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2012年10月1日月曜日

ベネズエラの製油所で落雷によるタンク火災

 今回は、2012年9月19日、ベネズエラのカラボボ州にあるベネズエラ国営石油公社(PDVSA)のエルパリト製油所で落雷によって2基のナフサタンクが火災になった事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・NBCNews.com, Venezuela Seas Refinery Fire out on Friday,  September  20, 2012
  ・ElUniversal.com,  Pdvsa: Daily Operation Continue Despite Fire in Refinery,  September  20, 2012
    ・ElUniversal.com,  Fire Continues at El Palito Refinery,  September  21, 2012
      ・FireDirect.net, Lightning Hit Two Naphtha Tanks at EL Palito Refinery,  September  21, 2012
    ・Reuters.com, Crews Extinguish Fire at Venezuela’s El Palito Refinery,  September  22, 2012
      ・NTN24.com, Venezuela Refinery Fire Put out, September  23, 2012      

<事故の状況> 
■  2012年9月19日(水)午後7時30分頃、ベネズエラのカラボボ州にある製油所で落雷によってタンクが火災になる事故があった。事故のあったのは、カラボボ州プエルトカベヨにあるベネズエラ国営石油公社(PDVSA)のエルパリト製油所のタンク地区で、カラボボ州地域を通過した嵐に伴って発生した雷が落ち、2基のタンクが火災となった。 火災になったタンクは、ナフサ貯蔵用で170-5タンクと170-6タンクである。エルパリト製油所の精製能力は、PDVSAのウェブサイトによると、140,000バレル/日である。 
■ プエルトカベヨのラファエル・ラカバ市長の話によると、エルパリト製油所にある2基のナフサ貯蔵タンクの屋根シール部で火災が発生したが、消防隊によって完全に制圧下にあるという。国営テレビのベネズエラ・デ・テレビジョン(VTV)のインタビューの中で、ラカバ市長は、カラボボ州地域が過去30年間経験したこともないような雷を伴った嵐に襲われたと説明していた。不幸なことに、落雷の一つがナフサタンクを直撃し、これによって1基のタンクが火災になり、もう1基に小火が発生したと語っている。
 石油鉱業省のラファエル・ラミレス大臣は、19日午後8時30分過ぎに事故発生について発表し、VTVのインタビューの中で、「激しい雷を伴った嵐が通過した際、落雷によって2基のナフサタンクのシール部に火災が発生しました。火災が発生したのは夕方の7時30分でした」と語っている。
■ バレンシア~プエルトカベヨ間の高速道路は、エルパリト製油所付近において火災の消火活動を円滑にするため、一時的に交通遮断が行われた。 
(写真はStorify..comから引用)
■ PDVSAでは、先月アムアイ製油所で爆発事故があってから一か月も経たない日に起こった事故である。今回の事故は、 42人の死者と1,600戸の住宅への被害を出したアムアイ製油所の大災害を思い起こさせ、心配する声があがった。 当局は、火災がエルパリト製油所の生産設備から離れた場所で起こっており、地元住民に危険はないと発表している。 石油鉱業大臣兼PDVSA総裁のラファエル・ラミネス氏は、「今回の事故は、アムアイの事故とは比較にならないほど規模は小さい」と付け加えている。
■ PDVSAとプエルトカベヨの消防隊、およびこのほかに参加したボランティアの対応は時宜を得たものだったと、国営通信社AVNのインタビューの中でラカバ市長は強調し、「憂うべきことは何もありません。デマが飛び交っているようですが、プエルトカベヨの自治体は穏やかなものです。不安になる理由がありません」と語った。 ラカバ市長は、依然として燃えている2基目のタンクの火災についてPDVSAが完全に制圧下に入れていると言い、「私たちは、消防隊が消火活動をしている火災タンクのすぐ近くまでに行きましたが、危険性はありませんでした。製油所は全プラントが操業を継続しています」と強調して言った。 
■ 火災によって真っ黒な煙がタンク上空に立ち昇っている。170-6タンクの火災は19日水曜の夜には収束したが、170-5タンクの火災は激しく、炎上し続けた。専門家によると、タンク内に燃料がある限り、このような状態が続くのは普通だと言っている。
 120名の消防士が現場で消火活動に当たり、火災タンクのうち1基は数時間で消火したが、2基目のタンクは20日木曜日も燃え続け、チャベス大統領は「神が許したまわば、明日、2基目のタンク火災も撃退されるだろう」とテレビで語っていた。
 石油鉱業省ラミネス大臣は、「今、燃えているタンクには、約50%以上のナフサが入っていましたが、別なタンクへ移送しましたので、もうそれほど多い量の油は入っていません。これで、消火活動を効果的に進めることができるでしょう」と語った。 
(写真はElUniversal.comから引用)

(写真はRCTV.netから引用)

                           炎上するタンクと放水   (写真はKwaitTimes.netから引用)

■ PDVSA精製部門長のアストラバル・チャベス氏は、21日金曜日の遅く、消防隊によって火災は鎮火したと語った。落雷によって発生した火災事故に伴う怪我人は無かった。
■ 最近、PDVSAの製油所において事故がよく起こっているが、評論家は、チャベス政権が石油による収入を福祉などの政策に回して、石油工業への歳出を減らしているためだと言っている。  


