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2012年7月12日木曜日

太陽石油で工事中の球形タンクから出火、負傷者1名

今回もまた、前回に続いて日本で起こったタンク事故を紹介します。2012年6月27日、愛媛県今治市菊間町にある太陽石油四国事業所の液化石油ガス用球形タンクにおいて工事中に出火し、内部にいた作業員1名が負傷する事故がありました。

本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・ITV愛媛, 太陽石油でタンク火災、作業員が重傷, June 27, 2012
      ・毎日jp, 火災:タンク出火、1人重傷・・・今治・太陽石油四国事業所, June 28, 2012
      ・朝日新聞, タンク火災1人重傷, June 28 2012
  ・毎日jp, 今治のタンク火災:太陽石油所長が県に謝罪と説明, June 29, 2012
  ・愛媛新聞, 配管内可燃性ガス漏れ込み引火? 太陽石油タンク火災, july 04, 2012
  ・今治のタンク火災:「配管からガス流入」 太陽石油が県に原因報告,  july 04, 2012 

<事故の状況> 
■  2012年6月27日(水)、愛媛県今治市菊間町にある太陽石油四国事業所において内部検査のため開放中の液化石油ガス用球形タンクから出火し、内部で工事中の作業員1人が負傷する事故があった。
■ 火災があったのは太陽石油四国事業所にある直径20m程のブタンガスを貯蔵するLPGタンク内で、27日午前10時50分頃、「タンク内で火災が起きた」と消防へ通報があった。
 火はおよそ30分後に消し止められたが、この火災の際、タンク内のはしごの上部に取り付けられていた作業員の安全ベルトを装着する際に使われる落下防止安全装置の部品で重さ約5kgの金属物が落下し、孫請け会社の作業員(配管工)の檜垣和史さん(33歳)の頭や肩に直撃し、檜垣さんは重傷を負った。落下防止安全装置はワイヤロープを介して人の体を支持するためのもので、避難途中に頭上から落ちてきたと思われる。
 その後、檜垣さんは病院へ搬送され、頭部裂傷(10針縫合)と左鎖骨骨折の治療を受けている。


鎮火直後のLPGタンク (写真は朝日新聞から引用)
■ タンク内は当時、定期点検のため、液化石油ガスは抜かれていて、檜垣さんは午前9時頃から同僚3人とタンク内で足場組みに関わる作業をしていたと見られている。
 太陽石油は会見を開き、「火災は作業員が足場を組むのに邪魔になる常設のはしごをガスバーナーで切断中に何かに引火した」と説明を行った。 この際、作業前には、タンク内のガス濃度については、ゼロであることを確認していたという。
 また、火災の衝撃で金属物が落下した可能性もあるとした一方で、「あくまで爆発はしておらず、火災と金属物の落下との因果関係は分からない」と話している。
事故翌日、実況検分のために製油所構内に入る
今治市消防本部   (写真は愛媛新聞から引用
■ 太陽石油四国事業所では20061月、原油タンク火災で作業員5名が死亡する事故が起きており、越智洋二副所長は「前回の火災を受けての対応が十分でなかった。原因を特定して二度と起こさないようにしたい」と陳謝した。627日事故当日に就任した松木徹所長も「警察、消防の原因究明に協力し、再発防止に取り組む」と約束した。
■ 警察によると、事故後もタンク内はガスが充満しているため、27日(水)は立入りができないため、翌日28日(木)に実況検分を行い、作業手順に問題がなかったかどうか調べる方針だという。
事故翌日、球形タンク下部で実況検分を行う
関係官庁機関  (写真は愛媛新聞から引用

■ 628日(木)、太陽石油四国事業所の松木所長らが愛媛県庁を訪れ、県の県民環境部上甲俊史部長に謝罪と説明を行った。上甲部長は、詳しい原因と再発防止策の報告を求めた。同事業所は原因究明後、文書で報告するとしている。
 愛媛県は高圧ガス保安法に基づき、同事業所のタンク設備を許可している。松木所長は「多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と謝罪した。鎖骨骨折などの重傷を負った作業員の容体などを説明したが、これに対して上甲部長は、2006年1月に同事業所で作業員5人が死亡するタンク火災が起きたことに触れて「同じような火災が起こるのは遺憾である。原因究明と対策を強くお願いする」と要請した。

