本情報は2011年6月28日に「ERM
Risk and Safety Blog」に出され、インタネットで公表された「Storage Tank Fires
Turn Fatal」(By Jeremy Goddard)の資料について要約したものである。
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2011年5月30日の週に、ヨーロッパで2件の大きな貯蔵タンク火災事故が起こった。ひとつはジブラルタルで起こったもので、もうひとつはウェールズ南西部で起こった事故である。特に、ウェールズで起こった爆発・火災では、4人が亡くなり、5人が重傷を負うという悲劇的な事故であった。
偶然にも、私はその前の週から、たくさんの石油貯蔵タンクを保有している新しい陸上の石油・ガス生産施設におけるハザードおよびリスクを見直すプロジェクトで仕事をしていた。そこで、私が疑問をもったのは、貯蔵タンクの火災とは一般的なことなのかであった。早速、インターネットで調べてみたところ、わたしにとってちょっと驚くべきことがわかった。
■ 過去3か月間に、貯蔵タンクに関わる火災が少なくとも9件もあった。その多くは、複数のタンクを巻き込み、悲痛な死傷者を出し、甚大な物的損害が発生し、事業の中断を余儀なくされている。さらに、この原稿をまとめている6月7日、テキサス州の製油所で補修中に貯蔵タンクで火災が発生するという事故があった。しかし、貯蔵タンクの火災原因はいろいろな要因があり、つぎに示す図は約250件の火災について原因を分類したものである。(A
Study of Storage Tank Accidents, Journal of Loss Prevention in the Process
Industries 19 (2006) 51-59)
■ 貯蔵タンク火災の防止、制御、軽減に関する文献がこれまでに数多く出されてきたが、私にとって有益だったのはつぎのとおりである。
● 「Center
for Chemical Process Safety (CCPS) Guidelines for Facility Siting
and Layout (2003)」; この文献は、施設の安全な配置とタンク間距離に関してガイドラインを示したものである。この中で私が興味を持ったのは、CCPSによって推奨されている貯蔵タンクのタンク間距離が米国防火協会(National
Fire Protection Agency;NFPA)よりはるかに大きいという点であった。
● 「UK
HSE Safety and Environmental Standards for Fuel Storage Sites (2009)」;
この文献は、英国バンスフィールド貯蔵タンク爆発火災事故から得られた知見とともに、ガソリンまたは類似の蒸気圧を有する物質(例えばコンデンセート)の保管方法に関してガイドラインを示している。
● 「UK
HSE HSG176: The Storage of Flammable Liquids in Tanks (1998)」;
この文献は古いが、貯蔵タンクの配置および火災に対する安全設計について有益な情報がまとめられている。この中で最小タンク間距離について推奨していることは、タンク群の中に重大な火災を引き起こすタンクが1基あれば、従来のタンク間距離では隣接タンクの損傷や損壊を防ぐことは無理だと述べている。しかし、緊急事態対応を実施し、事故によって危険を及ぼしている地区から人々を避難するための時間は十分とれる。
● 「US
Chemical Safety Board, Death in the Oilfield (2006)」; この短いビデオは、3人の作業員が貯蔵タンクの保全を行っている最中に死亡するという事故を描いたものである。ビデオでは事故の原因について論じ、推奨すべき事項についてまとめられている。
〈教 訓〉
■ 貯蔵タンクの火災に対処する際、適切な装備とともに特別な訓練を受けた人材がいる場合を除き、地方の消防署では、タンク火災を消火するために必要な精神的且つ物理的な人員・資機材を備えていないということを認識しておくことは重要である。
■ 貯蔵タンクの火災に対処する際、適切な装備とともに特別な訓練を受けた人材がいる場合を除き、地方の消防署では、タンク火災を消火するために必要な精神的且つ物理的な人員・資機材を備えていないということを認識しておくことは重要である。
■ 緊急事態対応部隊は、消火し終わった後に、タンク火災が再着火することがあることを認識しておくべきである。
■ タンク火災の原因として保全(補修)および火気作業に関わるものが多いので、タンク保全作業に入る前に、つぎのような点に関してしっかりした手順を確立しておく。
● あらゆる作業を実施する前のリスク・アセスメント(作業安全分析)
● 人材の訓練と力量(適格性)
● 縁切り、パージ、ガス検知、引火源の排除を行い、火気作業の管理および可燃性雰囲気の除去
● 基準・規格に則った最小のタンク間距離の順守 (例えば、NFPA30に則ったとしても、火災時にはタンクから別なタンクへの延焼を回避できるわけではない)
● タンクから敷地境界までの距離、タンクからプロセス設備までの距離、タンクから入出荷エリアまでの距離、タンクから建物までの距離を適切にとること。施設用の特別基準がない場合、
