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2020年9月23日水曜日

ロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出(原因)

  今回は、 2020529日(金) 、ロシアのシベリアのノリリスク郊外にあるノリリスク・タイミル・エナジー社が運営する火力発電所で、ディーゼル燃料油タンクから大量の油が流出した事故について、20209月、原因に関する情報が報じられたので紹介します。

(前回のブログロシアのシベリアで発電所の燃料タンク底板部から大量流出」を参照)

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、ロシア(Russia)のシベリア連邦管区(Siberia)クラスノヤルスク地方(Krasnojarsk)のノリリスク(Norilsk)郊外にあるノリリスク・タイミル・エナジー社(Norilsk-Taymyr Energy Company; NTEK)が運営する火力発電所である。NTEKは、ニッケル生産で知られるノリリスク・ニッケル(Norilsk Nickel)の子会社である。

■ 事故があったのは、TPP-3と呼ばれる火力発電所のディーゼル燃料油(軽油)タンクである。TPP-3は天然ガスの火力発電所で、ディーゼル燃料油はバックアップ用の燃料である。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2020529日(金)、発電所にある燃料油タンクが損壊し、ディーゼル燃料油21,000トン超が流出した。流出した油は、15,000トンが水路を通じてアンバルナヤ川に、6,000トンが土壌を汚染した。

■ 油は現場から7マイル(11km)以上離れたところの川や湖の汚染が確認されており、川はあかね色に変わっている。

■ 地元当局は発生の2日後の531日(日)にSNS(社会交流サービス)の情報を受けて全容を把握したという。

■ 事故による負傷者やエネルギー供給への影響は出ていない。

■ 油が流れ込んだアンバルナヤ川には、応急処置としてオイルフェンスが展張されている。しかし、アンバルナヤ川は水深が浅く、バージ船のオイルフェンスで油膜を囲い込むことがむずかしい上、発電所が辺地にあることから、事故処理に必要な機材などの搬入が難しく、対応が遅れている。

被 害

■ 貯蔵タンクが損傷し、内部の燃料油が流出した。

■ タンク内にあったディーゼル燃料油が21,000トン流出した。6,000トンが土壌を汚染し、15,000トンは川を汚染した。

■ 負傷者は出なかった。

 < 事故の原因 >

■ タンクの底板部が損壊し、内部の油が漏洩したものとみられる。

■ 事故当初、ノリリスク・タイミル・エナジー社は、発電所が永久凍土の上に建設されており、近年の温暖化の影響で地盤が沈下していることが懸念されており、最近の異常な気温上昇の中で永久凍土が溶けたため、タンクを支えていた構造物(支柱)が崩壊したとみていた。

■ 20209月、ノリリスク・タイミル・エナジー社は、事故原因についてつぎのように記者発表した。

 ● タンク建設時の不適切な施工が事故の原因である。

 ● 本来、タンク基礎の杭は岩盤に800mm打ち込まれるはずだったが、実際には岩盤から約1m上で止まっていた。このため、杭は砂と粘土の層にとどまっていた。(この事実はタンクを撤去するときに判明した)

 ● タンクが1981年に建設されたとき、土壌は固く凍っていたため、杭はあるべき深さになっていなかったと思われる。

 ● 永久凍土の融解は、タンク流出の要因のひとつではあるが、タンク破損の寄与要因だった。

 ● タンクは2018年に修理されたが、州の検査で安全として合格していた。

 < 対 応 >

■ ロシア大統領は、63日(水)、非常事態を宣言し、国主導の除染作業に乗り出した。ロシア大統領は、発電所を運営するノリリスク・タイミル・エナジー社(NTEK)が事故報告を怠ったと異例の厳しい叱責を行い、非常事態省でクリーンアップ作業を行うこととした。

 火力発電所は自分たちで漏洩を封じ込めようとし、非常事態省に事故を2日間報告しなかったという。クラスノヤルスク地方の知事は、事故の情報がソーシャルメディアに掲載された日曜日(531日)になって油流出を知ったという。

■  重大犯罪の捜査を担当する連邦捜査委員会は、環境法令違反の疑いで捜査を開始した。連邦捜査委員会が公開した現場のものとされる動画には、燃料油タンクから流れ出す油やフェンスの下を流れる油が映っていた。(Youtube 「ТЭЦ-3. Норильск. разлив саляры !!!」は動画再生ができなくなっている)

■ 環境保護団体グリーンピースは、63日(水)、環境被害が60億ルーブル(約95億円)超にのぼる恐れがあると指摘した。

■ アンバルナヤ川にはオイルフェンスが展張され、油がノリリスクから20km離れたピャシーノ湖(Lake Pyasino)、そして更に800km先にある北極海(Arctic Ocean)の一部であるカラ海(Kara Sea)に入らないように図られた。

■ 非常事態宣言を受け、ロシア非常事態省は、燃料の回収と汚染された土壌の入替えを行っている。ノリリスク・タイミル・エナジー社は、ロシア緊急事態省とともに五百人の職員を派遣して早期に混乱を収拾しようとしている。しかし、油の回収は約340トンにとどまっている。 529日の事故からすでに5日が経過しており、自然界への影響が心配されている。63日(水)時点で、浄化には少なくとも2週間かかると推定しているという。

