本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・TaiyoOIl.net, T-116火災事故報告(概要), August 31, 2012
当該情報は太陽石油社内の事故調査対策委員会の事故報告書(概要)として公表されたものである。社外者から見ると、理解しずらい点があり、一部表現を代えてまとめた。
<事故の状況>
■ 2012年6月27日(水)10時45分頃、愛媛県今治市菊間町にある太陽石油四国事業所において内部検査のため開放中の液化石油ガス用球形タンクT-116から出火し、内部で工事中の作業員1人が負傷する事故があった。
2010年建設完了時の球形タンク施設 (写真はKajima.co.jpから引用) |
■ 火災の発生した球形タンクの仕様はつぎのとおりである。
設備名: 球形タンク T-116
設置年: 2010年9月14日完成
型 式: 全溶接鋼板製球形タンク
容 量: 2,000トン
内容物: ブタン
内 径: 19,420mm
材 質: 球殻板 圧力容器用鋼板(SPV490:JIS
G 3115)
■ 球形タンクは開放点検の工事が行われることになっていた。この準備ため、6月12日(火)に仕切板を挿入して縁切りし、ガスパージのための水張りが開始され、6月18日(月)に完了した。この時点で工事への引渡しが行われた。その後、水抜きが行われ、6月22日(金)に完了した。工事のため、タンク内への入槽作業は6月25日(月)から開始され、同日から火気使用作業が行われた。工事体制は、元請会社が統括管理を行い、下請会社2社が作業を行う体制で進められた。
実況検分中のタンク外上部。右の垂直配管がブロー用配管と思われる。 ブローダウン行き配管は見えない。安全弁用のバルブが取外されている。 (写真は愛媛新聞の動画から引用) |
■ 事故当日の6月27日(水)、作業開始前のタンク内部の環境測定が行われ、タンク外上部および下部にて可燃性ガス等のないことが確認され、工事が始められた。工事は、タンク外上部でブロー用バルブの取外しおよびタンク内部で鋼製ラダーの切断が予定されていた。しかし、タンク外上部の作業で、誤ってブローダウン行き配管のフランジを開放し、仕切板の抜取りとバルブの取外しが行われた。このため、ブローダウン行き配管内のプロピレンガスがタンク内に流入し、タンク内部で溶断作業を開始しようとして使用した着火器・ガス溶断機が着火源となり、火災に至った。
<事故の原因>
■ 事故の直接原因は、タンク外上部の作業において、工事請負会社の作業員が、本来、ブロー用バルブを取外すべき作業を誤って、可燃性ガスの入ったブローダウン行き配管のバルブを取外す作業を行なったことによる。
■ 事故の要因はつぎのとおりである。
●作業内容の伝達ミス(工事請負会社): 工事請負会社内での伝達ミスおよび作業確認不足が重なったことにより、作業員が取外してはならないバルブ(ブローダウン行き配管バルブ)を取外してしまった。
●危険性の認識不足(工事請負会社): 工事請負会社内で、仕切り板が挿入されているブローダウン行き配管のフランジ開放を行った場合、可燃性ガスが漏洩するという危険性の認識が共有されていなかった。
●作業環境設定への配慮不足(事業者): ブローダウン行き配管のフランジ開放、仕切板の抜取りおよびバルブの取外しをされた場合、配管内部のガスが漏洩するという危険性があったが、バルブ閉止、仕切板挿入および仕切板への表示を終えた段階(6月上旬に実施)で、事業所の規則に基づいた環境設定の対応は完了しており、誤作業等により環境設定が崩されることを想定していなかった。
<再発防止策>
(1)工事請負会社の「作業の見える化」を徹底指導
工事請負会社内での伝達ミスを防止し、危険箇所に対する認識を全作業員が共有するために、作業指示書や図面等を活用した書類を用いた「作業の見える化」を徹底するよう指導する。
(2)事業所従業員の立会い強化
事故前日に、大気開放となっている安全弁の仕切板とバルブの取外しを行っており、当該ブローダウン行き配管の仕切板とバルブの取外し作業も同様に問題ないと錯覚し易い状況があった。
安全な作業環境を設定する上で、仕切板の挿入・取外しは最も重要な行為であり、現在の事業所規則では、可燃性ガス等危険性のあるフランジ等の開放作業においては、事業所従業員が必ず立会いすることになっているが、今後は誤作業による環境設定の変更が生じないよう、全ての仕切板(気密テスト等で使用するテストプレートは除く)の挿入・取外しにおいて、事業所従業員が立会う。