CCPSの「Guidelines for Facility Siting
and Layout (2003)」が最も保守的なガイダンスとなる。
● タンク火災に対して唯一効果のある方法は泡消火であるが、大規模火災の場合は効かないこともある。
● タンク延焼の可能性を最小にする戦略をとるには、タンク間距離と火災抑制の両方を考慮すべきである。
● 個々のタンクについてタンク間距離を大きくとることができない場合、つぎの図のようにタンク群を分割することを考えるべきである。
● 危険性の高いタンク(例えば、引火性の高い液体を保管)の場合、自動過充填防止システムを設ける。そして、このシステムは、物理的・電気的に分離し、タンク・ゲージ・システムと独立したものとする。
● 過充填防止システムは定期的にテストを行う。長期間、作動したことがないと、システムは機能しないことがある。
● タンクの入口・出口配管には、ファイアセーフ型の孤立用バルブを設ける。
● 大容量の貯蔵タンクを最も安全に孤立させる方法は、遠隔操作型遮断弁を設けることである。
● 遮断弁のスイッチは、バルブ本体から離れたところで、且つ想定火災から十分距離を置いたところに設置すれば、タンク内容物を安全に孤立させることができる。
● 現場からの液流出や事故が大きくなって環境への影響が出ることを防止するため、3次の封じ込め方法を設ける。また、2次封じ込めから溢流するかもしれないことを考慮して、流出を封じ込めるような現場の排水方法や勾配について設計する。
〈この3か月間のタンク火災〉
訳者注; 上記2件の事故は当ブログで、「米国テキサス州のエクソンモービルでタンク火災」(2011年10月15日付け)、「シェブロンの製油所でタンクが爆発して死者4名」(2011年6月28日付け)として紹介した。
訳者注; 上記2件のうち、5月19日の事故は当ブログで、「落雷による火災に苦戦する消火活動」(2011年6月20日付け)として紹介した。
補 足
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「ERM社」(Environmental Resources Management )は環境、健康、安全、社会問題に関わるリスクマネジメントを専門に手がける世界有数のコンサルティング企業である。英国ロンドンを本部に、世界39か国に140以上のオフィスを有し、4,700名超の専門家を擁している。日本にも横浜にオフィスを持ち、活動している。
アルジェリア人質事件の現場となった天然ガスプラント操業会社の一社であるノルウェーのスタトイル社(Statoil)には、2007年にウェブベースの初期段階リスク・アセスメントのツールを開発し、納めている。 なお、スタトイル社は、アルジェリア人質事件に関して同社のウェブサイトでニュース・リリースを提供している。
所 感
■ 今回の資料(情報)は、
ERMというリスクマネジメントを手がける企業の専門家である著者が石油貯蔵タンクの事故の続いた状況からまとめたものであるが、その時期が2011年5月末であり、当ブログを開設した時期と同じ頃という点が興味深い。おそらく、2005年英国バンスフィールド火災事故におけるタンク爆発火災の衝撃的な事故が起こったあとも、タンク事故が無くならないことに疑問を持ったのに違いない。
この資料の教訓で述べているように、実際のタンク事故事例からリスクマネジメント(危機管理)を通じて、貯蔵タンクの事故を減らしていく必要がある。しかし、世界規模で見ると、その後も、貯蔵タンク事故は起こっているのが現実である。
後 記; 前回のブログの後記でアルジェリア人質事件について記しましたが、続きの話です。この事件は、アルジェリアのイナメナス(In Amenas)の天然ガスプラントで起こったと報道されていますが、実際は、イナメナスから約45km離れたティグエントゥリヌ(Tiguentourine)にある天然ガスプラントです。赤い火星のような砂漠で起こった今回の事件の情報は錯綜(?)して、日本では情緒的な報道が主になっていますが、海外の情報の中には、事件の概況をわかりやすく伝えているものがあります。3つの図(写真)を紹介します。
イナメナス(In Amenas)と約45km離れたティグエントゥリヌ(Tiguentourine)の施設の位置図 |
ティグエントゥリヌのガスプラントと居住区の位置図 |
事件の概況をまとめた図 |
1月16日水曜にテロ集団の襲撃(2名死亡、6名負傷)、17日木曜にアルジェリア軍による攻撃(居住区にいた人質および誘拐犯の死亡、数百人の人質解放)、19日土曜にアルジェリア軍による最終攻撃(プラント地区にいた人質および誘拐犯の死亡)、20日時点での状況は、少なくとも人質25名死亡、誘拐犯32名死亡、792名の人質解放(うち外国人107名)、不明者19名(うち日本人10名・ノルウェー人5名・マレーシア人2名・英国人2名)というのが事件の概況です。日本国内の各種施設において「テロ対策中」という看板は見かけますが、果たして日本でこのようなテロ集団による襲撃があったらどうなるのでしょう。
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