このブログを検索

2017年8月29日火曜日

クウェートのペルシャ湾で古い海底パイプラインから油流出

 今回は、2017年8月10日(木)、クウェート南部にあるアルキランのペルシャ湾の海域で起った油流出事故を紹介します。
(写真はCbc.ca から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中東クウェート(Kuwait)のペルシャ湾で、首都クウェート・シティ(Kuwait City)の南にあるアルキラン(Al Khiran)の海域である。

■ 発災があったのは、クウェート石油公社(Kuwait Petroleum Corporation:KPC)の関連施設とみられる。
クウェートの首都クウェート・シティ付近 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年8月10日(木)、クウェート・シティの南にあるアルキラン沖の海域で油が流出していることが確認された。

■ 環境保護団体のクウェート・グリーン・ライン協会(Kuwait‘s Green Line Society)は、8月10日(木)に油流出が起こっていると当局に連絡した。クウェート・グリーン・ライン協会によると、数日前から油が流出し始めていたという。クウェート政府は、重大な油流出事故が起きていることを住民や漁業者に伝えていなかった。 

■ 8月13日(日)、クウェート南の油流出区域には、オイルフェンスが張られ、海域と沿岸を汚染した流出油の回収とクリーンアップ作業が行われた。この地区には発電所と水製造施設があり、汚染による影響が懸念されている。

■ 隣国のサウジアラビアは、油流出対応の緊急アクション・プランを発令し、海域の空中調査を始めた。

■ 8月15日(火)、米国の環境保護団体であるスカイ・トゥルース(Sky Truth)は、衛星画像の分析によってクウェート海域に流出した油の量が少なくとも34,000ガロン(128KL)だと発表した。油膜の厚さを1μmと仮定しても、油流出面積(131km2)から油の量は34,590ガロンになるという。石油専門家は油の流出量について35,000バレル(5,500KL)と推定している。
スカイ・トゥルースが発表した油流出の衛星写真810日時点) 
(写真はSkytruth.org から引用)
■ 815日(火)、クウェートのサウジアラビア国境近くのラス・アル・ゾール地区で2番目の油流出が確認された。この場所は最初に油流出のあったところから約60km離れている。

■ クウェート石油相は、8月21日(月)、ラス・アル・ズールにある発電所と水製造施設はフル稼働で操業を継続していると語った。なお、ラス・アル・ズールには、現在、中東で最大の精製能力61.5万バレル/日の製油所が建設中である。

■ 8月22日(火)、クウェート石油公社は油流出を封じ込めたと発表した。流出した油の大部分を回収し、残りの油のクリーンアップを行うとともに、空気質と海域のモニタリングを行っているという。

■ クウェート当局は、8月23日(水)、2番目の油流出が1海里(約1,800m)に及んでいると語ったが、最初の油流出の大きさについては言及していない。油流出は封じ込められたと語っており、現在、漏洩源を特定するための調査を行っているという。

被 害
■ 油流出によって海域および沿岸が環境汚染された。最初に流出した油の量はクウェート当局から発表されていないが、5,500KLと推定されている。2回目の油流出は汚染状況や油量について分かっていない。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
(写真はCbc.caから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は調査中という以外、クウェート政府またはクウェート石油公社からの発表はない。

■ クウェートのメディアでは、最初の油流出について、地元の石油専門家の話として、アル・カフジ(Al-Khafji)の古い50kmパイプラインから生じたと報じている。8月15日(火)、スカイ・トゥルースは、油流出のあった海域でパイプライン敷設船が移動していたとし、敷設船が既存の海底パイプラインを損傷した可能性を指摘している。 

