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2022年1月30日日曜日

韓国麗水市の化学工場で貯蔵タンク爆発・火災、死者3名

 今回は、20211213日(月)、韓国の全羅南道の麗水市にある麗水国家産業団地内のイイル産業化学工場で小型の貯蔵タンクが爆発・火災を起こして3名が死亡し、その後、タンク9基に延焼した事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、韓国の全羅南道(チョルラナムド ぜんらなんどう)の麗水(ヨス レイスイ)市にある麗水国家産業団地内のイイル産業(이일산업;二日産業)の化学工場である。

■ 事故があったのは、化学工場内にある危険物施設の貯蔵タンクである。

<事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 20211213日(月)午後130分頃、化学工場の貯蔵タンクで爆発音とともに構造物の破片が空高く飛び出した。その後、火柱が上がり、火災となった。火災は、散発的に爆発を繰り返しながら、隣接タンクへ延焼していき、黒煙が空を覆った。

■ 爆発によるタンク構造物の破片が噴き飛ぶ様子は構内に入ってきた車両搭載のカメラでとらえられ、テレビで放映され、インターネットのユーチューブに投稿されている。(YouTube「굉음과 함께 탱크 뚜껑 날아가“ 이일산업 사고 블랙박스 영상 확보 (轟音と一緒にタンクのふたが飛んでいく)2021.12.16.を参照)

■ 近くの店で昼食を食べていた人は、バンという音にびっくりして、慌ててドアを開けて外に出た。 「炎が湧き上がり、黒い煙が空に舞い上がり、怖かった」と語っている 

■ 発災に伴い、消防署が出動した。火災が拡大したため、消防当局は管轄消防署と周辺の消防署、特殊救助隊を出動させて消火活動に当たった。消火活動には、消防車と救急車など50台の車両、485人の人員が投入された。

■ 黒煙が10kmほど離れた麗水市街地でも視認できるほど火災が大きくなり、市民不安が大きくなった。消防当局は半径1km以内に駐車された車両を他の場所に移動するよう呼びかけた。

■ 化学工場の近くには海へ通じる川があり、化学物質や消火用水による水質汚染を防ぐオイルフェンスが展張された。また、現場では、消火用泡による水質汚染を防ぐため、バキューム車で消火排水を吸入した。

■ 発災に伴い、イルル産業の下請け業者に所属する3人の労働者が死亡した。死亡した3人は60才を超えた高齢の労働者だった。貯蔵タンクの上部で配管を交換する過程で事故が発生したとみられる。

■ 火災の状況は各局のテレビで放映され、インターネットのユーチューブに投稿されている。火災の最盛期の状況は、YouTube「여수산단 화학물질 제조 공장서 화재…2명 사망·1명 실종/ 연합뉴스」(麗水産団化学物質製造工場で火災… 2人死亡・1人失踪/連合ニュース)Yonhapnews 2021/12/13を参照。

被 害

■ 工事施工者の従業員3名が死亡した。

■ 爆発・火災の拡大によって10基の貯蔵タンクが被災し、うち4基の天板が爆発して損壊し、6基が火災で焼損した。

■ 火災による黒煙によって大気が汚染された。避難した住民は居なかったが、半径1km以内に駐車された車両は他の場所に移動する要請された。

< 事故の原因 >

■ 事故の直接原因は、保全/火気工事のミスによるものとみられる。間接要因は火気工事環境を確認しなかった運転ミスとみられる。

< 対 応 >

■ 消防当局は、監視用ドローンを投入して肉眼で確認しにくい火災現場を映像で把握した。消火活動では、圧縮空気泡消火装置のCAFS(キャフス;Compressed Air Foam Systemを搭載した消防車を活用した。

■ 消防当局は、出火から4時間余りで火災を制圧し、午後5時頃に消火を確認した。

■ 消防当局によると、工場にあった全危険物貯蔵タンク73基のうち、危険物の貯蔵タンク4基の天板が爆発し、 6基が火災で焼損するなど計10基の被害があったが、迅速な消火活動の対応で被害を最小化できたという。

■ 当初、腐食防止剤などの原料として使用されるキノリン・タンクで作業中だったとされたが、キノリンではなく、水素処理された重質ナフサ(重質ガソリン)が貯蔵されたタンクであることが確認された。重質ナフサは自動車用ガソリン主配合燃料で燃焼時に煙などが発生するが、有毒性化学物質に該当しない。

■ 消防当局は、貯蔵タンクに可燃性物質がタンク高さの1/3ほど残っている状態で作業がなされた理由を調査しているという。タンク容量は90KLと報じているメディアがある。

■ 1221日(火)、イイル産業の代表取締役社長が公式謝罪文を発表し、「今回の事故で悲しみに陥った遺族の方々に深い慰めの御言葉を差し上げる」と明らかにした。

■ 1228日(火)、光州雇用労働庁は、事故発生場所作業許可書にガス濃度測定結果が虚偽で作成されたという疑惑に関して、実際のガス濃度測定が一部実施されていないことを確認した。

■ イルル産業では、20044月にも液体油化原料の貯蔵タンクが爆発して、労働者2名が大火傷を負う事故を発生させている。

補 足

■「韓国」は、正式には大韓民国(だいかんみんこく)といい、朝鮮半島南部にある共和制国家で、人口5,180万人である。

 「全羅南道」(チョルラナムド ぜんらなんどう)は、韓国の南西部に位置する行政区で、人口約180万人である。

「麗水市」(ヨスし れいすいし)は、全羅南道東南部の沿海部に位置し、本土から大きく突き出した麗水半島にあり、市域には300余りの島が点在する。人口約28万人の都市である。

