今回は、米国テキサス州で相次いで起った落雷によるタンク爆発・火災事故3件を紹介します。
① 2015年5月6日、「米国テキサス州バールソン郡で落雷による油井用タンク火災」
② 2015年5月7日、「米国テキサス州グレイソン郡で落雷による油井関連のタンク火災」
③ 2015年5月13日、「米国テキサス州ニュエセス郡で落雷による石油タンク火災」テキサス州の郡 |
(写真はKBTX.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はテキサス州バールソン郡ディーンビルにある油井施設である。施設はクレイトン・ウィリアムズ・エナージー社(Clayton
Williams Energy Inc.)が所有し、ディーンビルの農道111号線と郡道116号線の交差点近くにあった。同社は、原油・天然ガスの探査と生産を行っている独立系石油企業で、主にテキサス州、ニューメキシコ州、ルイジアナ州において事業を展開している。
■ 発災したタンクは、原油貯蔵用のコーンルーフ式固定屋根タンクだった。
落雷のあったクレイトン・ウィリアムズ・エナージー社の油井施設
付近
(写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年5月6日(水)未明、バールソン郡ディーンビルにある油井用施設に落雷があり、タンクが爆発し、火災となった。
■ ディーンビルに住むパム・ジンマーハンゼルさんは、「雷が落ちるのを聞いて、うぁー、これは近くだと思いました」と語り、一体何が起ったのかわからなかったという。
■ 発災施設からは炎と黒煙が空高く舞い上がった。施設のある農道111号線と郡道116号線の交差点の近くにある現場に到着した消防隊の隊員は、油井用の貯蔵タンクに落雷があったと直感した。早朝だったこともあり、消防隊は火災の制圧に苦労した。
■ 貯蔵タンク1基が噴き飛び、200ヤード(180m)離れたところに落下しており、爆発がいかに強力だったかを示していた。落ちたところは道路であったが、幸い負傷者は出なかった。
■ バールソン郡緊急事態管理部署コーディネーターのデビット・バグレー氏によると、タンクが爆発したのは、貯蔵タンク内のガスが拡散していたためで、このような状態になったタンクまわりは非常に危険だったであろうと語っている。
■ コールドウェル消防署のデビット・ピーブハウス署長によると、タンクが熱せられ、マンホールのゴム製ガスケットが燃え始め、内圧によって液が外へ漏れ始めたという。
■ 火災は数時間にわたって燃え続け、午前9時頃に消防隊によって制圧された。
燃え上がるタンク施設 (道路上に見えるのが爆発で飛んだタンク)
(写真はKBTX.com
から引用)
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被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。また、避難すべき住民もいなかった。
■ 施設にあった5基のタンクが被災した。爆発で噴き飛んだタンクは損壊した。どのくらいの原油量があったか分からないが、各タンクの容量はおよそ400バレル(63KL)なので、これから推定できるとバールソン郡緊急事態管理部署バグレー氏は語っている。
< 事故の原因 >
■ 油井用の原油貯蔵タンクに落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものである。
< 対 応 >
■ 火災発生に伴い、ディーンビル消防署、コールドウェル消防署、サマービル消防署が出動した。
■ 未明だったこともあり、消防隊は火災の制圧に苦労した。コールドウェル消防署ピーブハウス署長によると、原油火災用の特別な消火泡剤を別な消防署から持って来なければならなかったという。
■ 消防隊は午前9時頃に火災の制圧に成功した。
■ 消防署のほかに関係機関の担当者が現場に派遣された。
■ バールソン郡緊急事態管理部署のバグレー氏は、住民の避難指示を出す必要はなかったと語った。
■ 火災が鎮火した後、油井の操業を再開するため、油井従事者は被災状況の確認を始めた。噴き飛んだタンクの交換用タンクが手配され、すでに現場に到着した。
(写真はKBTX.com
から引用)
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消火泡を使用して制圧に成功した消防活動
(写真はKBTX.com
から引用)
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爆発で噴き飛んだタンク (道路端に落下)
(写真はKBTX.com
から引用)
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鎮火後のタンク施設 (写真はKBTX.com
から引用)
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運び込まれる交換用タンク (写真はKBTX.com
から引用)
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補 足
■
「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。「バールソン郡」(Burleson
County)は、テキサス州の中央部東に位置し、人口は約17,000人の郡である。郡庁所在地は、今回の火災事故に消防署が出動したコールドウェル市である。
「ディーンビル」(Deanville)は郡庁所在地コールドウェル市の西南に隣接する町である。