< 対 応 >
■ クウェート石油公社は、クリーンアップについてサウジ・アラビアン・シェブロン社(Saudi Arabian Chevron Corp.)と油流出対応の専門会社であるオイル・スピル・レスポンス社(Oil Spill Response Ltd.)に支援の要請を行った。 
(写真はKuwaittimes.netから引用)
補 足
■ 「クウェート」(Kuwait)は正式にはクウェート国(State of Kuwait)で、アラビア半島の付け根に位置し、東はペルシア湾に面している立憲君主制の国である。人口約430万人で、首都はクウェート・シティである。1938年に大油田が発見され、1961年6月英国から独立した。
                クウェートの位置と周辺国    (図GoogleMapから引用)
 「アルキラン」(Al Khiran )は、現在、アルキラン・リゾートとして投資額700百万ドル(770億円)を掛けて開発中の地区で、2019年に完成予定である。完成後、20万人の人口になる計画である。
                 アルキラン・リゾートの計画   (写真はTradearabia.com から引用)
■ 「クウェート石油公社」(Kuwait Petroleum Corporation:KPC)は、1980 年1月に原油の開発・生産から精製、輸送、販売の一環操業を目指して100%国営の企業として設立された。本社はクウェート・シティ にあり、クウェート国営石油精製会社(Kuwait National Petroleum Company: KNPC)など同国の石油・石油化学、石油製品販売関連の操業会社をすべて所有し、事業活動を管理・統括している。 
 クウェートにおけるタンク事故として当ブログで紹介した事例はつぎのとおりである。

所 感
■ 油流出の事故状況について、クウェート政府からほとんど発表されていないので、推測して書けば、つぎのとおりである。
 ● 8月10日より前に、パイプライン敷設船が古い海底パイプラインを損傷させ、内部にあった油が海中に漏洩した。パイプラインにあった5,500KLの油が流出し、海域および沿岸を汚染した。
 ● 損傷したパイプラインは50年前のもので、現在の所有責任者がはっきりしておらず、対応が遅れた。クウェート石油公社は今から37年前の1980年に設立された国営石油会社であり、50年前のパイプラインに関する詳細情報を把握しておらず、責任部署としての自覚はなかった。
 ● 責任部署が曖昧なまま、クウェート政府はクウェート石油公社に油流出の対応を指示した。クウェート石油公社は、サウジ・アラビアン・シェブロン社とオイル・スピル・レスポンス社に流出油の囲い込みと回収を依頼した。 

 ● 発災から2週間ほどでクリーンアップ作業の大半が終わったような発表が行われているが、封じ込めの初期対応に失敗した5,500KLの油回収と油処理のクリーンアップ作業は、本来、数か月かかると思われる。
 ● 8月15日に起った2回目の油流出事故は、対応をクウェート石油公社がとるとしたと思われる。しかし、油流出範囲以外の発表は行われておらず、適切な措置がとられているか分からない。

■ 古い海底パイプラインからの油流出事故は今後もありうると感じる。昔の海底パイプラインの敷設場所は計画時の地図上のものだけだろう。現在のようにGPS(The Global Positioning System:全地球測位システム)が発達していない時代には、どのようにパイプが敷設されたか分からない。パイプラインは実際には相当蛇行しているとみるべきである。油井の廃棄・新規開発はこれからもあり、古いパイプラインの油抜きや洗浄が行われなければ、油流出の起こるリスクは大きいといえよう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Cbc.ca, Kuwait Battles Oil Spill in Persian Gulf waters,  August  13,  2017
    ・Abcnews.go.com, Kuwait Battles Oil Spill in Persian Gulf waters,  August  13,  2017
    ・Voanews.com, Kuwait Says Oil Spill Strikes its Waters in Persian Gulf,  August  13,  2017
    ・Indianexpress.com, Emergency Teams Battle Oil Spill off Kuwait,  August  13,  2017
    ・Thenational.ae, Kuwait ‘Struggling' to Stop Oil Spill near Southern Ras Al Zour,  August  13,  2017
    ・Maritime-executive.com, Kuwait Cleans Up Oil Spill in Persian Gulf,  August  14,  2017
    ・Reuters.com, Kuwait Contains Oil Spill, Power and Water Output Normal – Agency,  August  15,  2017 
    ・Skytruth.org, Satellite Imagery Reveals Scope of Last Week’s Oil Spill in Kuwait,  August  15,  2017
  ・Washingtonpost.com, Kuwait Reports Second Oil Spill in less than a Week,  August  15,  2017
    ・Oilprice.com, Second Oil Spill Reported in Kuwait’s Ras Al-Zour Waters,  August  15,  2017
    ・Jordantimes.com, Kuwait Reports Second Oil Spill,  August  15,  2017 
    ・Abcnews.go.com, Group Estimates 34,000 gallons of Oil Spilled off Kuwait,  August  16,  2017
    ・Reuters.com, Kuwait Says Oil Spills Contained,  August  23,  2017  
    ・News.kuwaittimes.net, KPC: Oil Spill Contained,  August  23,  2017



