■ 事故があったのは、中国山東省(さんとう省)の日照市(にっしょう市)嵐山区にある山東石大科技石化有限公司の工場である。山東石大科技石化の日照市の工場には、石油精製、石油化学などのプラントがある。
■ 発災したのは、石油タンク地区の液化石油ガスの貯蔵用球形タンクである。液化石油ガスタンク区域には、容量2,000m3 の球形タンク3基、容量1,000m3の球形タンク9基の合計12基の球形タンクがあった。
山東省日照市の山東石大科技石化の工場付近 (中央の白い設備が球形タンク)
(写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年7月16日(木)午前7時過ぎ、タンク地区にあった容量1,000m3の液化石油ガス貯蔵用球形タンクから可燃性ガスが漏洩し、午前7時40分頃に引火し、火災となった。
■ その後、爆発が発生し、午後2時までに4回の爆発が起った。施設内にあった4基の球形タンクが爆発したものとみられる。最初に爆発したタンクはプロパン用だったと報じられている。
■ 爆発が起こると巨大なファイヤーボールが現れ、その後にエリアを覆い尽くすような大きな黒煙が立ち上った。爆発の影響は、600m離れた建物の窓ガラスが割れるほどだった。
■ 発災に伴い、地元消防局のほか、近隣の青島市の消防隊も応援に駆けつけ、対応に当たった。
■ 火災は、約24時間続き、17日(金)午前7時20分過ぎに消えた。
(写真はNews.mydrivers.com
から引用)
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事故による被害
■ 爆発事故によって消防隊員2名が軽傷を負い、病院に搬送された。
■ 球形タンク地区にあった球形タンク12基のうち、爆発・火災によって9基の球形タンクおよび関連配管などが被災した。
■ 爆発の爆風力によって、構外の建物の窓ガラスが割れるなどの被害が出ている。被害の範囲や程度は不明である。
■ 爆発・火災に伴い、現場周辺の炭化水素(非メタン炭化水素)の濃度が基準値の2倍以上に上昇したため、タンクから半径2km以内の住民と従業員が避難した。
< 事故の原因 >
■ 液化石油ガス貯蔵用球形タンクから可燃性ガスが漏洩し、引火して火災となったことが、タンクの爆発の誘因である。
■ タンクからの漏洩原因は調査中である。
< 対 応 >
■ 発災に伴い、地元消防局が出動したほか、近隣の青島市の消防隊も応援に駆けつけ、対応に当たった。地元消防局は、消防士138名と消防車23台を出動させた。
■ 当日の夕方になっても火災を制圧できず、消火活動に当たっている消防隊は、消防士約300名、消防車両50台以上にのぼった。
■ その後、青島以外の近隣の市から消防隊が出動し、消火活動に消防士700名、消防車両118台、遠隔消火水供給システム4台が投入され、消火用の泡薬剤は224トンが準備された。
■ 火災は、約24時間後の17日(金)午前7時20分過ぎに消えた。
■ 山東石大科技石化は、7月21日(火)のウエブサイトで事故について声明を発表した。事故後の対応として、事故現場の状況を監視し、排水システムの監視を強化し、継続的な水冷、温度・圧力の計測を行うとともに、残存している液化石油ガスの抜き取りの処理を行うとしている。
7月24日(金)には、原因究明と対策を検討していくことを表明した。
(写真はUsudknow.com
から引用)
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(写真はScmp.com
から引用)
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(写真Usudknow.comから引用)
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(写真Dailymail.co.ukから引用)
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(写真はDailymail.co.ukから引用)
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(写真はPolitics.people.com
から引用)
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(写真はNtdtv.com.tw
の動画から引用)
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(写真はNews.hexun.com
の動画から引用)
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(写真はNtdtv.com.tw
から引用)
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補 足
■ 「山東省」(さんとう省/シャントン省)は、中華人民共和国の西部にある省で、北に渤海、東に黄海があり、黄河の下流に位置する。人口は約9,500万人、省都は済南で、他に青島、泰安などの主要都市がある。 「日照市」(にっしょう市/リーヂャオ市)は山東省南部に位置する地級市で、黄海の海州湾に面し、管轄地区人口約287万人、市区人口約28万人である。日照市は北海道室蘭市と国際交流の友好都市を締結している。
(図はKnak.jpから引用)
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■ 「山東石大科技石化有限公司」(通称「山東石大公司」)は、石油精製、石油化学、研究センター、大学を運営する産学一体の会社で、山東省日照市嵐山区の黄海に面した場所にある。
日本では、発災事業所が「日照石油化学技術」、「日照石大科技石化」、「山東志田技術石油化学」という会社名で報じているものもあるが、山東石大科技石化のウェブサイトに今回の事故について掲載しているので、発災事業所は同社に間違いない。
山東石大科技石化の液化石油ガス球形タンク地区付近
(写真はグーグルマップから引用)
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■ 液化石油ガス球形タンクの設置場所はグーグルマップで特定できた。大きい球形タンクは3基あり、直径約17mで、容量は2,000m3級である。小さい球形タンクが9基あり、直径約12mで、容量は1,000m3である。しかし、最初に爆発したタンクは特定できなかった。火災写真は少なくないが、撮影された時間や方向が分からず、2列の球形タンク群の真ん中当たりだと思われる。火災初期と見られる写真では、タンクの下部当たりから火炎が上がっており、タンク底部の割れあるいは配管部からの漏洩ではないだろうか。
