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2021年10月24日日曜日

米国テキサス州で原油タンクのミキサー取付けフランジから油噴出

 今回は、2021106日(水)、米国のテキサス州ガルベストン郡テキサス・シティにあるマラソン・ペトロリアム社のガルベストン・ベイ製油所で原油用貯蔵タンクに設置されているタンクミキサーの取付けフランジ部から大量に原油が噴出した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ガルベストン郡(Galveston)テキサス・シティ(Texas City)にあるマラソン・ペトロリアム社(Marathon Petroleum)のガルベストン・ベイ製油所(精製能力:593,000バレル/日)である。

■ 事故があったのは、ガルベストン・ベイ製油所のタンク地区にある大型の原油用貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2021106日(水)午前730分頃、貯蔵タンクに付属している設備が故障し、タンク内に貯蔵されていた原油が漏洩した。

■ 漏洩の要因はポンプのメカニカルシールやバルブのフランジの故障という情報が流れていたが、地元メディアの中には漏洩箇所が“タンク側板のフランジ部”と修正を伝えている。

■ 発災に伴い、付近には原油の臭いがするため、製油所のそばを走っている付近の道路が閉鎖された。しかし、地域住民への避難の要請は無い。

■ 原油はタンク防油堤内に流出しており、原油のベーパーを抑制するため、消火用泡が使用されている。また、油を回収して処分するための設備が配備された。

■ 流出による汚染を最小限に抑えるために、油の入った貯蔵タンクはできるだけ早く原油を抜いて空にしようとした。タンク内の液は一杯ではないという。製油所が当局に提出した書類によると、 106日(水)午前730分頃に始まった流出は、107日(木)午前730分までには終える予定だという。大気汚染の揮発性有機化合物は5,000ポンド(2,260㎏)と推定しているという。

■ 製油所では、汚染の影響を受けたエリアで水を噴霧しているのが見られた。

■ 107日(木)、製油所は、予防措置として地域社会の大気モニタリングを実施しており、地域社会へのリスクの兆候はないと述べた。テキサス環境品質委員会(Texas Commission on Environmental Quality)でも大気品質のモニタリングを実施している。

■ 専門家によると、流出した原油が構外の水系に流れ込むことはないとみている。防油堤内に漏洩した油は堤内または製油所構内に留まるよう設計されており、正しく機能していると思われるという。現在のところ沿岸警備隊が対応する様子はない。

■ また、専門家によると、ベンゼン、トルエン、キシレンのような有害物質は原油に含まれているが、それらは極めて速く蒸発し、大気中に出ていくので、もっとも懸念されるのは気象条件に応じて移動する距離と環境に留まる時間であるという。

■ 流出が始まってから24時間を経過したが、タンクは原油を防油堤内に漏らし続けている。

■ 事故に伴う負傷者は無い。

■ 米国のドローンによる映像を取り扱っているスカイ・アイ社(Sky Eye)の撮影した動画が配信されている。106日(水)にヒューストンの各テレビ局で原油が噴出している映像が流れた。事故の状況は漏洩から噴出という表現に変わっている。下記のYouTubeを参照。

 ●Crude oil leak at Marathon Petroleum facility in Texas City2021/10/7

 ●Crude oil leak reported at Marathon facility in Texas City2021/10/7

 ●RAW VIDEO | Crude oil leaks from tank at Marathon Petroleum facility in Texas City2021/10/7

被 害

■ 原油タンクに付帯しているタンクミキサー系の部品(タンクフランジを含む)が損傷した。 

■ タンク内の原油が流出した。(流出量は未確認)

■ 原油が防油堤内に流出して土壌汚染と大気汚染を引き起こした。製油所が当局に提出した報告によると、大気汚染の揮発性有機化合物は5,000ポンド(2,260㎏)と推定しているという。

■ 製油所の近くを走る幹線道路が閉鎖された。クリーンアップ作業を行うため、流出が止まった後の2日間も継続して閉鎖された。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

■ 漏洩箇所はタンク側板のフランジ部とみられている。映像によると、タンク側板部のフランジとそれに取り付けられたタンクミキサーが関係しているとみられる。

< 対 応 >

■ 発災から27時間後の107日(木)午後1030分、テキサス・シティの当局者は、タンクからの流出は止まったと発表した。しかし、テキサス・シティによると、製油所のそばを走っている幹線道路のループ197号線は、クリーンアップを実施しているので、あと2日間閉鎖したままにすると述べた。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「ガルベストン郡」(Galveston)は、テキサス州の南東部に位置し、人口約25万人の郡である。

「テキサス・シティ」(Texas City)は、ガルベストン湾の南西部に位置し、人口約45,000人の市である。

■「マラソン・ペトロリアム社」(Marathon Petroleum)は、1998年に設立した米国オハイオ州に本社をもつ石油会社で、製油所を所有し、ガソリンスタンドなどでの販売を手がける。 米国12州に13箇所の製油所を有し、約290万バレル/日の精製能力を持つ米国最大の精製システムを運用している。

 「ガルベストン・ベイ製油所」は、テキサス州テキサス・シティのガルベストン湾近くにあり、ヒューストン船舶航路の入り口からは離れている。2018年、ガルベストン・ベイ製油所はテキサスシティ製油所と合併し、593,000バレル/日の精製能力を備えた世界クラスの精製複合施設になった。

 なお、 2017825日に米国テキサス州に上陸したハリケーン・ハービーによって 浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が沈降した。(ただし、発災時はテキサスシティ製油所側のタンク。「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油設の停止と油流出」を参照)

■「発災タンク」は原油用という情報だけで、タンク仕様に関しては報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約86mである。高さを18mと仮定すれば、容量は100,000KL級の外部浮き屋根式タンクである。漏洩箇所はポンプのメカニカルシールやバルブのフランジの故障という情報が流れていたが、地元メディアはタンク側板のフランジ部と修正を伝えている。発災映像を見ると、漏洩箇所にはサイドエントリー型のベルト式タンクミキサー(撹拌機)が設置されているので、タンク側板のフランジ部はタンクミキサーの取付けフランジだとみられる。

■ 発災タンクに入っていた原油量についてマラソン・ペトロリアム社は公表を避けている。メディアの中には400,000バレル(63,600KL)ではないかと推定している。発災写真を見ると、経過時間が分からないが、タンク屋根がタンク高さの半分ほどであるので、推定に近い量が入っていたものと思われる。発災後、タンクから別なタンクへ移送されていると思われるので、タンクミキサー部から流出した量は分からない。

所 感

■ 今回の事故は、タンク側板に設置されたタンクミキサー(撹拌機)を取り付けるフランジ部が何らかの損傷でタンク内の原油が流出したものとみられる。サイドエントリー型タンクミキサーは重量があるので、近年は重量を軽減する吊り具がタンク側板部に支持されている。今回のタンクミキサーに吊り具が付いていたか判然としないが、いずれにしてもタンクミキサーは振動のある機械であり、タンクミキサーのメカニカルシール部など気をつかう設備のひとつである。発災写真を見ると、上部に噴き出している2箇所は取付けフランジ部のゆるみ箇所ではないだろうか。前方に噴き出しているのはメカニカルシール部が流出の影響によって破損したのではないかと思う。可能性としてはタンク側板のフランジ部の割れ(疲労など)もある。

■ いずれにしても、日本では起こらない事故と断言できない事例であり、タンク所有者はタンクミキサーの振動やメカニカルシールの漏れなどの点検に問題がないか確認する必要があろう。マラソン・ペトロリアム社は事故に関する情報公開に積極的ではないが、今回の事例は他社でもありうることだと思うので、事故原因の公表に期待したい。

■ 今回のように流出を止められない状況の場合の異常事態対応は、つぎのようなことを考慮して進める必要がある。 類似事例としては、「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」 20124月)を参照。

 ● 防油堤の容量を確認し、水をいくら張り込むことができるか確認する。(仕切り堤がある場合、ここに留めた場合、流出油の受入れ量が減り、水の張り込み量に影響する)

