このブログを検索

2012年8月24日金曜日

貯蔵タンクの火災要因と防止策

 今回は、最近の事故ではなく、2009年に書かれた「貯蔵タンクの火災要因と防止策」(原文標題;Preventing Storage Tank Fires)を紹介します。
 
 本情報はインタネットで得た「Preventing Storage Tank Fires」(Hydrocarbon Processing;2009年11月)の記事について関連事項を要約したものである。
はじめに
■  英国ハートフォードシアで起こったバンスフィールド油槽所の事故はよく知られているが、タンク火災事故の多くはバンスフィールド事故と同じ規模ではない。 石油貯蔵施設ごとに総合的な安全に関して評価しなければならないが、貯蔵タンクに係るリスクを低減したり、仮に火災が起こっても被害の拡大を小さくするような基本事項がある。 この基本事項について検討すれば、リスクを許容レベル以下にすることはできるかも知れない。しかし、完全に無くすというわけにはいかないことは認識しておくべきである。
貯蔵タンクの種類
■  地上式常圧石油貯蔵タンクにはいろいろな型式と大きさがあり、それぞれ火災の危険性をもっている。 一般的に、これらのタンクは直径が3~100mであり、平均高さは16mである。 個々に違うが、石油の貯蔵能力は1.5MMバレル(24万KL)までである。 一箇所の施設に100基を超すタンクを保有するところもある。 一般的に、タンクは土盛りやコンクリート製の防油堤によって個々に分離されている。 しかし、一つの防油堤の中に数基のタンクが入っている場合もある。 このような場合、通常、タンクは同じ内容物をもとにグループ分けされている。 防油堤の高さは、通常、全タンク容量に安全率を加えた容積を保持できる高さに設定される。
 地上式貯蔵タンクの分類方法でよく知られているのは、屋根の設計に基づいて分類する方法である。 大型の常圧地上式タンクの設計基準としてはAPI(American Petroleum Institute)およびBS(British Standard Institute)である。
固定屋根式タンク
■  固定屋根式タンクは、タンク側板に固定して設置された屋根を有する型式である。 屋根の形は、円錐形、ドーム形、平面に近い形のものがあり、リブ構造のものやそうでないものがある。 形式にかかわらず、屋根と側板の溶接部は意図的に弱くして、事故が起こったときに、タンク屋根が側板から外れ、底板や側板の継手部が破断しないようになっている。 こうしてタンクから内容物が流出しないようにしている。 タンクには、通常、ベント装置が付いており、荷繰り、温度変化、圧力変化時に生じる膨張や収縮に追随するようになっている。
浮き屋根式タンク
■  浮き屋根式タンクは鋼製、アルミニウムまたはプラスティック製の浮き屋根を有しており、直接、内容液に浮かんでいるか、あるいはポンツーンを介在して内容液に浮かんでいる。 浮き屋根はタンク液のレベルに応じて上下している。浮き屋根式タンクはタンクの側板と屋根の間にシール部を有している。このシール部がタンク内容物の蒸発を少なくしている。
 API 2021によれば、“タンク設計者は、浮き屋根がタンク火災の危険性に影響のある極めて重要な設計変数であることを認識しておくこと”とある。 浮き屋根が沈まない限り、屋根はタンク内容物の蒸発を少なくするし、浮き屋根と側板の隙間における火災の潜在危険性を小さくする。 通常、この隙間はタンク面積の2%程度である。 そして、浮き屋根と側板の間にシール部があることによってこの隙間は一層小さくなる。
  浮き屋根式タンクは、さらに天候を考慮して追加される屋根をもとに分類される。追加される屋根は、風雨にさらされる浮き屋根を保護するために設置される。 分類はつぎのようになる。
 ▼ 開放型外部浮き屋根式タンク; このタンクでは、浮き屋根自体が直接、外部環境に曝される。 このタンクは“オープン・フローター”と呼ばれることがあり、原油の貯蔵によく使用される。 タンク側板には他で見られるようなベント装置はない。
 ▼ カバー付き内部浮き屋根式タンク; このタンクでは、浮き屋根の上に固定屋根が付き、浮き屋根が直接、外部環境に曝されるのを保護する。 タンクには、浮き屋根と固定屋根の間の空間に“ブリーフ”と呼ばれるベントが設けられ、過充填時にタンク容量以上の液レベルにならないようにされている。 このタンクは、ガソリンのような蒸発性の高い液を貯蔵するのによく使われている。
 ▼ ドーム型外部浮き屋根式タンク; このタンクは、浮き屋根を天候からの影響を防護するためドーム型の屋根を付けるよう改装されたもので、基本的に外部浮き屋根式タンクである。 このタンクは標準的に最終製品を貯蔵するのに使われる。
タンク火災の原因と対策 
