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2021年11月6日土曜日

リビアのザウィヤ製油所の近くで銃撃戦、タンク13基が損傷

 今回は、20211025日(月)、リビアのザウィヤにある国営石油公社のナショナル・オイル・コーポレーションのザウィヤ製油所の近くで武装グループ間の銃撃戦によって製油所内の貯蔵タンクが損傷を受けた事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、リビア(Libya)のザウィヤ(Zawiya)にある国営石油公社のナショナル・オイル・コーポレーション(National Oil CorporationNOC)のザウィヤ製油所(Zawiya oil refinery)である。

■ 被災したのは、ザウィヤ製油所のタンク地区と潤滑油混合・充填プラントにある貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211025日(月)の夜中に約3時間にわたる武装グループ間による衝突によって、ザウィヤ製油所は 深刻な被害を受けた。

■ 目撃者によると、銃撃者たちが製油所のまわりで激しく交戦していた。グループの身元も衝突の原因も不明だが、2つのアルザウィヤ武装勢力とみられ、小型機関銃などの軽火器(Light  Weapons)や中機関銃などの中火器(Medium Weapons)を使用していたという。

■ 被害があったのは、タンク地区において石油製品や原油用の貯蔵タンク8基に損傷を受け、潤滑油の混合・充填プラントにおいてベースオイルやケミカル添加剤の貯蔵タンク5基に損傷を受けた。

■ 損傷を受けたタンクの中でベースオイル(SN150)を貯蔵するタンクT9から大量に漏れが発生した。

■ 潤滑油の混合・充填プラントの主電源につながる変圧器が損傷を受け、潤滑油の混合・充填プラントの製造ラインの建屋の天井が破損した。

■国立石油公社(NOC)は、暴挙を犯罪行為と表現し、彼らは労働者の生命を顧みることなく、ひいてはリビア国家と市民の生活に大きな損害を与えたと非難した。

■ 製油所構内の従業員に死傷者は出なかった。

 

■ タンク地区の石油製品や原油用の貯蔵タンク8基に損傷を受け、潤滑油の混合・充填プラントのベースオイルやケミカル添加剤の貯蔵タンク5基に損傷を受けた。

■ このうちベースオイル(SN150)を貯蔵するタンクから大量に漏れが発生した。

■ 潤滑油の混合・充填プラントの主電源につながる変圧器が損傷を受けた。また、潤滑油の混合・充填プラントの製造ラインの建屋の天井が破損した。

■ 製油所構内の従業員に死傷者は出なかった。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、内戦の銃撃による被弾である。事故の分類では「故意の過失」に当たる。

< 対 応 >

■ ザウィヤ製油所は、戦闘の被害を受けたが、プラントの操業は正常に稼働しているという。

■ リビアの主要な収入源である石油部門は、10年前に長年の独裁者ムアンマル・カダフィ(Muammar Gaddafi)が亡くなった以来、不安によって混乱してきた。


補 足

■ 「リビア」(Lybia)は、地中海に面する北アフリカに位置し、人口約699万人の共和制国家である。原油はリビアの主要な天然資源であり、埋蔵量はアフリカ最大の480億バレルと推定されている。

 2011年、カダフィ打倒を旗印にしたリビア国民評議会とカダフィ政権側の間でリビア内戦が勃発し、10月に42年間続いたカダフィ政権は崩壊した。しかし、カダフィ政権崩壊後も内政は混乱している。

「ザウィヤ」(Zawiya)は、リビアの北西部に位置し、地中海に面した人口約20万人の都市である。日本名ではザーウィヤともいい、リビア首都のトリポリ(Tripoli )の西約40kmにある。

■ 「ナショナル・オイル・コーポレーション」(National Oil Corp.NOC)は、1970年に設立されたリビアの国営石油会社で、石油・天然ガスの掘削・生産のほか、製油所・石油化学工場を有する。ナショナル・オイル・コーポレーションは、ザウィヤ製油所のほか2つの製油所を有している。

■「ザウィヤ製油所」(Zawiya oil refinery)は、120,000バレル/日精製能力を有する。リビアで最も機能している製油所で、約30万バレル/日の生産能力を持つシャララ油田に接続されている。

■「被災タンク13基」の位置に関する詳細な情報はない。しかし、製油所の配置と被災タンクが「タンク地区の石油製品や原油用貯蔵タンク8基、潤滑油混合・充填プラントの貯蔵タンク5基」を考えあわせてみると、製油所の西側と推測できる。西側には建屋があり、比較的小型のタンクが並んでおり、その奥側には浮き屋根式タンクが並んでいる。また、製油所西側の境界は住宅地域と接しており、銃撃戦が行われた場合、タンクは被災する位置にある。

所 感

■ 事故の原因は、内戦の銃撃による被弾で意図したものではないにしても、事故の分類では「故意の過失」である。武器は、小型機関銃などの軽火器(Light  Weapons)や中機関銃などの中火器(Medium Weapons)などを使用していたとみられる。13基のタンクに被弾し、うち1基からは内液が流出している。タンクを標的としたわけではなく、いわゆる流れ弾だったとみられるが、火災にならずに良かったという印象である。


 過去の事例で銃弾によるタンクの被災例は、つぎのとおりである。

 ●20121月、「米国オクラホマ州で銃弾によるタンク火災」

 ●201710月、「米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃」

「米国のラスベガス銃乱射事件」では、半自動ライフル銃で約600mの距離を容量6,800KLのジェット燃料タンク(推定;直径約25m×高さ約14m)の側板を貫通している。ロケット砲などを使用しないでも、タンクを標的とすれば銃弾であっても側板を貫通したり、火災に至る可能性がある。鉄板だから防弾機能があると思い込まないで、テロ対応を考えるべきである。

■ リビアは内戦で国内が疲弊しているといわれているが、過去からつぎのようなテロ攻撃によるタンク火災があっている。

 ●20147月、「リビアで国内の戦闘によって燃料貯蔵タンクが火災」

 ●201412月、「リビアでロケット弾による原油貯蔵タンク火災」

 ●20161月、「リビアの2つの石油施設基地で砲撃によって複数のタンク火災」

 ●20161月、「リビアの石油施設基地で再び砲撃によるタンク火災」


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Tanks at Zawiya refinery damaged by ‘skirmishes’,  October 28, 2021

    Africanews.com, Lybia's Zawiya oil refinery suffers damages due to armed clashes,  October 27, 2021

    Reuters.com, Libya's Zawiya oil refinery severely damaged after skirmishes, NOC says,  October 27, 2021