■ ノリリスク・タイミル・エナジー社(NTEK) は、事故のあったタンクと同じ構造の他のタンクについて、事故原因とタンク支柱の健全性が明らかになるまで、内液の燃料油を移送して空にすると発表した。

 なお、同社によると、事故のあったタンクは2018年に修理が実施され、その後に水圧試験が行われたという。

■ 20209月時点、ノリリスク・タイミル・エナジー社は、汚染された水を川から汲み上げ、鉱滓(こうさい)でつくったダムに溜め、油を分離するまで貯蔵しているという。河岸や周辺地域のクリーンアップ作業は継続している。

補 足

■「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約14,600万人の連邦共和制国家である。

 「シベリア連邦管区」(Siberia)は、ロシア連邦の地域管轄区分である連邦管区のひとつで、人口約1,900万人である。

 「クラスノヤルスク地方」(Krasnojarsk)は、ロシア連邦の連邦構成主体の一つで、人口は285万人で、中心都市はクラスノヤルスク市である。

 「ノリリスク」(Norilsk)はクラスノヤルスク地方の北部に位置し、中央シベリア高原にある人口約135,000人の市である。ノリリスクは、ニッケル鉱山のほか、銅やコバルトなど種々の金属を産し、冶金業を中心にロシア有数の工業都市である。一方、ノリリスクの気候は人間が住むには過酷な環境で、 1年のうち250日ほどは雪に覆われている。冬の寒さは厳しく、2月の平均気温は-35℃に達し、年間平均気温は-9.8℃である。

■「ノリリスク・タイミル・エナジー社」(Norilsk-Taymyr Energy Company; NTEK)は、ニッケル生産で知られるノリリスク・ニッケル社(Norilsk Nickel)の子会社で、 5つの発電所を運用する。発電所は、3つの火力発電所(ノリリスク火力発電所1、ノリリスク火力発電所2、ノリリスク火力発電所3)と2つの水力発電所で、合計の発電量は2,246 MWである。

 事故のあったノリリスクTPP-3と呼ばれる発電所は1978年に建設され、燃料は天然ガスでバックアップ燃料がディーゼル燃料油である。発電の主目的はナジエジュダの冶金工場の電力を供給するものであるが、冶金生産で利用された蒸気を受取り、効率化を図っている。

■ 油の流出量は報じられているが、「発災タンク」の大きさは報道されていない。グーグルマップで見ると、ノリリスク郊外に発電所施設があり、近くに貯蔵タンクが
4基ある。平面で見ると、この4基は同じ直径である。グーグルマップによると、タンク直径は約46mである。タンク写真から高さと直径の比率を調べると、約0.40なので、高さは約18mとなる。従って、容量は30,000KLとなる。ディーゼル燃料油の比重を0.82とすれば、容量30,000KL24,600トンとなる。これらから、発災タンクは直径約46m×高さ約18m、容量30,000KLクラス級のコーンルーフ式タンクとみられる。タンク内には、バックアップ用のディーゼル燃料油がほぼ満杯に近い状況で貯蔵されており、全量が流出したものだと思われる。

 一方、疑問があるのは、4基のタンクのうち発災タンクの側板だけが高くなっている。しかも、側板の下部に保温止めのような円環が付いており、理由は判然としない。また、ほかの3基は屋根の形からドームルーフ式タンクのように見える。発災タンクは支柱があると報じられているので、コーンルーフ式タンクとしたが、タンク型式や構造は断定できない。

■「鉱滓ダム」(こうさいダム、Tailings damとは、鉱山の選鉱・製錬工程で発生するスラグ(鉱滓)を水分と固形分とに分離し、その固形分を堆積させる施設である。今回、鉱滓をつかったダムを使用しているというが、油と水の分離に対して効果があるのか不詳である。

所 感

■ 前回の所感では、事故原因について「異常な気温上昇で永久凍土が溶けたという理由ではなく、底板の腐食とタンク基礎の不良が要因で、タンク底板が裂け、油が一気に流出したものだと考える。油が一挙に流出したため、タンクが減圧になり、タンク支柱を含め、屋根部が損壊したのではないかと思う。当該タンクは、2018年に修理をしたということなので、今回の事故に関連していることも考えられる」と書いた。

 今回の発表で、タンク基礎の杭が岩盤に達しておらず、「タンク基礎の不良」だったことが分かった。 2018年の修理ではどのような補修を行ったか分からないが、側板の下部に保温止めのような円環が付いており、タンクをジャッキアップして補修したのかも知れない。底板の腐食はなかったと思われるが、ゆるゆるのタンク基礎で、再びタンク底板部が変形して損壊に至ったのだろう。

■ タンク事故の経緯の詳細は報じられていないが、底板が裂けて油が流出したつぎのような事故の類似例である。

 ● 200510月、「ベルギーで原油タンク底部が裂けて油流出」

 ● 20071月、「フランスで原油タンク底部が突然破れて油流出」

■ 油流出対応について緊急事態省は油の拡大を阻止し、これ以上広がることはないといっているが、油の回収作業は難航している。前回の所感で「流域は湿地と沼地が多く、15,000トン(18,000KL)の回収には時間がかかりそうである」と書いたが、発災から3か月を経過した9月初めでもまだ、クリーンアップ作業が続いていることが分かった。油流出事故の影響が大きいことを示している。

