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2018年9月9日日曜日

テキサス州ウィチタ郡の貯蔵タンク基地でリムシール火災

 今回は、2018年8月28日(火)、米国テキサス州ウィチタ郡ウィチタフォールズにあるプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社の原油タンク施設で起こったリムシール火災について紹介します。
(写真はFiredirect.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国テキサス州(Texas)ウィチタ郡(Wichita)ウィチタフォールズ(Wichita Falls)にあるプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社(Plains All American Pipeline LP)の原油タンク施設である
 ウィチタフォールズは北テキサスの原油配送拠点で、テキサス西部のペルミアン盆地からオクラホマ州クッシングの石油貯蔵ハブまでプレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社のパイプラインが走っている。
 
■ 発災があったのは、ウィチタフォールズ東部のハーディング通り2100番地にあるタンク基地の原油タンクで、容量504万ガロン(19,100KL)で高さ約60フィート(18m)の浮き屋根式タンクである。
        ウィチタフォールズのハーディング通り付近  (右端がタンク施設) 
 (写真はGoggleMapから引用)
 プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社のタンク施設 (矢印が発災タンクとみられる) 
 (写真はGoggleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月28日(火)午前7時40分頃、ウィチタフォールズ基地の原油貯蔵タンクで火災が発生した。

■ 火災は屋根シール部から起こったリムシール火災だとみられる。プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、タンクの屋根シールを交換する工事を発注していた。

■ 発災に伴い、ウィチタフォールズ消防署が出動した。

■ タンクの近くにいる住民のひとりは、家への被害や隣人が心配だといい、「どのくらいの量を貯蔵しているか知りませんが、ここには原油がいっぱいあるので、ちょっと怖いですね。風向きが変われば、火の粉が心配です」と語った。 

■ 屋根シールの交換作業中、タンク内の油が火災に巻き込まれた。タンク容量は504万ガロン(19,100KL)であるが、火災発生時に原油がどのくらい入っていたかは発表されていない。多くの作業員が安全な場所に避難した。消防署は、タンクのシール部の交換作業中に、内部の原油に引火したものとみている。

■ 警察は、すぐに発災場所への通行を閉鎖し、周辺の交通規制を実施した。この地区の住民に対して避難の勧告をすることは一度も無かった。大気の空気質は火災が消火されるまで監視された。

■ プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、火災は貯蔵タンク1基に限定されており、行方不明の作業員はいないと語っている。 一方、最初の対応者は現場にいたといい、けが人の有無については語っていない。また、火災による影響についても言及しなかった。

■ 消防隊は泡を使って火災を消火したが、午前10時30分頃、再び燃え出し、タンクから6~8フィート(1.8~2.4m)のところで燃えていた。タンク頂部には手すりのない狭い歩廊しかなく、十分な泡を維持することができなかった。この種の消火用泡を確保するため、ヒューストンやボーモントから泡薬剤の搬送車とともに消防隊が支援で訪れた。消防隊は、爆発の危険性はないと語った。

■ 28日(火)午後1時30分時点で、オンラインのウィチタフォールズ公共交通規制システムを搭載した2台のユニットともに、ウィチタフォールズ消防署の13台の消防機材は現場にいた。午後4時の時点でも、11台の消防機材が現場にいた。交通規制は消火されるまで継続された。

■ 民間人や消防関係者に負傷の報告は無かった。

■ タンクのリムシール火災は、29日(水)の深夜に消火できた。

被 害
■ 容量504万ガロン(19,100KL)の浮き屋根式貯蔵タンク1基の屋根シール部が焼損した。このほかに損傷した部品があるとみられるが、詳細はわからない。

■ タンク内にあった原油が焼失した。燃えた油量はわからない。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。

< 事故の原因 >
■ 浮き屋根式貯蔵タンクの屋根シール部の交換作業中に、内部の原油に引火し、リムシール火災になったものとみられる。どのような交換作業を行っていたかはわからない。

< 対 応 >
■ ウィチタフォールズ消防署は、48名の消防士と15台の消防機材を投入した。シェパード空軍基地消防署、ウィチタ警察署、ウィチタ郡保安官事務所が支援に駆けつけた。

■ 8月29日(水)、プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社は、タンク基地と関連のパイプラインは操業を再開したと発表した。また、消火に携われた方に感謝申し上げるとともに、タンク基地の近隣住民へご心配をおかけしたことをお詫び申しあげますというコメントを出した。

