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2017年11月27日月曜日

バーレーンで原油パイプラインが爆発・火災、テロによる破壊活動か

 今回は、2017年11月10日(金)、バーレーン北部行政区に敷設されている国営のバーレーン・ペトロリウム社の原油パイプラインが爆発して火災を起こした事例を紹介します。
(写真はTwitter.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、バーレーン(Bahrain)北部行政区(Northern Governorate)に敷設されている国営のバーレーン・ペトロリウム社(Bahrain Petroleum Company: Bapco)のパイプライン施設である。

■ 発災があったのは、バーレーン・ペトロリウム社の主要なパイプラインの一本で、北部行政区アァリ(A‘ali )のブリ村(Buri)を通っている原油パイプラインである。

■ この原油パイプラインは、ABラインと称され、アブサファ油田から生産される原油をバーレーンのシトラにある製油所へ移送する。パイプラインの移送能力は230,000バレル/日(36,600KL/日)で、長さは約55kmである。パイプラインは3本あり、発災したのはこのうちの1本で、AB3ラインである。
バーレーン北部行政区のブリ村(Buri)周辺
  (図はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年11月10日(金)午後10時頃、首都マナマから約15km離れたブリ村を通っているバーレーン・ペトロリウム社の原油パイプラインが爆発し、大きな火災を起こした。

■ 発災があったのは、バス停の近くで、火炎と黒煙が夜空に舞い上がり、近くにあった車や建物が壊れた。炎の高さは最大約50mに達した。発災現場から約200m離れた場所にいた住民のひとりは、「炎が空高く上がっているのを見てびっくりしました。私は友人の家にいたのですが、家族のことが気になって家の方へ向かって駆け出しました。素足で出たので、アスファルト道路の上でケガをしたのに感じてないほどでした。私は家族とともに悪夢のようなところから必死に抜け出しました。空が燃えているようで、油が雨のように降っていました」と語った。

■ ブリ村で爆発のあったパイプライン部は、地下埋設でなく、地表に露出している箇所だった。

■ 火災発生に伴い、消防隊が出動し、現場に午後10時19分に到着した。消防隊は火の出ているパイプラインのそばにある2本のパイプラインについて冷却作業を始めた。

■ 現場近くの住民は安全な場所へ避難し、道路は警察によって交通規制が行われた。

■ 火災場所の近くに住んでいる人の中には、被災が及ばないようにガスボンベを取り外し、トラックで遠く安全な場所に移した人もいた。

■ バーレーン・ペトロリウム社は、発災のあったパイプラインの運転を停止した。その後、パイプラインの火災は制御下に入った。

■ この事故による死傷者は報告されていない。
(写真はRt.comから引用)
被 害 
■ 原油パイプラインの一部が損壊した。原油移送を停止するまで、内部の油が焼失した。

■ 現場近くにあった車や建物が壊れた。初期調査では、車両28台、住宅12軒、店舗4軒が損害を受けた。

■ 事故に伴う死傷者はいなかった。現場近くの住民が安全な場所へ避難した。
  
< 事故の原因 >
■ 事故の原因は、調査中である。

■ バーレーン政府は、テロ攻撃という不法行為による故意の過失だとみている。この背景には、バーレーン政府が支配しているのはイスラム教スンニ派であり、バーレーンで多数派のシーア派による抗議や散発的な暴力事件が起こっており、政府は長年悩まされている。バーレーンのシーア派はイランのシーア派の支援を受けているといわれている。 

 < 対 応 >
■ この爆発事故の犯行声明は出ていない。しかし、翌11月11日(土)、バーレーン内務省は、この爆発・火災の原因がイランの関与するテロリストの破壊活動だったと述べ、イランを非難した。一方、イランでは、外務省がこの話に対して「虚偽の話であり、子供じみた告発だ」と反論した。

■ 警察は容疑者を特定するための捜査を行っている。

■ 検察当局は事故について言及し、爆発の原因をつきとめるための調査を始めた。現場近くの道路は11月12日(日)も閉鎖されており、事故原因の調査が終了するまで通行が規制された。