 

備 考

 本情報はつぎの情報に基づいてまとめたものである。

   Afpbb.com,  ロシアで軽油15,000トンが川に流出、プーチン氏が非常事態宣言,  June  05,  2020

    Nikkei.com,  ロシア北極圏で燃料流出事故、非常事態宣言を発令,  June  04,  2020

    Headlines.yahoo.co.jp,  ロシア 発電所で大量軽油漏れ…河川を汚染,  June  04,  2020

    Yahoo.co.jp,  ディーゼル油2万トンが流出 シベリア地方火力発電所から,  June  04,  2020

    Aljazeera.com, Russia's 20,000-tonne diesel spill pollutes waterways in Siberia,  June  04,  2020

    Nytimes.com, Russia Declares Emergency After Arctic Oil Spill,  June  04,  2020

    News.infoseek.co.jp,  ロシア・シベリア軽油流出事故、拡大阻止と当局,  June  05,  2020

    Bbc.com,  Arctic Circle oil spill prompts Putin to declare state of emergency,  June  04,  2020

    Themoscowtimes.com, Massive Thermal Plant Fuel Leak Pollutes Siberian River,  June  03,  2020

    Cbc.ca,  Russia declares state of emergency in Siberia after 18,000 tonnes of diesel fuel spilled Social Sharing,  June  04,  2020

    Tass.ru , Режим ЧС ввели в Норильске и на Таймыре после разлива нефти на ТЭЦ,  June  01,  2020

    Rbc.ru , «Норникель» уберет топливо из хранилищ типа аварийного резервуара,  June  05,  2020

    Tankstoragemag.com ,  Collapsed Nornickel diesel tank was wrongly built,  September  15,  2020

 

後 記: 前回、ロシアの事故としては報道記事や写真が比較的多く、事故の要因を考えるだけの情報があったと後記で書きましたが、続報で原因に関する情報が出るとは思いませんでした。この事故のあとの725日(土)にモーリシャス沖で、日本の長鋪汽船(ながしき汽船)の子会社が所有し、商船三井が傭船していた貨物船“わかしお号”が座礁して重油約1,000トンが流出して環境汚染を起こす事故があり、世界中で報じられました。船舶の流出事故は責任体制があいまいで、いまも原因や対応で引きずられ、918日(金)に日本から調査団が派遣されるという話です。一方、シベリアで起こった事故の流出量は21,000トンで、モーリシャス沖で流出した量よりはるかに大量です。シベリアという遠くて、いまは人がいけないところなため、日本ではニュースになりませんが、対応はシベリアの方が大変だと思います。








2020年9月17日木曜日

横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落

 今回は、2020年8月25日(火)、神奈川県横浜市の小柴貯油施設跡地で、現在は使用されていない覆土式地下タンクの工事中の男性が重機ごと転落して死亡した事故を紹介します。


<発災施設の概要>

■ 発災があったのは、神奈川県横浜市金沢区の旧米軍施設の「小柴貯油施設跡地」である。現在、跡地は日本に返還され、横浜市が公園整備を進めている。


■「小柴貯油施設跡地」は、旧日本軍が燃料貯蔵基地として建設し、戦後は米軍が航空機燃料の備蓄基地として使用しており、敷地内には地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。事故があったのは、直径約45m×深さ約30mの地下タンクの一基である。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 2020年8月25日(火)夕方、小柴貯油施設跡地の現場で、ダンプカーから降ろした土を重機(バックホー)でならす作業をしていた男性の行方が操縦していた重機ごと分からなくなった。ダンプカーの運転手は午後1時頃に重機を確認していたが、およそ2時間後に重機がいなくなっているのに気付いたという。

■ 工事施工者は、重機とともに男性の姿が見えなくなっていることを消防へ通報した。工事は横浜市が発注し、飛鳥・奈良・センチュリー建設共同企業体が施工する西部水再生センターの下水道工事であり、工事で出た建設発生土を小柴貯油施設跡地の公園整備事業の盛り土用の土として搬入していた。

■ 男性は下水道工事で現場付近に仮置きした土を、重機で整地する作業をしていたが、近くに地下タンクがあり、上部の天蓋(屋根部)の一部が崩落したいた。このため、男性は地下タンクに転落したとみられている。周囲に柵はなく、男性が操縦していた重機は20トンほどあり、重機が進入したタンク天蓋(屋根部)に乗った際に壊れた可能性がある。地下タンクには、深さ約9mの雨水などが溜まっているとみられる。

■ 県警と消防が捜索にあたったが、二次災害の危険があるとして25日(火)午後7時頃に中断した。救助活動を行うには、タンク内の水を抜く必要があり、翌26日(水)午後から排水ポンプを5台投入するための土台の設置や周辺の整地作業を進めた。

