今回は、2022年4月25日(月)、ロシアのブリャンスクにあるトランスネフチ社の石油貯蔵所、およびこの石油貯蔵所の近くにある軍事施設の石油貯蔵所の2箇所で燃料タンクが爆発・火災を起こした事故について紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災があったのは、ロシア(Russia)のブリャンスク(Bryansk)にある石油パイプライン運営会社トランスネフチ社(Transneft)のブリャンスク・ドルジバ(Bryansk-Druzhba)石油貯蔵所、およびこの石油貯蔵所の近くにある軍事施設の石油貯蔵所である。ブリャンスクはウクライナとの国境の北東154kmの地点にあり、同施設はウクライナ侵攻作戦で、ロシア軍の兵たん拠点の一つといわれている。
■ 事故があったのは、2箇所の石油貯蔵所内にある燃料タンクである。
<事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2022年4月25日(月)午前2時頃、トランスネフチ社の石油貯蔵所の燃料タンクで火災が発生した。その10~15分後、近くにある軍事施設の燃料タンクで火災が発生した。
■ 近くの住民によると、最初の爆発が午前1時50分に聞こえ、約10分後に2回目の爆発が聞こえたという。
■ 事故発生の連絡を受け、消防隊が出動した。
■ 石油貯蔵所の近くに住む住民が避難を始めた。
■ トランスネフチ社の石油貯蔵所で火災があったのは、容量10,000KLのディーゼル燃料タンクだという。軍事施設で火災があったのは、5,000KLの燃料タンクだという。
■ ロシアの非常事態省は、火災によるけが人はおらず、ブリャンスク市民に避難の必要はないとしている。ロシアのエネルギー省は、ブリャンスクへのディーゼル燃料やガソリン供給に影響はないと述べている。
■ 4月25日(月)の夜、ブリャンスクの住民が市内のフォキンスキー地区にある2つの石油貯蔵所のタンク火災の状況をドローンで動画撮影し、ユーチューブに投稿している。動画は4月25日の午後5時頃に撮影されたものだという。(Youtube、「 Пожар на нефтебазе в Брянске 25
апреля 2022г」(ブリャンスクの石油貯蔵所での火災2022年4月25日)を参照)
■ 4月26日(火)午前1時時点でも、燃料タンクの燃焼が続いており、ロシア国営のイタル・タス通信は テレグラム(Telegram)に炎と煙を示す写真を掲載した。
■ 4月25日(月)夕方、ロシアのインターネットメディア・マッシュ(Mash)には、“ブリャンスクの石油貯蔵所で1基の燃料タンクの火災の始まり” と題するタンク爆発の瞬間を示した動画が投稿されている。(Telegram, 「Начало пожара у одного из
резервуаров с топливом на нефтебазе в Брянске.」(ブリャンスクの石油貯蔵所で1基の燃料タンクの火災の始まり)2022.4.25を参照)
被 害
■ トランスネフチ社の石油貯蔵所のタンク1基が焼失し、内部の燃料油が焼失した。軍事施設の石油貯蔵所ではタンク1基が焼失したほか、もう1基も損傷したとみられる。
■ 負傷者は出なかった。
< 事故の原因 >
■ 原因は調査するとし、分かっていない。
< 対 応 >
■ 2022年4月25日(土)、ロシア政府は原因を調査すると表明したのみである。
■ ロシア政府とウクライナ政府は、いずれも今回のタンク火災について要因に関することを語っていない。
■ 2022年4月26日(日)午前7時過ぎ、燃え続けたタンク火災は消えたとみられる。
補 足
■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約1億4,600万人の連邦共和制国家である。
「ブリャンスク」(Bryansk)は、ロシアの北西部に位置し、ブリャンスク州の州都で人口約43万人の都市である。西はベラルーシと接し、南はウクライナとの国境がある。
ロシアのタンク事故には、つぎのような事例がある。
● 2013年8月、「ロシア・シベリアの石油施設でタンク火災」
● 2014年1月、「ロシア・ムルマンスクの石油施設でガソリンタンク火災」
● 2020年5月、「ロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出(原因)」
■「トランスネフチ社」(Transneft)は、1993年にロシア連邦政府によって設立され、ロシアを拠点とする石油とガス輸送を行う会社である。約70,000kmのパイプラインと500以上のポンプ場を運営し、バルチックパイプラインシステム、バルチックパイプラインシステム-2、東シベリア太平洋石油パイプライン、パープサモトラーパイプラインシステムなどの石油輸送システムを運営する。ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ラトビア、中国、ウズベキスタン、ベラルーシなど、国内外の市場でサービスを提供し、国内に多数の子会社がある。
■「発災タンク」は、トランスネフチ社の石油貯蔵所の方が容量10,000KLで、軍事施設の石油貯蔵所の方が容量5,000KLだと報じられている。グーグルアースで調べてみると、トランスネフチ社の石油貯蔵所の方が直径約32mであり、高さを12.5mと仮定すれば、容量は10,000KLとなる。軍事施設の石油貯蔵所の方は直径約22mであり、高さを12mと仮定すれば、容量は4,500KLとなる。また、このタンクに隣接するタンクがすでに座屈して火災は消えているが、発災タンクのひとつとみられる。このタンクは直径が約15mであり、高さを10mと仮定すれば、容量は1,700KL程度となる。まとめると、両石油貯蔵所の発災タンクはつぎのような大きさとみられる。