■ 事故を受けて油田からバーレーンへの原油移送を一時停止していたが、影響を受けなかった2本のパイプライン(AB1ラインおよびAB2ライン)を介して製油所への供給を再開した。なお、バーレーン・ペトロリウム社は、11月13日(月)、事故のあったAB3ラインの修理が完了し、パイプラインの移送能力は完全に回復したと発表した。
 (写真はOrg.comから引用)
(写真はNewssofbahrain.comから引用)
 (写真はTwentyfoursevennews.com から引用)
 (写真はNewssofbahrain.comから引用)
補 足 
■ 「バーレーン」(Bahrain)は、正式にはバーレーン王国で、中東・西アジアの立憲君主制の国である。人口は約142万人で、ペルシャ湾のバーレーン島を主島として大小33の島から成る。王家のハリーファ家はイスラム教スンニ派であるが、国民の大多数はシーア派が占める。1994年以降、シーア派による反政府運動が活発になっている。
 「北部行政区」(Northern Governorate)は、バーレーンを統治する4つの行政区のうちのひとつで、北西部に位置し、人口約28万人の行政区である。
 「アァリ」(A‘ali )は、北部行政区の東中央に位置し、人口約10万人でバーレーンで最大の町のひとつである。「ブリ村」(Buri)は、アァリの町区域にあり、バーレーン国内で最も古い村のひとつである。
バーレーン(Bahrain)および周辺国   
 (図はGoogleMapから引用)
■ 「バーレーン・ペトロリウム社」(Bahrain Petroleum Company: Bapco)は、1929年にカルテックス石油の子会社として設立され、1997年にバーレーン政府が全所有権を引受け、国営の石油会社となった。原油の約1/6はバーレーン国内の油井で生産されたものであるが、残りはサウジアラビアと共同所有しているアブサファ油田からパイプラインを通じて供給されている。なお、アブサファ油田の操業はサウジアラビアのサウジ・アラムコ社が行っており、原油はサウジアラビア経由でバーレーンに移送されている。今回の事故時のパイプラインの送液停止はバーレーンからの要請でサウジアラビアが行っている。現在、アブサファ油田からの原油供給量を増やす計画が進められている。なお、シトラにはバーレーン唯一の精製能力26万バレル/日の製油所を保有している。
バーレーンの油田とパイプライン
  (図はFanack.comから引用)
所 感
■ 石油パイプラインの事故としてはつぎのような事例がある。その事故原因は違法行為、腐食、地すべりなどいろいろな要因があり、パイプラインには潜在的なリスクがあるといえる。

■ 今回の事例は原因が特定されていないが、テロによる破壊活動だとすれば、死傷者は出ず、パイプラインの被害や影響も意外に大きくなかったと言える。バーレーン・ペトロリウム社は、事故から3日後の11月13日(月)には、パイプラインの修理を完了させたと発表している。(配管損傷部分を切断し、安全対策を行ってフランジを溶接した後、新しいフランジ付き配管を取り付ける工事であれば、短期間で可能ではあるが)


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
   ・Reuters.com,  Bahrain Calls Pipeline Blast ‘Terrorism' Linked to Iran,  November 12,  2017 
  ・Aljazeera.com,  Iran Rejects Involvement in Bahrain Pipeline Blast,  November 13,  2017
    ・Abcnews.go.com , Bahrain Says Militants Hit Oil Pipeline, Opening New Front ,  November 11,  2017
    ・Gulfnews.com,  Bahrain Pipeline Blast Was Act of Sabotage,  November 11,  2017
    ・Washingtoninstitute.org,   Bahrain Pipeline Explosion Seen as a Warning from Iran,  November 14,  2017
    ・Ogj.com, Bahrain blames Iran for oil pipeline blast,  November 13,  2017
    ・Businesswire.com, Response to Bapco Pipeline Incident,  November 13,  2017
    ・Rt.com,  Bahrain blames Iran for ‘ Terrorist sabotage’ after Oil Pipeline Explosion,  November 11,  2017
    ・Newsofbahrain.com , Night of Horror for Residents of Buri,  November 12,  2017
    ・Firedirect.net,  Bahrain Blames Iran for Oil Pipeline Blast,  November 16,  2017
    ・Hazmatnation.com,  Oil Pipeline Blast Linked to Iranian Terrorism,  November 12,  2017
    ・Bapco.net ,  Response to Bapco Pipeline Incident ,  November 13,  2017



後 記: 今回の事例の報道は圧倒的に政治的要素の記事が多いものでした。どのような発災状況か分からないうちから、バーレーン政府はイランが支援しているテロによる破壊活動だと発表した内容や背景などを記載したものが多く、事例としての事実の記事を探すのに時間がかかりました。
 つねづね事故はその国の国情を反映していると思っていますが、今回のバーレーンの事故は、メキシコのパイプラインからの油窃盗やケニアのガソリン抜き取りなどの貧しさが背景にある事故と異なっていることを感じざるを得ません。中東はどうなっているのでしょうかね。イスラム教のスンニ派とシーア派の違いについてはインターネットにいろいろ掲載されています。私も見ましたが、疑問を感じる方にひとつだけ紹介しておきます。「教えて! 尚子先生 イスラム教・スンニ派とシーア派の違いは何ですか?【中東・イスラム初級講座・第9回】」

