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2023年9月27日水曜日

米子市のバイオマス燃料発電所の爆発・火災事故の住民説明会

 今回は、 202399日(土)に起きた米子バイオマス発電所の燃料受入搬送設備の爆発・火災事故について922日(金)に行われた住民説明会の状況について紹介します。前半はこれまでの概況と記載し、住民説明会の内容は「対応」の項に記載しています。なお、事故の内容は「米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故」2023918日)を参照。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、鳥取県米子市大篠津町にある米子バイオマス発電所合同会社の米子バイオマス発電所である。

■ 事故があったのは、火力発電所で使うバイオマス燃料である木質ペレットの受入搬送設備である。輸入される木質ペレットは、境港に荷揚げ後、専用のトラック(コンテナ)で運ばれて鉄骨建屋(135㎡)内の受入搬送設備に受け入れる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202399日(土)午前925分頃、バイオマス発電所で爆発が起き、火災が発生した。

■ 爆発によって受入搬送設備の建屋の壁が吹き飛び、木質ペレットを燃料貯留槽に運ぶエレベータが燃えた。

■ 発災に伴い、消防署の消防隊が出動するとともに米子バイオマス発電所従業員が消火活動を開始した。約3時間50分後の午後115分頃に鎮火した。

■ 912日(火)、米子市長は、 20235月以降の相次ぐ火災で住民に大きな不安を与えているとし、米子バイオマス発電に対して、つぎのような申し入れを行った。

 ● 安全確保上、必要な場合を除き、運転を停止すること。

 ● 火災などの事故原因の究明を行ない、再発防止策を確実に実施すること。

 ● 事故とその後の対応状況について、地域住民への説明を行ない、信頼回復に努めること。

 ● 上記の対応を終わるまでは、運転を再開しないこと。

■ 912日(火)、バイオマス発電所の所長は、米子市長に謝罪し、「(今回のような爆発は)この事業の中での想定にはございませんでした。ただ、発生した事実がございますので、そこを徹底して追及していくことが必要と認識しています」 と述べ、「(原因については)ガスの充満ですとか、粉塵爆発をキーワードにしていくことになると思います」と語った。米子バイオマス発電所では、20239月中に付近住民への説明会を行い、原因解明と工事のため、少なくとも半年間は運転を停止する見通しを示した。

 火災の原因について記者団から問われたのに対して、所長は木質ペレットから生じた粉塵が原因だという見方を示した。粉砕した木を熱で圧縮させて作られる木質ペレットは、施設に運び入れるときの衝撃で、一部が削れるなどして粉塵になることがあるという。この粉塵が何らかの形で引火し、爆発を引き起こした可能性が高いという見解を示した。

被 害

■ 鉄骨製の燃料受入れ建屋1棟約135㎡とエレベータ1基約75㎡が焼けた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。(鳥取県・米子市が専門家による調査チームを立ち上げている)

< 対 応 >

■ 922日(金)、米子バイオマス発電所は周辺住民を対象に発電所近くの大篠津、崎津両公民館で説明会を開いた。同社のほか、出資する三光(境港市)や中部電力(名古屋市)、シンエネルギー開発(群馬県)、三菱HCキャピタル(東京都) 、東急不動産(東京都)の担当者計6人が出席した。説明会では、米子バイオマス発電所は、一連の火災の原因が全て違うことを明らかにしたが、原因の究明や防止策のスケジュールはまだ立っていないと説明した。説明会では、99日(土)の爆発・火災の原因について、木質燃料から異物を取り除くコンベアが火元で、この周りで“粉塵爆発”が起きたとみられるとした上で、燃料の引火の原因になる異物はなく、詳しい原因は調査中だと説明した。

 住民57人が出席した大篠津公民館では、中部電力の担当者が、燃料を受け入れる建屋と燃料を運ぶエレベータで粉塵爆発が起きたと推定されると説明。周辺に部品が飛散したことも明かした。消防からは焼損が激しいコンベアが火元とみられると説明があったと報告した。

■ これに対して住民側は、安全対策の不備やこれまでの対応についての不信感を抱いていた。地元住民からは、「第三者機関を持ってでもいち早く原因を究明して発表して私たちに安心を与えてください」、「バイオマス発電の燃料となっている木質ペレットの品質管理は徹底されているか」、「今後火災が発生した時はどう対応するのか」といった声が聞かれた。説明会では他に「二度と起こさないぞというのが感じられない。予防策をしっかりと考えてもらわないと、不安でたまりません」 、 「当事者意識が全然感じられない。対処していけばいいという意識が丸見え」と語っていた。

■ 説明会が終わったあと、住民のひとりは、 「原因も何もわかっていない状態で、きょうの説明会の意味はあまり無かったのでは」と語っている。

■ ユーチューブには、住民説明会の状況を伝えたメディアの動画が投稿されている。

 YouTube 【相次ぐ火災】米子バイオマス発電所が住民説明会 住民「一早く原因を究明して」(2023/09/22

 ●YouTube「バイオマス発電所火災を受け説明会 住民は怒り爆発も原因分からず2023/09/22

■ 米子バイオマス発電所の事故は今回だけでは無かった。2023517日(水)午後850分頃、燃料貯留槽4基のうちの1基で火災を起こしている。米子バイオマス発電所は、ホワイトペレットが長期間保管されていたことにより自然発酵し、発火に至った可能性があるという。その3日後の520日(土)午前5時過ぎ、従業員から「先日と同じ燃料タンクが燃えて煙があがっている」と消防署に通報があった。火は約1時間後に消し止められ、けが人はいなかった。

■ バイオマス燃料による火災事故は各電力会社の管理問題とともに、バイオマス発電そのものの安全性問題が課題となっている。バイオマス発電の専門家の中には、つぎのように指摘する人もいる。

 ● バイオマス発電の燃料となる輸入木質バイオマス燃料は、2022年、ベトナム産で不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになった不祥事が起きている。しかし、所管官庁の経済産業省は燃料偽装の実態調査を十分に行わないままの状態を続けている。

 ● 各地で相次ぐバイオマス燃料の火災事故は、こうした不良品燃料が原因とみられるケースのほか、バイオマス燃料からの自然発火による共通要因での火災も起きている。自然由来の燃料を大規模に貯蔵する同発電の仕組み自体に、燃料の偽装のしやすさや、自然発火を招く等の不具合要因がある。

補 足

■ 「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されている。

■「米子バイオマス発電所」は、20186月に「米子バイオマス発電合同会社」として設立され、木質バイオマスを燃料とした出力約54,500kWの発電所で、山陰両県(鳥取・島根)最大規模のバイオマス発電施設である。施設は20198月に着工し、202242日に商業運転を開始した。 「米子バイオマス発電合同会社」は、中部電力㈱、三菱HCキャピタル㈱、東急不動産㈱、シンエネルギー開発㈱、三光㈱の5社が出資している。(事業体の構造図を参照)