■ 近くに住む主婦は、転落したとみられることについて「仕事をしているときにこういうことになって気の毒です。早く見つかってほしい」と話していた。女性によると、公園の造成工事が始まる前から、小柴貯油施設跡地は敷地内を通り抜けることができたということで、「7年近く住んでいて、地上部分にタンクが残っているのは知っていましたが、地下にもあるとは知らずびっくりしました」と話している。また、近くに住む男性は「昔、燃料の備蓄基地だったというのは聞いていましたが、今は施設は撤去されていると思っていたので、まだ地下のタンクが残っているとは知りませんでした。ほとんどの人は知らないんじゃないかと思います」と驚いた様子だった。

■ 8月26日(水)、県警と消防は、男性の捜索活動を再開したが、同日午後9時までに見つからなかった。地下タンクは水が溜まっており、県警などは、残った天蓋(屋根部)や新たな土砂の落下などの二次災害の懸念がなくなった段階で救助を始めるという。

被 害

■ 地下タンク近くで作業をしていた男性1名が、深さ約30mの地下タンクに重機(バックホー)ごと転落し、死亡(内部に溜まっていた水による溺死)した。

■ 戦前に建設された覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)が一部崩落した。

<事故の原因>

■ 事故原因は、覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)に進入し、屋根部が重機の重み(約20トン)で崩落し、天蓋部(屋根部)に居た作業者が重機ごと地下タンクに転落したとみられる。

<対 応>

■ 排水作業を行いながら捜索していたが、8月28日(金)、警察と消防は地下タンク内で行方不明となっていた男性を発見したが、すでに死亡していたことが確認された。市消防局によると、同日午前10時45分頃、地下タンク内で重機の一部が見つかり、救助隊員が潜水して捜索するなどして午後5時35分頃、水の中にあった重機の操縦室内で男性を発見した。発見時、重機は横倒しになった状態で、窓ガラスは割れていたという。

 9月1日(火)、神奈川県警は、横浜市の公園造成現場で重機ごと深さ約30mの地下タンクに転落し、遺体で見つかった男性を死亡解剖した結果、死因は溺死と発表した。

■ 9月2日(水)、横浜市によると、男性は地下タンクの近くでダンプカーが運んできた土砂を重機でならす作業を担当しており、作業場所は当初、覆土式地下タンクの天蓋(屋根部)より5mほど低かったものの、土砂をならすうちに高低差がなくなっていたとみられるという。この事故に関連して、横浜市長は、記者会見で、工事の指示書では土砂を置く場所は、地下タンクの縁から10m以上離れた地点を指定していたと明らかにし、現場にどのような指示が伝わっていたか、調べる考えを示した。

 横浜市によると、今年5月、土砂の搬入が始まる前に、市の担当者や工事施工者が立ち会って現場で土砂を置く場所を検討したという。この時、地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所を置き場に指定したという。しかし、横浜市によると、事故のあと、指定された場所の外側にも土砂があることが分かったということで、横浜市では、当時、現場にどのような指示が伝わっていたのか調べることにしている。

■ 事故に伴い、いろいろなメディアから報じられているが、上空から撮った映像がユーチューブにも投稿されている。

 「横浜地下タンク重機落下事故 水抜き作業始め救出再開へ」(2020.8.26)

 ●「タンク内で重機発見 転落作業員の捜索急ぐ」(2020.8.27)

(写真はTokyo-np.co.jpから引用)
補 足




■「神奈川県」は、日本の関東地方に位置し、人口約920万人の県である。

「横浜市」は、神奈川県東部に位置し、県庁所在地で人口約375万人の政令指定都市である。

金沢区」は、神奈川県南端部に位置し、三浦半島の東側にあり、人口約197,000人の行政区である。

■「小柴貯油施設跡地」は、戦前(1937年頃)に旧日本海軍が燃料基地として建設されたものである。第2次世界大戦後に進駐した連合国軍が、市内中心部や港湾施設などを広範囲に接収し、接収された土地は市全体で最大1,200ヘクタールあり、小柴貯油施設は米軍が航空機燃料の備蓄基地に使っていた。敷地内には、地上タンクが5基、覆土式地下タンクが29基ある。

 米軍の接収地は、解除を求める運動の機運が高まり、1952年には大桟橋や今の横浜スタジアムなどの土地が返還されている。その後、断続的に返還され、今回、事故が起きた53ヘクタールの金沢区の旧「小柴貯油施設」は、戦後60年の2005年に返還され、国が横浜市に現況のまま全面積を無償貸し付けし、現在、横浜市が公園整備を進めている。なお、現在も返還されていないのは、広さが合わせて150ヘクタールに上る米軍施設4箇所と、米軍の船の停泊などのための水域2箇所である。