後 記: 貯蔵タンクに直接的な事故ではありませんが、中東クウェートでの油流出事故ということで、調べてみることにしました。しかも、二度も起こっています。調べ始めて、まずはっきりしなかったのが、発災の日にちでした。メディアでは、曜日しか書かれていないものがほとんどでしたし、最初の事故のことなのか、二度目の話か、流出した日なのか、流出が発見された日なのかよく分かりませんでした。場所についても、いろいろな地名が出てくる割に、グーグルマップの地図に掲載されていないので、判然としませんでした。いろいろなメディア情報をもとに落ち着かせました。クリーンアップも何か他人任せという感じですし、結局、クウェートという国はよくわからないということでした。環境保護団体のスカイ・トゥルースがインターネットで写真を公開していなければ、2回目の油流出事故のようにモヤの中の話になったでしょうね。



2017年8月18日金曜日

インドのヒンドスタン・ペトロリアム社で原油タンクに落雷して火災

 今回は、2017年7月29日(土)インドのアンドラ・ブラデシュ州ヴィサカパトナムにあるヒンドスタン・ペトロリアム社のヴィサカパトナム製油所で原油タンク1基に落雷があり、火災となった事故を紹介します。
(写真はYoutube.comの動画から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インドのアンドラ・ブラデシュ州(Andhra Pradesh)ヴィサカパトナム(Visakhapatnam )にあるヒンドスタン・ペトロリアム社(Hindustan Petroleum Corporation Limited:HPCL)のヴィサカパトナム製油所(Visakhapatnam Refinery)である。ヴィサカパトナム製油所の精製能力は15万バレル/日である。

■ 発災があったのは、ヴィサカパトナムのマラカプラム(Malkapuram)地区にあるヴィサカパトナム製油所の石油貯蔵地区の原油タンクである。
ヒンドスタン・ペトロリアム社のヴィサカパトナム製油所付近 (矢印が発災した原油タンク地区) 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年7月29日(土)午後6時30分頃、石油貯蔵地区にある原油タンク1基に落雷があり、浮き屋根のリムシール火災が発生した。

■ 製油所の西側から立ち上る黒煙を見て、地元住民の間に不安が広がった。

■ 発災に伴いヒンドスタン・ペトロリアム社の自衛消防隊が現場に出動し、泡による消火活動を実施した。事故当時、雨が降っており、火炎を抑えるのに役立った。

■ 発災のあった原油貯蔵タンク地区には、原油タンクが4基あり、延焼が懸念されたが、火災は制圧され、約1時間後に消された。

■ 事故に伴うケガ人は出なかった。

■ ヒンドスタン・ペトロリアム社は、事故による製油所の操業への影響は無いと発表した。  

被 害
■ 火災によって原油タンクが一部焼損した。被害の範囲や程度は明らかでない。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
(写真はYoutube.comの動画から引用)
(写真はYoutube.comの動画から引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は落雷によって原油タンクの屋根シール部の可燃性ガスへ引火したとみられる。
 原油タンクには、固定式泡消火設備が設置されていたとみられるが、作動しなかった理由は分かっていない。

< 対 応 >
■ 発災の状況は地元メディアからYouTubeで映像が流されている。 (「 VIZAGVISION:Fire Accident Flames fired withthunderbolt in  HPCL.Visakhapatnam..」「Fire in HPCL Company | Visakhapatnam | ABN Telugu」

■ 地元メディアは、ヒンドスタン・ペトロリアム社ヴィサカパトナム製油所における事故は初めてではないと報じている。1997年9月、製油所の貯蔵地区において液化石油ガスの配管からLPGが漏洩して爆発し、大火災が起った。この事故によって61名の死者が発生し、住民7万人が避難した。2013年8月には、冷却塔の建設中に冷却塔が崩壊し、28名の死者が出た。

補 足
■ 「インド」は、正式にはインド共和国で、南アジアに位置し、インド亜大陸を占める連邦共和国で、イギリス連邦加盟国である。首都はニューデリーで、人口は約12億人で世界第2位である。
 「アンドラ・ブラデシュ州」(Andhra Pradesh) は、インド南東部にある州で、人口は約4,900万人である。
 「ヴィサカパトナム」(Visakhapatnam )はアンドラ・ブラデシュ州の東部にあり、ベンガル湾に面した人口約203万人の港湾都市で、同州で最も大きい都市である。
 
