(写真はEn.gmw.cnから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、イスラエル(Israel)ハイファ(Haifa)の港湾地区にあるオイル・リファイナリーズ社(Oil
Refineries Ltd)のハイファ製油所である。ハイファ港湾地区は、カーメル山系に囲まれており、イスラエル国内で最も重工業の盛んな地区のひとつである。オイル・リファイナリーズ社ハイファ製油所の精製能力は197,000バレル/日である。
■ 事故があったのは、ハイファ製油所のタンク地区にあるガソリン用貯蔵タンクである。タンクは浮き屋根式で貯蔵容量が12,000KLで、発災当時はタンク容量の約10%(1,200KL)のガソリンが入っていた。
ハイファ周辺 (矢印が発災のオイル・リファイナリーズ社の施設
(写真はGoogle Mapから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年12月25日(日)朝、ハイファ製油所のガソリン用貯蔵タンクが爆発して火災となった。発災タンクからはオレンジ色の火炎と黒煙が立ち昇り、港町の上空を覆った。
■ 発災に伴い、消防隊が出動し、火災の制圧に努めた。警察はハイファ工業地区一帯の主要道路を閉鎖した。ハイファ消防署の広報担当であるヨラム・レヴィ氏は、「非常に深刻な事故が起きました。最初に注力したのは、危険性物質の入った別なタンクへ火災が広がることを止めることでした」と語った。出動した消防士は40名を超えた。
■ ハイファ港湾地区は国内有数の工業地帯であり、住民は港町を危険にさらすような事故が起きないか長年心配してきた。実際にタンク火災が起こり、工業地区への延焼を懸念する声が聞かれた。
■ タンクから発する黒煙の影響によって、多くの住民から息苦しいというクレームがあったが、救急隊によると、医療的な処置を受ける人はいなかった。製油所近くの住民は屋内にとどまっておくよう勧告された。
■ 火は正午前に一旦弱まったように見えたが、すぐに元のように大きくなった。消防隊は大量の消火泡を投入した。発災から約10時間後の午後遅くに火災を鎮圧することができた。タンク火災が拡大せずに制圧できたのは、比較的タンク内の油が少なく、油の深さが約1mくらいしかなかったことによるとみられている。
■ 事故に伴う死傷者は報告されていない。
(写真はYoutube.comの動画から引用)
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(写真はEn.gmw.cnから引用)
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被 害
■ 容量12,000KLのガソリン用貯蔵タンク1基が火災によって損壊した。内部液のガソリン約1,000KLが焼失した。
■ 事故に伴う死傷者はいなかった。地域住民への避難は行われなかったが、製油所近くの住民は屋内にとどまっておくよう勧告された。
< 事故の原因 >
■ 火災の起った要因は分かっておらず、事故原因は調査中である。
注記:ハイファ市長は、市内にある製油所と大型アンモニア貯蔵タンクがヒズボラのテロ集団の標的になっており、危険に曝されているとイスラエル政府に繰り返し訴え続けていると語っている。しかし、今回のタンク火災の原因に関してテロの疑いを報じているメディアはない。
< 対 応 >
■ 発災に伴い、消防署が対応のため現場に出動したほか、環境保護省とハイファ環境保護協会が現場へ入った。
■ 環境保護省は、ハイファ製油所近くの地区にいる住民に対して、不急の外出をしないように勧告した。さらに、港湾内に停泊している液化石油ガスタンカーに対して避難するよう勧告し、停泊する場合はコンテナーを冷却するよう助言した。
■ 消防隊はタンク火災の鎮火に成功した後、発災タンクの冷却に努めるとともに、翌朝まで夜通し現場に滞在した。
■ 終日にわたって激しい火災が続いたにもかかわらず、環境保護省が設置した移動式大気汚染モニタリング装置では、異常な汚染を示す観測結果は出なかった。これは、ひとつには当日雨が降ったためだとみられる。
■ 主要な道路が交通規制されていたが、夕方に警察は閉鎖していた道路の通行を再開した。
(写真はBakersfieldnow.comから引用)
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(写真はReuters.com
から引用)
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(写真はReuters.com
から引用)
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(写真はReuters.com
から引用)
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(写真はVosizneias.com
から引用)
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補 足
■ 「イスラエル」(Israel)は、正式にはイスラエル国(State
of Israel)で、中東のパレスチナに位置し、人口約850万人の国である。イスラエルは、パレスチナに故郷を再建しようというシオニズム運動を経て1948年5月14日に建国された。
「ハイファ」(Haifa)は、イスラエルのハイファ地区にあり、地中海に面する港湾都市で、人口約25万人である。ハイファでは、タンク火災の1か月前の2016年11月22日に大規模な山火事が発生し、市民6万人が避難を余儀なくされる災害が起こっている。この消火活動には、ロシア、トルコ、クロアチア、フランス、スペイン、米国など各国から消防飛行機が支援で出動している。山火事は各地で起こっており、原因は故意の放火の疑いがあるとされている。これらの山火事では、約1,800戸の住宅に被害が出たほか、150人超の負傷者が出たと報じられている。また、12月1~2日にかけてイスラエルの各地で大雨が降り、ハイファでも洪水のため1名が亡くなるという災害が起きている。
2016年11月22日に発生したハイファの山火事 (写真はAfpbb.comから引用) |
■ 「オイル・リファイナリーズ社」(Oil
Refineries Ltd)は、1954年に設立され、ハイファ港湾地区に石油精製と石油化学の工場をもつ石油会社である。精製能力は197,000バレル/日である。
