今回は、2024年6月18日(火)~6月20日(木)、ロシアのロストフ州アゾフにある石油貯蔵施設およびタンボフ州ラスカゾフスキーにあるプラトノフスカヤ石油貯蔵施設などが、ウクライナとみられる無人航空機(ドローン)による攻撃を受け、タンク火災になった事故を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、ロシア(Russia)ロストフ州(Rostov)アゾフ(Azov)のアゾフプロダクツ石油貯蔵施設およびタンボフ州(Tambov)ラスカゾフスキー(Raskazovsky)にあるプラトノフスカヤ石油貯蔵施設である。
■ 発災があったのは、石油貯蔵施設内にある石油タンク設備である。
< 事故の状況および影響
> (ロストフ州アゾフの石油貯蔵施設)
事故の発生
■ 2024年6月18日(火)早朝、アゾフで無人航空機(ドローン)による攻撃があり、石油貯蔵タンクが火災になった。
■ 発災に伴い、消防隊が出動した。消防車を含む70人以上の消防士が装備を整えて消火活動に当たった。
■ 攻撃のあった夜、地元住民は石油貯蔵施設が火災に見舞われる前に5回の爆発音を聞いたという。
■ 火災は3,200㎡のエリアに広がった。容量4,000KLの貯蔵タンクの火災を消火するために、多くの人員と49台の機材が投入された。
■ 消防隊の努力にもかかわらず、火災は1日半以上燃え続けた。
■ アゾフにはアゾフプロダクツとドネフテプロダクツのという2つの石油製品ターミナルがあり、 2つの施設には合わせて22基の燃料貯蔵タンクがある。ウクライナ保安庁の情報筋は、ドローンがアゾフプロダクツとドネフテプロダクツの石油貯蔵施設を標的にしたことを認めた。
■ 石油貯蔵施設への攻撃には、ウクライナの無人航空機4機が関与したと伝えられている 。
■ 発災に伴う負傷者は出なかった。
■ 火災の煙が消えた後に撮影された衛星画像では、攻撃により燃料タンク6基のうち3基が損傷したことが示された。
■ ユーチューブなどには火災の状況を示す動画が投稿されている。主な動画はつぎのとおりである。
●Youtube、「 Russian
oil depot hit after Ukrainian drone strike」(2024/06/18)
●Youtube、「Ukraine‘s Drone Attack On Russia | Oil
depots on fire in Russia’s Rostov region after drone attack」 (2024/06/18)
●News.liga.net、「 Oil product tank catches fire in Russia‘s Rostov Oblast after alleged drone attack – video」(2024/06/18)
< 事故の状況および影響 > (タンボフ州プラトノフスカヤの石油貯蔵施設)
事故の発生
■ 2024年6月20日(木)朝、タンボフ州ラスカゾフスキーにあるプラトノフスカヤ石油貯蔵施設の石油タンクが、無人航空機(ドローン)による攻撃を受けて火災になった。タンボフ州プラトノフスカヤはウクライナ国境から約400km離れている。
■ 住民は午前4時頃にモーターかエンジンのような音を聞いたという。その後、激しい爆発が起こって石油貯蔵施設から煙が上がり、近くの家屋の窓が壊れたと証言している。
■ 発災に伴い、タンボス州の消防隊が出動し、消火活動を行った。
■ 地元当局は、火災はドローン攻撃による可能性が高く、住民に対して注意を払い、広場にいることを避けるよう警告した。
■ 午後になって、火災は2基目のタンクに延焼した。石油製品が入ったタンク9基のうち2基が燃えているという。
■ 6月21日(金)、火災は消防隊の消火活動で鎮火した。
■ この攻撃による死傷者は報告されていない。
■ この施設はタンボフ州で最も古く、独立系の民間石油会社である。石油貯蔵施設には、5か所の積込みラインと22基のタンクがあり、ガソリンやディーゼル燃料が貯蔵されている。 タンク1基の最大容量は700KLである。
■ 6月20日(木)には、このほか、アディゲ共和国にあるロシアの石油貯蔵施設を標的とした無人航空機による攻撃があった。ロシアのアディゲ共和国エネム村にあるルクオイルの石油貯蔵施設が、6月20日(木)早朝、4機の無人航空機による攻撃を受けた。攻撃は午前2時40分頃に始まり、4機の無人航空機が現場に衝突し、鋼製のガソリン添加剤倉庫(AI-95ガソリン用)が爆発し、火災が発生した。火は約400㎡の範囲に広がったが、その後、消し止められた。