    Libyanexpress.com, Zawiya Oil Refinery suffers damages,  October 29, 2021

    Spglobal.com, Libya's Zawiya refinery operating normally after sustaining damage following skirmishes,  October 27, 2021

    Hellenicshippingnews.com, Libya’s Zawiya operations unaffected by damage,  Nobember 02, 2021

    Refiningandpetrochemicalsme.com, Libya’s only operation refinery severely damaged after a gun battle,  October 27, 2021

    Libyaobserver.ly, Clashes in Libya's Al-Zawiya city cause damage to oil refinery,  October 26, 2021

    Lana-news.ly, Al-Zawiya Oil Refining reveals its losses due to armed clashes last night,  October 27, 2021

    Libyaherald.com, NOC condemns militia skirmishes damaging Zawia Oil refinery,  October 27, 2021


後 記: 今回の事故情報はリビアの内戦に関わる政治的な話に向いてタンク事故としては内容の薄いものでした。それでも、しぶとく調べていくと、メディアの中に、銃撃者たちがLight WeaponsMedium Weaponsを使用していたと報じていました。 調べると、Light Weaponsは人が携帯できる機関銃などで、 Medium Weaponsはそれより重装備な脚の付いた機関銃などということが分かりました。私を含めて火器に疎い人のためにリビアで使用されている銃の写真を参考に入れることとし、顔がはっきりしているのは、Windowsペイントの機能を使用してモザイク(ぼかし)をかけてみました。

2021年11月1日月曜日

カナダ・アルバータ州の原油生産のタンク施設で爆発・火災

  今回は、20211023日(土)、カナダのアルバータ州エルクポイントにあるセキュア・エナジー社のタンク施設で爆発・火災が起こった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、カナダ(Canada)のアルバータ州(Alberta)のエルクポイント(Elk Point)にあるセキュア・エナジー社(Secure Energy)のタンク施設(タンクファーム)である。

■ 事故があったのは、セキュア・エナジー社の陸上原油生産のエルクポイント施設にあるタンク設備である。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211023日(土)午後235分頃、セキュア・エナジー社のエルクポイント施設で爆発があり、火災となった。

■ 発災に伴い、セキュア・エナジー社は消防署などに緊急通報を出すとともに、異常事態対応計画にもとづく対応を始めた。

■ 発災があった時、自治体の担当者は、「地元の人たちとしゃべっていたら、オーケストラの打楽器奏者が打ち鳴らす音を聞きました。ほかにも同じように感じた人がいました」と語った。

■ 現場では、カナダ騎馬警察や救急医療サービスとともに、30人以上の消防隊が対応した。

■ 警察は現場近くを走るハイウエイ640を緊急車両の通行を優先して、一般車両を通行制限した。なお、レンジ・ロード62号線や63号線、あるいはタウンシップ・ロード554号線は施設から出る煙のため視界が悪いので走らない方がよいと注意喚起があった。

■ アルバータ州のカナダ騎馬警察は、火災はタンク基地内に限定されており、住民への脅威はないと語った。

■ 当局は、産業爆発の専門家を招集し、火災の抑制と制御を図ることとした。近くに住む人たちは、予防措置として、自宅から避難した。 

■ アルバータ州エネルギー規制当局と大気を監視する機関も敷地内に入った。

■ 事故に伴う死者は無かった。当局によると、怪我をした人はいるが、現時点では怪我の程度は不明であるという。

 

■ 陸上原油生産施設のタンク設備などが火災で被災した。損傷の範囲や程度は分からない。

■ 事故による死者はいなかった。負傷者が出た模様であるが、詳細は分からない。

■ 現場近くを走るハイウエイ640の一般車両の通行が制限された。

■ 近くに住む人たちが予防措置として自宅から避難した。   

< 事故の原因 >

■ 事故原因は不明で、調査中である。 

< 対 応 >

■ セキュア・エナジー社は、「火災は消えました。私どもは当局に全面的に協力し、原因の調査を行っていきます。私どもの最優先事項は、従業員と一般市民の安全、環境の維持です」という声明を発表した。

■ 爆発の原因は現在のところ分かっていない。

補 足

■「カナダ」(Canada)は、北アメリカの北部に位置し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家で、英連邦加盟国である。人口は約3,760万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。

 「アルバータ州」 (Alberta)は、カナダ西部に位置し、人口は約444万人である。肥沃な農業地帯が広がるが、第2次大戦後、石油が発見されて産油地域でもある。近年はオイルサンド採掘で得られる重質原油の生産が主力になっている。

 「エルクポイント」 (Elk Point)は、アルバータ州セントポール郡にあり、人口約1,400人の町である。エルクポイントは農業が主の地域であるが、多くの石油関連企業がある。エルクポイントでは、20126月に「カナダのアルバータ州のポンプ・ステーションで原油漏洩」の事故が起こっている。

■「セキュア・エナジー社」(Secure Energy) は、2007年に設立し、アルバータ州カルガリーに本社を置くエネルギー関連のサービスを提供する会社である。原油やオイルサンドの開発・生産に関連する油の処理や末端処理、深井戸注入による水処理、油田廃棄物の処分などを行い、そのためにアルバータ州を中心に47の施設をもっている。セキュア・エナジー社は、最近、同業者のニューワルタ・タービータ社(NewaltaTervita)と合併した。

■ アルバータ州のオイルサンドの生産の概念図はつぎのとおりである。今回のセキュア・エナジー社の施設はオイルサンドの水蒸気攻め法(Steam Assisted Gravity Drainage)による関連設備ではないかと思われる。

■ 火災の状況は遠方から炎が立ち昇る様子を撮影された画像しかない。メディアの記事では発災現場も明確でないが、セキュア・エナジー社のウエブサイトには同社が保有する施設の場所が掲載されており、エルクポイントの場所と施設はハイウエイ640号線沿いにある。グーグルマップでは、最近合併したというタービータ社(Tervita)の名前が付けられている。

所 感

■ 事故の原因は、水蒸気攻め法によるオイルサンドの原油生産施設にある油貯蔵設備が何らかの引火源で爆発し、火災になったものと推測する。オイルサンドの生産は採算の悪い状況が続いていたが、最近の原油高を背景に無理な増産操業を行ったことで事故になったのかも知れない。火災の映像から見ると、火災の規模は大きそうな印象である。陸上原油(オイルサンド)生産施設には防油堤が設置されていないようなので、油が流出していたら、施設の被害はひどいものになったかも知れない。

■ 消防活動はまったく分からない。消火活動を行ったのか、不介入戦略で燃え尽きるのを待ったのかも推測がつかない。最近の火災事故ではドローンによる映像が報じられることが多いが、今回のような事故の場合、消防活動の状況把握や報道による事実把握からドローンの活用に期待したい。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Tankstoragemag.com, Fire at Secure Energy’s Alberta tank farm,  October 25, 2021

