今回は、2015年、 インターナショナル・ファイヤー・ファイター誌に載った「Petroleum
Storage Tank Facilities – Part3 」(石油貯蔵タンク施設 -
パート3)の石油貯蔵タンク施設における消火戦略・戦術に関する情報を紹介します。
< 消火戦略・戦術 >
■ 消火活動の戦略と戦術は、事故対応の事前計画を十分に練り、確認の訓練を行うことから始まる。このことについては後で述べる。貯蔵タンク火災は複雑な要素を含んだ事象である。これらの火災に立ち向かうには、事前計画書、準備、人員・資機材の有効な活用、そして広範囲なロジスティクスを必要とする。特にロジスティクス部門は、必要な資機材をタイミングよく現場に持ち込む上で重要な役割を果たす。
ここで消火活動の戦略と戦術を考える前提として、石油施設の事業者とその自衛消防隊によって事前計画と準備が進められているものとする。経験によると、タンク火災を安全且つ成功裡に消火するには、訓練を含めた関連事項を網羅した事前計画と準備が行われていることが重要である。事前計画を確認するためには、定期的な実戦形式の訓練のほか、机上による想定訓練を実施する。
■ 消防署は事故の通報を受けたら、ただちに関係者へ連絡をとるとともに情報収集を開始すべきである。迅速に情報を集めて、消火戦略の検討を始めなければならない。考慮すべき事項はつぎのとおりである。
● 直近エリアにいる人の救出
● 施設内にいる人の身の安全と危険性
● 事故の拡大
● 事故の最小化
● 消火方法
● 環境への影響
● 地域への影響
■ 初動で対応すべき事を片付けた後、目の前に起こっている火災の種類を明確にする必要がある。
● ベント火災
● シール火災
● 配管接続部からの火災
● 全面火災
● 過充填火災
● タンク火災と堤内火災
● 複数タンク火災
● 放射熱の曝露状況
■ 上記のような情報の内容を確認すれば、資機材のリストと事故対応のアクション・プランを作成し始めることができる。このとき、作成したものが私たちの欲する資機材のニーズや戦術にも影響するということを認識しておく。火災の種類とその消火戦術を以下に述べる。
< 地上流出、堤内火災 >
■ これらの火災の見た形は、シンプルなプールの火災または流出の火災である。まず、面積(長さ×幅)を計算する。そして、米国防火協会のNFPA11「Standard
for Low-, Medium-, and High-Expansion Form」(低・中・高発泡泡消火設備の規格)にもとづく泡の放射量を用いる。泡薬剤の製品性状を知ることによって、泡の混合比率と放射量について正しい方法をとることができる。耐アルコール泡薬剤はていねいに扱う必要がある。
図1 ハイドロ-ケムの例
(写真はWilliamsfire.comから引用)
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■ 消防士は堤内区域に入るべきでない。ただし、安全であることが確認できており、事故対策本部の了解を得た上で、指揮者の承認をとった場合には、堤内区域に入ることは認められる。堤内区域へ入る前および途中で、空気中のガス検知を実施すべきである。火災に曝露しているまわりのタンク、関連配管、ポンプなどは地上モニターや固定モニターで散水して防護すべきである。最初に地上火災を消火すべきである。それから、ドライケミカル設備を使用してバルブやフランジ部の火災を消火する。このような複合した火災に対して最も有効な機材は“ハイドロ-ケム”(Hydro-Chem)モニターノズルである。
“ハイドロ-ケム”は、ドライケミカルと消火泡を同じノズルで放出することができる。
< リムシール火災 >
■ リムシール火災は、固定泡消火設備または半固定泡消火設備が設置され、メンテナンスが適切に行われていれば、通常、容易に消火することができる。外部式浮き屋根タンクにおいて、固定泡消火設備または半固定泡消火設備が設置されていない場合、人による消火活動に頼る必要がある。この場合、水を噴霧して防護した上で、消防士が消火泡モニターを携行し、タンク頂部のプラットフォームに昇ることになる。
図2 特殊モニターの例 |
■ よくとられる方法としては、フォーム・ワンド(Foam
Wands)と呼ばれる消火用機材が用いられる。フォーム・ワンドは、タンク頂部の縁に取付けることのできる特別なモニターである。図2は特殊モニターの例である。このモニターは、放出される泡の届く範囲のリムシール火災を消火することができる。このため、人がホースを展張して、ラダーから離れてウィンド・ガーターから操作するようなことがない。この消火用機材を用いることができない場合、泡のホースを展張し、ウィンド・ガーターから操作することになる。手すりの付いた構造的に安全なウィンドガーダーでなければ、この操作は危険な作業といわざるをえない。消防士の落下防止策は講じるべきである。図3は手すり付きのウィンドガーダーとフォームチャンバーである。