被 害
■ ロストフ州アゾフの石油貯蔵施設では、2基の石油貯蔵タンクが火災で被災し、内部の液が焼失した。このほかタンク1基が側板を損傷した。
■ タンボフ州プラトノフスカヤの石油貯蔵施設では、 2基の石油貯蔵タンクが火災で損傷した。内部の液が焼失した。
■ 火災により環境が汚染された。
< 事故の原因 >
■ 戦争による軍事行動である。(平常時の“故意の過失”に該当)
< 対 応 >
■ ウクライナは一般的にこうした事件についてコメントを避けているが、2年前の本格的な侵攻を撃退するためロシア軍の燃料備蓄を減少させるため、ロシアのエネルギーインフラ、主に石油施設を標的に独自の無人航空機攻撃を行うことが増えている。ロシア当局は、ここ数週間、ウクライナ国境近くのベルゴロドとノボシャフチンスクの石油施設に対する複数回の攻撃はウクライナの無人航空機によるものだと非難している。
■ 報道によると、米国当局は世界の燃料市場の混乱を防ぐため、ウクライナに対し石油拠点への攻撃を控えるよう要請したという。国防総省の情報機関は先月、最近の攻撃の結果、ロシアの石油精製能力の少なくとも14%が混乱したと推定した。
■ モスクワ・タイムズは6月20日(木)、今年初めからロシアの石油貯蔵所や製油所少なくとも40カ所がドローンによる攻撃を受けており、その中には国内最大級のものも含まれていると報じた。
■ ウクライナは、6月6日(木)夜、ロシアのノボシャフチンスクとスラビャンスク・ナ・クバニの製油所とスタールイ・オスコル近郊の石油貯蔵施設を含む3か所をドローンで攻撃したとされる。
■ ウクライナは、ロシアのエネルギー・軍事・輸送インフラを標的にすればモスクワの戦争遂行への取り組みを弱体するとこれまで主張してきている。ロシア全土の石油貯蔵施設への無人航空機による攻撃はここ数日激化しているが、一方で世界の石油市場と価格にはるかに大きな影響を及ぼす製油所への攻撃は沈静化している。ロシアには約30の製油所があり、その操業が中断すれば国内市場と世界市場の両方にとって大きな問題となる。同国にはガソリンやディーゼル燃料など各種石油製品を貯蔵する石油貯蔵施設も数百か所ある。
■ ウクライナの大統領は、紛争におけるドローンの重要性について、つぎのように言及している。
「ドローンは我々が優位に立てる技術要素であり、そうなるだろう。無人システムの種類によっては、ウクライナはすでに世界をリードしている。このことは我々の友好国との交渉でも明らかである。すでにウクライナの戦士たちが持っている経験やウクライナで生産している装備について多くの国が興味を持っている」
補 足
■ 「ロシア」(Russia)は、正式にはロシア連邦といい、ユーラシア大陸北部に位置し、人口約1億4,200万人の連邦共和制国家である。2022年2月24日(木)、ロシアが、突如、ウクライナに侵攻し、軍事衝突が起こった。
ロシアがウクライナに侵攻して以降、両国のタンクへの攻撃を紹介した事例は、つぎのとおりである。
●「ウクライナ各地で石油貯蔵所が攻撃によってタンク火災」(2022年3月)
●「ウクライナ各地の石油貯蔵所がミサイル攻撃によってタンク火災」(2022年4月)
●「ウクライナで化学工場の硝酸タンクがロシアの攻撃で爆発」(2022年6月)
●「ロシアのベルゴロド石油貯蔵所にヘリコプターによる攻撃」( 2022年5月)
●「ロシアのふたつの石油貯蔵所でタンク爆発・火災、テロ攻撃か」(2022年4月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」( 2022年11月)
●「ロシアがウクライナのひまわり油タンクをカミカゼ無人機で攻撃」(2022年10月)
●「ロシアの石油貯蔵所で無人航空機によって燃料タンク3基が火災」(2022年11月)
●「ロシアの2箇所の石油貯蔵施設を無人航空機(ドローン)で攻撃、タンク被害」(2022年12月)
●「クリミア半島の石油貯蔵施設で無人航空機(ドローン)攻撃でタンク火災」(2023年4月)
●「ロシアの石油貯蔵施設が2日連続で無人航空機(ドローン)攻撃によりタンク火災」(2023年5月)
●「ロシアの軍組織が自国ボロネジの石油貯蔵所を攻撃し、タンク火災」(2023年6月)
●「ロシアの石油貯蔵施設が無人航空機(ドローン)攻撃によるタンク複数火災」(2024年1月)
