Hazmat)の隊員とともに現場に急行した。


■ 炎はタンク屋根と側板の間のシール部で上がっており、リムシール火災であることが分かった。

(写真はfreemalaysiatoday.comから引用)

 (写真はFocusmalaysia.myから引用)

■ ヘンユアン製油所によると、火災はひとつのタンク地区に限定されているという。


■ 事故に伴う負傷者は出なかった。


■ 製油所の稼働には、火災の影響は無かった。


■ インターネットには、ドローンで撮影した火災状況の動画が投稿されている。

 (Youtube 「PortDickson Hengyuan Refinery tangkisimpanan terbakar」を参照)


被 害

■ 浮き屋根式貯蔵タンク1基の屋根シール部が焼損した。このほかに損傷した部品があるとみられるが、詳細はわからない。


■ タンク内にあった原油が一部焼失した。燃えた油量はわからない。


■ 負傷者は出なかった。


< 事故の原因 >

■ 落雷によって浮き屋根シール部の原油ベーパーが着火したものとみられる。


< 対 応 >

■ ヘンユアン製油所の消防隊は25名だったが、近くのペトロン・ポート・ディクソン製油所(Petron Port Dickson Refinery)が相互応援協定にもとづき、消防士10名を派遣し、支援した。


■ 当初出動した消防士は38名だったが、その後増強され現場で活動した消防士は124名に及んだ。


■ 火災はおよそ10時間燃え、消火活動によって5月23日(土)午前1時52分に鎮火した。


■ ヘンユアン製油所は、消防署、警察、マレーシア労働安全衛生省およびその他の地方関係当局に対して、ヘンユアン製油所と協力して火災の消火活動への取り組みに対する深い感謝の意を表明した。

(写真はThestar.com.myから引用)

(写真はIndustrialfireworld.comから引用)

(写真はFocusmalaysia.my から引用)

補 足

■「マレーシア」 (Malaysia)は、中国地方に位置する人口約1,347,000人の県で、県庁所在地は山口市(人口約194,000人)で、最大の都市は下関市(人口約254,000人)である。

 「ヌグリ・スンビラン州」(Negeri Sembilan)は、マレー半島の西海岸に位置し、人口約110万人の州である。

 「ポート・ディクソン」(Port Dickson)は、ヌグリ・スンビラン州にあり、人口約12万人の市である。

マレーシアの位置と周辺国(図はI-socialdesign.comから引用)

■「ヘンユアン製油所」(Hengyuan Refinery)は、1960年に設立し、以前はシェル精製会社が所有していたが、2016年に中国の山東省にあるヘンユアン石油化工(Hengyuan Petrochemical Co; 中国では、山東恒源石油化工という)の子会社である。なお、製油所の通油能力は156,000バレル/日である。


■「発災タンク」の大きさはメディアによって異なるが、「直径60m×高さ23mで容量53,500KL」とした。この直径×高さの場合、 容量は65,000KLとなる。グーグルマップで特定した発災タンクは直径約55mであり、高さを23mとすれば、容量は約54,000KLとなる。映像で見ると、発災時の容量はほぼ満杯である。

                 発災タンク(中央下)  (図はGoogleMapから引用)

■「リムシール火災」は浮き屋根シール部だけの火災で、当ブログで紹介した事例は、つぎのとおりである。

 ● 2009年7月、「米国テキサス州で浮き屋根式タンクに落雷して火災(2009年)」

 ● 2018年8月、「テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災」


所 感

■ 今回のタンク火災について消防活動の詳細な状況は記事になっていないが、ドローンの映像を見て消火戦略・戦術について疑問点や留意事項を列記する。

 ● タンクには、固定泡消火設備が設置されているように見えるが、機能していない。機能しなかった理由は分からないが、タンクへの泡放出口や配管が有効であれば、消防車の泡混合設備を使って固定泡消火設備で消火を試みるべきである。

 ● タンクは防災道路に囲まれ、かつ風も穏やかで三方向から放水可能という好条件だった。消防車は3箇所に配置されているが、配置場所が最適とはいえない。また、配備直後のためか、泡放射や冷却放水は行っていない。

