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2023年6月9日金曜日

中国の原油タンクに関する火災・爆発燃焼解析とリスクマネージメント

  今回は、 2022年に発表された中国石油大学のロンフェイ・リー(Longfei Li)とロンギュ・ダイ(Longyu Dai)による「Review on fire explosion research of crude oil storage tank」(原油貯蔵タンクの火災・爆発研究のレビュー)を紹介します。

< はじめに >

1.1 原油貯蔵におけるリスクマネジメントの重要性

■ 石油危機や原油輸出国間の戦争(湾岸戦争など)が及ぼした強い影響によって、戦略石油備蓄の拡大が世界的な関心事となっている。石油備蓄システムを見直すことは国家のエネルギー安全保障を確保する上で重要な役割を果たしており、各国は国家石油戦略備蓄の建設を加速している。米国や日本の国家戦略石油備蓄はすでに200日分以上ある。

■ 中国は世界第2位の石油消費国であり、海外依存度は60%以上である。中国は、エネルギー安全保障を確保するため、石油備蓄能力の建設拡大に努め、国家石油戦略備蓄の建設ペースを加速している。現在、中国には約7,000基の大型貯蔵タンクがあり、1基のタンク容量は最大のもので 200,000KLである。しかし、近年、中国ではタンク事故が多発しており、多くの死傷者や物的損害が発生している。事故が多発する原因はさまざまである。一方で、中国の原油埋蔵量の多く長江沿いにあるため、火災や爆発などの重大事故が発生した場合、生態環境や公共の安全に深刻な被害を及ぼすことになる。

■ 一方、石油経済の発展に伴い、中国のタンク地域には「三つの困難さ」の特徴が現れている。1つ目はタンク1基の貯蔵容量が大きくなるため、火災が起これば被害が大きいこと、2つ目は 大量の石油が出入りする工程が複雑になるため、操業の適正な管理が難しくなること、3つ目は、タンク区域で石油や危険な化学物質が混在するので、公共の安全を管理することが難しくなることである。このため、いかにして火災や爆発などの事故が発生しないようにし、人的被害や物的損害を最小限に抑えることが原油貯蔵のリスクマネジメントにとって重要な意味をもつ。

1.2 原油貯蔵タンクにおける爆発・燃焼の研究意義

■ 原油タンク貯蔵所は原油の保管と輸送のための重要な場所である。貯蔵所には多くの貯蔵タンク、容量の大きいタンク、多くの付帯設備、複雑な技術が含まれており、火災や爆発の危険源となります。

■ タンク地区は操業管理が弱いところであり、原油は可燃性で爆発性が高く、有毒で有害な物質である。もしタンクに割れの進展、深刻な腐食、構造の不安定性などの大きな欠陥が発生すると、内部液の漏洩の原因となり、火災や爆発などの悲惨な事故を引き起こしやすく、人々の生命や財産の安全に大きな脅威をもたらす。技術的且つ操業管理上の理由によって国内の貯蔵タンクの多くは検査が行われておらず、長い期間、ずっと運転し通しの状態にある。貯蔵タンクは有効な検査手段や科学的なリスクアセスメントに欠けているため、安全性の確保は不十分である。

■ 近年、タンクにおける漏洩、火災、爆発の事故が多発し、社会的に大きな影響を与えている。例えば、
1989812日、山東省青島市黄島石油貯蔵所において容量23,000KLの半地下原油タンクの上部から原油と可燃性ベーパーが漏洩し、引火して爆発・火災の事故が起き、周囲のタンクへつぎつぎと延焼し、経済損失は35百万元にのぼった。20131122日、山東省青島市の中国石油化工(シノペック)系の東黄パイプラインでは、地下埋設のパイプラインから原油が漏れて市街地で爆発が起こり、62名が死亡し、136人が負傷した。20051211日の英国バンスフィールド事故では、タンクの過充填から300トン以上のガソリンが流出し、蒸気雲が形成して爆発が起き、60時間にわたって20基以上の貯蔵タンクが燃え、直接的な経済損失だけでも約35億元だった。 200196日には、茂名石油化学会社の北山原油タンク貯蔵所で火災が起こった。2009712日には、江蘇省台州市で石油タンクの爆発事故が発生した。操業と人々の財産の安全を確保するためには、タンク貯蔵所のリスクを分析して研究することは急務である。

