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2019年4月25日木曜日

米国ルイジアナ州で天然ガス施設の炭化水素用タンクが爆発・火災

 今回は、2019年2月25日(月)、米国ルイジアナ州イースト・バトンルージュ郡のセントラルにある油田探査・生産会社ホワイト・マーリン・ミッドストリーム社の天然ガス施設で炭化水素用タンクが爆発して火災になった事例を紹介します。
(写真はKatc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ルイジアナ州(Louisiana)イースト・バトンルージュ郡(East Baton Rouge Parish)のセントラル(Central)にある油田探査・生産会社のホワイト・マーリン・ミッドストリーム社(White Marlin Midstream)の天然ガス施設である。

■ 発災があったのは、セントラルのローム・ドライブ8400番地にある天然ガス施設の炭化水素用のタンクである。タンク内には、塩水と炭化水素の混合液が入っていた。
            イースト・バトンルージュ郡のセントラル付近 (矢印部が発災場所)
(写真はGoogleMapから引用)
                ホワイト・マーリン・ミッドストリーム社の天然ガス施設 (矢印部が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年2月25日(月)午前10時頃、炭化水素用のタンクが爆発して、火災になった。

■ 火災発生に伴い、セントラル消防署の消防隊が出動した。


■ 事故に伴うけが人は無かった。また、火災によるタンク以外の影響はなかった。

被 害
■ 火災に伴い、タンク1基が一部焼損し、内部の油が焼失した。

■ 事故に伴う負傷者は出なかった。 

< 事故の原因 >
■ 火災の原因は爆発によるものであるが、爆発の原因は分かっていない。

< 対 応 >
■ 消防活動中、近くの住民は発災地区から離れているように言われた。

■ 2時間の消防活動の結果、タンク火災は消火された。
(写真はWbrz.comから引用)
(写真はWbrz.comから引用)
(写真はBrproud.comから引用)
(写真はWbrz.comから引用)
補 足
■ 「ルイジアナ州」(Louisiana)は、米国南部に位置し、メキシコ湾に面しており、人口約453万人の州である。州都はバトンルージュで、最大の都市はニューオリンズである。
 「イースト・バトンルージュ郡」(East Baton Rouge Parish)は、ルイジアナ州の中央部に位置する郡であり、人口約44万人の郡である。郡庁は州都でもあるバトンルージュである。
 「セントラル」(Central)は、イースト・バトンルージュ郡の東部にあり、人口約28,000人の町である。
                  ルイジアナ州イースト・バトンルージュ郡の位置  (写真はGoogleMapから引用)
 なお、ルイジアナ州では、つぎのような事故や対応事例がある。

■ 「ホワイト・マーリン・ミッドストリーム社」(White Marlin Midstream LLC)は、 2018年8月、イースト・バトンルージュ郡セントラルにある天然ガスプラントとパイプライン・システムを購入するために設立された会社である。
 親会社であるホワイト・マーリン・オイル&ガス社(White Marlin Oil and Gas Company LLC)は、石油・天然ガスの探査と生産に携わり、主にルイジアナ州とテキサス州での陸上・海上エネルギー事業に焦点を当てている。以前はサブコ・オイル&ガス社と呼ばれていたが、2014年2月にホワイト・マーリン・オイル&ガス社に変更したあと、2018年6月、ペトロ・ハーベスター・オイル&ガス社(Petro Harvester Oil&Gas、LLC)に買収された。その後、2018年8月、ペトロ・ハーベスター・オイル&ガス社、アローロック社、ホワイト・マーリン・オイル&ガス社の3社は石油探査・生産会社をロッカール・エナージー社(Rockall Energy)として統合し、運営している。
 今回事故のあったセントラルにある天然ガスプラントとパイプライン・システムは、アローヘッド・ルイジアナ・パイプライン社(Arrowhead Louisiana Pipeline LLC)とハーベスト・シッドストリーム(Harvest Midstream LP)から1,000ドルで購入したことになっている。

■ 「発災タンク」の大きさなどの情報は報じられていない。発災場所をグーグルマップで調べてみると、火災のあったタンクの直径は約4.0mである。高さを6.0mとすれば、容量は75㎥となる。天然ガス用の油井施設の塩水タンクはグラスファイバー製を使うことが多いが、発災写真を見ると、火災でも自立し、タンク屋根がめくれているので、鋼製だとみられる。
事故前の天然ガス用タンク施設 (矢印が発災タンク)
(写真はGoogleMapから引用
所 感
■  2018年8月、「米国ルイジアナ州の油井用タンク施設で落雷による火災」が起こったとき、ルイジアナ州は、「NASAによる世界の雷マップ」によれば、テキサス州と並び、雷の多い地域であり、米国の原油・天然ガスの油井施設が好調の背景から、メキシコ湾岸でのタンク火災の頻度の高まる可能性があるのではないかと述べた。今回のタンク火災は落雷ではない要因だった。原因が分からないが、タンク内の塩水と炭化水素の混合液が関係する静電気によるものではないだろうか。