 ● 油のベーパー抑制のための消火用泡を張り込む。

 ● 地下浸透対策として水を張り込む。流出発生後、1時間以内のできるだけ早い段階で水を張り込むのがよい。水は2日間張り込み、土壌への浸透をできるだけ回避してクリーンアップ作業を早める。

 ● 油の回収設備を準備し、クリーンアップ作業を行う。

 今回の事例では、タンクミキサー部からの流出で油量が制限されていたが、壊滅的なタンク破壊に至った場合、「地上式貯蔵タンクの破壊による液流出のモデル化と軽減策の検討」201511月)では、たとえ防油堤が損傷しなくても、貯蔵されていた液の70%を超える量が越流して堤外の環境へ影響を与えるという。この意味では、最悪のケースは避けられたといえよう。また、映像では、リスクを冒して土盛り式の防油堤を点検していたと思われることは妥当であろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Click2houston.com, Crude oil leak at Marathon Petroleum refinery in Texas City prompts road closures, cleanup, officials say, October  06, 2021

     Autoblog.com, Watch as Marathon Petroleum refinery continues to leak crude in Texas, October  07, 202

     Abc13.com, Marathon Galveston Bay Refinery leak stops, but road closures remain in Texas City, October  08, 2021

     Khou.com, Crude oil leak at Marathon Petroleum facility in Texas City, October  07, 2021

     Reuters.com, Crews containing crude oil gushing out of tank at Marathon refinery, October  07, 2021

     Galvnews.com, Flange failure caused Texas City oil leak, officials say, October  07, 2021

     Ksat.com, Video shows crude oil spewing from leaking tank at Galveston Bay refinery, October  06, 2021

     Greenmatters.com, 24 Hours Later, Officials Are Still Cleaning Up Crude Oil Spill at Texas Refinery, October  07, 2021

     Newsweek.com, Video Shows Oil Gushing Out of Gaping Hole in Texas Refinery, October  07, 2021

     Bloombergquint.com, Marathon Texas Refinery Works to Contain Day-Old Oil Leak, October  08, 2021

     Tankstoragemag.com, Oil tank leak at Marathon Galveston Bay refinery, October  07, 2021


後 記: この事故を最初に知ったのはポンプのメカニカルシールの故障という情報で、タンク本体の事故ではなかったので、後回しにした事例でした。ところが、事故情報を調べ始めたら、どうもそうではなさそうです。ドローンの映像を見て初めてタンクミキサーが関連している事故と分かりました。今回の事故現場は公共道路に近いところだったので、いずれメディアに知れることになったでしょうが、マラソン・ペトロリアム社は情報の開示に消極的で(テキサスの石油会社は総じてそうですが)、そうでなければ、製油所構内でちょっとした油漏れがあったということで終わっているでしょう。ところが、ドローンによってマラソン・ペトロリアム社のロゴマークの入ったタンクから油が噴出している鮮明な映像が米国全土に流されるとは皮肉なものです。 (メディアによってヘリコプターによる映像もあるようです)

2021年10月19日火曜日

レバノンのザハラニ石油施設でガソリンタンク火災

 今回は、20211011日(月)、レバノンのサイダ市にあるザハラニ石油施設のガソリンタンクが爆発して火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、レバノン(Lebanon)南レバノン県サイダ市(Saida)の南にあるザハラニ石油施設(Zahrani Oil Facility)である。 

■ 事故があったのは、ザハラニ石油施設内のガソリンタンクである。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211011日(月)午前8時頃、ザハラニ石油施設内のガソリンタンクで火災が発生し、黒煙が空に噴き出した。近くの農園で働いていた人によると、火災の前にバンという大きな音を聞いたという。

■ 発災に伴い、消防隊(民間防衛部隊)が出動した。

■ 消防隊はタンクの火災を消火しようと試みた。また、周囲のタンクを冷却して延焼を防ごうとした。

■ タンク内には、レバノン軍が所有するガソリンが入っていた。貯蔵されていたガソリン量は30万リットル(300KL)という。

■ レバノン軍は、火災が発生した石油施設の近くの地域に避難要請を出した。ただ、この地域には、人はほとんどいないとみられる。また、軍は予防措置としてベイルートと南部を結ぶ幹線道路を閉鎖した。

■ 事故に伴う死傷者の報告はない。

■ 石油施設では、事故前日の1010日(日)にタンクの屋根に傾きがあると気づき、早急の対応として、1011日(月)の朝からタンク内容物の移送を開始していた。この貯蔵タンクから別なタンクへのガソリンの移送中に火災が起こったという。技術的エラーという情報や輸送プロセス中の摩擦という情報もあるが、火災が発生した正確な原因は分かっていない。

■ 炎上するタンクと消防活動の映像がYouTubeに投稿されている。下記を参照。

 ●صور مباشرة لعملية الاطفاء في منشأة الزهراني للنفط جنوب لبنان (レバノン南部のザハラニ石油施設での消防活動のライブ写真)(2021/10/11

 ●سر الخزان 702 .. حريق محطة كهرباء الزهراني بلبنان لغز جديد (タンク702の秘密..レバノンのザハラニ発電所の火災は新しい謎)(2021/10/12

被 害

■ ガソリンタンク1基が火災で被災した。内液のガソリン約250KLが焼失した。

■ 死傷者はいなかった。


< 事故の原因 >

■ 事故前日にタンクの屋根に傾きがあると気づき、早急の対応として、事故のあった日の朝からタンク内容物の移送を開始していた。この貯蔵タンクから別なタンクへのガソリンの移送中に火災が起こった。技術的エラーや輸送プロセス中の摩擦という情報もあるが、火災が発生した正確な原因は分かっていない。

< 対 応 >

■ 火災は4時間燃え続け、11日(月)正午頃に消火した。一方、午後も火災は続いていたという情報もある。

■ レバノンのエネルギー省の大臣は、焼失したガソリン量は約25万リットル(250KL)だったといい、火災の原因について調査を開始したと述べた。

■ 発災のあったザハラニ石油施設の近くにあるレバノンの2つの最大の発電プラントのひとつが、2日前の109日(土)に燃料不足のため停止しなければならなかった。ザハラニ・プラントと北部にあるデイアアマール(DeirAmmar)プラントの両発電所は、1010日(日)の夜にレバノン軍から緊急に軽油6,000KLの供給を受け、操業を再開した。経済の破綻により、レバノンは燃料が不足しているだけでなく、薬、電気、さらには飲料水などの生活に欠かせない必需品も不足している状況である。

補 足

■ 「レバノン」(Lebanon)は、正式にはレバノン共和国で、地中海を望む位置にあり、人口約680万人である。首都はベイルートで、南はイスラエルに接した国である。

「南レバノン県」は、レバノンの南部に位置し、人口約約59万人の県である。

「サイダ市」(Saida)は、シドンとも呼ばれ、レバノン県の地中海側に面した人口約16万人で、南レバノン県の県都である。     

 レバノンのベイルートは1970年代まで金融都市として栄え、中東のパリとも言われたが、1980年代の宗派の内戦で荒廃し、イスラエルの軍事侵攻も招いた。さらに、20208月、ベイルート港で大爆発があり、少なくとも215人が死亡し、6,000人以上が負傷し、多くの施設と近隣地域が破壊さする事故があった。これは核爆発以外で最大の爆発事故のひとつで、肥料に使用される爆発性の高い硝酸アンモニウム数百トンが不適切に保管されていたことによって起きたものだった。 レバノンは経済破綻により、燃料不足だけでなく、薬、電気、さらには飲料水などの生活に欠かせない必需品も不足するという深刻な状況にあるという。

■ 事故のあったザハラニ石油施設(Zahrani Oil Facility)は燃料油の分配基地である。 北にあったザハラニ製油所が戦争で被害を受け、1989年半ばに操業を停止し、その後、修理計画が放棄され、貯蔵タンク機能だけが場所に変えることになった。現在の石油施設の場所は、ザハラニ発電プラントの南側にある。

