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2015年1月28日水曜日

米国モンタナ州でパイプラインから結氷した川に原油流出

 今回は、貯蔵タンクに直接関係したものではありませんが、密接な関係のあるパイプラインにおける油流出事故です。2015年1月17日、モンタナ州ドーソン郡グレンダイブ近くで、ブリッジャー・パイプライン社所有のポプラー・パイプラインから原油が漏洩し、イエローストーン川に流出した事故を紹介します。
結氷したイエローストーン川に流出した油のクリーンアップ作業
       (写真はEPA.govから引用
 <事故の初期情報> 
■  2015年1月17日(土)午前10時過ぎ、米国モンタナ州でパイプラインからの油漏洩があり、公共河川に流出する事故があった。事故があったのは、モンタナ州ドーソン郡グレンダイブ近くで、ブリッジャー・パイプライン社(Bridger Pipeline Co.)の所有するポプラー・パイプラインから原油が漏洩し、イエローストーン川に流出したものである。

■ 当局が18日日曜に語ったところによると、パイプラインからの漏洩によってモンタナ州グレンダイブ近くのイエローストーン川へ50,000ガロン(190KL)の油が流出したという。しかし、当局は公共安全や健康への問題は懸念していないと語った。
モンタナ州グレンダイブ付近の結氷したイエローストーン川
(写真はBillingsGazette.comから引用)
■ ブリッジャー・パイプライン社が18日日曜に行なった声明によると、漏洩は17日土曜午前10時頃に発生したという。同社の推算では、漏洩量は3001,200バレル(47190KL)だと語った。

■ モンタナ州スティーブ・バロック知事の広報担当であるデーブ・パーカー氏は、漏洩した油の一部が水系へ流れたが、現在、この地区は結氷しており、影響の程度が軽減されたといい、「漏洩は割合早く分かり、パイプラインは停止されました。州として川のクリーンアップは確実に行うよう約束します」と語った。ブリッジャー・パイプライン社の声明によると、呼び径12インチのパイプラインは17日土曜の午前11時前に停止したといい、ブリッジャー社タッド・トゥルー副社長は、「私どもの最大の関心事は、流出油による環境への影響を最小にすることと、遺憾ながら起こってしまった事故の対応として行うべきクリーンアップ作業を安全に遂行することです」と語った。

■ モンタナ州知事の広報担当パーカー氏は、米国環境保護庁とモンタナ州環境品質局がグレンダイブから約6マイル(10km)上流の地域で対応していると語った。

■ 18日日曜に、グレンダイブの住民から飲料水に油の臭いや味がするというクレームがつぎつぎと寄せられた。市の担当者は、水面から14フィート(4.2m)下から取水しているので、この報告に驚いた。

<パイプラインの状況> 
■ モンタナ州環境品質局はパイプライン漏洩事故について情報を公表しており、事故時の状況に関してつぎのように発表している。
 ● 1月17日(土)午前10時30分頃、ブリッジャー・パイプライン社のワイオミング州キャスパーの計器室にあるポプラー・パイプライン監視装置がモンタナ州グレンダイブ地点で異常な圧力値を示した。システムの警報が鳴り、パイプラインが停止された。
 ● ポプラー・パイプラインは呼び径12インチ×肉厚1/2インチ(12mm)で、グレンダイブの少し上流側付近でイエローストーン川の川床の下を通っており、この部分のパイプの肉厚は1-1/2インチ(38mm)である。
 ● 漏洩は、川を横断しているパイプライン部分で起こっており、この部分は約6,800フィート(2,070m)で、2個の孤立用バルブで仕切られている。漏洩の位置は川床の下と判断された。油はイエローストーン川へ漏れ出ている。
 ● 事故当時、パイプラインはバッケン原油主体の油を移送していた。ブリッジャー・パイプライン社によれば、漏洩量は300~1,200バレル(47~190KL)としていたが、その後の推算では40,000ガロン(150KL)としている。

■ ポプラー・パイプラインは、カナダからモンタナ州ベーカーまで走っており、バッケン油田の原油を42,000バレル/日(6,600KL/日)で移送している。パイプラインは敷設されてから55年を経過している。最近の検査は2012年に実施されている。この検査では、パイプラインがイエローストーン川の川床から8フィート(2.4m)の深さに埋設されていることが確認されている。 2011年に出された政府のレポートによると、このパイプラインの損傷リスクは中程度であった。2012年に作成されたイエローストーン・パイプライン・リスク評価書によれば、川を横断しているパイプラインの南側の河岸浸食が激しく、弱点になる可能性があるとしていた。

■ 19日月曜、パイプラインの現場では、パイプラインが川を横断している両岸箇所において掘り起こし作業が行われた。ブリッジャー・パイプライン社は、損傷したパイプライン内に残っているとみている油を回収しようとしていた。実際、パイプラインの正確な漏洩位置はまだ分かっていない。パイプラインの川横断部の長さは1マイル(1,600m)ほどあり、川岸近くにある2個の孤立用バルブではさみ込まれた形になっている。パイプライン監視データでは、孤立用バルブで流れを止めるまでに破損部から少なくとも300バレル(47KL)漏れ出たことを示している。一方、孤立したパイプライン部には、まだ900バレル(143KL)ほど残っている勘定になる。しかし、パイプライン停止後、川へどのくらい流出したのかははっきりしない。当局は漏洩量を1,000バレル(159KL)と推定している。
  ブリッジャー・パイプライン社ポプラー・パイプラインの掘削部  (写真はEPA.govから引用
<上水道汚染>  
■ 州政府とモンタナ州の環境保全当局によると、19日月曜、予備的な試験によってグレンダイブ市の上水道に微量の油分を示すことが分かったという。米国環境保護庁は、上水道の汚染が健康に問題があるかどうかの判断が出るまで、予防的措置として町の6,000人の住民に対して水を供給するようにした。試験結果は20日火曜に出るという。

■ モンタナ州環境品質局は、上水道の水質汚染についてつぎのように発表した。
 ● グレンダイブ市の上水道は、漏洩のあった場所から約7マイル(11km)下流のイエローストーン川から取水している。取水口は水面から約14フィート(4.2m)下にある。
 ● 20日火曜、グレンダイブ市が行なった水質試験の結果、揮発性有機化合物(VOC)、特にベンゼンが含まれていることがわかった。住民にはこの水を料理用に使わないよう警告が出されている。水系の監視は継続して行われている。
 ● 水処理プラントは除染され、上水道のフラッシングは市の消火栓を通じて行われた。家庭や事務所などのフラッシングは、要領書が住民に配られ、実施されることになっている。22日木曜には、市の高等学校でパブリック・ミーティングが開催され、フラッシングに関する説明が行われた。
 ● 油膜はリッチランド郡のシドニーでも確認された。ただし、イエローストーン川の油漏洩場所から下流では、上水道として取水しているところはない。
         消火栓を使用しての上水道フラッシング   (写真はpoplarresponse.comから引用) 
<クリーンアップ作業>
■ イエローストーン川は、この時期、結氷し、厚いところでは氷層が2フィート(60cm)になるところがある。川の結氷はクリーンアップ作業を煩雑にした。グレンダイクから6マイル(10km)上流のパイプラインの破損箇所から漏れた油の大半は、氷層の下に閉じ込められており、上から見ることができない。
 結氷している川で油を捕捉することは極めて難しい。海や川への油流出で通常使用されるオイルフェンスのような囲い込み装置は氷の上では使いものにならない。一方、結氷した川では、油の流れは遅くなる。凍結した氷の層の裏側は粗く、油の移動速度を減じることになる。場合によっては、通常の川における速度の1/5~1/3になるかもしれない。