    Globalnews.ca, Industrial explosion left fire crews battling blaze at crude oil tank farm northeast of Edmonton,  October 24, 2021

    Lakelandconnect.ne, Explosion outside of Elk Point; HWY 640 closed,  October 23, 2021

    Edmontonjournal.com, Explosion, fire damage petroleum tank farm in Two Hills County,  October 24, 2021

    News7h.com, Industrial explosion left fire crews battling blaze at crude oil tank farm northeast of Edmonton – Edmonton,  October 23, 2021 


後 記: 今回の事故では、メディアの報道記事よりもその他の関連事項を調べるのに時間がかかりました。まず、カナダのアルバータ州はオイルサンドの掘削の多いところであり、同じような施設がたくさんあり、発災現場がグーグルマップではつかめませんでした。つぎに、セキュア・エナジー社のエルク・ポイント施設なるものがどのような設備なのかはっきりしません。また、セキュア・エナジー社なる会社の形態がよく理解できませんでした。エネルギー会社や油井所有者ではなく、油井の施設を提供して操業管理を行うサービス会社であることが分かりました。オイルサンドを水蒸気攻め法によって生産するプロセスは水などの廃棄物が出てコストと手間のかかることが分かりました。結局、セキュア・エナジー社のウエブサイトで施設の場所を示していましたので、これからエルク・ポイント施設の場所などが分かりました。そして、今回はグーグルマップだけでなく、グーグルアース(Google Earth)が有効でした。


2021年10月24日日曜日

米国テキサス州で原油タンクのミキサー取付けフランジから油噴出

 今回は、2021106日(水)、米国のテキサス州ガルベストン郡テキサス・シティにあるマラソン・ペトロリアム社のガルベストン・ベイ製油所で原油用貯蔵タンクに設置されているタンクミキサーの取付けフランジ部から大量に原油が噴出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ガルベストン郡(Galveston)テキサス・シティ(Texas City)にあるマラソン・ペトロリアム社(Marathon Petroleum)のガルベストン・ベイ製油所(精製能力:593,000バレル/日)である。

■ 事故があったのは、ガルベストン・ベイ製油所のタンク地区にある大型の原油用貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021106日(水)午前730分頃、貯蔵タンクに付属している設備が故障し、タンク内に貯蔵されていた原油が漏洩した。

■ 漏洩の要因はポンプのメカニカルシールやバルブのフランジの故障という情報が流れていたが、地元メディアの中には漏洩箇所が“タンク側板のフランジ部”と修正を伝えている。

■ 発災に伴い、付近には原油の臭いがするため、製油所のそばを走っている付近の道路が閉鎖された。しかし、地域住民への避難の要請は無い。

■ 原油はタンク防油堤内に流出しており、原油のベーパーを抑制するため、消火用泡が使用されている。また、油を回収して処分するための設備が配備された。

■ 流出による汚染を最小限に抑えるために、油の入った貯蔵タンクはできるだけ早く原油を抜いて空にしようとした。タンク内の液は一杯ではないという。製油所が当局に提出した書類によると、 106日(水)午前730分頃に始まった流出は、107日(木)午前730分までには終える予定だという。大気汚染の揮発性有機化合物は5,000ポンド(2,260㎏)と推定しているという。

■ 製油所では、汚染の影響を受けたエリアで水を噴霧しているのが見られた。

■ 107日(木)、製油所は、予防措置として地域社会の大気モニタリングを実施しており、地域社会へのリスクの兆候はないと述べた。テキサス環境品質委員会(Texas Commission on Environmental Quality)でも大気品質のモニタリングを実施している。

■ 専門家によると、流出した原油が構外の水系に流れ込むことはないとみている。防油堤内に漏洩した油は堤内または製油所構内に留まるよう設計されており、正しく機能していると思われるという。現在のところ沿岸警備隊が対応する様子はない。

■ また、専門家によると、ベンゼン、トルエン、キシレンのような有害物質は原油に含まれているが、それらは極めて速く蒸発し、大気中に出ていくので、もっとも懸念されるのは気象条件に応じて移動する距離と環境に留まる時間であるという。

■ 流出が始まってから24時間を経過したが、タンクは原油を防油堤内に漏らし続けている。

■ 事故に伴う負傷者は無い。

■ 米国のドローンによる映像を取り扱っているスカイ・アイ社(Sky Eye)の撮影した動画が配信されている。106日(水)にヒューストンの各テレビ局で原油が噴出している映像が流れた。事故の状況は漏洩から噴出という表現に変わっている。下記のYouTubeを参照。

 ●Crude oil leak at Marathon Petroleum facility in Texas City2021/10/7

 ●Crude oil leak reported at Marathon facility in Texas City2021/10/7

 ●RAW VIDEO | Crude oil leaks from tank at Marathon Petroleum facility in Texas City2021/10/7

被 害

■ 原油タンクに付帯しているタンクミキサー系の部品(タンクフランジを含む)が損傷した。 

■ タンク内の原油が流出した。(流出量は未確認)

■ 原油が防油堤内に流出して土壌汚染と大気汚染を引き起こした。製油所が当局に提出した報告によると、大気汚染の揮発性有機化合物は5,000ポンド(2,260㎏)と推定しているという。

■ 製油所の近くを走る幹線道路が閉鎖された。クリーンアップ作業を行うため、流出が止まった後の2日間も継続して閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

■ 漏洩箇所はタンク側板のフランジ部とみられている。映像によると、タンク側板部のフランジとそれに取り付けられたタンクミキサーが関係しているとみられる。

< 対 応 >

■ 発災から27時間後の107日(木)午後1030分、テキサス・シティの当局者は、タンクからの流出は止まったと発表した。しかし、テキサス・シティによると、製油所のそばを走っている幹線道路のループ197号線は、クリーンアップを実施しているので、あと2日間閉鎖したままにすると述べた。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「ガルベストン郡」(Galveston)は、テキサス州の南東部に位置し、人口約25万人の郡である。

「テキサス・シティ」(Texas City)は、ガルベストン湾の南西部に位置し、人口約45,000人の市である。

■「マラソン・ペトロリアム社」(Marathon Petroleum)は、1998年に設立した米国オハイオ州に本社をもつ石油会社で、製油所を所有し、ガソリンスタンドなどでの販売を手がける。 米国12州に13箇所の製油所を有し、約290万バレル/日の精製能力を持つ米国最大の精製システムを運用している。