■  地上式常圧石油貯蔵タンクは毎年多数の火災が起こっている。 表1はタンクの型式ごとに火災の起こる危険度を示したものである。
過充填火災
■  過充填火災はタンクまたは配管からの漏洩によってタンクまわりの防油堤内で起こる火災である。地上式タンクは型式にかかわらず、すべてこの火災危険性の問題を有している。 この火災のほとんどは設備の不調またはオペレーターのエラーが原因で起こっている。 これらの原因で防油堤内へ油が漏洩してしまう。 バンスフィールド事故はこの種の火災であった。 もし、過充填を発見したら、火災を防止するため着火源を無くすことである。 バンスフィールド事故の場合、着火に至るまで40分間にわたって過充填し続けてしまった。 
ベント火災
■  ベント火災は、通常、タンクへの充填時に、タンクベントから放出される炭化水素ガスに着火して起こる火災である。
■  ベント火災は通常、落雷によってよく起っている。 しかし、電気的なアーク、静電気、タンクまわりでの人の活動によっても可燃性混合気の着火源になりうる。 2003年に起こったオクラホマ州グレンプールのタンク火災の調査結果によると、移送操作の際、オペレーターが流速を速くしすぎたために静電気の帯電が起こったという。 そして、浮き屋根の下から油のベーパーが内部浮き屋根と固定屋根の間の空間に流れ、静電気によってベーパーに着火した。 API RP 2003(Protection Against Ignition Arising Out of Static, Lightning and Stray Currents)では、適正流速およびタンクに静電気の帯電を防ぐ条件を明確に記載している。 外部浮き屋根式タンクを除けば、ベント火災はすべてのタンク型式に起こりうる。
リムーシール火災
■  リムーシール火災は浮き屋根式タンク、特に外部浮き屋根式タンクに特有な火災である。 ある分析によると、リムシール火災の95%は落雷によって発生しており、リムシールを保有する全タンクの0.16%は使用期間中にリムシール火災に遭うといわれている。 図1(標題ページを参照)は人工衛星によるモニタリングに基づく世界の雷分布を示すものである。この図から世界のどの地域も雷の問題を抱えていることがわかる。 その中でヨーロッパと北アジアは比較的落雷を受ける率が低い地域といえる。
■  NFPA 780(Standard for the Installation of Lightning Protection Systems) に従えば、火災に至らないよう落雷のエネルギーを分散するルーフ・シャンツを設置することになっている。 しかし、API RP 545タスクグループによるテストでは、落雷による火災の危険性を減少させるよりも、むしろ実際には危険性を増加させているかもしれないという。テスト結果では、屋根とサブマージ式シャンツは、落雷の条件下においてシャンツと側板の間にアークを生じるという。 屋根の上にシャンツがあるタイプは、可燃性混合気の形成する領域でアークが生じる可能性があり、火災の危険性は一層大きくなる。
■  最近の検討では、つぎの事項を確実に行えば、リムシール火災の危険性を低減できるといわれている。
 ▼ 緊密式の1次および2次の二重シールを採用して、タンクから逃げるベーパーを効果的に抑制すること。
 ▼ サブマージ式接地ケーブルを取付けて、タンク屋根と側板を直接接続させること。 側板がコーティングされていたり、腐食していたり、あるいは側板が真円でなければ、ルーフ・シャンツは側板と屋根が確実に接する役目を果たさない可能性がある。
■  API RP 545タスクグループは、タンク屋根と側板を接続する代替方法について評価する検討をさらに計画している。
 リム火災を発見して早期に対処するため、タンクリムまわりには監視システムおよび消火システムを設置するのが標準である。 これらのシステムは定期的に検査を行い、リム火災が拡大せず、小さい状況のうちに機能を発揮できるように確認しておかなければならない。
全面火災 
■  全面火災はタンクの全液面が火災になることをいう。 さらに全面火災は、「障害物あり全面火災」と「障害物なし全面火災」の2つに分類される。 
■  障害物あり全面火災は、燃焼面が部分的に屋根やパンが障害になって泡放射に支障のある場合の火災をいい、通常、屋根やパンが部分的に沈んでいる場合に起こる。 屋根が沈む理由はつぎのようにいろいろある。
 ▼ 屋根の排水系統が不調で屋根上に雨が溜まる場合。 この理由としては、屋根排水系統が閉塞してしまっている場合、あるいはタンクの設計基準を超えた大量の雨が降った場合である。
 ▼ 屋根のポンツーンの内部にタンク液が一杯になってしまった場合。 この理由としては、ポンツーンの腐食あるいはその他の損傷による場合である。
 ▼ リムシール火災時の消火活動において消火剤投入が不適切で、屋根を沈下させて場合。