< まとめ >  

■ 本資料では、原油タンク区域におけるリスクマネジメントの重要性について紹介している。原油の多くは引火性や爆発性があるため、貯蔵タンクに大きな欠陥があると、原油の漏洩によって火災や爆発などの大事故につながりやすい。本資料は、原油タンクの爆発的燃焼のメカニズムを研究することによって、国内外の原油の爆発的燃焼に関する研究の進展状況を要約して述べ、石油タンクのリスクマネジメントのために一般的に使用されているリスクアセスメント方法を列記している。

■ 浮き屋根式タンクの火災は最も一般的なタンク火災である。浮き屋根式タンクの一般的な火災の種類は、リムシール火災、全面火災、防油堤火災である。リムシール火災は、これらの火災の種類の中で最も一般的なタイプである。国内外のタンク火災に関する研究の多くは、数値シミュレーションと経験則にもとづくモデルに焦点を当てている。一般的に使用される経験的モデルは、ガス漏洩数理モデル、ジェット火災数理モデル、ガス雲爆発数理モデルなどである。

■ 科学技術の進歩に伴い、数値シミュレーション手法は急速に発展している。数値シミュレーション手法は、経済性、安全性、耐干渉性などの利点があるため、国内外の専門家によって広く使用されている。例えば、現実的なK-イプシロンをベースとした乱流モデル解析法、流体力学(CFD)モデル、有限要素数値解法などである。さらに、数理モデルと数値シミュレーションの相互検証という研究方法によって、石油貯蔵に関わる人々は爆発燃焼の法則を十分に理解し、見出すことができるため、研究成果をより実際の操業現場に応用することができる。

■ 原油などの石油貯蔵タンクについて大規模で集中的な建設開発は国家の原油開発に役立つが、多くの悲惨な事故の結果にもつながる。このような背景のもと安全管理評価や重大事故の予測は特に重要である。この資料の最後にいくつか一般的な安全性評価方法をまとめている。定性的評価や定量的評価、事故経緯シミュレーション計算の結果は、安全管理や緊急時の技術支援につながる。

< タンク火災・爆発事故の種類と原因 > 

2.1 タンク火災の事故原因

■ シェン・グオグァン(Shen Guoguang )らは、国内の貯蔵タンクにおける火災事故の原因について調査した結果、裸火による火災が事故全体の52.4%を占め、第1位であることを明らかにした。また、火災の原因として多いのは落雷と静電気が約10%であり、オペレーターの運転ミスや火花発生などの要因が約30%を占めている。

■ BP社やシェル社など16社の石油会社が共同で行った常圧貯蔵タンクの火災に関する調査によると、大型石油タンクの火災事故は毎年1520件発生している。タンク火災の事故は主に外部浮き屋根式タンク、固定屋根式タンク、内部浮き屋根式タンクの3種類で、国内が33件、海外が38件だった。事故の統計分析によれば、外部浮き屋根式タンクの火災事故の割合は35%である。

2.2 火災事故の種類 

■ ジャオ・ジンロン(Zhao Jinlong)らの調査によると、国内外で88件の外部浮き屋根式タンクの事故があり、リムシール火災が最も多く、次いで全面火災、防油堤内火災が続いたことが判明した。火災の種類ごとの概要と分析をつぎに示す。

2.2.1 リムシール火災

■ リムシール火災:  浮き屋根のシール装置内で爆発範囲になった油とガスの混合物は、引火源に接触すれば燃焼するし、場合によっては爆発する。貯蔵タンクでは代表的な火災である。シール装置の燃焼領域は比較的小さく、タイムリーに火災を制御できれば、全面火災やプール火災に進展することはない。しかし、火災を制圧できない場合、火災が数日間続くこともある。また、燃焼によって放出される高温が激しい熱放射を引き起こし、浮き屋根を損傷させたり、屋根上のプール火災に進展することがある。

■ タンク側板が損傷すると、油がタンクから漏れ出してプール火災を形成することがある。シール火災を消火させる過程では、消火水やタンク散水システムによって浮き屋根に過剰な重量がかからないよう調節する必要がある。消火までに必要な流量と火災の拡大を制御するバランスは、火災の影響拡大を避けるための重要な要素である。