2017年11月19日日曜日

ロシアのルコイル社の製油所でガソリン用タンク火災

 今回は、2017年10月5日(木)午前11時10分頃、ロシアのニジニ・ノヴゴロド州クストフスキー地区のクストヴォ区(Kstovo)にあるルコイル社系列のノルシ製油所で起ったガソリン用タンクの爆発・火災事故を紹介します。
(写真はNnov.kp.ruから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、ロシアのニジニ・ノヴゴロド州(Nizhny Novgorod)クストフスキー地区(Kstovsky District)のクストヴォ区(Kstovo)にあるルコイル社(Lukoil)系列のノルシ製油所(Norsi Oil Refinery)である。

■ 発災があったのは、ノルシ製油所の貯蔵タンク地区にあるガソリン用タンクである。タンクの容量は10,000KLである。
ニジニ・ノヴゴロド州クストヴォ地区にあるルコイル社のノルシ製油所付近
(写真はGoogleMapから引用)
  < 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年10月5日(木)午前11時10分頃、メンテナンス作業だったガソリン用タンクで爆発が起き、続いて火災が発生した。目撃者によると、炎は約50mの高さに達し、製油所の上空には、大きな黒煙が立ち昇った。

■ 事故発生に伴い、消防署などの緊急対応部隊237名と消防車などの緊急車両50台が出動した。給水装置を備えたMi-8型ヘリコプター2機の出動準備も行われた。

■ ロシア緊急事態省によると、火災のエリアは10,000平方フィート(930㎡)に達したという。爆発して火災になったタンクのほか、別なタンクに延焼したとみられる。

■ 火災は2時間ほど続いたのち、消火されたと報じられている。

■ この火災事故に伴い、請負会社の作業員4名が死亡した。

■ 出動した緊急事態対応部隊によると、事故の原因は産業安全基準の違反による可能性があると語っている。
(写真はFrontnews.euから引用)
(写真はRussia.liveuamap.comから引用)
被 害
■ ガソリン用タンク内1基が焼損したほか、隣接のタンクが延焼する被害が出ていると思われる。被災の範囲や程度は不詳である。

■ 事故に伴い、死者4名の労働災害が発生した。

< 事故の原因 >
■ 事故原因は、ガソリン用タンクまわりの火気作業が要因とみられるが、詳細は分からない。

< 対 応 >
■ 近隣地域の空気質のモニタリングが行われたとみられるが、結果は報じられていない。 

(写真はFrontnews.euから引用)
(写真はNewsnn.ruから引用)
(写真はChelorg.comから引用)
(写真は5-tv.ruから引用)
(写真はRia.ruから引用)
補 足                                   
■ 「ロシア」は、正式にはロシア連邦で、ユーラシア大陸北部に位置する大統領制の共和制国家である。人口は約1億4,300万人で、首都はモスクワである。1991年、ソビエト連邦の崩壊によってロシア連邦が成立した。ロシア連邦は、ソビエト連邦構成国の連合体である独立国家共同体加盟国のひとつとなったが、ソビエト連邦が有していた国際的な権利(国連の常任理事国など)や国際法上の関係を基本的に継承して大国としての影響力を保持している。
 「ニジニ・ノヴゴロド州」(Nizhny Novgorod Oblast)は、ロシア西部の東ヨーロッパ平原中央部で、ヴォルガ川の中流域に位置し、人口約335万人の州(オブラースチ)である。州都はニジニ・ノヴゴロド市である。
 「クストフスキー地区」(Kstovsky District)はニジニ・ノヴゴロド州の中央部に位置し、人口約11万人の地区である。「クストヴォ」(Kstovo)は、クストフスキー地区の行政の中心になる地域で、人口約66,000人の町である。
            ロシアのニジニ・ノヴゴロド州の位置   (写真はJa.wikipedia.orgから引用)
■ ルコイル社(Lukoil)は、1991年に創業され、ロシア国内最大の国営石油会社のひとつで、原油・天然ガス生産、石油精製、石油販売にそれぞれの子会社を統括する石油企業である。
 クストヴォにある「ノルシ製油所」(Norsi Oil Refinery)は、精製能力29.2万バレル/日で、ルコイル社の傘下にある石油精製会社である。

