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2019年8月23日金曜日

ベネズエラの超重質原油アップグレード関連施設でタンク火災

 今回は、2019年3月13日(水)、ベネズエラ東部のアンゾアテキ州サンディエゴ・デ・カブルティカにあるベネズエラ国営石油公社PDVSAの子会社でオリノコベルトの超重質原油アップグレード・プロジェクトを実施しているペトロ・サン・フェリックス社の施設にある石油貯蔵タンクが爆発・火災を起こした事例を紹介します。
写真Orinocotribune.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ベネズエラ(Venezuela)東部のアンゾアテキ州(Anzoategui)サンディエゴ・デ・カブルティカ(San Diego de Cabrutica)にあるペトロ・サン・フェリックス社(Petro San Felix)の施設である。ペトロ・サン・フェリックス社は、ベネズエラ国営石油公社PDVSA(Petróleos de Venezuela, S.A.)の子会社である。

■ 発災があったのは、オリノコベルトの超重質原油アップグレード・プロジェクト(Heavy-crude upgrading project)の石油貯蔵タンクである。貯蔵タンクはペトロ・サン・フェリックス社施設のポンプ場に設置されていた。
          ベネズエラのアンゾアテキ州南部付近  (写真はGoogleMapから引用)
       ベネズエラのサンディエゴ・デ・カブルティカ付近  (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年3月13日(水)正午頃、ペトロ・サン・フェリックス社の施設に設置された2基の石油貯蔵タンクが爆発して火災となった。タンクからは炎と黒煙が空に吹き出した。

■ 貯蔵タンクは容量40,000KLで、油種は希釈剤用だった。タール状の超重質原油を原油生産現場からパイプラインを通じてを移送するためには、希釈剤を混合する必要があるが、ベネズエラ国営石油会社PDVSAでは、通常、希釈剤として軽質原油または燃料油を使っている。

■ 発災のあったタンクは、1基は高さ22フィート(6.7m)まで入っていたが、もう1基は空に近かった。 

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。火災の制圧には約18時間を要した。
 
■ 火災の輻射熱が激しく、発災現場に近い地元住民約10世帯が避難した。

■ 3月13日(水)午後6時頃、3回目の爆発が発生した。この火災は3月14日午前6時頃に消火した。

■ 事故に伴う死傷者は出なかった。

■ 爆発をとらえた動画がユーチューブに投稿されているが、夜に撮影されたもので、3回目または再燃した火災ではないかと思われる。

被 害
■ 石油貯蔵タンク3基が火災で焼損し、内液の石油が焼失した。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は不詳である。

< 対 応 >
■  3月13日(水)の夜、ベネズエラ国営石油会社PDVSAの総裁は、ベネズエラの大統領の政治的な敵対者のテロリストによる襲撃の仕業だとツイッターで述べた。

■ サンディエゴ・デ・カブルティカにある希釈システムを操作するプラントは、大規模な停電のため週末から麻痺していたが、復旧し、電源を入れようとしたときに、爆発が起こったという情報がある。ベネズエラでは、3月7日(木)に全土で発生した停電から1週間が経過し、徐々に復旧したが、首都カラカスですら電気は不安定で、完全復旧にはほど遠い状態である。
(写真はSouthfront.orgから引用)

(写真はSouthfront.orgから引用)
(写真はSouthfront.orgから引用)

(写真はTodayvenezuela.comから引用)
(写真はTodayvenezuela.comから引用)

(写真はDinero.com.veから引用)
補 足                                   
ベネズエラのオリノコベルト
(図はToyo-keizai.co.jpから引用) 
■ 「ベネズエラ」 (Venezuela)は、正式にはベネズエラ・ボリバル共和国といい、南米の北部に位置する連邦共和制社会主義国家である。人口は約3,100万人で、首都はカラカスである。ベネズエラはマラカイボ湖やオリノコ川流域を中心に多くの石油が埋蔵し、古くから油田開発が進められ、経済は石油に依存している。
 「アンソアテギ州」 (Anzoategui)は、ベネズエラ北東部に位置し、美しいビーチのある観光地として知られている。州の人口は約148万人で、州都はバルセロナである。
 「サンディエゴ・デ・カブルティカ」(San Diego de Cabrutica)は、アンソアテギ州南部にあるホセ・グレゴリオ・モナガス市(人口約17,000人)にある6つの自治体のひとつである。

 当ブログに投稿したベネズエラのタンク事故情報は、つぎのとおりである。

■「ペトロ・サン・フェリックス社」(Petro San Felix)は、ベネズエラのオリノコベルトの超重質原油アップグレード・プロジェクトを実施する会社で、ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の子会社である。フランスのTotal SA、ノルウェーのEquinor ASA、ロシアのRosneft、米国のChevronは、PDVSAとの合弁会社の少数株主である。
 「ベネズエラ国営石油公社」( Petróleos de Venezuela, S.A.、略称PDVSA)は1976年に設立され、ベネズエラ政府が100%出資する石油会社で、日本ではベネズエラ国営石油会社あるいはベネズエラ石油公団とも表記される。設立時は人事の政治化を排除し、政府から独立した合理的な経営が行われていたが、チャベス前大統領が就任後、PDVSA上層部の刷新や職員の大量解雇が実施されたことに加え、PDVSA総裁はエネルギー石油大臣の兼務となり、PDVSAに対する政府の関与が著しく強まった。社会開発事業へ資金を提供するなど国家財政に対する度合いが増し、食料、電力、セメントなど石油関連以外の子会社をその傘下に加えるなど、政府の一機関としての側面が強まったが、政府の経済政策が破綻してしまい、経営は完全にゆき詰まっている。