2.2.2 プール火災 

■ 浮き屋根上のプール火災および防油堤内のプール火災: 油漏れによって形成された浮き屋根上のプール火災や防油堤内のプール火災では、開放系の火災となる。バハム(Baham)らによると、火災が次々と延焼していくドミノ事故の約80%がプール火災によるものである。大型の浮き屋根式タンクの場合、防油堤内でのプール火災がそのひとつである。

■ プールの火災は比較的容易に消すことができるが、浮き屋根上のプール火災を消す際には、過剰な消火水で浮き屋根を沈下させて全面火災に至らないように配慮が必要である。プール火災がうまく制御できずに隣接した貯蔵タンクに広がった場合、複数タンク火災になってしまうことがある。

2.2.3 全面火災 

■ 浮き屋根が大きく傾いたり、沈んだりすると、浮き屋根式タンクの油面が直接大気に曝され、油やベーパーの揮発量が急激に増加する。空気と混合すると、爆発性の可燃性混合気が大量に形成され、引火源と接すると全面火災を引き起こしやすくなる。

2.3 爆発事故の種類 

■ 近年、中国ではガスパイプラインや貯蔵タンクの漏洩事故が多発しており、漏洩が激しい場合には火災や爆発事故につながる恐れがある。防油堤内のプール火災、全面火災、リムシール火災における爆発事故は、タンク内爆発とタンク外爆発に分けられる。

■ タンク内の爆発: タンクを清掃する際、タンク内に高濃度の油のベーパーが残ったまま、空気がタンク内に入ってベーパーと混合して爆発混合気を形成することがある。この爆発混合気が裸火によって引火すると、爆発が発生する。

■ タンク外の爆発: タンクに漏洩が発生し、発見が遅れれば、漏洩した油は大気中で蒸発する。油のベーパー濃度が爆発限界に達し、引火源に遭うと蒸気雲爆発が起こる。

< 国内外のタンク火災・爆発の研究の経緯 > 

■ 原油の開発・貯蔵・輸送の過程では、原油パイプラインや貯蔵タンクにおいて火災や爆発の事故が繰り返し発生している。原油の入った貯蔵タンクで火災・爆発が起きると、その後の消火や設備保全が大きな課題となる。

■ 従って、原油貯蔵タンクにおける火災・爆発のメカニズムを研究し、爆発事象の原点と進展に関する法則を見出し、合理的な予防策につなげていくことは、火災や爆発事故の発生を減少させるのに有益であろう。

■ 現在、石油やガスの漏洩、燃焼、爆発に関する主たる研究手法は、数理モデルと数値シミュレーションである。数理モデルの研究方法には、主にガス漏洩の数理モデル、ジェット火災の数理モデル、蒸気雲爆発の数理モデルなどがある。情報技術の進歩に伴い、国内外の専門家は処理能力の高いコンピューターを利用して爆発過程をシミュレーションしている。数値シミュレーション手法は経済性、安全性、耐干渉性があるという長所がある一方、短所はシミュレーション結果を実験データまたは数学的手法によって検証しなければならないことである。 数学的モデルと数値シミュレーションを組み合わせることで、爆発の法則を見つけ出して理解することができる。

3.1 国内の研究状況  

■ チェン・シーウェイ(Chen Shiwei)らは、 実験媒体としてNo.90ガソリン(オクタン価90の無鉛ガソリン)

を入れた貯蔵タンク内での油・ガス爆発のシミュレーション実験システムを構築し、この実験にもとづいて、初期の油・ガス濃度や初期の温度が爆発圧力に及ぼす影響について研究してきた。実験結果では、爆発時の油・ガス混合物には臨界濃度が存在し、油・ガス臨界濃度は2.5%、臨界初期温度は306K33℃)であることを示した。臨界値以下では、油・ガスの爆発圧力は最大になり、油・ガス濃度の上昇に伴い、爆発圧力が増加し、火炎伝播速度は急激に増加する。油・ガス濃度が臨界濃度よりも高い場合、油・ガス濃度の上昇に伴って爆発圧力が低下し、火炎伝播速度が低下する。

■ ワン・ウエイ(Wang Wei)らは、実験媒体としてアセチレン/空気の混合物を使用して、150,000KL100,000KL50,000KLの浮き屋根式貯蔵タンクの縮尺モデルを構築した。モデルの衝撃実験の結果、浮き屋根式タンクの屋根部分は構造全体の中で弱い部分であり、爆発の衝撃によって塑性変形が起こりやすいことがわかった。実験結果から、アセチレン爆発によって生じた高温の蒸気雲からの衝撃波が、タンク側板の損傷を引き起こす主たる要因であることがわかった。