 ● 隣接タンクへの冷却を行うための消防車が1台配置され、この消防車は放水をしている。しかし、距離が遠いためか、タンクの下部に放水しており、有効ではなく、タンク側板頂部に向けるべきである。ただ、一般的には隣接タンクに常時、冷却水を放水する必要はない。タンク側板部に水蒸気が出ていれば、冷却する必要があると見て放水し、水蒸気が出ていない状態であれば、冷却の放水を停止する。タンク側板が再び熱せられた場合、冷却を再開する。


 ● 撮影は初期の状況だと思われるが、消防車(配備)が不足しており、近隣の消防隊の支援を要請しているのは適切である。

 ● 消防車の台数が増え、浮き屋根部に大量の消火水を注水すると、浮き屋根が沈降し、全面火災になるので、これを回避しなければならない。

 ● リムシール火災を消防車の泡放射ノズルで対応する場合、手前側の側板部によって死角ができる。


 ● 消火活動が長くなると、屋根シール部付近の側板が火災で熱せられ、一旦、消えた炎が再燃することがあり、タンク側板部に消火水をかけ、冷却する。

 ● これは推定であるが、消防車による消火活動はうまく行かず、最終的にはタンク階段部を確保し、水を噴霧して防護した上でタンク頂部から消防隊が手動の消火泡モニターノズルで火災部を消火したのではないだろうか。

 映像では大したことはないように思えるが、意外に長時間(今回の火災では10時間)を要す火災であることを示す事例である。

発災タンクへの消防車の配置状況、隣接タンクへの消防車の配置状況

(写真はYoutube.comから引用)

               隣接タンクへの放水、リムシール火災の状況  (写真はYoutube.comから引用)

■ タンクの被災映像によると、火災はタンク全周でなく、ところどころから火の手が上がっており、屋根シールはメカニカルシール(メタルシール)の可能性が高い。日本では、ウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。メカニカルシールは火花発生の可能性が指摘されているが、リムシール火災時には、火炎放出が限定される利点がある。フォーム・ログ・シール方式では、シール(ウレタン)がすぐに燃えてしまい、大きな全周のリムシール火災になる可能性があることを認識しておく必要がある。  


備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Tankstoragemag.com,  Fire at storage tank at Hengyuan Refinery, Malaysia,  May  26,  2020

    Industrialfireworld.com, Thunderstorm Ignites Storage Tank Seal Fire in Malaysia,  May  22,  2020

    Focusmalaysia.my, Fire at PD oil refinery, no injuries reported ,  May  22,  2020

    Focusmalaysia.my, Fire at Hengyuan Refining storage tank in Port Dickson put out,  May  23,  2020

    Hydrocarbonprocessing.com, Oil storage tank catches fire due to lightning at Hengyuan's Malaysian refinery,  May  22,  2020

    Reuters.com,  Oil storage tank catches fire due to lightning at Hengyuan's Malaysian refinery,  May  22,  2020

    Freemalaysiatoday.com, Oil tank at PD refinery catches fire,  May  22,  2020

    Bernama.com,  Fire at Hengyuan refining's storage tank in Port Dickson put out,  May  23,  2020

    English.astroawani.com, PD oil refinery fire has not affected supply – Nanta,  May  23,  2020

    Cyber-rt.info,  Lightning strike sparks PD oil refinery fire ,  May  23,  2020



後 記: 今回の事故で、もっとも火災状況を把握できたのがドローンによる映像です。日本における「ドローンによる貯蔵タンク内部検査の活用」(2020年4月22日)の「プラントにおけるドローン活用事例集」で浮き屋根式タンクの屋根の状態を早期に確認するための撮影の事例(実証実験)を紹介しましたが、その中で、安全対策として防爆エリアへの落下・侵入を回避するため、リスクアセスメントを実施し、離隔距離の考え方をとるため、死角が発生することが述べられていました。しかし、マレーシアのドローンはそんなことはお構いなしで、発災タンクの真上を飛んでいます。「サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名」(2016年5月)でも、発災タンクの真上を飛んでいるドローンの映像を紹介しましたが、今回のドローンの解像度は飛躍的によくなったと感じる事例です。おそらく、現場にいる非常事態対応の指揮所より把握できているでしょう。 