 排水系統の閉塞やポンツーンの損傷に関しては、API 653にタンクの定期検査の要領の中で明記されている。 タンク火災を防止する上から、これらのタンク部品は完璧な状態に保持しておかなければならない。
■  障害物なし全面火災は、タンク全面にわたって障害がなく、泡放射が容易に行える場合の火災をいう。 直径45m以下のタンクの場合、有効な消火資機材(水、泡など)と人材が揃えば、消火活動は比較的容易である。 直径45mを超えるタンクの場合、鎮火するのに必要な資機材が大量に必要になるため、火災に対する消火活動はなかなか難しくなる。 この火災は、通常、内部屋根のない固定屋根式タンクに起こる。 発災に伴い、屋根と側板の溶接部が切断され、屋根がタンク外に飛んでしまうからである。
■  障害物なし全面火災(続)   この全面火災はまた、タンク屋根の排水能力が設計値を超えるような集中豪雨が降った場合、外部浮き屋根式タンクで起こる。 2001年6月8日ルイジアナ州ノルコで起こった全面火災は、これまで鎮火に成功した最も大きなタンク火災である。 直径82m、高さ10m、容量325,000バレル(51千KL)のタンクが熱帯性嵐“アリソン”に伴って発生した落雷を受けた。 タンクは火災発生後13時間経過したあと、65分の消火活動で鎮火に成功した。 使われた消火用水の量は、バンスフィールド事故で使用された全水量の50%を超えていた。
火災危険性の低減 
■  タンク火災の危険性をまったく無くすことは不可能であるが、適切な設計、適切な運転、適切な保全指針を明確にして確実に実施していけば、危険性を低減することはできる。 API 653の規格に従って適切な検査を実施していくことは、既設貯蔵タンクの設計および保全を明確にしていくことになる基本である。 API 653に記載されている検査には3種類があり、つぎのとおりである。
■  日常の供用中検査   この検査(点検)には、タンクの目視検査、漏洩、側板の歪み、安定性、腐食、基礎の状態、塗装、保温および付属物に関する外表面点検を含む。
■  定期の外部からの検査   タンクの腐食に関する余寿命が20年未満の場合、外部からの検査は供用中に5年毎または5年より早く行わなければならない。 後者の場合、検査の周期は予測されるタンク余寿命の1/4の年数で行わなければならない。 検査すべき箇所は、防油堤、基礎、側板、側板の付属物、操作用構造物、ウィンドガーダー、屋根、内部浮きデッキ、防火システムおよびタンクミキサーである。
■  開放の内部検査   タンクの内部検査は少なくとも20年毎に行わなければならない。 ただし、リスク・ベース・インスペクション方法を代替して採用すると判断した場合、あるいは予測した計算上の寿命の1/4の年数の周期で検査すると判断した場合を除く。 もしはっきりした腐食率を得ていなければ、10年以内に検査をしなければならない。 この検査を実施するためには、タンクは空にして清掃しなければならない。 検査項目としては目視検査に加えて、漏れ試験、磁粉探傷試験、超音波肉厚測定を実施する。 検査の第一目的は、タンク底板に著しい腐食がないことを確認し、底板と側板の最小板厚のデータを収集し、タンク底板の安定性を明確にして評価を行い、タンクを継続して使用することに対する健全性を保証することである。 さらに、側板と屋根の内面について全面腐食や局部ピッチングについて検査を行う。 タンクにポンツーンが付いていれば、破損に至るような歪みや腐食がないことを評価するための検査を実施する。
■  これらの検査に加えて、貯蔵施設で必要な内容を決めて、継続していくことが大事である。 グレンプールのタンク爆発火災では、要領に書かれていた内容どおり実施していれば、 タンク火災は恐らく避けられていたと思われる。 自分たちで決めた検査内容や推奨される工業規格を無視すれば、火災に至るような事故は避けられない。
 API RP 2021には、タンク火災を防止する石油貯蔵タンクに関する設計、運転、保全および検査について参考になる資料が明示されている。 
 ▼ 流出制御および過充填に対する防護方法(API RP 2350)
 ▼ 落雷のような環境着火要因、特に開放型浮き屋根貯蔵タンクのシール火災の関係(API RP 2003およびNFPA 780)
 ▼ タンクの適正配置およびスペース(NFPA 30)
 ▼ 火災の制御および消火設備とシステム(API RP 2001およびNFPA 11)  これは小火災から拡大することを防止するために役立つ。 
 ▼ タンクの安全な洗浄(API Std 2015およびRP 2016)
 これらの規格や参考資料は、貯蔵タンクを安全に操業しようと努力しているオペレータや担当部署の人たちにとって大いに役立つ。 しかし、これらが安全操業の代用になるわけでなく、継続的な安全操業は適切な訓練を受けた人たちによって達成されるのである。 