■ ズウ・バイカン(Zhu Baikang)らは、浮き屋根タンクの実験室モデルを構築し、異なる環境下において浮き屋根タンクの一次および二次シール空間における油・ガス分布について研究した。そして、サドフスキー爆発衝撃波のピーク過圧の式を用いて爆発圧力分布モデルを確立した。実験結果では、風速と風向が浮き屋根タンクのシール装置内の油・ガス分布に影響を及ぼし、風圧がタンク側板への爆発衝撃波の損傷の程度に悪い影響を与えることを示した。シール装置の圧力波に耐える能力を改善させて圧力波による損傷を避けることで、爆発・燃焼事故を回避できると結論づけた。

■ ジアン・シンシェン(Jiang Xinsheng)らは、細長いパイプラインに実験媒体としてガソリンを用いた油・ガスの爆発実験システムを設定し、油・ガス爆発実験を実施した。油とガスの体積率が1.25%~2.65%の範囲で、パイプライン内の油・ガス最大爆発過圧(爆風圧)、ブースト率(昇圧率)、火炎強度、火炎持続時間を実験的に研究した。その結果、初期(最初)の油/ガス体積率が増加するに伴い、パイプラインに沿った最大爆発過圧値とブースト率は最初に上昇し、その後に減少する傾向を示した。一方で火炎持続時間は最初に短くなり、その後に長くなり、油/ガスの体積率が 1.75%の場合に最も短くことがわかった。

■ ユー・ボウ(Yu Bo)は、ガス雲爆発の過程をシミュレーションし、ガス雲爆発の圧力場と衝撃場(インパルス場)の分布法則について検討した。そして、ガス雲爆発下のコンクリート構造物の動的応答と破壊特性を分析して、ガス雲のサイズ、点火エネルギー、点火位置などがガス雲の爆燃強度に及ぼす影響法則について検討した。

■ ワン・ブー(Wang Bo)は、実験媒体としてガソリン-空気を用いて、閉鎖した細長いパイプ内におけるガソリン-空気混合ガス爆発の振動伝播特性について研究したが、爆発実験は異なる縦横比のパイプ(円形、四角形、球形)で実施した。その結果、油・ガスの振動爆発は振動爆発限界の範囲内でのみ発生し、油・ガス爆発の圧力は油・ガス濃度やパイプラインの長径比に関係することがわかった。パイプラインの長径比が大きくなると、爆発限界の範囲は徐々に増加し、油・ガス爆発限界に占める振動爆発限界の割合が徐々に増加する。油・ガス濃度が増すと、最大爆発圧力は最初に上昇し、その後に減少する。油・ガス濃度が増すと、最大爆発圧力がピークに達する時間は最初に短くなり、その後に長くなる傾向を示した。

■ ゼン・リチョン(Zheng Lichong)は、鋼製貯蔵タンク内の蒸気雲爆発をシミュレーションし、タンク内の各点における過圧時間履歴を計算した。そして、過圧分布変化の特徴に従ってタンクを複数の等負荷領域に分け、簡略化した爆発負荷モデルを構築した。ジョンソン-クック材料構造モデルのパラメータと爆発荷重シミュレーション結果にもとづいて、構造解析ソフトウェアのLS-DYNAを使用して鋼製貯蔵タンクの爆発応答を数値シミュレーションし、さらに、いろいろなサイズやいろいろな屋根形状の鋼製貯蔵タンクの内部爆発時おける構造動的応答と破壊モードについて分析した。

■ ワン・シマオ(Wang Shimao)らは、総エネルギーのK-イプシロン乱流モデルを採用して、コンピュータ・ソフトウェアを用い、簡略化した2段階反応タンクの油・ガス燃焼についてタンク上部を開放条件下でオクタン価90ガソリンの爆発をシミュレーションした。数値シミュレーションの結果を検証するための数値計算モデルは、油・ガスの爆発圧力変化プロセスの異なる時間周期で取得し、数値計算モデルと数値シミュレーションの誤差を分析した。