 米子バイオマス発電所の事業は、シンエネルギー開発㈱が開発を進めてきたもので、バイオマス専焼発電所を建設・運営する。東急不動産㈱と三菱HCキャピタル㈱ が100%出資子会社を通じて、共同で本事業会社のアセットマネジメント(資産運用)業務を行う。また、中部電力㈱とシンエネルギー開発㈱は、本事業会社のプロジェクトマネジメント業務を受託している。そして、運転および保守は中部電力系の㈱中部プラントサービスが行っている。


所 感

■ 報道をみる限り、米子バイオマス発電所が922日(金)に開催した地元説明会はあまり上等な部類ではなかった。

 ● 発災が99日(土)で、米子市への説明が912日(火)であるのに対して、地元への説明会が922日(金)と日にちが遅い。お詫びの説明会であれば、もっと早くやるべきだった。

 ● 発災から2週間になるタイミングであれば、住民から厳しい声や意見が出されることは分かっている。(事故の説明会を住民に限定し、メディアを締め出すところもあるが、その点、報道の自由化に則って正直でよい)

 ● 発災から2週間になるタイミングであれば、まったく未知の原因ではないので、考えられる推定原因(複数)と対策案を説明するのがよい。 (今後進められる正式な調査委員会の意見と異なっても良い) 

 ● 米子バイオマス発電合同会社のほか、出資会社5社が説明会に出席しているが、内向き(社内向け)の対応でしかなく、人数が多く出ればよいというものでない。(地元住民への威圧ととられることもある)

 ● 説明会への出席は所長と実質的に設備の分かっている最小限の人数でよい。

 ● 原因について“粉塵爆発”にこだわっている印象を受ける。

■ 微粉バイオマス専焼技術の発電所であれば、粉塵爆発の可能性は高く、対策をとる必要がある。確かに、木質ペレットの生産状態によっては、港での積込み、海上輸送中、荷揚げ、サイロや倉庫への保管作業、横持ち作業などを繰り返すと、粉化し、粉化したバイオマス燃料には粉塵爆発のリスクがあると言われている。しかし、米子バイオマス発電所では、木質ペレットを使用するほかのバイオマス発電所と同様、粉塵爆発を予期した設備にはなっていないと思われ、なぜ 急に粉塵爆発にこだわるのか。バケットエレベータ系の構造や1年半の運転実績によって粉化の傾向があったのかと思ってしまう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

      Nnn.co.jp , 住民からは怒りの声 米子バイオマス発電所火災受け説明会,  September  23,  2023

      News.yahoo.co.jp, 相次ぐ火災 米子バイオマス発電所が住民説明会 住民「一早く原因を究明して,  September  22,  2023

      Fnn.jp , 火事相次ぐ「バイオマス発電所」が説明会 再発防止策など示されず住民から憤りの声,  September  22,  2023

      News.yahoo.co.jp, 火事相次ぐ「バイオマス発電所」が説明会 再発防止策など示されず住民から憤りの声,  September  22,  2023


後 記: 前回の後記で、米子バイオマス発電合同会社に関する事業体の構造図を見て、この組織は意思疎通が難しそうだと指摘しましたが、案の定、地元説明会には出資会社5社が出席しています。地元住民は 「原因も何もわかっていない状態で、きょうの説明会の意味はあまり無かったのでは」と語っていますし、「当事者意識が全然感じられない。対処していけばいいという意識が丸見え」という意見が出ており、なにか読まれているという印象です。バイオマス発電は良いことで推進すべき事業ですが、組織やひとを立て直して取り組んでもらいたいものです。 

2023年9月25日月曜日

米国ルイジアナ州のマラソン・ペトロリアム社の製油所でナフサタンク火災

  今回は、 2023825日(金)、米国ルイジアナ州セントジョン・ザ・バプテスト教区のガリービルにあるマラソン・ペトロリアム社のガリービル製油所で、ナフサタンクが火災を起こし、防油堤内のプール火災と大型タンク2基の複数火災になった事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、米国のルイジアナ州(Louisiana )セントジョン・ザ・バプテスト教区(St. John the Baptist Parish)のガリービル(Garyville)にあるマラソン・ペトロリアム社(Marathon Petroleum Corp.)のガリービル製油所である。製油所の精製能力は596,000バレル/日である。

■ 事故があったのは、ミシシッピ川近くにあるガリービル製油所の南側にあるナフサ貯蔵タンクである。(注;タンク容量を15万バレル=23,800KLと報じたところがある)

< 事故の状況および影響 >

事故の発生

■ 2023825日(金)午前7時頃、ナフサが漏洩した後、タンクが炎を噴き上げ、火災となった。ガリービルの地方に大きな黒煙が立ち昇った。

■ 製油所の近くの住民は「家の外を見ると、空は真っ暗です」といい、住民は吐き気、めまい、頭痛を感じていると語った。

■ セントジョン・ザ・バプテスト教区(郡)は、製油所から半径2マイル(3.2km)以内の住民(2つの学校を含む)に避難勧告を出した。また、高速道路や工場近くの道路が封鎖された。

■ 消火活動をしていた消防士1名が熱ストレスの検査を受けた。ゲーリービルは異常暑さ警報が出ており、金曜午後の気温は36℃に達していた。

■ 当初、マラソン・ペトロリアム社は「タンク自体は燃えていない。火災はタンク周りに漏れたナフサが燃えている」と発表していた。 「当初、炎は弱く、可燃ガスを抑えるために油の面を消火泡で覆った。しかし、気温が上昇し、暑くなるにつれ、炎が再燃し、制御が困難な状況になった」と経緯を語った。

■ 火災になった2基のタンクは共有の防油堤内にあり、火災は防油堤エリアにとどまっている。

■ 825日(金)午前945分、米国環境保護庁(EPA)は国家対応センター(National Response Center)からマラソン・ペトロリアム社のゲーリービル製油所で火災が発生した旨の通報を受け、職員を現場に派遣した。米国環境保護庁のレポートによると、職員は現場の対応状況を監督し、風下地域での空気監視などの技術支援を行ったという。職員は、揮発性有機化合物 (VOC)、硫化水素 (H2S)、微粒子について大気モニタリングを実施した。1 ppm以上のVOCが検出された場合、ベンゼンを監視しなければならない。結果は、ベンゼンが9ppm H2S0.33ppm、微粒子が300μg/㎥ だった。消火用の泡と水の封じ込めシステムは効果を維持しており、施設外への流出はなかった。米国環境保護庁の職員は827日(日)の夕方に職務を終えた。ルイジアナ州はその後の浄化活動の監督を主導するという。