 消防活動の詳細は言及されていないが、消火活動が2時間で制御下に入っているので、比較的順調にいったものと思われる。ルイジアナ州では、「米国バトンルージュの貯蔵タンク複数火災における消火活動(1989年)」を経験し、 「米国ルイジアナ州における消防活動の相互応援の歩み」をみるように、消防活動や消防組織に積極的な風土があるように思う。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Kwafb.com, Explosion in Hydrocarbon Tank Causes Fire in Central,  February  25,  2019
    ・Wbrz.com,  Tank Catches Fire at Central Plant,  February  25,  2019
    ・Wbrz.com, Emergency Crews Respond to Explosion at Central Plant Monday Morning,  February  25,  2019
    ・Businessreport.com, Gas Plant and Pipeline System near Central Sold,August 23, 2018


後 記: 今回の事故は2月にあり、情報の紹介が遅くなりました。今年2月は事故が多く、またこの事故に関する報道記事が少なく、すっかり忘れていました。ところで、今回の発災事業所を調べていて分かったのは、原油・天然ガスの探査・生産会社は複雑だということです。リスク回避のために会社を重層化しているのでしょうが、原油・天然ガス探査・生産会社自体が小規模になっており、実態がよく見えません。事故のあったセントラルにある天然ガスプラントとパイプライン・システムを1,000ドル(11万円)で購入したことになっていますが、なにか裏がありそうですね。
 好調を保っている米国の原油・天然ガス生産ですが、一方、イラン産原油禁輸の日本への影響は、石油価格が上昇し、供給量が3%減だそうです。供給が5%低下すれば、ガソリンの買い付け騒ぎになるといわれています。事故情報から横道にそれますが、すっきりしないGWですね。


2019年4月21日日曜日

米国テキサス州で配管漏れで爆発、イソブチレン・タンクに延焼、死傷者3名

 今回は、2019年4月2日(火)、米国テキサス州ハリス郡クロスビーにあるKMCO社の化学プラントで3名の死傷者を出した爆発・火災事故を紹介します。
(写真はNbcnews.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)クロスビー(Crosby)にあるKMCO社(KMCO LLC)の化学プラントである。 KMCO社は1975年に設立された化学会社である。
 
■ 発災があったのは、クロスビーのラムジー通り沿いにある化学プラントの配管やタンク設備である。化学プラントは、ヒューストン(Houston)の北東にあり、3月17日(日)にタンク火災時のあったディア・パークから約20マイル(30km)しか離れていない。
              テキサス州ハリス郡クロスビー付近 (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年4月2日(火)午前10時45分頃、KMCO社の化学プラントの移送配管で爆発があり、火災になった。すぐに、近くのイソブチレンで一杯のタンクに延焼し、さらに近くにあった貯蔵倉庫に延焼した。貯蔵倉庫の中には、固体で燃焼性のあるケミカルが入っており、火が移ったものとみられる。空には黒煙が立ち昇った。

■ KMCOのプラント構内にいた従業員によると、最初、ガス漏れがあり、急いで避難しようとしたという。プロセス区域から出たところで、誰かが「タンクに火が着いた」と叫び、プラントが爆発した。このとき、門は閉まっていたので、門の下を這って出た。「とにかく、できるだけ早く遠くへ逃げることしか考えられなかった」と話している。

■ ある住民は 「大きな音が聞こえた途端、家が揺れました」といい、別な住民は 「家全体が震えました。窓が振動し、飼っていた犬が吠えていました」と語っている。

■ 事故発生に伴い、ヒューストン消防署、クロスビー消防署などの公設消防隊が出動した。 KMCO社は緊急事態対応の指揮所を開設した。対応チームと公設消防は、火災を封じ込めようと活動した。

■ 火災発生に伴い、 KMCO社の化学プラント周辺の道路が交通規制で閉鎖された。

(写真はAbc.comから引用)
■ 発災に伴い、1名が死亡し、2名の重傷者が出た。亡くなったのは、KMCO社の運転部門の従業員で、現場において死亡が確認された。爆風で亡くなったものとみられる。ケガをしたふたりは救急ヘリコプターで病院に搬送された。

