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2012年7月7日土曜日

コスモ石油千葉でアスファルトタンクから漏洩して海へ流出

  今回は、2012年6月28日、千葉県市原市のコスモ石油千葉製油所においてアスファルトタンクからアスファルトが漏洩して、東京湾の海へ流出した事故を紹介します。日本で起こった事故であり、メディアから全国ニュースで流れましたので、ご存知の方も多いと思います。ほとんどの情報は28日または29日に出されたものなので、最初はメデイアなどから出された情報をまとめ、後半にこれらの情報からの推測と所感をまとめました。

本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・朝日新聞, 海上に液体アスファルト留出 千葉・市原のコスモ石油, June 28, 2012
     ・毎日jp, アスファルト;製油所から東京湾に留出 千葉のコスモ石油, June 20, 2012
     ・NHKWeb, 油流出 タンク内部加熱中に, June 28 2012
  ・千葉日報WEb, 東京湾にアスファルト流出 タンクに亀裂2~3メートル 市原・コスモ石油, June 29, 2012
  ・読売新聞, 加熱でタンクに亀裂か アスファルト流出, June 29、2012
  ・毎日新聞, アスファルト流出:タンクに亀裂、海に・・・市原・コスモ石油製油所, June 29 2012 

<事故の状況> 
■  2012年6月28日(木)、千葉県市原市にあるコスモ石油千葉製油所においてアスファルトタンクが破損し、貯蔵していたアスファルトが外部へ漏洩する事故があった。発災したのは容量1,000KLの505番タンクで、漏洩したアスファルトは防油堤内に溜まったが、一部は排水口を通って海上へ流出した。
(写真は毎日新聞から引用)
■ 6月28日(木)午前7時20分頃、市原市五井海岸のコスモ石油千葉製油所で、北東側護岸沿いにあるアスファルトタンク1基からアスファルトが海上に流出しているのを同社関係者が発見した。
 コスモ石油は午前8時頃にオイルフェンスを展張し、拡散防止を図った。流出は午前8時10頃に止まったが、海上へ流出した油の一部はオイルフェンスの展張範囲を越え、沖合へ流れた。
 千葉海上保安部によると、ゲル状のアスファルトが広がり、午前11時時点で幅約500m、沖合約250mの範囲の海上に広がった。市原市消防局と千葉海上保安部は現場海域にオイルフェンスを張り、千葉海上保安部の巡視艇が水を撒くなどして油の拡散防止を行った。しかし、千葉海上保安部によると、28日夜までに最大幅約200m、長さ約5kmの範囲に広がったという。
(写真は朝日新聞から引用)
■ 市原市消防局によると、タンクには約800KLが入っており、流出量は500KLに上るという。コスモ石油の発表によると、漏洩は437KLと推定されるが、海上への流出量は特定に至っていないという。流出したアスファルトは吸着マットなどを使って回収作業が行われているが、28日では終了せず、コスモ石油は24時間体制で回収作業を続けている。市原消防局と海上保安部は29日(金)朝から再開すると報じられている。
■ 発災したアスファルトタンクは、護岸から約100m内陸にあり、直径約11m、高さ約10mの鋼製タンクで、容量1,000KLである。タンクには、高さ約9mの位置に長さ約2mの亀裂が生じており、この亀裂からアスファルトが約15分間噴き出し、内部に入っていた818KLのうち437KLが外へ流出したと報じられている。
(写真は毎日新聞から引用)
■ このタンクは、2011年3月の東日本大震災以後は使われていなかったもので、再稼働に向けて最近、点検を始めており、6月16日(土)からは、中のアスファルトを軟らかくして抜き取る目的でタンクの内部を加熱していた。事故当日28日(木)朝のタンク内部は約160℃まで熱せられていた。 コスモ石油は、加熱作業により内部圧力が高まってタンクに亀裂が入り、中からアスファルトが噴き出したとみられると、読売新聞は報じている。
(写真は読売新聞から引用)
■ 読売新聞によると、同社では、事故の瞬間、製油所内に何かが割るような音が響き、確認にしたところタンクに亀裂が入っていたというと報じている。 NHKWebによると、アスファルトが漏れ出る前、近くにいた作業員がパンという何かが割れるような音を聞いていて、高さ10mほどのタンクの屋根と周りの壁のつなぎ目の部分が、幅2,3mほど損傷しているのが見つかったと報じている。
■ 発災タンクは1967年製造で、補強・改修を繰り返して使用していたと毎日新聞は報じている。このほか、同製油所には同種のアスファルトタンクが10基あるが、いずれも市原消防局から使用停止命令を受けて稼働を停止している。

