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2022年8月29日月曜日

キューバのタンク基地で落雷による原油タンク火災4基、死傷者162名

  今回は、202285日(金)、キューバのマタンサスにあるマタンサス・スーパータンカー基地のタンク施設で原油タンクが落雷で爆発・火災を起こし、隣接していた原油タンク3基に延焼し、162名の死傷者を出す大きな事故になった事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、キューバ(Cuba)の首都ハバナ(Haana)東方にあるマタンサス(Matanzas)にあるマタンサス・スーパータンカー基地(Matanzas Supertanker Base)である。

■ 事故があったのは、マタンサス・スーパータンカー基地にある容量50,000KLの原油貯蔵タンクである。事故当時、タンクには、容量の50%である25,000KLの原油が入っていた。原油貯蔵タンクはアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式で、容量50,000KLのタンクが8基並んでいた。

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202285日(金)午後8時頃、雷雨がマタンサス地区を通過しているとき、マタンサス・スーパータンカー基地に落雷があり、タンク1基が火災を起こした。タンクから真っ赤な炎と黒煙が立ち昇った。

■ 近くに住む女性は、「大きな音で寝ていたベッドから飛び起きた。外に出ると夜空が黄色に染まっていた」と語った。別な男性は、「衝撃波のような爆風で、背中を押されたように感じた」と語っている。

■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防隊は、火災の拡大を防ぐため近隣のタンクに水を噴霧して冷却を維持するようにしていた。しかし、強風により消火作業は困難な状況だった。

■ 近くの住民約1,300人が避難した。

■ 86日(土)午前5時頃、2基目のタンクに延焼して爆発を起こした。2基目のタンクは満タンだった。地元住民によると、「爆発がとても大きかったので、太陽のように辺りを照らしていた」と話している。

■ 2基目のタンクの爆発によって、消防士1名が死亡し、121名が負傷し、14名が行方不明となった。負傷者は、主に火傷と煙の吸入の治療を受けた。 亡くなったのはシエンフエゴス製油所(Cienfuegos Refinery)の特別防火司令部の 60 歳の消防士だった。行方不明者は、発災現場の最も近い地域で火災拡大を防ごうとしていた消防士だった。

■ 負傷者の中には地元の報道機関の3名が含まれるが、軽度の火傷で軽傷だった。負傷したひとりは、「午前4時過ぎに消防隊が消火活動をしているタンク基地に到着し、そのような状況に直面している人々を取材して情報を探していました。数分が経過し、2 番目のタンクが爆発しました。逃げろ!という叫び声が聞こえました。私は同僚と一緒に走りました。しかし、私は自分の足でありながら私の意思どおりに急いで走れないと感じました」と語っている。

■ 2基目のタンクは、86日(土)早朝の午前5時頃の爆発のほか、その日の午前中に3回の爆発があった。

■ キューバ国営テレビは6日(土)から火災の様子を中継している。この事故についてテレビとは別にユーチューブに投稿された映像の主なものは、つぎのとおりである。

 ●Cuba en emergencia tras incendio en tanque de combustible2022/08/07

 ●Dezenas de feridos e 17 desaparecidos em incêndio em Cuba | AFP2022/08/07

 ● Humo negro llena partes de Matanza, Cuba mientras rescatistas luchan contra un incendio2022/08/07

■ 火災からの煙は西側に向かって流れており、100km以上離れたハバナで見ることができた。保健当局は、煙の影響を受ける地域ではマスクを着用し、雨を避けるよう住民に警告している。煙の雲には二酸化硫黄、窒素酸化物、一酸化炭素などの有毒化学物質が含まれているという。

■ 満杯の50,000KLの原油が入った2基目のタンク火災は燃え続け、87日(日)午後11時頃に大爆発を起こした。2基目のタンクは40時間近く燃え続け、座屈崩壊した。この事故に伴い、3名の負傷者が出た。この爆発は86日(土)に発生したものよりもはるかに激しく、油が流出して周辺地域に広がった。2基目のタンクは早い段階で割れが発生し、燃料がタンク周囲に漏洩し、茂みに火がついた。

■ 2基目のタンクで油が流出し、大規模な火災となり、さらに3基目のタンクに燃え広がった。88日(月)には、3基目の貯蔵タンクも爆発・火災を起こした。 さらに、8日(月)には貯蔵タンク4基目が炎に包まれ、全部で4基が火災となった。爆発・火災によって施設の40%が破壊され、大規模な停電が発生した。

■ 当局は、火災の近くの住民約800人を含めて、マタンサス工業地帯に住む約4,900人の人々を避難させた。

■ 88日(月)時点で、タンク火災から発生した煙がキューバの北海岸と西部に向かって拡大し続け、100km離れた地域に到達することによる環境と健康への影響について深刻な懸念が提起された。

■ 88日(月)、マタンサスの公衆衛生局長は、火災が始まって以来、集中的な監視を行っており、これまでのところ、国の西部では有毒物質に関連する呼吸器疾患やその他の疾患の増加は観察されていないと述べた。 キューバ環境省は、火災により汚染物質が放出されたことを確認したが、87日(日)時点で、危険はないと述べ、引き続き状況を監視しているという。