図3 手すり付きのウィンドガーダー
およびフォームチャンバー
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■ 消防車によるタンク側板越えの泡放射の方法がとられる例がある。しかし、これは基本的な消火方法とはいえない。この方法は、泡消火水を過剰に入れることによって屋根の沈下や傾きの要因をつくることになり、全面火災や障害物あり全面火災のような一層大きな問題に進展させる恐れがある。内部浮き屋根の付いたタンクでは、火災が起こるのは稀だと思われるが、実際に起こっている。このタンクでは、固定泡消火設備や半固定消火設備が設置されていなければ、消火することは極めて難しい。最も有効な対策方法はフォームチャンバー(発泡器)とフォームダム(泡せき板)を設けることであるが、消火システムの設計は全面火災を前提にすべきである。特に、浮き屋根のパンがアルミニウム製の場合は全面で火災になる可能性が高い。外部屋根の付いた内部浮き屋根式タンクの消火で最も難しいのは、特殊通気口を通じて消火泡を投入することである。過去の例では、ハイドロ-ケムのモニターノズルを使って効果をあげたことがある。
< 全面火災 >
■ 大きなタンク火災時における緊急事態対応メンバーに求められることは、火災タンクの種類、発災の場所、消火用水の供給、事故の性質、訓練された人の実行能力などいろいろな要素がある。この火災への攻撃としては、タイプⅢの“オーバー・ザ・トップ”(頂部越え)による泡放射の方法をとることが多い。泡消火の流量は、必要な泡放射量と泡薬剤の混合比率によって決められる。また、泡放射量はタンクの大きさによって決められる。直径の大きなタンクほど、大量の泡放射量を必要とする。表1は、業界の専門家に認められたタンク直径にもとづく泡放射量の最低値を示すものである。
表1 必要な泡放射量
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■ 必要な泡放射量(泡薬剤を混合した消火水の流量)はつぎのような式で求める。
・必要な泡放射量=タンク表面積×面積当たりの泡放射量
・タンク表面積=3.14×(タンク半径)2
・面積当たりの泡放射量=表1による
■ タンク火災の消火のために必要な泡放射量の総量はつぎのような式で推定する。
・必要な泡放射量の総量=必要な泡放射量(L/minまたはgpm)×消火時間
・消火時間=タイプⅢの“オーバー・ザ・トップ”(頂部越え)による泡放射の場合は65分
この総量は消火に必要な量であることに注意すること。消火後の可燃性ガスの発生抑制のためには、消火に要する供給量の2倍の泡放射の量を確保する必要があるといわれている。このようにして、可燃性ガス発生の抑制を保持し、燃料の再引火を防がなければならない。ある場合には、この量が37,854
L/min (10,000 gpm)を超えるようなことがあり、これを供給するためには、大容量の泡放射モニターや大型送水ポンプのような消火用装備を必要とする。
■ 必要な流量や泡混合比率を確認するとともに、つぎのような要因についても把握しておく必要がある。
● 屋根排水管の位置と条件
● タンク内液の容量
● 関連タンクとバルブ類の状態
● タンク底部の水の深さ
● タンクの構造的条件
● タンク内液の性状
● タンク内の余裕空間は、投入する泡消火液で溢れ出すことはないか
● 放射熱に曝露される可能性のある隣接のタンク、配管類、構造物はどのようなものがあるか
● 風向き
● 気象状況(現時点および予報)
■ どのような火災の状況下でも、発災事業所のメンバーが技術的な専門家として私たちの策定する事故対応の計画部署に参画するのがよいと思っている。実際、そのような人が指揮本部で、直接、指揮者に助言しているときもある。タンク火災は私たちの日常生活における活動とは違う。事故は急に且つ予想外の展開になり、時としてひどい結果に至ることもあるという前提で対処しなくてはならない。タンク全面火災は、現場に必要な人員・資機材がすべて揃っていないうちに、消火活動を試みるべきではない。
■ 泡放射できる資機材と人員が現場に配備できる前に行うべき戦術は隣接タンクの冷却である。火災となっているタンクの冷却は、完全に360度から冷却することがかなわなければ、実施することを推奨しない。そして、このように完全に360度から冷却できることは稀である。また、タンクを冷却する際には、必要な水量だけに限定する。冷却水を放水してタンク面から水蒸気が発生しなくなったら、放水を止めてもよい。また必要になった段階で再開すればよい。これは、消火用の供給水を節約するためであり、防油堤内へ流れ出る水の量を減らすためである。タンクへの冷却水量は、一般的に、1,893L/min(500gpm)から3,785L/min(1,000gpm)の間である。
