今回は、2021年10月6日(水)、米国のテキサス州ガルベストン郡テキサス・シティにあるマラソン・ペトロリアム社のガルベストン・ベイ製油所で原油用貯蔵タンクに設置されているタンクミキサーの取付けフランジ部から大量に原油が噴出した事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ガルベストン郡(Galveston)テキサス・シティ(Texas City)にあるマラソン・ペトロリアム社(Marathon
Petroleum)のガルベストン・ベイ製油所(精製能力:593,000バレル/日)である。
■ 事故があったのは、ガルベストン・ベイ製油所のタンク地区にある大型の原油用貯蔵タンクである。
< 事故の状況および影響
>
事故の発生
■ 2021年10月6日(水)午前7時30分頃、貯蔵タンクに付属している設備が故障し、タンク内に貯蔵されていた原油が漏洩した。
■ 漏洩の要因はポンプのメカニカルシールやバルブのフランジの故障という情報が流れていたが、地元メディアの中には漏洩箇所が“タンク側板のフランジ部”と修正を伝えている。
■ 発災に伴い、付近には原油の臭いがするため、製油所のそばを走っている付近の道路が閉鎖された。しかし、地域住民への避難の要請は無い。
■ 原油はタンク防油堤内に流出しており、原油のベーパーを抑制するため、消火用泡が使用されている。また、油を回収して処分するための設備が配備された。
■ 流出による汚染を最小限に抑えるために、油の入った貯蔵タンクはできるだけ早く原油を抜いて空にしようとした。タンク内の液は一杯ではないという。製油所が当局に提出した書類によると、 10月6日(水)午前7時30分頃に始まった流出は、10月7日(木)午前7時30分までには終える予定だという。大気汚染の揮発性有機化合物は5,000ポンド(2,260㎏)と推定しているという。
■ 製油所では、汚染の影響を受けたエリアで水を噴霧しているのが見られた。
■ 10月7日(木)、製油所は、予防措置として地域社会の大気モニタリングを実施しており、地域社会へのリスクの兆候はないと述べた。テキサス環境品質委員会(Texas Commission on Environmental Quality)でも大気品質のモニタリングを実施している。
■ 専門家によると、流出した原油が構外の水系に流れ込むことはないとみている。防油堤内に漏洩した油は堤内または製油所構内に留まるよう設計されており、正しく機能していると思われるという。現在のところ沿岸警備隊が対応する様子はない。
■ また、専門家によると、ベンゼン、トルエン、キシレンのような有害物質は原油に含まれているが、それらは極めて速く蒸発し、大気中に出ていくので、もっとも懸念されるのは気象条件に応じて移動する距離と環境に留まる時間であるという。
■ 流出が始まってから24時間を経過したが、タンクは原油を防油堤内に漏らし続けている。
■ 事故に伴う負傷者は無い。
■ 米国のドローンによる映像を取り扱っているスカイ・アイ社(Sky Eye)の撮影した動画が配信されている。10月6日(水)にヒューストンの各テレビ局で原油が噴出している映像が流れた。事故の状況は“漏洩”から“噴出”という表現に変わっている。下記のYouTubeを参照。
●「Crude oil leak at Marathon Petroleum facility in Texas City」(2021/10/7)
●「Crude oil leak reported at Marathon facility in Texas City」 (2021/10/7)
●「RAW VIDEO | Crude oil leaks from tank at Marathon Petroleum
facility in Texas City」 (2021/10/7)
被 害
■ 原油タンクに付帯しているタンクミキサー系の部品(タンクフランジを含む)が損傷した。
■ タンク内の原油が流出した。(流出量は未確認)
■ 原油が防油堤内に流出して土壌汚染と大気汚染を引き起こした。製油所が当局に提出した報告によると、大気汚染の揮発性有機化合物は5,000ポンド(2,260㎏)と推定しているという。
■ 製油所の近くを走る幹線道路が閉鎖された。クリーンアップ作業を行うため、流出が止まった後の2日間も継続して閉鎖された。
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は調査中である。
■ 漏洩箇所はタンク側板のフランジ部とみられている。映像によると、タンク側板部のフランジとそれに取り付けられたタンクミキサーが関係しているとみられる。
< 対 応 >
■ 発災から27時間後の10月7日(木)午後10時30分、テキサス・シティの当局者は、タンクからの流出は止まったと発表した。しかし、テキサス・シティによると、製油所のそばを走っている幹線道路のループ197号線は、クリーンアップを実施しているので、あと2日間閉鎖したままにすると述べた。
補 足
■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。
「ガルベストン郡」(Galveston)は、テキサス州の南東部に位置し、人口約25万人の郡である。
「テキサス・シティ」(Texas City)は、ガルベストン湾の南西部に位置し、人口約45,000人の市である。
■「マラソン・ペトロリアム社」(Marathon Petroleum)は、1998年に設立した米国オハイオ州に本社をもつ石油会社で、製油所を所有し、ガソリンスタンドなどでの販売を手がける。 米国12州に13箇所の製油所を有し、約290万バレル/日の精製能力を持つ米国最大の精製システムを運用している。
「ガルベストン・ベイ製油所」は、テキサス州テキサス・シティのガルベストン湾近くにあり、ヒューストン船舶航路の入り口からは離れている。2018年、ガルベストン・ベイ製油所はテキサスシティ製油所と合併し、593,000バレル/日の精製能力を備えた世界クラスの精製複合施設になった。
なお、 2017年8月25日に米国テキサス州に上陸したハリケーン・ハービーによって 浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が沈降した。(ただし、発災時はテキサスシティ製油所側のタンク。「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油設の停止と油流出」を参照)
