< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、東京都多摩市唐木田の建設中の多摩テクノロジービルディング(仮称)で、三井不動産が100%出資する南多摩特定目的会社が発注し、安藤ハザマが施工していた。
■ 事故があったのは、地上3階、地下3階建ての工事中の建物(建築面積5,360㎡)で、工事は2016年10月に着工し、2018年10月に完成する予定だった。事故当時は内装工事を中心に作業しており、足場の解体や内装など、仕上げ工事に入りつつある段階だった。
<事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はSankei.comから引用)
|
■ 2018年7月26日(木)午後1時45分頃、多摩市で建設中のオフィスビル(鉄骨造り、地上3階地下3階)の地下3階の床下から出火した。
(事故の状況は、「多摩市の建設中のビルでウレタン製断熱材の火災、死傷者48名」を参照)
■ 事故発生の通報を午後1時52分に受けた東京消防庁は、ただちに現場へ出動した。
■ 現場では当時、約320人の作業員が働いていたが、逃げ遅れた男性作業員5人が煙を吸うなどして死亡した。負傷者は気道熱傷など43人にのぼり、このうち約24人は症状が重いという。死亡した5人は屋上で1人、地下3階で2人、地下3階の下の免震階で2人が発見された。亡くなった作業員は全員男性で、年齢は52歳、51歳、49歳、44歳で、一名は60歳代である。
■ 警視庁などによると、作業員2人が地下3階でガスバーナーを使い、鉄骨(金属製のくい)を切断していたところ、地下3階の下の免震階の天井部分に貼られたウレタン製の断熱材に火花が飛んで、出火したとみられる。ひとりが切断、もうひとりが火花を水で消す役割だったという。火がついた後、作業員は消火器を使うなどして消火を試みたが、火の回りが早く、瞬く間に燃え広がったという。
■ 東京消防庁によると、この火災で約70台の消防車や救急車が出動。延べ床面積約17,656㎡のうち約5,000㎡が燃え、約6時間後の午後7時40分に火災を鎮圧した。正式な鎮火時間は午後10時38分だった。
■ 5人が死亡した建設現場では、建物内で出火直後に停電が起きていたことが分かった。現場の地下3階では、出火直後に作業リーダーが「火事だ」と、トランシーバーで別な作業員に連絡した。多くの作業員が避難を始めたが、直後に停電して照明が消えたという。黒煙が充満し、作業員の避難の遅れにつながった可能性がある。警視庁は、工事用の電源ケーブルが焼けて断線したのではないかとみている。
被 害
■ 人的被害として死者5名、負傷者43名(重症13
名、中等症11 名、軽症14 名ほか)が発生した。
■ 物的被害は分かっていない。
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、警視庁が刑事事件として調査中で、8月28日(火)に安藤ハザマの関係部署に家宅捜査に入った。
■ 安藤ハザマは、「地下3階にて鉄骨のガスバーナーによる溶断作業中に、何らかの原因で火が付近の可燃物に移り、急速に延焼したもの」とみている。
■ 8月28日(火)段階で、つぎの事項がわかった。
● 当初、難燃性のウレタン材を使う予定だったが、実際は燃えやすい種類のウレタン材が使われていた。
● 鉄骨に仮設したH鋼を切断するため、ガスバーナー作業を実施した。
● 地下3階の床に隙間があったことが分かった。ガスバーナーの火花が隙間から落ち、地下3階の下の免震階の天井部分にあるウレタン製の断熱材(厚さ15mm)に引火したとみられる。
● 地下3階ではアセチレンガスのバーナー作業が二人一組で行われ、ひとりが鉄骨を切断、ひとりがコップの水をかけ、飛び散った火花を消す役割だった。
● 切断作業前に、床にベニヤ板と不燃性のシートを敷き、周辺には水もまいていた。
< 対 応 >
■ 警視庁は業務上過失致死傷容疑で捜査を始め、7月27日(金)午前、捜査員ら数十人が現場に入った。
■ 警視庁は捜査員60人態勢で臨み、8月28日(火)、業務上過失致死容疑で、施工者の「安藤ハザマ」の本社(東京都港区)と火災現場の事務所に家宅捜索に入った。同社の防火管理体勢や施工手順などに問題がなかったかを調べる方針で、燃えやすいウレタン材のそばでバーナーなどを使う際の防火措置や作業手順に不備があった可能性があるとみて、家宅捜索に踏み切った。同社本社のある港区のビルには午前10時頃、捜査1課の腕章を着けた捜査員数十人が到着し、隊列を組み、次々と中に入って行った。
■ 安藤ハザマをめぐっては、昨年2017年6月にも、同社が施工した東京都江東区の倉庫解体工事現場で同様の火災が起きている。
■ 現場では当初、難燃性のウレタン断熱材を使う予定だったが、実際は燃えやすい種類のウレタン材が使われていたという。
■ 警視庁は、現場にいた作業員約320人全員から話を聴いて火災発生時の状況について捜査するほか、押収した資料を分析して、当日の人員配置や避難経路などに問題がなかったかも調べる。
補 足
■ 「多摩市」は、東京都23区外の多摩地域南部にあり、人口約147,000万人の市である。
■ 「安藤ハザマ」は、正式には㈱安藤・間(Hazama