■ 事故発生により、当局は工場から1マイル(1.6km)以内の住民と学校の生徒に屋内に留まるように勧告した。クロスビーの学校では、校内の暖房、換気、空調システムのすべてを止め、さらに追加の安全予防策として、できる限りドアの密閉を強化した。

■ 米国環境庁は大気中に有害化学物質を検出していないと発表した。これを受け、約4時間後に屋内待機の勧告は解除された。
 
■ 火災の消火に当たっていた消防士が数名負傷したと報じているが、真偽は不詳である。 

■ 火災は、約5時間半経った午後4時20分に消された。しかし、消防隊はホットスポットによる再引火に留意した。

■ 午後2時30分までの消防活動は明らかに制御下にあったが、午後4時20分まで消火できなかったのは、消火水の圧力が低下したためである。この水圧低下の問題は、3月17日に起こったディア・パーク火災のときと同じである。 

■ KMCO社の会長は地域社会に心配と迷惑をかけたことを陳謝した。

■ 火災は当初、イソブチレンが引火したもので、その後、燃焼源はエタノールとアクリル酸エチルだった。この3つともプラント内で燃料に添加されるケミカルや溶剤である。

■ KMCO社は事故後、火災はイソブチレンから火の手があがり、それからエタノールとアクリル酸エチルによって燃料が供給され、タンクが火災に巻き込まれ、さらに乾燥したケミカルが詰まっている近くの貯蔵倉庫に燃え始めたと語った。

被 害
■ 化学プラント内の配管やタンクが焼損した。また、貯蔵倉庫が内部に保管されていたケミカルとともに焼失した。被害設備の詳細は不詳である。  

■ 3名の死傷者が出た。1名が死亡したほか、2名は重傷である。このほかに、消防隊に数人の負傷者が出たといわれている。

■ プラント近隣の住民と学校の生徒が一時、屋内待機した。影響した人数は不詳である。
           発災の経過状況 (各写真の左上は現地時間)
(写真はAbc.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
火の手は2箇所から上がっている
(写真はNbcnews.comから引用)
(写真はAa.com.trから引用)
< 事故の原因 >
■ 原因は調査中である。

■ KMCOによると、予備調査では、最初にタンクから漏れたものではないとみている。KMCO社は事故後、火災はイソブチレンから火の手があがり、それからエタノールとアクリル酸エチルによって燃料が供給され、タンクが火災に巻き込まれ、さらに乾燥したケミカルが詰まっている近くの貯蔵倉庫に燃え始めたと語っている。

< 対 応 >
■ 4月2日(火)、テキサス州環境品質委員会は火災の初期評価を行うために調査係官を派遣した。また、米国CSB(化学物質安全性委員会)が事故調査を行うことを表明した。 

■ 4月3日(水)、プラントの操業はすべて無期限に停止され、消防の管理下におかれた。また、テキサス州は、KMCO社に対してテキサス州大気浄化法違反で訴状を出した。
 
■ プラントの爆発後、多くの住民が健康と安全について不安を抱いていた。火災が消えた後もメタノール・タンクとエタノール・タンクに関連したプラントでは、まだくすぶっている区域から不快な臭いがしていた。消防隊は、臭いの放散を防ぐためにその区域に泡を追加して覆った。

■ 住民だけでなく、数年前からプラントで働いている従業員のひとりは、「とても怖かった。2・3週間前にディア・パークの火災事故があり、これ以降、私たちの職業というものに悩み始めていました。そして、身近なところで事故が起きたのです。しかし、ほかのどこでも常に起こりうることなのです」と語っている。

■ 4月4日(木)、残っていたホットスポットはすべて冷却されて無くなった。KMCO社はドローンを使用して、消防署と連携してホットスポットが無くなり、完全に消火できたことを確認した。