 「ガルベストン・ベイ製油所」は、テキサス州テキサス・シティのガルベストン湾近くにあり、ヒューストン船舶航路の入り口からは離れている。2018年、ガルベストン・ベイ製油所はテキサスシティ製油所と合併し、593,000バレル/日の精製能力を備えた世界クラスの精製複合施設になった。

 なお、 2017825日に米国テキサス州に上陸したハリケーン・ハービーによって 浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が沈降した。(ただし、発災時はテキサスシティ製油所側のタンク。「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油設の停止と油流出」を参照)

■「発災タンク」は原油用という情報だけで、タンク仕様に関しては報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約86mである。高さを18mと仮定すれば、容量は100,000KL級の外部浮き屋根式タンクである。漏洩箇所はポンプのメカニカルシールやバルブのフランジの故障という情報が流れていたが、地元メディアはタンク側板のフランジ部と修正を伝えている。発災映像を見ると、漏洩箇所にはサイドエントリー型のベルト式タンクミキサー(撹拌機)が設置されているので、タンク側板のフランジ部はタンクミキサーの取付けフランジだとみられる。

■ 発災タンクに入っていた原油量についてマラソン・ペトロリアム社は公表を避けている。メディアの中には400,000バレル(63,600KL)ではないかと推定している。発災写真を見ると、経過時間が分からないが、タンク屋根がタンク高さの半分ほどであるので、推定に近い量が入っていたものと思われる。発災後、タンクから別なタンクへ移送されていると思われるので、タンクミキサー部から流出した量は分からない。

所 感

■ 今回の事故は、タンク側板に設置されたタンクミキサー(撹拌機)を取り付けるフランジ部が何らかの損傷でタンク内の原油が流出したものとみられる。サイドエントリー型タンクミキサーは重量があるので、近年は重量を軽減する吊り具がタンク側板部に支持されている。今回のタンクミキサーに吊り具が付いていたか判然としないが、いずれにしてもタンクミキサーは振動のある機械であり、タンクミキサーのメカニカルシール部など気をつかう設備のひとつである。発災写真を見ると、上部に噴き出している2箇所は取付けフランジ部のゆるみ箇所ではないだろうか。前方に噴き出しているのはメカニカルシール部が流出の影響によって破損したのではないかと思う。可能性としてはタンク側板のフランジ部の割れ(疲労など)もある。

■ いずれにしても、日本では起こらない事故と断言できない事例であり、タンク所有者はタンクミキサーの振動やメカニカルシールの漏れなどの点検に問題がないか確認する必要があろう。マラソン・ペトロリアム社は事故に関する情報公開に積極的ではないが、今回の事例は他社でもありうることだと思うので、事故原因の公表に期待したい。

■ 今回のように流出を止められない状況の場合の異常事態対応は、つぎのようなことを考慮して進める必要がある。 類似事例としては、「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」 20124月)を参照。

 ● 防油堤の容量を確認し、水をいくら張り込むことができるか確認する。(仕切り堤がある場合、ここに留めた場合、流出油の受入れ量が減り、水の張り込み量に影響する)

 ● 油のベーパー抑制のための消火用泡を張り込む。

 ● 地下浸透対策として水を張り込む。流出発生後、1時間以内のできるだけ早い段階で水を張り込むのがよい。水は2日間張り込み、土壌への浸透をできるだけ回避してクリーンアップ作業を早める。

 ● 油の回収設備を準備し、クリーンアップ作業を行う。

 今回の事例では、タンクミキサー部からの流出で油量が制限されていたが、壊滅的なタンク破壊に至った場合、「地上式貯蔵タンクの破壊による液流出のモデル化と軽減策の検討」201511月)では、たとえ防油堤が損傷しなくても、貯蔵されていた液の70%を超える量が越流して堤外の環境へ影響を与えるという。この意味では、最悪のケースは避けられたといえよう。また、映像では、リスクを冒して土盛り式の防油堤を点検していたと思われることは妥当であろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Click2houston.com, Crude oil leak at Marathon Petroleum refinery in Texas City prompts road closures, cleanup, officials say, October  06, 2021

     Autoblog.com, Watch as Marathon Petroleum refinery continues to leak crude in Texas, October  07, 202

     Abc13.com, Marathon Galveston Bay Refinery leak stops, but road closures remain in Texas City, October  08, 2021

     Khou.com, Crude oil leak at Marathon Petroleum facility in Texas City, October  07, 2021

     Reuters.com, Crews containing crude oil gushing out of tank at Marathon refinery, October  07, 2021

     Galvnews.com, Flange failure caused Texas City oil leak, officials say, October  07, 2021

     Ksat.com, Video shows crude oil spewing from leaking tank at Galveston Bay refinery, October  06, 2021

     Greenmatters.com, 24 Hours Later, Officials Are Still Cleaning Up Crude Oil Spill at Texas Refinery, October  07, 2021

     Newsweek.com, Video Shows Oil Gushing Out of Gaping Hole in Texas Refinery, October  07, 2021

     Bloombergquint.com, Marathon Texas Refinery Works to Contain Day-Old Oil Leak, October  08, 2021

     Tankstoragemag.com, Oil tank leak at Marathon Galveston Bay refinery, October  07, 2021


後 記: この事故を最初に知ったのはポンプのメカニカルシールの故障という情報で、タンク本体の事故ではなかったので、後回しにした事例でした。ところが、事故情報を調べ始めたら、どうもそうではなさそうです。ドローンの映像を見て初めてタンクミキサーが関連している事故と分かりました。今回の事故現場は公共道路に近いところだったので、いずれメディアに知れることになったでしょうが、マラソン・ペトロリアム社は情報の開示に消極的で(テキサスの石油会社は総じてそうですが)、そうでなければ、製油所構内でちょっとした油漏れがあったということで終わっているでしょう。ところが、ドローンによってマラソン・ペトロリアム社のロゴマークの入ったタンクから油が噴出している鮮明な映像が米国全土に流されるとは皮肉なものです。 (メディアによってヘリコプターによる映像もあるようです)

2021年10月19日火曜日

レバノンのザハラニ石油施設でガソリンタンク火災

 今回は、20211011日(月)、レバノンのサイダ市にあるザハラニ石油施設のガソリンタンクが爆発して火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、レバノン(Lebanon)南レバノン県サイダ市(Saida)の南にあるザハラニ石油施設(Zahrani Oil Facility)である。 

■ 事故があったのは、ザハラニ石油施設内のガソリンタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211011日(月)午前8時頃、ザハラニ石油施設内のガソリンタンクで火災が発生し、黒煙が空に噴き出した。近くの農園で働いていた人によると、火災の前にバンという大きな音を聞いたという。