■「発災タンク」をグーグルマップで調べると、ザハラニ石油施設内のタンク位置から判断して特定できる。「発災タンク」は直径約10mであり、高さを11mと仮定すれば、容量は800KLクラスとある。また、発災時のタンク内の液量が300KLといわれており、この液位は約4.1mとなる。焼失した量は250KLといわれており、この液位は0.7mである。消火後のタンク側板の塗装面を見ると、タンク液位はもう少し高いようだが、これは消火水が加わったためであろう。

 また、タンク型式はグーグルアースの3Dの映像によって外部式浮き屋根型タンクであることが分かった。これによって、記事にある「タンク屋根に傾きがある」というのは、タンク浮き屋根の一部が沈降したものと思われる。

■ 火災の状況を映像でみると、全面火災(または障害物あり全面火災)の様相を呈している。ガソリンの燃焼速度を0.33m/hと仮定すれば、液位の変化3.4m(液位4.1m→0.7m)の燃焼時間は約10時間となる。このデータから火災は事故から約4時間後の正午頃に消されたのではなく、夕方ごろまで続いていたものと思われる。

 消火できる面積当たりの泡放射量を6.510 L/min/㎡とすれば、直径10m(表面積:78.5㎡)のタンクでは、必要な泡放射量は510785 L/minとなる。これは日本の大型化学消防車1台の放水能力(3,000 L/min)でまかなえる量で、はしご付き消防車(スクアート車)があれば、消火は可能である。

所 感

■ 事故は、つぎのような流れで起こったと推測している。

 ● 浮き屋根式タンクの浮き屋根が一部沈降しているのを発見した。

 ● その対応としてタンクを空にするため、内液であるガソリンを別なタンクに移送しようとした。

 ● 浮き屋根は傾いて側板に引っ掛かった状態であったため、徐々に液位を下げたとき、ある時点で浮き屋根の重量が勝り、一気に落ちた。

 ● この際、浮き屋根と側板が接触して火花が発生し、ガソリンベーパーに引火し、爆発した。

■ 浮き屋根は抵抗なく動くものだと思い、出火防止策を講じることなく、タンク液位を下げたと思われる。タンクの規模や浮き屋根の沈降状況は異なるが、 201211月に起きた「沖縄ターミナルの原油タンク浮き屋根の沈没事故」では、事故タンクから原油移送を行うときに、つぎのような出火防止策をとっている。

 ● 急激な液面降下を避けた。

 ● 付属物の落下防止措置がとられた。

 ● 雷注意報が出た場合、作業は中断することとした。

 ● 液面降下中は常時監視とした。

 ● 途中(事故後6日)でタンク液面に二酸化炭素(炭酸ガス)注入装置を設置する工事が完了したので、炭酸ガス注入を始めた。

 このタンク液面上に二酸化炭素(炭酸ガス)を注入して対応するのか、代替措置として泡消火剤を投入して移送を早く完了させるかどうかは意見が分かれるところであろうが、タンク浮き屋根の沈降といった異常事態時には出火防止策が必要である。

■ 消火は4時間ではなく、それ以上かかったものと推測され、容量800KLクラスとみられるガソリンタンクの消火活動としてはかなり難航している。大容量泡放射砲システムでなくても、通常の大型化学消防車で消火は可能だったと思う。時系列が分からないが、出動した消防車の放水能力が不十分で、且つ泡薬剤の保有量が不足していたため、有効な消火活動ができなかったように感じる。火災の後半になってはしご付き消防車(スクアート車)の出動と泡薬剤が確保でき、消火できたのではないだろうか。残念ながら消火戦略や消火戦術が適切だったとは言えない事例である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Jp.reuters.com, Fire at Lebanon fuel storage tank contained – govt,  October 11, 2021

    Aljazeera.com, Fire at Lebanon’s Zahrani oil facility extinguished,  October 11, 2021

    Bbc.com, Large fire breaks out at oil facility in crisis-hit Lebanon,  October 11, 2021

    Smh.com.au, Oil tank fire in southern Lebanon contained, energy minister says,  October 11, 2021

    Jpost.com, Fire at Lebanon's Zahrani oil facility contained,  October 11, 2021

    Jordantimes.com, Lebanon firefighters quell fuel tank fire,  October 11, 2021

    English.ahram.org.eg, Lebanon firefighters quell huge fuel tank fire,  October 11, 2021

    Axios.com, Massive fire extinguished at Lebanon oil facility,  October 11, 2021

    English.alarabiya.net, Fire breaks out in benzene tank at oil facility in south Lebanon: Report,  October 11, 2021

    Arabnews.jp, レバノン南部の燃料貯蔵タンクで火災、消防隊員が消火活動,  October 11, 2021

    Usnews.com, Lebanese Firefighters Put Out Fire at Fuel Facility,  October 11, 2021

    News.cn, Huge fire breaks out in Lebanon,  October 11, 2021

    Almayadeen.net, حريق ضخم في منشأة نفطية جنوبي لبنان,  October 11, 2021


後 記: 初めてレバノンの事故を取り上げました。事故情報を知ってインターネットで検索すると、かなりの数があったので、メディアの取材がもとのように活発になったのかと思いましたが、中身を調べると、そうではないことが分かりました。ほとんどは政府要人からのコメントで、実際に現場を取材したという感じではありません。発災日の報道だけで、深掘りの追加報道はまったくありませんでした。それでも発災写真が多くあったのは、メディアの取材が少し変化してきたかなといった感じです。

 発災写真を見ると、事故のあったガソリンタンクの塗装はきれいですが、ほかのタンクは錆びだらけで供用されているのか、休止されているのか分からない状況です。この状態を見るだけで国情がうかがい知れるような気がします。それで少し調べてみました。宗派の争いは図のように複雑なようです。レバノンの世界報道自由度ランキングは、2009年には61位だったのですが、2021107位と低下しています。(他人事ではありません。日本も201011位だったのが、202167位です) 新型コロナウィルスの1日の感染者は現在500人ほどで、一時に比べると少なくなってはいますが、国の人口(680万人)からすれば、まだまだ多い状況です。





2021年10月12日火曜日

米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)

  今回は、2020630日(火)に起こった「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」事故について推定原因が判明したことと、米国でアスファルトの爆発・火災事故が多いことに関する指摘が202166日の“Inside Climate News”に掲載されたので、この内容を追補したものを紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のニュージャージー州(New Jersey)カムデン郡(Camden)グロスターシティ(Gloucester City)のブルーナイト・エナジー・パートナーズ社(Blue Knight Energy Partners)のアスファルト処理工場である。

 発災があったのは、ウォーター通りにあるアスファルト処理工場のアスファルト・タンクである。

アスファルト処理工場では、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)が製造されている。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020630日(火)午前1250分頃、アスファルト・タンクが、突然、爆発を起こした。

■ 近くの住民は、大きな音と家が揺れたので、目をさました。住民のひとりは、 「ちょうどベッドにはいって寝ようとしたところ、大きなボーンという音が聞こえました。一瞬、花火かと思いましたが、それにしてはあまりにも大きな音でした」と語った。

■ 爆発によってタンク上部の保温外装板が引き裂いたようにはがれ、火災となった。

■ 発災に伴い、グロスターシティ消防署の消防隊が現場に出動した。アスファルトは燃焼性の危険物質なので、カムデン郡のハズマット(Hazmat)隊も現場に駆け付けた。

■ 一方、消防隊は消火水の供給に課題点があった。この地域はデラウェア川に囲まれており、給水が制限されており、消火栓のアクセスも限られていた。 アスファルトは非常に燃焼性があり、まわりには満杯のタンクが火災に曝されており、また、近くには木造住宅がたくさんあったので、消防署はすぐに避難勧告を出すことにした。

■ 当局は、安全が確認されるまで、予防措置として住民を避難させた。34ブロックを半径とする地域に住むおよそ30世帯がコミュニティセンターに避難した。約4時間後に住民は帰宅できた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、事故後、ただちに運転を停止し、製品の出荷を取りやめた。 