■ 「発災タンク」は、容量10,000KLのガソリン用タンクであるが、そのほかの仕様はわかっていない。発災のあったと思われる貯蔵タンク地区をグーグルマップで調べてみると、直径が46m、34m、23mのタンクがある。直径46mは容量20,000KLクラス、直径約34mは容量10,000KLクラス、直径23mは容量5,000KLクラスであるので、直径34mのタンクが発災タンクと思われる。いろいろな角度からの発災写真があるが、タンクを特定できる確実な情報は無かった。一方、これら一連のタンクにはドーム式屋根がみられる。油種がガソリンであるので、内部浮き屋根式タンクまたは浮き屋根式タンクにアルミニウム製ドームルーフを設置したものではないかと思われる。
              ノルシ製油所の貯蔵タンク地区   (写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ この事故の詳細は分からないことが多いが、発災写真を加味して類推すれば、つぎのとおりである。
 ● 「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事例が続いているが、本件もそうだと思われる。
 ● 火災はタンク本体だけでなく、地上火災になっているとみられる。このことから、発端はタンクに接続している配管からの漏洩ではないだろうか。それも防油堤内を覆うくらいの大量漏洩のプール火災ではないかと思う。
 ● 報道では、火災は2時間ほどで消されているので、地上火災に有効な中・高発泡放出ノズルによる泡放射が行われたのではないかと思われる。ロシアでは、過去に中・高発泡放出ノズルによる泡放射を行ったとみられる「ロシア・シベリアの石油施設でタンク火災」(2013年8月)の事例がある。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Firedirect.net, Russia – Refinery Explosion 4 Dead,  October  19,  2017 
    ・Frontnews.eu,  In Russia Was an Explosion at "Lukoil" Plant,  October  05,  2017 
  ・Unian.info, Explosion at Russian  Oil Refinery Kills 4,  October  06,  2017
    ・5hotnews.com, The Fire at the Nizhny Novgorod Refinery Killed Four People,  October  06,  2017  
    ・Chelorg.com, In the Nizhny Novgorod Region after the Explosion at the Refinery Lost a few People,  October  05,  2017



後 記: ロシアのタンク事故の中でも、これほど事故の状況がはっきりしない事例は無いように感じました。死者が出ているのも関わらず、最初の情報では、けが人の報告はないというものでした。死者の人数も4名としましたが、10名という情報もあり、よくわかりません。別なタンクへの延焼や消火時間なども実ははっきりしません。ルコイル社はウェブサイトを持っていますが、ニュース・リリースでの発表はありません。また、ロシアには、政府系のRT(旧ロシア・トゥデイ)というメディアがあり、よく海外の事故を報道していますが、今回はまったく報じていません。ロシア国内でも、詳しい報道はされていないようです。辛うじて(?)発災写真は出ていますが、構外から撮影されたものが多く、消防車だけの写真などは発災タンクの写真を避けているのではないかと疑ってしまいたくなります。箝口令(かんこうれい)が出されているとは思いたくないですが、メディアも情報を掘り下げようという意思を感じない事例でした。


2017年11月14日火曜日

米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃

 今回は、2017年10月1日(日)、ネバダ州ラスベガスの大通りの野外コンサート会場に向けてマンダレイ・ベイ・ホテルの32階から半自動ライフル銃を乱射し、観客58人が死亡、500人以上が負傷する事件が起ったが、この事件でホテルの部屋から銃撃する際、マッケラン国際空港の敷地にある燃料タンクに向けて発砲し、ライフルの銃弾2発が直撃していたというタンク事故を紹介します。
                  標的になったジェット燃料タンク  (写真はReviewjounal.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ネバタ州(Nevada)のラスベガス(Las Vegas)にあるマッケラン国際空港の敷地にある小型飛行機用の燃料貯蔵施設である。