■ 発災に伴い、消防隊(民間防衛部隊)が出動した。

■ 消防隊はタンクの火災を消火しようと試みた。また、周囲のタンクを冷却して延焼を防ごうとした。

■ タンク内には、レバノン軍が所有するガソリンが入っていた。貯蔵されていたガソリン量は30万リットル(300KL)という。

■ レバノン軍は、火災が発生した石油施設の近くの地域に避難要請を出した。ただ、この地域には、人はほとんどいないとみられる。また、軍は予防措置としてベイルートと南部を結ぶ幹線道路を閉鎖した。

■ 事故に伴う死傷者の報告はない。

■ 石油施設では、事故前日の1010日(日)にタンクの屋根に傾きがあると気づき、早急の対応として、1011日(月)の朝からタンク内容物の移送を開始していた。この貯蔵タンクから別なタンクへのガソリンの移送中に火災が起こったという。技術的エラーという情報や輸送プロセス中の摩擦という情報もあるが、火災が発生した正確な原因は分かっていない。

■ 炎上するタンクと消防活動の映像がYouTubeに投稿されている。下記を参照。

 ●صور مباشرة لعملية الاطفاء في منشأة الزهراني للنفط جنوب لبنان (レバノン南部のザハラニ石油施設での消防活動のライブ写真)(2021/10/11

 ●سر الخزان 702 .. حريق محطة كهرباء الزهراني بلبنان لغز جديد (タンク702の秘密..レバノンのザハラニ発電所の火災は新しい謎)(2021/10/12

被 害

■ ガソリンタンク1基が火災で被災した。内液のガソリン約250KLが焼失した。

■ 死傷者はいなかった。


< 事故の原因 >

■ 事故前日にタンクの屋根に傾きがあると気づき、早急の対応として、事故のあった日の朝からタンク内容物の移送を開始していた。この貯蔵タンクから別なタンクへのガソリンの移送中に火災が起こった。技術的エラーや輸送プロセス中の摩擦という情報もあるが、火災が発生した正確な原因は分かっていない。

< 対 応 >

■ 火災は4時間燃え続け、11日(月)正午頃に消火した。一方、午後も火災は続いていたという情報もある。

■ レバノンのエネルギー省の大臣は、焼失したガソリン量は約25万リットル(250KL)だったといい、火災の原因について調査を開始したと述べた。

■ 発災のあったザハラニ石油施設の近くにあるレバノンの2つの最大の発電プラントのひとつが、2日前の109日(土)に燃料不足のため停止しなければならなかった。ザハラニ・プラントと北部にあるデイアアマール(DeirAmmar)プラントの両発電所は、1010日(日)の夜にレバノン軍から緊急に軽油6,000KLの供給を受け、操業を再開した。経済の破綻により、レバノンは燃料が不足しているだけでなく、薬、電気、さらには飲料水などの生活に欠かせない必需品も不足している状況である。

補 足

■ 「レバノン」(Lebanon)は、正式にはレバノン共和国で、地中海を望む位置にあり、人口約680万人である。首都はベイルートで、南はイスラエルに接した国である。

「南レバノン県」は、レバノンの南部に位置し、人口約約59万人の県である。

「サイダ市」(Saida)は、シドンとも呼ばれ、レバノン県の地中海側に面した人口約16万人で、南レバノン県の県都である。     

 レバノンのベイルートは1970年代まで金融都市として栄え、中東のパリとも言われたが、1980年代の宗派の内戦で荒廃し、イスラエルの軍事侵攻も招いた。さらに、20208月、ベイルート港で大爆発があり、少なくとも215人が死亡し、6,000人以上が負傷し、多くの施設と近隣地域が破壊さする事故があった。これは核爆発以外で最大の爆発事故のひとつで、肥料に使用される爆発性の高い硝酸アンモニウム数百トンが不適切に保管されていたことによって起きたものだった。 レバノンは経済破綻により、燃料不足だけでなく、薬、電気、さらには飲料水などの生活に欠かせない必需品も不足するという深刻な状況にあるという。

■ 事故のあったザハラニ石油施設(Zahrani Oil Facility)は燃料油の分配基地である。 北にあったザハラニ製油所が戦争で被害を受け、1989年半ばに操業を停止し、その後、修理計画が放棄され、貯蔵タンク機能だけが場所に変えることになった。現在の石油施設の場所は、ザハラニ発電プラントの南側にある。

■「発災タンク」をグーグルマップで調べると、ザハラニ石油施設内のタンク位置から判断して特定できる。「発災タンク」は直径約10mであり、高さを11mと仮定すれば、容量は800KLクラスとある。また、発災時のタンク内の液量が300KLといわれており、この液位は約4.1mとなる。焼失した量は250KLといわれており、この液位は0.7mである。消火後のタンク側板の塗装面を見ると、タンク液位はもう少し高いようだが、これは消火水が加わったためであろう。

 また、タンク型式はグーグルアースの3Dの映像によって外部式浮き屋根型タンクであることが分かった。これによって、記事にある「タンク屋根に傾きがある」というのは、タンク浮き屋根の一部が沈降したものと思われる。

■ 火災の状況を映像でみると、全面火災(または障害物あり全面火災)の様相を呈している。ガソリンの燃焼速度を0.33m/hと仮定すれば、液位の変化3.4m(液位4.1m→0.7m)の燃焼時間は約10時間となる。このデータから火災は事故から約4時間後の正午頃に消されたのではなく、夕方ごろまで続いていたものと思われる。

 消火できる面積当たりの泡放射量を6.510 L/min/㎡とすれば、直径10m(表面積:78.5㎡)のタンクでは、必要な泡放射量は510785 L/minとなる。これは日本の大型化学消防車1台の放水能力(3,000 L/min)でまかなえる量で、はしご付き消防車(スクアート車)があれば、消火は可能である。

所 感

■ 事故は、つぎのような流れで起こったと推測している。

 ● 浮き屋根式タンクの浮き屋根が一部沈降しているのを発見した。

 ● その対応としてタンクを空にするため、内液であるガソリンを別なタンクに移送しようとした。

 ● 浮き屋根は傾いて側板に引っ掛かった状態であったため、徐々に液位を下げたとき、ある時点で浮き屋根の重量が勝り、一気に落ちた。

 ● この際、浮き屋根と側板が接触して火花が発生し、ガソリンベーパーに引火し、爆発した。

■ 浮き屋根は抵抗なく動くものだと思い、出火防止策を講じることなく、タンク液位を下げたと思われる。タンクの規模や浮き屋根の沈降状況は異なるが、 201211月に起きた「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故」では、事故タンクから原油移送を行うときに、つぎのような出火防止策をとっている。