■ 消防隊は消火泡を使用した。アスファルト・タンクの火災は約3時間ほど続いたあと、制圧され、午前8時に消火が確認された。

■ ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。

被 害

■ アスファルト用タンクが爆発・火災で損壊した。屋根部が側板から外れ、タンク内に落ちるように損傷している。

■ 事故に伴う負傷者の発生はない。

■ 近くの住民約30世帯が避難した。

< 事故の原因 >

■ 事故直後、ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社は、タンクの1基でベーパーに引火し、タンク構造物の上部付近で爆発を引き起こしたとしている。事故は従業員がタンクに液を移送していたとき、ベーパーに引火した可能性があるという。

■ 事故の要因は、自然発火性物質の形成とみられる。

 事故の1年後にグロスターシティ消防長は、爆発の原因はまだ調査中であるとしたが、有力な仮説原因として自然発火性物質の形成があげられていると述べた。

 (アスファルトタンクについて爆発火災の事故が多い要因は後述「対応」の項を参照)

< 対 応 >

■ 現場には、消防や警察のほか、ニュージャージー州環境保護局、連邦環境保護庁、米国沿岸警備隊が立入りを行った。

■ 爆発によって有害な煙が空気中に放出され、大気を汚染した。これは人間の肺に影響を与え、目や皮膚を刺激し、頭痛やめまいにつながる恐れがある。特に、こどもや呼吸器疾患を持つ人には憂慮すべき問題で留意が必要である。

■ 202166日(日)、アスファルトタンクで事故が多い原因について、サブリナ・シャンクマン女史(Sabrina Shankman)等はインターネットでつぎのように述べている。

 ● 業界の専門家は、全国の加熱タンクに貯蔵されているアスファルトとNo.6燃料油製品の構成の変化が、そこで働く従業員や近隣のコミュニティにリスクをもたらす可能性があると考えている。

 ● 米国労働安全衛生局(OSHA)のニュースレポートなどによると、過去10年間で、アスファルトやNo.6燃料油などの重質油の入っていた少なくとも17基の加熱式貯蔵タンクが米国内のアスファルト・プラントやタンク・ターミナルで爆発している。事例の中には、作業者に死傷者が出たり、爆発によって近くのタンクで火災が発生し、地域住民が避難している。

 ● 米国労働安全衛生局(OSHA)や米国化学物質安全性・危険性調査委員会(The U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)では、これらの爆発事例について体系的な調査を実施していない。しかし、アスファルトとNo.6燃料油のプロセスと保管方法の変更が事故に関係しているとみられる。そのことによって、作業者やタンクの近くに住む住民が危険にさらされている。

 ● 長い間、企業や規制当局は、アスファルトとNo.6燃料油は性状が重質であるため、タンクからの放散量はわずかだと想定していた。しかし、過去30年の間、企業は製品を強化するため、次第に添加物を使用し、製品の構成を変えてきている。これらの添加剤はタンク内の蒸気圧を上昇させ、爆発しやすくなってきているという。

 ● これらの放出量の増加は企業からの報告がないという。ある州では、規制当局が放出量が無いという誤った仮定にもとづき、報告の提出を要求していない。放出量の報告が必要な州では、企業が、通常、石油業界によって開発された公式を使用して放出量を推定している。しかし、多くの場合、間違っており、蒸気圧とタンクの放散している大気汚染のレベルを過小評価している。

 ● 研究によると、企業が日常的に使用している量よりはるかに少ない量でも、添加剤は製品の爆発性に劇的な影響を与える可能性があるという。

 ● タンクの爆発は主に2つの仕方で起こる。 ひとつは、溶接のような裸火またはほかの引火源によってベーパーに着火することである。もうひとつは、引火源が特定できず、自然発火する場合である。重質油から放出される予想外に高濃度のベーパーが、2つの仕方で爆発に至るという。

■ さらに、シャンクマン女史は、事故の要因についてつぎのように述べている。

 ● 製油所はガソリンやジェット燃料などのより収益性の高い石油製品を生み出すため、 原油から貴重な一滴をより効率的に搾り出すようになっている。このため、減圧蒸留塔の最下部にあるアスファルトやNo.6燃料油などの製品は過去に比べ取扱いがむずかしくなっている。そこで、添加剤が登場してくる。

 ● この添加剤は登録商標されたケミカルだったり、または軽質の炭化水素である。通常、さらに精製されれば、ディーゼル燃料になるような軽質の炭化水素である。添加剤はアスファルトやNo. 6燃料油のような重質油と混合されるので、製品の性能やタンクからの放出量が変化する。

 ● アスファルト研究所の出版物によると、添加剤として軽質の炭化水素を含むことができることを認めている。このような添加剤は、揮発性が高く、タンクからの排出を増やし、添加剤を含まないアスファルトよりも低い温度で爆発する可能性がある。

 ● 一方、自然発火性爆発が発生するために添加剤は必要ない。アスファルトには、硫黄と水素の両方が含まれており、それらが反応すると硫化水素を生成する。アスファルトが加熱されるほど、より多くの硫化水素が生成され、時間の経過とともに高濃度のものが蓄積する。硫化水素がタンク内の酸化鉄(たとえば錆の形で)と反応すると、硫化鉄と呼ばれる新しい化合物を形成する。硫化鉄は空気にさらされると発火する可能性のある自然発火性物質である。

補 足

■「ニュージャージー州」(New Jersey)は、米国の北東部に位置する州で、人口約1,280万人である。 

 「カムデン郡」(Camden)は、ニュージャージー州の南西部に位置し、人口約51万人の州である。

 「グロスターシティ」(Gloucester City)は、カムデン郡の西部に位置し、デラウェア川をはさんでペンシルベニア州に接する人口約11,000人の市である。

■「ブルーナイト・エナジー・パートナーズ社」(Blue Knight Energy Partners)は、オクラホマ州タルサを本拠地として2007年に設立したエネルギー会社で、特に液体アスファルトと原油を中心として物流部門の事業を展開している。は 1,570万バレル(250KL)の貯蔵タンク、約646マイル(1,033km)のパイプライン、約60台の原油用タンクローリー、26州にある53箇所の液体アスファルト・ターミナルを保有している。

■「アスファルト・エマルジョン」(アスファルト乳剤)とは、加熱しなくても常温で取扱えるように工夫したものをいい、アスファルトと水に乳化剤を混ぜてアスファルト微粒子を水中に分散(乳化)させ、含まれている水分が蒸発することでアスファルトとしての粘度性能を発揮させる。アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)は、主として舗装の表面処理、安定処理、タックコートなどに使用され、他にも緑化、水利、防水、鉄道の軌道材料などとして用いられている。アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造方法の例は図のとおりである。

 乳化剤によって、水中にあるアスファルト粒子の表面の電荷が異なり、電荷の違いによりカチオン系(正電荷)、アニオン系(負電荷)、ノニオン系(帯電なし)に分けられる。カチオン系は、接着性に優れることから道路舗装によく用いられており、日本で道路用に使用されているアスファルト乳剤のほとんどがカチオン系で、アニオン系乳剤が使われることは少ない。ノニオン系は、セメント・アスファルト乳剤安定処理混合用として、既設アスファルト舗装を修繕する際、その場で舗装を粉砕して既設の路盤材とともに混合し、路盤を再構築する路上再生工法に使用される。乳化剤は以下のものが使われる。

 ● カチオン系:牛脂やヤシ油の脂肪酸誘導体のアミンの塩酸または酢酸塩(pH25

 ● アニオン系:高級アルコール硫酸塩(pH1213

 ● ノニオン系:アルキル基(ノニルフェニルなど)にエチレンオキサイドを付加したもの(中性付近)

■「発災タンク」は、アスファルト・タンクというだけで、容量や大きさなどの仕様は報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約19mである。高さを12mと仮定すれば、容量は3,400KLとなる。従って、容量3,000KL級のコーンルーフ式タンクだとみられる。

 通常、コーンルーフ式タンクは爆発など内圧が上昇したときには、屋根と側板の溶接線が意図的に弱くした放爆構造で製作されており、屋根板が外れるようになっている。今回の事故でも、屋根板が側板から外れ、一部がタンク内に落下したと思われる。しかし、タンクの保温外装板は引きちぎられたようにギザギザになって破断している。これが、タンク側板が引きちぎられたように見える。一般に全面火災時は熱によってタンク側板が内側に座屈するが、今回はタンク保温外装板が火災の熱によって内側に座屈したとみられる。