■「麗水工業団地」は1967年に造成され、工場誘致が行われ、現在、GSカルテックス、LG化学、麗川NCCなどの石油化学会社60社を含む220社が進出している。

 韓国メディア中央日報によると、工場の大半が有害物質を扱っているうえ、40年以上経った施設が多く、「不安な火薬庫」と言われているという。麗水工業団地では、人命被害事故が相次いでいる。20133月には「韓国の全羅南道でポリエチレン貯蔵タンクが爆発して死傷者」では死傷者17名を出す事故が起こっている。事故が発生する度に韓国ガス安全公社など関係機関が安全点検を施行してきたが、安全と直結した不良事例は絶えない。

■「イイル産業」(이일산업;二日産業)は、同社のウェブサイトによると、1999年に設立し、イソパラフィン溶剤の生産を始めた石油化学会社で溶媒や機能性溶剤などを手がけ、2010年には産業用燃料(バンカーC重油)の生産も行っているという。一方、メディアによると、廃油精製や貯蔵タンク賃貸事業を行っているとも言われているが、同社のウェブサイトには記載がなく、実態はよく分からない。

■「CAFS(キャフス)」は、Compressed Air Foam Systemの頭文字をとった圧縮空気泡消火装置で、水と消火薬剤を高圧の空気で混ぜて泡を作り、消防ホース経由して消火ノズルで噴射する。図を参照。最近は、このシステムを車両の中に組み込んだ自走するものが出ている。CAFSは世界的に採用され始め、日本でも東京消防庁や横浜消防本部など地方自治体の消防署に配備されているところが出ている。 CAFSの放水状況は「春日部市消防本部 CAFS放水訓練」を参照。

 なお、バテル研究所では、フッ素フリーの泡薬剤に関する従来の消火ノズルでのテストと圧縮空気式消火泡によるテスト結果について言及しており、 「フッ素フリー泡薬剤(F3)の研究の重大な欠陥を浮き彫り」202110月)を参照。

所 感

■ 今回の事故は直接原因は、保全/火気工事のミスによるものとみられるが、間接要因は火気工事環境を確認しなかった運転ミスだとみられる。事業所による作業許可書のガス濃度測定が実施されていないとみられる。米国CSB(化学物質安全性委員会)がまとめた安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」20117月)以前の安全に関する基本的意識の欠如であろう。

 韓国の全羅南道麗水市にある麗水国家産業団地にある会社のタンク事故については、「韓国の全羅南道でポリエチレン貯蔵タンクが爆発して死傷者」20134月)を紹介し、当時、事故が多発にしており、関係機関が安全点検を施行してきたが、安全と直結した不良事例は絶えないと言われていた。今回の事故をみると、その教訓は活かされていない。

■ 火災・爆発の被害は計10基のタンクに及んでいるが、事故の詳細な状況はよく分かっていない。火災鎮火後の現場の空撮写真を見ると、同じ防油堤に設置されているタンク10基が被災している。発災タンクは重質ナフサ(重質ガソリン)が貯蔵されたタンクだというので、廃油リサイクル装置(廃油精製装置)の一連のタンクではなかろうか。重質ナフサのタンクは、屋根部が噴き飛んだ小型タンク(容量90KL程度)のいずれかであろう。タンク屋根部が噴き飛んだ後、配管などから漏れ出した油が防油堤内に溜まったあと堤内火災になり、残りの9基のタンクへ延焼したのではないかとみられる。

■ 消火活動は4時間かかっている。鎮火後の現場の空撮写真を見ると、屋根の無いタンク内の油はほとんど無いので、燃え尽きた状態に近かっただろう。おそらく初期の段階では、タンクが爆発しており、近寄るのは危険と判断したと思う。消防当局によると、「工場にあった貯蔵タンク73基のうち計10基の被害があったが、迅速な消火活動の対応で被害を最小化できたという」  確かにタンク施設は距離がなく、同じ防油堤内のタンクに限定されたのは適切な消火活動だったといえる。

 「圧縮空気泡消火装置のCAFS(キャフス)を搭載した消防車を活用した」とあるが、これは日本の消防署が保有しているものと同じシステムだとみられ、火災後期の段階で使用されたものだろう。燃え盛る小型タンク施設の消火活動で貢献したのは、大型化学消防車とスクアート車だと思われる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

 ・Jp.yna.co.kr, 化学工場で火災 3人死亡,  December  13,  2021

   Joshrc.net,  麗水産業団地で爆発事故、労働者三人が亡くなる,  December  15,  2021

   Yna.co.kr,  여수산단 화학공장 폭발·화재로 작업자 3명 사망(종합2),  December  15,  2021

   Chosun.com, 여수산단 화학 공장서 폭발 화재… 작업자 3명 사망,  December  13,  2021

   Imnews.imbc.com, 여수산단 화학공장 폭발 화재‥2명 사망 1명 실종,  December  13,  2021

   News.kbs.co.kr, 여수산단 폭발 화재 원인은?…안전 수칙 제대로 지켰나,  December  15,  2021

   M.hankookilbo.com,  '3명 사망' 여수산단 폭발 이일산업, 안전 규정 무더기 위반,  December  28,  2021

   M.kmib.co.kr, 여수산단 폭발·화재 2차 대형피해 막은 전남소방,  December  14,  2021

   News.sbs.co.kr,  " km 밖에서도 들려" 여수산단 또 폭발사고, 3명 사망,  December  13,  2021

   Pressian.com, 여수산단 폭발화재 사고 현장 이일산업 대표 공식 사과문 발표,  December  21,  2021

   Mk.co.kr, "'' 소리에 검은 연기 치솟아"…아찔했던 여수산단 폭발사고,  December  13,  2021

   News1.kr, '3명 사망·실종' 여수산단 화재…상부 프레스 배관 작업 중 폭발,  December  13,  2021  


後 記: 今回の事故は昨年起きたものですが、今年になってから知ったものです。韓国語で検索すると、被災写真を含めてすごい量の情報が出てきます。さすがにインターネット時代の先端を行く韓国です。しかし、韓国では、「裏を取る」より、取材で聞いた話をいち早く伝えることを大切にしているようです。今回の場合、まず会社の形態がメディアによってまちまちです。インターネットで調べても会社自身が古い記事しか掲載していません。結局、はっきりとしたことは分からず、発災の状況やこれまでの経験から廃油リサイクル装置(廃油精製装置)と所感で述べることにしました。発災タンクの内液についても最初の情報が違っていました。重質ナフサ(重質ガソリン)と報じているメディアがあり、それを採用しました。しかし、発災事業所のウェブサイトでは、そのような液を生産しているとなっていません。情報量は確かに大量にあるのですが、どれが真実(らしい)情報かを選択するのに時間を要した事例です。