「ロストフ州」 (Rostov)は、ロシア連邦を構成する州のひとつで人口約420万人で、南部連邦管区に属し、南東でウクライナと国境を接している。
「アゾフ」 (Azov)は、ロストフ州に位置し、ドン川沿いにあり、アゾフ海までは約6kmと近く、人口約82,000人の町である。
「タンボフ州」(Tambov)は、タンボフ市を州都とするロシアの州で、人口約982,000人の町である。人口は1989年の132万人から、減少が進んでいる。ウクライナ国境から約400kmの距離がある。
「ラスカゾフスキー」(Raskazovsky)は、タンボフ州にある地区のひとつである。地区の詳細はわかっていない。
■ ロストフ州アゾフにある石油貯蔵施設の「発災タンク」は容量4,000KLと報じられている。グーグルマップを調べると、タンク群は同径の固定屋根式で、直径は約20mである。容量4,000KLであれば、高さは約13mとなる。
タンボフ州プラトノフスカヤの石油貯蔵施設には、タンクが22基あり、タンク1基の最大容量は700KLと報じられている。グーグルマップを調べると、タンク群は大中小の3種に分かれており、一番大きい径の固定屋根式タンクは直径約10mのものが10基ある。高さが約9mで、容量は約700KLとなる。この10基の中の1基が「発災タンク」で、午後に隣接するタンクへ延焼したものとみられる。なお、タンボフ州プラトノフスカヤはウクライナ国境から約400km離れている。
所 感
■ 前回2024年1月のブログの所感で、ドローンの活用を推奨しているが、戦争で使用される無人航空機(ドローン)が進化することは認めがたいと書いた。一方、貯蔵タンクを運営する事業者や公的機関にとって攻撃型無人航空機(ドローン)の動向は、テロ対応上、知っておく必要があろう。
この点、テロ対応上から今回の事例を見てみると、ドローンが変化している。これまで、無人航空機(ドローン)による貯蔵タンクへの攻撃性が進化し、戦術上も進化していたが、この進化は飛行機型の無人航空機を使用することだった。無人航空機に搭載していた爆弾によって石油貯蔵施設で大規模な火災を起こす方法だった。一方、無人航空機攻撃への対策は電波探知妨害装置であり、高出力レーザーや高出力マイクロ波などとされている。
FPV型(First Person View)ドローンは狙いの正確性であり、GPS(Global Positioning System;全世界測位システム)を使用しないことである。これが電波探知妨害装置に対してどの程度有効か分からないが、対策を回避させる対応をし始めている。 FPV型ドローンの操縦者は、ゴーグルを装着し、ドローンの視点でリアルに景色や障害物を認識しながら操作できる。速度や航続距離が課題があるが、今回のロストフ州アゾフのタンク被災状況を見てみると、FPV型ドローンを使用したのではないだろうか。飛行機型からいわゆるドローン型へ回帰しており、テロ対策上からは厄介なドローンの攻撃性である。
■ 消火活動の詳細は報じられていないが、これまでの事例のような特殊消防列車の出動や現場のスクアート車の配置について言及されていないし、ロストフ州アゾフのタンク火災の被災写真を見る限り、消火資機材は整っているとは言い難い。実際、火災は隣接タンクへ延焼しており、1日で消火できていない。堤内火災と複数タンク火災になれば、対応がいかに難しいかがわかる。備 考
本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
・Jp.reuters.com, ロシア南部ロストフ州にドローン攻撃、石油貯蔵タンクが炎上, June 18,
2024
・English.news.cn, Oil tank in
Russia catches fire in drone attack,
June 20, 2024
・Reuters.com, Fire at drone-hit Russian oil depot rages for second
day, June 20,
2024
・Newsweek.com, Ukraine Drone Strikes Set Two Russian Oil Depots
Ablaze, June 20,
2024
・English.news.cn, Ukrainian
drone attack causes fire at Azov oil depot in Russia, June
19, 2024