■ マラソン・ペトロリアム社ガリービル製油所と近隣施設の消防隊は、非PFASの消火泡(有機フッ素化合物を使わない泡)を使って積極的に消火活動を行った。

■ 826日(土)、住民は黒煙や石油から出る蒸発物質による健康への影響を心配していた。

■ マラソン・ペトロリアム社は、大気の環境測定結果では“検出不可能な”空気質への影響だと発表した。ルイジアナ州の環境品質局は検査を実施中だという。環境品質局の職員らが手持ち式モニターで施設に隣接する地域社会の空気を監視していると述べたが、どのような汚染物質を監視しているかについての質問には答えず、マラソン・ペトロリアム社が火災に関する情報の中心だと示唆しただけだった。しかし、火災中もその後数日間も、ルイジアナ州環境品質局や米国環境保護庁は、どの化学物質を検査しているのかについて住民やメディアからの度重なる質問に答えていない。

826日(土)、マラソン・ペトロリアム社によると、事故に伴い2名が負傷し、10名が熱ストレスの検査を受けたと発表した。

■ ユーチューブには、火災時の映像が投稿されている。主なものはつぎのとおり。

   ●YouTubeWWL-TV on location near large refinery fire outside New Orleans2023/08/26

   ●YouTubeFire at oil refinery sends up tower of black smoke2023/08/26

   ●YouTubeSt. John Parish refinery left charred and damaged following massive chemical fire2023/08/29


被 害

■ ナフサ用などの貯蔵タンク2基が焼損した。内液のナフサなどの石油が焼失した。

■ 事故に伴い2名が負傷し、10名が熱ストレスの検査を受けた。

■ 製油所から2マイル(3.2km)以内の住民が避難した。高速道路や工場近くの道路が封鎖された。

■ 火災や黒煙によって大気汚染が生じた。

< 事故の原因 >

■ ナフサの漏洩や火災の原因は分かっておらず、調査中である。

< 対 応 >

■ 825日(金)、マラソン・ペトロリアム社は、消火活動の支援のため、テキサス州テキサス・シティにあるマラソン・ペトロリアム社のガルベストン・ベイ製油所(Galveston Bay Refinery)からガリービル製油所まで大型トラック3台で泡消火剤と消火機材を搬送した。

■ 825日(金)、セントジョン・ザ・バプテスト教区は住民に出していた避難勧告を解除した。

■ 826日(土)、マラソン・ペトロリアム社は、火災はほぼ鎮火したが、再燃を防ぐために消火作業を続けている発表した。

■ 826日(土)、石油・ガス業界の安全と環境を監視している団体であるルイジアナ・バケット・ブリゲードLouisiana Bucket Brigade)は、今回の火災についてルイジアナ州の監督の甘さが要因にあると非難し、「ルイジアナ州が火災やキノコ雲から目をそらし続ける限り、こうした事故は続くだろう」と発表した。これに対してルイジアナ州環境品質省はルイジアナ・バケット・ブリゲードの発表についてコメントを控えた。

■ 826日(土)、マラソン・ペトロリアム社は事故の原因を究明するために調査を行うと発表した。

■ 発災から4日後の828日(月)朝、当局はホットスポットの最後のひとつが消され、火災は正式に鎮火したと発表した。

■ 828日(月)、マラソン・ペトロリアム社は、火災による影響でルイジアナ州ガリービル製油所の生産プラントの一部を停止すると発表した。

■ 829日(火)、ルイジアナ州知事は、金曜日の火災の通知が遅いことに対する地域住民の苦情を調査すると述べた。もし再び同じことが起こったら、住民はもっとタイムリーな通知を求めるだろうと語っている。

■ 住民は、発災時に鳴る緊急警報システムは聞こえなかったといい、製油所の火災は828日(月)に鎮火したが、避難は発災から数時間後に解除され、この経験により、労働災害の際に家族や近隣住民の安全を守るセントジョン・ザ・バプテスト教区の能力に改めて疑問を抱いている。セントジョン・ザ・バプテスト教区当局は火災の影響を受けた地域住民に支援を求めるフリーダイヤルを配布しているが、その電話番号はマラソン・ペトロリアム社の代表者宛てになっている。

■ 98日(金)、米国公共放送NPRの会員局であるルイジアナ州のWWNOは、国家対応センターへの報告書によると、ナフサの漏洩は実際には824日(木)午後650分に始まったと報じた。これは火災によって地域住民が避難する15時間も前のことである。ルイジアナ州警察には約30分後に通報があったという。

 ルイジアナ州警察からの通報を受け、824日(木)午後11時頃までにルイジアナ州環境品質局が現​​場に出動した。漏洩事故当時、最初の空気監視測定値で、空気中に発がん性物質として知られるベンゼンが検出された。しかし、ルイジアナ州の大気監視の取組みは、ナフサ漏洩が始まってから約6時間後の825日(金)午前1時頃まで開始されなかった。さらに、825日(金)午前730分頃に携行型ガスモニターで空気質を測定したところ、呼吸困難、吐き気、中枢神経系への損傷を引き起こす可能性のある追加の揮発性有機化合物が検出されたというモニタリングレポートが残されている。

■ こうした危険な漏洩にもかかわらず、825日(金)午前1015分、セントジョン・ザ・バプテスト教区長が記者会見を行うまで、当局は施設から半径2マイル(3.2km)以内に住む住民に避難を呼びかけなかった。火災は、825日(金)午前7時頃、貯蔵タンクから漏れたナフサに引火している。

■ レポートによると、漏洩が発生した時点でガリービル製油所の貯蔵タンクには約67,000バレル(10,600KL)のナフサが保管されていたという。マラソン・ペトロリアム社は、漏洩した貯蔵タンクからナフサを代替タンクに移送しようとした。しかし、漏洩後、ナフサがどれだけ移送されたかについては記載されていない。

■ マラソン・ペトロリアム社ガリービル製油所では、今回の火災のほか事故が続いている。ルイジアナ州環境品質局の記録によると、製油所では2019年以来14件の緊急事態が報告されている。2022年に3件の事故で作業員6名が負傷し、1名が死亡した。米国労働安全衛生局(Occupational Health and Safety AdministrationOHSA)は、当初、そのうちの1つである20222月に従業員4人が負傷した施設内での爆発事故に対して同社に30,167ドルの罰金を科したが、後に罰金を14,502ドルに減額した。米国安全衛生労働局は罰金を減額した理由に関する質問には応じなかった。