■ 横浜市が策定した「小柴貯油施設跡地公園の基本計画」では、地上および地下の貯油タンクの処理について、つぎのようになっている。

 ● 大型地下タンクは、躯体(くたい)を撤去せず、ほかの公園緑地工事で発生した土で埋め戻して、広場等の利用を基本とし、一部を歴史的遺構として保全活用する。

 ● 小型地下タンクは躯体を撤去せず、太陽光発電の設置や敷地内の発生土の処理等に活用する。

 ● 地上タンクは、一部をモニュメントや壁面緑化等の見本園、拠点施設として活用し、残りは撤去する。

■「覆土式地下タンク」は、直径約45m×深さ約30mで、屋根部は鉄製の桁(けた)の上にコンクリート製の蓋が載せられ、その上に土がかぶされていると報じられている。しかし、横浜市作成の「小柴貯油施設跡地利用基本計画」(2020年3月、横浜市返還施設跡地利用プレゼント)では、貯油タンクの概要について、つぎのようになっており、事故のあった地下タンクは、5号タンクと称し、直径38m×深さ28m、内空体積34,006㎥となっている。「直径約45m×深さ約30m」のデータも横浜市が提示しており、コンクリートの厚さを含めたものと思われる。

■ 小柴貯油施設における地下タンクの事故は、今回が初めてでなく、返還前の1981年10月13日午後12時07分頃、6号タンクで爆発が起こっている。6号タンクは大音響とともに爆発炎上し、黒煙は約1,000mに達し、炎は50m以上まで上がった。容量は32,500KLで、当時24,000KLのジェット燃料の入った地下タンクは、天蓋(屋根部)が噴き飛び、全面タンク火災となり、鎮火までに約4時間かかった。現場に隣接していた団地などでは、爆風で飛ばされた破片や石などによって延べ474戸の家が被害を受けた。横浜市消防局は住民約900人に避難命令を出した。負傷者は、消火活動にあたった基地内自衛消防隊員2名のほか、住民3名がけがをした。

 原因は、隣接タンク(3号タンク)の工事火花(溶接機など)が6号タンクの通気管から生じていたベーパーに引火し、通気管を経由してタンク火災になったものとみられている。発災当時は返還前で、施設の使用者が米軍、工事管理は防衛施設庁、作業は民間企業であり、安全管理が不徹底であったとみられる。施設は国内法が適用されないため、米軍の安全管理規定のみ適用されていた。しかし、この事故については、事故発生当時時に米海軍による調査が行われ、爆発原因を特定することはできなかったとの調査結果が1983年7月に国から報告されている。なお、6号タンクは、現在、天蓋(屋根部)がなく、今回、事故のあった5号タンク近くにある

■「バックホー」は、油圧ショベルの中でも、ショベルを操縦者側向きに取り付けたものである。操縦者側向きのショベルで操縦者は自分に引き寄せる方向に操作するので、地表面より低い場所の掘削に適している。なお、最近のバックホーには、ブルドーザーのように排土板を付けたものもある。

<所 感>

■ 今回の事故の直接要因の真実は、重機操縦者が亡くなっているので分からないだろう。

 間接要因は、盛り土の形成状況から重機操縦者の“善意の行動”だと感じる。事前の打ち合わせでは、建設発生土(残土)の置き場は「地下タンクの縁から少なくとも14m離れたおよそ2,300㎡の場所」に指定されたとある。2,300㎡は、たとえば20m×100m以上に相当するかなり広い空地である。このような空地に残土が置かれ、盛り土を形成することはむずかしくない。まして、重機操縦者は下水道工事を請け負った工事施工者の作業員である。ところが、盛り土は傾斜地で地下タンクの縁まで積み上げられている。推測だが、重機操縦者はどこに使う残土だろという疑問をもち、地下タンクの埋め立てに使うらしいということを知ったのではないだろうか。重機操縦者は自分の技量を発揮して、地下タンクの縁の方へ残土を運んだのではないだろうか。“善意の行動”の発意ではあったが、残念なことに地下タンクの正確な位置を知らなかったので、覆土式地下タンクの天蓋部(屋根部)にまで進入してしまった。

■ 事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報連相(報告・連絡・相談)により情報を共有化する」の3つが重要である。重機操縦者には、これらのいずれかが欠けていたために事故になったと思われる。 一方、今回の事故では、盛り土の形成状況を見ると、相当な時間が経過していると思われ、工事施工者および発注者の各階層(所長、マネージャー、担当者など)ごとの「ルール」の観点、「危険予知活動」の観点、「報連相」の観点の失敗要因について分析・対応を考える必要があると思う。 (各階層ごとの失敗要因と対策の解析例は、「太陽石油の球形タンク工事中火災(2012年)の原因」および「三井化学岩国大竹工場の爆発事故(2012年)の原因」を参照)


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。








後 記:今回の事故は首都圏で起こった特異なできごとだったので、いろいろなメディアやSNSで報じられていました。地下タンクは現在使われておらず、このブログの対象にすることに躊躇(ちょうちょ)しました。しかし、昔、在日米軍の地下タンクで火災があったということを思い出し、調べてみることにしました。最初は、被災写真を見ても埋め戻し中の人身事故かと思っていましたが、どうもそのような単純な話ではないことが分かりました。昔の在地米軍で起こった地下タンク火災の隣接タンクだということも分かりました。40年ほど前のタンク火災ですが、地元の人の中には、タンク火災はもちろん、地下タンクが残されていることを知らない人もいます。風化してしまうのですね。

 ところで、私が住んでいる周南市(旧徳山市)にも、旧日本海軍が建設した覆土式地下タンク(最大は内径88m×深さ10m×容量50,000KL)が大迫田地区にありました。いまは緑地公園になっていますが、円形の広場が地下タンクの跡地だと聞いています。






