今回は、2022年3月2日、Jlh-cn.comに掲載された「解析原油储罐火灾特点及扑救措施」(原油貯蔵タンク火災の特徴と消火対策の分析)の資料について紹介します。
< 概 要 >
■ 本資料は、原油タンク火災の特徴と火災後に発生し得る様々な現象を分析し、原油タンク火災事故の要因を特定し、的確な消火対策と予防対策の提案についてまとめたものである。これらの対策は、石油貯蔵基地における原油タンク火災の予防と提言に重要な指針となる。
■ 原油は、通常、原油備蓄基地、油槽所、製油所などの原油タンクに貯蔵される。これらの原油タンクは可燃性や爆発性があり、国内外で爆発・火災事例は少なくなく、その原因は多岐にわたる。原油貯蔵基地における原油貯蔵の安全性を向上させ、原油タンクの安全な運用を確保するために、効果的な予防・制御対策を講じることが極めて重要である。
I. 原油タンク火災の特徴
1.1 高い火炎温度と強い輻射熱
■ 原油タンク火災が発生すると、周囲の環境温度は高くなり、輻射熱が強くなる。炎の中心温度は1,050~1,400℃に達し、タンク壁の温度は1,000℃を超えることもある。原油タンク火災の強さは、燃焼物の発熱量と炎の温度に関係している。燃焼時間が長いほど輻射熱は強くなる。また、原油タンク火災の輻射熱の強さは、火災の継続時間に比例している。火炎の温度が高いほど、輻射熱の強さも大きくなる。
1.2 燃焼中の火炎の変動
■ 原油タンクが火災になると、火災の勢いは変化する。火炎の勢いが盛んなときは、炎が激しく燃え上がり、燃焼速度が速く、輻射熱は強い。火炎が衰えるときは、燃焼速度が緩やかになり、火炎は縮小して小さくなる。この火炎の変動は、原油成分に含まれる軽質分と重質分の違いから来る。
1.3 大規模火災が発生しやすい特性
■ 原油タンク火災は急速に拡大し、大規模な火災へと進展する危険性が極めて高い。一旦、引火すると、タンクが爆発したり、ボイルオーバーの要因になり、油が噴出して飛散し、周囲の設備に降りかかって広範囲な火災を引き起こす。近くに他の石油タンクがある場合、被害はさらに深刻になる。石油ガスの貯蔵タンクが火災になれば、タンクの破損や漏洩を引き起こし、ガスの拡散範囲が広がり、火災範囲も拡大する。
1.4 高い爆発の危険性
■ 原油は特定の温度で大量のベーパーが蒸発する。この油のベーパーが空気と混合して特定の比率に達すると、裸火に接触した際に爆発する可能性がある。火炎や高温の影響下では、原油タンク内の油の蒸気圧が急激に上昇する。この圧力が容器の最大許容圧力を超えれば、タンクは破裂を引き起こす。タンク内のベーパー空間で発生した爆発は、油の急速な燃焼を引き起こす。タンクが破裂し、燃え盛る油が溢れて、火災が周辺区域に広がり、火災伝播上の重大なリスクをもたらす。
■ タンク底部に水が溜まっている場合、原油の長時間にわたる激しい燃焼により、高温で水が沸騰することがある。この沸騰した原油は激しく飛び散り、火災の勢いをさらに強める。
1.5 再燃性・再爆発性を有する特性
■ 火災の消火後も燃料源を遮断しないと、別の引火源や高温にさらされると、再燃したり、爆発を発生する可能性がある。爆発は、タンク屋根を破裂したり、タンク本体を変形/破損したりすることがあり、新たな破壊の危険をもたらすことがある。消火後もタンク壁は非常に高温のままであるため、冷却を継続しないと原油が再燃する可能性がある。原油タンクの火災制圧中、消火作業で不適切な措置が取られると、再燃したり、再び爆発に至ることがある。
2、タンク火災原因の分析
■ タンクの構造、材質、油種によって、火災の原因のパターンや状況が異なる。タンク火災を引き起こす要因は数多くあるが、一般に裸火、落雷、静電気、自然発火の四種類に大別される。
3、タンク火災の消火活動
3.1 火災状況の確認・評価
■ 火災が発生したら、すぐに以下の状況を確認する。
① 燃焼タンクの種類、直径、高さ、油の性状、タンク底部の水の深さ、油の貯蔵液位、および燃焼タンクの損傷状況
② 周辺の環境と攻撃可能な経路、油漏洩の流路、またはタンク破損の可能性のある箇所
③ 燃焼パターン、発火点、および周辺地域への脅威レベル
④ 炎の色を観察し、爆発リスクを評価
⑤ 液位、熱伝播速度、および水/導電層の厚さに基づくボイルオーバー発生の推定時間
⑥ 油の性状に基づくボイルオーバーの可能性と時期を判断
⑦ 油移送の可否判断、防油堤の完全性、および排水系の閉止状態
3.2 消火活動の基本
■ 貯蔵タンクが一旦火災になった場合、消火活動はつぎの基本事項に従わなければならない。
● 「外周から中心へ」 「風上から風下へ」 「地上からタンクへ」の順序で実施
■ タンク火災における消火活動の第一の目的は、消火を試みる前に火災を制御することであり、人員の安全を最優先とする。
① 事故を直ちに報告し、油タンクにおけるすべての作業を停止する。
② ただちに、すべての消防設備を稼働させ、消火用泡で油面を覆い、タンク壁を消火水で冷却する。火災が拡大する前にアスベストシートなどで火元を迅速に覆う。
③ 中間ポンプ場のタンクに火災が発生した場合は、ボイラーを停止し、圧力ステーションのプロセスに切り替える。
④ ターミナル・ステーションで火災をただちに消火できない場合、浮き屋根式タンクまたは屋根を損傷したタンクから油を排出する。排出中は油温を90℃以下に維持する。
⑤ 隣接タンクについては、状況に応じて油の移送、タンク壁の冷却、防火壁の構築、開口部には泡または耐火材によるシールなどの措置を講じる。
⑥ あらゆる手段を講じ、燃えている油の拡散を防止する。
3.3 消火活動中の注意事項
