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2015年7月12日日曜日

中国南京市の製油所装置の爆発によって貯蔵タンクへ延焼(2014年)

 今回は、2014年6月9日、中国江蘇省南京市にある中国石油化工揚子江石油化学の製油所の硫黄回収装置で起った爆発によって近くにあった貯蔵タンクが延焼した事故を紹介します。
(写真はXinhaunet.com  から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国江蘇省(こうそしょう)の省都である南京市(なんきんし)にある中国石油化工揚子江石油化学(Sinopec Yangzi Petrochemical Co.)の製油所である。
 SINOPEC揚子江石油化学はSINOPEC(中国石油化工)の子会社で、原油処理能力は900万トン/年、エチレンの生産能力は65万トン/年である。
 
■ 発災したのは製油所の硫黄回収装置で、近くにはケミカル貯蔵タンクと原油貯蔵タンクが設置されていた。
                                   江蘇省南京市の化学工業地域付近    (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2014年6月9日(月)午後12時40分頃、製油所で引き裂くような爆発が起った。爆発があったのは、製油所の硫黄回収装置とみられている。

■ この爆発によって、近くにあったケミカル貯蔵タンク3基と、ほかに原油貯蔵タンク1基が火災になった。プラントまわりの大気中には、鼻を刺激するような臭気が充満していた。
 (情報の中には、「近くにあった8基の原油タンクのうち3基が倒れるように傾き、火災になった」というのがあるが、真偽が分からない)

■ 火災発生に伴い、消防署が現場に出動し、消防ホースを展張して消火活動を行なった。

■ 9日午後4時20分頃に、火災は制圧されたかにみえた。なお、隣接するタンクの冷却は継続して行なわれた。

■ しかし、数時間後、タンク内の燃焼性物質に引火し、再び、炎が舞い上がった。10日(火)朝の時点でも、火災は続いていた。製油所の関係者によると、再燃したのは、タンク内の燃焼性物質の化学反応によって燃え上がったという情報もある。
(その後、時間は不明だが、鎮火したとみられる)

事故による被害
■ 事故に伴う負傷者は報告されていない。

■ 南京市環境保護局によると、事故によって硫化水素が大気中に放出されたが、環境調査結果では、この地区の毒性ガスレベルは国内基準値以内だったという。爆発事故による水質汚染への影響は無かった。

< 事故の原因 >
■ 地方政府の合同チームによる原因調査を開始したと報じられたが、その後の情報はわからない。

< 対 応 >
■ 事故に伴い、地元の10箇所の消防署が出動した。当初、出動した防士は100名を超していた。その後、消火活動に従事した消防士はおよそ200名で、出動した消防車は20台に達した。
(写真はEconomictimes.indiatimes.com から引用)
(写真はScmp.com から引用)
(写真はScmp.comから引用)
補 足
■ 「江蘇省」 (チャンスー ション/こうそしょう)は、中国東部にあり、人口約7,800万人の省である。江蘇省は長江の河口域であり、黄海に面している。
 「南京」(ナンジン/なんきん)は、江蘇省の西に位置する省都で、人口約335万人の中華人民共和国の副省級市である。

■ 硫黄回収装置は、気体状の硫化水素から単体硫黄を生産する工業プロセスである。原料の硫化水素には、水素化脱硫装置や合成ガス製造装置の副生物のガスを使用することが多い。これらの装置では、反応によって生じた硫化水素を主成分とする酸性ガスを、アミン水溶液を用いて吸収分離して高濃度の硫化水素を含むガスを生成する。硫化水素を25%以上含むガスであれば、硫黄回収装置の原料ガスとして使用できる。
 硫黄回収装置は熱反応部と触媒反応部からなる。熱反応部では、850℃を超える温度で原料ガスを燃焼する。触媒反応部では、加熱、触媒反応、凝縮を順次行う。凝縮によって生成した液体硫黄は、溶け込んでいる硫化水素などのガス分を脱ガス設備で除去してから後工程を経て製品となる。
 硫黄回収装置の火災事故としては、つぎのような事例がある。
  ● 2007年1月、「第20硫黄回収装置 反応炉火災事故」(PEC-SAFER)

■ 発災タンクの仕様は分からない。発災写真によると、座屈したタンクがみえるが、火災の熱による座屈とは異なる状況であり、一部の情報として「3基のタンクが倒れるように傾き、火災になった」という話があり、爆風による影響が考えられないこともない。

所 感
■ 発災は、製油所の硫黄回収装置において何らかな要因でガス爆発が起こり、近くにあったタンクに引火したものと思われる。このところ、中国では、化学プラントのプロセス装置の爆発によって貯蔵タンクへの延焼事故が起こっている。
 しかし、1年前に、同様にプロセス装置の爆発によって貯蔵タンクへの延焼事故が起こっていたことになる。かなり大きな爆発が起ったものと推測できるが、貯蔵タンクまで巻き込むのは、装置の配置あるいは貯蔵タンクの配置に問題があるのではないだろうか。

■ 複数のタンク火災で、しかも内容物が違っており、消火活動としては難しい条件ではあっただろう。しかし、一端、火災を制圧したとみられた後、再燃させてしまっており、この点では消火活動として失敗である。タンクが倒壊あるいは座屈した場合、障害物に隠れたところのダメ押しが不足したためと思われる。このような配慮事項はなかなか経験することはできないので、過去の事例から疑似体験するしかない。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Xinhuanet.com, Explosion Rips Through Refinery in East China,  June 06, 2014  
    ・Tus.fire.com, China Fire out in East China Refinery,  June 09, 2014   
    ・Apimages.com, China Jiangsu Nanjing Oil Refinery Blaze,  June 09, 2014   
    ・Chinadaily.com.cn, Fire Reignites at Eest China Refinery,  June 10, 2014
    ・Scpm.com, Blaze Strikes Nanjing State Oil Refinery for The Second Time in Hours after Initial Blast,  June 10,  2014
    ・Ogj.com, Investigation under Way into Chinese Plant Explosion,  June 13,  2014



後 記: 今回の事例は、実は事故の起った昨年(2014年)にキャッチできていなかった事例です。今年(2015年)、南京市であった火災事例を調査していると、ほぼ一年前にあった今回の事故情報が検索されてきて、分かった次第です。おそらく、日本のメディアだと1年前の事故情報は消されてしまって、分かっていないかも知れません。新華社など中国のメディアは、国内事故を英文で報じていますし、思わぬ海外の国の情報を英文で報じていることがあります。報道内容はお世辞にも良いと言えません。これは情報源である地方政府の関係機関が、意図的あるいは理解不足で正しい情報を出さないためだと思います。これを補うため、中国のメディアは発災写真に積極的な姿勢を感じます。疑問点の多い事故情報ですが、あえてブログでの紹介対象としました。

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