2020年9月10日木曜日

この10年間の「世界の貯蔵タンク事故情報」について(その3)

  「世界の貯蔵タンク事故情報」と称して事故情報を紹介し始めたのが、20115月からです。その後、タンク施設以外で世間の耳目を集めるような事故があり、タンク以外の事故情報も投稿してきました。20204月で十年になるのを機にこれまでの事故情報のデータベースをもとに考察することとしましたが、今回はその3回目でタンクに限った事故について分析した結果を紹介します。


< はじめに >

■ 「世界の貯蔵タンク事故情報」と称して当ブログで事故情報を紹介し始めたが、タンク施設以外で世間の耳目を集めるような事故があり、タンク以外の事故情報も投稿してきた。

ここでは、貯蔵タンクに限った事故故情報のデータベースをもとに考察してみる。


< 掲載した事故件数の割合 >  

■ 2011年5月から始めたので、基本的にそれ以降の事故情報である。しかし、それ以前の事故でも注目された事故がある。たとえば、2005年の英国のバンスフィールド事故、2009年のプエルトリコのカリビアン石油火災やインドのインディアン石油火災などである。これらの事故は論文で引用されるケースも多く、事故状況をブログで紹介した。


■ この十年間に掲載した事故情報は計273件である。これらを1953~1999年、2000~2009年、2010~2020年の3つに区分してみると、図のとおりである。

■ 2009年以前の事故件数は39件である。この中には、「米国ホワイティング製油所の装置爆発で貯蔵タンク70基に延焼(1955年) 」のような過去の大事故を記録として残しておこうというものがある。これを系統的に残したものが、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめたARIA(事故の分析・研究・情報)がある。 最初に紹介したのは、「ミルフォード・ヘブンの原油タンク火災事故(1983年8月)」であるが、ARIAの事例はよく記録にまとめられており、貴重な報告書である。しかし、残念ながら、ARIAは、現在、更新されていない。このほか、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が同社のウェブサイトに「Code Red Archives」というサブサイトを設け、同社の経験した技術的な概要を情報として公開しているものがある。


< 年度ごとの事故件数の割合 >  

■ 事故の総数273件を年度ごとに分けると、図のとおりである。ブログは2011年5月から始めており、20020年は4月までの件数であるので、2010年と2020年は極端に少なく見える。

■ 年度ごとの整合性をとるため、2010年以前と2020年を外すと、図のとおりとなる。

年間の平均事故件数は約25件となる。

■ もっとも多い年は2013年の37件である。この年に、東京電力福島原子力発電所の汚染水貯槽(タンク)で一連の漏れ事例が3件あり、2013年は事故の多い年といえる。


■ 2011年~2019年までの9年間の中で、主な事故を10件あげると、つぎのとおりである。

 ●「東日本大震災時の気仙沼オイルターミナルの壊滅」(2011年3月11日)

 ●「日本触媒でアクリル酸タンクが爆発・火災、死傷者37人」(2012年9月29日)

 ●「長崎原爆製造後の放射性廃液が貯蔵タンクから漏洩」(2013年2月15日)

 ●「中国福建省でパラキシレン装置爆発によって貯蔵タンクへ延焼」(2015年4月6日)

 ●「フランスの製油所で仕掛けられた爆弾によってタンク火災」(2015年7月14日)

 

 ●「中国福建省でパラキシレン装置爆発によって貯蔵タンクへ延焼」(2015年4月6日)

 「リビアの2つの石油施設基地で砲撃によって複数のタンク火災」201614日)

 ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」(2016年8月17日)

 ●「韓国の石油貯蔵所で半地下式ガソリンタンクの爆発・火災」(2018年10月7日)

 ●「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」( 2019年3月17日)


< 月の上・中・下旬における事故件数 >  

■ 事故が起こったのが、月の上旬、中旬、下旬の3区分で分けると、図のとおりである。

(上旬;1~10日、中旬;11~20日、下旬;21~31日)

■ もっとも多いのが中旬で約38%、次が下旬の約35%、もっとも少ないのが上旬で約27%となった。事故発生の背景にはいろいろあるが、中旬は上旬の約1.4倍多い結果だった。しかし、月の中旬に注意が必要だと断言はできないように思う。


< 月ごとの事故件数 >  

■ 月ごとに分けた事故件数は図のとおりである。

■ 6月が35件と最も多く、11月が13件と最も少ない。傾向としては、6月をピークにした山形になっている。


■ これを四半期ごとに分けてみると、第1四半期と第4四半期に比べ、第2四半期と第3四半期が多い。見方を変えれば、4月~9月にタンク事故が多く、人の活動期と関係があるように見える。 

< 曜日ごとの事故件数 >  

■ 曜日ごとに分けた事故件数は図のとおりである。

 傾向としては、月曜から徐々に増え、金曜がもっとも多く、土日に下がり、もっとも少ないのが日曜である。金曜の件数は51件で、日曜の件数が25件であり、金曜は日曜の2.0倍である。