■ マラソン・ペトロリアム社ガリービル製油所で発生した火災は今年3回目となる。地元メディアによると、20222月に製油所の敷地内で爆発があり、6人が負傷した。8か後、別の火災で従業員2名が負傷している。

補 足

■「ルイジアナ州(Louisiana )は、米国南部に位置し、メキシコ湾岸のテキサス州の隣にあり、人口約465万人の州である。 州都はバトンルージュ、最大の都市はニューオーリンズである。

「セントジョン・ザ・バプテスト教区」(St. John the Baptist Parish)は、ルイジアナ州の南部に位置する郡(教区)で、人口約46,000人である。

「ガリービル」(Garyville)は、セントジョン・ザ・バプテスト教区の中部に位置し、人口約2,100人の町である。ガリービルは、1976年に建設されたもっとも最近になって建設されたガリービル製油所の所在地として知られている。

■ 「マラソン・ペトロリアム社」(Marathon Petroleum)は、1998年、石油精製企業のアシュランド社とマラソン・オイル社との間で合弁会社マラソン・アシュランド・ペトロリアム社が設立したのが起源である。2005年、アシュランド社がマラソン社に持ち分を売却したことにより、マラソン・ペトロリアム社となった。本社は米国オハイオ州にあり、製油所のほか、ガソリンスタンドなどでの販売を手がける。 米国で13個所の製油所を保有し、1日当たり約290万バレル精製能力をもっている。

「ガリービル製油所」は、ルイジアナ州南東部のミシシッピ川沿いに位置しており、精製能力は1日当たり596,000バレルである。製油所はさまざまな原油をガソリン、留出物、液体天然ガス、石油化学製品、重燃料油、アスファルト、プロパンに処理するように構成されており、製品はパイプライン、船(はしけ)、輸送トラック、鉄道、海洋タンカーによって輸送される。2009年に大規模な拡張プロジェクトが完了し、原油の精製能力が向上し、米国最大の製油所のひとつとなった。

 マラソン・ペトロリアム社の事故については、製油所は違うが、テキサス州テキサス・シティにあるガルベストン・ベイ製油所のつぎのような事例を紹介した。

 ● 202110月、「米国テキサス州で原油タンクのミキサー取付けフランジから油噴出」

「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」 20163月)で紹介したように、ルイジアナ州は消防活動の相互応援のハイアード・ガン・ギャングHired Gun Gang)というグループが1987年に生まれた。創設時からの企業には、エクソン・リファイナリ&ケミカル社(エクソンモービル)のバトンルージュ製油所、マラソン・オイル社のガリービル製油所、エクソンモービル・オイル社のシャルメット製油所、ループ社、シェル・オイル社(モティバ)、ノーコー社、アメリカン・シアナミド社、ウェストウェゴー社、ダウ社、プラケメン社、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社などである。

■「発災タンク」をグーグルマップで調べると、直径約77mの固定屋根式タンクと直径51mの浮き屋根式タンクの2基である。直径約77mの固定屋根式タンクをグーグルアースで見てみると、タンク側板上部に通気口があるのがわかるので、内部浮き屋根式タンクである。両タンクとも、ナフサを貯蔵できる型式である。内部浮き屋根式タンクを直径約77m×高さ約12mと仮定すれば、容量は約55,000KLである。浮き屋根式タンクを直径約51m×高さ約10mと仮定すれば、容量は約20,000KLである。なお、内部浮き屋根式タンクには、泡消火設備と思われる配管が設置されている。

 報道(一部)では、ナフサタンクの容量は15万バレル(23,800KL)で、漏洩が発生した時点で約67,000バレル(10,600KL)のナフサが保管されていたと報じられている。グーグルマップで調べた値との差異があり、報道の値は信ぴょう性に欠ける。また、2基のタンクのうちどちらが発災タンク(ナフサ)かの特定はできないが、ここでは、直径約77m×高さ約12m×容量約55,000KLの内部浮き屋根式タンクを発災のナフサタンクとみなす。

■ 発災したタンクの全面火災時の必要な大容量泡放射砲システムは、直径約77mのタンクでは50,000L/min、直径約51mのタンクでは20,000L/minである。これは、タンク1基の火災の場合であり、堤内火災やタンク複数火災で大容量泡放射砲の設置が困難な場合はわからない。

所 感

■ 発災タンクに関する情報(仕様)がまったく報じられていない。火災となった2基のタンクのうち、どちらが最初に発災したタンクかはもちろん、タンクの型式や大きさなどの仕様が分からない。報じられている情報などをもとに、今回の事故の状況を推測してみた。

 ●  824日(木)午後650分頃、内部浮き屋根式タンク(直径約77m×容量約55,000KL)の配管からナフサが防油堤内に漏洩した。事業所は対策として堤内に泡消火剤による泡を放出し、油面を覆った。

 ● タンク縁切り用の遠隔の緊急遮断弁を操作せず、タンクから別なタンクへの移送を始め、その間、ナフサは漏洩し続けて、同じ堤内にある浮き屋根式タンクの周囲にも油が溜まっていったのではないだろうか。

 ● 825日(金)午前7時頃、 堤内を覆っていた泡が部分的に消えて、突然、防油堤内のプール火災となり、2基のタンクは炎に包まれた。当初、マラソン・ペトロリアム社は「タンク自体は燃えていない。火災はタンク周りに漏れたナフサが燃えている」と発表していたが、実際には、タンクに引火し、火災となっていた。午前10時にセントジョン・ザ・バプテスト教区長が記者会見を行い、午前10時過ぎ、住民への避難勧告が出された。

 ● 内部浮き屋根式タンクは爆発的火災となり、固定屋根が噴き飛んだとみられる。意図的または意図せず消火水の影響で屋根が沈降し、2基のタンクは全面火災的な様相を呈する。

 ● 事業所の製油所消防隊のほかルイジアナ州相互応援の消防隊が参加して消火活動を行うこととなった。しかし、堤内のプール火災と2基のタンク火災という極めて困難な状況だった。消火戦略としては、まず堤内のプール火災の消火を優先しただろう。泡モニターでの活動は火災の炎に近づく必要があり、火災の激しさで消防士10名が熱ストレスで診断を受けるほどだった。

 ● 825日(金)昼過ぎ(発災から数時間後の午後0時頃)、堤内のプール火災は制圧され、油面に再び泡が覆われた。この頃、タンク火災は続いているが、火災が弱まったと判断され、避難勧告を解除している。

 ● 825日(金)午後1時頃、内部浮き屋根式タンク火災の消火を優先することとし、大容量泡放射砲の泡モニターを集中することによって消火に至った。ナフサの燃焼速度は0.620.87m/hと速く、510時間(午後0時~午後5時)には、タンクの液面は空に近い状態になっているとみられる。