■ 油流出対応のコンサルティング会社であるダウカー・エンビロンメンタル・マネジメント社(DOWCAR Environmental Management Inc.)のディー・ブラッドリー副社長は、「今回のような流出事故は極めて稀な事例です。油流出対応の最終ゴールはすべてをクリーンにすることです。この点、氷が関係していると、クリーンアップ作業は進まず、そして多くの困難が伴います」と指摘し、流出対応に23年の経験をもっているブラッドリー副社長はつぎのような話をしている。
 氷のある条件では、作業員に危険性がつきまとう。油回収作業にはいる前に、氷の強度を判断する必要がある。氷が強度を持っているかの見分け方は、まず氷がきれいで、白いことである。厚さを計り、人が歩行でき、作業できることを確認して初めて安全だといえる。薄くて汚い氷は割れやすい。
 氷の上で作業することが安全だと確認されれば、「アイス・スロッティング」(Ice Slotting)と呼ばれる氷の溝作りの作業工程にはいる。これは、氷上に狭い幅の溝(水路)を作り、水面に浮いてきた油をすくったり、吸い取ったりして回収する。
               アイス・スロッティング   (写真はEPA.govから引用
■ ブリッジャー・パイプライン社は、クリーンアップ作業のため、SWATコンサルティング社(SWAT Consulting Inc.)と契約を結んだ。作業隊はクリーンアップのための資機材を川に搬入する必要があるが、多くのエリアでは氷が薄すぎて作業にならない。漏洩箇所から30マイル(48km)下流のクレーン付近では、氷がかなり厚いとみられた。そこで、作業隊は氷を溝状に切断し、ここから合板(ベニヤ板)を挿入して油を吸い取るようにした。クレーン地区で油を捕捉して下流に行かないようにする計画だった。
            氷上でのクリーンアップ作業 (写真はEPA.govから引用
             エアボートでのクリーンアップ作業  (写真はEPA.govから引用
■ クリーンアップ作業がどのくらい掛かりそうだということについて、州や地方の当局者は何も答えない。グレンダイブのジェリー・ジミソン市長は、しばらく掛かるだろうと予測している。川の氷は3月中旬まで残るだろうとジミソン市長はいい、「川に氷が無くならなければ、クリーンアップの成果に大きな期待はもてないだろう」と語った。米国環境保護庁広報担当のリチャード・マイロッド氏は、川が結氷しているなかで、油の集積と回収を行なうことは非常に難しいと述べている。

■ 1月22日(木)以降、米国環境保護庁、モンタナ州、ブリッジャー・パイプライン社は共同で「ポプラー・パイプライン対応」の状況をインターネットで情報公開している。
流出油の状況を示す公表写真123日)
(写真はpoplarresponse.comから引用
パイプライン川横断部における氷上および試験穴の流出油の状況123日)
(写真はpoplarresponse.comから引用
■ 20117月、エクソン・モービル社(Exxon Mobil Corp.)のパイプラインからイエロストーン川に油流出する事故があった。この事故では、63,000ガロン(238KL)の原油が漏洩し、下流の川岸85マイル136km)がクリーンアップされた。同社がクリーンアップ作業などに費やした金額は135百万ドル(135億円)に上った。

補 足               
■ 「モンタナ州」は米国西北部にあり、カナダと国境を接している州で、人口は約99万人である。陸地面積では全米第4位であるが、人口では少ない方から第7位、人口密度では小さい方から第3位である。東部では牧畜業、小麦農業、石油と石炭の採掘、西部では林業、観光業および岩石採掘業が盛んな州である。
 「ドーソン郡」は、モンタナ州東部に位置し、人口約9,000人である。
 「グレンダイブ」は、ドーソン郡の郡庁所在地で、人口約6,000人の市である。グレンダイブはステップ気候帯に属し、冬は長くて寒く、夏は暑くて湿度が高い。1月は日平均気温-9.7℃、最低平均温度-15.8℃、過去の最低気温は-44℃を記録している。

モンタナ州グレンダイブ付近の夏季のイエローストーン川
(写真はグーグルマップから引用)
■ 「結氷」(けっぴょう)とは、湖や河川などの水面や流水が凍結することである。結氷の条件としては、流れのない湖などでは、水面の温度が0℃以下になることが必須条件で、-10℃前後になれば例外なく凍結する。滝の結氷の場合、-10℃-30℃くらいである。河川の場合、水量が少なく水深が浅いほど、流速が遅いほど高い温度で凍結する。

■ 「ブリッジャー・パイプライン社」(Bridger Pipeline Co.)は、1948年に設立された石油企業のトゥルー・カンパニー(True Companies)系列に属し、石油輸送を行なう物流会社である。モンタナ州のポプラー・パイプライン、ノースダコタ州のフォー・ベアーズ・パイプラインなどを保有している。
 「ポプラー・パイプライン」(Poplar Pipeline)は呼び径12インチで、カナダからモンタナ州ベーカーまで走っており、バッケン油田の原油を6,600KL/日で移送している。パイプラインには、ルーズベルト郡のポーラー、リッチランド郡のフィッシャとリッチー、ドーソン郡のグレンダイブにステーションがある。
       ポプラー・パイプライン (図はEPA.govら引用)
■ 「SWATコンサルティング社」(SWAT Consulting Inc.)は、2002年に設立された水質・土壌汚染の対応を専門に行なう環境保全会社で、主に油田開発の盛んなカナダ西部、米国北部で活動している。

20117月のエクソン・モービル社パイプライン漏洩事故は、当ブログの「エクソンモービル、イエローストーン川へ油流出」2011731日投稿)を参照。この油流出事故は、対応に問題があったとして米国では大きな社会(政治)問題になった。このほか、最近に起ったつぎのような油流出事故でも、対応に課題のあった事例となっている。

所 感
■ 結氷した川への油流出という極めて稀な事例であり、その情報は興味深いものであった。流出油の動きは2つに分かれるものと思われる。ひとつは、凍結した氷裏面にへばりつくように留まる油があること。もうひとつは、10km先の水深4.2mの位置にある取水口に入るような乱れた流れに乗る油があることである。結氷していないオープンな川で、大半が水面上を流れていく油とは随分様相が違う。
 しかし、米国北部およびカナダの油流出対応を行なう環境保全分野では、このことを認識しており、難しいながらも「アイス・スロッティング」などのクリーンアップ方法を考案してきていると思われる。

■ 一般に油流出事故が発生した時、適切な対応のとられないことが多い。過去の事例をみると、つぎような要因がある。
 ● 漏洩量の推測が甘いこと: 当事者は失敗をできるだけ小さくみせようという意識がある。しかし、
   漏洩量はクリーンアップ作業に必要な人員・資機材の規模を計画するためのベースデータであり、
   漏れた量を過小評価すると、対応が後手にまわる。
 ● 主導する組織が明確でないこと: 発災事業所から構外(公共地域)に出た油流出事故は、住民の
   安全と健康を守る立場から地方自治体の環境保全部署が主導すべきである。しかし、地方自治体は
   縦割り組織であり、日頃から各組織の役割を明確にしていないと、対応が後手にまわる。
 ● クリーンアップ作業チームの結成の遅れ: 油流出のクリーンアップの優劣は、人の動員と有効な
   資機材の調達にかかる。時間が遅れれば、遅れるほど、漏洩が広がり、後手にまわる。油流出対応
   専門会社の機動力を早く活かすことである。