■ 7月3日(火)、太陽石油四国事業所の森戸隆志副所長は、出火原因について「フランジ(継手)が開放された配管からタンク上部に可燃性ガスが漏れ込んだと考えられる」と県に報告した。
 森戸副所長は県庁を訪れ、県の防災局中村博之局長に調査の途中経過として、火災は作業員がいたタンクの上部で発生したこと、当時タンク外(上側)の配管で別な作業員がフランジを開く作業をしていたこと、可燃性ガスがタンク上部のマンホールから入り込み、タンク内上部に溜まったガスにガスバーナーの火が引火したとの見方を示した。ガスの種類やフランジの開放作業に問題がなかったかについては「警察が捜査中」として明言しなかった。
 再発防止策には、配管内を通るガスの種類をフランジに表示するほか、移動式ガス検知器の増設などを列挙し、県が求める事故報告書は「警察当局の原因特定ができ次第、提出したい」とした。
 なお、警察は詳しい出火原因とともに、業務上過失傷害の疑いで調べている。
■ 太陽石油四国事業所では、20061月、原油タンク内を清掃中の作業員5人が死亡、2人が負傷した火災事故があり、業務上過失致死傷容疑で書類送検された同事業所の当時の工務部長ら9人について松山地検が200911月、不起訴処分とした。検察審査会の「不起訴不当」 の議決を受けて再捜査したが、201012月に嫌疑不十分で再び不起訴処分とし、不起訴が確定している。

 <太陽石油のニュース・リリース>   (太陽石油のホームページから引用)
2012627日 第1報 (四国事業所における小火発生について)
■ 本日11時頃、発生した小火(ぼや)について現在の状況をご報告いたします。
1.事業所概要;    精製能力 120,000バレル/日
2.小火発生場所;   LPGタンク
3.発生日時、状況; 2012年6月27日(水) 11時頃、LPGタンク開放検査中に小火が発生
4.発生原因;     調査中
5.負傷者;           協力会社の作業員1名が落下物により頭部に怪我
6.物的被害;        調査中
7.現在の状況;     小火は11時18分頃、公設消防により鎮火したことを確認
2012627日 第2報 
■ 本日発生した小火について、現在の状況をご報告いたします。
1.現在の状況;  10時45分(仮)に発生した小火は、11時15分(仮)、公設消防により鎮火したことを
            確認 (発生および鎮火の時刻は、消防が検証の上、確定します)
2.発生原因;   調査中 (消防、警察合同調査中)
3.負傷者;       協力会社の作業員1名が落下物により頭部裂傷(10針縫合)および左鎖骨骨折
4.物的被害;    調査中
2012629日 第3報 
■ 6月27日に発生した小火について、現在の状況をご報告いたします。
1.現在の状況;  6月27日(水)10時45分頃に球形タンクT‐116において発生した小火は、
               同日11時15分に公設消防により鎮火したことを確認
             6月28日(木)および29日(金)に消防、警察、労働基準監督署による合同の実況
             検分を実施し、終了
             6月28日に愛媛県に中間報告を実施
2.負傷者;       協力会社の作業員1名が落下物により頭部裂傷(10針縫合)および左鎖骨骨折)
            現在、治療・入院中
3.物的被害;     調査中

補 足 
■ 太陽石油は、1941年(昭和16年)に設立し、東京に本社を持つ民族系石油元売の一つで、愛媛県を地盤として、主として西日本に展開し、従業員634名の石油会社である。北海道、東北、北陸地方の中にはガソリンスタンドがない所があり、東日本ではなじみがないが、ガソリンスタンドのブランド名は「TAIYO」から2008年に「SOLATO」(ソラト)に変更した。
 製油所は愛媛県菊間町の四国事業所のみで、精製能力は120,000バレル/日である。日本で初めてソ連やルーマニアなどの軽質原油を輸入して石油製品の白油化を進め、重油生産ゼロ製油所を目標に、約500億円をかけて残油流動接触分解設備25,000バレル/日、ガソリン脱硫装置13,000バレル/日、プロピレン精製装置5,400バレル/日、アルキレーション装置6,000バレル/日が2010年10月に完成した。
 この装置建設にあたっては、狭い敷地を有効利用するため、既設施設を移転しながら進められたが、今回の発災した球形タンクもこの新設装置建設に伴い、山の斜面を造成して建設された。
残油流動接触分解設備など新設装置の事業計画時の資料 (写真は太陽石油事業計画書から引用

■ 球形タンクは、開放検査時に内部に足場を組み立てなければならない。従来は丸太や金属パイプなどを使った足場が通常の方法で、球形のタンク内壁全面に組み立てることは難しく、日にちや費用のかかる工事であった。近年、ロータリーデッキという方法が開発されている。球形タンクの中心に柱を立て、その左右に半円形の羽根のような専用足場が架かり、それが柱を中心にして回る仕組みになっている。
 今回の事故では、作業員が足場を組むのに邪魔になる常設のはしごをガスバーナーで切断していたとあり、ロータリーデッキ型の足場方法を採用するために常設のはしごを切断する計画だったと思われる。