■ 8月30日(木)、パイプラインは1日当たり410,000バレルの流量に回復した。パイプラインの設計流量は1日当たり450,000バレルである。パイプラインの供給停止のニュースが流れたとき、石油関係者の間には、西テキサスの原油物流の弱さを露呈したとみられていた。
(写真はTimesrecordnews.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
(写真はKswo.comから引用)
                避難してきた人々   (写真はTimesrecordnews.comから引用)
補 足
■  「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,830万人の州で、州都はオースティンである。  「ウィチタ郡」(Wichita)は、テキサス州の北部にあり、人口約13万人の郡である。
「ウィチタフォールズ」(Wichita Falls)は、ウィチタ郡の東部にあり、人口約10万人の郡長所在地の町である。
         テキサス州ウィチタ郡の位置   (写真はGoggleMapから引用)
■ 「プレインズ・オール・アメリカン・パイプライン社」(Plains All American Pipeline. LP) は、1998年に米国で設立された原油・天然ガスの輸送・貯蔵事業を行っているエネルギー会社である。1,000マイル(1,600km)のパイプラインと7,700万バレル(1,200KL)の原油貯蔵能力を有しており、主に北米で事業を展開している。親会社はプレインズ・GP・ホールディング社(Plains GP Holdings. LP)である。

■ 「発災タンク」の容量は19,100KLである。このタンクをグーグルマップで調べてみると、タンク基地の南東端のタンクだとみられる。このタンクの直径は約38mであり、高さを18mとすれば、容量は20,000KL級である。一部のメディアで60フート・タンク(a 60-foot tank)という表現があり、直径でなく、高さ60フィート(18m)と解釈した。発災タンクの写真を見ると、リムシール火災はタンク頂部に近いところで燃えており、内部の原油はほぼ一杯だったとみられる。
             発災したとみられるタンク(右端)   (写真はGoggleMapから引用)
          発災したとみられるタンク(事故前)   (写真はGoggleMapから引用
■ 「リムシール」はタンク側板と浮き屋根(ポンツーン)のシールである。日本では、シール部にエンベロープ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式である。シール部の交換を運転中に行うことはない。一方、米国には、メカニカルシール方式(パンタグラフ・ハンガー式またはメタルシール)を採用した浮き屋根タンクがある。グーグルマップ写真では、タンク側板側からタンク中央にかけていく筋もの油の流れた跡のようなものが見える。当該タンクがメカニカルシールを使用し、運転中保全を行ったとみられる。
リムシールの種類の例
■ 「リムシール火災」は、浮き屋根タンクの屋根ポンツーンの外周部、すなわちリムシール部の火災で、「リング火災」とも呼ばれる。日本では、固定式泡消火設備を設けることになっており、リムシール火災への別な対応方法は考えられていない。海外では、固定式泡消火設備のないのがあり、リムシール火災への対応方法が考えられている。当ブログでリムシール火災について言及した資料を紹介する。

 この資料は、タンク火災事故の消防対応の業務などを行うウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が、2004年9月米国オクラホマ州で起こった落雷によるリムシール火災の消火活動状況について述べたものである。

 この事例は、落雷による浮屋根式タンクのリムシール火災の典型的な事例である。米国では、固定式泡消火設備を設置したタンクは多くないが、このタンクには自動システムの泡消火設備が設置されており、有効に機能した事例である。

 この資料は、「A-CERT」(シンガポール企業緊急対応チーム協会)がまとめた貯蔵タンク火災の消火戦略である。貯蔵タンクの概要を含めて消火戦略について総合的に整理されており、リムシール火災への対応として火災の状況によって、①積極的(オフェンシブ)戦略、②防御的(ディフェンシブ)戦略、③不介入戦略の選択に関する基本的考え方などについてまとめられている。

 この資料は、石油貯蔵タンク施設における消火戦略・戦術について書かれたものである。リムシール火災については固定泡消火設備が設置されていない場合、人による消火活動に頼る必要があり、水を噴霧して防護した上で、消防士が消火泡モニターを携行し、タンク頂部のプラットフォームに昇って対応することなどについて言及されている。