■ 今回の事例でも、本来主導すべき組織である地方自治体の州や市が、当初、甘い見通しだった。飲料水の異常クレームによって初めて当事者意識になっている。20147「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」は、窃盗という事件が背景にあり、発災事業所と地方自治体が責任を持って対応する意識が弱く、最悪の対応事例であった。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
     ・ABCNews.com,  Pipeline Breach Spills Oil into Yellowstone River,  January 18,  2015 
     ・HuffingtonPost.com, Pipeline Breach Spills Oil into Yellowstone River,  January 18,  2015    
     ・BillingGazette.com, Crews to Clean up Oil Spilled into Yellowstone River,  January 19,  2015
     ・Reuters.com,  Oil Spills in Montana’s Yellowstone River after Pipeline Leak,  January 19,  2015
     ・EditionCNN.com, After Oil Spilled in Yellowstone River, Residents Told Not to Drink Water,  January 21,  2015
     ・InsideClimateNews.org, Ice Hinders Cleanup of Yellowstone Oil Pipeline Spill,  January 21,  2015
     ・Deq.mt.gov, Bridger Pipeline’s Oil Spill on the Yellowstone River near Glendive,  January 22,  2015
     ・EPA.gov , Bridger Pipeline Release,  January 23,  2015



後 記: 結氷した川において、川床を横断しているパイプラインから油が漏洩するという事例は初めて知りました。2011年のエクソン・モービル社パイプラインのイエローストーン川への原油流出事故を知っていたので、またイエローストーン川で油流出事故が起ったのかと思いました。初期情報で州や市が意外に甘い見通しをしているのに驚きました。「悲観的に準備し、楽観的に対処せよ」といいますが、状況がわからずに楽観的にとらえるのは疑問ですね。
 しかし、その後は米国環境保護庁とモンタナ州(環境品質局)がよく動いていると感じました。両機関とも情報をインターネットのウェブサイトに掲載しています。さらに米国らしいと感じるのは、両機関と発災事業所が共同で事故対応の状況を特別に開設したウェブサイトに掲載していることです。このようなことは日本ではありえないですね。(断定してはいけないかな) 昨日(27日)も情報が発信されています。  

2015年1月21日水曜日

米国ノースダコタ州で原油タンクの火災事故

 今回は、正月早々の2015年1月1日、米国ノースダコタ州マッケンジー郡にあるエンブリッジ社のパイプラインのアレクサンダー・サブステーションで、容量33KLの原油タンク8基が火災で被災した事故を紹介します。
エンブリッジ社系列のパイプライン・サブステーションで起った爆発・火災事故
(写真はBrainerddispatchi.comから引用
 <事故の状況> 
■  2015年1月1日(木)午後5時頃、米国ノースダコタ州マッケンジー郡にある原油施設で火災事故があった。事故があったのは、マッケンジー郡アレクサンダーにあるエンブリッジ社(Enbridge Inc.)子会社のノースダコタ・パイプライン社(North Dakota Pipeline Co.)のアレクサンダー・サブステーションで、容量210バレル(33KL)の原油タンク8基が火災で被災した。
              ノースダコタ州アレクサンダー付近   (写真はグーグルマップから引用)
■ マッケンジー郡緊急対応部署のジェリー・サミュエルソン部長によると、ウィリストンの南にある施設で1日木曜の午後、大きな爆発音があり、10マイル(16km)離れたところでも感じたという。

■ 当局によると、タンクローリー(19KL積み)から貯蔵タンクへ原油を移送しているとき、突然、火災が発生したという。発災に伴い、アレクサンダー消防署とウィリストン地方消防署が出動し、エンブリッジ社の緊急対応隊とともに対応した。当初の消火戦略では、燃え尽きさせる予定だった。しかし、火災が別な会社の所有するタンク群へ延焼する勢いだったので、消防隊は泡による消火活動を行なった。しかし、結局、火災は2日金曜の正午過ぎに燃え尽きて消えた。発災地区には、貯蔵タンクが12基あったが、うち8基が延焼した。燃えたのは容量210バレル(33KL)の原油タンクで、焼失した油は1,000バレル(160KL)とみられる。8基に隣接していた4基の貯蔵タンクには1,200バレル(190KL)ほどの油が入っていたが、熱による損傷を受けた。

■ エンブリッジ社の広報担当であるマイケル・バーンズ氏は、 8基の貯蔵タンクはエンブリッジ社子会社のタイダル・エナージー・マーケッティング社(Tidal Energy Marketing LLC)所有のもので、完全に焼損したと語った。また、タンクローリー1台が火炎で損傷したと語った。原油タンクはタイダル・エナージー・マーケッティング社が所有しているが、ノース・ダコタ・パイプライン社からリースしている。一方、バーンズ氏は、隣接して影響のあった4基の貯蔵タンクの所有者は知らないと語っている。

■ マッケンジー郡緊急対応部署サミュエルソン部長によると、消防隊は、タンク火災中、隣接する4基のタンクへ延焼しないよう木曜夜から金曜の昼まで冷却放水を続けたという。

■ エンブリッジ社広報担当のバーンズ氏は、タンクまわりの防油堤が漏洩した原油の構外への流出防止に有効に働いたと語っている。 州保健局水質管理部のカール・ロックマン部長は、「タンクは封じ込められていたようです。私どもは水系に影響が出ているか確認し、地下水への汚染の有無について評価する予定です。一般に、この地区には地下水系がたくさんあるわけではありませんし、地下水は深い位置にあります」と語った。

■ 貯蔵タンクは、エンブリッジ社の主要な原油施設に面した通りの向かい側にあった。原油施設には被害が及んでいないとみられる。ケガ人は出ていない。発災現場近くに住宅は無かったが、火災のため、国道ハイウェイ85号線とマッケンジー郡ハイウェイが、1日木曜夕方に、交通遮断された。交通規制は2日金曜の朝に解除された。

■ エンブリッジ社広報担当のバーンズ氏によると、パイプラインは、念のため、一時的に運転を停止したという。

■ 爆発の原因は調査中である。サミュエルソン部長によると、タンクローリーの荷役時の電気的な問題によって引き起こされた可能性が高いが、確認されたわけではないという。タンクローリーは、タンクへ油を荷役するときには、接地しなければならない。事故時に、2台のタンクローリーが貯蔵タンクへ原油を移送していたが、2台が接地を行って静電気の除電をしたかどうかは明らかでない。なお、二人の運転手は退避して無事だった。
 (写真はWDAZ.comから引用)
 (写真はGrandforksHerald.com から引用)
 (写真は左;Media.graytvinc.com、右;Twitter.comLinda から引用)
補 足               
■ 「ノースダコタ州」は、米国の北部に位置し、カナダに接する州で、人口約70万人である。州都はビスマルク市である。ノースダコタ州は1951年にタイオーガ近くで石油が発見され、州西部は現在も石油ブームにあり、ウィリストン、タイオーガなどの町が急成長している。2010年時点で州内石油産出量は1日56,000KLと2007年水準の3倍以上となり、全米第4位になった。
 「マッケンジー郡」は、ノースダコタ州の西部に位置し、人口約7,900人の郡である。郡庁所在地はワトフォート市である。
 「アレクサンダー」はマッケンジー郡の中央部に位置し、人口約260人の町である。「ウィリストン」はアレクサンダーのすぐ北にあるが、ウィリアムズ郡に所属し、人口約20,000人の町である。アレクサンダーでは、2013年11月7日、メサ・オイル・サービス社の油井関連施設で爆発・火災があり、当ブログで、「米国ノースダコタ州の石油施設で爆発、タンク13基が被災」として紹介した。
■  「エンブリッジ社」(Enbridge Inc.)は、カナダのアルバータ州カルガリーに本社を置き、原油と天然ガスの輸送を行う石油会社である。1949年に設立し、11,000人の従業員を擁し、カナダと米国の両方に敷設された世界最長のパイプラインを持っている。
 エンブリッジ社は、2010年に大きな流出事故を起こしている。エンブリッジ・ノーザン・ゲートウェイ・パイプラインにおいてエドモントンにある監視オペレータが、漏洩警報が鳴ったにもかかわらず、17時間の間、対応しなかったため、20,000バレル(3,200KL)の油流出に至った事故である。また、2012年6月に「カナダのアルバータ州のポンプ・ステーションで原油漏洩」があり、当ブログで紹介した。