■ 88日(月)、燃料が無くなった後、主要な火力発電所を閉鎖することを余儀なくされ、追加の停電に対する懸念が生じた。もともとキューバ政府は蒸し暑い夏の真っ只中のハバナの首都で計画停電を発表していたが、事故はその数日後に起こった。 

■ 基地には8基のタンクがあり、キューバの電力システムで重要な役割を果たしている。この基地は原油を運び入れるための石油パイプラインを運用しており、その後、電力をつくる火力発電所に移送する。 また、輸入された原油、燃料油、ディーゼル燃料の荷降ろしや積み替えセンターとしても機能している。





被 害

■ 容量50,000KLの原油貯蔵タンクが4基損壊した。内部の原油が焼失したが、量はわかっていない。   

■ 死傷者は162名で、内訳は死者が16名、負傷者が146 名である。

■ 近くの住民4,900人が避難した。

■ 原油が燃焼して煙と汚染物質が大気を汚染した。

< 事故の原因 >

■ 最初のタンクの爆発・火災は落雷による。2基目~4基目は隣接の火災タンクによる引火である。

< 対 応 >

■ 86日(土)午前5時頃の爆発によって負傷した人は、午後7時までに121人が治療を受け、そのうち 36人が国内の 6つの医療機関に入院し、85 人が退院した。

■ 86日(土)、米国のキーウェスト気象レーダーは、マタンサスの工業地帯の火災から発生する煙の高さと密度を検出し、公表した。86日(土)、キューバ共和国気象研究所はマタンサスの工業地帯で進行中の火災の結果として、人間の健康に関心があり、市民の懸念のために、煙、雨、汚染ガスの濃度について情報を公開した。そして、特にアレルギーのある人は、フェイスマスクの使用など、身を守るための対策を講じるよう助言した。

■ 86日(土)、マタンサスの現地では泡モニターや放水銃などで消火活動を行っているが、キューバ政府は外国からの救援を求め、石油部門の経験を持つ友好国のメキシコとベネズエラから100人以上の支援を受けることにした。 87日(日)、メキシコとベネズエラの航空機や消防チームがキューバに入り、消防艇、飛行機、ヘリコプターなども使って消防活動が行われた。ベネズエラは泡消火剤を含む 20 トンの消火資機材を運んできた。

■ 米国政府は支援を申し出たが、キューバは米国と緊張関係にあり、キューバに対する制裁政策を維持している。キューバは感謝の意を表したが、実際の支援は行われなかった。

■ タンクには避雷針システムが設置されていた。貯蔵タンクの下部に落雷し、避雷針システムの能力を超えたか、避雷針システムに保守不足による欠陥があり、放電のエネルギーに耐えられなかったのではないかという推測がある。

■ 87日(日)午後4時、最初に発災したタンクの火災は鎮火した。

■ 87日(日)、タンクローリーと近くに停泊していた船を使用して、3基目のタンクから燃料を取り出す作業を行った。

■ 88日(月)午前4時、 5,000ガロン/分(18,900リットル/分)の大容量消火ポンプシステムドミネーターDominator)がベネズエラのカラカスから供与され、現地に到着した。

■ 88日(月)午前930分頃、3基目のタンクが座屈崩壊した。これは2基目のタンクから流出した燃料によってタンク底部が損なわれたためである。一方、現場は煙のため視界が悪い状態が続いていたが、空軍のヘリコプターが延焼を防ぐための消火水の注水を続けた。大容量消火ポンプシステムと泡消火剤の配置が終わった。

■ 5日(金)午後8時頃に発生した大規模火災が89日(火)ようやく制圧された。 5日間にわたった火災は、810日(水)消防署によって鎮火が確認された。しかし、現場にはいくつかのホットスポットが残っており、冷却が続けられていた。

■ 当局は火災で失った燃料の規模を明らかにしていないが、マタンサス湾への石油流出はないとしている。

■ 816日(火)、大火災のあった現場には、多くの骨が残っているという。

■ 819日(金)、キューバ政府は、マタンサスのタンク火災で行方不明になった14人が死亡したと判断し、2日間の正式な追悼式を行った。葬儀用の骨壷と犠牲者の像の前を行進する式が行われた後、墓地に埋葬された。合計で700以上の骨が、火が消えた後に回収された。 キューバの専門家は、被災地で見つかった断片の焼成程度がひどく、識別は不可能だという。

■ キューバ公衆衛生省によると、火災で16名が亡くなり、 146 名が負傷し、うち18 名は入院して一部の人は重体で危篤状態にあるという。





補 足

■「キューバ」(Cuba)は、正式にはキューバ共和国で、カリブ海の大アンティル諸島に位置し、人口約1,100万人の社会主義共和制国家で、キューバ共産党による一党独裁体制が敷かれている。

「マタンサス」 Matanzas)は、キューバの北岸に位置し、マタンサス州の州都で人口は約16万人である。首都ハバナ(Havana)の東約90kmの場所に位置しており、ルンバ発祥の地として知られている。