 一方、発災タンクだけでなく、隣接しているタンクをみると、大気開放のタンクベントがついていないように見える。住宅地が近いので、不活性ガスの封入あるいは除害装置への連絡管が設置されているのではないだろうか。(爆発しているので、不活性ガス封入ではないと思われる)

 なお、発災タンクは、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する前のアスファルトのタンクなのか、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造したあとの貯蔵タンクなのかは分からない。5基あるタンク群の中では、小型であり、アスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)の製造過程にあるタンクではないだろうか。

■「No.6燃料油」(Number 6 fuel oil)は、日本の重油に相当する残渣油で、104127℃に予熱しておく必要のあり、高粘度である。残渣油には、水(2%)や鉱油(0.5%)などいろいろな望ましくない不純物が含まれている。この燃料は、バンカーCPS-400などの残渣燃料油として知られている場合がある。

■ アスファルトタンクの爆発・火災事故で本ブログに取り上げた事例は、つぎのとおりである。

 ● 20025月、「フランスのアスファルト製造所で添加剤タンクが爆発(2002年)」

 ● 20049月、「イタリアの製油所でアスファルト貯蔵タンクの破壊事故(2004年)」

 ● 20099月、「ニュージランドでアスファルトタンクが爆発、死者1名(2009年)」

 ● 20115月、「米国カリフォルニア州でアスファルトタンクが爆発して火災」

 ● 20133月、「韓国の慶尚北道で重油タンクが爆発」

 ● 20133月、「中華人民共和国の山東省でアスファルトタンク爆発・火災」

 ● 20135月、「フィリピンでアスファルトプラントのタンクが爆発して死傷者2名」

 ● 201411月、「米国ウィスコンシン州でアスファルトタンクが爆発・火災」

 ● 20154月、「米国ウィスコンシン州の製油所でアスファルト・タンク火災」

 ● 201612月、「米国カリフォルニア州の製油所でアスファルトタンクが火災」

 ● 20206月、「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」

 ● 202010月、「米国ワシントン州のアスファルト・プラントで爆発・火災、タンクへ延焼」

所 感(前回)

■ 今回の事故は、これまで意外に多いアスファルト・タンクの爆発事例である。爆発例で多いのは、アスファルト内に軽質分が混入して気相で爆発混合気を形成する事故である。しかし、今回はアスファルト処理工場でアスファルト・エマルジョン(アスファルト乳剤)を製造する工程であり、従来の例とは異なるように思う。どのような乳化剤が使用されていたか分からないが、普通で考えれば、爆発混合気を形成するような軽質分が混入することはない。屋根が噴き飛んではおらず、屋根の落下状況を見ると、爆発力は大きくないと思う。しかし、事故が現実に起こっており、乳化剤などの添加剤が関わった運転上の要因に関係しているのではないだろうか。

■ 消火活動状況は詳しく報じられていないが、消防活動は適切だったように感じる。グロスターシティ消防署だけの対応でなく、アスファルトの燃焼性を考慮してカムデン郡のハズマット隊(Hazmat)を支援に要請している。また、消火活動の準備に並行して、すぐに近隣住民への避難を判断している。消火栓に課題があったといわれているが、解決して大きな問題とせず、消火活動を行っている。このあたりは、事前に仮想訓練をやっていたように感じる。もちろん、その場の状況に応じた即断力も必要だが、訓練(机上あるいは実践)で即断力を養うことは必要だと思う。

 発災タンクは3,000KL級と比較的小型であったが、タンク屋根が油面上にかぶさり、障害物ありタンク火災の対応となった。はしご車が出動し、上から泡消火剤を放射すれば、消火は困難ではなかったのではないだろうか。

所 感(今回)

■ 事故は自然発火性物質の形成とみられる。だた、乳化剤などの添加剤に関わった運転上の要因についても疑問の残る事例である。

■ 前回、アスファルト内の軽質分の混入問題について指摘したが、米国内でも問題視されているようである。今回の追補の記事は、米国内の実情についてよく調査して指摘している。ただ、米国労働安全衛生局(OSHA)などは、アスファルトの爆発事例について体系的な調査を実施していないという。可能な限り軽質分を搾り取ろうとする製油所側と、取り扱いやすいアスファルト性状を目指すアスファルト・プラント側との問題意識のズレがあるようだ。企業の自主性を重んじる米国ではあるが、このような問題のズレこそ、公的機関が解消するように動くべきだろう。  


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

  ・6abc.com,  Asphalt tank erupts into flames in Gloucester City, N.J., forces evacuations,  July  01,  2020

    Fox29.com,  Hazmat, fire crews respond to asphalt tank explosion in Gloucester City,  July  01,  2020

    Nbcphiladelphia.com, Blast Rips Top Off Tank at NJ Asphalt Plant; Neighbors Forced From Homes,  June  30,  2020

    Gloucestercitynews.net, Toxic Fumes from The Asphalt Tank Explosion Spread Throughout Gloucester City,  June 30, 2020

    Courierpostonline.com, Asphalt storage facility explosion rocks, evacuates Gloucester City neighborhood,  July 01, 2020

    Phillyvoice.com, Tank explosion at Camden County industrial plant results in residents being evacuated,  June 30, 2020

    Apnews.com,  Evacuated residents return after fire in asphalt tank,  June 30, 2020

    Nj.com,  Asphalt tank explodes in N.J. neighborhood, sending terrified families fleeing from homes,  June 30, 2020

    Insideclimatenews.org, An Explosion in Texas Shows the Hidden Dangers of Tanks Holding Heavy Fuels,  June 06, 2021


後 記: 今回のような情報は良いですね。このようなアスファルト・プラントの事故は一過性の事象として原因が“調査中”で終わってしまうものですが、アスファルト・プラントの事故が多いのを憂慮して調べていったものです。ただ、今回の情報は気候変動の問題を取り扱うインターネット・メディアによるもので、これまで一度も検索したことのないウェブサイトでした。グーグルの検索システムで“引っかかった”情報ですが、さすがだと感じ入りました。

2021年10月7日木曜日

フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り

今回は、202161日付けの“Industrial Fire World”に掲載された「Fluorine Free Foam (F3) Research Highlights Major Deficiencies」(フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り)の内容を紹介します。

背 景

■ 私たちは泡消火剤のユーザーとして、可燃性液体(クラスB)の火災を消火する際に大きなジレンマを感じている。ジレンマとは、成分としてフッ素系界面活性剤(PFAS)を含む泡消火剤は米国で広く使われているが、PFASの規制が強化されることである。通常、トレーニングや小規模な都市火災への使用は禁止されているが、大規模な可燃性液体火災への使用は継続して許可し、消火の安全性を考慮して保護している。一般的に実績のある高純度C6AFFF(炭化水素C6とフッ素系界面活性剤を使用した水成膜泡消火薬剤)がずっと使用されてきている。しかし、使用する側の配慮もなく、大規模な火災へのAFFF(水成膜泡消火薬剤)の使用を批判的に禁止する人もいる。

フッ素フリー泡消火薬剤への移行は、生命の安全と重要なインフラを危険にさらす可能性があるか? 

■ フッ素を含まない泡薬剤(F3)の代替品の選択肢について、まだ分かっていなくても費用のかかる移行へのリスクを冒すべきだという人もいる。新しい薬剤の開発の試みに関して潜在する責任や成果などについて十分に認識しているのだろうか? 特に、これまでの大きな事故による実証やこれまでのF3の比較テストでは、高い混合率、消火時間の遅さ、適応性の低下、特定の燃料に対する脆弱性を示している。大規模なF3テストはまだ完了していない。

■ これは、現在、製油所、貯蔵タンク基地、海上掘削施設、配送ターミナル、石油輸送(鉄道、船、パイプライン、輸送機)、固定泡消火システムを備えた既存施設が直面しているジレンマであり、さらに短期で見れば米軍の軍備や防護について揺るがせている。私たちは潜在的に存在しているが、現在は明らかでない結果に備えができているのだろうか?