所 感
■ 事故の原因は、タンクローリーによるタンクへの原油移送中の問題であることは間違いないだろう。移送速度が速すぎ、タンクベントから可燃性ガスの大量放出によるものか、指摘されているように静電気が蓄積し、タンク内のガス空間部に爆発混合気が形成した中で発火したものではないかと思う。

■ 消防活動としては燃え尽きさせる戦略で妥当だったと思う。 当初、燃え尽きさせる戦略を指向したが、隣接タンクへの延焼を配慮して、泡消火が試みられたと思われる。しかし、消火水の供給不足が懸念されるし、発災タンクの防油堤を油や消火排水を溢流させると、水質汚染問題が広がることになる。ただし、この選択で注意すべきことは、原油タンクのボイルオーバー発生の危険性である。発災状況の写真をみると、いわゆる“全面火災”でなく、黒煙の多い不完全燃焼気味の火災のように見える。このためか、その他の理由によるものか、ボイルオーバーが起こらなかったのは不幸中の幸いだといえる。

注;ノースダコタ州の原油生産施設は一箇所当たりの規模が小さく、数が多い。このため、タンク火災事故では、消火水が不足する状況が通常で、燃え尽きさせる戦略が基本とみられる。タンク火災事故の中では、タンクローリーの運転手が、消火用水の供給の手伝いを志願している例もある。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Reuters.com,  Oil Storage Tanks in North Dakota Catch Fire; No Injured, January 01, 2014
  ・WDAZ.com,  Crude Oil Fire near Williston, January 02, 2014   
  ・WashingtonTimes.com, No One Hurt in Oil Tanks Fire South of Williston, January 02, 2014 
  ・ValleyNewsLine.com,  8 Large Crude Oil Tanks on Fire in Western North Dakota, January 02, 2014
  ・KXnet.com,  Oil Tanks on Fire near Williston, January 02, 2014
   BismarckTribune, Oil Storage Tanks Fires Extinguished, January 02, 2014
    ・Firehouse.com,  Eight N.D Oil Storage Tanks Burn out of Control, January 03, 2014



後 記: 今回の事故情報をまとめましたが、今ひとつすっきりしませんでした。米国では、日本の正月のような休みではないにしても、新年早々の事故なので、情報源が限定され、さらにその内容にかなりの差がみられました。例えば、発災時間は「夜」、「午後」、「午後5時」、「午後9時25分」と記事によって様々でした。まわりは原油の生産施設が多く、発災施設もパイプラインのサブステーションというより油井関連のタンク施設のように見えます。発災場所の位置情報もありますが、グーグルマップで調べてみても、発災写真のようなタンク施設が見当たりません。ノースダコタ州はいまも原油掘削・生産施設が増設されているようです。信じられないことですが、記事にあるように発災施設の所有者が隣接しているタンク施設の所有者を知らないというほど、開発が盛んなのでしょうね。  

2015年1月16日金曜日

フランス フェザンのLPGタンク爆発・火災事故(1966年1月)

 今回は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめているARIA(事故の分析・研究・情報)の中のひとつで「フェザンのLPGタンク爆発・火災事故(1966年1月)」の資料を紹介します。
< 設備の建設 >
タンク建設
■ フェザン製油所は、リヨンの南に位置し、 1964年7月に計画が決まり、精製能力170万トン/年で設計された。1966年初めに、加圧式の液化石油ガス(LPG)の貯蔵施設が揃い、総容量は13,100㎥であった。計画は1962年4月20日付け、1962年5月4日付け、1964年8月4日、1965年7月30日付けで変更されている。

■ LPG貯蔵エリアは精製装置南側のBゾーンに配置された。LPG貯蔵施設として球形タンク8基と横型円筒タンク2基が設置されたほか、Bゾーンには加熱炉燃料、ガソリン、プレミアム用の貯蔵タンクも設置された。ゾーンCは、ゾーンBの南東側で自動車道路の反対側にあり、ローリー積み場になっている。
発災地区のタンク配置
■ LPG貯蔵施設は自動車専用道A7の側溝から最も近いところで22.5mしか離れていなかった。自動車道路は施設の地面より1.50m低いところを走っていた。ブタン用球形タンクのタンク間距離は11mで、プロパン用横型円筒タンクとは11.8m離れていた。LPG球形タンクは、それぞれ関係する2基の横型タンクを通じて充填される。 タンクは全基とも1964年に水圧試験が実施されていた。
LPG貯蔵タンクの配置
タンク仕様
■ 表にLPG貯蔵タンクの主な仕様を示す。
パージ用バルブ 
■ 球形タンクは1つの防液堤に4基が設置されており、つぎのような設備が設けられていた。
 ● タンク下部には、沈殿後に溜まった残留物を定期的に排出するため、パージ用配管が設けられて
   いた。この配管には、呼び径2インチのパージ用バルブ2個と、その間に呼び径3/4インチのサンプ
   リング用タップが設けられていた。約70cm下にコンクリート製集水桝があり、排出された液はこの桝を
   通って製油所の廃水系統に流れるようになっていた。
 ● タンク側面には呼び径3/4インチのサンプリング用タップが3個設けられていた。
 ● 計装取出しとしては、温度計タップ3個、液面計1個、圧力計1個が設けられていた。
パージ設備の概要図
■ 底部のパージ用バルブは、アウドコ・ロックウェル社(Audco Rockwell)製の注油型90度ターン式テーパープラグ・バルブであった。このバルブはステム・スクウェアにレンチを使って手動で操作するようになっていた。パージ配管は直径2インチ(50mm)で、サンプリング配管は3/4インチ(20mm)だった。

■ 2個のパージ用バルブは約260mm離して設けられていた。2個のバルブの間の配管には、簡易的なスチーム加熱のラギングが施してあった。

球形タンクの基礎
■ 球形タンクは10本の脚柱で支持され、2本の開きボルトによって基礎に据え付けられていた。
 ● プロパン用球形タンクの場合、直径610mm×厚さ6.5mm
 ● ブタン用球形タンクの場合、直径710mm×厚さ7.5mm

タンク保護設備
■ 球形タンクには、2個の安全弁が設けられていた。安全弁はサパグ社(Sapag)製で、ブタン用にはSapag1910-6”×8”型、プロパン用にはSapag1910-4”×6”型だった。安全弁の上流側には三方ダブル弁が設けられ、異常時にはどちらか一方の安全弁が作動するようになっていた。これは米国石油協会のAPI Std 520(1960年9月版)に準拠したものである。