2022年1月22日土曜日

米国ペンシルバニア州で固定屋根式タンクの脆性破壊事故(1988年)

  今回は、198812日(土)、ペンシルベニア州フローレフェにあるアシュランド・オイル社のタンク・ターミナルで固定屋根式タンクが脆性破壊を起こし、内部の油が全量流出した事例を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災施設は、ペンシルベニア州(Pennsylvania)アレゲニー郡(Allegheny)フローレフェ(Floreffe)にあるアシュランド・オイル社(Ashland Oil Co. : 現在のAshland Inc)のタンク・ターミナルである。タンク・ターミナルは、ピッツバーグ(Pittsburgh)の南方約25マイル(40km)に位置している。

■ 事故があったのは、タンク・ターミナルにある直径120フィート(36.6m×高さ48フィート(14.6m)で、容量400万ガロン(15,100KL)の固定屋根式(コーンルーフ)タンク(TankNo.1338)である。内液はディーゼル燃料(No.2ヒューエル・オイル)用である。

■ タンクは1940年頃にオハイオ州(Ohio)クリーブランド(Cleveland)に建設・使用されていたが、 19865月に解体され、オハイオ州東隣のペンシルベニア州で再組立てされたものである。


< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 198812日(土)午後5時頃、タンク・ターミナルにあるディーゼル燃料用タンクが縦方向に破壊した。タンクに油を入れるのは初めてのことだったが、液高さが14.0mに達したとき、突然、雷のような音が約30秒間続 き、タンク内の油が一気に噴出した。

■ タンク・ターミナルはモノンガヒラ川(Monongahela River)の近くにあった。タンクには、385万ガロン(14,600KL)のディーゼル燃料が入っており、全量が流出して石油施設の敷地に溢れだし、さらに約775,000ガロン(2,937KL)の油がモノンガヒラ川に流れ込んだ。このアッシュランドのタンク破壊事故は国内史上最悪の内陸油流出のひとつになった。

■ タンク破壊は、アシュランド社のペンシルベニア州フロレフェにあるタンク・ターミナルに設置されて初めて満杯にされたときに発生した。タンクは、以前オハイオ州で使用されていたもので、そこで解体され、ペンシルベニア州に移されて再び組み立てられていた。タンクが破壊したので、385万ガロン(14,600KL)のディーゼル燃料が貯蔵施設にあふれ、さらに油の一部が土盛り堤を越え、隣接する施設を横切って流れ出て、近くの排水溝に達した。流出した油は排水溝を通って約775,000ガロン(2,937KL)がモノンガヒラ川に流入した。

■ タンクが破壊し、大量の油が一気に放出することによって事故現場で発生する力はかなりのものだった。地元住民の中には、タンクが壊れるとき、低いレベルの爆発のような音が聞こえたと語っている。タンクから放出される油は、実際、タンクと基礎を引き離し、タンク本体を切り裂き、曲げてしまった。ペンシルベニア州環境保護局(DEP)によると、タンクの鋼製側板はねじ曲げられ、歪んだまま地面に残されており、「側板自体は、元の場所から東方へ約120フィート(36m)位置がずれていた。鋼製の柱や他の支持部材は鋭角に曲げられて、最初あった場所から遠くへ放り投げられていた」という。

■ 約100フィート(30m)離れた別の大きな貯蔵タンク(Tank No.1367)は、破裂したタンクから押し寄せる油の衝撃によって側板部が凹んでしまい、基礎からズレてしまった。次に近かった別なタンクは放出した油が飛び散ったところにあり、側板が地面から約40フィート(12m)のところまで褐色に汚れていた。流出経路にあった1個の小さな構造物も流された。

■ 流出事故に伴い、アッシュランド施設近くの住民242世帯(約1,200人)が自宅から避難を余儀なくされた。タンク破壊時、油流出に伴うタンク破片が別の百万ガロン(3,790KL)のタンクに接続されているガソリンラインを壊して、配管から約20,000ガロン(76KL)のガソリンが漏洩した。ディーゼル燃料とガソリンの混合液は爆発する危険性があり、これが住民避難の主要因だった。避難指示は14日(日)正午頃に解除された。

■ 川の近くを通る線路や道路は、人の健康と火災の危険性への懸念から、鉄道と車両の交通が停止された。

■ 油膜がモノンガヒラ川とアレゲニー川の合流点に到達し、さらに一緒になってオハイオ川に流れていき、18日までにウェスト・バージニア州のホイーリングに達した。モノンガヒラ川への流出はオハイオ川へ広がり、このための水質汚染は深刻な事態を引き起こした。公共水道系が閉鎖され、ペンシルベニア州、オハイオ州、ウェスト・バージニア州の約80の自治体で100万人以上が影響を受けた。一部の町では、8日間、水道が利用できなかった。また、水質汚染によって多くの鳥や魚が死んだ。

■ タンクの破壊状況の推定動画が米国環境保護庁(EPA)からユーチューブで公開されている。(YouTube,Ashland Oil Company Diesel Fuel Spill 1988 Allegheny County, Pennsylvaniaを参照)

 