2020年5月27日水曜日

東ソー南陽事業所の電解プラントのタンクでボヤ


 今回は、 2020523日(土) 、山口県周南市にある東ソー南陽事業所の電解プラントで工業塩と水を混ぜるタンクが空の状況下でボヤが発生した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、山口県周南市開成町にある東ソー南陽事業所の電解プラントである。

■ 事故は電解プラントにある直径約7m×高さ約11mの鋼製タンクである。  
             東ソー南陽事業所の配置 (図はTosoh.co.jpから引用)
            東ソーの原塩ヤードと電解プラント付近 (写真はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年5月23日(土)午前7時50分頃、カセイソーダ・プラントにあるタンクでボヤ(小火)があった。

■ 消防署に近くの住民から「黒い煙が上がっている」という119番があり、消防隊が出動した。

 電解プラントの反応 (図はTosoh.co.jpから引用)
■ 電解プラントはカセイソーダなどを製造する設備で、タンクは原料となる塩と水を混ぜるもので、発災当時は運転停止中でタンク内には液体は入っておらず、空だったという。タンクには内側部を覆うゴムがあり、一部が焼けたという。有毒ガスの発生は無かった。

■ 発災当時、タンク付近に従業員はおらず、発災に伴う負傷者はいなかった。

被 害
■ タンク1基がボヤで一部を焼損した。

■ 負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 火は約1時間50分後の消された。 

補 足
■「山口県」は、中国地方に位置する人口約1,347,000人の県で、県庁所在地は山口市(人口約194,000人)で、最大の都市は下関市(人口約254,000人)である。
 「周南市」は、山口県の」東南部に位置し、人口約138,000人の市である。周南市の主要産業は重化学工業であり、旧徳山海軍燃料廠から発展した石油コンビナート(周南コンビナート)が形成され、東ソー、トクヤマ、出光興産、日本ゼオン、日本精蝋などの事業所がある。製造品出荷額等は山口県内第1位で、瀬戸内工業地域の重要な位置を占めている。
 (図はTosoh.co.jpから引用)
■「東ソー㈱」は、1935年に設立され、旧社名は東洋曹達工業といい、総合化学メーカーである。 
カセイソーダ、塩化ビニルモノマー(VCM)、ポリウレタンといった「ビニル・イソシアネート・チェーン」事業に加え、石油化学事業(オレフィン、ポリエチレン、合成ゴム等)や機能商品事業(無機・有機ファイン製品、電解二酸化マンガンなど)をコアとして事業展開を行っている。南陽事業所のビニル・イソシアネート・チェーン事業は図に示す。
    東ソー南陽事業所のビニル・イソシアネート・チェーン事業 (図はTosoh.co.jpから引用)
■「電解プラント」は、塩を水に溶解し、不純物を取り除く塩水精製を行い、電気分解によってカセイソーダ、水素、塩素を生産する。東ソー南陽事業所では、年間約150万トン以上の工業塩を豪州やメキシコから輸入している。

■ この事故のメディアによる報道では、「火」という言葉は使っているが、「火災」という言葉は使用していない。このため、本ブログでは「ボヤ」という用語にした。
 消防庁では、火災の焼損程度を「ボヤ(小火)」、「部分焼け」、「半焼」、「全焼」 の4つに分類している。また、火災損害では「全損」、「半損」、「小損」の3段階に分けている。ボヤは、建物の焼き損害額が火災前の建物の評価額の10%未満で、焼損床面積が1㎡未満のものまたは収容物のみ焼損したものをいう。一般の人は火災保険に関わるので、火事になってしまえば、大きな分類の方がよい。昔から、柱1本残っていることで全焼ではなく、半焼だというので、残っている柱を見たら倒してしまえという逸話がある。一方、事業所では、事故(火災)件数や報告義務のわずらわしさから、火災とせず、ボヤという用語を使う傾向にある。