2011年3月11日に発生した東日本大震災時に起こったコスモ石油千葉製油所の液化石油ガスタンクの爆発・火災事故の発端は、支柱の折れた球形タンクが倒壊し、下敷きになった配管群が破断して液化石油ガスが漏洩・拡散したことである。この事故についてはつぎの資料を参照。
● 「千葉製油所の火災・爆発事故について」(コスモ石油)
● 「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故(2011年)の原因」(当ブログ:2012年3月)
● 「コスモ石油の液化石油ガス爆発火災(2011年)の放射熱解析」(当ブログ:
2013年1月)
所 感
■ 今回の事故をみると、
2011年3月11日東日本大震災時に起こったコスモ石油の液化石油ガスタンクの爆発事故を思い出す。山東石大科技石化の事故とコスモ石油の事故は、双方ともファイヤーボールを発生する爆発であるが、コスモ石油の事故では、BLEVEにより球殻の裂けたタンクや倒壊したタンクが目立ったが、山東石大科技石化の事故では、倒壊したタンクはあるが、球殻の裂けたタンクは見られず、全体的に原型が残っている。爆発時の写真でも、地表を拡散した可燃性ガスが一気に爆発的な燃焼をしたような印象を受ける。爆発・火災の形成条件が違っているのかも知れない。しかし、液化石油ガス球形タンクの1基が火災を起こすと、つぎつぎに隣接のタンク群へ延焼(爆発)していく事故になる可能性は高いといえよう。
■ 液化石油ガスタンク火災の消火戦略は、「積極的戦略」ではなく、「防御的戦略」が基本である。火災状況によって危険性が高い場合は「不介入戦略・退避」をとる。今回の事故では、爆発が複数回起こっている割に、消防士2名の軽傷で済んでいる。消防士(車)がかなりタンクへ近づいて活動を行っている火災写真もあり、この点は信じられないことである。コスモ石油の事故時の証言には、「球形タンク安全弁の吹く音と普段聞き慣れない音がするのを確認、爆発のおそれを感じ、全員退避を指示」とあるので、今回も事前の兆候を感じて退避したのかもしれない。詳細は分からないが、消防活動としては妥当な消火戦略がとられたと思われる。
参 考
■ 消火戦略についてはつぎの資料を参照。
● 「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 -事例検討(その1)」(当ブログ:2014年10月)
● 「石油貯蔵タンク火災の消火戦略 -事例検討(その2)」 (当ブログ:2014年11月)
● 「東日本大震災時のLPGタンク火災・爆発事故における防災活動」(危険物保安協会機関紙「Safety
& Tomorrow」2012年5月)
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・News.TBS.co.jp,
中国の石油化学工場で爆発事故、消防隊員2人けが,
July 16, 2015
・Nstimes.com, 中国で石油タンクが爆発!ネット「テロ」か,
July 16, 2015
・Exite.co.jp, 山東省南部で液体水素タンク爆発、容量1000立方米が炎上,
July 21, 2015
・China-anzen.jugen.jp, 山東・日照の化学工場で爆発、住民ら避難,
July 17, 2015
・Splash24/7, Authorities Seed Clouds to Douse Giant
Chemical Tank Explosion at Rizhao
Port , July 16, 2015
・Dailymail.co.uk,
By-standers Scramble for Safety after Fuel Leak Fire Becomes Massive
Explosion at Factory Leading to Mass Evacuation, July 16, 2015
・9news.com.au,
Firefighters Battling Massive Blaze Following Chinese Petrochemical
Plant Explosion, July 16, 2015
・RT.com, Huge Blaze
after Blast Rocks Petrochemical Plant in E China, July 17, 2015
・Plastmart.com,
Fire Follows Explosion at Chinese Petrochemical Plant , July 17, 2015
・Telegraph.co.uk,
Footage Shows Moment Huge Explosion Rocks Petrochemical Plant in China,
July 17, 2015
・Epochtimes.com, 山東一石化液化烴球罐連環爆炸
現場封鎖, July 17, 2015
・Macaodaily.com, 魯化工廠爆炸塌兩氣罐, July
17, 2015
・Sdkjrz.cn, 公司全力处置球罐区泄漏燃爆事故, July
21, 2015
後 記: 「フランスに続いて中国!」という見出しがつくような衝撃的なタンク火災が7月に続いて起こりました。中国に関する事故情報は正確性に疑問のある記事が多く、全体を把握するのに整理が必要です。まず、発災事業所(名称)を特定するのにいろいろ調べることになります。
今回、初めて「中国安全情報局」が日本語で安全に関する情報をインターネットで配信していることを知りましたが、今回の事故情報(中国報道を引用する形ですが)も報じており、正確な会社名に比較的早くたどり着きました。
ところで、今年の世界遺産では、石の文化が強いという気がしました。九州の炭鉱跡が登録されましたし、山口県でも萩反射炉(レンガ造り)、造船所跡(石積み護岸)が登録されました。それに比べ、石油施設は可哀想なものです。地元周南市(旧徳山)では、戦前に海軍燃料廠がありましたが、完全に取り壊され、跡地に出光徳山製油所が建設されました。日本経済への貢献という点では、反射炉や造船所と比べものにならないほど、当時は最先端のプラントでした。しかし、その徳山製油所も閉鎖され、精製プラントも多くが解体されました。日本遺産(?)の話も無く、今また旧徳山製油所佐保充填所跡地にゆめタウン(スーパーマーケット)の建設が8月から始まる予定です。おそらく、門の表札もいずれ金属スクラップとして処理され、無くなるでしょう。
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