■ 容量400万ガロン(15,100KL)のディーゼル燃料用タンクが破壊し、内部に入っていた385万ガロン(14,600KL)の油が全量流出した。

■ 油流出に伴うタンク破片によってガソリンラインが壊れて、配管から約20,000ガロン(76KL)のガソリンが漏洩した。また、油の流出によって隣接タンクの側板が凹んだ。

■ 近くにあったモノンガヒラ川に約775,000ガロン(2,937KL)の油が流出し、大規模な水質汚染を引き起こした。この影響によって公共水道系が閉鎖され、ペンシルベニア州、オハイオ州、ウェスト・バージニア州の約80の自治体で100万人以上が影響を受けた。 

■ 近くに住む住民242世帯(約1,200人)が予防措置として自宅から3日間避難を強いられた。   

< 事故の原因 >

■ 事故原因はタンク側板材の脆性破壊である。その要因はつぎのとおりである。

 ● タンクが初めて満杯にされたとき、タンクの側板が裂けており、使用材料が不適切だった。事故発生時の気象状況は、 気温-3.3℃、 湿度41%、風速4.1m/s、受入れ油の温度7.8℃、 破壊起点の側板の推定温度3.3℃で、タンクがさらされた低温と応力に対して十分な耐力をもっていなかった。

 ● アッシュランド社は、40年前に製作されていたタンクを安易に解体・再組立てし、当時の業界規格を満たす材料を使用していなかったし、これらの規格で要求するテストも行っていなかった。

 ● 当時の米国環境保護庁(EPA)の規制は、石油貯蔵施設の運営者が業界規格を使用してタンクを建設し、テストすることを要求していなかった。

■ 事故原因の調査結果の詳細は、Investigation into the Ashland Oil Storage Tank Collapse on January 2, 1988および「石油タンクの脆性破壊事故」を参照。

< 対 応 >

■ 沿岸警備隊と石油会社に雇用された請負会社による流出油のクリーンアップはオイルフェンス、バキューム車などを使用して行われ、冬の天候によって妨げられが、流出したディーゼル燃料とガソリンの混合液387万ガロン(14,676KL)のうち約298万ガロン(11,290KL)を回収したと報告されている。それでも、約89万ガロン(3,370KL)の油は回収されなかった。一方、米国環境保護庁(EPA)は、川に流出した油の20%を回収したと述べている。 注;流出量約775,000ガロン(2,937KL×20%=回収量約155,000ガロン(587KL) 未回収量約620,000ガロン(2,350KL

■ アッシュランド社は、発災から1か月後の127日(水)に、事故のあったタンクを再組立てする際、以前の溶接部に欠陥があったことを認めた。19861117日のメモによってX線撮影された39個のうち22個の欠陥があった。 しかし、欠陥は40フィート(12m)の割れがあったタンクの領域ではなかったという。また、再組立て後の水張検査は液位1.5mで行われ、漏れは無かったという。

■ 流出した油のクリーンアップ費用は1,100万ドル(14億円)かかった。

■ 19886月、 国立標準局(National Bureau of Standards NBS)は、事故の物理的原因について調査結果(Investigation into the Ashland Oil Storage Tank Collapse on January2, 1988)をまとめた。

 ● タンク側板の使用材料を分析したところ、ASTM A 283 grade D steel相当(SS400類似品)だった。API Std 650 Welded Tanks for Oil Storage)の適用材料から外れ、引張強さとシャルピー衝撃値が不足する材料だった。

 ● タンクは脆性破壊で壊れているが、タンク側板にはペンシルベニア州フローレフェにおける再組立て前から欠陥があり、これが起点となった。欠陥は、基礎部から約8フィート(2.4m)上で、側板1枚目と2枚目の間で水平溶接継手の下部に位置しており、溶接によるものでなく、ガス切断によるものとみられる。

 ● 側板材料に十分な強さが不足していたので、破壊の伝播を抑えることができず、タンク側板が完全な断裂に至った。タンク側板の溶接品質はAPI Std 650を満足するものではなかったが、破壊の起点になった要因ではなかった。しかし、欠陥に近傍した溶接は金属の脆化に寄与したとみられる。

 ● タンク基礎の安定性の欠如が側板に過度な応力をかけた可能性を調査したが、基礎部に問題は見つからなかった。

■ 1989年に米国会計検査院(Government Accountability Office GAO)による調査結果が議会に報告され、つぎにように指摘された。

 ● 米国環境保護庁(EPA)の規制は、石油貯蔵施設の運営者が業界規格を使用してタンクを建設やテストすることを要求していない。

 ● アッシュランド社のタンクは、当時の業界規格を満たす材料で構成されておらず、これらの規格で要求するテストが行われていなかった。

 ● タンクが初めて満杯にされたとき、タンクの側板が裂けた。金属分析の結果、タンクがさらされた低温と応力に対して十分な耐力をもっていなかった。



補 足

■「ペンシルベニア州」(Pennsylvania)は、米国北東部に位置し、人口約1,300万人の州である。気候は多様な地形により様々であるが、総体的に冬は寒く、夏は降水量が多い。

 「アレゲニー郡」(Allegheny)は、ペンシルベニア州の南西部に位置しており、人口約122万人の郡である。同郡には主要都市のピッツバーグ(人口約30万人)がある。

 「フローレフェ」(Floreffe)は、アレゲニー郡のジェファーソン・ヒルズにある区域である。

「アシュランド・オイル社」(Ashland Oil Company :現在のAshland Inc)は、1924年にケンタッキー州アシュランドに石油精製会社として設立された。その後、複数の石油精製会社を合併して発展し、石油化学にも進出した。化学事業が中心となったことから、1995年に社名をAshland OilからAshland Inc.に変更した。