・Rferl.org, Ukrainian Drones Struck Russian Oil Facility, Igniting
Major Fire, Source Tells RFE/RL,
June 18, 2024
・English.nv.ua, It took three days to extinguish a fire that was
ignited by a Ukrainian drone strike on an oil depot in the Russian town of Azov
in Rostov Oblast on June 18, Radio Liberty reported on Telegram on
June 22., June 22,
2024
・Voanews.com, Russian oil tanks burn after drone attack, June
18, 2024
・English.news.cn, Oil tank in Russia catches fire in drone
attack, June 20,
2024
・Newsweek.com, Ukraine Drone Strikes Set Two Russian Oil Depots
Ablaze, June 20,
2024
・Kyivindependent.com, Fire at oil depots in 2 Russian regions after
overnight drone attacks, June 20,
2024
・Euromaidanpress.com, Two Russian oil depots on fire in russia’s
Tambov Oblast and Adygea after drone strikes(video), June
20, 2024
・Tass.com, Oil depot ablaze in central Russia’s Tambov Region,
presumably after drone attack, June 20,
2024
・Themoscowtimes.com, Overnight Ukrainian Drone Attacks on Russia Kill
1, Set Oil Depots Ablaze, June 20,
2024
・English.nv.ua, A satellite image of the fire that broke out at the
Platonovskoye oil depot in Russia’s Tambov Oblast after a drone attack was
released by the Russian service of Radio Svoboda on Telegram on June
20, June
20, 2024
・Regnum.ru, Второй нефтяной резервуар загорелся в Тамбовской области
после атаки ВСУ, June 20,
2024
・Rbc.ru, В Тамбовской области спустя сутки потушили открытое горение
на нефтебазе, June 21,
2024
後 記: このブログは戦争による軍事行動(平常時の“故意の過失”)は基本的に対象にしていませんので、前回のドローン攻撃で「無理にテロ対応からの視点でまとめていますが、終わりにしたいですね」と後記に書きました。逆に、だんだんドローンの武器化が進歩してきて終わりになりません。
ところで、4年前の「横浜市の小柴貯油施設跡地の覆土式地下タンクに工事中に転落」(2020年9月)事故を紹介したブログの後記に「私が住んでいる周南市(旧徳山市)にも、旧日本海軍が建設した覆土式地下タンク(最大は内径88m×深さ10m×容量50,000KL)が大迫田地区にありました。いまは緑地公園になっていますが、円形の広場が地下タンクの跡地だと聞いています」と記したのですが、もう少し詳しく紹介したユーチューブが10か月前に投稿されていることを知りました。10分間の余裕がある方はご覧ください (Youtube、【ゆっくり解説】なぜ周南市の緑地公園にはグラウンドが沢山あるのか?【大迫田地下油槽群】‐2023/08/27)