補 足
■  「ベネズエラ」は、正式にはベネズエラ・ボリバル共和国といい、南米の北部に位置する連邦共和制社会主義国家である。人口は約2,850万人で、首都はカラカスである。ベネズエラはマラカイボ湖やオリノコ川流域を中心に多くの石油が埋蔵し、古くから油田開発が進められ、経済は完全に石油に依存している。
 「カラボボ州」はベネズエラの中北部に位置し、人口約222万人で、州都はバレンシア(人口約130万人)である。
 「プエルトカベヨ」は、カラボボ州の北部でカリブ海に面しており、人口約154,000人の都市である。

■ 「ベネズエラ国営石油公社」( Petróleos de Venezuela, S.A. 略称PDVSA)は1976年に設立され、ベネズエラ政府が100%出資する石油会社で、日本ではベネズエラ国営石油会社あるいはベネズエラ石油公団とも表記される。
 設立以来、人事の政治化を排除し、政府から独立した合理的な経営が行われていたが、チャベス大統領就任後は、PDVSA上層部の刷新や職員の大量解雇が実施されたことに加え、PDVSA総裁は石油鉱業大臣の兼務となり、PDVSAに対する政府の関与が著しく強まった。また、社会開発事業へ資金を提供するなど国家財政に対する貢献の度合いも増し、食料、電力、セメントなど石油関連以外の子会社をその傘下に加えるなど、政府の一機関としての側面も強まっている。

 カラボボ州プエルトカベヨには、精製能力140,000バレル/日の製油所を有している。(報道によっては135,000あるいは146,000バレル/日という数値もある)
               ベネズエラ国家石油公社のエルパリト製油所      (写真はグーグルマップから引用)
               (右から3番目の浮き屋根式タンクで火災発生)  (中央部は貯水池)
 
■ 発災タンクの大きさは、グーグルマップの航空写真によると、直径50mクラスと推測される。高さを15~20mとすれば、容量は30,000~40,000KLクラスである。
 燃焼した油はナフサであるが、ガソリンに近い留分(情報によってはタンク内液をガソリンと報じているところもある)として燃焼速度を33cm/h(消防研究所の燃焼実験結果)と置き、タンク容量の50%に油が入っていて全面火災した場合、燃え尽きる時間は22~30時間である。
 実際の火災は推算より長く、丸2日(48時間)燃えている。火災中に油を移送したという情報があるが、タンク火災では油を移送することは適切でないといわれており、実際の火災時間が長いことと考え合わせると、移送されたかは疑問である。なお、燃え尽きる(鎮火)までの時間が長かったのは、完全な全面火災でなく、浮き屋根が完全に沈没せずに、障害物となり、燃焼が長く続いたのかもしれない。一方、火災のあった2基目のタンク位置はわからなかった。

所 感
■ ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)の製油所では、2012年8月25日、ファルコン州のアムアイ製油所で死傷者を出すタンク爆発・火災事故があったほか、 2012年8月17日、ベネズエラ沖のカリブ海に浮かぶオランダ王国キュラソーで実質的にPDVSAが運営しているイスラ製油所で油漏洩があり、環境汚染を起こす事故が起こっている。そして、今回、2012年9月19日、カラボボ州のエルパリト製油所における落雷によるタンク火災である。一つの会社(公社)で1か月余に3件のタンク事故が発生するのは、聞いたことのない出来事である。
■ 今回の事故は、原因が落雷であるが、注目するのは、「カラボボ州地域に過去30年間経験したこともないような雷を伴った嵐に襲われた」と説明していることである。今回の落雷では、写真で見ると近くに専用の避雷塔があるにも関わらず、2基のタンクに火災が発生し、その激しさがわかる。最近、日本でも雷が多くなっており、これまで落雷によるタンク火災が起こっていないからと言って、これからも起こらないという理由はない。落雷によるタンク火災は、通常、リムシール火災で収まるが、今回の事例では、全面火災に近い事故となり、消火困難な火災になっている。これまでの常識を越える落雷によるタンク火災が実際に起こっているということを認識すべきである。
■ 今回の情報では、消防活動の状況は余りわからない。写真によると、冷却の放水は行われているが、泡消火は行われていないように見える。大きな貯水池が見られ、消防用水は十分だったと思われる。1基目のタンク火災で泡薬剤を使い、2基目には泡薬剤や大容量泡放射砲など消防資機材の不足があったかわからないが、消火戦略としては、積極的(オフェンシブ)戦略を諦め、防御的(ディフェンシブ)戦略を選択し、消火戦術は火災の曝露対策と事故の拡大防止策に限定し、燃え尽きさせる戦術をとったように思う。
 日本では、複数基のタンク火災を想定していない。しかし、ベネズエラのアムアイ製油所のタンク火災やエルパリト製油所の落雷によるタンク火災でわかるように現実には起こっている。以前も指摘したが、法令による消防設備の設置義務とは別に、タンクの複数基火災について机上訓練を行い、弱点の有無を把握しておくべきである。

後記;  今回のベネズエラ国営石油公社の一連の事故をまとめていて思い出したのは、2010年のBP社です。この年はBP社のメキシコ湾原油流出事故があった年ですが、同年9月22日にテキサス州BPテキサス製油所でスチーム噴出による人身事故があり、9月30日に同製油所で油の流出事故が起こりました。このときに米国の報道記事に“It has not been BP's year”という表現があり、“今年は米国BP社にとって厄年!?”という意訳をしました。ベネズエラ国営石油公社にとってまさに今年は“厄年”だな。と思っている中で、9月29日、姫路市の日本触媒で爆発事故があり、死者1名を含め多くの負傷者が出たというニュースが大きく報じられました。アクリル酸の貯蔵タンクいうことで、情報を調べてみようと思っていますが、今年は岩国で三井化学で爆発事故がありましたし、日本も“厄年”かな。


















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