■「当時の規制」 アッシュランドのタンク破壊事故は、米国の州レベルと連邦レベルの両方で地上式貯蔵タンクの不十分な規制を浮き彫りにした。当時の米国環境保護庁(EPA) によると、当時、地上式貯蔵タンクを規制していた法律があったのは15州だけだった。米国の州の半分以下が地上式貯蔵タンクの流出を追跡することさえ気にしなかったという。規制を行った州の中でも、管轄区域や管轄当局が不明確であり、時にはいくつかの機関に分散しており、流出や地下の漏洩事故が学校、水道、住宅地を脅かした場合、地方の管轄当局は混乱していた。

■ 材料に力を加えていくと、通常、弾性変形し、次に塑性変形をし、さらに力を加えると破壊に至る。しかし、塑性変形をほとんど伴わず、破壊が起こることがあり、目に見える変形を伴わずに、突然、破壊が起こる現象が「脆性破壊」である。たとえば、鋳鉄や黒鉛などは曲げる方向に力を入れても曲がらず、突然、折れてしまうが、これが脆性材料である。一方、鉄鋼材料でも「低温環境」、「引張応力が高いこと」、「応力が一点に集中すること」などの条件によって脆性破壊が起こる。これが分かったのは、第二次世界大戦中、米国で製造された溶接接合が採用されたリバティ船が真二つに割れて沈没する事故が多発したが、これが脆性破壊を知るきっかけになった。この事例や脆性破壊については失敗知識データベース「リバティー船の脆性破壊」を参照。

所 感

■ この事例は今から34年前の1988年の事故であるが、当ブログで紹介した19602003年までの43年間に起こった事故をまとめた「貯蔵タンク事故の研究」20118月)の中で、貯蔵タンクの割れによって川に流出した事例として出てくるほど有名な脆性破壊の事故である。しかし、事故状況の詳細は知らなかったので、まとめてみた価値はあった。タンク再組立て時の材料選定や溶接技術などの欠陥問題はわずか34年前の技術立国である米国の一姿であるが、日本ではありえないと思わず、謙虚に読むのがよいと感じる。

「地上式貯蔵タンクの破壊による液流出のモデル化と軽減策の検討」201511月)では、 主な事例として、米国ペンシルベニア州の燃料油タンクが破壊し、防油堤内に流出し、別なタンクに損傷を与えたほか、油が防油堤を越えていった事故として掲載されている。

 「地上式貯蔵タンクの破壊による液流出のモデル化と軽減策の検討」では、結論として「はっきりしたことは、貯蔵タンクに壊滅的な破壊が生じた場合、たとえ防油(液)堤が損傷しなくても、貯蔵されていた液の70%を超える量が越流して堤外の環境へ影響を与えるということである。その上、流出液による衝撃に対して、2次封じ込め設備が耐え得るか疑わしい。堤の構造にはいろいろあるが、一般的に設計された堤には、6倍の動圧力がかかる」としている。ペンシルベニア州の事故では、「14,600KLのディーゼル燃料の全量が流出して石油施設の敷地に溢れだし、さらに2,937KLの油がモノンガヒラ川に流れ込んだ」といい、貯蔵タンクの20%が防油堤を越えて川に流出している。また、「約30m離れた別の大きな貯蔵タンクは、破裂したタンクから押し寄せる油の衝撃によって側板部が凹んでしまい、基礎からズレてしまった」とあり、「液流出のモデル化」が机上の話ではないことを物語っている。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Pophistorydig.com, “Disaster at Pittsburgh” 1988 Oil Tank Collapse,  April  06,  2015

    Washingtonpost.com, WATER SCARCE FOR 750,000 AFTER OIL SPILL,  January 04,  1988

    Epa.gov, Floreffe, Pennsylvania Oil Spill

    Apnews.com, Oil Spill Fouls River, Threatens Water for 750,000,  January 04,  1988

    Apnews.com, Bad Welds Detected A Year Before Tank Collapsed,  January 27,  1988

    Govinfo.gov, Investigation into the Ashland Oil Storage Tank Collapse on January 2, 1988,  June,  1988

    En.wikipedia.org, Ashland oil spill,  December 20,  2020

    Jstage.jst.go.jp, 石油タンクの脆性破壊事故, JHPI Vol.31 No.2 1993


後 記: 今回の事故では、前回の「米国における貯蔵タンクの保守とリムシール火災後の対応」(2022112日)を紹介したとき、事例のひとつとして載っていたのをきっかけに調べたものです。なにせ34年前の事故ですし、インターネットでどのくらい情報が集まるかと思っていましたが、意外にいろいろな情報が検索できました。さすがに記録好きの米国だと感じました。一か月も立たずに情報が消える日本と違うと実感しました。ところで、今回の事故の事象で悩んだのが「破壊」という言葉です。いままでは事故では、「損傷」、「損壊」、「破損」などを使っていましたが、事故の激しさから見てしっくりきません。「崩壊」という言葉を使っているのもありましたが、脆性破壊の「破壊」という言葉を使いました。





2022年1月12日水曜日

米国における貯蔵タンクの保守とリムシール火災後の対応

 今回は、20211221日付けのインターネット情報誌のIndustrial Fire Worldにあった“Fire Protection for Floating Roof Tanks (浮き屋根式タンクの火災防護)の内容を紹介します。

背 景

■ 米国全体でAPI規格(米国石油協会)の貯蔵タンクは数十万基が使用されている。その中で、比較的少ないが、火災が発生したり、あるいは壊滅的な事態を引き起こしている。 しかし、異常事態を常に準備しておくのが最善の策である。

屋外貯蔵タンクの仕様

■ タンク所有者は、緊急事態の時だけでなく、日常の保全や検査に活用できるタンク仕様のリストを保持しておくべきである。タンクの直径や高さ、貯蔵容量、タンク内に入っている製品の種類、タンクの断熱材の有無、断熱材の種類、計装機器の種類、屋根の種類などが分かるようにしておくことが大切である。

