今回は、2022年4月13日付けでインターネット情報誌“Tank Storage Magazine”に載った“Minimising the lightning risk on tanks”(タンクの雷リスクを最小限に抑える)という雷検知ネットワークが企業の現場で雷のリスクを管理するのに役立っている情報を紹介します。
< はじめに >
■ 人間に対して危険な自然現象はいろいろあるが、落雷は世の中の死亡原因の中で25番目にはいっている。
「貯蔵タンク事故の研究」 によると、石油タンク事故の 33%は落雷が原因である。
■ 西ヨーロッパでは2018年にそれまでの10年間で最も落雷の多い年であり、ヨーロッパの雷検知ネットワーク全体で300万件が記録された。西ヨーロッパで最も頻繁に雷が発生した3つの国は、イタリア、スイス、フランスである。 (注;西ヨーロッパとは、ここではフランス、スペイン、イギリス、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、アイルランド、ドイツ、デンマーク、スイス、イタリアをいう)
< 落雷のリスクを軽減する対応策に導入する理由 >
■ 貯蔵施設において落雷のリスクを軽減するとは、雷雲がやってきたとき、荷揚げ作業の停止、保守作業の中断、人員の安全確保、嵐時のパイプライン作業に関する安全指示を行うことなどがある。
■ 特に可燃性の炭化水素を取り扱うような日常業務では、落雷のリスクが高くなる。さらに、石油プラントや製油所など金属でできた構造物は一般に広い場所に作られており、ほかの建物からも遠く離れている。このことが落雷のリスクを高め、貯蔵されている液体の可燃性と相まって、爆発や火災に対するリスクを生み出している。
< 現在の対応策 >
■ 落雷による被害防止の対応策は、オペレーターには実際に役立つ意思決定支援ツールである。これにより、オペレーターは、雷が本当の脅威となる瞬間を判断し、各操作や作業に対して事前に作成されている安全策を発令することができる。
■ 欧州をはじめ世界各国では、いろいろな企業がさまざまな技術(テクノロジー)を駆使して落雷検知を行っている。
● ローカル検出器やフィールドミル (電界強度計)による技術: 落雷が発する波を検知するものや、電界の異常を検知するものなどがある。現在、その範囲は限られており、設置、較正、メンテナンスに費用がかかり、煩雑である。また、その有効性は科学的に証明されておらず、雲と地上間の落雷と雲と雲の間の雷を識別することができない。
● 衛星やレーダーによる画像: 衛星による探知は、全地球を網羅できるという利点はあるが、衛星の動きによって、3分程度の短時間に限られた領域しか観測できない。これは雷を検出するには十分であるが、嵐の連続的な観測には適していない。レーダーによる検出も正確な画像を得ることができる。しかし、一般的に高価な設備導入とメンテナンスが必要である。気象庁、軍、航空関係が保有しているのみである。このシステムの弱点は、差し迫った嵐や確かな兆候である雲の電気的性質に関する情報が得られないことである。
● 検知ネットワークによる技術: 現在、これが最も実績のある検知技術である。雷検知ネットワークからの情報は、雷が発生してから通常10秒程度で検知されるため、リアルタイムの点で唯一のものである。さらに、この方法は予測の観点でも1時間以内という最良の結果を出している。
■ 雷の検出と位置特定は、気象、産業、軍事、研究など多くの分野で関心を持たれている。いろいろなシステムが開発され、それぞれに限界と利点を持ちながら使用されている。
■ 近年、雷の検出に不可欠な解決策として電磁波センサーのネットワークで構成された雷位置情報システムが開発されている。このネットワークはますます効率的になり、そのデータは雷雲の影響を受ける地域で使用されている。
< メテオラージュ社 の 検出ネットワーク >
■ メテオラージュ社(Météorage)は、欧州の雷検知ネットワークを運営するフランスの企業である。世界気象機関(World Meteorological Organization ;WMO)が発表した調査によると、同社が使用している技術は、現在、世界で最も高性能で効率的だといわれている。雲から地面への落雷を98%検出できるといい、雷位置標定精度は平均位置誤差100m以下である。
■ 落雷そのものを避けることはできないが、落雷の影響を防ぐための専門的な対応策はある。1987年以来、メテオラージュ社は独自の雷検知ネットワークを運営しており、コアビジネス(中核事業)として雷データの評価を専門に行っている。
■ 同社は、風力、石油、輸送、電力、レジャーなど雷のリスクに曝されている分野で、落雷に関するリスクを軽減するための啓発と予防の向上に貢献し、世界中の顧客を支援している。
■ メテオラージュ社は、顧客のニーズ(要求・要請)とあらゆるリスク管理に適応した革新的で信頼性の高い対応策を提供し、ユーザーの現場における落雷リスクを適切に管理できるようにしている。
● リアルタイム: ビジネスデータの統合を図る動的インターフェースを使って、ユーザーは観測サービスのネットワークによって現場や基地における嵐の動きをリアルタイムで視覚化し、追跡することができる。警報と組み合わせることで、現場での嵐のリスクが発生する場合にユーザーに警告を発し、人員の避難、故障や災害が疑われる場合のメンテナンスチームの派遣、荷積み作業の停止などの意思決定を正確に予測することができる。このように従業員など人の安全を保つだけでなく、この対応策は生産の休止時間や経済的損失を抑えることにも役立つ。