Ando Corp.)で、東京都港区に本社をおく大手建設会社である。安藤建設と間組(はざま・ぐみ)が合併してできた会社で、両社は対等な精神に基づく吸収合併の方式による合併(存続会社は間組)により、2013年に新会社としてスタートし、社名はそれぞれの旧社名をとり「安藤・間」(呼称は「安藤ハザマ」)となった。従業員は約3,500名である。
■ 当初使用予定だったウレタンは「難燃性のウレタン材」としたが、メディアによって「耐火性」や「不燃性」という言葉が使用されている。「難燃性」でも誤解を受けるが、「耐火性」や「不燃性」では、さらに誤解されるので、あえて「難燃性」
とした。
「日本ウレタン工業協会」では、ウェブサイトにウレタンの特徴や取扱方法などを掲載している。この中で、例えば、硬質ウレタンフォームについて、「リン酸エステル系難燃剤を増やしたり、イソシアネート指数を大きくすることで、難燃化(燃え難くすること)ができる、有機物である限り、不燃化には至らない。ウレタンフォームの難燃化は、火災の初期段階で火災の拡大を遅らせて、手のつけられない火災状態になる前に人が避難できる時間を増やすことを目指している」という。
また、同ウェブサイトには、「硬質ウレタンフォームの難燃性はJIS
A 9511などの試験によって評価されるが、これらの試験は一定の条件下での材料の燃焼性の比較を目的としたものであり、必ずしも実際の火災時の危険性を反映したものではない。従って、これらの試験に合格したもの、あるいは準不燃・難燃材料の認定をうけている材料であっても火気に接すると燃焼するので、他の一般的なプラスチック材料と同様に取扱いにおいては火気に対する注意は怠らないこと」と注意喚起されている。
所 感
■ 今回、当初「難燃性のウレタン材」が使用される予定だったという事実が出てきた。
「難燃性のウレタン材」を使用するという判断は設計部門で行われたはずである。その決定が工事管理部門に移った際に「普通のウレタン材」に変更されている。どのような「変更管理」が行われたかが、ひとつの焦点になると思われる。しかし、
ウレタン材を使用する限りにおいては、今回の火災状況(規模や速さ)から「難燃性のウレタン材」の効果があったかは懐疑的に思わざるをえない。そして、
「難燃性のウレタン材」の効果を設計部門と工事管理部門が認識を共有化していたのだろうか。
■ 事故防止に重要なつぎの3つがいずれも行われなかった場合、事故は起こる。
① ルールを正しく守る
② 危険予知活動を活発に行う
③ 報連相(報告・連絡・相談)を行い、情報を共有化する
今回の火災事故の原因については、防火管理体勢や施工手順などに問題がなかったか調査されている。しかし、断熱材を貼った工事の仕上げ段階で仮設のH鋼をガスバーナーで切断しなければならないような施工に至ったのは、単に工事管理部門における安全管理だけでなく、設計部門を含めた社内体勢に問題があったのではないかという疑念があり、根が深そうである。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Asahi.com, 多摩のビル火災、安藤ハザマを捜索 業務上過失致死容疑, August
28, 2018
・S.mxtv.jp, 安藤ハザマを家宅捜索 東京・多摩市の5人死亡火災で
, August 28,
2018
・Jiji.com , 安藤ハザマを家宅捜索=5人死亡ビル火災-警視庁, August
28, 2018
・Nikkei.com, 多摩ビル火災、安藤ハザマを捜索 業過致死の疑い , August
28, 2018
・Sankei.com, ビル建設現場火災 安藤ハザマ本社を捜索, August
28, 2018
・Risktaisaku.com, 安藤ハザマを家宅捜索=5人死亡ビル火災-警視庁, August
28, 2018
・Jp.reuters.com, ビル火災、安藤ハザマを家宅捜索, August
28, 2018
・Mainichi.jp, 多摩5人死亡火災 安藤ハザマを捜索 業過致死容疑, August
28, 2018
・Urethane-jp.org , ウレタンフォームは難燃化できますか。
・Urethane-jp.org , 難燃性硬質ウレタンフォームとはどのようなものですか?
後 記: 今回の事故は多くの死傷者が発生し、警察が家宅捜査に入りました。このため、新しい事実が一部出てきましたが、情報開示という点においては、ここまでだろうと思います。押収した資料の調査と320人の事情聴取を考えると、相当な期間を要することでしょう。人を裁くことになるので、慎重にならざるを得ませんが、事故の教訓を活かすということからすれば、この方法が良いかどうかは疑問です。裁判になれば、何年もの間、情報は開示されず、意見をいうことも憚(はばか)られます。この期間に一般の人にとって事故は忘れ去られます。(関係者は針のむしろですが) オウム事件などと異なり、工業事故はだれも事件を起こそうとしたわけではありません。事故は活かされてこそ価値があるわけで、警察の刑事事件とは別に、工業事故としての調査が行われ、早く教訓を開示すべきではないかと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