■ 「落雷のあったタンク」の容量は約63KLという情報がある以外、詳細はわかっていない。グーグルマップによれば、直径は約4mであり、高さ7mと仮定すれば、容量は80KL級となる。一方、噴き飛んだ距離は180mとなっているが、グーグルマップから推定すると約130~140mとみられる。なお、5基あったタンクの残り4基は外観こそ大きく損壊していないが、プール火災による損傷を受けていると思われる。
発災の油井タンク施設 (タンクは矢印のように噴き飛び、距離は130~140mとみられる)
(写真はグーグルマップから引用)
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(写真はKxii.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はテキサス州グレイソン郡ホワイツボロ郊外にある油井関連施設である。施設のあるエリアには、水圧破砕法で回収された塩水を地下へ戻す注入井がある。施設の所有者はシルバー・クリーク・オイル&ガス社(Silver
Creek Oil & Gas LLC)である。同社は、2012年創業の原油・天然ガス探査・生産を行なう独立系石油企業で、主にテキサス州、オクラホマ州を中心に事業を展開している。
■ 発災タンクは、油混じりの塩水を保管するためのもので、グラスファイバー製だった。
グレイソン郡ホワイツボロ郊外の油井関連施設付近
(写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年5月7日(木)午後7時少し前、グレイソン郡ホワイツボロ郊外にある油井関連施設のタンクに落雷があり、タンクが爆発し、火災となった。
■ 施設はハイウェイ377号線から東に入ったスカボロー通り沿いにあった。数基のタンクで爆発が起こり、大きな火災となった。タンクは火炎と黒煙で包まれた。タンク火災の黒煙は遠いところからも見えたという。
■ グレイソン郡消防保安官のケビン・ウォルトンさんによると、施設内のグラスファイバー製タンクに雷が落ちた際、タンクが破裂し、火災が始まったという。
■ 施設はまわりが空地の広い場所にあったため、火災は施設外へ拡大することはなかった。消防保安官のウォルトンさんによると、施設の損傷は甚だしく、その日のうちにタンクの内液はほとんど出てしまったという。施設には何も残っていない状況になった。全タンクが無くなってしまい、残ったのは防油堤エリアだけだったとウォルトンさんは語っている。
■ 火災は5月8日(金)朝に消防隊によって消火された。
(写真はKxii.com
から引用)
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被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。また、住民の避難を要することも無かった。
■ 施設には8基のタンクがあったが、火災によってほとんど壊滅的な状況に至った。
< 事故の原因 >
■ グラスファイバー製の油混じり塩水タンクに落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものである。
< 対 応 >
■ 火災発生に伴い、グレイトン郡消防のほか、近隣から応援の消防署が出動した。
■ 消防隊は、激しい雨と雷という厳しい天候の中で、火災と戦った。夜中は大雨による洪水のような水の流れで近づくこともできなかったが、5月8日(金)の朝になってようやく消防隊はタンク火災を消火した。
(写真はKxii.com
から引用)
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(写真はKxii.com
から引用)
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(写真はKxii.com
から引用)
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補 足
■ 「グレイソン郡」(Grayson
County)は、テキサス州北東部に位置し、人口は約12万人の郡である。
「ホワイツボロ」(Whitesboro)はグレイソン郡の西に位置し、人口約4,800人の町である。
■ 発災の油井関連施設のタンク仕様はわかっていない。発災施設とみられる場所のグーグルマップによれば、タンクは8基ある。直径は約4mであり、高さを6mと仮定すると、容量70KL級である。落雷のあったタンクはグラスファイバー製であるが、8基すべてがグラスファイバー製かどうかはわからない。(明らかに黒いタンク4基はグラスファイバー製であるが、4基は白っぽい色をしている。また、鎮火後の写真をみると、外形をとどめているタンクもみられる)
発災場所とみられる石油タンク施設
(写真はグーグルマップから引用)
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(写真はKRISTV.comから引用)
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< 発災施設の概要 >
■ 発災施設はテキサス州ニュエセス郡バンケットにある石油タンク施設である。施設はバンケットの北方で農道666号線と郡道44号線の交差点近くにある。
■ 発災したタンクは、原油貯蔵用のコーンルーフ式固定屋根タンクだった。
ニュエセス郡バンケットの石油タンク施設付近
(写真はグーグルマップから引用)
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< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年5月13日(水)午前8時30分過ぎ、ニュエセス郡バンケットの北にある石油タンク施設に落雷があり、タンクが爆発し、火災となった。当日の朝は雷を伴う嵐だった。