■ ガソリンを研究対象として、チァン・ハイビング(Qian Haibing)らは、密閉タンク内での油・ガス爆発限界を実験条件下で研究した。そして、密閉空間での油・ガス爆発限界は1.5%〜4.6%であり、油・ガス体積率が2.5%程度であれば、密閉タンク内での油・ガス燃焼爆発強度が最も大きいことを見出した。

■ 爆発衝撃荷重下におけるタンク構造カップリングの動的応答とYangDu有限要素法の破壊メカニズムが提起されている。流体と構造カップリングのSPH法(粒子法)によってひずみ速度破壊基準に関連する構造の種類を推測し、圧力容器とパイプの可燃性ガス爆発経過の影響について研究し、そして材料の動的破壊特性を検証した。

■ ドゥ・ヤン(Du Yang)らは、ガソリンを対象として、いろいろなメカニズムにもとづく乱流燃焼爆発モデルについて研究し、燃焼反応の2段階反応を確立し、それぞれの段階で異なるメカニズム、異なるエネルギーが放出することを示した。火炎と圧力波の結合メカニズムは、油・ガス燃焼爆発実験や狭い空間での数値シミュレーションによって正確で合理的に説明された。

■ チャン・ペイリ(Zhang Peili)らは、長さ5m×直径0.2mの組立式衝撃波管装置を採用した。油・ガスに窒素を加えることで、窒素が油・ガス爆発の発生を抑制できることを明らかにし、窒素抑制作用による油・ガスの減衰・消滅過程を得ることに成功した。

■ ドゥ・ヤン(Du Yang)らは、密閉された円形パイプの爆発パイプライン、パッカリング・オープンドレン爆破実験、二重穴オープンドレン爆破実験の燃焼を研究するため、 視覚分析を通じてわかったことは、ガスジェットと火炎オープンドレン爆破過程がキノコ雲の形成、ガス注入に分かれていて、ジェット火炎速度を継続し、火炎が消える4つの過程に分かれることである。

■ 外部爆発荷重が作用している球形タンクの動的応答を解析する際、B.Y.チャン(B.Y. Zhang)は爆発威力を換算するTNT相当法によってタンクの蒸気雲爆発をシミュレーションし、タンク容量1,000㎥の球形タンク壁面の圧力分布と動的応答について研究した。

■ サン・エンジ(Sun Enji)は、液体アンモニア貯蔵タンクの漏洩事故を想定し、現実的なK-イプシロン有限要素数値シミュレーション解析手法に基づいて液体アンモニア漏洩の量を計算し、タンクの漏洩位置と漏洩量を変えた場合の空気中のアンモニアガスの拡散則をシミュレーションして研究した。その結果、出口の位置はアンモニア拡散にほとんど影響を及ぼさないことがわかった。一方、出口の量がアンモニア拡散に大きな影響を及ぼすことがわかった。

■ ゾン・フイ(Zong Hui)は、事故ツリー分析階層プロセスにもとづいてタンクユニットの火災・爆発事故の故障確率について研究し、ドミノ効果によるマルコフ連鎖にもとづいた複雑なネットワーク事故伝播モデルを確立し、タンク区域内の各タンクユニット間の相互作用を探求し、最終的な故障確率を解いた。グリッド分割技術とリスク重ね合わせの原理に従って、タンク貯蔵所のリスク分布を計算し、タンク貯蔵所と近隣地域の人口分布を考慮してリスク分布図を作成した。

■ マーク・チャン(Mark Chan)は、FDSシミュレーション・ソフトウェアANSYSを使用して、容量5,000KLのディーゼル燃料用ドームルーフ式タンクのための3つの構成について研究し、2 つの火災領域全体の燃焼特性、タンクの熱放射強度分布を分析した。さらに、2つのプール火災貯蔵タンクの熱応答特性の作用について研究した。

3.2 海外における研究状況 

■ A.ベリコロドニ(A. Velikorodny) は、新しい予混合燃焼モデルを構築し、速度勾配場と結合した過渡積分長スケールの推定を導入することによって改良した。このモデルは、広範囲でさまざまな燃焼状態における数値計算の結果を検証するために使用することができる。論文では、空間内における不均一混合気に対する燃焼モデルを検証する方法およびその可能な改善策も紹介している。