● トランスネフチ社の石油貯蔵所; 直径約32m×高さ12.5m×容量10,000KLのディーゼル燃料用の固定屋根式(ドームルーフ)タンク
● 軍事施設の石油貯蔵所; 直径約22m×高さ12m×容量4,500KLの固定屋根式(コーンルーフ)タンク、直径約15m×高さ10m×容量1,700KLの固定屋根式(コーンルーフ)タンク、いずれも内部の石油は不明である。
所 感
■ タンク火災の原因は調査中で分かっていない。「貯蔵タンクにおける事故の発生頻度」(2015年12月)によれば、固定屋根式タンクの“内部爆発・全面火災”の発生確率はタンク1基・年間当たり9.0×10-5である。あまり小さ過ぎてピンと来ないが、タンク100基・10年間でみれば発生頻度は0.09回である。このように発生頻度は小さいが、隣接する2箇所の別な石油貯蔵所でタンク爆発・火災がほぼ同時に起こる頻度はこの2乗と極めて低く、原因は人為的な要因だと推測できる。
■ 今回のタンク火災について海外メディアの中には、ロシアの戦略施設に対するウクライナの攻撃の成功か、ウクライナを非難するためのロシアの偽旗(にせはた)作戦のいずれかの可能性という見方をしている。しかし、両国が関与について言及していない中で、爆発瞬間の映像がフェーク動画でなく、事実だとすれば、撮影場所など周到に練られ、かなり強烈なロケットランチャー(個人携行式対戦車ミサイル)を使用したロシア国内のテロ攻撃ではないかと感じる。
■ 消防活動はまったく報じられていない。今回、ドローンによる映像がユーチューブに投稿されたのが、唯一の情報である。発災が午前2時で撮影が午後5時というので、すでに15時間が経過した段階である。消火ホースのノズルが主な消火活動であり、効果は出ていないように見える。火が消えたのは4月26日(火)の午前7時と言われているので、ドローン映像が撮られたあとも14時間燃え、燃焼時間は29時間である。消火活動によって火を消したというより、燃え尽きて消えたという印象である。タンク火災に加えて堤内火災があり、且つ同時2箇所の対応が必要で困難な状況だったことは理解できるが、ロシア国内の消火体制や消火資機材が充実していないことをうかがわせる事例である。
備 考
本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。
・Jp.reuters.com, ロシア西部の石油貯蔵施設で大規模火災、ウクライナ国境近く, April 25,
2022
・News.yahoo.co.jp, 西部の燃料貯蔵施設で火災
ロシア非常事態省, April 25,
2022
・Tankstoragemag.com, Fuel tanks in Bryansk catch fire, April
25, 2022
・Reuters.com, Russia investigates large oil depot fire in region near
Ukraine, April 26,
2022
・Tass.com, Fire breaks out at oil depot in Bryansk — officials, April
25, 2022
・Gordonua.com, Пожары на нефтебазах в Брянске сняли с дрона. Они
продолжаются более суток. Видеo,
April 26, 2022
・English.nv.ua, How the fires at oil depots in Bryansk may affect the
Russian army, April 26,
2022
・Themoscowtimes.com, Fire Engulfs Key Russian Oil Depots Near
Ukraine, April 25,
2022
・Theweek.com, Fires
break out at Russian oil depots near border with Ukraine, April
25, 2022
・Inews.co.uk, Bryansk fire: Oil depot blaze breaks out in Russian
city where Kremlin accused Ukraine of helicopter strikes, April
25, 2022
・Mil.in.ua, Two oil storage depots in Russia’s city of Bryansk catch
fire, April 25,
2022
後 記: 今回のロシアの石油貯蔵所に関する事故情報では、欧州のメディアの活発さが目立ちます。ただ当然ですが、“ロシアのウクライナ侵攻”
による影響を受けた定性的な記事が多いですね。このブログで関心のあるタンクの具体的な情報や被災状況は少なく、内容が曖昧です。その中で、ロシア住民によるユーチューブへの動画投稿が出てきてびっくりしました。いま、ロシアの人がユーチューブに投稿することが許されるのか、またフェーク動画ではないだろうかと初めは疑心暗鬼になりました。しかし、これだけでなく、ロシアのインターネットメディアのマッシュ(Mash)に投稿された動画やロシアのソーシャル・ネットワーキング・サービスのVKには、ロシア国営のイタル・タス通信の無味乾燥な報道にない自由さが残っていることを初めて知ることができました。ただ、マッシュの爆発瞬間の動画の真偽は一抹の不安が残りますが、本物として扱いました。