■ 4月8日(月)、ヒューストン地区の化学プラントで働いている請負者が、KMCO社に対して訴訟を出した。訴えは、火災事故で負傷者が出たが、KMCO社は致命的な火災が発生する前に、可燃性ガスの漏れていることを知っていながら、避難を命じなかったというものである。ケミカル貯蔵施設で爆発前に、高圧のガス配管のバルブから漏れ、ガスが放出していたことをKMCO社は知っていたと主張している。 なお、逆止弁が故障して漏れたと報じているメディアもある。
             消火活動する消防隊    (写真はAbc.comから引用)
焼け落ちた貯蔵倉庫とみられる
(写真はNbcnews.comから引用)
(写真はHoustonchronicle.comから引用)
             発災中心部跡    (写真はChron.comから引用)
 補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,870万人の州である。
 「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約470万人の郡である。この事故の2週間前の2019年3月17日(日)に起こったディア・パーク市のタンク火災事故「米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災」は、同じハリス郡だった。
 「クロスビー」(Crosby)は、ハリス郡東部に位置し、人口約2,300人の町である。
         テキサス州クロスビー周辺  (写真はGoogleMapから引用)
■ 「KMCO社」(KMCO LLC)は、1975年に設立した化学会社で、クーラント(冷却剤)、ブレーキ・フルード製品、油田業界向けの化学薬品などを製造している。クロスビー工場は2012年に買収して保有したもので、従業員は180名である。工場施設には、貯蔵タンク600基、鉄道タンク車250台、反応塔28基などがある。
KMCO社のクロスビー工場
(矢印が発災箇所付近だが、今は配置が変わっている)
(写真はKmcoinc.client.artisandm.comから引用)
■ 発災設備のプロセス装置について報じられておらず、またKMCO社のウェブサイトでも明らかにされていないので分からない。発災後の設備跡とグーグルマップの設備配置を比較すると、明らかに改造されていることが分かる。また、イソブチレンが一杯入っていたという発災タンクの仕様も分からず、グーグルマップでも特定できなかった。
左が今回の火災跡、右が以前のプラント配置
以前の建家跡に新しい竪型タンクが3基追加されている
(写真は、左; Chron.com、右;GoogleMapから引用)
■ 「イソブチレン」(Isobuthylene)は化学式C4H8で、イソブテン(Isobutene とも呼ばれ、通常、石油分解ガスからの分離か、イソブタンの触媒による脱水素化によって製造される。空気より軽く、比重は0.6 g/cm3で、極めて可燃性が高く、常温常圧で無色の気体である。漏洩すると、発火、爆発する危険性がある。タンク(容器)が加熱されると爆発するおそれがあり、ガス漏れを止められないときは、漏洩ガスの火災は消火しない。

 所 感
■ 今回の事故は化学プラント内で起こったもので、 最初にタンクから漏れたものではなく、高圧のガス配管のバルブ(逆止弁が故障して漏れたという情報もある)から漏れ、放出してガスに引火し、爆発したものだと思われる。燃焼源は最初にイソブチレンで、その後、エタノール、アクリル酸エチル、貯蔵倉庫内のケミカルに延焼していったとみられる。漏れの異常に気がついた従業員が対応をとっていた際に、爆発したものではないかと思われ、複数の死傷者が出るという不幸な出来事だった。何らかの別な対応がとれなかったのかと感じる。
 事故の原因は調査中だが、KMCO社は2012年にクロスビー工場を取得した後、事故のあったプラントの一部を改造しており、改造設備や運転マニュアルに問題があるのかも知れない。

■ この事故の2週間前の2019年3月17日(日)に、同じテキサス州ハリス郡にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク火災事故は、一旦消火後、再引火したり、ベンゼン放出で大気汚染の問題が生じたりしたため、地元の関心事は発災状況より再引火や大気汚染の懸念にあった。ハリス郡庁としては、インターコンチネンタル・ターミナル社のタンク火災事故が一段落した4月2日(火)に再びプラントの火災事故が起き、多忙な日々を送ることになったが、学習効果か、今回は後手後手の対応にはならなかったように思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  Reuters.com, Texas Chemical Plant Fire Kills One, Injures Two,  April  3, 2019
    Edition.cnn.com,  Chemical Plant Fire near Houston Kills 1,  April  2, 2019
    Marketwatch.com, 1 Killed, 2 Hurt in Fire at Texas Chemical Plant,  April  2, 2019
    Time.com,  Fire at Houston-Area Chemical Plant Leaves 1 Dead, At Least 2 Injured,  April  2, 2019
    Khou.com, 'It Was Terrifying' | Deadly Chemical Plant Fire in Crosby Is Contained,  April 2, 2019
    Aa.com.tr,  Blast, Fire at Texas Chemical Plant Kills 1, Injures 2,  April  3, 2019
    Nzherald.co.nz , Texas Inferno: One Dead as Tank Catches Fire at Texas Chemical Plant,  April  3, 2019
    Simmonsandfletcher.com, KMCO Plant Explosion Update – Shelter In Place,  April  2, 2019
    Abc13.com, Cause of Deadly KMCO Explosion in Crosby Still Unknown,  April  4, 2019
    Abc13.com, Houston's ‘Tox-Doc' Explains The Dangers of The Smoke from Crosby Plant Fire,  April  3, 2019
    Abc13.com, 'Get out as fast as you can' Workers Crawl under Gate to Escape Blast at KMCO Plant in Crosby,  April  3, 2019
    Abc13.com, KMCO chemical plant fire in Crosby kills 1, injures 2,  April  3, 2019
    Chron.com, KMCO Identifies Worker Killed in Explosion at Crosby Chemical Plant,  April 3, 2019
    Fox26houston.com,  Lawsuit Filed against KMCO Following Plant Fire,  April 3, 2019
    ・Starcouriernews.com, Explosion, Fire at KMCO Plant in Crosby,  April 4, 2019
    Crossroadstoday.com, KMCO Knew of Valve Leak before Texas Plant Fire,  April  8, 2019
    Insurancejournal.com, Workers Injured at Texas Chemical Plant Damaged by Fire File Suit,  April 8, 2019
   Fox26houston.com, Contractors File Lawsuit against KMCO LLC after Deadly Fire,  April 8, 2019
    Fairfieldcurrent.com, The Newest: Texas company,  April  17, 2019
    Kmcoinc.client.artisandm.com, Press Release,  April  2-5, 2019