■ 消火に適した泡放射装置と十分な泡薬剤が揃った段階で私たちが確認すべきことは、タンク燃焼面における泡放射の投入点である。消火泡が一旦投入されたら、確実に投入点から燃焼面に広がっていき、全表面を覆っていかなければならない。米国防火協会(NFPA)によれば、消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離は少なくとも30m(100ft)とされている。この消火泡の広がりを予測する際、消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離は24m(80ft)と少な目にみておくべきと考えている。これは投入点からの広がりを確実な範囲でみておき、複数の投入点から重なり合うようにする。このため、泡放射モニターを操作する消防士は、着水域の長さと幅とともに、主力の泡放射流に達する距離を考慮しておかなければならない。泡モニターの放射到達距離などについては製作者に聞いて確かめ、現場の試験や訓練時に現場で確認することができる。この情報にもとづくことによって、我々は主力の泡放射流の位置決めを事前に計画することができる。距離計を使用すれば、泡モニター操作時にタンクまでの距離を計測でき、泡モニターの位置決めに役立つ。
■ 貯蔵タンク火災時に発生する事象について、消防隊が認識しておくべきことがいくつかある。これらの事象と留意事項について以下で述べる。
< スロップオーバー >
■ この事象は、消火水の投入時に燃焼している熱い油面で起こるもので、油の粘性が高く、油温が水の沸点を超えるときに生じる。猛烈というほどではないが、熱い油面で瞬間的に泡立ち、燃焼している油を伴ってタンクの縁を越えることがある。
< フロスオーバー >
■ フロスオーバーは、比較的安定してゆっくりとした状況で泡立ちながらタンクの縁を越えるような事象で、急に激しく起こることはない。フロスオーバーは、火災になっていないタンクで起こることがある。それは、すでにタンク内に存在していた水分が粘性の高い熱油に接触したようなときに生じる。例えば、熱いアスファルトがタンク車に荷積みされ、タンク内の水分と接触したとき、アスファルト製品が泡立ってタンク頂部から溢れるような事象である。原油の火災時には、燃焼する原油によって形成したヒート・ウェーブが原油の中に存在していた水の層に達したときに生じることがある。ヒート・ウェーブによって水分が水蒸気に変わるときに、フロスオーバーの事象を引き起こすことがある。
< ボイルオーバー >
■ ボイルオーバーは、突然、激しくタンクから原油が放出する事象である。これは油の熱い層とタンク底部に溜まっていた水が反応して起こる。原油の軽質分は燃えていき、燃え残った熱い残渣分の中でヒート・ウェーブが生じる。残渣分であるヒート・ウェーブはタンクの底部へと下降していく。最終的に、このヒート・ウェーブはタンク底部に溜まっている水の層に達する。2つの層が接触すると、水は過熱され、続いて沸騰し、爆発的に膨張するため、タンク内の燃えている油が激しく噴出することになる。噴出して広がっていく熱い油は、タンク直径の10倍に相当する距離にまで及ぶ。事前の事故対応計画の中で、指揮所の設置位置、隊員の待機場所、救急隊の位置、消防資機材の場所などについて慎重な検討を行っておくべきである。
< 事前の事故対応計画 >
■ 石油貯蔵タンク施設における対応を計画する際、集められた情報が現場で適用でき、施設の人たちに役立つものとしておくことが肝要である。一方、現場では、消火用装置のために消防隊が行き来するかもしれないアクセス用道路は、車両が通行できるようにし、事故時に使えるようにしておくべきである。時には、消火用装置の向きを変えるための回転半径が施設内で必要とするものよりも大きいこともある。湿地帯や排水溝が消火用装置の移動の妨げになることもある。消防用装置の車台が非常に長い場合や低い場合、湿地帯や排水溝を通す際に吊り上げたり、敷き板を施すことになるかもしれない。新しい消防用装置が施設内の橋の重量制限に引っかかって、使用することができないこともありうる。
■ 事前の事故対応計画の中に入れておくべき情報としては、つぎのようなものがある。
● タンクの種類、大きさ、内容物、容量
● 配管の縁切り用バルブの場所と駆動方法
● 設置されている固定泡消火設備
● 施設への出入口、タンクへのアクセス
● 連絡用の電話番号
● 緊急停止装置の場所と操作方法
● 消火用資機材の保有リスト
● 消火用水の供給源
● 送水ポンプの能力
● 泡薬剤の保有量
● 共同支援・相互応援の内容
■ このほかの情報は、あなた方の部署のニーズや要求にもとづいて得るべきである。この資料は消防署の必要とする情報を網羅しているわけでなく、ひとつの起点として始めるべきである。ほかに参考とすべき資料は最後に付記する。消防隊員は、特殊な消火活動、施設の事前計画、事前計画の訓練に参画していくことが重要である。施設においては単にながめているだけに終わらないでほしい。