■「マタンサス・スーパータンカー基地」(Matanzas Supertanker Base)は、1980年代後半に建設され、その後、何度か増設・近代化が行われた。50,000KLの原油を貯蔵するために8基のタンクが設置されている。最大18万トンの喫水を受け入れるための 5基の桟橋がある。

■「発災タンク」は、4基とも容量50,000KLのアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクである。グーグル・マップで調べると、直径は約74mであるので、高さは約11.6mである。最初に落雷で発災したタンクは容量の50%である25,000KLの原油が入っていたので、液位は約5.8mである。2基目のタンクは満杯であったので、液位は約11.6mである。3基目と4基目はどの程度入っていたか報じられていない。

■ タンク火災の経過時間を報道記事から見てみると、図のようになる。ただし、2基目の2回目の爆発以降と3基目・4基目についての事象や詳細な時間は報じられていないので、わからない点がある。

 この中で2基目のタンクに注目してみると、86日午前5時に最初の爆発があった後、87日午後11時に大きな爆発が起こっている。この間の燃焼時間は43時間である。2基目のタンクは満杯の液位約11.6mであり、仮に全面火災で燃焼速度を30cm/hと仮定すると、約38時間でボイルオーバーが発生することになる。直径74mのタンクの場合、消火するには、日本の法令で40,000リットル/分の大容量泡放射砲システムが必要である。

所 感

■ 事故には多くの教訓があるが、そのひとつは避雷設備の重要性である。今回のアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクにはドームルーフ全面に特別な避雷針システムが設置されていたが、貯蔵タンクの下部に落雷し、避雷針システムの能力を超えたか、避雷針システムに保守不足による欠陥があり、放電のエネルギーに耐えられなかったのではないかという推測が報じられている。

 一方、アルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクは、屋根があって落雷に強いのではないかという説のほか、アルミニウム製屋根の肉厚が薄く落雷時は貫通するのではないかという説がある。今回の事例は避雷設備の保守の重要性のほか、根本的にアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクの是非について議論を呼ぶ事例である。同型タンク火災の主な事例はつぎのブロブを参照。

 ●「落雷によるアルミニウム製ドーム式タンクの火災」20115月)

 ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」20168月)

 ●「インドネシアの製油所でアルミニウム製ドーム型浮き屋根タンクが火災」202111月)

■ 今回の事故は消火戦略・消火戦術に疑問のある事例である。現場第一線の消防士はよくやっているが、緊急事態指揮者の判断・対応が悪い。最初のタンク火災への対応でタンク防油堤内に入って冷却作業を行っている最中に、隣接する2基目のタンクに引火して爆発を起こし、16名を超す人が死亡している。もともと原油タンクはボイルオーバーを起こしやすい油種であり、安全区域を設定して消火戦術をとらなければならない。実際、2基目の87日午後11時の爆発はボイルオーバーではなかったかと思われ、さらに3名の負傷者が出ている。

 消火戦略・消火戦術については、このブログでも紹介しており、主なものはつぎのとおりである。

 ●「石油貯蔵タンク施設の消火戦略・戦術」201612月)

 ●「タンク火災への備え」20129)

 ●「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」201410月)

 ●「石油貯蔵タンク火災時の備えは十分ですか?」201611月)

■ 直径74mのタンクの場合、全面火災を消火するには、放射能力40,000リットル/分の大容量泡放射砲システムが必要である。 今回の事故では、発災から4日目の88日(月)に 5,000ガロン/分(18,900リットル/分)の大容量消火ポンプシステムがベネズエラから供与され、現地に到着したが、時すでに遅く、放射能力も不足している。海外に支援を要請する判断は良かったが、この種のタンク火災について知見と経験を有する米国の支援をもっと早く受け入れておれば、状況は違っていただろう。(例えば、「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Jp.reuters.com,  キューバの石油施設火災、貯蔵タンク3基が崩壊 16人行方不明,  August  09,  2022

     Jp.reuters.com,  キューバ石油施設火災が4日ぶり鎮火、貯蔵タンク全4基崩壊,  August  10,  2022

     Nipponese.news,  落雷でキューバの石油タンクに火がつき、17人が行方不明、121人が負傷,  August  09,  2022

     Jiji.com,  燃料貯蔵庫に落雷、爆発で死者 メキシコ、ベネズエラが消火支援キューバ,  August  08,  2022

    Afpbb.com,  落雷でキューバの石油施設炎上 1人死亡・121人負傷,  August  07,  2022

     Voanews.com, Fire at Cuba Oil Terminal Spreads to Third Tank,  August  08,  2022

     Peoplesdispatch.org, International solidarity pours in as Cuba copes with major fire at oil facility,  August  08,  2022

     Abc.net.au, The worst fire in Cuba's history is under control after five days. Here's how a lightning strike set off a deadly disaster, August 10, 2022

     Theguardian.com, The worst fire in Cuba's history is under control after five days. Here's how a lightning strike set off a deadly disaster, August 06, 2022

     Telesurenglish.net, Cuba: Third Fuel Storage Tank Collapses at Matanzas Fire,  August  08,  2022