■ 発災(被災)があったのは、燃料貯蔵施設のジェット燃料用固定屋根式タンクである。タンクは2基あり、1基当たりの容量は43,000バレル(6,800KL)である。タンクの運転管理はスイスポート・フューエリング社(Swissport Fueling)が行っている。
ラスベガスのマンダレイ・ベイ・ホテルの周辺 
(写真はGoogleMapから引用)
ジェット燃料タンクとマンダレイ・ベイ・ホテル  
(写真はNydailynews.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年10月1日(日)午後10時過ぎ、ネバダ州ラスベガスの大通りで開催されていたカントリー・ミュージック・フェスティバルの野外コンサート会場に向けてネバダ州在住のスティーブ・パドッグ容疑者(64歳)がマンダレイ・ベイ・ホテルの32階から半自動ライフル銃を約10分間にわたって無差別に乱射した。この米国現代史上最悪の銃乱射事件では、観客58人が死亡し、500人以上が負傷した。
 パドック容疑者は滞在先ホテルの部屋の中で自殺しているのが発見された。パドック容疑者が宿泊した部屋から銃16丁と銃弾、自宅から少なくとも18丁の銃と大量の銃弾、爆発物が見つかった。

■ この事件では、パドック容疑者がホテルの部屋から野外コンサートの観客を銃撃する際、マッケラン国際空港の敷地にある燃料タンクに向けて発砲し、ライフルの銃弾2発を直撃させていたことが明らかになった。さらに、パドック容疑者は燃料タンクに向けて焼夷弾(しょういだん)を撃っていた。焼夷弾は発火性の薬剤を装填したもので、着弾すると、火炎を生じ、攻撃対象を焼き払うために使用する。なお、ホテルの部屋からコンサート会場までの距離は約1,100フィート(335m)で、部屋から燃料タンクまでの距離は約2,000フィート(610m)だった。

■ 専門家によると、この種の焼夷弾は燃料タンクに引火することは可能であるという。焼夷弾はパドック容疑者がいたホテルの部屋と燃料タンクの近くで見つかった。ただ、焼夷弾でタンクを爆発させようとしたのか、タンクに向け発砲するのに焼夷弾を使用したかは明言されていない。

■ 銃弾の一発は、満杯ではなかったが油の入っていたジェット燃料タンクT-202の側板を貫いていた。もう一発は、同じタンクの側板上部に当たっていたが、貫通していなかった。このタンクは専門家によって調査され、火や煙が出た気配は無かったことが分かった。

ホテルの割られた二つの窓 (写真はAbcnews.gfo.comから引用)
■ FBIの調査によると、ホテルの32階の部屋では、2つの窓が割られ、ひとつはコンサート会場に向いており、もうひとつは燃料タンクが直接見える方向だった。

■ 調査官によると、ホテルの部屋からトレーサー弾(曳光弾)が見つかったという。トレーサー弾は弾丸に火薬のほかに発光剤が装薬されており、飛んでいくとき明るく燃え、昼間の肉眼で発射軌道を見ることができ、夜間の発射では非常に明るい。これにより、射撃者は発射された弾丸の軌道を観察して照準補正を行うことができる。ただし、今回の銃撃でトレーサー弾が使われたという証拠はないという。

■ マッケラン国際空港の関係者によると、銃が乱射されたコンサート会場から逃れようと、300人ほどの人たちが空港の周囲に設置されていた保安用フェンスを突破し、飛行場内を横切り、一時的に航空機の離発着ができなくなっていた。

被 害
■ 燃料タンク1基が銃弾による損傷を受けた。側板を貫通しており、油を抜いて検査を行い、補修が必要である。
                   事件現場の位置関係  (図はThetruthaboutguns.comから引用)
             ホテルの部屋と残された銃  (写真はNytimes.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は、不法行為による故意の過失である。

< 対 応 >
■ タンクは油を抜き出し、検査を行い、必要な補修が行われる予定である。

■ マッケラン国際空港の関係者は、タンクへの攻撃が明らかになった後、銃撃によってタンクが爆発する可能性は少ないと語った。さらに、ジェット燃料は、引火しなければ、炎に短い時間、曝されても耐えるように設計されていると補足した。

■ 事件後、マッケラン国際空港は、安全な燃料供給を維持するための措置について燃料貯蔵施設の専門家に相談している。事件の対応に当たったラスベガスの保安官は、ジェット燃料タンクからは燃料ベーパーを連続的に抜いて出すようにされているので、銃撃で引火する可能性は低かったと語っている。