● 過去の経緯: 現場での検査や保険金請求手続きなどを容易に行う対応策があり、特に嵐が去った後のメンテナンス作業を計画する際に役立つ。メテオラージュ社は、数十年にわたって西ヨーロッパ全域で収集してきた豊富なデータベースにもとづき、地方レベルや国際的な規模で落雷の統計データを提供することができる。これらによって、ある地域の落雷のレベルを評価し、その場所に応じた現場のリスクを判断することが可能になる。
■ メテオラージュ社では、顧客専任のサポートチームが 24時間年中無休で監視サービスを行っている。
< アントワープ(オランダ)の燃料貯蔵所における事例 >
■ オランダのアントワープ製油所からパイプラインで送油される燃料貯蔵所は、貯蔵能力が756,000KLであり、24時間年中無休で稼働し、給油のために1日に約500人のトラック運転手を受入れている。このアントワープにある燃料貯蔵所がメテオラージュ社の検知システムのユーザーのひとつである。
■ 燃料貯蔵所の事業者は、つぎのように語っている。
「半径10km以内に嵐の活動が検知されると、私たちは作業をやめ、現場に出ている人を落雷から保護してくれる建物に安全に避難させるよう警告が出ます。雷が去ったら、私たちにも連絡が入り、作業を再開することができます。インターネットによって、雷を伴った嵐の進行状況を正確に把握することができますし、燃料貯蔵所に雷が何回落ちたかもわかるので、避雷設備の点検など必要な措置をとることができます」といい、「また、雷の検知や落雷回数を記録しなければならない規制にも対応することができます。メテオラージュ社は私たちが正しい選択をするのを支援してくれるので、とても助かっています」と付け加えた。
■ 要求の厳しい顧客に対応してきたメテオラージュ社の知識と経験により、社内のチームはネットワークの性能を評価し、質の高いアプローチの提案が可能で、指標や適用方法を定め、冗長性や耐障害性のあるシステムを設計できる。
補 足
■「西ヨーロッパ」は西欧ともいい、ヨーロッパ地域の西部を指す。 「西ヨーロッパ」の定義によって国際連合の分類、歴史的分類、民族・地理的分類、北大西洋条約機構加盟国(NATO)による分類などがあり、一律な区分けはない。この資料では、フランス、スペイン、イギリス、ポルトガル、ベルギー、ルクセンブルグ、オランダ、アイルランド、ドイツ、デンマーク、スイス、イタリアをいう。
■「メテオラージュ社」(Météorage)は、落雷の検出と位置特定を行う欧州のネットワークオペレーターであり、落雷リスク管理の予防のスペシャリストである。1987年以来、メテオラージュ社はフランスで雷検知ネットワークを運用しており、その後、欧州の大部分を含むように拡張した。メテオラージュ社は、雷に関連するリスクを憂慮する分野(産業、運輸、ネットワーク、レジャー、観光、気象、航空、軍事、風力など)にユーザーをもっている。
所 感
■ このブログで雷を取り上げたのは「NASAによる雷マップ」 が最初で、落雷によるタンク火災を除いた落雷対策についてはつぎのようなブログを紹介した。
●「NASAによる雷マップ」(2012年6月)
●「中国における石油貯蔵タンクの避雷設備」 (2014年1月)
●「石油貯蔵タンクの落雷リスクと雷保護」(2015年12月)
●「FRP (繊維強化プラスチック)製タンクの落雷保護と接地系統の評価」(2020年10月)
今回の情報は現在の雷検知ネットワークの技術状況を知る上で興味深い。 「NASAによる雷マップ」によると、欧州は必ずしも雷の多い地域とはいえないが、雷検知ネットワークの精度向上とともに、雷への対応策をとってきているのが分かる。
■ 日本の雷マップは、「マレーシアでタンクローリーに落雷して次々に爆発」(2014年10月)の「補足」で、フランクリン・ジャパン社のウェブサイトで公開している情報を紹介した。 今回、2009年~2013年と2013年~2017年の落雷密度分布図を比較してみると、全体としては分布図に大きな変化はないように思うが、雷が多いエリアは少し変化しているように見える。最近の気象環境が変化しているのか、雷マップの精度による差異かは分からない。
メテオラージュ社は日本で活動していないが、日本における雷検知ネットワークに関連するものはつぎのようなものがある。
● 気象庁;雷レーダー(実況)
● ウェザーニュース;雷
● 電力会社;落雷情報 (たとえば、中国電力;落雷位置等の標定データ提供サービス)
● フランクリン・ジャパン;落雷状況
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・ Tankstoragemag.com, Minimising the lightning risk on tanks,
April 13, 2022
後 記: 地球上では、どこかで約1,800件の雷雨が起こっており、毎秒約100個の雷が地面に落ちているといいます。日本の落雷密度分布図をみると、私の住んでいる山口県(山陽)も落雷頻度が高い方です。確かに近年、異常気象が増え、環境は変わってきたように感じます。しかし、雷に関する体感でいえば、昔(といっても30年ほど前ですが)の方が落雷は多かったように感じています。これは落雷による停電が多かったのか、落雷によって業務への影響が大きかった所為でそう感じているのかも知れません。そういえば、もっと昔のこどもの頃は雷が鳴ったら、蚊帳(かや)の中にじっとしておれと教えられていました。これには一利ありますが、いつの頃からか蚊帳は無くなってしまいました。ところが、最近のキャンピング・ブームで、蚊帳が注目を集め始めているようです。
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