■千葉県県議会の小松議員は同氏のブログでつぎのように述べている。
 「アスファルトのタンクヤードは、2011年3月11日の液化石油ガスタンクの炎上・爆発事故で17基の球形タンクが全焼・全損した3PKヤードと道路1本隔てて隣接しています。炎上・爆発時には、一番道路側(3PKヤード寄り)の510番アスファルトタンクの側板が開口して、アスファルトが漏洩しました。
 今回、漏洩事故を起こした505番タンクは、アスファルトのタンクヤードのほぼ中央に位置していますが、隣接の506番、507番、508番、509番タンクには、かなりの飛散物が衝突・落下しています。昨年、私たち議員がコスモ石油の現地調査に入った時も、アスファルトタンクの損傷が目につきました。
 その影響はないのかどうか、原因は調査中ということですが、徹底した検証が求められます」


<コスモ石油のニュース・リリース> 
2012628日 第2報 (海上へのアスファルト漏洩について)
■ 本日発生した海上へのアスファルト漏洩につきまして、近隣住民の皆さま方をはじめ、多くの方々に多大なご心配・ご迷惑をおかけしておりますこと深くお詫び申し上げます。
 現在、漏洩したアスファルトの回収と原因の究明に全力を挙げ取り組んでおりますが、現時点での状況につきまして、以下のようにご報告します。
1.漏洩日時; 2012年6月28日(木)午前7時18分頃   現在、漏洩は停止しています。
2.漏洩場所; コスモ石油千葉製油所 505番アスファルトタンク(容量:1,000KL)
3.タンクからの推定漏洩量; 437KL(15℃換算)
                   一部が海上に流出しましたが、流出量の特定には至っておりません。
4.漏洩原因; 調査中
5.対   策; 8時頃オイルフェンスを展張し、油の拡散を防止。 現在、アスファルトの回収を実施中。
6.負傷者;   無し 


(注記; 市原市消防局および千葉海上保安部はウェブサイトをもっているが、本事例について住民向けの情報は出していない)

補 足
■ 発災したアスファルトタンクの容量は1,000KLであるが、大きさについては直径11m、高さ10mというデータのほか、直径約12m、高さ約11mという報道もある。亀裂は高さ約9mの位置にあるという報道は多いが、この位置をタンクの屋根と周りの壁のつなぎ目の部分と報じているところもある。
  内部圧力が高まってタンクに亀裂が入り、中からアスファルトが噴き出したとみられるので、おそらく、タンク屋根と側板の溶接部が一部破断したものと思われる。
 ブログ「産業安全と事故防止を考える」の投稿者が同事故に関するコメントの中で、「屋根と側壁のつなぎ目部分に亀裂が入ったという件、おそらくは放爆構造が功を奏したということだろう」と述べている。コーンルーフ式タンクでは過圧防止のために、意図的に屋根と側板の溶接部を弱くする放爆構造が採られており、この放爆構造が機能したと思われる。 


■ 亀裂部がタンク液面(約7mと推定)より高い位置にありながら、内容液818KLのうち約半分の437KLが噴出していることから激しい突沸現象が起こったと思われる。
 アスファルトの比重は0.9~1.05である。一般的には、温度が低い状態では水より重く、高い温度では水より軽く、例えば、25℃で1.03、150℃で0.93というデータがある。今回のタンクの運転状況から考えて、長期停止期間中にタンク内へ水が入り、徐々にアスファルトを加熱していった際に遊離水となって徐々に沈降して行き、ある時点で一気に沸騰し、突沸現象を起こしたものと思われる。