 ● 825日(金)午後2時頃、浮き屋根式タンク火災の泡消火活動に移り、制圧された。

 ● しかし、堤内のプール火災の泡の覆いが切れたり、タンク屋根の障害物で一旦消えても再燃を繰り返した。これが826日(土)にかけての消火活動の状況だったとみられる。

 ● ホットスポットからの再燃を完全に止めることができたのは、828日(月)になってからである。     

■ ルイジアナ州は、「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」20163月)で紹介したように消防活動に積極的な州である。しかし、今回は堤内火災とタンク複数火災という過酷な火災状況で、おそらく出動したであろうハイアード・ガン・ギャングの消防隊も手こずったと思われる。タンク火災は油が燃え尽きた状態に近かったとみられるが、事故後の写真ではタンクが熱で座屈しているものの、両タンクとも側板下部が残っており、タンク火災は泡消火で制圧したとみられる。

■ 石油・ガス業界の安全と環境を監視している“ルイジアナ・バケット・ブリゲード” は、今回の火災についてルイジアナ州の監督の甘さが要因にあると非難している。一方、マラソン・ペトロリアム社の緊急時の対応(メディアへのニュースリリースを含めて)も後手後手になっている。最初の防油堤内へのナフサ漏洩の対応が適確でなかった。

 油面への消火泡の覆いは通常の消火泡を使用したと思うが、消えにくい高発泡の泡を使用すべきだった。通常の火災では低・中発泡の泡が有効であるが、油面を覆った場合、分散して消えやすい。一方、高発泡の泡は風や熱に弱いが、堤内やタンクを迅速に覆うことができる。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Reuters.com, Marathon's Garyville, Louisiana, refinery fire nearly out, says company,  August  26,  2023

     Edition.cnn.com, Marathon Petroleum refinery fire in Louisiana under control, evacuation order lifted,  August  26,  2023

     Apnews.com, Louisiana refinery fire mostly contained but residents worry about air quality,  August  27,  2023

     Fox8live.com, Fire extinguished days after chemical leak ignited at Marathon Petroleum, plant officials say,  August  29,  2023

     Hydrocarbonprocessing.com, Louisiana oil refinery fire continues to smolder, production curbed,  August  28,  2023

     Abcnews.go.com, Evacuation orders lifted after chemical leak, fire at Louisiana refinery,  August  26,  2023

     Independent.co.uk, Massive fire erupts after ‘chemical leak’ at Marathon refinery near New Orleans,  August  25,  2023

     Wwno.org, Toxins from Marathon refinery fire leaked 15 hours before evacuation called,  September  08,  2023

     Storageterminalsmag.com, MARATHON PETROLEUM CORP. ANNOUNCES CLOSURE OF THIRD LARGEST OIL REFINERY ,   September  13,  2023

     Epa.gov, Marathon Petroleum Tank Fire,  August  26,  2023


後 記: 今回の事故報道で感じたことは、米国のメディアが衰退しているなあということです。以前はもっと地元や現場に密着した記事を出していましたが、今回は、マラソン・ペトロリアム社の出す記者会見の内容をそのまま記事にしているだけと感じました。そのマラソン・ペトロリアム社も“今は消火活動に集中している” というだけで、事故の状況を詳しく語っていません。小さな火災であれば、それでもよいでしょうが、大型タンク2基の火災でドローンの写真を見ても、真っ黒い煙が大量に舞い上がっているような事故についてこの程度の記事で良しとしているのが理解できません。報道をみると、英国のメディアの記事の方が良く整理されています。米国への憂いは、ルイジアナ州を筆頭とする公的機関もそうです。新型コロナの蔓延でいろいろな活動が停滞したのは事実ですが、新型コロナが収まってから一段と悪化したという印象です。そのため、所感では、報じられている情報をもとに長々と(悩みながら)事故の状況を推測してみました。

2023年9月18日月曜日

米子市のバイオマス燃料発電所で爆発・火災事故

 今回は、 202399日(土)、鳥取県米子市にある米子バイオマス発電所合同会社の発電所においてバイオマス燃料である木質ペレットの受入搬送設備で起こった爆発・火災事故を紹介します。

< 発災施設の概要 >

■ 発災があったのは、鳥取県米子市大篠津町にある米子バイオマス発電所合同会社の米子バイオマス発電所である。

■ 事故があったのは、火力発電所で使うバイオマス燃料である木質ペレットの受入搬送設備である。輸入される木質ペレットは、境港に荷揚げ後、専用のトラック(コンテナ)で運ばれて鉄骨建屋(135㎡)内の受入搬送設備に受け入れる。

<事故の状況および影響>

事故の発生

■ 202399日(土)午前925分頃、バイオマス発電所で爆発が起き、火災が発生した。

■ 米子バイオマス発電所から消防署への通報とともに、発電所近くで作業中の男性から「爆発が起き、炎と煙が上がっている」と119番通報があった。

■ 発災に伴い、消防署の消防隊が出動するとともに米子バイオマス発電所従業員が消火活動を開始した。

■ 爆発によって受入搬送設備の建屋の壁が吹き飛び、木質ペレットを貯留槽に運ぶエレベーターが燃えた。

■ NHKの米子支局のカメラやBSS山陰放送の米子空港に設置している情報カメラは、爆発の瞬間をとらえていた。爆発と同時に真っ赤な炎が上がり、その後、煙が立ち上っているのが分かる。

■ 近くの住民は、「爆弾が落ちたんじゃないかというぐらい衝撃と地鳴りがして、何が起こったんだろうという感じがした」と語った。

■ 自宅2階のベランダにいた近くの住民は、爆発直後の映像をカメラで撮った。 映像によると、激しい勢いでモクモクと立ち上る煙が、爆発の大きさを物語っている。

■ 別な住民によると、爆発の直前にある異変を感じたと言い、「爆発の前にものすごく煙が出ていた。煙が出ていて、あらと思っていたら、その直後に爆発して、地響きがあり、家も揺れた」と語っている。

■ 午前11時時点でも火災は消えておらず、消火活動が続いたが、約3時間50分後の午後115分頃に鎮火した。

■ 鉄骨製の燃料受入れ建屋1棟約135㎡とエレベーター1基約75㎡が焼けた。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。