■ 米国政府の規制当局は、2020年米国国防権限法(NDAA)に基づき、AFFF(水成膜泡消火薬剤)を含めたPFAS202410月までに段階的に廃止しなければならないと布告したが、一方、国防総省は202310月以降PFASベースの泡薬剤の購入を禁止した。これは反対あるいは異議を示すものではない。この2つの制限の免除は、外航船における船上での使用にのみ適用される。F3の性能が十分に達成されない場合、国防長官は期限を最大2年延長できる例外的な規定があるが、軍事用途に信頼できる代替手段があるかどうかは問題と考えていないようである。当然のことだが、PFAS泡薬剤は軍事訓練に使用することは禁止されており、封じ込めが不可能な緊急事態対応を除いて、軍事施設での制御できない放出は禁止されている。消火泡システムのテスト時における使用は、完璧に封じ込めができ、回収と適切な処分を行って環境に四散しないときに限って認められる。

■ それでも、同じNDAA 2020エグゼクティブ・サマリーでは次のように記載されている。「最近の状況の記憶の中では、世界はますます不安定で危険な状態にある。戦争への流れが後退するのではなく、上昇するにつれて、国の安全を提供し、私たちの価値観を保護し、それらを擁護する人々を支援するという私たち議会の役割は、ますます重要になっている。国のニーズが危機にさらされている中で、私たちは方向転換しなければならない」 一方、泡薬剤の分野では、迅速性が立証され、効果的な消防活動の能力について信頼性が得られており、これは生命の安全の重要性を強化することと矛盾しているようにみえる。では、なぜ不必要な変更をほとんど証明されていないF3の化学技術に強要するのだろうか?

■ 国家防衛戦略報告書はまた、「国は極めて重要な時を迎えている。今日私たちが行う選択は米国の安全と影響について深刻な状況が潜在する世の中になるだろう」と明確に警告している。差し迫ったF3移行の方針に強い疑問を覚えてしまう。特に、結論に至るテストがまだほとんど行われておらず、不明確な状況にある中で、緊急事態の戦闘を想定した最悪のケースにおいてどうなるのだろうか。 この20年以上にわたる泡薬剤の改善によって、現在のF3に関する技術開発は避けてきたのに、なぜこのように短い時間枠で行おうとするのだろうか? これまでのF3に関わる大きな投資努力があるにも関わらず、現在の2020年の米軍仕様MilF PRF 24385FSH)修正第4条(Mil-Spec)の必要要件にはるかに及ばない状況である。他の国々はこの重要な仕事を認めており、厳しい適用条件に対して12年間の猶予使用について検討している。

■ 生命の安全と重要なインフラのための結果の影響は、従来の環境問題に後れを取っているのだろうか? どんな火災でも対応する高純度のC6AFFFC6AR-AFFF(耐アルコール性の水成膜泡消火薬剤)による素早い働きは、迅速に消火し、命を守り、損傷範囲を限定的にし、排水量を少なくして環境への影響を最小限に抑える消火戦術としてすでに実施されてきている。F3の適用倍率が高くて消火時間が長いことは、過剰な煙を出し、火災が拡大したり、命を脅かすリスクが大きくなり、有害な排水封じ込め時の溢流(オーバーフロー)の恐れが出たりして、重大な環境への影響につながる可能性がある。これはかなりのジレンマである。

テストの承認は私たちを誤って導くか?

■ 産業界に焦点を当てた全米防火協会(NFPA) 研究会2020の厳格な報告書では、F3は既存の水成膜泡(AFFF)システムの一時利用の代替品にはならないこと、そしてF3の火災適用性能は一定でなく多様であり、「F3に関して汎用的なスタンダードを開発することは困難である」と結論付けている。

■ UL162実施要綱にもとづき火災比較テストが165回実施されたが、「F3は、ヘプタンに対して良好だったが、米軍規格のIPA(イソプロピル・アルコール)とガソリン(10%エタノールを添加したE10 )で行った実施の一部に対して苦労した。特に、低発泡(吸引式)の泡が放出するときだった」 「タイプのテスト(フォースフル方式)において、 F3は米軍規格のレギュラーガソリンについてAR-AFFF34倍必要で、E10ガソリンについてはAR-AFFF67倍必要だった」という。

■ F3の高発泡(7~81)の泡の方が低発泡(3~4:1)の泡より火災性能が優れていた。言いかえれば、低発泡の泡は同等の消火を達成するために2550%増のF3を必要とした。通常、発泡倍率が高いほど到達距離は短くなり、消防士は炎により近づかなければならない。現在実施されている機器や訓練の多くは、C6AFFFC6AR-AFFFの泡薬剤の低発泡倍率を使うことに基づいており、変更は簡単に対処できない大きな問題である。

■ AR-F3の性能ではガソリン・ベーパーに対応することができず、消火泡の覆いの中で反応して、 341の発泡倍率が低い泡の場合、気泡を壊しているようである。341の発泡倍率が低い泡は、781の発泡倍率の泡を使用する場合と比較して、消火のために最大50%増しのAR-F3を必要とした。

■ この全米防火協会(NFPA)の調査では、大幅な再設計や変更を行わずに、既存の固定泡消火システムにF3を使用できない可能性が高いことが確認された。F3製品のひとつを選択すると、以後の設計は固定されてしまうかも知れない。このように適応性のない泡薬剤であれば、新しく改良されたF3が開発されても、さらに設計の変更を試みなければ、使用できなくなる可能性がある。粘度とプロポーショニングの難しさの問題に加えて、水生毒性が高く、高温での性能が低く、腐食性があるため、緊急事態対応時にF3に依存することの脆弱性がある。その上、承認された火災テストでは、合格が容易なヘプタンが用いられており、一般的に貯蔵され使用されているガソリンやE1010%エタノールが添加されたガソリン)が対象ではない。このような承認テストには、UL162FM5130LastfireEN1568-3ISO7203-1IMOなどが含まれ、私たちを誤って導く可能性がある。

■ C6AFFFC6AR-AFFFの使用が制限される前に、軍事用や産業用の大規模な火災試験を繰返し行って、緊急時の最悪条件下における新しい安全係数、信頼性能、効果のある適用倍率を、至急、確立すべきである。既存の小規模な火災試験の方法は、F3のユーザーが直面するような現実的な最悪のケースの事故想定を示すには、まったく不十分であるように思われる。 米国防火協会(NFPA)は、重要なハザード施設に対してF3C6AFFFの実行可能な代替手段ではないとはっきり言っている。 C6の泡は、環境への影響を最小限に抑えながら、生命、重要なインフラ、資産を適切に保護するための“必須用途”の製品であり続けるだろう。

■ 米国の州は、広く使用・貯蔵されているガソリン、アルコール、E10のハザードに対してF3の採用できるリストや承認済みの解決策が無い中で、対処されてきた歴史的な汚染問題に関する判断を急いでやろうとしていないだろうか? 彼らは責任と結果を考えているのだろうか?

米国海軍研究所によると、原因は芳香族化合物にあり

■ 米国海軍研究所(NRL)の2019年に出された比較火災試験報告書でも、プール火災の燃料がヘプタンの場合とガソリンの場合において、F3の泡の消火効果に相違があることを確認している。AFFFはヘプタンとガソリンの両方で同様の効果がある。しかし、 F3は明らかにそうではない。60秒でガソリンを消火させる必要があることから、 4種類のF3を必要とし、基準となるC6AFFF2.5倍から6倍の量がいることが明らかになった。消火する速度が早くなるにつれてこの差が広がった。 ガソリンのような急速に広がる火災から生命を保護し、被害を最小限に抑えるには、通常、消火する速度が重要である。命を救うためには秒単位である。公共の安全に対する懸念の気がかりな点である。

■ さらに米国海軍研究所(NRL) の調査により、この劇的な異なる結果の原因が明らかになった。F3がガソリン中の4つの芳香族化合物によって攻撃されていることが分かった。消火の最も難しいのはトリメチルベンゼン(TMB)で、次にキシレン、トルエン、ベンゼンである。あるF3が他よりも攻撃されやすかったが、すべてのF3がかなりの悪影響を受けた。この4つの芳香族化合物はジェット燃料(JetA/JetA1)にも含まれているが、量が少ないため、 F3が航空用燃料に苦労しながら戦っていることのある理由かも知れない。