■ オラブル・ ハンセン(Olavr. Hansen)は、沸騰液膨張蒸気爆発(BLEVE)モデルをCFDモデルで構築し、爆発波のモデルを検証した。ヨーゼフ・ハスルベルガー(Josef Hasslberger)は、ウェラー爆燃モデル(Weller deflagration model)を修正することによって、ハイドロエア爆発(爆轟への移行を含む)をシミュレートする効率的なCFDモデルを提案し、屋内DDT実験によって検証した。

■ モデル計算によって時間とともに変化する圧力荷重と爆発波の反射率が求められる。ジンデ・リー(Jingde Li)らは、分離ギャップがタンク内やタンク周囲のガス爆発圧力に及ぼす影響について研究し、数値シミュレーション (CFD) と実験による相互検証の研究手法を構築した。異なるガス間隔での一連のガス爆発配置を実験的に研究した。CFDシミュレーションにより、異なるガス雲下でのガス爆発を考慮し、異なる位置の分離ギャップが貯蔵タンクの爆発圧力に及ぼす影響を研究した。

■ オラブル・ ハンセン(Olavr. Hansen)は、実験と組み合わせた流体力学(CFD)数値シミュレーションの方法を用いて、爆発荷重の形と持続時間、およびさまざまな種類のターゲットから荷重を抽出するための最適化方法について研究した。

 抗力係数Cdの選択に関する実験について考察し、実規模の爆発実験のシミュレーションを行い、さらにFABIGTN-08の圧力分布関数の合理性を証明し、パイプの爆発強度が大きいため、無難な抗力係数Cdを採用すべきであり、実験をシミュレーションするために、シミュレーションデータから正しく荷重を推測するには、抗力係数Cd = 2.0が必要であることを提唱している。

■ プルバリ・チャウダリ(Purvali Chaudhari)は、機械学習アルゴリズム、ランダムフォレスト(RF)、人工ニューラルネットワーク(ANN)、非機械学習アルゴリズム--遺伝関数近似(GFA)を用いて、60種類の可燃性化合物の最小発火エネルギー(MIE)予測のための定量的構造物性相関(QSPR)回帰モデルを確立した。

■ デレク・ブラッドリー(Derek Bradley)らは、6種類の燃料と異なる流動状態を対象としたジェット火炎の高さと火炎上昇距離の実験データベースを確立した。乱流ジェット火炎のコンピュータ・シミュレーションによって、特定の混合気に対して乱流燃焼速度はほぼ比例して反応混合気の体積を増加させることが示された。

■ レインダース(Reinders)らは、 LPG タンクを研究対象とし、実験にもとづくタンク熱収支モデルを構築し、圧縮液化ガスが入った多層断熱タンクの加熱後の圧力と温度の変化則を予測した。その結果、断熱層の熱伝導率が一定の場合、モデルの圧力と温度の時間による変化則は実験結果とよく一致することがわかった。

■ パントゥーサ(Pantousa)は、固定屋根タンクを対象にし、プール火災シナリオの熱座屈挙動を有限要素数値解法で研究し、タンクサイズ、タンク間隔数、燃料、風速、燃焼ポットが貯蔵タンクの熱座屈挙動応答に及ぼす影響を考察した。ただし、プール火災燃焼タンク数の臨界座屈温度と破壊時間に及ぼす影響の一部しか考慮せず、プール火災結合メカニズムについては検討しなかった。

■ ワン(Wan)は、火炎温度を予測するために確立された区分関数にもとづいて、2プール火災キューボイド(直方体、立方体)火炎モデルと重み付け多点源モデルを構築し、火炎の放射率、モデルの平均火炎温度、相当する黒体熱放射パワーについて研究した。

3.3 石油貯蔵所における安全管理評価  

■ 国家石油備蓄のための石油貯蔵所への供給は重要な戦略的価値を有している。そして、可燃性で爆発性の特性を持った貯蔵媒体を保管しており、火災や爆発事故を完全に防ぐことはできないため、石油貯蔵所またはタンク地区について科学的で合理的な分析方法を採用する必要がある。 リスク評価は、事故リスクの規模と起こり得る事故の結果に応じて、安全管理を行い、対応する予防策を提案する。

■ 一般的に用いられる安全性評価手法には、定性的評価法、定量的評価法、半定量的評価法、シーン・シミュレーション評価法などがある。定性的な評価手法としては、リスク・マトリックス法、安全性チェックリスト法(SCL)、HAZOP分析法、フォールトツリー分析法(FTA)などがある。定量的な評価手法としては、確率的評価(PRA)やリスク・インデックスなどがある。