■ 米子バイオマス発電所によると、火災の範囲は2基ある燃料の受入搬送設備のうちの1基で、火災による電力の供給に影響は無かった。

■ ユーチューブには、爆発や火災の映像が投稿されている。

 ●YouTube「【爆発】瞬間映像 バイオマス発電所で火災 燃料受け入れ建屋が焼ける けが人なし 鳥取県米子市」2023/09/11

 ●YouTube「【発電所で火災】カメラが捉えた爆発の瞬間 今年5月にも火災が鳥取・米子市」 2023/09/11

 ● YouTube「爆発音と地響きが相次ぐバイオマス発電所火災 一体何が?」2023/09/11

被 害

■ バイオマス燃料の受入搬送設備とバケットエレベーターが爆発・火災で損傷した。(燃料受入れ建屋1棟約135㎡とエレベーター1基約75㎡が焼けた)

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。


< 事故の原因 >

■ 原因は調査中である。(鳥取県・米子市が専門家による調査チームを立ち上げた)

 考えられる要因は、何らかの理由で木質ペレットが発酵し、メタンガスや一酸化炭素といった可燃性ガスが発生し、それに引火し、爆発した可能性があるとみられる。

< 対 応 >

■ 911日(月)、鳥取環境大学環境学部の田島教授は今回の事故について、つぎのように語っている。

「バイオマス発電の燃料となる木質ペレットが火災の原因になっていると思います。木質の燃料ですから、自然発火して火災が起こるということは本当はあってはいけないんですけど、昨今バイオマス発電が普及拡大するに従って、いろいろなところで火災が起こっています。今年3月には、京都府の舞鶴発電所で木質ペレットなどのバイオマス燃料供給施設で火災が発生していますし、今年1月には千葉県にある袖ケ浦バイオマス発電所で木質ペレットの貯蔵サイロで火災が発生し、約4か月後に鎮火が確認されるなど、全国のバイオマス発電所で火災が発生しています。共通点は、米子バイオマス発電所のような木質ペレットを燃料とする発電所で火災が起きているということです。

 ちょっと気になるのは、今回は単なる火災ではなく、建屋の爆発までいったということで、可燃性ガスが発生して、爆発したのではないかと思います。何らかの理由で木質ペレットが発酵してメタンガスや一酸化炭素といった可燃性ガスが発生し、それに引火した可能性が考えられます。バイオマス発電が全般的に危険だということではなく、それぞれバイオマスの使い方にはいろいろな手法がありますので、その手法に見合った安全管理を作り上げていくことが重要かと思います」

■ 912日(火)、米子市長は、 20235月以降の相次ぐ火災で住民に大きな不安を与えているとし、米子バイオマス発電に対して、つぎのような申し入れを行った。米子市長は、「二度とこういう火災や爆発というものがあってはならないと思いますので、ここを一つの区切りとしてしっかりと原因を究明していただくこと、これが大切であると思っています」と語った。

 ● 安全確保上、必要な場合を除き、運転を停止すること。

 ● 火災などの事故原因の究明を行ない、再発防止策を確実に実施すること。

 ● 事故とその後の対応状況について地域住民への説明を行ない、信頼回復に努めること。

 ● 上記の対応を終わるまでは、運転を再開しないこと。

■ 912日(火)、バイオマス発電所の所長は、米子市長に謝罪し、「(今回のような爆発は)この事業の中での想定にはございませんでした。ただ、発生した事実がございますので、そこを徹底して追及していくことが必要と認識しています」 と述べ、「(原因については)ガスの充満ですとか、粉塵爆発をキーワードにしていくことになると思います」と語った。

 米子バイオマス発電所では、20239月中に付近住民への説明会を行い、原因解明と工事のため、少なくとも半年間は運転を停止する見通しを示した。3か月をめどに原因究明を行い、再発防止に当たりたいとしている。所長によると、911日(月)夕方まで発電所を稼働し、貯留槽内の燃料を減らした上で、約2週間の停止作業を開始。ボイラーの放冷、残る約6,000トンの燃料の取り出しを終えた後で行う原因調査は、最低でも3か月以上かかるという。

■ 914日(木)、鳥取県知事は「バイオマス発電は再生可能エネルギーとして推進すべきだが、安全が前提だ。住宅地に隣接した地域で危険を伴う事態が起きたのは看過しがたい」と述べ、鳥取県としても米子市とともに消防や専門家からなる調査チームを立ち上げて、 9月中に現地調査を行い、火災の詳しい原因を調べる方針を明らかにした。

■ 米子バイオマス発電所の事故は今回だけでは無かった。2023517日(水)午後850分頃、燃料貯留槽4基のうちの1基で火災を起こしている。米子バイオマス発電所は、ホワイトペレットが長期間保管されていたことにより自然発酵し、発火に至った可能性があると考えている旨の発表を行った。その3日後の520日(土)午前5時過ぎ、従業員から「先日と同じ燃料タンクが燃えて煙があがっている」と消防署に通報があった。火は約1時間後に消し止められ、けが人はいなかった。

■ バイオマス燃料による火災事故は各電力会社の管理問題とともに、バイオマス発電そのものの安全性問題が課題となっている。バイオマス発電の専門家の中には、つぎのように指摘する人もいる。

 ● バイオマス発電の燃料となる輸入木質バイオマス燃料は、2022年、ベトナム産で不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになった不祥事が起きている。しかし、所管官庁の経済産業省は燃料偽装の実態調査を十分に行わないままの状態を続けている。

 ● 各地で相次ぐバイオマス燃料の火災事故は、こうした不良品燃料が原因とみられるケースのほか、バイオマス燃料からの自然発火による共通要因での火災も起きている。自然由来の燃料を大規模に貯蔵する同発電の仕組み自体に、燃料の偽装のしやすさや、自然発火を招く等の不具合要因があるとの指摘がある。

補 足

■ 「バイオマス発電所」は、植物などの生物資源(バイオマス)を燃料に使用しながら発電する施設で、植物は生育過程で二酸化炭素を吸収するため、発電プロセスでバイオマス燃料を燃焼したとしても、大気中の二酸化炭素は増えない、いわゆるカーボンニュートラルの持続可能な発電方法として、現在、各地に設置されている。

 バイオマス発電に関してこのブログでは、つぎのような事故を紹介した。

 ● 20192月、「山形県のバイオマスガス化発電所で水素タンクが爆発、市民1人負傷」

(● 20196月、「山形県のバイオマスガス化発電所の水素タンクの爆発(原因)」)

 ● 20226月、「山口県の下関バイオマス発電所の焼却灰タンクで人身事故」

 ● 20233月、「関西電力㈱舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」

■「米子バイオマス発電所」は、20186月に「米子バイオマス発電合同会社」として設立され、木質バイオマスを燃料とした出力約54,500kWの発電所で、山陰両県(鳥取・島根)最大規模のバイオマス発電施設である。施設は20198月に着工し、202242日に商業運転を開始した。 「米子バイオマス発電合同会社」は、中部電力㈱、三菱HCキャピタル㈱、東急不動産㈱、シンエネルギー開発㈱、三光㈱の5社が出資している。(事業体の構造図を参照)