■ 球形タンクに異常があった場合、安全弁は50℃の条件において71 t/hの割合で放出する。

■ 冷却を目的に、球形タンクにはつぎのような冷却設備が設けられていた。
 ● 2つの噴霧リングがあり、ひとつは上部に、もうひとつは中間部に付けられていた。
 ● 下部には、スプレー・システムが付けられていた。

■ この冷却設備によって、プロパンタンクでは全部で18個のスプレーノズルによって1.8㎥/min/基(3L/㎡/min相当)、ブタンタンクでは全部で22個のスプレーノズルによって2.2㎥/min/基(2.7L/㎡/min相当)を供給でき、タンク全基では960㎥/hとなる。

■ 横型円筒タンクは、スプレー・ブームによって冷却する。

消火用水系統
■ 消火用水系統は、12,000㎥の貯水池、2台の消火ポンプ(1台は電動機駆動、1台はディーゼルエンジン駆動)と消火配管網(呼び径8インチ、10インチ、12インチ)から構成されていた。消火ポンプの能力は圧力14barで400㎥/hの流量を出せた。LPGと油の貯蔵施設のあるゾーンBには、20個の消火水接続口と10個の消火栓があった。

■ 消火用水系統の分岐配管からは、隣接施設に設置されているLPG貯蔵設備にも供給しており、また2基のLPG球形タンクへも供給している。

■ 所内の消防隊は9名の専属消防士がおり、42名の予備消防士が支援する形態となっていた。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 1966年1月4日、製油所のLPG貯蔵タンクゾーンで爆発が連続して起こり、火災が広がった。午前5時の時点における球形タンクの状況はつぎのとおりであった。
時系列
■ 14日、プロパン用球形タンクT61-443(以下、No.443とする)には、エタンを過剰(12%)に含んだ液化ガスが入っていた。また、高純度プロパンも入れられていた。事故時、球形タンクは製油所の装置からの送液で満杯だった。製品の変化を監視するため分析が必要だった。このため、13日、製品のサンプルを採取する指示が出た。試験室の分析専門者が作業を担当した。サンプル採取の前にパージが必要だった。

■ 午前6時40分前、まだ暗い時間帯であったが、まわりには照明がなかった。試験室の分析専門者は球形タンクからサンプルを採取するため、タンクエリア内に入った。端切り(はなきり)パージを行なうため、分析専門者は、作業を実施するための助勢者と警備員に補助を求めた。
 タンク側面に付いている3個のサンプリング用タップは度々氷結し、操作が難しいので、通常はタンク下部のサンプリング用タップを使用する。

■ 午前6時40分、助勢者は、下側のバルブを半開し、それから上側のバルブを徐々に開けるべきだと主張した。塩分を含んだ水が排出されたあと、少量のガスが放出してきた。助勢者は上側のバルブを閉止した。パージを終える前に、助勢者は再びバルブを開けた。液が少し流れ出たのを確認してからバルブを閉止した。それから助勢者は上側のバルブを全開した。

■ 23秒後、破裂音が聞こえて、突然、プロパンが噴き出し、集水桝からはね返り、顔や腕にはねかかり、作業者は思わず引き下がった。安全ゴーグルを飛ばされた作業員は、ガスで覆われた中、引っ返して上側のバルブを締めようとした。しかし、可搬式のバルブ用レンチがステム・スクウェアにうまくはまらず滑ってしまった。(レンチはバルブステム端にあるグリース注入口に引っ掛かって吊り下がっていた) バルブは噴き出すLPGによってすでに氷結してしまい、元に戻すことができなかった。下側のバルブについては忘れてしまい、2人の作業員はあきらめて退却し、所内の警報を鳴らした。

■ 午前6時40分~50分: この10分間、所内の警備職員も漏れを止めようとしたが、できなかった。両方のバルブとも氷結してしまっていた。当時、風はまったく無く、気温も非常に低かったので、ガスの雲が広がっていくのに好都合な環境条件だった。目撃者によれば、厚さ1~1.5mのプロパンガスの雲が所内から県道CD4に沿っている自動車専用道A7の方へ地面を這って流れていった。

■ 6時50分、警備事務所に知らせが届き、警備員は自動車専用道と県道の交通遮断をしようとした。

■ 午前6時50分~7時05分: パージ作業を実施した助勢者は、球形タンクにつながっているポンプ所のモーターを停止した。午前6時55分、警備事務所からゾーンCの事務所に連絡された。しかし、対応したのが新しく雇用された従業員だったため、警察への連絡に10分かかってしまった。通報は午前7時05分だった。このときまでに1台のトラックがガス雲の中を通過したが、引火しなかった。県道路沿いには10台以上の車が駐車していた。このとき、製油所からの消防車が到着し始めた。

■ 午前7時15分: 1台の自動車がガス雲の方へ向かってきた。その車は県道CD4に通じる道路を走っていた。県道は地域管区道路で、自動車専用道と平行に走っていた。製油所警備員の一人が停止の合図をしていたのもかかわらず、走り続けた。車は球形タンクNo.443の東側約160mのところで停止した。自動車の高温部によってガス雲に引火し、またたく間に炎が製油所の方へ連なって走った。1分後、漏れていたプロパンガスに引火し、激しい火柱が立った。

■ 午前715分: この頃から、消防隊が現場に到着し始めた。製油所の消防隊が漏れを止めようと試みたが、無駄だった。特記すべきことは、隣接していたLPG貯蔵設備の中で2基の球形タンクに設置されていた冷却用スプレー・リングが作動し、製油所の消火用水系統の分岐配管から水が供給されたことである。消防隊は粉末消火器を使用し、粉末消火薬剤トラック(容量1,500kg)を持ち込んだ。いろいろな方法、すなわち泡モニター、タンクNo.442443463への放水砲などが実施された。

■ 午前7時20分: 現場のサイレンが鳴り始めた。公設消防署への通報が近くの住民から行われた。製油所の警備事務所からの通報は午前7時19分だった。他の7基の球形タンクに設置されている固定冷却水システムが作動し始めた。注記しておくことは、現地にあった2台のモーター駆動消火用水ポンプは並列運転ができなかったことである。(機動性が考慮されておらず、流量が400㎥/hに制限されていた)

■ 午前7時30分に活動開始: リヨンの消防隊が到着したのは午前7時30分で、漏洩が始まってから50分近く経っていた。水の供給に対する不安からローヌ川から取水するよう配備された。現場では、ブタンとプロパンを転送し始めた。

■ 午前7時45分: 球形タンクNo.443の安全弁がLPGの内部圧力によって作動した。放出されたLPGはすぐにガス化して引火した。この結果、高さ10mの火柱が立ち昇った。このとき、消防隊はこのタンクへの冷却散水を止め、隣接タンクの冷却に集中する戦術に転換した。安全弁が開いたことはガスが消費されることになり、2・3時間は制圧下に入れる可能性があり、安全弁作動を肯定的に受け取った。8時05分、消防隊の1部隊がノズルを固定して、消防士を引き戻す選択をとった。

■ 午前8時15分頃: 消防隊は強力な油火災用消防車の配置を進めた。しかし、操作ミスによって消防車は動きがとれなくなり、15~20分の間、止まったままだった。ヴィエンヌからの消防隊が到着し、近隣企業からの応援部隊も集結し、貯蔵タンクから半径100~120mの周囲に158名の消防士が配置された。15台の放水ノズルが使用された。この時点において冷却されていなかった球形タンクNo.443では、高さ40mの炎が舞い上がっていた。(冷却スプレーを調節するバルブが、激しい熱のため、操作ができず、球形タンクを冷却することができなかったものとみられている)