    Paudal.com, Cuban rescuers located more human remains at the site of the Matanzas fire that left 2 dead,  August  16,  2022

   Pagina12.com, Cuba: estalló un tercer tanque de combustible en Matanzas,  August  09,  2022

    Dw.com, Cuba despide a las víctimas del gran incendio de Matanzas,  August  20,  2022


後 記: キューバの事例を取り上げるのは初めてです。タンク火災が拡大していく大きな事故で各メディアが報じており、見切れないほどの情報がありましたが、このブログで必要な記事や報道写真にはなかなか当たらなかったですね。さすがの欧米の主要メディアも概要を伝えるといったものでした。というわけで、報道の自由度ランキング(2022年)を見たところ、キューバは180か国の中で173位でした。社会主義国家(共産党一党支配)の国ですので、いたし方ないのでしょう。世界的に見ると、報道の自由度が「非常に低い(悪い)」と評価された国は28か国にものぼり、調査開始以来、記録的と言えるほど多い数だそうです。日本は71位で、前年の67位より4位もランクダウンしています。 「報道の自由」よりも「報道の不自由」に着目される結果になっています。原因は大企業の影響力がメディアに自己検閲を促す風潮だとされています。企業にとってプラスにならない情報の報道を、メディアが自主的に控えてしまうのと、公的な存在である政府からの圧力があるようです。このようなブログをやっていると、世の中に教訓を伝えるためには社会主義国家のように報道の不自由な国にならないことを祈っています(祈れば良いという話ではないですが)。

2022年8月17日水曜日

米国テキサス州フリーポートLNG輸出基地で真空断熱配管が爆発・火災

今回は、202268日(水)、米国テキサス州ブラゾリア郡のクインターナ島にあるフリーポートLNGデベロップメント社LNG輸出基地でLNGを移送するため真空断熱配管が爆発・火災を起こした事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のテキサス州(Texas)ブラゾリア郡(Brazoria)のクインターナ島(Quintana Island)にあるフリーポートLNGデベロップメント社(Freeport LNG Development, L.P.)の施設である。
■ 事故があったのは、ヒューストン経済圏にあるクインターナ島のフリーポートLNG輸出基地のLNGを移送するための真空断熱配管である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 202268日(水)午前1140分頃、フリーポートLNG輸出基地の施設で爆発・火災が発生した。

■ 爆発はクインターナ島の小さな町を揺るがした。目撃者によると、雷雨のような音が聞こえ、施設の区域で大きな火の玉を見たという。地元に住む別な女性は、水曜日の朝、3 回大きな音を聞いたので、外に出て何が起こっているのだろうかと思ったという。クインターナ島の住民は、地元当局から何の説明や指示もなく、避難も警告もされていないことを懸念し、近くの住民の中には危険な煙を吸い込むリスクを減らすために人工呼吸器を与えるべきだと語った。

■ 地元の郡立公園の監視ビデオに爆発時の炎が捕らえられていた。 この映像は、ユーチューブに投稿されている。(YoutubeExplosion at Freeport LNG Plant2022/6/10)を参照) 監視ビデオの映像は、爆発による大きな火の玉を示していたが、すうーと消散したように見える。しかし、 映像には無いが、しばらく経った後、今度は濃い黒煙が立ち昇った。この黒煙は別な画像が投稿されている。

■ 発災に伴い、米国沿岸警備隊、消防署、警察署の隊員が出動した。ブラゾリア郡消防局によると、この地域の26の消防署が対応した。

■ 事故は、LNG貯蔵タンクエリアから桟橋施設へLNGを移送するためのパイプラック内の配管系でガス漏洩をきっかけに爆発・火災が起きた。発災直後にはタンクが爆発し、火災が発生したという誤報もあった。

■ フリーポートLNGデベロップメント社は、事故に伴う負傷者は発生せず、従業員は全員無事で、周辺地域へのリスクはないと語った。この事故による影響は工場のすぐ近くのエリアにとどまったという。

■ 火災はパイプラック内に限定され、LNG輸出基地内の液化施設、LNG貯蔵タンク、桟橋施設、LNGプロセスエリアはいずれも影響を受けなかった。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。

■ 事故により、施設は3週間の停止見込みという話もあったが、20229月上旬までかかり、部分的に操業を再開する見込みだという。しかし、米国の液化天然ガス総輸出能力の約20%、世界の輸出能力の約4%を占める施設をフル稼働させるため、すべての修理を終えて規制当局の許可を得るには、2022年末までかかる可能性がある。この停止はすでに、主要なLNG供給市場、特に欧州に不安を与えている。  

■ 614日(火)、フリーポートLNGデベロップメント社は、発災について、最初にLNGが放出されて天然ガスの蒸気雲が形成して着火し、そのあと施設内での火災につながったと発表した。同社によれば、LNGの蒸気雲が拡散して着火したのは、液化設備のプラントエリア内に収まり、この間、約10秒継続した。その後、煙を伴った火災は配管やケーブルなど発災場所周辺のものを燃やした。