■ オイルフェンスは、コスモ石油、市原市消防局、千葉海上保安部によって展張されたようだが、どのような役割分担で張られたか報道ではわからない。コスモ石油はニュース・リリースの中で午前8時に展張したと言っており、これは護岸近くに張られたオイルフェンスと思われる。しかし、写真では、このオイルフェンスを越えて拡散し、この対応に新たなオイルフェンスが展張されつつあるのがわかる。
 明らかにオイルフェンスの展張が後手になっている。 また、夜間になって油回収作業はコスモ石油のみで、消防局や海上保安部は作業を中断している。どこが環境汚染の対応を主動している部署か曖昧な点の一つである。
 このような海上での油流出事故対応の専門機関としては、独立法人「海上災害防止センター」が存在するが、今回の情報の中では、同機関が活動したのかどうかわからない。



所 感
■ アスファルトは準危険物といわれ、消防法による危険物から除外され、引火点が250℃以上なので、自治体の火災予防条例の指定可燃物の扱いで、危険性の少ない石油製品と受け取られている。しかし、アスファルトタンクの事故は少なくなく、2011年5月2日に起こった米国カリフォルニア州にあるグラナイトロック社の舗装用アスファルト製造プラントにおいてアスファルトタンクが爆発・火災事故を起こした事例を当ブログで紹介(2011年6月)した。 このほかに、2006年5月、日本の東亜石油京浜製油所におけるアスファルトタンクの爆発事故などがあり、運転管理に注意を要するタンクの一つである。
 アスファルトタンクで注意すべきことは、軽質油留分の混入、運転温度の上げすぎ、屋根部裏面の硫化鉄の生成などであるが、最も基本的な留意点は水による突沸である。原因は調査で明らかになると思うが、水があっても徐々に加熱すれば、水は徐々に蒸発していくという予断があったのではないだろうか。まさに事故は弱点を突いてくるという印象を持つ事例である。
■ 今回の事例では、アスファルトタンク地区の排水系統も問題だった。防油堤内に留まっておれば、海上汚濁問題へは発展しなかったが、おそらく、ここでもアスファルトは漏れても固化して、排水系統から海へ流れることはないという予断があったのではないだろうか。
■ 海上へ流出した油膜の状況は、地上の護岸からは目線の関係で視認しづらい。我々は報道機関の飛行機による航空写真を見ているので、オイルフェンスの展張が後手になっているのがよくわかる。
 今回のような海上への油流出事故の対応について地方自治体の環境担当部署、海上保安部(署)、消防局(署)の役割と責任範囲が曖昧である。基本は、地方自治体の環境担当部署が汚濁状況を把握し、拡散防止策を主動すべきである。この拡散防止策の遂行の中で、海上保安部(署)などの役割がある。そして、今回、活動がはっきりしない海上災害防止センターを活用して24時間体制で回収作業を行い、その経費は発災事業所の負担とすべきである。 今回の事例を活かすことを期待する。




後記; 今回の事故は最初にテレビのニュースで知り、日本の事故なので、情報整理は簡単だろうと思っていましたが、記事を読むと、次々と疑問が湧きました。液面はどの高さだったのか、なぜ9mという高い位置にある亀裂から多量のアスファルトが漏洩したのか、オイルフェンスは適切に展張されたのかなどです。ここで役立ったのは写真です。記事だけでは理解できないことが、写真を見るとわかることがあります。
 これから調査が行われて原因が明らかにされ、情報公開されると思いますが、写真も公開してもらいたいと感じる事例です。タンクの屋根と側板の放爆状態を実際に見た人はほとんどいないと思います。貴重な情報を次代に伝えるという観点から情報公開を期待したいですね。

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