■ 午前830分頃: 運河からの水汲上げ装置を配置しようとしたが、製油所の境界フェンスを切り倒す必要があり、作業が遅れた。(切断機および堀取り機) 水量の不足と低い水圧のため、消防隊は球形タンクにできるだけ近づこうとした。目撃者によると、激しい熱のため、40mより中に入ることはできなかった。

■ 午前8時45分頃: 球形タンクNo.443が爆発した。すぐにファイヤーボールが生じ、直径約250m、高さは約400mに達した。

■ 午前8時55分、装置の緊急シャットダウンが指示された。ゾーンBでは、爆発から生き残った人の全員が退却した。(爆発では17名死亡、84名負傷)

■ 午前9時30分(報告書によって時間が異なっている): 隣接していた球形タンクNo.442が爆発した。このときにケガ人は無かった。

■ 午前9時40分~10時30分: 隣接のブタン用球形タンクNo.461、462、463は爆発破片を受けるとともに激しい輻射熱に曝された。爆発はしなかったが、つぎつぎと安全弁が吹いた。(9:40、9:50、10:30)

■ 午前10時10分:ORSEC(Organisation de la Réponse de SEcurité Civile)救助プランが開始された。

■ 最初の爆発によって発生した火災は、すぐに2基の横型円筒式LPGタンク(B 61501 および B 61502)に延焼した。さらに隣接していた4基のジェット燃料タンク(約2,000KLの燃料油)とプレミアム・ガソリン用タンク1基へと広がった。

■ 消防隊による献身的な消火活動は、LPG貯蔵ゾーン全域にわたって行われ、24時間以上続けられた。非常に多くの支援部隊が現地に送り込まれた。1月5日夕方、現場ではわずかに炭化水素が漏れて燃料になり、いくつかの火が残っていたが、警戒警報は解除された。

事故による被害結果
■ 事故によって18名の死亡者のほか、84名の負傷者が出た。死亡した人は、リヨン消防署消防士7名、ビエンヌ消防署消防士4名、製油所の従業員2名、請負会社の従業員3名、支援で来た近隣企業の従業員1名、ガス雲に突っ込んだ自動車の運転手1名(事故の4日後に死亡)である。負傷した84名のうち49名は病院に入院した。

■ 事故は製油所の内外の施設に大きな損害をもたらした。製油所構外では、爆発によって1,475戸の家屋と構造物に被害が出た。

■ 火災によって、LPG貯蔵施設と隣接の油貯蔵施設では、11基が損壊あるいは損傷を被った。(球形タンク5基、横型円筒タンク2基、浮き屋根式タンク4基) 焼失した油は、プロパン1,012トン(約2,000KL相当)、ブタン2,027トン(約4,000KL相当)、ジェット燃料2,000KL(石油1,500トン相当)にのぼった。ポンプ所(横型LPGタンクとジェット燃料タンクの間にあった)および消防車6台も火災によって損壊した。
事故後のLPG球形タンクの状況
貯蔵施設の被災状況


 (左) 4.5mの裂け目ができたブタン用球形タンクNo.463
  (右) 7mの引き裂け目ができたブタン用球形タンクNo.462
                    (左) 長さ3.5mの裂け目ができたブタン用球形タンクNo.461
                    (右) 爆発によって被災した球形タンクの状況
                    (左) 高温に曝され、下部が膨らんだ横型円筒タンク(ブタン用No.61502
                    (右) 爆発による球形タンクの破片などで損傷した配管
欧州基準による産業事故の規模
■  1994年2月、セベソ指令を司るEU加盟国管轄庁の委員会は、事故の規模を特定するために18項目のパラメーターを用いる評価基準を適用した。わかっている情報をもとに検討された結果、当該事故は4つの分類項目に対してつぎのように評価された。

現場における爆発および熱の影響
■ 事故時に現場にいた158名のうち42名は、3か月以上現職に復帰できなかったという。最初の球形タンクによる予期しなかった爆発とそれに続くBLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion)による輻射熱は多くの消防隊員の命をうばった。球形タンクから50m以内にいた隊員は、2名を除いて全員死亡した。半径150m以内にいた人はひどい火傷を負った。これより遠いところにいた人のケガの程度は重傷ではなかった。

■ プロパン用球形タンクNo.443442の爆発は激しかった。半径800mの範囲内に飛散した大小の破片が見つかった。(表を参照)
■ 球形タンクの安全弁はつぎのような状況で発見された。
 ● タンクNo.442: 1台は開、もう1台は閉で、両方とも約800m飛び、完全に壊れていた。
 ● タンクNo.443: 1台は開、もう1台は閉で、両方とも約600m飛び、形状はとどめていた。

■ 爆発によって2基の球形タンクから飛散した69個の破片の発見位置を図に示す。
 球形タンクのBLEVEによって飛散した破片は、ほかの球形タンク、配管、油貯蔵タンクに衝突し、
大きな損傷を与えた。
球形タンクNo.442のあった場所には、長さ35m×15m×深さ2mのクレータが残った。
貯蔵施設の被災状況
主な破片の飛散状況
球形タンクから飛散した破片の発見位置
■ 爆風圧による影響は南方向のローヌ谷沿いで顕著だった。2.2km離れた家屋で屋根が壊れたところがあり、4.2km離れたところでは壁がはがれた家屋があり、8km先でも窓が壊れた家があった。爆発による振動は16km離れたヴィエンヌでも感じられた。 
< 事故の発端および状況 >
漏 洩
■ 気象台によるデータによれば、事故当日の天候はつぎのとおりで、風は比較的穏やかだった。
 ● 1966年1月4日午前5時~午前6時35分: 南からの風で、風速1~2m/sだった。
 ● 1966年1月4日午前6時35分~午前6時55分: 東からの風向きに変わり、風速は1m/sから2.5m/s
    の範囲だった。
 ●  1966年1月4日午前6時55分~午前7時20分: 東の風で、風速は2~2.5m/sの範囲だった。
 ●  1966年1月4日午前7時20分以降: 風は1m/s未満だった。
 特記しておくべきことは、現場の場所がフェザン村の丘で東側を守られていたということである。

■ 気温は5℃だった。

■ 証言および事故後の現場確認によれば、パージ・システムのバルブは、上流側が全開、下流側が半開だった。

■ 事故後、入手し得た各種情報に基づいて専門家が漏洩量の推算を行い、発表している。その結果はつぎのとおりである。
 ① 呼び径2インチの分岐管からの漏れ計算
      0.82.S.(2gh)1/2 、すなわち11.5 kg/s、流れのロスを考慮すると、8 kg/sとなる。
 ② 計器からの損失量の推算
     午前5時には球形タンクの貯蔵量は693KLだった。球形タンクの計器によって、647KLで閉止され
    ていたことが爆発後にわかった。この差は46KL(約23トン)であるが、最小値とみられる。午前6時
    40分に事故が起こってからも球形タンクから漏洩が続いており、記録からはおよそ1時間40分続い
    た。計器の閉止した時間の仮定から、最小の漏れ流量は 6.4 kg/sとなる。     
   ③ ガス雲の大きさからの推算
     ガス雲は最大約30分間で形成しており、目撃者によって観察されたガス雲の大きさは、面積で
    約3.8ヘクタール、厚さは約1.5mとみられる。このときのガス容量は40,000㎥であり、ガス混合気の
    性状を仮定して重量を出せば68トンとなり、漏洩の推算は 37 kg/sとなる。
  ④ 作業状況からの簡易推算
      パージラインのバルブ開では、30~40 t/hである。これから、漏洩の推算は 8~11 kg/sとなる。
目撃者によるガス雲の形成状況
(注;右上の赤いマークが引火源になった自動車とみられる)
BLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発) 
■ プロパン用球形タンクNo.443、442の2基の爆発は、BLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion)に分類される。事故発生当時、この現象についての知見はほとんど無かった。事故後に、モデルを使って、2基の球形タンクが爆発で生じた破裂について確認された。
モデルによる球形タンクT61443の主要な破片
モデルによる球形タンクT61442の主要な破片
(1) 最初のBLEVE
■ 爆発は、漏洩が始まってから約2時間後に起き、ガス雲が火災になってから1時間半後に起こっている。
記録と特に写真を見ると、球形タンクは炎の中に完全に飲み込まれた状態だったことがわかる。直径13.27mのプロパン・タンクは、午前5時時点で液面高さが7.12mだった。その後、球形タンクは液を受入れており、受入れを停止(午前7時30分?)するまで続いた。漏洩は、呼び径2インチの配管から起こり、約30分間続いた。受入れバルブは、事故が起こったときにも、開いた状態が続いていた。