■ 「発災タンク」は、直径約7m×高さ約11mの鋼製タンクと報じられているので、容量は400KL級である。目的は原料となる塩と水を混ぜるものとあるので、電解プラントの塩水精製の前処理設備に使われる単なる混合槽だとみられる。また、タンクには内側部を覆うゴムがあったとされているので、塩水の腐食対策としてゴムライニングのタンクではないかと思われる。

所 感
■ 今回の発火要因は分かっていないが、状況からすれば、自然発火の可能性が高い。リサイクル施設などの場合、油が付着したウェスが酸化・発熱して火災の要因になることがある。石油工業であれば、硫化鉄が自然発火の要因である事例は少なくない。たとえば、つぎの事例がそうである。

■ 電解プラントに使用する輸入の工業塩には、カルシウムやマグネシウムなどの不純物を含んでおり、自己発火性の物質は存在する。ただ、塩水精製の前処理として工業塩と水を混ぜるタンクにおいて堆積物に自然発火性の物質が生成し、発火したという事例は聞かない。
 上記で紹介した「清掃中原油タンクの火災原因」の事故報告書はよくまとめられている。結果的にいうと、タンク関係者であれば常識的な内容である。しかし、長年の技術的知見を有している製油所でなぜ起きたかについて調査された極めて有用な事故報告書である。今回の電解プラントのタンク事故はわからないことの多い事例であり、教訓として調査結果を公表されることを期待する。

備 考
 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
  ・Asahi-shinbun,  タンクから煙,  May  24,  2020
    ・Yamaguchi-shinbun,  東ソー南陽事業所 タンク一部を焼く,  May  24,  2020
    ・Chugoku-shinbun,  東ソーのプラント焼く,  May  24,  2020
   

 後 記: 今回の事故はインターネットの事故情報で知ったのではなく、ローカルな情報で知りました。このため、新聞をコンビニエンスストアで買い求め、記事を読み比べてまとめました。しかし、メディアの記事は新型コロナウイリスの影響で十分な取材ができないためか、記事に深みが欠けるように感じました。また、事業所も火災でなく小火(ボヤ)という解釈なのか、メデイアに情報を提供しているようですが、同社のウェブサイトにはなにも言及されていません。これは新型コロナウイリスの所為とはいえないでしょう。海外では被災写真を消防署など公的機関が提供することがありますが、日本では稀です。このため、標題の写真は事故に関係ないプラントの写真としました。現代の情報社会の中では、時代遅れ感は否めませんね。

2020年5月25日月曜日

海老名市で水道の貯水槽が破裂、水が流出して車3台が傷つく


 今回は、 2020513日(水) 、神奈川県海老名市にある商業施設のショッパーズプラザ海老名の屋外に設置されていた水道用の貯水槽が突然、破裂して、大量の水が流出した事故を紹介します。
(写真はMsn.comから引用) 
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、神奈川県海老名市中央にある商業施設のショッパーズプラザ海老名である。

■ 事故はショッピングセンターの屋外に設置されていた水道用のFRP製貯水槽で、高さ約4m×幅9m×奥行7m、容量150KLである。
              海老名市のショッパーズ海老名付近(矢印が発災場所)  (写真はGoogleMapから引用)
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2020年5月13日(火)午後1時30分頃、ショッピングセンターの屋外にある貯水槽が、突然、破裂した。

■ 目撃した人によると、「滝のように、たぁーっと」流れ、貯水槽がめちゃめちゃに壊れてという。

■ 貯水槽の中に貯められていた大量の水が勢いよく周囲に流れ出し、近くの駐車場のフェンスがなぎ倒され、停めてあった車3台が押し流され、互いにぶつかり、ドアミラーなどが破損した。

■ 警察には「ボーンと音がした。貯水槽が壊れて道路に水があふれている」という110番通報があった。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ 貯水槽の容量は150KLであるが、当時、どのくらいの量の水が入っていたかはわからないという。また、13日(水)は貯水槽やその周辺で作業などは行われておらず、警察が破裂した原因や詳しい状況を調べている。

■ インターネットでは、報道された動画が投稿されている。
 (写真はYoutube.comから引用)
被 害 
■ 水道の貯水槽1基が損壊した。

■ 大量の水が流出し、車3台が押し流されて互いにぶつかり、損傷した。

■ 負傷者は出なかった。
(写真はTwitter.comから引用)
 (写真はTwitter.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中である。