■ 施設はバンケットの農道666号線と郡道44号線沿いにあった。近くには住民の家が何軒かあった。爆発後に起ったタンク火災の黒煙は遠いところからも見えたという。
■ 近くにいた作業員によると、タンクに雷が落ちて爆発が起き、その結果、大きな火災になったという。
■ 発災に伴い、消防隊が出動し、タンクの火災現場へ到着した。炎は分刻みで大きくなっていった。
消防隊は、石油タンクへつながるバルブを探し、閉止して火災の燃焼を止めようと試みた。
被 害
■ 事故に伴う負傷者は無かった。
■ 施設には10基のタンクがあったが、被災状況はわかっていない。
< 事故の原因 >
■ 石油貯蔵タンクに落雷があり、可燃性ガスに引火して爆発を起こしたものである。
< 対 応 >
■ 火災発生に伴い、消防署が出動したが、消火活動はわかっていない。
(写真はKRISTV.com
から引用)
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補 足
■ 「ニュエセス郡」(Nueces
County)は、テキサス州南部に位置し、人口は約35万人の郡である。郡庁所在地はコーパスクリスティ市である。
「バンケット」(Banquete)は郡庁所在地コーパスクリスティ市の西方に位置する町である。
■ 発災の石油タンク施設の仕様はわかっていない。原油または天然ガスの油井関連と思われる。発災施設とみられる場所のグーグルマップによれば、タンクは10基ある。直径約4m×8基、直径4.8m×2基で、高さを推定して算出すると、直径約4mのタンクは容量70KL級、直径4.8mのタンクの1基は140KL級、もう1基は70KL級とみられる。
発災場所とみられる石油タンク施設
(写真はグーグルマップから引用)
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発災場所とみられる石油タンク施設
(写真はグーグルマップ・ストリートビューから引用)
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所 感
■ 今回の3件の事故をみて感じることは、本当に米国では、落雷によるタンク火災事故がめずらしくないということである。先月4月17日に起った「米国コロラド州で天然ガス生産関連施設に落雷してタンク火災」を紹介した中で、油井の塩水処理施設におけるタンク爆発・火災事故が再発するのは必至だと感じる所感を述べたが、今回の事故対応をみると、米国における認識は別なところにあると感じた。
それは、油井の原油貯蔵タンクや塩水処理施設の油混じり塩水タンクは、落雷などで火災事故の起こることは想定内ということである。戦略思考の強い米国では、原油・天然ガスの生産に関してもつぎのような戦略思考で物事を考えていると思われる。
● 原油・天然ガス生産の戦略は、生産量を増やすことであり、このため広範囲で多数の油井を確保する。
● この戦略を遂行するための兵站(へいたん)業務を充実させる。
● 落雷という敵によるタンク火災事故は、戦術上の一時撤退と考える。このため、タンク火災によるタンク損壊に対しては、すぐに対応の人員資機材を送り込む。
「米国テキサス州バールソン郡で落雷による油井用タンク火災」では、即日、交換用のタンクが現場に搬入されており、日本では考えられないような戦略思考が徹底していると感じる。
■ 一方、この種の施設の消防活動では、「攻撃的な消火戦略」ではなく、基本的に「燃え尽きさせる戦略」をとっている。その背景はつぎのとおりである。
● 火災は並置されている複数タンクに及び、火炎規模はかなり激しく、誘爆による二次災害を防ぐ必要がある。
● タンク施設の規模は大きくなく、長期間、燃え続けることはない。
● 施設のある場所は、いわゆる田舎で、まわりへの影響は少ない。
● 対応する消防機関はボランティア型消防署が多く、消防資機材が充実していない。
備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・KBTX.com,
Lightning Blamed for Explosion, Fire at Deanville
Oil Well Site, May 06, 2015
・KTEN.com, Lightning Strikes Oil Tanks Causing Massive
Fire in Whitesboro, May 08, 2015
・Kxii.com, Crews Extinguish Sadler Tank
Battery Fire, May 08, 2015
・Kiiitv.com, Lightning Causes Petroleum Tank Farm
Explosion near Banquete,
May 14, 2015
・KRISTV.com,
Lightning Strikes Oil Tank, Causing Explosion near Banquete, May 13, 2015
後 記: 今年の米国テキサス州は従来の落雷シーズンではないようです。5月25日、テキサス州知事は、竜巻や大雨による洪水被害が広がっていることを受け、州内の24郡で非常事態を宣言しています。死者も出ていますし、広範囲な地域で停電が発生しており、洪水に見舞われた地域では自宅の屋根の上に避難し救出された住民もいるとのことです。国立気象局は、竜巻やひょうを伴う激しい雷雨に見舞われる恐れがあるとして警戒を呼びかけています。
今回の「米国テキサス州グレイソン郡で落雷による石油タンク火災」でも、洪水のため火災タンクに近づけなかったといっています。豪雨とタンク火災がいっしょに進行しているということは、ちょっと想像できないですね。