■ 収集したデータを調べた結果、球形タンクの冷却システムは、スプレー調節部が火災による高温に曝されてすぐに機能しなくなる位置についていたため、作動しなかった。

■ ファイヤーボールは、直径250mで、400mを超える高さに達した。

■ 金属学的な調査結果によると、タンク上部は降伏域にあり、温度は800℃以上に達している。

(2) 2番目のBLEVE
■ 直径13.27mのプロパン・タンクは、午前5時時点で液面高さが8.47mだった。この球形タンクの固定式冷却システムは午前7時20分に作動し、タンクは冷却され始めていた。

■ このタンクに起きた現象を説明しうるものはほとんどない。しかし、爆発によってタンクの下側地面に大きなクレータができているという事実がある。破片の調査後による公式の仮説によれば、タンクNo.443の1回目のBLEVEによる破片B1がタンクNo.442の東側の脚柱に衝突して損傷を与え、倒れたことによるものだとみられている。

< 事故の原因 >
■ 事故の要因を調査した結果、原因に関して要素ごとに分類してまとめられた。
タンク下部のサンプリング装置
(1) 氷結の要因
■ 作業の時系列を見てみると、最初に下側のバルブが開けられた。つぎに上側のバルブが開けられ、それから流れを止めている。つぎに上側のバルブを全開にすると、すぐに内液が大量に放出された。操作用レバーはバルブのステム・スクウェアに掛けるようになっている。作業員はそれを元に戻すことに失敗し、引き下がった。バルブが氷結してしまい、操作できなくなっていた。

■ この現象はつぎのように説明できる。下流側のバルブを開放のまま上流側のバルブを開けると、上流側バルブにおいてLPGの膨張が起こり、水分が固化して氷のブロックができる。氷はパイプを閉塞させ、液が流れなくなる。作業員の操作(上流側バルブを全開)は氷のブロックに穴をあけて貫通させることになり、大量漏洩に至った。

(2) バルブの潤滑
■ 元の位置から約200m離れたところで回収されたバルブについて調査した結果、潤滑不良という評価だった。潤滑剤は低温でも操作を容易にするが、当該バルブはほとんど潤滑性を有していなかった。また、バルブは全開状態でみつかった。

■ 下流側バルブもほとんど潤滑性を有していなかったことが確認されている。このバルブの操作は容易だった。バルブは1/2開でみつかった。

■ バルブの保全は最適な状態ではなかったが、潤滑不足というだけで、事故時に操作不能という結論にはならないというのが、専門家の見解であった。しかし、それにもかかわらず、設備の保全状態を把握し、記録に残しておくべきだという推奨意見が出された。そして、低保全性の無給油式バルブの採用が提案された。

(3) バルブの機能
■ テーパープラグ・バルブはアイス・ブレーカー型として知られている。今回の場合、ドレン排出操作時にパージ用配管の中で生成した氷のブロックを貫通させることに寄与してしまった。この結果、事故時のような漏洩が起った。

(4) スクウェア・レンチの操作性
■ バルブを操作する場合、取付け向きによって操作用レバーが脱落しないように設計されたものが使用される。タンクNo.443の場合、そのような設備になっていなかった。

(5) パージ配管
■ サンプリングという目的から考えると、パージ配管のサイズ(直径)は大きすぎると結論づけられた。

(6) 部品の配置スペース
■ 調査結果によると、サンプリング用バルブは必ずしも操作しやすいものではなかった。特に、当該タンクの場合はそうだった。サンプリング操作がしやすいように、タンク下部には十分なスペースをとるべきだというのが、専門家の推奨意見だった。(配管系統や他の設備を考慮すると、垂直方向に3mの間隔をとる)

(7) バルブ操作
■ 事故以前にも類似の問題が起こっていた。1964年8月6日、ブタン用タンクNo.462において漏洩問題が起った。操作している間に、バルブ用レンチが落ちてしまった。困難を伴ったが、漏洩は制御できた。1965年2月26日、類似の問題がプロパン用タンクNo.441でも起った。

■ 1966年1月の事故より前に、操業開始から2年間で起ったこの2件の問題に対応して、教訓を活かすべく操作手順書が作成された。技術的観点はつぎのとおりである。「サンプリングまたはパージ操作は、最初に上流側バルブを1/4回転、開ける。それから、下流側バルブを徐々に開ける。決して全開してはならない。基本は、上流側バルブをわずかに開け、それから下流側バルブでパージ流量を調節することである。この方法によって膨張現象による突然の氷結が起こっても、上流側で操作が可能である」

■ 総じていえば、ヒューマン・ファクターに関連する過去の教訓(操作に関する手順書の策定と基本の遵守)が活かされておらず、また設備の改善も行われていなかった。事故時の操作は、バルブ開の順番がまったく逆であり、上流側バルブを過度に開けてしまった。

集水桝
■ 調査報告では、集水桝の大きさについて使用時間の基準にもとづいて見直すように明記された。

構外施設との孤立化
■ 自動車専用道沿いの境界フェンスについて警備部門から数度にわたって改善要求が行われ、建設許可が出されていた高さ2.5mの固体壁への変更が行われていなかった。
緊急事態対応時の所内および所外の組織と戦略

■ 公設消防は、リスクの想定が不十分で、且つ対応への訓練が不十分だった。さらに、直面している状況への対応を的確に指揮する能力が欠けていたと感じざるを得ない。

< 教 訓 >
■ フランスでは、フェザン事故は近年の産業界において最大の死傷者を出した災害であり、忘れえぬ大災害のひとつとしてあり続けている。

■ この事故を契機に、石油設備に関する技術基準は広範囲に改正されることになった。その主な事項はつぎのとおりである。
 ● 石油および液化ガスのクラス分けは引火点の基準だけでなく、新たに取扱い・貯蔵条件、精製油、圧力液化ガスなどを加味されるように改正された。
 ● 石油施設まわりの危険地区の定義は、常用運転あるいは非定常条件において発生しうる爆発性
   ガスに基づいて区分(タイプ1およびタイプ2)されることになった。
 ● 設備の配置に関する基準、特に保安距離は設備どうしの考慮だけでなく、構外の第三者施設(住宅、
   道路、公共施設)を重要視されるようになった。
 ● 液化石油ガス貯蔵施設における集水桝の設計と大きさに関する基準が新たに策定された。
 ● 液化石油ガス貯蔵施設、特にパージ配管および安全弁について広範囲の火災を仮定した条件で
   設計する新たな基準が策定された。
 ● 液化石油ガス設備および液化石油ガス貯蔵タンクの防火設備に関する基準、すなわち消火設備
    (泡消火)および周辺機器の冷却に関する基準が新たに策定された。
  ● 一般安全規則(事故時にとるべき行動や安全ルール)および製造、保全、作業、検査に関する
    指導書が発行された。
 ● 知事の権限によるORSECプラン(産業設立機関にとっては特別な介入プランになる)が機能
    しなかったので、消防・救援活動に関する組織プランは設立機関の長によって策定しなければ
    ならないとされた。
 ● 既設設備への遡及適用に関する考え方の基準が策定された。