 この資料は、タンク火災の発生頻度、タンク規模による消火の容易性、タンク開放検査の周期など定量的に書かれている。リムシール火災の95%は落雷によって発生しており、リムシールを保有する全タンクの0.16%は使用期間中にリムシール火災に遭うといい、早期に対処するため、タンクリムまわりには監視システムおよび消火システムを設置することを推奨している。 

 この資料は、石油貯蔵タンクの避雷設備について言及されたものであるが、日本ではなじみのない浮き屋根式タンクのシャンツやメカニカルシール(メタルシール)について実験を行い、評価したもので、2010年のAPIタンク会議で発表されたものである。

 この資料は、イタリア化学工学協会の会報に掲載されたもので、タンクの種類、火災の発生要因、事故対応の事前計画などについて書かれたものである。貯蔵タンクの固定泡消火設備は損傷を受けなければ、リムシール火災に対して適切な装置といえるが、貯蔵タンクの事故において火災の前に爆発が起これば、固定泡消火設備は損傷を受ける可能性が高く、火災を抑制することができないので、代替の消火システム(移動式消火設備)を必要だという。

所 感
■ 消防隊の隊員はタンク上部に昇り、よく活動して対応したらしいことは分かる。しかし、リムシール火災の消火戦略・戦術がみえない。消防隊は泡を使って火災を一旦消火したが、約3時間後に再燃してしまった。タンク頂部には手すりのない狭い歩廊しかなく、十分な泡を維持することができなかったという。しかし、リムシール火災では、消火してもタンク側板が熱くなっているので、再燃しやすい。 「燃えているタンク内に油を入れる消火戦術」(2016年1月)によると、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は、再燃しないように防油堤内からタンク側板を冷却したという。今回の事故対応の消火活動は詳しく言及されていないので、一概には言えないが、過去の教訓が活かされていないように感じる。

■ 今回の事例では、どのようにして消火できたかわからないが、大量の泡薬剤を手配しているので、タンク側板の階段頂部1箇所からリムシール部に消火泡を投入し、消火と再燃を繰り返しながらも全周に泡を行き渡らせたのではないかと推測する。また、タンクの被災写真によると、火災はタンク全周でなく、ところどころから火の手が上がっており、屋根シールはメカニカルシール(メタルシール)の可能性が高い。これが、16時間余のリムシール火災でも全周火災にならずに済んだともいえよう。
 日本では、固定泡消火設備が設置されているので、リムシール火災については対策はとれている。一方、固定泡消火設備が壊れた場合、対応がうまくとれるだろうかという疑問は残る。大型化学消防車や大型高所放水車によって、手前でタンク側板裏の死角になる部分にうまく泡放射できるだろうか。これは、大容量泡放射砲システムでも同じことである。さらに、大容量泡放射砲システムでは、時間がかかれば大量の水をタンク屋根に供給することになり、浮き屋根の浮力が問題になる。また、フォーム・ログ・シール方式の屋根シールでは、シール(ウレタン)がすぐに燃えてしまい、かなり大きな全周のリムシール火災になる可能性がある。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
     ・ Fredirect.net ,   US – Crude Oil Tank Fire Extinguished,  August 31,   2018
     ・Reuters.com, Fire Breaks out at Plains All American Crude Tank near Wichita Falls, Texas,  August 29,   2018
     ・Timesrecordnews.com , Company States Oil Tank Fire Extinguished, Terminal Has Resumed Operation,  August 29,   2018
     ・Oilandgasinvestor.com, Fire Breaks Out At Plains Crude Tank Near Wichita Falls,  August 28,   2018
     ・Newschannel6now.com, Crude oil tank fire extinguished in Wichita Co.,  August 28,   2018
     ・Bicmagazine.com , Fire Breaks out at Plains All American Crude Tank near Wichita Falls, Texas,  August 30,   2018



後 記: 今回の事例を調べていて、過去の事例が活かされていないことを感じました。そのように思っているところに北海道で震度7の地震(北海道胆振東部地震)がありました。このようなブログを書いていると、当然ですが、近くにある製油所や原油タンク備蓄基地の貯蔵タンクは大丈夫だったのだろうかとすぐに思いました。長周期でなく、直下型の短周期の揺れだとみられますので、おそらく無事だと思いましたが、ニュースでは、何も触れられませんでした。2003年十勝沖地震後にあった製油所でのタンク火災事故は、すでに15年を経ており、忘れ去られているのでしょうね。

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