 ● 急激な液面降下を避けた。

 ● 付属物の落下防止措置がとられた。

 ● 雷注意報が出た場合、作業は中断することとした。

 ● 液面降下中は常時監視とした。

 ● 途中(事故後6日)でタンク液面に二酸化炭素(炭酸ガス)注入装置を設置する工事が完了したので、炭酸ガス注入を始めた。

 このタンク液面上に二酸化炭素(炭酸ガス)を注入して対応するのか、代替措置として泡消火剤を投入して移送を早く完了させるかどうかは意見が分かれるところであろうが、タンク浮き屋根の沈降といった異常事態時には出火防止策が必要である。

■ 消火は4時間ではなく、それ以上かかったものと推測され、容量800KLクラスとみられるガソリンタンクの消火活動としてはかなり難航している。大容量泡放射砲システムでなくても、通常の大型化学消防車で消火は可能だったと思う。時系列が分からないが、出動した消防車の放水能力が不十分で、且つ泡薬剤の保有量が不足していたため、有効な消火活動ができなかったように感じる。火災の後半になってはしご付き消防車(スクアート車)の出動と泡薬剤が確保でき、消火できたのではないだろうか。残念ながら消火戦略や消火戦術が適切だったとは言えない事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Jp.reuters.com, Fire at Lebanon fuel storage tank contained – govt,  October 11, 2021

    Aljazeera.com, Fire at Lebanon’s Zahrani oil facility extinguished,  October 11, 2021

    Bbc.com, Large fire breaks out at oil facility in crisis-hit Lebanon,  October 11, 2021

    Smh.com.au, Oil tank fire in southern Lebanon contained, energy minister says,  October 11, 2021

    Jpost.com, Fire at Lebanon's Zahrani oil facility contained,  October 11, 2021

    Jordantimes.com, Lebanon firefighters quell fuel tank fire,  October 11, 2021

    English.ahram.org.eg, Lebanon firefighters quell huge fuel tank fire,  October 11, 2021

    Axios.com, Massive fire extinguished at Lebanon oil facility,  October 11, 2021

    English.alarabiya.net, Fire breaks out in benzene tank at oil facility in south Lebanon: Report,  October 11, 2021

    Arabnews.jp, レバノン南部の燃料貯蔵タンクで火災、消防隊員が消火活動,  October 11, 2021

    Usnews.com, Lebanese Firefighters Put Out Fire at Fuel Facility,  October 11, 2021

    News.cn, Huge fire breaks out in Lebanon,  October 11, 2021

    Almayadeen.net, حريق ضخم في منشأة نفطية جنوبي لبنان,  October 11, 2021


後 記: 初めてレバノンの事故を取り上げました。事故情報を知ってインターネットで検索すると、かなりの数があったので、メディアの取材がもとのように活発になったのかと思いましたが、中身を調べると、そうではないことが分かりました。ほとんどは政府要人からのコメントで、実際に現場を取材したという感じではありません。発災日の報道だけで、深掘りの追加報道はまったくありませんでした。それでも発災写真が多くあったのは、メディアの取材が少し変化してきたかなといった感じです。

 発災写真を見ると、事故のあったガソリンタンクの塗装はきれいですが、ほかのタンクは錆びだらけで供用されているのか、休止されているのか分からない状況です。この状態を見るだけで国情がうかがい知れるような気がします。それで少し調べてみました。宗派の争いは図のように複雑なようです。レバノンの世界報道自由度ランキングは、2009年には61位だったのですが、2021107位と低下しています。(他人事ではありません。日本も201011位だったのが、202167位です) 新型コロナウィルスの1日の感染者は現在500人ほどで、一時に比べると少なくなってはいますが、国の人口(680万人)からすれば、まだまだ多い状況です。





2021年10月12日火曜日

米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)

  今回は、2020630日(火)に起こった「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」事故について推定原因が判明したことと、米国でアスファルトの爆発・火災事故が多いことに関する指摘が202166日の“Inside Climate News”に掲載されたので、この内容を追補したものを紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のニュージャージー州(New Jersey)カムデン郡(Camden)グロスターシティ(Gloucester City)のブルーナイト・エナジー・パートナーズ社(Blue Knight Energy Partners)のアスファルト処理工場である。

 発災があったのは、ウォーター通りにあるアスファルト処理工場のアスファルト・タンクである。

アスファルト処理工場では、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)が製造されている。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020630日(火)午前1250分頃、アスファルト・タンクが、突然、爆発を起こした。

■ 近くの住民は、大きな音と家が揺れたので、目をさました。住民のひとりは、 「ちょうどベッドにはいって寝ようとしたところ、大きなボーンという音が聞こえました。一瞬、花火かと思いましたが、それにしてはあまりにも大きな音でした」と語った。

■ 爆発によってタンク上部の保温外装板が引き裂いたようにはがれ、火災となった。

■ 発災に伴い、グロスターシティ消防署の消防隊が現場に出動した。アスファルトは燃焼性の危険物質なので、カムデン郡のハズマット(Hazmat)隊も現場に駆け付けた。

■ 一方、消防隊は消火水の供給に課題点があった。この地域はデラウェア川に囲まれており、給水が制限されており、消火栓のアクセスも限られていた。 アスファルトは非常に燃焼性があり、まわりには満杯のタンクが火災に曝されており、また、近くには木造住宅がたくさんあったので、消防署はすぐに避難勧告を出すことにした。

■ 当局は、安全が確認されるまで、予防措置として住民を避難させた。34ブロックを半径とする地域に住むおよそ30世帯がコミュニティセンターに避難した。約4時間後に住民は帰宅できた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、事故後、ただちに運転を停止し、製品の出荷を取りやめた。 

■ 消防隊は消火泡を使用した。アスファルト・タンクの火災は約3時間ほど続いたあと、制圧され、午前8時に消火が確認された。

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。

被 害

■ アスファルト用タンクが爆発・火災で損壊した。屋根部が側板から外れ、タンク内に落ちるように損傷している。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

■ 近くの住民約30世帯が避難した。

< 事故の原因 >

■ 事故直後、ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。

■ 事故の要因は、自然発火性物質の形成とみられる。

 事故の1年後にグロスターシティ消防長は、爆発の原因はまだ調査中であるとしたが、有力な仮説原因として自然発火性物質の形成があげられていると述べた。

 (アスファルトタンクについて爆発火災の事故が多い要因は後述「対応」の項を参照)