■ 半定量的な評価方法には、指標評価などが挙げられる。 石油貯蔵施設やタンク貯蔵所の具体的な状況に応じて、定量的評価方法や定性的評価方法を総合的に採用することができる。定性的・定量的評価や事故経緯のシミュレーション計算の結果は、安全管理や事故時の緊急救助について技術的なサポートを提供することができる。

補 足

■「中国」(China)は、正式には中華人民共和国で、東アジアに位置する人口約141,100万人の社会主義共和制国家である。

「カラマイ市」は、新疆ウイグル自治区に位置し、人口約28万人の地級市で、中国の重要な石油生産地の一つである。「カラマイ」はウイグル語で「黒い油」の意味で、1955年に中国最大級のカラマイ油田が発見され、石油生産と精製を基幹産業として発展してきた。

■「中国石油大学」(China University of Petroleum)は、1953年に北京大学から分離した北京石油学院として創立された。1988年に石油大学に改称、2000年に大学院を設置、2005年に中国石油大学に改称し、大学は北京市と青島市にある。全国的な重点大学の一つで、石油の生産・精製を支える工学系、化学系の学部を揃えているほか、経済、人文、外国語系の学部を擁する。2015年にカラマイキャンパスを設置した。 約19,000人の学部生、7,000人の大学院生、1,100人の留学生、70,000人以上の登録通信ネットワーク学生が在籍している。大学には1,700人の専任教師がおり、そのうち1,000人の教授と准教授と236人の博士指導教員がいる。

