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2018年9月28日金曜日

米国ジェファーソン郡の化学工場でタンクからスチレン漏洩

 今回は、2018年8月22日(土)、米国テキサス州ジェファーソン郡ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場でスチレンが漏れた事故を紹介します。
ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場付近
(写真はGoogleMapから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson County)ポート・ネチズ(Port Neches)にあるライオン・エラストマー社(Lion Elastomers )の化学工場である。

■ 発災があったのは、ポート・ネチズにある化学工場のタンク施設である。
ライオン・エラストマー社の化学工場南端にある横型タンク群
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年8月22日(土)午後9時頃、ポート・ネチズのライオン・エラストマー社の施設でスチレンが漏れる事故があった。

■ 住民は、22日(土)の夜遅く、なじみの薄い臭いが近隣に広がっていったことに話題となった。住民のひとりは、「最初、暴走族が蚊とりスプレーを撒き散らしていったと思っていたが、臭いは消えず、だんだん強くなっていった」と話した。別な住民は、「私たちは、ここから避難すべきなのか、ひどい状態なのか知らされていなかった。とにかく、かなり強い臭いだった」と語った。

■ スチレンの臭いは強烈で、わずかな量でも住民はたじろいでしまう。住民のひとりは、「私には喘息気味の男の子がいるのですが、臭いがひどくて、外に出たがりません」と話している。

■ 臭いは近くにあるライオン・エラストマー社の工場の方から漂っていた。ライオン・エラストマー社は、ポート・ネチズ消防署へスチレンの漏れがあったことを報告した。

■ 消防署は、しばらく近隣地区に強い臭いが残るかもしれないが、化学物質の濃度としては危険レベルをかなり下回っていると話している。消防署は「外に居ても安全である」と発表した。消防署の推定によると、化学物質の能力から周辺地区では漏洩による臭いを感じることができるだろうという。スチレンの臭いしきい値(嗅覚しきい値)は0.016ppmで、極めて少量でも強い臭いを感じるという。

■ ライオン・エラストマー社の広報担当は、漏洩はわずかな時間だけで、漏れ量はわずかだといい、漏洩したスチレンは有害な量ではないと語った。広報担当は、工場の南端にあるタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったと語った。

■ 22日(土)夜のスチレン濃度は5ppm以下と報告されており、危険レベル以下である。米国環境保護庁(EPM)によると、ほとんどの人が一時的な副作用を訴える前に1時間曝露できる最大の大気中濃度は5.04ppmである。米国安全衛生労働局(OSHA)によると、作業環境におけるスチレンの許容濃度は、8時間の平均で100ppmである。

被 害
■ スチレンが漏洩して、周辺住民から臭気のクレームが出た。
■ 事故に伴う健康への被害者はいなかった。 

< 事故の原因 >
■ 工場のタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になった。
 漏洩に至った詳しい原因はわからない。

 < 対 応 >
■ ライオン・エラストマー社は、人的な被害はないが、大気を監視している。 22日(土)夜の事故発生時からすると、空気中のスチレン濃度は下がり続けているという。

補 足
米国およびテキサス州(Texas)の位置 (日本の広さと比較したもの)
(図は123ohmygod.seesaa.netから引用)
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国の南部のメキシコ湾に面しており、人口約2,800万人の州である。州都はオースティン である。
 「ジェファーソン郡」(Jefferson County)は、テキサス州の南東部に位置し、人口約25万人の郡である。郡都はボーモント(人口約12万人)である。
 「ポート・ネチズ」(Port Neches)は、ジェファーソン郡の東部にあり、人口約13,000人の町である。
テキサス州のジェファーソン郡(赤枠)の位置
(図はGoogleMapから引用)
■ 「ライオン・エラストマー社」(Lion Elastomers LLC)は、1943年に設立された化学会社で、EPDM(エチレンプロピレンゴム)やSBR(スチレン・ブタジエンゴム)などの合成ゴム製品を製造している。同社はポート・ネチズを本拠にしており、以前はアシュランド・エラストマー社(Ashland Elastomers LLC)として知られていたが、2014年にライオン・コポリマー社(Lion Copolymer)に買収され、現在は同社の子会社として活動している。

■ 「スチレン」(Styrene)は、無色または黄色液体で、芳香性が強く、比重が0.9の石油系液体である。工業的には、エチルベンゼンを鉄触媒等で脱水素して製造され、スチレンモノマーなどとも呼ばれる。引火点32℃、沸点145℃で、高濃度の蒸気は麻酔作用があり,多発性神経炎を起こす。日本における管理濃度は20ppmである。スチレンの臭いしきい値(嗅覚しきい値)について報道では、0.016ppmとあるが、日本では0.035ppmというデータもある。

■ ポート・ネチズにあるライオン・エラストマー社の化学工場の施設内容は分からない。工場の南端にあるタンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったと言われているが、確かに工場南には、「横型タンク群」がある。しかし、どのようなプロセスでスチレンが漏洩したかは分からない。 
ライオン・エラストマー社の化学工場南にある横型タンク群
(写真はGoogleMapストリートビューから引用)
所 感
■ 今回の事故は直接的な健康被害者が出ることなく、臭気クレームだけで終わった。漏洩量はわずかだというが、スチレンの臭いがいかに強烈かを物語る事故である。施設内のスチレンなどの臭気などの知識(どのような臭いがするか)はあっても、化学工場から漏洩した場合、大きな環境問題になりうることを示す事例といえる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・12newsnow.com,  Chemical  Leak at Port Neches Plant Last Night not Considered Dangerous, Officials Said,  September  23,  2018
    ・12newsnow.com,  Port Neches Residents Concerned about Plant Leak,  September  23,  2018
    ・Hazmatnation.com,  Styrene Peak “Below Dangerous Levels”,  September  23,  2018
    ・Isssource.com, TX Plant Chemical Reaction Causes Leak,  September  25,  2018



後 記: スチレン漏洩のニュースで、タンクからの漏洩らしいということなので、調べてみました。しかし、タンクの内部で化学反応が起こり、それによってスチレンが空気中に漏洩する要因になったという以外に詳細な情報は得られませんでした。臭いだけの問題なので、消防署は手のつけようもなく、ハズマット隊は忙しかったのかも知れませんが、一般の消防士の活動の場は無かったようです。しかし、考えれば、臭気クレームだけのローカル・ニュースでも、地球の裏側の日本にまで届く時代なのですね。

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