■ タンク所有者は、現貯蔵量、貯蔵できる容量、製品の温度、気体か液体か、製品の引火点と爆発限界などタンク貯蔵製品にも精通しておくべきである。

■ API Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction)は、API Std 650Welded Tanks for Oil Storage)とAPI Std 12CSpecification for Welded Oil Storage Tanks)の規格のもとで策定された地上式貯蔵タンクのための規格である。初版は1991年に発行され、その後5回改訂され、最新版は2014年に更新された。環境保護庁の文書局によると、1980年代後半にあった一連の壊滅的なタンク損壊事例により、米国石油協会(API)は3つの新しい規格、すなわち API Std 650API Std 651Cathodic Protection of Aboveground Petroleum Storage Tanks)、API Std 653を策定した。

■ ある事例では、地上式貯蔵タンクで漏洩があり、サウスダコタ州の学校が閉鎖に至った。別の事例では、タンクの損壊に続いて、10万ガロン(379KL)のディーゼル燃料がカリフォルニアの水路に流出した。 1988年には、タンク損壊後、ペンシルベニア州のモノンガヒラ川に約100万ガロン(3,790KL)が流出した。

■ 貯蔵タンクは、数千ガロン(数十KL)から数百万ガロン(数万KL)までの間でどのようなサイズでも設計ができ、建設することができる。技術が進歩するにつれて、より大きな貯蔵タンクをつくることができるようになった。タンクのサイズが極めて大きくなると、火災になった大型タンクは消火することが困難になる。また、大型タンクの製造コストが高くなると、損傷すれば物的損害額も大きくなる。

■ 貯蔵タンクは引火性や燃焼性の内容物を幅広く貯蔵できる。これらのタンクは、メキシコ湾岸沿いのタンク基地に集中している場合もあれば、製造施設、空港、発電所など全国のさまざまな場所で見られる場合もある。

浮き屋根式タンクのリムシール火災

■ 原油などの引火性の高い液体は、通常、浮き屋根式の貯蔵タンクに入れられる。タンク内の液面が変化する際、浮き屋根は蒸発損失を最小限に抑えるのに役立つ。さらに、火災を防ぐのに役立つ。浮き屋根をもつ貯蔵タンクにおける火災のほとんどは落雷によるものである。外部式浮き屋根型タンク火災のほとんどは落雷によって引き起こされるリムシール火災である。落雷によってベーパーに引火し、それから火災に至る。通常、タンク内の圧力を下げるか、ドライケミカルの消火器を使用すると、炎は消える。 

■ 屋外貯蔵タンクの火災は、実際には過去40年間減少傾向にある。 2014年のNFPA(全米防火協会:National Fire Protection Association) の報告によると、貯蔵タンクの火災は年間平均1,142件で、火災による負傷者発生は28件であった。2011年の時点では、火災の数は76%減の275件で、負傷者はひとりだった。過去10年間で火災は少なかったものの、NFPAの報告書によれば、屋外貯蔵タンクにおける火災が依然として約300万ドル(330百万円)の直接的な物的損害を引き起こしている。

■ 米国では、屋外貯蔵タンク火災の多い時期は5月から8月の間である。全火災の約三分の一が落雷による引火源であり、嵐の多い期間と重なっている。晩春から夏の気象条件は、通常、雷雨が発生しやすく、雷雨は、もちろん、稲妻を発生させる。

■ 貯蔵タンク火災のほぼ半分は正午から午後8時の間に発生している。米国海洋大気庁の国立暴風雨研究所(National Severe Storms Laboratory)によると、雷雨は正午から夕方の時間帯に最も多く発生する。落雷は引火源の三分の一強の原因となっている。暴風雨が貯蔵タンク火災の約三分の一の引火源になっていると考えられている。

■ ひとの迅速な行動は小さな火災が拡大するのを防ぐのに役立つ。ニュース報道によると、テキサスの油田労働者がすばやく動いて消火器で炎を消火し、おそらく落雷によって引き起こされた火災を消すことができた。油田労働者の行動が油の漏洩や流出を防ぐのに役立った。 

■ ひどい嵐に続いて明らかに火災になった後には、損傷具合を評価するため貯蔵タンクについてすべての検査を行うべきである。検査は、タンクの屋根、側板、底板、基礎について徹底的に評価すべきである。浮き屋根が損傷した場合、修復は元の構造図面と一致するようにすべきである。タンクへの機械的損傷は、損傷の軽重程度と損傷した部品に応じて、修復するか完全に取替えるか直ちに対処すべきである。

■ たとえば、浮き屋根の損傷したシール部は修理ではなく、取替えるべきである。API Std 6537.13.2項に従って、リムに取り付けられたシール部やシューに取りつけられた2次シール部は、タンクの供用中に簡単に修理や取替えができるかも知れない。 API Std 6537.13.1項によると、蒸発による損失を最小限に抑え、作業者への潜在的な危険を減らすために、供用中のタンクの工事では、一度に屋根シール系の四分の一を超えないようにすべきである。 

補 足

■ 筆者のエリン・シュミットさん(Erin Schmitt)は、 2019年に100周年を迎えたピッツバーグ・タンク&タワー・グループ(Pittsburg Tank & Tower Group)でメディア・ディレクター/テクニカル・ライターを務めている。彼女はケンタッキー大学でジャーナリズム学を専攻していた。

■ 貯蔵タンク火災の原因は落雷が全体の三分の一であるという。これは、「貯蔵タンク事故の研究」 20118月)の中でも指摘されている。この要因について解説されていないが、米国の陸上油田におけるタンク施設が大きく寄与していると思われる。この種の施設は小型タンクであり、多くは落雷に弱点のある固定屋根式タンクのためである。このブログの「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報についてーその3 20209月)では、 原因不明を除いた事故件数を分類してみると、落雷による事故件数が多く、全体の三分の一に近い。一方、原因推定別の事故件数では、 落雷を抜いて「保全/火気工事」がトップとなった。