 インドにおける主なタンク事故はつぎのとおりである。
 
■ 「ヒンドスタン・ペトロリアム社」(Hindustan Petroleum Corporation Limited:HPCL)は、1974年に設立されたインドの国営石油会社で、本社はマハラシュトラ州ムンバイにあり、従業員約11,000人の会社である。しかし、インド政府は原油相場の変動に耐え得る巨大石油会社を誕生させる方針を打ち出しており、今年7月、ヒンドスタン・ペトロリアム社はインド石油ガス公社(ONGC)へ売却される計画であることが報じられている。
 ヒンドスタン・ペトロリアム社は、インド西海岸にあるムンバイ製油所と東海岸にあるヴィサカパトナム製油所の2つの主要な製油所を保有している。ヴィサカパトナム製油所は15万バレル/日の精製能力を有している。
ヒンドスタン・ペトロリアム社のヴィサカパトナム製油所 
(写真はThenewsminute.comから引用)
■ 「発災タンク」は製油所の西側にある原油タンク4基のうちの1基という情報から、グーグルマップによって調べてみた。該当の地区とみられる原油タンクは、直径約82mであり、高さを20mとすれば、10万KLクラスである。しかし、発災タンクは特定できなかった。
発災のあった原油タンク地区付近 
(写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ インドの雷の発生頻度は少くはないが、多発地域ではなく(「NASAによる世界の雷マップ」を参照) 、このようなところで10万KLクラスの浮き屋根式原油タンクにおいて落雷によるタンク火災が起こるのは珍しいが、見方を変えれば、貯蔵タンクはどこでも落雷によるリスクが潜在しているといえる事例である。
 事故はリムシール火災にとどまったのは幸いだった。原油タンクには、固定式泡消火設備が設置されていたとみられるが、正常に作動しなかったものと思われ、日常の点検が重要であることを示す事例でもある。

■ 消火活動については、固定式泡消火設備が機能しなかったので、大型化学消防車による泡放射が行われているが、最終的には原油タンクの上部に昇って携行式泡ノズルによる泡消火が行われたのではないだろうか。

 注記:タンク浮き屋根の位置(高さ)によるが、浮き屋根の位置が高くてタンク側板越えの泡が有効にシール部に届けば、消火できよう。一方、液位が低いときなどタンク屋根シール部が側板の死角になって泡が有効に届かない場合は、タンクの上部に昇って泡モニターによる泡消火を行う方法がとられる。
 ヒンドスタン・ペトロリアム社」(HPCL)は、製油所紹介映像をYouTubeに掲載「HPCL : plant shoot」しており、この中に大型浮き屋根式タンクへの大型化学消防車(3台)からの泡放射テストの状況がある。この珍しい貴重な映像を見ると、消防車からの泡放射の有効性に限界があることが伺える。  
ヒンドスタン・ペトロリアム社による浮き屋根タンクへの泡放射テストの例 
(写真はYouTube.comHPCL : plant shoot」の動画から引用)
備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Thehindu.com, Crude Oil Tank at HPCL Catches Fire,  July  29,  2017 
  ・Timesofindia.indiatimes.com,  Lightning Leads to Fire in HPCL Tank,  July  30,  2017
    ・Thenewsminute.com,  HPCL Crude Oil Tank in Andhra Catches Fire after Lightning Strike in Vizag,  July  30,  2017  
  ・Nyoooz.com,  Lightning Leads to Fire Outbreak in HPCL Tank,  July  30,  2017
    ・Youtube.com,  VIZAGVISION:Fire Accident Flames fired with thunderbolt in HPCL.Visakhapatnam.. ,  July  29,  2017
    ・Youtube.com,  Fire in HPCL Company | Visakhapatnam | ABN Telugu,  July  29,  2017  
    ・Youtube.com, HPCL : plant shoot,  December 24,  2017


後 記: 典型的なタンク火災のひとつである落雷による浮き屋根式タンク火災だったので、多くの情報(報道)が出るかと思っていましたが、世界的な通信社からの発信はなく、ローカルなメディアからの情報だけでした。被災写真はなく、メディアから出されている動画(YouTube)から取りました。しかし、この動画も映りが悪く、紹介する絵(写真)を切り取るのに苦労しました。
 一方、今回の調査をしている際、ヒンドスタン・ペトロリアム社」(HPCL)が大型浮き屋根式タンクへの泡放射テストを行っている状況の映像が出てきました。日本では、三点セットでの大型タンク全面火災は消火できないということが明らかになっていますが、実タンクへの泡放射を見てみると、そのことが分かります。このため、当該事故に直接関係しなかったのですが、所感で触れてみました。