■ 10月5日(木)、全米ライフル協会は、ライフルが機関銃のように弾を早く発射できるようにする装置に対して厳しい規制をかけることを是認した。これは、何年にもわたって新しい銃規制に強く反対してきたグループにとっては稀なことである。パドッグ容疑者は、1分間に数百発を発射できる半自動ライフルを使用していた。
                  ジェット燃料タンク  (写真はAbcnews.gfo.comから引用)
側板上部に2発の銃弾跡の残ったタンク 
 (写真はReviewjournal.comから引用)
                 銃弾跡の拡大  (写真はReviewjournal.comから引用)
                銃弾跡の拡大  (写真はReviewjournal.comから引用)
補 足
■ 「ネバタ州」(Nevada)は、米国の西部に位置し、人口約270万人の州で、人口の3分の2以上がラスベガス都市圏に住んでいる。
 「ラスベガス」(Las Vegas)は、ネバタ州南部に位置し、市域の人口は約60万人の都市で、カジノの町として有名である。
米国のネバタ州とラスベガスの位置 
(図はGooglleMapから引用)
■ ラスベガスにある「スイスポート・フューエリング社」(Swissport Fueling)は、正式名称が「Swissport Fueling of Nevada, Inc.」で、航空会社、空港、燃料供給業者に代わって航空燃料の取り扱い業務を提供する会社で、国際的な空港関連企業であるスイスポート・インターナショナル社(Swissport International Ltd)の傘下の会社である。
  
■ 「発災(被災)タンク」は、容量43,000バレル(6,800KL)の固定屋根式タンクである。グーグルマップによると、直径は約25mであるので、高さは約14mクラスのタンクである。

所 感
■ 今回の事件では、銃弾によってタンク火災が起きるかどうかが議論になっている。過去のタンク事故の中につぎのような事例がある。
 このタンク火災は、灯油相当で着火しにくいジェット燃料と異なり、引火しやすい原油という油種である上、油井用の小型タンクという違いはある。しかし、銃弾によって引火・爆発して火災になりうるといえる事例である。今回の事件でタンクに直撃したのは、ライフル銃の銃弾(またはトレーサー弾)とみられるが、発射された焼夷弾がタンクに当たっていれば、火災になった可能性は高かっただろう。 

■ 銃弾以外の武器によるタンクへの攻撃はつぎのような事例がある。中東における紛争に関連するものが多いが、近年、タンクへのテロ攻撃は急増しているといえよう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
     ・Reviewjournal.com,  McCarran’s  Fence Breached by People Fleeing Las Vegas Strip Shooting,  October  03,  2017
     ・Reviewjournal.com, Commissioner Calls for Security Review of Jet Fuel Tanks after Las Vegas Strip Shooting,  October  05,  2017 ・Nytimes.com,  N.R.A. Supports New Rules on ‘Bump Stock’ Devices,  October  05,  2017
     ・Fox6now.com, Sheriff: Las Vegas Mass Shooter Fired at Nearby Fuel Tanks, Shot Security Guard before Shooting at Concert,  October  09,  2017
    ・Cnn.co.jp,  ラスベガス銃乱射、燃料タンク狙い焼夷弾射撃も 情報筋,  October 11,  2017 
   ・Voanews.com, Police: Las Vegas Shooter Fired at Jet Fuel Tanks,  October  13,  2017
    ・Edition.cnn.com,  Las Vegas Shooter Fired ‘Incendiary' Rounds at Fuel Tank,  October  11,  2017
    ・Firedirect.net,  USA – Aviation Fuel Tanks Deliberately Targeted During Mass Shooting Incident,  October  27,  2017
    ・Reviewjournal.com,   Jet fuel tank targeted by Las Vegas shooter will soon be inspected,  October  19,  2017
    ・Japantimes.co.jp  , Vegas Gunman Aimed at Aviation Fuel Tanks to Create Diversion, Had Escape Plan: Sheriff,  October  09,  2017



後 記: 今年10月に起ったラスベガスの銃乱射事件は日本でも大きく報道されました。容疑者が自殺したので、事件の意図や詳細は多くの疑問が残っているようです。そのひとつがジェット燃料タンクを標的にした銃撃です。事件の2日後には、タンクが銃撃されたというニュースを報じているメディアがあります。その後も多くのメディアからタンク銃撃の話が流されていますが、内容が少しづつ違っており、イマイチはっきりしないというのが本当のところです。
 しかし、まとめた経緯から推測した話をすれば、容疑者は当初の計画ではタンクを標的にしていなかったと思います。観客が空港の敷地内へ逃げ込もうと保安フェンス前に集まり押し倒そうとするのを見た際、タンクの存在に気がつき、火災を誘起させようと狙ったものではないでしょうか。よくタンクから火が出なかったものです。しかし、600m離れたタンクに命中させているのですから、射撃の腕は悪くなかったのでしょう。距離感を確かめようと、自宅周辺の地図を見て、改めて600mの距離がいかに遠いか分かりました。