■ 出火原因は、タンク外(上側)の配管で別な作業員がフランジを開き、この開放された配管からタンク上部に可燃性ガスが漏れ込んだと考えられている。ガスの種類やフランジの開放作業に問題がなかったかについては、警察の捜査中であり、明言されなかった。
 なぜ、ガスの種類を明らかにすることを避けたかわからないが、タンク上部における実況検分の写真を見ると、液化石油ガスタンクの安全弁出口は大気開放型であるので、安全弁出口のフレアガス系統ではない。推測になるが、タンク開放時に使用された燃料ガスラインまたはフレアガスラインの仮設(または常設)で比較的小配管ではないかと思われる。
球形タンク上部で実況検分を行っている関係官庁機関 (写真は愛媛新聞から引用


■ 負傷した要因は、落下防止安全装置の部品で重さ約5kgの金属物が落下したためであるが、記事の内容から巻取り式墜落防止装置だと思われる。この装置は、使用中に万一墜落が 起こっても、人間を支持しているワイヤーロープが装置内のディスクブレーキによって衝撃を軽減することができる安全器具で、重量は約5kgである。
 巻取り式墜落防止装置(の上部フック)は球形タンク内のはしごの上部に取り付けられていたことになっている。装置内に巻かれたワイヤーロープの下部フックに安全ベルトを装着して作業していたものと思われるが、この状態でフックが外れることはなく、火災の衝撃で外れることも考えづらい。ただ、タンク内のはしごの上部に作業員3人分の巻取り式墜落防止装置上部フックをどのように取り付けていたかはわからない。

所 感 
■ 発災当日27日から29日にかけて3回にわたって事故のニュース・リリースをホームページに出していた太陽石油は、その後、自らは情報を発信していない。明らかに意図的な配慮を感じる。ただし、メディアが太陽石油の動きを取材して得た情報を発信している。これによって太陽石油が発信しているニュース・リリースだけではわからない事故の概要が理解できた。

■ この意図的な配慮は、日本独特の典型的な縦割り行政の事故対応のためだと感じる。負傷者が出ているため、業務上過失傷害の疑いで警察が主として事故を調査(捜査)することになる。出火に関する事項は消防本部が所管する。太陽石油のニュース・リリースの中で、出火時間や鎮火時間にこだわっているのはそのためである。 また、労働災害であり、労働基準監督署が関与する。おそらく、労災の事故報告書は請負会社から労働基準監督署へすでに提出されていると思われる。
 一方、液化石油ガスタンクは高圧ガス保安法の適用を受け、愛媛県の管轄であるが、当時、開放検査で液が抜かれた状態で高圧ガスとは関係のない軽微な事象と判断したためか、負傷者が出ている事故にも関わらず、愛媛県は実況検分に立入りしていない。メディア各社が「火災」と報じているにも関わらず、太陽石油がニュース・リリースの中で「小火(ぼや)」としたのはそのためだと思われる。しかし、その代わり、太陽石油が県庁を訪問し、事故の状況を逐次報告させられている。 この県庁訪問時に、太陽石油は取材に応じているが、発言内容は県や警察への配慮が見られる。 

■ 太陽石油としても刑事事件として業務上過失傷害の容疑者を出したくない立場であり、関係官庁機関は縦割り行政で事業者を監督・指導しなければならない立場(逆にみれば、監督不行届の責任)にある状況下で、果たして真実の原因調査結果が出るのか疑問が残る。
 事故事例は二度と起きないように、事実を明らかにし、再発防止策を出して活かすことである。そして、これは官庁の組織内や発災事業所内に死蔵することなく、公にして他社でも活用できるようにすることが重要であり、真実の原因調査結果が公表されることを期待する。

後記; 今年の夏は全国で節電が呼びかけられており、我が家も緑のカーテンとしてゴーヤとアサガオを植えました。最初は育ちが悪いかなと思っていましたが、ここにきてどんどん伸びています。ゴーヤのつるは観察していると面白いものです。台風の多い沖縄育ちのためか、つるが風に動じないよう網にしっかりと巻きついていきます。文化生活(?)でひ弱になった人間(日本人)が見習うべき強さです。
 先日、原発が稼働し始め、政府が節電目標を下げたことに対してせっかく高まった節電意識に水を差すような話だという人がいましたが、同感です。電灯やラジオくらいしか電気器具がなかった昭和20年代に帰ればいいとは思いませんが、節電や生活方法について考えるいい機会ですよね。





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