■ 月の上・中・下旬における事故件数では、傾向ははっきり表れていなかった。月ごとの事故件数では、人の活動期である4月~9月にタンク事故が多い傾向が見えたが、曜日ごとの事故件数では1週間における人の社会・経済活動と関係があるとようにみえる。


■ 事故防止は常に考えておかなければならないが、曜日ごとの事故件数の割合から、金曜日は気の緩みがないように心掛けることが肝要だといえよう。金曜日に起こった主な事例は、つぎのとおりである。

 ●「エクソンモービル名古屋油槽所の工事中タンクの火災事故」(2003年 8月29日金曜)

 ●「カリビアン石油タンクターミナルの爆発・火災」(2009年 10月23日金曜)

 ●「東日本大震災の液化石油ガスタンク事故」(2011年 3月11日金曜)

 ●「サモアの石油貯蔵施設で石油タンクが爆発して死者1名」(2016年4月4日金曜)

 ●「韓国のスチレンモノマー装置でタンクからオイルミスト噴出」(2019年5月17日金曜)


< 地域別の事故件数の割合 >  

■ 世界を地域別に分けた事故件数は、図のとおりである。地域は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている5つの分類と同じにした。

 ● アジア・豪州; 日本、韓国、中国、インド、オセアニア、中東、その他

 ● 北 米; 米国、カナダ、メキシコ、

 ● 欧 州; イングランド、フランス、ロシア、その他

 ● 南 米; ブラジル、ベネズエラ、アルゼンチン、その他

 ● アフリカ; ナイジェリア、ケニア、リビヤ、エジプト、その他

■ この分類によると、事故件数は「北米」と「アジア・豪州」のふたつの地域で8割を占める。一方、近年の事故発生をみると、この分類では「アジア・豪州」が大枠すぎるので、細分化した。また、「北米」について「米国」を単独に分類した。この細分化した分類による地域別の事故件数は図のとおりである。

■ 細分化した地域別の事故件数では圧倒的に「米国」が多い。これは米国では、陸上における小規模な油田施設やタンクターミナルが多く、これらの施設における事故が多いためである。


■ アジアでは、「日本」のほか「中国」の事故件数が多くなっており、また、その他のアジア(図の「アジア」)の事故件数が多く、アジア全域で事故が起こっている。さらに、最近、新たに目立つのが「中東」における事故件数である。


< 場所別の事故件数 >  

■ 場所(施設)別にみた事故件数は、図のとおりである。 場所(施設)の区分は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている分類を参考に、「製油所」、「タンクターミナル」、「化学工場」、「油田」、「その他」の5つの分類とした。

■ もっとも事故が多い場所(施設)は、「製油所」や「化学工場」ではなく、「タンクターミナル」の32%だった。しかし、事故はひとつに片寄るのではなく、相対的に5つの分類に分散している。日本から見れば、油田の事故件数が多いが、これは米国における小規模の陸上油田のタンク事故が多いためである。


< 設備別の事故件数 >  

■ 設備別の分類による事故件数は、図のとおりである。設備の区分は、「タンク」、「配管」、「プラント」、「その他」の4つに分類した。

■ このブログの主目的である「タンク」が273件の96%と大半を占める。「配管」は7件で3%、「プラント」は1件で2%だった。タンクの関連設備で事故が起これば、その設備だけに限定されず、主のタンクへ波及するといえる。


■ 「その他」は1件であるが、1%に達しなかった。この1件は、「2019年台風19号で被災のあったタンク・貯蔵関連施設」で複数の被災箇所を取り上げたものである。


< 原因別の事故件数 >  

■ 原因別の事故件数は図のとおりである。原因の区分は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている分類を参考にして、「落雷」、「保全/火気工事」、「運転ミス」、「設備の故障」、「故意の過失」、「割れ/腐食」、「漏れ/配管破損」、「静電気」、「直火」、 「自然災害」、「異常反応」、「その他」、「不明」の13分類に分けた。

■ 分類では、「不明」が105件で38%と圧倒的に多かった。事故情報をインターネットの報道記事を主体にしているので、事故直後では調査中で原因が不明な事故が多くなっているためである。また、この段階では、「静電気」と「異常反応」は0件だった。


■ 「不明」を除いた事故件数を分類してみると、図のとおりである。日本では、「落雷」による貯蔵タンクの事故は少ないが、世界的にみると、「落雷」による事故件数が多い。続いて、「保全/火気工事」、 「運転ミス」 、「漏れ・配管破損」が多い事故原因だった。

■ 最近の傾向としては、「自然災害」と「故意の過失」による事故件数が多い。特に、台風/ハリケーンや豪雨による事故が目立ってきている。また、中東におけるテロ攻撃による「故意の過失」の事故件数が多い。


< 原因推定別の事故件数 >  

■ 調査中として原因不明の事故情報について、事故の状況から原因を類推してみた。この原因推定別の事故件数は図のとおりである。原因不明の事故件数は三分の二程度は減ったが、それでも「不明」は36件残った。

■ 原因推定別の事故件数では、「落雷」を抜いて「保全/火気工事」がトップとなった。 20102月に米国CSB(化学物質安全性委員会)の安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が出され、事故の未然防止が叫ばれているが、保全に関わるミスは相変わらず多い。