■ LNGは過冷却したメタンで、大型の専用タンカーを使って海外に輸送する前に、温度をマイナス華氏260°(マイナス162℃)まで冷却し、体積を600分の1に減らす。規制当局は、LNGの爆発を頻度は低いが、起これば重大な事故になると考えている。というのは、LNG施設では、膨大な量の天然ガスが扱われ、それが大気にさらされると爆発する可能性が高いからである。2004年、アルジェリアの LNGターミナルでの 爆発では、30名が死亡し、70名が負傷するという事故が起きている、米国では、2014 年にワシントン州の液化プラントで爆発が発生し、5 人の作業員が負傷した。

被 害

■ 真空断熱配管などパイプラックの配管類が爆発と火災で損傷した。

■ 天然ガスやケーブルなどの燃焼により、一酸化炭素や窒素酸化物などの環境汚染物質が排出された。火災の持続時間が短かったため、周辺地域に直接的なリスクを及ぼすレベルではなかった。

■ 漏洩したLNG(メタン)は120,000 立方フィート(3,400㎥)と推定されている。

■ 発災に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は調査中である。

■ 予備調査によると、圧力安全弁が孤立され、長さ300フィート(91m)の真空断熱配管が過圧状態になり、配管が破裂してLNGが施設内に放出され、爆発と火災を引き起こし、プラント内の配管と構成部品を損傷させた。

< 対 応 >

■ 火災は、地元の消防隊の協力によって、午後4時過ぎに制圧された。

■ 発災場所と消防活動がユーチューブに投稿されている。(YoutubeInvestigation underway after incident at Freeport oil and gas company2022/08/09)を参照)

■ 天然ガスやケーブルなどの燃焼により、一酸化炭素、窒素酸化物、粒子状物質、二酸化硫黄、揮発性有機化合物などの環境汚染物質が排出された。しかし、火災の持続時間が短かったため、その量は限られており、周辺地域に直接的なリスクを及ぼすレベルではなかった。

■ 消火に使用した水は現場で回収し、有害な汚染物質がないことを確認してから放流または移送して適切に処理する予定だという。

■ フリーポートLNG輸出基地が問題を起こしたのは、今回が初めてでなく、つぎのようなさまざまな問題があった。

 ●  2020年にLNG輸出基地内で電気火災が発生したとき、同社の救援要請は60マイル(96km)以上離れたヒューストンに回された。この遅れの後、地元の消防士が駆け付けた。しかし、消防隊は施設内に入ることができなかった。連邦規制当局によると、消防隊を誘導するLNG輸出基地の職員がいなかったと後に述べている。会社が地元の消防署との訓練を実施していなかったという。

 ● フリーポートLNG輸出基地では、近年、事故が相次いでおり、規制当局はメキシコ湾沿いのどの同業企業よりも多くの取締り措置を講じている。2015年以降、米国パイプライン・危険物安全局(Federal Pipeline and Hazardous Materials Safety Administration PHMSA)から11件の取締り措置を受けたことが記録されている。20225月も100ガロン(378リットル)のトリエチレン・グリコールが漏洩して従業員が病院に搬送されたばかりだ。

 ● 2021年には客先に荷揚げされるLNGの品質に関して問題があり、フリーポートLNG輸出基地は輸出する出荷の船便の数を減らした。

 ● 過圧に関する問題は過去にあった。20198月、フリーポートLNG輸出基地では、最初の生産ライン、すなわち、トレインの操業を開始した。このとき、圧力90psi620Pa)以上を超えないように設計された配管において917psi6,322Pa)の過圧状態で過冷却された液体を押し出したため、配管が損傷した。さらに調査を進めると、配管に欠陥があり、LNGの極低温を扱うのに適していない可能性があることが分かった。このような配管が施設内に数百フィート(数百メートル)もあったという。

■ 630日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は、安全弁の問題により、ステンレス鋼製の二重管構造の呼び径18インチ(46cm)の配管が過圧になって破裂し、LNGとメタンが放出されて爆発したと、発表した。原因に関する主な発表内容は、つぎのとおりである。 

● 事故の根本的な原因はまだ確定されていないが、予備調査によると、圧力安全弁が孤立され、長さ300フィート(91m)の真空断熱配管が過圧状態になったとみられる。過圧状態になった300フィート(91m)の配管が破裂して、LNGとメタンが施設内に放出された。配管からのLNGとメタンが突然の放出され、爆発と火災を引き起こし、プラント内の配管と構成部品を損傷させた。米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA) の指示により、フリーポートLNG輸出基地は第三者であるIFOグループと契約し、爆発と火災の根本原因分析を実施している。 

 ● 損傷(故障)は、LNG移送システムの一部である呼び径18インチの真空断熱配管で発生した。対象となった真空断熱配管は、施設のLNG貯蔵エリア内の(地上)パイプラックに設置されたループ2と呼ばれる配管の一部である。損傷した真空断熱配管には、LNG移送配管、電力ケーブル、用役配管、計器ケーブルラックを含み、鋼製パイプラックに設置されていた。損傷した配管は、地上30フィート(9m)の高さにあり、LNGタンク‐3と桟橋(船積み)区域に接続されていた。