補 足               
■  「フランス環境省 : ARIA」(French Ministry of Environment : Analysis, Research and Information on Accidents)は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省 French Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy)がフランスにおいて発生した事故について情報を共有化し、今後に活用するため、1992年から始めた事故の分析・研究・情報のデータベースである。有用な海外事故も対象にしている。

■ 「フェザン製油所」は、フランス南部リヨン市(Lyon)の郊外の町フェザン(Feyzin)にあるフランス国立石油会社のエルフ社(Elf:現在のTotal)のフェザン製油所で、精製能力40,000バレル/日で1964年に操業した。
 製油所の貯蔵タンクエリアは現在も変わっていないが、LPG球形タンクは自動車専用道路側の境界から遠い場所に変更され、球形タンクのあった場所には、油タンクが建っている。また、境界フェンスは固体壁になっている。引火源になった自動車が走っていた県道は、自動車専用道に比べ、交通量は少ないようにみえる。
現在のフェザン製油所の貯蔵タンクエリアと構外の公道
(図はグーグルマップから引用)
製油所境界に設けられた固体壁
(図はグーグルマップのストリートビューから引用)
県道から見た自動車専用道と製油所の貯蔵タンク(現在)
(図はグーグルマップのストリートビューから引用)
■ 「フェザンLPGタンクの爆発火災事故」について日本でまとめられたインターネット資料としては、 「フランス フェザンのLPGタンク爆発火災」(小林光夫・田村昌三、失敗知識データベース・失敗百選)、「LPGタンクのドレン弁が低温のため閉止できずにLPGが漏洩して爆発した大事故」(失敗知識データベース・失敗事例)、「LPGタンク水抜き作業中LPGが漏洩し爆発火災」(PEC SAFER、石油エネルギー技術センター、事故事例)がある。また、当ブログでも「石油貯蔵タンク火災の消火戦略- 事例検討(その2)」で紹介した。

■ 「BLEVE」(沸騰液膨張蒸気爆発)は、2011年3月11日東北地方太平洋沖地震によるコスモ石油千葉製油所の液化石油ガス爆発火災事故でみられたが、この事故では6名の負傷者が出た。 BLEVE現象は「石油貯蔵タンク火災の消火戦略」を紹介した際、実験ビデオ「BLEVE (Boiling Liquid ExpandingVapor Explosion) Demonstration - How it Happens Training Video」を紹介したが、 このほかBLEVEの激しさを示す動画としては「BleveTest - Firefighter Video」「Firefighter Gas Explosion」がある。

■ 「アウドコ・ロックウェル社(Audco Rockwell)製のテーパープラグ・バルブ」は、プラグ・バルブとしては標準的な型式だったと思われる。バルブステム端にあるスクウェアにレンチ(操作レバー)を入れて手動で操作するものだったとみられる。注油式のため、ステム端(スクウェア端)にグリース給油口(シーラント・インジェクター)が付いた型式だと思われる。
アウドコ社製の現在のテーパープラグ・バルブの例
(図は同社ウェブサイトの資料から引用)
所 感
■ これまで日本でまとめられたフェザンLPGタンク爆発火災の事故情報には無かった事実がわかった。その中で最も印象深いのは、単なるヒューマンエラーでなかったことである。原因はパージ用バルブの操作ミスであるが、事故以前に同種事例が2件あり、このため、つぎのような操作手順書が策定されていた。
 「サンプリングまたはパージ操作は、最初に上流側バルブを1/4回転、開ける。それから、下流側バルブを徐々に開ける。決して全開してはならない。基本は、上流側バルブをわずかに開け、それから下流側バルブでパージ流量を調節することである。この方法によって膨張現象による突然の氷結が起こっても、上流側で操作が可能である」
 いかに過去の教訓を現場第一線の人に徹底することが難しいか。ルール(マニュアル)を作ればよいというものでないし、ルールを知ればよいというものでない。ルールのできた背景を理解して、「ルールを“正しく”守る」ことの大切さを感じる事例である。

■ この事故対応では、貯蔵タンクから半径120m以内に158名の消防士が配置され、さらに水量・水圧不足のため、タンクへ接近していった。爆発した球形タンクから50m以内にいた隊員は、2名を除いて全員死亡(17名)し、150m以内にいた人はひどい火傷を負ったという。当時、BLEVEという現象はほとんど知られていなかったが、多くの犠牲者が出たため、事故調査報告では消防活動に厳しい評価をしている。
 しかし、この教訓は日本では改善されていたかというと、必ずしもそうは言えない。たとえば、2011年3月東北地方太平洋沖地震後に起ったコスモ石油千葉製油所の液化石油ガス爆発火災事故では、反省事項として「輻射熱、再爆発の恐れがある中で、所有していた放水銃では射程が小さかったため、消火能力単位の高い放水銃を導入した。ガス火災、三次元火災に対する資機材が小さく、火元近くまで接近しなければならなかったため、遠距離放射できる資機材を導入した」という。
 今回の事例は50年近く前の事故であるが、事故調査報告を詳細に見ていけば、現在にも活かすべき情報があると感じた。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Aria.development-durable.gouv.fr, BLEVE in an LPG storage Facility at a Refinery, January 4, 1966, Feyzin (Rhône), France , French Ministry of Environment - DPPR / SEI / BARPI- CFBP, July 2008
      ・東日本大震災時のLPGタンク火災・爆発事故における防災活動,  コスモ石油千葉製油所, Safety & Tomorrow, 2012.5


後 記: 2015年1月7日、フランスの週刊誌社シャルリー・エブドの建物に武装したテロリストが押入り、12名の死亡者が出たというニュースがテレビ・新聞で大きく報道され、さらに1月9日、工場に立てこもった犯人が特殊部隊によって射殺されたと報じられていました。
 そのとき、私は同じフランスの49年前の1月に起きたフェザンの事故情報を調べていました。フランスで起きた事故で、フランス環境省でまとめられたものですが、おそらく広く世界に知ってもらおうという意図でしょう、英文にされた資料です。非常に興味深い資料でした。感じたことがいろいろあり、主な二点だけを所感に述べました。しかし、所感に書いていない疑問が残っています。
 それは、これまでフェザンの事故原因とされていたバルブが氷結して動かなかったということへの疑問です。確かに加圧されたLPGが大気圧へ放出されていますので、蒸発熱によって氷結があったでしょう。しかし、今回の資料をみると、作業者は相当狼狽していた様子がうかがえます。あわてていたため、取外し型のレンチ(操作レバー)をうまく使いこなせなかったのが主要因ではないでしょうか。下流バルブの閉止操作について作業者は失念していたとあります。LPGの氷結現象だけに注目しすぎているように感じます。(話としては面白い?ですが) もし、固定式の操作レバーであれば、上・下流バルブの閉止は可能だったのではないでしょうか。