■「発災タンク」は原油用という情報だけで、タンク仕様に関しては報じられていない。グーグルマップで調べると、発災タンクは直径約86mである。高さを18mと仮定すれば、容量は100,000KL級の外部浮き屋根式タンクである。漏洩箇所はポンプのメカニカルシールやバルブのフランジの故障という情報が流れていたが、地元メディアは“タンク側板のフランジ部”と修正を伝えている。発災映像を見ると、漏洩箇所にはサイドエントリー型のベルト式タンクミキサー(撹拌機)が設置されているので、タンク側板のフランジ部はタンクミキサーの取付けフランジだとみられる。
■ 発災タンクに入っていた原油量についてマラソン・ペトロリアム社は公表を避けている。メディアの中には400,000バレル(63,600KL)ではないかと推定している。発災写真を見ると、経過時間が分からないが、タンク屋根がタンク高さの半分ほどであるので、推定に近い量が入っていたものと思われる。発災後、タンクから別なタンクへ移送されていると思われるので、タンクミキサー部から流出した量は分からない。
所 感
■ 今回の事故は、タンク側板に設置されたタンクミキサー(撹拌機)を取り付けるフランジ部が何らかの損傷でタンク内の原油が流出したものとみられる。サイドエントリー型タンクミキサーは重量があるので、近年は重量を軽減する吊り具がタンク側板部に支持されている。今回のタンクミキサーに吊り具が付いていたか判然としないが、いずれにしてもタンクミキサーは振動のある機械であり、タンクミキサーのメカニカルシール部など気をつかう設備のひとつである。発災写真を見ると、上部に噴き出している2箇所は取付けフランジ部のゆるみ箇所ではないだろうか。前方に噴き出しているのはメカニカルシール部が流出の影響によって破損したのではないかと思う。可能性としてはタンク側板のフランジ部の割れ(疲労など)もある。
■ いずれにしても、日本では起こらない事故と断言できない事例であり、タンク所有者はタンクミキサーの振動やメカニカルシールの漏れなどの点検に問題がないか確認する必要があろう。マラソン・ペトロリアム社は事故に関する情報公開に積極的ではないが、今回の事例は他社でもありうることだと思うので、事故原因の公表に期待したい。
■ 今回のように流出を止められない状況の場合の異常事態対応は、つぎのようなことを考慮して進める必要がある。 類似事例としては、「米国ワシントン州でタンク防油堤内へガソリン流出」( 2012年4月)を参照。
● 防油堤の容量を確認し、水をいくら張り込むことができるか確認する。(仕切り堤がある場合、ここに留めた場合、流出油の受入れ量が減り、水の張り込み量に影響する)
● 油のベーパー抑制のための消火用泡を張り込む。
● 地下浸透対策として水を張り込む。流出発生後、1時間以内のできるだけ早い段階で水を張り込むのがよい。水は2日間張り込み、土壌への浸透をできるだけ回避してクリーンアップ作業を早める。
● 油の回収設備を準備し、クリーンアップ作業を行う。
今回の事例では、タンクミキサー部からの流出で油量が制限されていたが、壊滅的なタンク破壊に至った場合、「地上式貯蔵タンクの破壊による液流出のモデル化と軽減策の検討」(2015年11月)では、たとえ防油堤が損傷しなくても、貯蔵されていた液の70%を超える量が越流して堤外の環境へ影響を与えるという。この意味では、最悪のケースは避けられたといえよう。また、映像では、リスクを冒して土盛り式の防油堤を点検していたと思われることは妥当であろう。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Click2houston.com, Crude oil leak at
Marathon Petroleum refinery in Texas City prompts road closures, cleanup,
officials say, October 06, 2021
・Autoblog.com, Watch as Marathon Petroleum
refinery continues to leak crude in Texas, October 07, 202
・Abc13.com, Marathon Galveston Bay Refinery
leak stops, but road closures remain in Texas City, October 08, 2021
・Khou.com, Crude oil leak at Marathon
Petroleum facility in Texas City, October
07, 2021
・Reuters.com, Crews containing crude oil
gushing out of tank at Marathon refinery, October 07, 2021
・Galvnews.com, Flange failure caused Texas
City oil leak, officials say, October
07, 2021
・Ksat.com, Video shows crude oil spewing
from leaking tank at Galveston Bay refinery, October 06, 2021
・Greenmatters.com, 24 Hours Later,
Officials Are Still Cleaning Up Crude Oil Spill at Texas Refinery,
October 07, 2021
・Newsweek.com, Video Shows Oil Gushing Out
of Gaping Hole in Texas Refinery, October
07, 2021
・Bloombergquint.com, Marathon Texas Refinery
Works to Contain Day-Old Oil Leak, October
08, 2021
・Tankstoragemag.com, Oil tank leak at
Marathon Galveston Bay refinery, October
07, 2021
後 記: この事故を最初に知ったのはポンプのメカニカルシールの故障という情報で、タンク本体の事故ではなかったので、後回しにした事例でした。ところが、事故情報を調べ始めたら、どうもそうではなさそうです。ドローンの映像を見て初めてタンクミキサーが関連している事故と分かりました。今回の事故現場は公共道路に近いところだったので、いずれメディアに知れることになったでしょうが、マラソン・ペトロリアム社は情報の開示に消極的で(テキサスの石油会社は総じてそうですが)、そうでなければ、製油所構内でちょっとした油漏れがあったということで終わっているでしょう。ところが、ドローンによってマラソン・ペトロリアム社のロゴマークの入ったタンクから油が噴出している鮮明な映像が米国全土に流されるとは皮肉なものです。 (メディアによってヘリコプターによる映像もあるようです)