■ 筆者は、「米国では、屋外貯蔵タンク火災の多い時期は5月から8月の間である。全火災の約三分の一が落雷による引火源であり、嵐の多い期間と重なっている。晩春から夏の気象条件は、通常、雷雨が発生しやすい」と指摘している。確かに米国では春から夏にかけてメキシコ湾岸における陸上油田のタンク施設の火災が多く、指摘は当たっていると思う。ただし、最近は落雷によるタンク火災は春から秋に移行しているように感じる。

 筆者はタンク火災が5月から8月の嵐の多い気象条件だと指摘している。一方、 「この10年間の世界の貯蔵タンク事故情報についてーその3では、四半期ごとに分けてみると、第1四半期(13月)と第4四半期(1012月)に比べ、第2四半期(46月)と第3四半期(79月)が多い。見方を変えれば、4月~9月にタンク事故が多く、人の活動期と関係があるように見えるとした。この根拠として、曜日ごとの事故件数では火曜~金曜が多く、土曜・日曜が少なく、1週間における人の社会・経済活動と関係があるとみている。  

■ 筆者は、浮き屋根式タンクのリムシール火災に注目し、浮き屋根の損傷したシール部は修理ではなく、取替えるべきと指摘している。また、API Std 6537.13.1項を引き合いに出して、蒸発による損失を最小限に抑え、作業者への潜在的な危険を減らすために、供用中のタンクの工事では、一度に屋根シール系の四分の一を超えないようにすべきであると解説している。 内部浮き屋根式タンクであるが、供用中の検査方法はAPI会議で発表になっている。(「内部浮き屋根シールの供用中検査の方法」 20118月を参照)

 一方、「リムに取り付けられたシール部やシューに取りつけられた2次シール部は、タンクの供用中に簡単に修理や取替えができるかも知れない」と解説している。 これは、リムシールの構造の違いである。米国では、長期使用が可能なメカニカルシール方式が多く、日本のフォーム・ログ・シール方式と異なる。メカニカルシール方式では、主シールのメタリック・シューのほか、2次シールがあり、接地用のシャンツ設備が付いている。シャンツについてはAPIでリムシール火災の要因になっていると議論になった。(「可燃性液体の地上式貯蔵タンクの避雷設備」20115月を参照)

所 感

■ 米国における貯蔵タンクの保守に関する基本的な考え方が分かる資料である。米国では、タンク側板、底板、浮き屋根、リムシールなどタンクに使用されている部品はすべて長期使用を前提にしている。リムシールはメカニカルシール方式で、たとえリムシール火災があっても、その後の対応では供用中にシール部を取替えるという考え方である。日本では、シール部にエンベローブ(カバーシート)内にウレタンフォームを圧縮した状態で包み込むフォーム・ログ・シール方式であり、供用中(運転中)に交換を行うことはない。日本のように十年周期をひとつの前提として開放検査の義務化をしている国とは考え方が異なってくる。長期使用可能といってもメンテナンス・フリーではない。このために制定されたのが、API Std 653Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction)である。これらのことを理解して資料を読む必要があろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com, Fire Protection for Floating Roof Tanks(浮き屋根式タンクの火災防護), by Erin Schmitt,  December 21, 2021        


後 記: 年末には、新型コロナは収まっているなと思っていたら、年明けて一週間も立たずに、ここ山口県ではまん延防止等重点措置が初めて適用される事態に急変化です。山口県では岩国市と和木町に限定されていますが、私が住んでいる周南市近辺でも結構な感染者が出ています。隣県の広島県でもまん延防止等重点措置が適用されており、安芸の宮島も正月は初詣でにぎわっていたのが、先日のニュースでは閑散としていました。うんざりですが、しばらくはマスクを手放せない生活です。

 このブログで20203月に「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)に備えて知っておくべきこと」と「新型コロナウイルスの伝染性は高い? 低い?」を出してから2年ほどになりますが、ウイルスはワクチンの効かない新しい株の開発(?)などの戦略で人間の対応戦術を上回っていますね。2020年では、ダイヤモンド・プリンセス号の水際作戦が失敗し、今回も日本の米軍基地が水際作戦の抜けになっています。もしかしたら、英国で当初にとった対策のように、米軍は兵士の集団免疫の戦略をとったのではないかとうがった見方をしてしまいますね。

2022年1月6日木曜日

2012年米国テネシー州核兵器施設への侵入事件とセキュリティ問題

 今回は、20211109日付けのインターネット情報誌のIndustrial Fire Worldにあった“Security or Pseudo Security?”(セキュリティあるいは疑似セキュリティ?)の内容を紹介します。

< 背 景 >

■ 産業施設の警備建屋で鳴り出している点滅するライトやけたたましいアラームは、本物のセキュリティ事象なのか、あるいはテスト用の疑似セキュリティを表しているのか? 2012年にテネシー州オークリッジの核兵器施設で起こったセキュリティ違反事例は、監視している人間が自分たちの仕事についてあきあきしたようになった場合、世界中のどんなハイテクのセキュリティ機器であっても役に立たないことを示した。

■ テネシー州オークリッジの核兵器施設はY-12と呼ばれ、 正式には「Y-12国家安全保障複合施設」(Y-12 National Security Complex)で、最初の原子爆弾のウラン濃縮を目的として建設された。第二次世界大戦後の数年間、核兵器部品や防衛目的の製造施設として運営されていたが、冷戦終結以来のY-12の主な使命は、核兵器備蓄管理に変わり、ウラン部品の保守と生産を行っている施設である。

■ リスクマネージメントの専門家であるデイビット・ホワイト氏が、オークリッジの核兵器施設のセキュリティ違反を事例にしてセキュリティの本質について解説する。

< 核兵器施設への侵入事件 >

■ 2012728日の夜明け前、Y-12国家安全保障複合施設ではっきりと表示されている高度セキュリティの境界線を3人の核兵器抗議者たちが越えていった。そこには兵器用ウランを貯蔵している非常に要塞化された構造物があった。その建物へ行こうと、抗議者たちはボルトカッターを使用して三か所のフェンスを通過していった。

