今回は、2021年10月25日(月)、リビアのザウィヤにある国営石油公社のナショナル・オイル・コーポレーションのザウィヤ製油所の近くで武装グループ間の銃撃戦によって製油所内の貯蔵タンクが損傷を受けた事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、リビア(Libya)のザウィヤ(Zawiya)にある国営石油公社のナショナル・オイル・コーポレーション(National
Oil Corporation;NOC)のザウィヤ製油所(Zawiya
oil refinery)である。
■ 被災したのは、ザウィヤ製油所のタンク地区と潤滑油混合・充填プラントにある貯蔵タンクである。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2021年10月25日(月)の夜中に約3時間にわたる武装グループ間による衝突によって、ザウィヤ製油所は
深刻な被害を受けた。
■ 目撃者によると、銃撃者たちが製油所のまわりで激しく交戦していた。グループの身元も衝突の原因も不明だが、2つのアルザウィヤ武装勢力とみられ、小型機関銃などの軽火器(Light Weapons)や中機関銃などの中火器(Medium
Weapons)を使用していたという。
■ 被害があったのは、タンク地区において石油製品や原油用の貯蔵タンク8基に損傷を受け、潤滑油の混合・充填プラントにおいてベースオイルやケミカル添加剤の貯蔵タンク5基に損傷を受けた。
■ 損傷を受けたタンクの中でベースオイル(SN150)を貯蔵するタンクT9から大量に漏れが発生した。
■ 潤滑油の混合・充填プラントの主電源につながる変圧器が損傷を受け、潤滑油の混合・充填プラントの製造ラインの建屋の天井が破損した。
■国立石油公社(NOC)は、暴挙を犯罪行為と表現し、彼らは労働者の生命を顧みることなく、ひいてはリビア国家と市民の生活に大きな損害を与えたと非難した。
■ 製油所構内の従業員に死傷者は出なかった。
被
害
■ タンク地区の石油製品や原油用の貯蔵タンク8基に損傷を受け、潤滑油の混合・充填プラントのベースオイルやケミカル添加剤の貯蔵タンク5基に損傷を受けた。
■ このうちベースオイル(SN150)を貯蔵するタンクから大量に漏れが発生した。
■ 潤滑油の混合・充填プラントの主電源につながる変圧器が損傷を受けた。また、潤滑油の混合・充填プラントの製造ラインの建屋の天井が破損した。
■ 製油所構内の従業員に死傷者は出なかった。
< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因は、内戦の銃撃による被弾である。事故の分類では「故意の過失」に当たる。
< 対 応 >
■ ザウィヤ製油所は、戦闘の被害を受けたが、プラントの操業は正常に稼働しているという。
■ リビアの主要な収入源である石油部門は、10年前に長年の独裁者ムアンマル・カダフィ(Muammar Gaddafi)が亡くなった以来、不安によって混乱してきた。
補 足
■ 「リビア」(Lybia)は、地中海に面する北アフリカに位置し、人口約699万人の共和制国家である。原油はリビアの主要な天然資源であり、埋蔵量はアフリカ最大の480億バレルと推定されている。
2011年、カダフィ打倒を旗印にしたリビア国民評議会とカダフィ政権側の間でリビア内戦が勃発し、10月に42年間続いたカダフィ政権は崩壊した。しかし、カダフィ政権崩壊後も内政は混乱している。
「ザウィヤ」(Zawiya)は、リビアの北西部に位置し、地中海に面した人口約20万人の都市である。日本名ではザーウィヤともいい、リビア首都のトリポリ(Tripoli )の西約40kmにある。
■ 「ナショナル・オイル・コーポレーション」(National Oil
Corp.:NOC)は、1970年に設立されたリビアの国営石油会社で、石油・天然ガスの掘削・生産のほか、製油所・石油化学工場を有する。ナショナル・オイル・コーポレーションは、ザウィヤ製油所のほか2つの製油所を有している。
■「ザウィヤ製油所」(Zawiya oil refinery)は、120,000バレル/日精製能力を有する。リビアで最も機能している製油所で、約30万バレル/日の生産能力を持つシャララ油田に接続されている。
■「被災タンク13基」の位置に関する詳細な情報はない。しかし、製油所の配置と被災タンクが「タンク地区の石油製品や原油用貯蔵タンク8基、潤滑油混合・充填プラントの貯蔵タンク5基」を考えあわせてみると、製油所の西側と推測できる。西側には建屋があり、比較的小型のタンクが並んでおり、その奥側には浮き屋根式タンクが並んでいる。また、製油所西側の境界は住宅地域と接しており、銃撃戦が行われた場合、タンクは被災する位置にある。
所 感