 ● 呼び径18インチ真空断熱配管は、ステンレス鋼製の内管と外管で構成され、外側を被覆している。内管は低温液体の移送を担っている。内管は、熱を遮断するため、多層の特殊断熱材に覆われている。

これにより、内管と外管の間の空間は真空ポンプで減圧し、真空シールドが作られる。真空シールドは、伝導、対流、輻射による熱ロスから低温液体を保護する。

 ● 爆発と火災により、呼び径18インチの真空断熱配管が損傷したことに加えて、この地域の他の配管の多くも損傷を受けており、LNGの移送作業を再開するには修理や取替が必要である。

■ 630日(木)、米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は、さらに通知で通常営業を再開するためには、フリーポートLNG輸出基地が一連の改善策を講じるとともに、書面での承認を得た上でなければ再開を認めない方針を明らかにした。フリーポートLNG輸出基地は、第三者を起用して貯蔵タンクや管理システムの手順、訓練プログラムの評価を受けることなども求められている。

■ 米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)の厳しい通知内容によって、再稼働予定の日程は提示されていないが、フリーポートLNG輸出基地の再開計画はさらに1か月遅れを生じる可能性がある。

■ 81日(月)、フリーポートLNG輸出基地に出資している大阪ガスは、基地をめぐって795億円の損失が発生すると発表した。大阪ガスはこの基地から年間232万トンを調達しており、大阪ガス全体の約19%と影響は大きい。ほかのガス会社などにも販売しており、不足分の代替調達を進めてきた。損失の内訳は代替調達の費用や基地の復旧費用など約650億円のほか、基地への投資を通じて得られたはずの利益分約145億円を見込む。基地の復旧費用は出資比率に応じて発生するためあるだという。

 同じく日本から出資しているJERA社(東京電力グループと中部電力グループの共同出資会社)は損失額について未発表である。

補 足

■「テキサス州」(Texas)は、米国の南部に位置し、人口約2,900万人の州である。

「ブラゾリア郡」(Brazoria)は、テキサス州の南東部のメキシコ湾岸沿いに位置し、人口約31万人の郡である。

「クインターナ島」(Quintana Island)は、ブラゾリア郡のメキシコ湾岸にある地続きの島で、クインターナは人口約90人の町である。日本語ではキンタナと表記されることがある。

「ヒューストン」(Houston)は、テキサス州の南部に位置し、人口約230万人の都市である。ハリス郡を中心に9郡にまたがるヒューストン都市圏の人口は710万人である。

■「フリーポートLNGデベロップメント社」(Freeport LNG Development, L.P.)は、2002年に設立されたLNG(液化天然ガス)を取扱う石油企業である。2005年に輸入ターミナルの建設を始め、 20086月に施設が完成する。2基の16万㎥のLNG貯蔵タンク、 LNGタンカーの着桟ができる桟橋、LNG気化システムが特徴で、LNGの輸入業務を開始した。

 その後、LNG貯蔵タンクなどの施設を拡張し、フリーポートLNG輸出基地として2019年にLNG輸出業務を開始した。フリーポートLNGデベロップメント社は、世界最大のLNG液化・輸出施設のひとつを運営しており、世界で7番目に大きく、米国では2番目に大きい。各液化トレインは年間約440万トンの輸出用LNGを生産することができ、これは総液化能力にして約22億立方フィート/日の天然ガスに相当する。日本の会社も出資しており、出資者と比率は、フリーポートLNGインベストメンツ;63.5%JERA(東京電力グループと中部電力グループの共同出資会社);5.7%、大阪ガス;10.8%である。

■「LNG(液化天然ガス)」 施設は、天然ガスが石油や石炭よりも環境負荷が小さい(CO2排出量が少ない)エネルギー源として近年世界的に需要が高まっている。 LNG施設は、ガス田から生産された天然ガスから液体成分(コンデンセート)を取り出した後、天然ガスは酸性ガス(硫化水素、二酸化炭素)除去装置、水銀除去装置、脱水装置、NGL除去装置を経て、液化装置で体積を600分の1に減じて液化する。天然ガスはLNGタンクに貯蔵される。

■「真空断熱配管」(Vacuum insulated piping)は、液化天然ガスや液体窒素などの極低温液体を処理するために設計された二重管式の配管である。内管と外管の間を真空にして、内管の中を移送する極低温液体からの熱ロスを無くす構造である。LNG輸出基地用の大口径の真空断熱配管 は1990 年代後半に初めて開発され、2010 年代初頭までにプラント運用から学んだ教訓に基づいて、信頼性のある真空断熱配管が利用できるようになったといわれている。

所 感

■ 予備調査によると、圧力安全弁が孤立され、長さ300フィート(91m)の真空断熱配管が過圧状態になり、配管が破裂してLNGが急速にフラッシュし、蒸気雲が形成されて爆発と火災を引き起こし、プラント内の配管と構成部品を損傷させたとみられる。

■ 今回の事故から事業所における過去の問題点がいろいろ指摘されている。その中には、2019年に今回のような過圧による配管損傷事例がある。当局である米国パイプライン・危険物安全局(PHMSA)は今回の原因追及だけでなく、根本的な施設の運用や安全管理の改善を求めているが当然だろう。