安全な作業環境を設定する上で、仕切板の挿入・取外しは最も重要な行為であり、現在の事業所規則では、可燃性ガス等危険性のあるフランジ等の開放作業においては、事業所従業員が必ず立会いすることになっているが、今後は誤作業による環境設定の変更が生じないよう、全ての仕切板(気密テスト等で使用するテストプレートは除く)の挿入・取外しにおいて、事業所従業員が立会う。
(3)作業禁止機器の管理強化
作業環境設定用の仕切板とバルブには表示を行っているが、今後は、開放してはならない旨を強調して表示し、更に固縛を行い誤作業を防止する。
(4)工事請負会社への教育
事業所内で作業する工事請負会社で構成される建設業安全協力部会を通じて、フランジ開放や仕切板挿入・復旧等、開放作業の危険性や作業手順等について再教育を実施する。
補 足
■ 「プロピレン」は、分子式C3H6のオレフィン系炭化水素で、無色・無臭の可燃性の気体である。沸点-47.7℃、ガス比重1.48(空気=1.0)で、一般には液化石油ガス(LPG)と同様、高圧ガスとして取り扱われる。プロピレンはエチレンの熱分解などで副生されるが、太陽石油では流動接触分解設備(FCC)により得られたオフガスだと思われる。用途としてはポリプロピレン(合成樹脂用)、アクリロニトリル(合成繊維、合成ゴム用)の原料である。
■ 「ブローダウン配管」は緊急時や運転停止作業中などで装置や高圧タンクから系外へ液体を排出するために設けられた配管で、常時は常圧またはわずかに正圧である。今回の事例では、プロピレンが無色・無臭のガスで、配管フランジを開放しても、漏洩音がなく、臭いもしなかったため、作業員は気がつかなかったと思われる。プロピレンはガス比重が空気より重く、配管の開放部から下方へ流れ、タンク内へ入ったものである。
事故後、なぜか漏れたガスの種類を明らかにすることが避けられた。本来、液化石油ガスタンクは高圧ガス保安法の適用を受け、愛媛県の管轄であるが、ブローダウン配管から漏れたプロピレンによる事故は高圧ガスとは関係のない軽微な事象と判断し、負傷者が出ている事故にも関わらず、愛媛県は実況検分に立入りしなかったものと思われる。
所 感
■ 前回の事故情報を紹介した際、太陽石油のホームページのニュース・リリースが3回出た後、ぱたっと発信されず、意図的な配慮を感じ、果たして真実の原因調査結果が出るのか疑問が残るという所感を書いた。そして、「事故事例は二度と起きないように、事実を明らかにし、再発防止策を出して活かすことである。これは官庁の組織内や発災事業所内に死蔵することなく、公にして他社でも活用できるようにすることが重要であり、真実の原因調査結果が公表されることを期待する」と結んだ。その後、社内の事故調査対策委員会のまとめた事故原因調査報告書が公表されたことは大変評価する。
■ 「三井化学岩国大竹工場の爆発事故(2012年)の原因」の情報を当ブログで紹介した際、所感で、事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報告・連絡・相談(報連相)により情報を共有化する」の3つだと述べた。過去の失敗事例要因を調べてみると、危険予知不足が60~70%、ルール遵守不足が20~30%で、この2つが圧倒的に多いが、報・連・相不足によるものも5~10%程度ある。今回はその
「報連相により情報を共有化する」ということの欠けたことが主要因で起こった事故であった。
一方、事故原因および再発防止策に書かれた内容を整理し、深層原因を想定して、今回の事例を「ルール」と「危険予知活動」と「報連相」に関して階層毎に分析してみれば、次表のようになり、失敗要因と対策がわかりやすくなる。
後 記; 最近、山口県では、石油コンビナートなどで事故が起きた場合、県の主幹課から各地区の「環境保健所」へ通報するというルールを新たに設けることになったという記事が新聞に載っていました。水質汚濁や大気汚染に対応するためだといいいます。以前からずっとこのブログで述べているように環境汚染事故発生時の対応や住民避難の要否判断は自治体の環境部署ですので、やっと一歩前進したと思います。事故は起きないことに越したことはありませんが、ロシアで隕石が落ち、多くの被害が出るような世の中です。備えは大切です。
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