 米子バイオマス発電所の事業は、シンエネルギー開発㈱が開発を進めてきたもので、バイオマス専焼発電所を建設・運営する。東急不動産㈱と三菱HCキャピタル㈱ が100%出資子会社を通じて、共同で本事業会社のアセットマネジメント(資産運用)業務を行う。また、中部電力㈱とシンエネルギー開発㈱は、本事業会社のプロジェクトマネジメント業務を受託している。そして、運転および保守は中部電力系の㈱中部プラントサービスが行っている。

 設備の主な仕様は、ボイラー はアンドリッツ社(オーストリア)製の循環流動層型(CFB)、 蒸発量は156.3 t/h、 タービンはシーメンス社(ドイツ)製で、 タービン入口温度条件は主蒸気13.0pa ×540℃、再熱蒸気は3.35pa× 540℃である。燃料使用量は年間 約23万トンである。


所 感

■ 事故原因は調査中で分かっていない。しかし、バイオマス燃料が関わっていることは間違いない。バイオマス燃料の自然発火は多くの事例や情報が公表されており、まったく未知の事象ではない。 20233月に起きた 「関西電力㈱ 舞鶴発電所でバイオマス燃料がサイロ内で自然発火して火災」では、バイオマスサイロ内にあるバイオマス燃料の一部が発酵・酸化して発熱するとともに可燃性ガスが発生し、この可燃性ガスがサイロ内などに滞留していき、発熱の進んだサイロ内のバイオマス燃料が自然発火し、可燃性ガスに引火して火災に至ったという。

■ 確かに、これまでのバイオマスサイロに関わる事例ではなく、バイオマス燃料の木質ペレットの受入搬送設備という自然発火とは無縁の設備のように思われる。一方、20224月の営業運転から1年余の実績を無にするような事故が2023年は続いている。しかし、逆にこれらが盲点であるように感じる。

 ● 考えられる要因としては、バイオマス燃料の質的転換をやってしまったのではないか。バイオマス発電に使用する輸入木質バイオマス燃料が、昨年来、不純物等を混在させて増量したうえで認証を偽造して日本に輸出していたことが明らかになっている。1年を経過してコスト低減を目的に正規のバイオマス燃料から転換したため、自然発火の要因が生まれたのではないだろうか。

 ● 受入搬送設備も自然発火を懸念する必要のある設備である。受入搬送設備の詳細は分からないが、単なる受入れ建屋ではなく、バイオマスサイロのような貯槽機能をもった設備ではないだろうか。

 ● 運転管理の面でいえば、バイオマス燃料の自然発火を検知する監視システム(温度検知や一酸化炭素検知など)を装備していると思うが、この監視システムが正しく管理されていたか。1年の実績だけで監視システムをやめたりして、自然発火の要因を見逃したのではないだろうか。

■ 経済産業省資源エネルギー庁は新エネルギーの導入促進を支援するため、2021年に「木質バイオマス発電における人材育成テキスト」を作成している。今回の事故は、鳥取県が米子市とともに消防や専門家からなる調査チームを立ち上げて、火災の原因を調べることになった。国も事故原因や体制などの教訓を世間に広く示すことを期待する。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

       Newsdig.tbs.co.jp, カメラがとらえた爆発の瞬間 バイオマス発電所で爆発事故「爆弾が落ちたんじゃないかというぐらい衝撃」半年で3回目の火災なぜ?,  September  12,  2023

      Newsdig.tbs.co.jp,  バイオマス発電所で「爆発」所長が謝罪 少なくとも半年間は運転停止に,  September  12,  2023

      Yomiuri.co.jp,  バイオマス発電所で爆発、建屋の壁や屋根が吹き飛ぶ5月にも火災2回,  September  11,  2023

      News.yahoo.co.jp,  バイオマス発電所で「爆発」所長が謝罪 少なくとも半年間は運転停止に,  September  11,  2023

      Sanin-chuo.co.jp,  バイオマス発電所に運転停止申し入れ 米子市、火災相次ぎ住民不安,  September  12,  2023

      City.yonago.lg.jp,  米子バイオマス発電合同会社に対する申し入れについて,  September  12,  2023

      Nnn.co.jp,  米子バイオマス発電所が鎮火,  September  09,  2023

      Yonago-biomass.co.jp ,  燃料受入搬送設備における火災の発生・鎮火について,  September  09,  2023

      Nhk.or.jp,  米子のバイオマス発電所火災 県が調査チーム立ち上げ原因調査,  September  14,  2023

      Safety-chugoku.meti.go.jp,  米子バイオマス発電所建設の概要, February   07,  2020

      Yonago-biomass.co.jp,  燃料タンク内における火災の発生・鎮火について,   May  15,  2023

     

後 記: 米子バイオマス発電合同会社に関する事業体の構造図を見て感じたことは、この組織は意思疎通が難しそうだということです。事業が順調なときは良いのですが、今年(2023年度)のようにトラブルが続くと、出資会社への説明だけでも時間がかかりそうで、中にはイクスキューズしてくるところが出て来るのではないでしょうか。今回のように輸入燃料に問題がありそうな場合、どこに主管があるのか曖昧で、誰も手を上げないのではないかと感じます。事故原因は、調査を進めれば、出てくるでしょう。しかし、組織の問題は曖昧なまま終わるのではないでしょうか。資源エネルギー庁は「木質バイオマス発電における人材育成テキスト」を作成していますが、複数の企業が参画する事業体のあり方について掲載してもらいたいものです。

2023年9月14日木曜日

イエメン沖の浮体式貯蔵施設からの原油移送(110万バレル)が完了

  今回は、 2023年8月28日(月)、イエメン沖の浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号から原油を抜き取る作業が完了した話題を紹介します。背景やこれまでの経緯は「イエメンの浮体式貯蔵施設から原油移送のため国連がタンカーを購入」20234月)「イエメン沖の浮体式貯蔵施設から国連が原油移送を開始」20238月)を参照。

< 環境汚染のリスク >

■ 国連は、数年前から、イエメン(Yemen)のラス・イッサ(Ras Issa)半島から約9km沖に停泊する劣化した旧大型タンカーのセーファー号(Safer)が紅海とイエメンの海岸線を危険にさらしていると警告してきた。全長360m34個の貯蔵タンクをもつ407,000DWTのタンカーには約110万バレル(175,000KL) の原油が入っており、1989年にアラスカ沖で起きたエクソン・バルディーズ号(Exxon Valdez)の事故の4倍の油を流出させる可能性がある。