オイル・リファイナリーズ社の工場では、このところトラブルが続いていた。キャメルのオレフィン施設において事故があり、環境保護省が同社に対して聴聞会を開催した2日後の10月20日に、同施設で緊急トーチが作動した。このほか、9月7日のガス漏れ、10月6日に煙突の不具合、10月7日に35トンのガス放出のトラブルが発生していた。
オイル・リファイナリーズ社の施設周辺 (写真はWikipedia.orgから引用)
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■ 発災タンク(容量12,000KL)は製油所の最北端にあり、グーグルマップによれば、直径約36mである。報道記事では、内部の油量がタンクの10%で深さが約1mとあるので、高さは約10mとなる。このデータによれば、容量は約10,200KLとなり、報道の12,000KLに近く、タンクの大きさとしてはこの規模と思われる。
発災時の状況についてはYouTubeでの投稿もあり、その例は下記を参照。
● 「Firefighters battle massive blazeat Haifa oil refinery」(2016年12月25日)
なお、発災写真では、タンク側壁の鋼板をレンガで覆っているように見える。テロの多い国では、側板を二重にしているところもある。当該製油所の公共道路に近いタンクは、テロ対策としてレンガ覆いにしているのではないかと思われる。
事故のあったオイル・リファイナリーズ社の施設 (矢印が発災タンク)
(写真はGoogle
Mapから引用)
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事故のあったタンク地区 (写真はGoogle Mapから引用)
(矢印が発災タンク。構外道路からタンク側板までの距離は約70m)
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所 感
■ 発災タンクは容量12,000KLの浮き屋根式タンクで、大きさは直径約36m×高さ約10m程度とみられ、油の深さが約1mとすれば、浮き屋根はルーフサポートが着底前後だったと思われる。従って、着底前であればシール部火災、着底後であればデッキ板裏面の空間部における爆発混合気の形成による火災が考えられる。爆発現象が伴っているとみられ、後者の可能性の方が高いと思う。一方、着火源の特定はできないが、構外道路からタンク側板までの距離は約70mであり、擲弾(てきだん)によるテロ攻撃で火災を引き起こすことは難しくないといえよう。
注記:擲弾(てきだん)によるテロ攻撃の事例は「タイで石油タンクに擲弾(てきだん)によるテロ攻撃(2010年)」(2016年2月)を参照。
■ 火災は意外に大きくなった印象である。そのプロセスは、①ルーフサポートが着底、②シール部のシール切れ、③空気の流入が増してデッキ板裏面の空間部の火災が激化、④ルーフサポートが焼損、⑤浮き屋根が沈降、⑥残留していた油が屋根上に流出、⑦火災が拡大、ということが考えられよう。
ガソリンの燃焼速度を30cm/hとすれば、タンク内の深さ1mの油が全面火災で燃え尽きるまでには、約3時間となる。燃焼時間は約10時間とかなり長いので、デッキ板が障害になる「障害物あり全面火災」の様相を呈したものと思われる。消火活動では相当量の消火泡を投入したようであるが、効果は薄く、油がほぼ燃え尽きえて消火に至ったと思われる。大容量泡放射砲が使用されたかどうかははっきりしないが、当該タンクの場合、日本の消防法によれば放射能力10,000 L/minの大容量泡放射砲が必要になる。
浮き屋根式タンクの構造例 (写真はKikenbutu.web.fc2.comから引用)
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備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Reuters.com, Fuel Tank Ablaze in Oil Refineries in Islaeli
City of Haifa, December 25, 2016
・Timesofisrael.com,
Firefighters Battle Massive Blaze at Haifa Oil
Refinery, December 25, 2016
・Jost.com, Firefighters Extinguish Haifa Oil Refineries
Fire, After All-day Blaze, December
25, 2016
・Bloomberg.com,
Israel Battles Fire at Oil Refinery in Haifa, Roads Blocked, December 25,
2016
・Israelnationalnews.com, Aerial View of Haifa Hazardous
Fire, December 25, 2016
・Maki.orgil,
Huge Gasoline Tank at Privatized Haifa Refinery Catches Fire, December 25,
2016
・Hazmatnation.com,
Refinery Fire Reported in Haifa, Israel,
December 25, 2016
・Globes.co.il, Fire
Rages at Oil Refineries Haifa, December
26, 2016
・Haaretz.com, Oil Refinery
Fire in Israel: An Ominous Warning, December 26,
2016
・Mtolive.blog.fc2.com, ハイファの化学工場が大火事, December 26,
2016
後 記: この事故は昨年12月暮れに起こっていますが、知ったのは今年になってからです。イスラエルのタンク事故情報の紹介は初めてです。情報公開という点からすると、かなりオープンだと感じました。ロイター通信のほか、ロシアや中国のメディアも情報発信していました。一方、残念ながら日本のメディアは報じていません。日本から遠い国だなと実感します。今回、イスラエルについて調べていて知ったのは、イスラエルが自民族の国家を持たなかったことにより、第2次大戦時に600万人のユダヤ人を殺されたホロコーストの教訓から、「全世界に同情されながら滅亡するよりも、全世界を敵に回して戦ってでも生き残る」ということを国是にしているとのことです。凄い国です。
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