< 対 応 >

■ 現場には、消防や警察のほか、ニュージャージー州環境保護局、連邦環境保護庁、米国沿岸警備隊が立入りを行った。

■ 爆発によって有害な煙が空気中に放出され、大気を汚染した。これは人間の肺に影響を与え、目や皮膚を刺激し、頭痛やめまいにつながる恐れがある。特に、こどもや呼吸器疾患を持つ人には憂慮すべき問題で留意が必要である。

■ 202166日(日)、アスファルトタンクで事故が多い原因について、サブリナ・シャンクマン女史(Sabrina Shankman)等はインターネットでつぎのように述べている。

 ● 業界の専門家は、全国の加熱タンクに貯蔵されているアスファルトとNo.6燃料油製品の構成の変化が、そこで働く従業員や近隣のコミュニティにリスクをもたらす可能性があると考えている。

 ● 米国労働安全衛生局(OSHA)のニュースレポートなどによると、過去10年間で、アスファルトやNo.6燃料油などの重質油の入っていた少なくとも17基の加熱式貯蔵タンクが米国内のアスファルト・プラントやタンク・ターミナルで爆発している。事例の中には、作業者に死傷者が出たり、爆発によって近くのタンクで火災が発生し、地域住民が避難している。

 ● 米国労働安全衛生局(OSHA)や米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)では、これらの爆発事例について体系的な調査を実施していない。しかし、アスファルトとNo.6燃料油のプロセスと保管方法の変更が事故に関係しているとみられる。そのことによって、作業者やタンクの近くに住む住民が危険にさらされている。

 ● 長い間、企業や規制当局は、アスファルトとNo.6燃料油は性状が重質であるため、タンクからの放散量はわずかだと想定していた。しかし、過去30年の間、企業は製品を強化するため、次第に添加物を使用し、製品の構成を変えてきている。これらの添加剤はタンク内の蒸気圧を上昇させ、爆発しやすくなってきているという。

 ● これらの放出量の増加は企業からの報告がないという。ある州では、規制当局が放出量が無いという誤った仮定にもとづき、報告の提出を要求していない。放出量の報告が必要な州では、企業が、通常、石油業界によって開発された公式を使用して放出量を推定している。しかし、多くの場合、間違っており、蒸気圧とタンクの放散している大気汚染のレベルを過小評価している。

 ● 研究によると、企業が日常的に使用している量よりはるかに少ない量でも、添加剤は製品の爆発性に劇的な影響を与える可能性があるという。

 ● タンクの爆発は主に2つの仕方で起こる。 ひとつは、溶接のような裸火またはほかの引火源によってベーパーに着火することである。もうひとつは、引火源が特定できず、自然発火する場合である。重質油から放出される予想外に高濃度のベーパーが、2つの仕方で爆発に至るという。

■ さらに、シャンクマン女史は、事故の要因についてつぎのように述べている。

 ● 製油所はガソリンやジェット燃料などのより収益性の高い石油製品を生み出すため、 原油から貴重な一滴をより効率的に搾り出すようになっている。このため、減圧蒸留塔の最下部にあるアスファルトやNo.6燃料油などの製品は過去に比べ取扱いがむずかしくなっている。そこで、添加剤が登場してくる。

 ● この添加剤は登録商標されたケミカルだったり、または軽質の炭化水素である。通常、さらに精製されれば、ディーゼル燃料になるような軽質の炭化水素である。添加剤はアスファルトやNo. 6燃料油のような重質油と混合されるので、製品の性能やタンクからの放出量が変化する。

 ● アスファルト研究所の出版物によると、添加剤として軽質の炭化水素を含むことができることを認めている。このような添加剤は、揮発性が高く、タンクからの排出を増やし、添加剤を含まないアスファルトよりも低い温度で爆発する可能性がある。

 ● 一方、自然発火性爆発が発生するために添加剤は必要ない。アスファルトには、硫黄と水素の両方が含まれており、それらが反応すると硫化水素を生成する。アスファルトが加熱されるほど、より多くの硫化水素が生成され、時間の経過とともに高濃度のものが蓄積する。硫化水素がタンク内の酸化鉄(たとえば錆の形で)と反応すると、硫化鉄と呼ばれる新しい化合物を形成する。硫化鉄は空気にさらされると発火する可能性のある自然発火性物質である。

補 足

■「ニュージャージー州」(New Jersey)は、米国の北東部に位置する州で、人口約1,280万人である。 

 「カムデン郡」(Camden)は、ニュージャージー州の南西部に位置し、人口約51万人の州である。

 「グロスターシティ」(Gloucester City)は、カムデン郡の西部に位置し、デラウェア川をはさんでペンシルベニア州に接する人口約11,000人の市である。

■「ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社」(Blue Knight Energy Partners)は、オクラホマ州タルサを本拠地として2007年に設立したエネルギー会社で、特に液体アスファルトと原油を中心として物流部門の事業を展開している。は 1,570万バレル(250KL)の貯蔵タンク、約646マイル(1,033km)のパイプライン、約60台の原油用タンクローリー、26州にある53箇所の液体アスファルト・ターミナルを保有している。

■「アスファルト・エマルジョン」(アスファルト乳剤)とは、加熱しなくても常温で取扱えるように工夫したものをいい、アスファルトと水に乳化剤を混ぜてアスファルト微粒子を水中に分散(乳化)させ、含まれている水分が蒸発することでアスファルトとしての粘度性能を発揮させる。アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)は、主として舗装の表面処理、安定処理、タックコートなどに使用され、他にも緑化、水利、防水、鉄道の軌道材料などとして用いられている。アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造方法の例は図のとおりである。

 乳化剤によって、水中にあるアスファルト粒子の表面の電荷が異なり、電荷の違いによりカチオン系(正電荷)、アニオン系(負電荷)、ノニオン系(帯電なし)に分けられる。カチオン系は、接着性に優れることから道路舗装によく用いられており、日本で道路用に使用されているアスファルト乳剤のほとんどがカチオン系で、アニオン系乳剤が使われることは少ない。ノニオン系は、セメント・アスファルト乳剤安定処理混合用として、既設アスファルト舗装を修繕する際、その場で舗装を粉砕して既設の路盤材とともに混合し、路盤を再構築する路上再生工法に使用される。乳化剤は以下のものが使われる。

 ● カチオン系:牛脂やヤシ油の脂肪酸誘導体のアミンの塩酸または酢酸塩(pH25

 ● アニオン系:高級アルコール硫酸塩(pH1213

 ● ノニオン系:アルキル基(ノニルフェニルなど)にエチレンオキサイドを付加したもの(中性付近)