■ 事故の原因は、内戦の銃撃による被弾で意図したものではないにしても、事故の分類では「故意の過失」である。武器は、小型機関銃などの軽火器(Light Weapons)や中機関銃などの中火器(Medium Weapons)などを使用していたとみられる。13基のタンクに被弾し、うち1基からは内液が流出している。タンクを標的としたわけではなく、いわゆる流れ弾だったとみられるが、火災にならずに良かったという印象である。
過去の事例で銃弾によるタンクの被災例は、つぎのとおりである。
●2012年1月、「米国オクラホマ州で銃弾によるタンク火災」
●2017年10月、「米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃」
「米国のラスベガス銃乱射事件」では、半自動ライフル銃で約600mの距離を容量6,800KLのジェット燃料タンク(推定;直径約25m×高さ約14m)の側板を貫通している。ロケット砲などを使用しないでも、タンクを標的とすれば銃弾であっても側板を貫通したり、火災に至る可能性がある。鉄板だから防弾機能があると思い込まないで、テロ対応を考えるべきである。
■ リビアは内戦で国内が疲弊しているといわれているが、過去からつぎのようなテロ攻撃によるタンク火災があっている。
●2014年7月、「リビアで国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災」
●2014年12月、「リビアでロケット弾による原油貯蔵タンク火災」
●2016年1月、「リビアの2つの石油施設基地で砲撃によって複数のタンク火災」
●2016年1月、「リビアの石油施設基地で再び砲撃によるタンク火災」
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Tankstoragemag.com, Tanks at Zawiya refinery damaged by
‘skirmishes’, October 28, 2021
・Africanews.com, Lybia's Zawiya oil refinery suffers damages due to
armed clashes, October 27, 2021
・Reuters.com, Libya's Zawiya oil refinery severely damaged after
skirmishes, NOC says, October 27, 2021
・Libyanexpress.com, Zawiya Oil Refinery suffers damages, October 29, 2021
・Spglobal.com, Libya's Zawiya refinery operating normally after
sustaining damage following skirmishes,
October 27, 2021
・Hellenicshippingnews.com, Libya’s Zawiya operations unaffected by
damage, Nobember 02, 2021
・Refiningandpetrochemicalsme.com, Libya’s only operation refinery
severely damaged after a gun battle,
October 27, 2021
・Libyaobserver.ly, Clashes in Libya's Al-Zawiya city cause damage to
oil refinery, October 26, 2021
・Lana-news.ly, Al-Zawiya Oil Refining reveals its losses due to armed
clashes last night, October 27, 2021
・Libyaherald.com, NOC condemns militia skirmishes damaging Zawia Oil
refinery, October 27, 2021
後 記: 今回の事故情報はリビアの内戦に関わる政治的な話に向いてタンク事故としては内容の薄いものでした。それでも、しぶとく調べていくと、メディアの中に、銃撃者たちがLight WeaponsとMedium Weaponsを使用していたと報じていました。
調べると、Light Weaponsは人が携帯できる機関銃などで、
Medium Weaponsはそれより重装備な脚の付いた機関銃などということが分かりました。私を含めて火器に疎い人のためにリビアで使用されている銃の写真を参考に入れることとし、顔がはっきりしているのは、Windowsの“ペイント”の機能を使用してモザイク(ぼかし)をかけてみました。
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