■ 二番目のフェンスを切断した後、抗議者たちは複数のアラームのマイクロ波センサーを作動させた。あいにく、その地域を監視するために用いられていた(閉回路)テレビカメラは作動しなかった。

■ テレビカメラが使用できないとき、施設の実施要綱では、直ちに現場に担当者を派遣し、何が起こっているか確認する必要があった。しかし、そのような対応がとられることは無かった。

■ 抗議者たちが制限区域の奥深くに侵入すると、人感センサー(モーション・ディテクター)が作動した。このときには2種類のアラームが鳴っているので、セキュリティ担当者は侵入者が存在する可能性が高いと推測すべきだった。しかし、繰り返しになるが、対応はとられなかった。

■ 妨げられることなく、抗議者たちは、光ファイバーセンサーが設置されていた三番目のフェンスを切断した。しかし、このアラーム・システムはいつもよく鳴ることで悪名高かった。この理由のため、コントロール・センター(中央管理室、管制センター)によって半ば当然のように無視された。

■ その間、人感センサーが感知しているにもかかわらず、抗議者たちは先へ先へと進んだ。一番奥のフェンスを切断し、抗議者たちはカラースプレーで「戦争ではなく平和のために活動せよ」と書き、建物に人の血をまき散らした。抗議者たちがハンマーで建物を叩いたときは、その音は建設作業の騒音だと間違えられた。

■ 最終的に警備員(セキュリティ担当者)が駆け付けた。しかし、監督者が数分後に到着するまで、抗議者たちは拘束されなかった。最初のフェンスが切断されてから約2時間後、ようやく防護区域の封鎖が命じられ、抗議者たちは拘束された。

■ 悪賢く、ステルスのような侵入者はどんな人物だったのか ? 敵のスパイ ? テロリスト ? 世界支配に傾倒していた人物 ? これらのどれでもなかった。侵入者は82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だった。彼らはオークリッジにある政府施設への侵入と物損に関連した重罪の罪に問われた。

■ 1988年以来、オークリッジ環境平和同盟は、兵器工場を閉鎖するために、Y-12国家安全保障複合施設で非暴力の直接行動抗議を組織してきた。カトリックの修道女たちもオークリッジ施設で抗議活動を行ってきている。

■ 抗議者たち三人が貯蔵所の建物内に入ることに成功しなかったにもかかわらず、現場のセキュリティを管理している会社はすぐに契約を失った。下院エネルギー・商業委員会の監視と調査に関する小委員会は、セキュリティ違反に関して国家核安全保障局における問題について3月に公聴会を開催した。

< セキュリティは疑似セキュリティと異なる >

■ 米国にあるプラントや製油所と比較すると、Y-12の核兵器施設はまったく安全だといわれていた。 なぜなら、あなたの工場に人感センサーが設置されているか? 光ファイバーセンサーはどうか? マイクロ波センサーは?  いたるところに懐中電灯をもったガードマンがいる。にもかかわらず、施設内を通っていっただけでなく、中に入って混乱させたことは明らかである。

■ 高度なアラーム・システムを効果的に運用するためには、行動を起こすような人にアラーム・システムの高度さを知っておくようにするのもひとつである。逆に言えば、防護施設の四方に効果的な対応策が施されているため、行動を起こすような人には思い通りに使えるツールが必要となる。

■ それでも、私たちは勤務時間中のガードマンに武装させることすらしていない。なぜか? それは高価すぎると施設所有者はいう。しかし、それは真実ではない。不正な人が現代産業の核燃料に近づこうとする場合、高すぎるということはない。D・ウィリアムズ氏はそのことを最もよく言い表し、「私たちはそこでケーキ生地を作っているわけではない」と語っている。

■ これを読んでいる多くは反射的に「なぜデイビットさんはそこまで言うのだろうか」と考えるだろう。そのような人は、セキュリティの問題に直接対処するよりも、むしろ疑似セキュリティの領域を好むだろう。そのような人は「デイビットさん、誰もそこまで知る必要はない」という。そのような考え方をすることは悪者を過小評価するだけである。敵とみられる人が得意とすることは、ソフトターゲット(テロ攻撃に対して脆弱とみられる人や物)を見つけることだということは歴史が証明している。 

所 感

■ 今回の事例では、侵入者がテロリストでなく、 82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だったということで、心情的には侵入者に対する同情心が沸くが、セキュリティでは感傷的になることを否定する。このあたりは資料の筆者の巧みさを感じる。

■ 一方、核兵器施設で起こったセキュリティ違反事例は、監視している人間が自分たちの仕事についてあきあきしたようになった場合、世界中のどんなハイテクのセキュリティ機器であっても役に立たないことを示した事例でもある。 Y-12の核兵器施設には、人感センサー、光ファイバーセンサー、マイクロ波センサーが設置されているが、筆者はさらにガードマンに武装させるべきだと指摘する。しかし、20131月に起こった「アルジェリア人質事件・天然ガスプラントの警備状況」「アルジェリア人質事件 スタトイル社の調査報告」201310月も参照)では、 警備として配備されていた軍隊へ過度に信頼を置いてしまっていたという。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

    Industrialfireworld.com,  Security or Pseudo Security? (セキュリティあるいは疑似セキュリティ?, by David White,   November  09,   2021 


後 記:  2012年に核兵器施設で起こったセキュリティをいとも簡単に破った事例が 82歳の修道女と、63歳と57歳のふたりの男性の平和活動家だったという面白い話だったので、ブログに紹介しようと思いました。(面白がる事例ではないが) その後、20142月に修道女は84歳で禁固211月、男性2人は禁錮52月が言い渡され、刑務所に収容されたとのことですが、修道女は、「70年前にこれをしなかったことを後悔している」、 「余生を刑務所で過ごすのが最大の名誉だ」と語っています。