■ LNG輸出基地は、天然ガスを貯蔵施設するだけでなく、酸性ガス(硫化水素、二酸化炭素)や水銀などを除去した上で、液化装置と真空断熱配管によって体積を600分の1に減ずるプロセス装置のような形態をもっている。このようなプロセス装置を操業する事業所の従業員は技術知識と保安知識を有することが求められる。フリーポートLNGデベロップメント社の会社PRのビデオを見ると、ヒューストンにある本社には専門知識を有した人を配置しているようだが、現地の実態と乖離しているという印象である。日本でも、液体窒素などの超低温流体を扱う事業所で、現場の従業員が超低温流体に関する十分な保安知識を有していなくて、安全弁などの元弁は常時開放しておくべきという基本的な知識が欠如して事故を起こした事例がある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Tankstoragemag.com, Fire and explosion shut Freeport LNG,  June  09,  2022

     Enr.com, Shutdown Extended of Fire-Damaged Texas LNG Export Site,  June  20,  2022

     Click2houston.com, Explosion shuts down Freeport LNG’s liquefaction facility for next 3 weeks, officials say,  June  08,  2022

     Offshore-energy.biz, Freeport LNG to shut down for three weeks minimum following explosion,  June  09,  2022

     Offshore-energy.biz, Freeport LNG outage to last months due to damage in fire incident,  June  15,  2022

     Freeportlng.newsrouter.com, REEPORT LNG PROVIDES UPDATE ON JUNE 8 INCIDENT AT ITS LIQUEFACTION SITE ,  June  14,  2022

     Eenews.net, LNG plant had history of safety issues before explosion,  June  15,  2022

     Reuters.com, U.S. regulator bars Freeport LNG plant restart over safety concerns, July 02, 2022

     News.yahoo.co.jp, フリーポートLNGのターミナル、火災後の再稼働に遅れ-当局が条件,  July  01,  2022

     Asahi.com,  LNG基地火災で795億円損失か 大阪ガス、料金引き上げ可能性も, August  01,  2022

     Osakagas.co.jp,  連結業績予想の修正に関するお知らせ, August  01,  2022

    Phmsa.dot.gov, In the Matter of  Freeport LNG Development, Respondent NOTICE OF PROPOSED SAFETY ORDER, June 30,  2022

    Hazardexonthenet.net, Explosion at US LNG terminal adds to global supply strain, June 13,  2022

    Maritime-executive.com, Video: Explosion Shutters Freeport LNG Export Plant for Three Weeks, June 09,  2022

    Apnews.com, Fire at LNG terminal in Texas jolts residents, fuel markets, June 10,  2022

    Thefacts.com, Freeport LNG explosion closes plant for an extended time, June 09,  2022


後 記: 今回の事例は発災後の比較的早い段階で知っていましたが、貯蔵タンクの直接的な事故でないことからパスしました。ところが、8月になって大阪ガスがこのLNG輸出基地に出資しているために大きな損失を出したというニュースを知り、調べてみることにしました。そうすると、 LNG輸出基地が天然ガスを貯蔵施設するだけでなく、酸性ガス(硫化水素、二酸化炭素)や水銀などを除去した上で、液化装置と真空断熱配管によって体積を600分の1に減ずるプロセス装置のような形態をもっていることでした。いろいろな問題点や疑問があり、私自身の関連知識の理解を兼ねて調べていくうちにお盆期間になり、ブログのまとめを中断してしまい、投稿が遅れました。 

2022年8月1日月曜日

米国ペンシルバニア州のタール用タンクと接続配管が爆発、負傷者1名

 今回は、2022627日(月)、米国のペンシルバニア州リーハイ郡ノース・ホワイトホール・タウンシップにある建設資材メーカーのニューエンタープライズ・ストーン&ライム社の建設資材製造工場において高温のタール用タンクと接続配管が爆発し、負傷者1名が出た事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 事故があったのは、米国のペンシルバニア州(Pennsylvania)リーハイ郡(Lehigh)ノース・ホワイトホール・タウンシップ(North Whitehall Township)にある建設資材メーカーのニューエンタープライズ・ストーン&ライム社(New Enterprise Stone & Lime Co.)の建設資材製造工場である。

 発災があったのは 建設資材製造工場にある高温のタール用貯蔵タンクと接続配管である。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2022627日(月)午前8時頃、高温のタール用タンクと接続されている配管が爆発した。

■ 爆発によって接続配管が破損した。工場の近く人によると、爆発時、家が揺れたと語っている。

■ 発災に伴い、リーハイ郡の消防署など4つの消防隊が出動した。

■ 現場に到着したとき、発災現場には竪型タンクが3基あり、そのうちの1基のタンクから煙が上がっていた。消防隊は、はしご車でタンクの頂部まではしごを延ばして、状況を確認した。