■ 原油貯蔵タンク火災が発生した場合は、ただちに正確な状況評価を行い、消火計画、消火戦略、消火戦術をすみやかに策定しなければならない。火災対応に必要な人員と資機材を十分に確保し、できるだけ速く火災を制圧し、消火しなければならない。原油は着火するまでの時間が非常に短く、燃焼速度も速いため、迅速に消火ができなければ、ヒートウェーブの厚さが増すにつれて、消火活動はますます困難になる。
■ ヒートウェーブが水の層またはエマルジョン水の層に達すると、水蒸気爆発やボイルオーバーを引き起こす可能性がある。燃焼時間が長引くと、タンク内の油-ガス混合気の濃度が爆発限界に達しやすく、結果として爆発に至ったり、連続した爆発を引き起こす。さらに、ボイルオーバー(油)火災を消火しようとした場合、泡消火のタイミングが極めて重要である。一般的に、有効ヒートウェーブ厚さは約30~50cmであり、火災は引火後30分以内に消火すべきである。油面は短時間で完璧に泡で覆うべきである。泡の耐熱時間は通常 6 分間である。
3.4 消火活動における安全上の注意事項
■ 消火活動全体を通じて、人員の安全を最優先としなければならない。第一に、火災現場におけるあらゆる潜在的な危険を想定し、消火活動が効果的に実施でき、かつ生命に危険を及ぼすような際に速やかに避難できる安全な場所に消防士を配置する。
■ 次に、火災の拡大や事故が激化することを抑制・防止することに重点をおく。実際の状況にもとづき、火災の延焼可能性と消火できる可能性を正しく評価し、燃焼エリアをコントロールすることである。そして、必要ならば、消火活動を断念することである。
■ 要するに、原油タンクの貯蔵液位は常に変化しており、度重なる活動の変更はリスクを伴う。わずかな不注意でも火災や爆発につながる可能性がある。
■ 原油タンクを正しく安全に使用し、運転すること、火災や爆発の基本原理を理解し制御すること、および原油貯蔵タンク火災の消火方法を修得することが肝要である。
■ このため、従業員の安全教育を強化し、安全意識を高め、原油タンクの安全管理システムを確立・実施し、火災の防止や撲滅していくことが、石油貯蔵基地の安全な操業に確固たる保証を提供する。
補 足
■ 本資料は、つぎのインターネット情報をもとにしている。
・Jlh-cn.com, 解析原油储罐火灾特点及扑救措施, March 02, 2022
なお、この情報の主な内容は、邹曾英(中原油田天然气处理厂,河南濮阳457162)、张淼(中国石化管道储运公司新乡输油处濮阳输油站,河南濮阳457162)によるものだという。
■ このブログで原油タンクに関して事故や戦略などを取上げたものは、つぎのとおりである。
= ボイルオーバーなどの事故事例 =
●「原油タンク火災の消火活動中にボイルオーバー発生事例」(2013年9月)
●「中国・陜西省の製油所で軽質原油タンクが爆発して3名負傷」( 2014年5月)
●「フランスで原油タンクのダブルポンツーン型浮き屋根が沈没」( 2015年2月)
●「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故(2012年)」( 2014年1月)
●「テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー(1974年)
」(2014年2月)
●「貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測」( 2014年2月)
●「浮き屋根式貯蔵タンクのボイルオーバー」( 2014年4月)
●「1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」( 2014年5月)
●「ボイルオーバー =眠れる巨人=」( 2015年12月)
●「マレーシアの製油所で原油タンク火災、負傷者4名」( 2018年7月)
●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」( 2016年8月)
●「キューバのタンク基地で落雷による原油タンク火災4基、死傷者162名」( 2022年8月)
= タンクの消火戦略・消火戦術・解析
=
●「貯蔵タンク事故の研究」(2011年8月)
●「貯蔵タンクの火災要因と防止策」(2012年8月)
●「タンク火災への備え」( 2012年9月)
●「大型石油タンクのハザード評価の方法」( 2014年7月)
●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」( 2014年10月)
●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その1)」( 2014年10月)
●「貯蔵タンクにおける事故の発生頻度」(
2015年12月)
●「燃えているタンク内に油を入れる消火戦術」( 2016年1月)
●「原油貯蔵施設におけるリスクベース手法による火災防護戦略」( 2016年3月)
●「原油貯蔵タンク火災時のボイルオーバー現象」( 2016年9月)
●「石油貯蔵タンク火災時の備えは十分ですか?」( 2016年11月)
●「石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術」( 2016年12月)
●「新しいアプローチによる石油貯蔵タンク施設のリスク評価」( 2019年3月)
●「タンク火災への対応に関する計画およびトレーニング」( 2021年4月)
●「ボイルオーバーの研究 = 実際的な教訓」( 2021年12月)
●「中国の原油タンクに関する火災・爆発燃焼解析とリスクマネージメント」 (
2023年6月)
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