■「発災タンク」は、アスファルト・タンクというだけで、容量や大きさなどの仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約19mである。高さを12mと仮定すれば、容量は3,400KLとなる。従って、容量3,000KL級のコーンルーフ式タンクだとみられる。

 通常、コーンルーフ式タンクは爆発など内圧が上昇したときには、屋根と側板の溶接線が意図的に弱くした放爆構造で製作されており、屋根板が外れるようになっている。今回の事故でも、屋根板が側板から外れ、一部がタンク内に落下したと思われる。しかし、タンクの保温外装板は引きちぎられたようにギザギザになって破断している。これが、タンク側板が引きちぎられたように見える。一般に全面火災時は熱によってタンク側板が内側に座屈するが、今回はタンク保温外装板が火災の熱によって内側に座屈したとみられる。

 一方、発災タンクだけでなく、隣接しているタンクをみると、大気開放のタンクベントがついていないように見える。住宅地が近いので、不活性ガスの封入あるいは除害装置への連絡管が設置されているのではないだろうか。(爆発しているので、不活性ガス封入ではないと思われる)

 なお、発災タンクは、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する前のアスファルトのタンクなのか、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造したあとの貯蔵タンクなのかは分からない。5基あるタンク群の中では、小型であり、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造過程にあるタンクではないだろうか。

■「No.6燃料油」(Number 6 fuel oil)は、日本の重油に相当する残渣油で、104127℃に予熱しておく必要のあり、高粘度である。残渣油には、水(2%)や鉱油(0.5%)などいろいろな望ましくない不純物が含まれている。この燃料は、バンカーCPS-400などの残渣燃料油として知られている場合がある。

■ アスファルトタンクの爆発・火災事故で本ブログに取り上げた事例は、つぎのとおりである。

 ● 20025月、「フランスのアスファルト製造所で添加剤タンクが爆発(2002年)」

 ● 20049月、「イタリアの製油所でアスファルト貯蔵タンクの破壊事故(2004年)」

 ● 20099月、「ニュージランドでアスファルトタンクが爆発、死者1名(2009年)」

 ● 20115月、「米国カリフォルニア州でアスファルトタンクが爆発して火災」

 ● 20133月、「韓国の慶尚北道で重油タンクが爆発」

 ● 20133月、「中華人民共和国の山東省でアスファルトタンク爆発・火災」

 ● 20135月、「フィリピンでアスファルトプラントのタンクが爆発して死傷者2名」

 ● 201411月、「米国ウィスコンシン州でアスファルトタンクが爆発・火災」

 ● 20154月、「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」

 ● 201612月、「米国カリフォルニア州の製油所でアスファルトタンクが火災」

 ● 20206月、「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」

 ● 202010月、「米国ワシントン州のアスファルト・プラントで爆発・火災、タンクへ延焼」

所 感(前回)

■ 今回の事故は、これまで意外に多いアスファルト・タンクの爆発事例である。爆発例で多いのは、アスファルト内に軽質分が混入して気相で爆発混合気を形成する事故である。しかし、今回はアスファルト処理工場でアスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する工程であり、従来の例とは異なるように思う。どのような乳化剤が使用されていたか分からないが、普通で考えれば、爆発混合気を形成するような軽質分が混入することはない。屋根が噴き飛んではおらず、屋根の落下状況を見ると、爆発力は大きくないと思う。しかし、事故が現実に起こっており、乳化剤などの添加剤が関わった運転上の要因に関係しているのではないだろうか。

■ 消火活動状況は詳しく報じられていないが、消防活動は適切だったように感じる。グロスターシティ消防署だけの対応でなく、アスファルトの燃焼性を考慮してカムデン郡のハズマット隊(Hazmat)を支援に要請している。また、消火活動の準備に並行して、すぐに近隣住民への避難を判断している。消火栓に課題があったといわれているが、解決して大きな問題とせず、消火活動を行っている。このあたりは、事前に仮想訓練をやっていたように感じる。もちろん、その場の状況に応じた即断力も必要だが、訓練(机上あるいは実践)で即断力を養うことは必要だと思う。

 発災タンクは3,000KL級と比較的小型であったが、タンク屋根が油面上にかぶさり、障害物ありタンク火災の対応となった。はしご車が出動し、上から泡消火剤を放射すれば、消火は困難ではなかったのではないだろうか。

所 感(今回)

■ 事故は自然発火性物質の形成とみられる。だた、乳化剤などの添加剤に関わった運転上の要因についても疑問の残る事例である。

■ 前回、アスファルト内の軽質分の混入問題について指摘したが、米国内でも問題視されているようである。今回の追補の記事は、米国内の実情についてよく調査して指摘している。ただ、米国労働安全衛生局(OSHA)などは、アスファルトの爆発事例について体系的な調査を実施していないという。可能な限り軽質分を搾り取ろうとする製油所側と、取り扱いやすいアスファルト性状を目指すアスファルト・プラント側との問題意識のズレがあるようだ。企業の自主性を重んじる米国ではあるが、このような問題のズレこそ、公的機関が解消するように動くべきだろう。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・6abc.com,  Asphalt tank erupts into flames in Gloucester City, N.J., forces evacuations,  July  01,  2020

    Fox29.com,  Hazmat, fire crews respond to asphalt tank explosion in Gloucester City,  July  01,  2020

    Nbcphiladelphia.com, Blast Rips Top Off Tank at NJ Asphalt Plant; Neighbors Forced From Homes,  June  30,  2020

    Gloucestercitynews.net, Toxic Fumes from The Asphalt Tank Explosion Spread Throughout Gloucester City,  June 30, 2020

    Courierpostonline.com, Asphalt storage facility explosion rocks, evacuates Gloucester City neighborhood,  July 01, 2020

    Phillyvoice.com, Tank explosion at Camden County industrial plant results in residents being evacuated,  June 30, 2020

    Apnews.com,  Evacuated residents return after fire in asphalt tank,  June 30, 2020

    Nj.com,  Asphalt tank explodes in N.J. neighborhood, sending terrified families fleeing from homes,  June 30, 2020

    Insideclimatenews.org, An Explosion in Texas Shows the Hidden Dangers of Tanks Holding Heavy Fuels,  June 06, 2021


後 記: 今回のような情報は良いですね。このようなアスファルト・プラントの事故は一過性の事象として原因が“調査中”で終わってしまうものですが、アスファルト・プラントの事故が多いのを憂慮して調べていったものです。ただ、今回の情報は気候変動の問題を取り扱うインターネット・メディアによるもので、これまで一度も検索したことのないウェブサイトでした。グーグルの検索システムで“引っかかった”情報ですが、さすがだと感じ入りました。