2017年8月10日木曜日

米国テキサス州で消防活動中にタンク噴き飛ぶ(2009年)

 今回は、2009年5月14日(木)、テキサス州ラボック郡ラミーサにあるマスルホワイト運送会社のタンク・ステーションの貯蔵タンクに落雷があり、火災となった後、消火活動中に別なタンクが爆発した事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ラボック郡(Lubbock County)ラミーサ(Lamesa) にあるマスルホワイト運送会社(Musslewhite Trucking Company)のタンク・ステーションである。

■ 発災があったのは、マスルホワイト運送会社のタンク・ステーションにある貯蔵タンクである。タンク・ステーション構内には小型タンクが10基ほど設置されていた。
ラボック郡ラミーサにあるマスルホワイト運送会社のタンク・ステーション 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2009年5月14日(木)、テキサス州ラボック郡のラミーサ地区は激しい天候に見舞われており、あちこちで落雷があった。
 
■ 5月14日(木)午後11時頃、マスルホワイト運送会社のタンク・ステーション内のウィチタ水処理式塩水浄化装置(Wichita Water LLC Saltwater Disposal Unit)のタンクに落雷があり、火災が発生した。黒煙は10キロ先からも見えた。

■ 発災に伴い、ボランティア型のラミーサ消防署とアンドリュース消防署の消防隊が出動し、消防車による消火活動が行われた。

■ 火災発生から約2時間後、タンク・ステーション構内に設置されていた貯蔵タンク群のうち、高さ約25フィート(7.5m)のタンク1基が爆発して噴き飛んだ。タンクの安全弁が開いて火を噴き出してから3秒後にタンクが空中へ飛び出した。この状況は真にロケットの発射のようだった。タンクから漏れた油に火がついて火災は大きなファイアボールを形成した。そして、その5秒後には、別のタンクの頂部が壊れて飛んだ。損壊した頂部は落下すると、地面を約10秒ほど転がった。

■ 火災は、9時間以上続いたのち、消えた。

■ この爆発を伴った火災の消火活動に従事していた消防隊は、奇跡的に軽傷者が1名のみだった。負傷者は、一人の消防士が両足首を過伸長ということで、怪我の程度は軽かった。

■ ニュースチャンネル11のストーム・チェイサー(嵐追跡者)でカメラマンのデイビット・ドラモンド氏は、前夜、テキサス州ドーソン郡で雹(ひょう)の嵐を取材した後(雹は1時間15分も降り続いた)、落雷に伴って起こったラミーサのタンク火災現場へ行くように連絡を受け、現地へ飛んだ。現場到着後、タンクが爆発して噴き飛ぶ様子がビデオカメラで撮影され、インターネットを通じて紹介されたため、全米で話題になった。




被 害
■ タンク・ステーションの設備は壊滅的な被害を受けた。推定損害額は、清掃費用を含まないで、約725,000ドル(約8,000万円)程度と見込まれる。
 
■ 事故に伴って1名の負傷者が発生した。

< 事故の原因 >
■ 最初の事故原因は、落雷による貯蔵タンクの可燃性ガスへの引火とみられる。

< 対 応 >
■ ラミーサ消防署のケンドール・エイモス署長は、爆発時についてつぎのように語った。
 「タンクは “ロケットのようにファイアボールを残して離陸して” 爆発しました。 私は火災の最前線からおよそ20ヤード(18m)のところにいました。私は一組の消防士が倒れるのを見ました。そして、私は彼らを助けようと駆け出しました。ところが、塩水浄化装置のまわりには金網フェンスが設置されており、これが飛んでくる破片から消防士を守っていたのです。爆発は爆弾が破裂したようなものですから、人がケガしなかったのは信じられないことです。実際、私の頭の中をよぎったことは、死ぬことはないだろうが、火傷を負うかもしれない。しかし、生き抜かなければならないということでした。生きてここにいることは、神が私たちに手を差しのばされたということだと思っています」