■ タンクから数千ガロン(1020KL程度)の液体タールが漏れ出していた。

■ タンクの基礎部にタールの液溜まりができ、工場内から砂利を運んで封じ込めに使用された。

■ 発災に伴い、作業員ひとりが火傷を負い、病院に搬送された。

被 害

■ タール用貯蔵タンクと接続配管が爆発で損傷した。

■ タンクから数千ガロン(約20KL)の液体タールが構内に漏れ出た。

■ 作業員ひとりが火傷を負い、病院に搬送された。   

< 事故の原因 >

■ 事故の原因は分かっていない。


< 対 応 >

■ 消防署によると、「発災時、切断された配管から流れ出る高温のタールの流れを止める方法はなかった」と語っている。

■ 特殊消防士が、壊れた配管の端に鋼板とガスケットを使ってチェーンとラチェット・ストラップで固定し、タールの流出を遅らせた。

■ 流出がゆっくり遅くなってから、消防士が消火器の二酸化炭素を使用してタールを冷やし、配管内で固化させて流出を食い止めた。

補 足

■「ペンシルバニア州」(Pennsylvania)は、米国の北東部に位置する州で、人口約1,280万人である。

「リーハイ郡」(Lehigh)は、ペンシルベニア州の東部のリーハイ・バレーに位置し、人口約374,000人の郡である。

「ノース・ホワイトホール・タウンシップ」(North Whitehall Township)は、リーハイ郡にあるタウンシップで、人口約15,600人の町である。

■「ニューエンタープライズ・ストーン&ライム社」(New Enterprise Stone & Lime Co.)は、1924年に設立したペンシルバニア州を拠点にした建設資材メーカーで、砂・砂利、ホットミックス・アスファルト、生コンクリートなどの資材を製造しているほか、舗装工事、高速道路の建設などの業務を行っている。

■「コールタール」(Coal Tar)は、石炭を乾留してガス・コークスをつくるときに得られる粘性の高い油状の物質である。比重は1.11.2と水より重く、黒色~暗茶色で特有の臭気がある。主成分は芳香族化合物(多環芳香族炭化水素)で、ナフタレン(515%)、ベンゼン(0.31%)、フェノール(0.51.5%)、フェナントレン(38%)などを含む。

■「発災タンク」は、高温のタール用タンクと報じられているだけでタンクの仕様などは分からない。被災写真の竪型タンクをもとにグーグルマップで調べると、直径約5.5m×高さ約32.5mであるので、容量が約770KLのタンク(容器)である。

所 感

■ 最近、タールやアスファルト用のタンクで起こった爆発事例の紹介は、つぎのとおりである。

 ● 20206月、「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発」

    (「米国ニュージャージー州でアスファルト処理工場のタンクが爆発(原因)」

 ● 20226月、「米国ミズーリ州セントルイスでアスファルト・タンクが火災」

 タールやアスファルト用のタンクでは、過去の事例から、①水による突沸、②軽質油留分の混入、③運転温度の上げ過ぎ、④屋根部裏面の硫化鉄の生成、に留意する必要がある。しかし、今回の事故は、爆発はしているが、大きな火災にはなっておらず、これらとは異なっているように感じる。竪型タンク上部の保温が一部脱落しており、接続配管のフランジ部近くのパイプが折損しているが、これらの破損の要因がタンク内の爆発によるものか、接続配管の破裂によるものか推測がつかない。一方、作業員ひとりが火傷を負う人身災害となっている。発災が午前8時頃であり、何かの操作あるいは異常を発見して確認作業を行っていたのではないだろうか。

■ 漏れ止め対策として、壊れた配管の端に鋼板とガスケットを使ってチェーンとラチェット・ストラップで固定する方法をとっているが、かなり手慣れた作業のようである。アイデアや資材は事業所の従業員が関与しているのではないだろうか。これらを特殊消防士がすべて行ったのであれば、通常の消防士の役割や能力を越えているように感じる。「防油堤内の配管フランジ漏れ火災に対処する方法」20215月)で紹介したように日米の消火戦術の考え方に違いがある。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

   Lehighvalleylive.com, 1 person burned in hot tar explosion at Lehigh County plant,  June  27,  2022

    Tankstoragemag.com, Hot tar tank ruptures in Lehigh County,  June  29,  2022

    Isssource.com, Hot Tar Blast Injures Worker,  July  20,  2022

    Wdbo.com, Hot tar explosion at Pennsylvania quarry injures 1, prompts hazmat response,  July  27,  2022

    Facebook.com, Lehigh County Special Operations,  July  28,  2022       


後 記: 今回の事例はリーハイ郡の消防署から出された情報が大きい。漏れ止め対策の方法は、写真を含め、フェースブックに掲載されたものだし、空からの画像も消防署が提供したのでしょう。フェースブックにはリーハイ郡の消防署がドローンを活用していることが載っています。一般のメディアの取材が活発でなくなっている世の中を見ると、米国の行政機関(消防など)の情報公開が救いのような気がします。特に今回の事例のように文字だけでは理解できません。日本の場合、ローカル・メディアが頑張っていますが、コロナ以降の取材が活発でなくなっており、写真を含めてもっとも情報をもっている行政機関の情報公開はもっと積極的にやるべきです。