C6AFFFは、消火が速く、信頼度が高く、有効であることが立証

■ 炭化水素のC8とは異なり、短鎖のC6フルオロテロマーの悪影響性は立証されていない。そして、消火が速く、信頼度が高く、有効であることが証明されている。C8とは、OECD(経済協力開発機構)の定義によると、PFOAPFNAPFSAを含む7つ以上のパーフルオロアルキル炭素原子をもつPFCA(ペルフルオロカルボン酸) 、またはPFOSPFHxSを含む鎖に6つ以上のパーフルオロアルキル炭素原子をもつPFCAである。大きな効果が見込まれない現在のF3に対して、このままでは生命が脅かされ、大きな被害が起こったり、リスクが拡大するような深刻な悪影響が出そうなこととは対照的である。このことは、これまでの研究によって確認されている。また、考慮すべきことは環境への悪影響である。将来起こる大規模な可燃性液体による火災に対して、消火時間が長く、消火の有効性が小さいことによる過剰に発生する煙、多量に供給される消火水の排水、封じ込めエリアからの溢流などによる環境への悪影響である。これはかなりのジレンマである。F3による形成状況はそれぞれ異なるが、使用時も使用後も封じ込めに専念しなければならないケミカルである。

封じ込めにより環境汚染を最小限に抑える

■ ケミカルを使用するに際しては、消火排水の排出を厳格に管理することが重要である。C6の消火泡については、回収・集積、封じ込め、処理、安全な廃棄が確実に行われるよう規制が実施されており、特に歴史的遺産の汚染を繰り返さないように長年にわたって行われてきた。それでは、なぜ米軍は2024年以降の大規模な可燃性燃料の火災において、C6AFFFなどを慎重且つ有効に使い続けることをできないようにするのだろうか? 生命やインフラを保護しなければならないときに、使用できるようにするF3を市場に主導していくことが、米軍規格(Mil-Spec)の許容的な基準を満たすことから遠いようにみえないか?

F3への大きな投資

■ 米国国防総省は、この問題を決着させる戦略的で有効性のある解決策を見つけるために1,000万ドル(11億円)超の投資をしている。しかし、時間は尽きている状況である。戦略的環境研究開発プログラム(SERDP)を通じて、代替できる信頼性のある有効な火災消火性能を追求している。環境セキュリティ技術認定プログラム(ESTCP)はPFASの改善に焦点を当てたもので、米国環境保護庁(EPA)とエネルギー省(DOE)が協力して実施している。排出の封じ込めや集積を最大にし、PFASを回収し分解することによって2024年以降もC6AFFFを慎重に使い続けることを認めないのはなぜなのだろうか?

バテル研究所は、F3が発泡倍率を高くしても消火時間が遅いことを確認

■ エネルギー省(DOE)のバテル研究所の研究方針では、同時の卓越性(優秀性)に焦点を合わせている。業務用の主なF3に関して火災性能、環境毒性、腐食性、粘性、エンジニアリングの改善点を評価して、火災性能の潜在性を強化し、202010月に報告した。数秒が命にかかわるとき、最良のF3が米軍規格(Mil-Spec)の規定より23倍遅い消火であったことが分かった。一部のF3について、圧縮空気式消火泡(CAF)を使用し再着火性(バーンバック)性能を向上させて小規模なテストを実施したところ、米軍規格のバーンバックの最小限の規定に適合することができたが、それでも消火には失敗した。吸引型泡ノズルを介して1,1001,400psi7596bar)の超高圧を作り出したF3の供給を使用したテストでは、消火時間が短縮され(どの程度かは報告されていない)、ドライケミカルとの組み合わせで液滴サイズが小さくなったことによる冷却効果は向上した。しかし、これは風効果によるものが大きく、限界に近いと思われる。

■ バテル研究所は、過去10年間に100機以上の軍用機が米国の地面に墜落しており、平均すると年間約10機が墜落していることを確認した。ほとんどが有人航空機(ドローンではない)であると仮定すると、10人のパイロットが乗っており、さらに自国において表面上安全な操縦中に生命が危険にさらされている乗客(航空機の種類によって異なるが)がいたかもしれない。これらの生命は、現在、提案されているF3の排他的な使用によってますます危険にさらされていないだろうか?

F3に関する高粘度、混合性、毒性、腐食の問題

■ バテル研究所は、F3が一般的に高粘度になり、予想外のプロポーショニングや混合性の問題を引き起こして泡薬剤の有効性を妨げていることを確認した。すべてのF3について水生毒性レベルは、米軍規格(Mil Spec)の規定に適合せず、C6AFFFを基準にすると標準的に10倍の毒性がある。これは、NRL(米国海軍調査研究所)やNFPA(全米防火協会)のテストによって分かったことであるが、ガソリンとE10の火災においてF3適用倍率が37倍高いため、消火時間が遅くなり、過剰な泡溶液による排液排出の形成や溢流によって、深刻な魚の大量死、高いBOD(生物化学的酸素要求量)、水路の汚染を引き起こす可能性がある。思いがけないことに、バテル研究所がテストした6つのF3のうち1つだけが、米軍規格(Mil Spec) の20日間の生分解性要件に合致した。逆にF3の腐食結果はキュプロニッケルで顕著にみられた。テストされた8つのもののうち4つ(50%)が米軍規格に適合しなかった。また、8つのうちの1つは青銅でも適合せず、2つのF3でも鋼の腐食基準に適合しなかった。

テストされた6つのF3は、圧縮空気式消火泡(CAF)を使用しても、米軍規格(Mil Spec) に合致せず

■ 6つのF3消火剤は、従来の米軍規格(Mil Spec) のノズルを使用したが、すべて米軍規格に適合しなかった。 6つのF3消火剤はすべて、従来のMil-Specノズルを用いた米軍規格に適合しなかった。圧縮空気式消火泡(CAF) を用いて大幅に改善したが、それでも米軍規格の規定よりも23倍遅い結果だった。7つのF3の結果のうち4つ(57%)は、従来のノズルを使用した米軍規格の再着火性(バーンバック) に適合し、圧縮空気式消火泡(CAF)を使用すると6つ(85%)に増えた。しかし、再着火性は、着火していない10ガロン(37.8リットル)のガソリンの上に2ガロン(7.5リットル)の消火泡を使用してのみ実施された(米軍規格では、テスト中、泡の覆いの中に熱い皿状のものを配置する必要がある)ため、消火泡の安定性のみを示し、意味のある耐フラッシュバック性を示すものではない。

強制的な投入(フォースフル方式)はF3に弊害あり 

■ 202010月に防火エンジニアリング専門のジェンセン・ヒューズ社(Jensen-Hughes が行った大規模なF3テストでは、150ガロン(567リットル)の燃料が使用され、熱出力は約80MW、炎の高さが40フィート(12.2m)、燃焼速度は40gpm151リットル/分)を記録した。ジェット燃料(JetA)は、小規模な米軍規格(Mil Spec)と同様の結果をもたらすことが分かった。フォームチューブ型泡ノズルを使用すると、一般的にF3の消火時間が3045%短縮されるが、泡消火流の到達距離も40%短くなり、大規模な事故では消防士へのリスクが高まる恐れがある。

■ すべてのF3がテクニックで依存していたのはガソリンだった。強制的な投入(フォースフル方式)は、燃料性能を放棄しているのと同じで弊害があり、したがって、穏やかな適用(ジェントル方式)で高発泡の倍率において良い結果を得ているが、適応性と泡流の到達距離が損なわれた。ジェット燃料(JetA)での制御時間は、C6AFFFのときよりも、標準ノズルを使用したF3で平均80%長くなり、フォームチューブ型泡ノズルを使用したF3で平均67%長くなった。ジェット燃料(JetA)の消火時間は、 C6AFFFのときよりも、標準ノズルを使用したF3で平均29%長くなったが、フォームチューブ型泡ノズルを使用した場合は67%長くなった。ガソリンでは違いが目立ち、C6AFFFと比較すると、F3の標準ノズルで制御・消火した場合、平均2.73.3倍長くなり、 フォームチューブ型泡ノズルを使用した場合、2.02.3倍長くなった。