■ これに「運転ミス」が続き、「故意の過失」を含めれば、人為的な要因が多い。


■ 円グラフにすると、 「落雷」、「保全/火気工事」、「運転ミス」の3つの分類で約半分を占める。一方、そのほかの原因の要因は分散しており、いずれの原因要因も起こり得ることを示している。また、原因別ではゼロ件だった「静電気」と「異常反応」がそれぞれ9件と1件出てきた。

< 事故の形態別の事故件数 >  

■ 事故の形態別の事故件数は図のとおりである。事故形態の区分は「貯蔵タンク事故の研究」に掲載されている分類を参考にして、 「火災」、「爆発」、「漏洩」、「その他」に区分し、新たに「環境汚染」を追加し、「毒性ガス流出」は「環境汚染」または「漏洩」の区分とした。

■ 事故件数の割合は「爆発」(123件、45%)が「火災」(89件、32%)を上回った。従来の認識では、「火災」の方が多いと思う。これは、発災時に爆発が伴った火災は「爆発」に分類したことが要因にあるかもしれない。しかし、タンクの火災では、爆発を伴う可能性のあることを認識しておくべきことを示す。


■ 「火災」と「爆発」に「漏洩」を加えた3つの事故形態は257件で94%を占めた。 タンクの内容量を考えれば、「火災」、「爆発」、「漏洩」のいずれの事故形態も社会的な影響の大きい事故になりうる。  


■ 事故の形態として「その他」の分類には、溶剤タンクの入槽作業時の酸欠事例(2件)を含むが、つぎのような意外な事例を含んでいる。

 ●「消火用水タンクが破裂して死者2名の事故」(2011年6月1日)

 ●「米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃」 (2017年11月14日)


■ 事故形態の範ちゅうとしては「爆発」であるが、被害拡大につながる「ボイルオーバー」を取り上げた事例は、つぎのとおりである。

 ●「1964年新潟地震における貯蔵タンクのボイルオーバー事例」(1964年6月16日)

 ●「ポーランドのチェホビツェ火災」(1971年6月26日)

 ●「テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー」 (1974年1月11日)

 ●「ミルフォード・ヘブンの原油タンク火災事故」(1983年8月30日)

 ●「米国テキサス州の原油タンク火災」(1990年8月25日)

 ●「中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生」(2016年8月17日)

 ●「イエメンでディーゼル燃料タンク爆発、薄層ボイルオーバーか、負傷15名」( 2019年1月11日)


< 内容物別の事故件数 >  

■ 発災の内容物別の事故件数は図のとおりである。内容物の区分は、原油、石油製品、ケミカル、廃油、廃水などタンクなど発災設備内に入っていた21種の物質に分けた。

■ 事故件数の割合は「原油」(88件)が最も多く、続いて「ガソリン」(32件)、「石油」(24件)だった。「石油」の区分は発災当時の情報でオイルとしか分からないものだった。原油と石油製品類の割合は212件、77%を占め、危険性の高いことを示す。


■ 一方、「ディーゼル燃料」(15件)と「アスファルト」(18件)が、軽質の「液化石油ガス」や「ナフサ」より事故件数が多い結果となった。特に「アスファルト」は安全だという意識を取り去る必要がある。


■ 内容物が「水」(2件)や「空」(2件)でも事故が起こっており、条件によっては内容物にかかわらず、事故の要因が潜んでいるといえる。 


< 事故の負傷者数 >  

■ 事故に伴い負傷者(死亡者および吐き気・頭痛などの治療を受けた被災者を含む)が発生した事故件数は101件だった。全事故件数が273件だったので、負傷者が発生する割合は37%であり、事故の3件に1件は負傷者が出ている。


■ 負傷者数は全部で1,925人だった。全事故件数(273件)に対する1件あたりの負傷者の平均は7人となる。これは負傷者の発生した事故の中に、住民に多くの被災者が出たため平均が高くなっている。


■ 負傷者の多かった主な事故は、つぎのとおりである。

 ●「韓国のスチレンモノマー装置でタンクからオイルミスト噴出」(2019年5月17日) 327人

 ●「中国・河南省のガス工場で空気分離装置が爆発、死者15名負傷者多数」(2019年7月19日) 280人

 ●「ベネズエラの製油所で爆発してタンク火災、死者41名」(2012年8月25日) 191人

 ●「インドの化学プラントでタンクから無水酢酸が漏洩、被災者55名」(2019年4月17日) 55人

 ●「イラクで天然ガス工場にテロ攻撃、球形タンク爆発・炎上」(2016年5月15日) 51人


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    ・Tank-accident.blogspot.com, May 2011 – April 2020



後 記: 「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報について(その2)」を投稿してから、本命のタンクに限定した事故情報の分析をやり始めました。データの一貫性から一度にまとめた方が良いと思いました。事故の内容物などはいろいろな表現があり、そのままでは分析が収束しませんでしたので、全件をもう一度読み返し、整合性を取り直しました。いまはエクセルという表計算ソフトがあるので、データベースができれば、集計やグラフは簡単に作成してくれます。しかし、データベースを作るのは思っていた以上に手間がかかりました。