■ 参考資料
① API RP 2021, 「Management
of Atmospheric Storage Tank Fires」, 2006
② Hildebrand, M. S.,「Storage
Tank Emergencies: Guidelines and Procedures」, 1997
③ BP Process Safety Series, 「Liquid
Hydrocarbon Tank Fires: Prevention and Response」, 2005
④ Shelley, C. H.,「Industrial
Firefighting for Municipal Firefighters」, 2007
補 足
■ 「International Fire Fighter」(インターナショナル・ファイヤー・ファイター)は公設消防や産業界の消防士を対象にした消防関連の雑誌である。今回の「Petroleum
Storage Tank Facilities」(石油貯蔵タンク施設」は3回にわたって連載されたもので、
第3回(Part3)が消火戦略・消火戦術に関する内容である。
所 感
■ 今回の資料は、これまで紹介してきた次のようなタンク火災の消火戦略に加え、消火戦術について言及されており、興味深い内容である。
● 「タンク火災への備え」(2012年9月)
● 「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」(2014年10月)
● 「石油貯蔵タンク火災時の備えは十分ですか?」(2016年11月)
■ 特記すべき事項はつぎのとおりである。
● 堤内火災における“ハイドロ-ケム”(Hydro-Chem)モニターの活用
(泡放射とドライケミカルの併用)
● リムシール火災における“フォーム・ワンド” (Foam
Wands)の活用
(消防車によるタンク側板越えの泡放射の方法は基本的な消火方法といえないという見解)
● 全面火災における泡薬剤の必要総量
(消火時間は65分と想定。消火後の可燃性ガスの発生抑制のためには、消火に要する供給量の2倍の泡放射の量を確保)
● 隣接タンクの冷却に関する必要性の判断と水量
(冷却水の最小使用のため、タンク壁面からの水蒸気の有無で判断。水量は1,893~3,785L/minの間)
● 消火泡の広がりと投入点の判断
(消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離は30mとするのではなく、24mとみておく)
■ 特に興味深いのは、消火泡の広がりと投入点の判断に言及している点である。この種の戦術について示しているのは、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社(Williams Fire
& Hazard Control)のフットプリント理論ぐらいしかない。(「メキシコで内部浮き屋根式タンクに落雷して火災」の「補足」を参照)
消火泡が燃焼液面を効果的に広がっていく距離を24mとし、直径100mと80mのタンクにおける消火泡の広がりのイメージは図のようになる。(実際には、着水域で長さと幅をもった楕円状になるとみられる) 日本では、大容量泡放射砲システムの導入が行われたが、このシステムを使った消火戦術は研究されておらず、考えていく必要がある。(例えば、直径100mのタンク全面火災を大容量泡放射砲システムで本当に消火できるのか)
消火泡の広がりのイメージ
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備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Iffmag.mdmpublishing.com,
Petroleum Storage Tank Facilities –
Part3 ,
International Fire Fighter, May
27, 2015
後 記: 今回の資料は、専門分野のひとを対象にしているためか、シンプルな表現が多々あって、わかりずらいところがありました。おそらく、このようなことを言っているのだろうと理解してかなり補足的な文章を入れました。また、泡放射量の単位は L/min/m2 と
gpm/ft2
が併記されていましたが、 L/min/m2
の数値が間違っていましたので、修正しておきました。換算する際に、ガロン→リットルだけで、面積分がされていませんでした。インターナショナルとして併記はされてはいますが、やはり、米国ではSI単位になじみがないのでしょうね。
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