結 論 

■ 4つの独立した一連のテストはすべて同様の結果だったことを確認した。ガソリンとジェット燃料(JetA)の両方で有効なF3火災性能を達成するには、ゆっくりした時間で、穏やかな適用(ジェントル方式)で、高い適用倍率、さらに加えて、高い発泡倍率が必要であり、潜在的には放射距離は40%短くなるとみられる。C6AFFFC6AR-AFFFのクリティカルの燃料放出や泡膜の形成能力に対する効果的な埋め合わせは達成できなかった。

 F3の中でもっと良かったものでさえ、ガソリンでは極めて長い消火時間が必要で、判断基準になるC6AFFFの性能と比較して、24倍(E10の場合は67倍)だった。テストされた最も良いF3は、F3の容量増加、配管径の増加、流量の増加、圧力増加、加えてシステムの設計変更に伴う費用がかかるなど、既存の泡消火システムの設計を損なう可能性があるが、さらに火災の緊急事態時に同等の性能を達成しそうにない。社会の期待に応えられそうになく、危険の増大や重大なインフラの被害に不必要にさらされる生活、そして消火排水の封じ込めからの溢流の恐れが増大する脅威にさらされる環境などF3に伴うリスクが増える。私たちは、そのような潜在的に生命を脅かすことに対して犠牲を払う用意ができているか、それはどのような具体的な利益があるというのだろうか?


補 足

■ 日本におけるフッ素化合物について性質、規制、家庭生活との関わりなど解説した資料は政府や自治体などから出されているが、神奈川県から出されている「有機フッ素化合物に関するQ&Aが分かりやすい。

■ 日本の泡消火薬剤の種類はつぎのとおりである。

 日本でPFOSを含有する泡消火薬剤を使用している消防機関、空港、自衛隊関連施設、石油コンビナート等の施設を対象とした調査が環境省で行われ、その結果、全国合計の泡消火薬剤量は338.8万リットルである。なお、泡消火薬剤中のPFOS含有量は全国合計17.82トンとなる。都道府県ごとの泡消火薬剤の量は「令和2年度PFOS含有泡消火薬剤等全国在庫量調査結果(泡消火薬剤量)」を参照。

 また、消火試験などについては「消防用設備等に関するISO規格の比較検証事業報告書 (平成23年度)」を参照。

 ■ 実際の事故で泡消火薬剤を評価した例は少ないが、「英国バンスフィールド油槽所タンク火災における消火活動(2005年)」に参画した米国のウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社がつぎのように評価している。

  ● 今回の事例で使用された泡薬剤は一貫性のある品質とはいえないものだった。その中で消火性能の品質の悪いものは、消防隊を危険な状況にさらしかねないことが示された。

  ● 多く使われたフッ素たん白泡消火薬剤(FP)は、小型タンクと堤内地区の双方の消火に使用されたが、消火時間が遅かったということが示された。トタール社LOR製油所消防チームの最初のコメントでは、自分たちが持ってきた多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)を使用したときには、火災の消火が速かったという。一方、泡薬剤を使い果たし、フッ素たん白泡消火薬剤(FP)を使わざるを得なくなった火災に対応することが増えてしまったという。

  ● フッ素たん白泡消火薬剤(FP)による蒸発抑制の泡の覆いは、弱い風の影響でも簡単に壊れることがよくあり、通常期待されるより早く泡の覆いが壊れて再引火を起こすことがあった。

■ PFOSを含有する泡消火薬剤は、2010年に化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関す る法律)により第一種特定化学物質に指定され、PFOSを含む泡消火剤の製造・輸入はが禁止されている。しかし、PFOSを含む消火器や泡消火設備など既設の機器や設備等の使用は、適切な取り扱いや表示を行うことで引き続き使用が認められている。

 なお、全国の消防本部・消防署が保有しているPFOS含有泡消火薬剤については、消防庁通知(202061日)に基づき、2022年の年度末までに計画的に廃棄することとされている。しかし、メーカーが推奨するPFOS非含有泡消火薬剤が、これまでと同様の消火性能があるかどうかは分からない。

■ 米国では、20207月にPFOAC8)ベースの泡消火薬剤の製造が禁止され、C8を使用から除外するための5年間の移行期間がある。C8消火泡は、長炭素鎖で、環境に有害で持続性のある界面活性剤を含むフッ素ベースの泡消火薬剤である。この代替品として損傷の少ない短炭素鎖C6消火泡がある。環境への影響が低く、生分解性が高いといわれているが、これも禁止されつつあり、フッ素を含まない消火泡(F3)が注目されている。

■ 本資料の著者は、ウィルソン・コンサルティング(Willson Consulting)のマイク・ウィルソン氏(Mike Willson)である。泡消火剤と固定泡消火システムのテクニカル・スペシャリストである。

所 感

■ 日本では、沖縄米軍基地における有機フッ素化合物の一種であるPFOS(ピーホス)と呼ばれるペルフルオロ・オクタン・スルホン酸を含む泡薬剤の流出事故で世の中に注目を浴びた。つぎのブログを参照。

 ●「沖縄の米軍普天間飛行場から泡消火剤が市内に大量流出」20204月)

 ●「沖縄の米軍普天間飛行場の泡消火剤流出事故で立入り調査」20204月)

 その後も米軍基地では、廃棄する泡薬剤を希釈して下水系排水路に流すなどの問題が生じている。今回の資料で米軍が廃棄を急ぐ背景は分かった。(希釈して下水系排水路に流すことは理解できないが)

■ 有機フッ素化合物の規制については日本も米国と同様である。特に有機フッ素化合物を含む泡薬剤に限ると、今回の資料の指摘は日本にも当てはまる。フッ素化合物を含む泡薬剤とその代替としてのフッ素フリー泡薬剤に問題点が多いのは分かった。日本では、フッ素フリー泡薬剤(F3)について消火機能の観点からまとめたものは少なく、貴重な意見である。

■ 今回の資料で気づいたことは、消火泡は結局何らかの“ケミカル” を使用せざるを得ないので、消火排水の排出を厳格に管理(回収・集積、封じ込め、処理、安全な廃棄の確実な実施)が重要だということである。もうひとつは、タンク火災を消すことができるかである。2005年に起きた英国バンスフィールド油槽所タンク火災の消火活動に参画した米国のウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社は、「今回の事例で使用された泡薬剤は一貫性のある品質とはいえないものだった。その中で消火性能の品質の悪いものは、消防隊を危険な状況にさらしかねないことが示された」と明確に語っている。消火泡をフッ素フリー泡薬剤に変更したが、消火機能が低下し、火災の消火ができず、消防隊を危険な状況にさらしたら、本末転倒である。よしんば、不介入戦略で燃え尽きるのを待つという方策がないではないが、原油タンクでは、ボイルオーバーというハザードが起きる。著者のマイク・ウィルソン氏のいう“ジレンマ” である。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Fluorine Free Foam (F3) Research Highlights Major Deficiencies(フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り),  June  01, 2021


後 記: 今回は、なじみの無い泡の消火実験の話など“食いごたえ” のある内容でした。しかし、考えさせられる内容でもありました。これまで泡の種類を横に置いて、大容量泡放射砲システムなどメインのハードウェアに片寄って注目し過ぎていたように感じました。資料の中に、過去10年間に100機以上の軍用機が米国の地面に墜落しており、平均すると年間約10機が墜落しているとあり、えっ!そんなに多いのと驚きました。航空機事故を想定し、「数秒が命にかかわる」という表現がありますが、 インターネットで調べてみたら、2019年に起きたアエロフロートロシア航空のSU1492便の事故(41名死亡、生存者37名)がユーチューブに投稿されており、これを見るとまさにそのとおりだと思います。

YouTube Завершено расследование уголовного дела в отношении пилота самолета, потерпевшего катастрофу(墜落した飛行機のパイロットに対する刑事事件の調査が完了)( 2020/04/15)を参照。