所 感
■ 今回の資料はタンク火災の多くの経験からよくまとめられている。 タンク火災の発生頻度、タンク規模による消火の容易性、タンク開放検査の周期など定量的で興味深い点が多い。
 特に直径45m以下のタンクの場合、障害物なし全面火災では、有効な消火資機材(水、泡など)と人材が揃えば、消火活動は比較的容易だと述べている。米国では総じてタンク高さは低く、直径45mのタンクは容量20,000KLクラスだと思われる。
 一方、日本では、高さ20mを超え、容量30,000KLを超えるタンクもあり、直径45m以下でも消火活動は容易とはいえない。2003年9月26日、北海道十勝沖地震による出光興産北海道製油所のナフサタンク全面火災は、直径42.7m、高さ24.3mで容量32,779KLの浮き屋根式タンクだった。当時としては有効な消火資機材と考えられていた石油コンビナート等災害防止法に基づく3点セット(大型化学消防車、大型高所放水車、泡原液運搬車)は何台あっても有効に機能しなかった。放射した泡が火炎の勢いに吹き飛ばされ、燃焼面に届かなかった。このタンク火災が、日本で大容量泡放射砲システム導入のきっかけとなった。
■ リムシール火災の項で「シャンツ」に関する記載があり、シャンツが落雷時に火花発生の要因になっているという問題提起である。また、米国のタンク火災の要因として落雷があげられ、タンク構造の要因としては、今回の資料には詳細を記載されていないが、浮屋根と側板のシールとしてのメタルシール(メカニカルシール)がある。 米国ではメタルシールの採用している例が少なくない。 大型タンクのメタルシールは、資料でも言及されているようにタンクが真円でなく、わずかに隙間の出る箇所ができ、この間隙が落雷時に放電する危険性がある。
 これらのシャンツやメカニカルシールに関する問題については2010年のAPIタンク会議で発表されており、本ブログでは2011年5月に「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」として紹介している。
 なお、幸いなことに日本国内では、シャンツやメカニカルシールは使用されていない。日本国内では、タンク浮屋根はソフトシールが一般的であり、この点、落雷による火災の危険性が低くなっていると思われる。  


後記; 夏の高校野球は決勝戦で大阪桐蔭が青森の光星学院に勝ち、春夏連覇の優勝で終わりました。田中投手のいた駒大苫小牧高校を思い出させるような本当に強い大阪桐蔭高校でした。節電のため午前中の決勝戦でしたが、電力不足もなく、猛暑を乗り切りました。日本の「国民は一流」だと感じました。
 ところで、地元、山口県周南市にある出光興産徳山製油所のアスファルト・硫黄出荷場の解体工事が始まりました。製油所の閉鎖が決まっていますが、もともとアスファルト・硫黄出荷場は製油所構外の場所にあり、以前から使用されていませんでした。現在は、写真のように解体のための防火壁など仮設工事が行われています。タンクや配管内に可燃性物質が残存していなければ、昔と違って解体用重機が発達しており、あっという間にタンクは解体されるでしょう。










0 件のコメント:

コメントを投稿