■ 本ブログで紹介した中国に関連するものは、つぎのとおりである。

 ● 20118月、「大連の化学工場の防波堤が台風で決壊」

 ● 20125月、「中国における石油貯蔵タンクの避雷設備」

 ● 20133月、「中華人民共和国の山東省でアスファルトタンク爆発・火災」

 ● 20136月、「中国の大連製油所で残渣油タンクが爆発して死傷者4名」

 ● 20137月、「中国陝西省で地すべりによってパイプラインから原油流出」

 ● 201311月、「中国・貴州省でパイプラインが破損してガソリン2,000トン流出」

 ● 201311月、「中国・青島で原油パイプライン漏れに伴う爆発で、多数の死傷者」

 ● 201311月、「中国・青島の死者62名が出た原油パイプラインの爆発事故(2013年)の原因」

 ● 20144月、「中国・陜西省の製油所で軽質原油タンクが爆発して3名負傷」

 ● 20146月、「中国南京市の製油所装置の爆発によって貯蔵タンクへ延焼」

 ● 20154月、「中国福建省でパラキシレン装置爆発によって貯蔵タンクへ延焼」

 ● 20156月、「中国南京市の化学プラントの爆発によって貯蔵タンクへ延焼」

 ● 20156月、「中国黒竜江省で実タンクによる火災の消火訓練」

 ● 20157月、「中国山東省の液化石油ガスタンク群で爆発・火災」

 ● 20163月、「中国河北省の原油備蓄タンク基地で防災訓練」

 ● 20164月、「中国の石油・ケミカル貯蔵所で爆発・火災、消防士1名が死亡」

 ● 20168月、「中国黒竜江省の燃料油貯蔵所で火災、1名負傷」

 ● 20174月、「中国重慶市の石油化学工場で含油廃水タンク爆発」

 ● 20176月、「中国山東省の石油化学工場の貯蔵タンク地区で爆発、死者12名」

 ● 201811月、「中国福建省で桟橋からC9芳香族炭化水素を海上流出、52名が病院」

 ● 20196月、「中国・河南省の食品関連工場で二重層タンクが爆発、死傷者11名」

 ● 20197月、「中国における石油貯蔵所の火災・爆発の事例分析」

 ● 20198月、「中国・河南省のガス工場で空気分離装置が爆発、死者15名負傷者多数」

 ● 20208月、「中国福建省のバイオマスプラントでタンクが爆発・火災、負傷・不明5名」


■ 原油タンクの火災・爆発やリスクマネジメントについて紹介したブログは、つぎのとおりである。

 ● 20118月、「貯蔵タンク事故の研究」

 ● 201212月、「最近の石油貯蔵タンク火災からの教訓」

 ● 20131月、「コスモ石油の液化石油ガス爆発火災(2011年)の放射熱解析」

 ● 20131月、「致命的な影響を及ぼす石油貯蔵タンク火災」

 ● 20132月、「燃焼爆発の危険性解析」

 ● 20136月、「タンク火災時の冷却水の使い方」

 ● 20142月、「貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測」

 ● 20144月、「浮き屋根式貯蔵タンクのボイルオーバー」

 ● 20147月、「大型石油タンクのハザード評価の方法」

 ● 201410月、「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」

 ● 201410月、「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 - 事例検討(その1)」

 ● 201512月、「貯蔵タンクにおける事故の発生頻度」

 ● 20161月、「米国の石油貯蔵タンク基地におけるハザード評価」

 ● 20161月、「燃えているタンク内に油を入れる消火戦術」

 ● 20163月、「原油貯蔵施設におけるリスクベース手法による火災防護戦略」

 ● 20169月、「原油貯蔵タンク火災時のボイルオーバー現象」

 ● 201611月、「石油貯蔵タンク火災時の備えは十分ですか?」

 ● 201612月、「石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術」

 ● 201812月、「ボウタイ分析による貯蔵タンクの危険性と軽減策の検討」

 ● 20193月、「新しいアプローチによる石油貯蔵タンク施設のリスク評価」

 ● 20204月、「事故防止に有用なレーダー式浮き屋根モニタリング」

 ● 20205月、「米国の戦略石油備蓄についての動き」

 ● 202112月、「ボイルオーバーの研究 = 実際的な教訓」


所 感

■ 中国で一般的に用いられる安全性評価手法には、定性的評価法、定量的評価法、半定量的評価法、シーン・シミュレーション評価法だという。そして、定性的な評価手法としては、リスク・マトリックス法、安全性チェックリスト法(SCL)、HAZOP分析法、フォールトツリー分析法(FTA)などで、定量的な評価手法としては、確率的評価(PRA)やリスク・インデックスなどが用いられているとみられる。

■ 中国・国内外のタンク火災に関する研究の多くは、数値シミュレーションと経験則にもとづくモデルに焦点を当てており、中国も科学技術の進歩に沿って数値シミュレーション手法を発展させているという。また、一般的に使用される経験的モデルは、ガス漏洩数理モデル、ジェット火災数理モデル、ガス雲爆発数理モデルだという。

 本資料では原油タンクを対象にしているが、ボイルオーバーに関する言及がない。数値シミュレーション手法を発展させてきているので、ボイルオーバーの燃焼解析で予測などを明らかにすることを期待したい。

■ 中国の経済成長はめざましく、世界第2位の石油消費国となったが、海外依存度は60%以上で、エネルギー安全保障を確保するため、石油備蓄能力の建設拡大に努めている。国家石油戦略備蓄の計画は日本より遅く2002年頃から始まり、初期の建設段階には日本の備蓄基地へも視察にきている。一方、資料で述べられているように、米国や日本の国家戦略石油備蓄はすでに200日分以上あり、石油貯蔵タンクの大規模で集中的な建設開発は国家の原油開発に役立つが、多くの悲惨な事故の結果にもつながるという危機感をもっているのが伺える。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    E3S Web of Conferences 236, 01022 (2021),  Review on fire explosion research of crude oil storage tank, Longfei Li and Longyu Dai  (Department of Oil and Gas Storage and Transportation Engineering, China University of Petroleum-Beijing at Karamay, Karamay, Xinjiang Uygur Autonomous Region, China)


後 記: 原油タンクの火災・爆発やリスクマネジメントについて紹介したブログは補記に列記したとおりですが、今回のような燃焼解析に関連する資料(論文)は初めてです。久しぶりに「数理モデル」の本を図書館で借りてきましたが、正直にいえば、「国内外のタンク火災・爆発の研究の経緯」の章は理解できなかったですね。研究の進展状況を研究者ごとに要約していますが、文章がどこで切れるのか、何にかかるのか、わかりにくく、研究内容を把握していなければ難しいですね。中には明らかに原文の編集ミスの個所もありましたが、「研究の経緯」の章の訳文はおかしなところがあると思います。疑問が出たときには、原文や元の論文を見てほしいと思います。なお、原文では、「まとめ」が最後に記載されていますが、その前の章が国内外の原油爆発燃焼研究の進捗状況で項目が多くて長いので、「はじめに」のあとに「まとめ」とする順にしました。

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