■「発災タンク」は、タンク型式が浮き屋根式とみられ、容量40,000KLという情報を採用した。サンディエゴ・デ・カブルティカ付近のグーグルマップでは、開発造成地のみでタンクなどは写っていないので、裏付けはとれていないが、被災写真から規模的には妥当だと思われる。
サンディエゴ・デ・カブルティカ付近のプラント敷地と思われる場所 
(写真はGoogleMapから引用)
■ 37日(木)にベネズエラ全土で発生した「大停電」は5日ほど続き、国内に大きな影響が出ており、1日あたり18,000万ドル(約200億円)以上の経済損失が発生しているといい、少なくとも国内総生産(GDP)を2%押し下げるとの指摘もある。停電が長引いたことで、世界最悪水準とされる治安の悪化がひどくなっている。この大規模停電は米国のテロ攻撃だと噂が出ているが、草刈りを怠ったために高圧線の近くで山火事が起きるなど、複数の要因が重なったのが原因だという。さらに、325日(月)、2回目となる停電が発生し、首都カラカス郊外の主要空港は暗闇に見舞われ、地下鉄が運休となる中、歩いて帰宅する通勤者が道路を埋め尽くした。

所 感
■ 貯蔵タンクの爆発・火災の原因は、テロによるものでなく、当時、ベネズエラの大規模停電が復旧し始めていた頃であり、この復電作業と関連した事象だと思われる。日本でも、2018年9月北海道電力・苫東厚真発電所の胆振東部地震による損傷」により、北海道全域がブラックアウトになるという事故があった。企業内の自家発電所が何日間も停電が続くということはないが、長期の停電があった場合に、石油施設で爆発混合気が形成するようなことがあるのかどうか一度は検討しておくことも必要かもしれない。

■ タンク上空からの被災写真をみると、タンクは浮き屋根式で、屋根上で燃えているとみられる。本格的な消火活動が行われている様子は見られないので、タンク火災は浮き屋根上の油が燃え尽きて消えたのではないだろうか。空に近かったタンクの火災も同様に残油が燃え尽きて消えたと思われる。一方、3基目のタンク火災についてはほとんど情報が出されておらず、状況はわからない。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
   ・Oorinocotribune.com, Two Tanks Explode in Oil Facilities in Venezuela,  March  14,  2019
    ・Reuters.com,  Oil Storage Tanks Explode in Venezuela, While Main Terminal Resumes Shipments,  March  14,  2019
    ・Reuters.com, UPDATE 2-Storage Tanks Explode at Venezuela Heavy Oil Project –Sources,  March  14,  2019
    ・Hydrocarbonprocessing.com, Storage Tanks Explode at Venezuela Heavy Oil Project,  March  13,  2019
    ・Xinhuanet.com, Two Chemical Tanks Explode at Venezuela Oil Company Facility,  March  14,  2019
    ・Hazardexonthenet.net, Venezuela Tank Farm Explosion Blamed on “Terrorist Incursions”,  March  14,  2019
    ・Oilnow.gy, Storage Tanks Explode at Venezuela Heavy Oil Project,  March  13,  2019
    ・24-my.info, In Venezuela, Exploded Oil Tanks,  March  14,  2019
    ・Southfront.org, IN PHOTOS: EXPLOSIONS AT VENEZUELA’S PETRO SAN FELIX HEAVY OIL PROJECT,  March  13,  2019
    ・Elpitazo.net, Tras 18 horas de labores controlaron incendio en Petro San Félix,  March  14,  2019
    ・Dinero.com.ve, Presidente de PDVSA acusó a Marco Rubio de explosión en tanques de Petro San Félix,  March  17,  2019
    ・ Elcomercio.pe, Explotan tres tanques de almacenamiento de petróleo en Venezuela,  March  14,  2019   


後 記: 本情報は最近、別な調べをやっていて知ったタンク火災です。発災から5か月ほど経っていますが、日本と違って(?)インターネット情報は残っていました。しかし、情報公開という点においてベネズエラはひどい状況にあります。事業者というべきベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の総裁(兼石油大臣)が政治的な敵対者のテロリストによる襲撃の仕業だとツイッターで述べているわけですから、事故に関する事実は開示されないでしょう。実際、その後、ベネズエラ政府側から情報は出ていません。
 ところで、ツイッターって何なのでしょうか。単なるつぶやきですが、公人が出せば、影響はあるわけです。しかし、公的な報告ではないので、聞いた噂と言ってしまえば、責任はないですよね。ただ、信じている人(信じたいと思っている人)もいるでしょう。第二次大戦中の日本の大本営発表みたいに事実ではないことが、まことしやかに流されているように思います。今回の事故情報をきっかけにベネズエラの国を調べましたが、前回2012年にタンク事故を紹介したときより国情は驚くほど悪くなっています。超インフレ、5年連続マイナス経済成長、3年間で総人口の1割(300万人)以上の国民が国を脱出、今年1月以降は2人の大統領が並び立つという異常な事態にあります。中米の石油大国というのが昔の(教科書の)印象ですが、いまは見る影もない状況です。
ベネズエラにおける経済成長率と石油価格の推移
(図はIde.go.jp から引用)


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