■ 爆発を撮影したデイビット・ドラモンド氏は、つぎのような語っている。
 「事故の状況を撮影し始めてから約45分経過し、火災は消防隊に制圧されているように見えました。ところが、タンクの安全弁が作動したかと思うと、引火して、そのタンクと隣のタンク群が猛烈なファイアボールを伴った爆発を起こしました。
 私は200ヤード(180m)ほど離れた所にいたのですが、口径4インチの長さが1フィート半(45cm)の遮断弁の付いた配管断片がミサイルのように高い孤を描いて飛んできました。パイプ断片は途中にあった送電線を越え、こっちの方に飛んできて、私の車のフロント部に衝突し、大きく壊しました。私は車に当たった箇所から4フィート(1.2m)のところに立っていました。私の周辺には他の破片が雨のように落ちてくるのが聞こえました。
 信じられないことですが、消防士全員が無事でした。爆発したとき、タンクのすぐ前に消防士がいたにもかかわらずですよ。消防士たちはみんなよくやりました。彼らのほとんどはボランティアとして無報酬です。多くの人は、彼らが毎日私たちのために、いつでもボランティアで活動していることについて知らないのではないですか。私から皆さんへのお願いですが、ラミーサとアンドリュースの消防署に感謝の意を伝えるとともに、ボランティア部署に寄付をしてください。ボランティア部署は少ない予算で運用されているので、寄付が集まれば、本当に助かるでしょう」            
事故後のタンク・ステーションの状況
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部に位置し、メキシコ湾に面する州で、人口は約2,200万人である。
 「ラボック郡」(Lubbock County)は、テキサス州北部に位置し、人口約28万人の郡である。
 「ラミーサ」(Lamesa)は、南ラボックにある町で人口9,500名の町である。
              米国とテキサス州の位置   (図はGoogleMap から引用)
■ マスルホワイト運送会社(Musslewhite Trucking Company)は主にテキサス州、ニューメキシコ州などの油田地域において運送サービスを営む会社である。 
 ラミーサにはタンク・ステーションを保有していた。タンク・ステーションには油タンクのほか、落雷のあったウィチタ水処理式塩水浄化装置(Wichita Water LLC Saltwater Disposal Unit)があった。汲上げ水をこの塩水浄化装置で浄化して、構内の浄水に利用していたものと思われる。なお、現在はタンクはなく、タンク・ステーション機能が無くなっている。

所 感
■ 今回の事故では、落雷によるタンク火災の状況(タンクの種類、大きさ、油種など)は分かっていない。注目は加圧タンクとみられる別なタンクが消火活動中に爆発したことに移っている。しかし、タンクが爆発して噴き飛ぶ状況がビデオカメラで撮影され、事故の恐ろしさを疑似体験できる。米国では、都会を除けば、ボランティア型の消防署が多く、このような消防隊の消防士にとって疑似体験できるビデオ映像は有用であろう。

■ 消火活動に関する詳細な状況は不詳であるが、落雷で発災したタンク火災は、ほぼ制圧できる状況だったとあるので、泡消火による積極的消火戦略がとられた思われる。しかし、消防活動のアクセス上の問題あるいは消防資機材不足の問題によって、まわりのタンクへの延焼防止に関する対応がうまく行かなかったものと思われる。つぎつぎと爆発が起こるような状況になり、防御的消火戦略または不介入戦略がとられ、火災は施設を壊滅的な状態にした後、燃え尽きるように消えたものと思われる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Youtube.com, 05/15/09 INCREDIBLE **SLOW MOTION** TANK BATTERY EXPLOSION Lamesa, TX (in West Texas)」 ,  May 15,  2009
  ・Newschannel11.com, Oil Tank Battery Explodes Following  a Fire in Lamesa, May 15, 2009  
  ・Nationalnews com, 1 Firefighter Hurt  in Texas Tank Fire, May 15, 2009  
  ・Daviddrummond. com, Lamesa, TX Tank  Battery Fire Explosion, May 15, 2009
  ・Texas-Fire. com. Oil Tank Battery Explodes Following a Fire in Lamesa,  May 15, 2009  
  ・Statter911.com Slow Motion of Tank Farm Explosion in Lamesa, Texas., May 16, 2009


後 記: 最近は事故が起こった場合、監視カメラによる映像が報じられたり、一般市民による動画がインターネットに投稿されたり、以前とは随分様相が変わりました。今回の事故報道では、プロのカメラマンによる爆発映像がとられて報じられたものです。現在の状況のさきがけのように感じます。ということで、昔(といっても8年前ですが)の事故を紹介することとしました。