■ 1976年に日本で建造されたセーファー号は1980年代にイエメン政府に売却された。1987年にタンカーは浮体式貯蔵・積出し施設(Floating Storage and OffloadingFSO)として改造され、イエメンの紅海オイルターミナルであるラス・イッサに係留されている。2014年に始まったイエメンの内戦により、貧困にあえぎ、タンカーは2015年から積出しはもちろん、メンテナンス作業が中断されたままになっている。乗組員は10名を除いてほとんどがタンカーから引き揚げた。

■ 劣化した浮体式貯蔵・積出し施設のタンカーから油を移送し、貯蔵する代替のタンカーの計画が持ち上がった。しかし、イエメンの国連高官は、状況がかなり落ち着いてきたが、内戦下で使用されることになる代替のタンカーを寄贈する人はおらず、リースを申し出る企業も無かったと語っている。

< 国連の対応 >

■ 202339日(木)、国連は、環境破壊を回避するため、イエメン沖で係留されて劣化して腐食が進行している浮体式貯蔵・積出し施設から約110万バレル(175,000KL)の石油を移送して貯蔵する大型タンカー(VLCC)ノーティカ号(Nautica)を購入したと発表した。代替の大型タンカーは長さ332mの二重殻構造である。ノーティカ号は、その後、イエメン号(Yemen)と改称されている。

■ 2023420日(木)、国連は、浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号からの実際の原油抜取り作業について、オランダのボスカリス社(Boskalis)の子会社であるSMITサルベージ社(SMIT Salvage)と合意に達した。

■ SMIT社は大手のサルベージや海難救助を行う会社であり、 2023530日(火)に現場に到着して以来、セーファー号で抜取りの準備作業を行っている。不活性ガスを注入してタンカーの油室から大気中の酸素を除去する作業を開始した。

< 油移送の開始・終了 >

■ 2023723日(日)、移送用大型タンカーのイエメン号(旧ノーティカ号)は、タグボート2隻の支援を受け、浮体式貯蔵・積出し施設のセーファー号と並んで係留された。予防措置としてイエメン号とセーファー号の船首と船尾にオイルフェンスが設置された。さらに、イエメン号とセーファー号の間に移送用ホースが接続され、イエメン号に原油を移送するためのポンプが準備された。

■ 725日(火)午前1045分、浮体式貯蔵・積出し施設のセーファー号から原油を抜き取る作業が始まった。

■ 国連とボスカリス社によれば、81日(火)時点で、浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号から36万バレルの原油を移送用の大型タンカーに無事移送されたという。この量は移送予定量の3分の1に当たる。

■ 811日(金)、浮体式貯蔵・積出し施設のセーファー号からポンプによる油の移送が終了した。セーファー号の横に係留された移送用大型タンカーのイエメン号に移送を終えたが、移送開始から完了するまでに約3週間かかった。

■ ボスカリス社は、「この複雑な作戦の成功裡の完了によって、人道的・環境的・経済的に多大な影響を及ぼす可能性のあった大災害は回避された」と語った。このあと、タンクの清掃(洗浄)作業には約1週間かかると述べた。

■ 828日(月)、セーファー号のタンク清掃(洗浄)が終わり、イエメン号による作業はすべて完了した。

■ 831日(木)、移送用大型タンカーのイエメン号はセーファー号の横に停泊していた場所から移動を開始した。


備 考

■「イエメン」(Yemen)は、正式にはイエメン共和国で、中東のアラビア半島南端部に位置する人口約3,050万人の共和制国家である。首都はサナアで、インド洋上の島々の一部も領有している。産油国ではあるが、 2014年の内戦勃発以来、400万人以上が避難を強いられており、 終わらない紛争と食料難で人道支援を待っている人は2,000万人以上に及び、アラブ最貧国といわれている。

■「エクソン・バルディーズ号(Exxon Valdez)の事故」は、1989324日(金)、米国アラスカ沖で起きた原油流出事故である。原油約20万トンを満載し、アラスカのプリンス・ウィリアン海峡で座礁し、約41,000KLの原油を流出させた。

■ ボスカリス社(Boskalis)は、浚渫、海事構造物、海事サービス分野で事業を展開するオランダの土木工事会社である。ボスカリス社は、沿岸防護、川岸の保護、土地埋め立てなどの中核的な活動のほか、増大する気候変動へのニーズにもソリューションも提供している。再生可能風力エネルギーを含む海洋エネルギーインフラの開発を促進し、港湾や水路の建設と維持にも取り組んでいる。ボスカリス社は海洋サルベージの専門会社であり、SMITサルベージ社(SMIT Salvage)が子会社になる。

所 感

■ 国連と実作業を行うオランダのボスカリス社(作業は子会社であるSMITサルベージ社)によって、劣化した浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号からの油移送作業がやっと完了したという印象をもつ。原油生産地域でこのような事態が起こるというのも時代の移り変わりを感じる。

■ 国連による地道な活動(移送に関わる費用捻出、イエメン内戦によるイランと連携するイスラム教フーシ派武装組織との交渉、大型タンカーの購入、保険の契約、実作業を行うサルベージ会社との契約など多くの課題を解決してきた)の成果である。SMITサルベージ社の実作業について特に報じられていないが、劣化した浮体式貯蔵・積出し施設セーファー号の横に大型タンカーを係留して油の抜取りを行うという通常ではない現場での課題についてもきめ細かい対応が行われてきたのだろう。


備 考

 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。

     Rivieramm.com,  FSO Safer: 'critical work remains' after oil transfer from decaying FSO completed,  August  31, 202

     Yemen.un.org, UN PREVENTS CATASTROPHIC OIL SPILL IN THE RED SEA, CRITICAL WORK CONTINUE,  August  28, 2023

     Shippingtelegraph.com,  Salvage Team Smit Leaves Decaying Supertanker After Clean-Up,  August  30, 2023

     Theguardian.com, Yemen: UN removes 1m barrels of oil from ageing tanker to avert environmental catastrophe,  August  12, 2023

     Ogj.com, Boskalis removes all oil from decaying FSO Safer offshore Yemen,  August  12, 2023


後 記: 浮体式貯蔵・積出し施設から油の抜取りを開始したという話は前回のブログで紹介しました。油の抜取りが完了したという情報を知りましたが、日本のメディアのように何事もなく終わったら、何も報じないという選択肢もあります。しかし、このブログでは紙面や字数の制限はありませんので、紹介しました。タンクの事故では、事故調査報告書が報じられることは少なくないのですが、今回の話題はめずらしく問題もなく、ハッピーエンドで終わりました。