< 対 応 >
■ 写真を見ると、事故のあった貯水槽は搬出されているようだが、どのような対処が行われているのかは不詳である。
 (写真はPbs.twning.comから引用)
                                  撤去作業   写真はTrendsmap.comから引用)
補 足
     神奈川県海老名市の位置  (図はKotobank.jpから引用)
■「神奈川県」は、日本の関東地方に位置する人口約920万人の都市である。
「海老名市」(えびな・し)は、神奈川県の県央地域に位置する人口約134,000人の都市である。

■「ショッパーズプラザ海老名」は神奈川県海老名市中央三丁目にあるショッピングセンターで、1984年に開業した。

■「貯水槽」(受水槽)は水道水を貯めておくタンクで、通常、FRPと呼ばれている繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics)で製作されたものが多い。細かくは強化材として使用される繊維の種類によって細分化され、グラスファイバー(ガラス繊維)を使ったG-FRP、カーボンファイバー(炭素繊維)で作られたC-FRPなどがあるが、FRP製の貯水槽には不飽和ポリエステル樹脂をグラスファイバーで強化したG-FRPが一般的である。
     貯水槽の構造例  (写真はGoogleMapから引用)
 過去には、半永久的に耐久性があるといわれたFRPであるが、実際には紫外線や水の消毒に使用される塩素に長期にさらされることによる劣化や接合部のパッキンの劣化などから、一般的な耐用年数は15年とされる。耐用年数を過ぎている場合、以前は取替えてしまうことが普通だったが、FRP製のものは処理がむずかしく、環境上の問題もあり、最近は強化・延命する特殊工法による補修・修理を行うことが多くなっている。
 貯水槽の構造例を図に示す。パネルは平板や円弧などいろいろな型式が用いられているが、事故のあったパネルは円弧型とみられる。貯水槽の大きさは、高さ約4m×幅9m×奥行7mと報じられている。この寸法の容量は252㎥である。メディアによって事故の貯水槽が300トン(300㎥)と報じているところもあったが、寸法からすれば容量が大きすぎるので、150KLと報じている方をとった。
                        事故前の貯水槽  (写真はGoogleMapから引用)
所 感 
■ 貯水槽の事故原因は分かっていない。
 破損状況を被災写真で見ると、パネル接合部からの漏れによって起こったのではなく、パネル自体が微小割れを起点にして一気に割れに進展していったのではないかと感じる。貯水槽の定期検査や補修はどのようになっていたのだろう。

■ 今回の事故では負傷者がいなかったが、大量(容量は150KLであるが、流出した量は不詳)の水が一気に流出しているので、そばに人がいたら、ケガをしただろう。実際、貯水槽の外側に設置されていたフェンスや駐車場のフェンスが倒されているので、相当な力である。2011年4月に起こった「消火用水タンクが破裂して死者2名の事故」では、鋼製の水タンクが破裂し、容量1,100KLのタンクから水が一気に流出し、2名の死者を出した事例がある。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・News.tv-asahi.co.jp,  「ボーンと音が」貯水槽が破裂 道路水浸し 車も・・・,  May  13,  2020
    ・Pikarinnews.net,  ダイエー海老名店の貯水槽が破裂する事故 海老名市,  May  13,  2020
    ・Msn.com,  貯水タンク破裂で大量の水 車同士がぶつかる被害も,  May  14,  2020
    ・Youtube.com,  ボーンと音が」貯水槽が破裂 道路水浸し 車も・・・ ,  May  13,  2020


後 記: 今回の事故の一報を目にしたとき、思い出したのは、 「消火用水タンクが破裂して死者2名の事故」(20114月)です。当時、世の中には、思いもよらない事故が起こると感じましたが、まさか日本において大型の貯水槽が破裂する事故が起こるとは皮肉なものです。米国では、原油・天然ガス生産井において塩水タンクが爆発・火災を起こす事例が少なくありませんが、他人事でなく、日本でも、水だから安全だとはいえないなと考えながらまとめました。