後 記: 米国のプロセス・プラントの事故は、発災事業所が十分把握していないためか、あるいは情報を意図的に出していないためか、タンク事故に比べて内容に乏しいことが多いと感じていました。さらに最近、米国の事故情報を見ていて、メディアによる報道の姿勢が甘いと感じます。メディアに関わる人材が少なくなり、相互に記事を融通しあうことが多いように思います。インターネットの事故情報は同じ記事が目立ちます。そのため、インターネット検索すれば、多くの記事が出てきますが、内容が同じということを知るだけの無駄時間を費やすことが結構多いと感じます。
 それでも、内容に工夫を施すメディアもあります。画像や動画は現場の状況を把握するのにとても参考になりますが、大抵は撮られた時間が分かりません。今回、ABCニュースの動画では、画面に時間を明示しています。この場面はブログ本文で紹介しましたが、状況がよく分かります。

2019年4月13日土曜日

米国テキサス州で13基の貯蔵タンクが6日間火災



  今回は、 2019年3月17日(日)、米国テキサス州ハリス郡ディア・パーク市にあるインターコンチネンタル・ターミナル社のタンク施設で起こった13基の貯蔵タンクの火災事故を紹介します。火災は6日間にわたり、大気汚染や海上汚濁の問題が続く最悪の事故になっています。
(写真はMedia.graytvinc.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国のテキサス州(Texas)ハリス郡(Harris County)ディア・パーク市(Deer Park)にあるインターコンチネンタル・ターミナル社(Intercontinental Terminals Company)のタンク施設である。インターコンチネンタル・ターミナル社は日本の三井物産が所有する施設である。

■ 発災は、ヒューストン(Houston)都市圏にあるターミナル施設のタンク設備で起こった。ターミナル施設には合計242基のタンクがあり、石油化学製品の油やガス、燃料油、バンカー油、各種蒸留油を貯蔵しており、総容量は1,300万バレル(207万KL)である。
テキサス州ハリス郡ディア・パーク周辺
(写真はGoogleMapから引用)
                         火災のあったタンク地区   (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2019年3月17日(日)午前10時20分頃、容量80,000バレル(12,700KL)のTank80-8(ナフサ)で火災が起こった。ナフサ・タンク内には90%の油が入っていた。

■ 周辺地区には空気中に濃い黒煙が漂った。地方自治体などは煙に毒性はなく、問題ないといっている。しかし、住民の中には、この発表を懐疑的に受け取った人もいる。孫のいる住民は、「子どもには外に出ないように言っている」と語った。

■ 火災が起こったとき、インターコンチネンタル・ターミナルの現場には約30名の従業員がいたが、けが人は出なかった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、火災への対応を行った。午後3時頃、火災が拡大しないよう、防御的消火戦略をとった。しかし、午後7時に、火災は2基目のTank80-5(キシレン)へ延焼した。
 消火用水の水圧が一時低下し、消防活動を妨げ、さらに2基のタンクが爆発的に燃焼して、火災は夜通し激しく燃えた。その後、水圧の低下は復旧した。

■ パサデナ・フリーウェイ225号線がベルトウェイ8号線からインディペンデンス・パークウェイまでの間で交通規制が行われ、上下線の両方が閉鎖された。また、ディア・パーク市は住民のために避難所を開設した。避難指示は出されていないが、住民には室内に留まることが推奨された。

■ 3月17日(日)の発災直後から大気の監視が行われ、健康に影響が出る状態では無かった。しかし、避難して帰ってきた住民のひとりは、近所の屋根の上に煙が立ち昇るのを見たが、目と喉にかゆみを感じたという。

■ ハリス郡は、3月17日(日)午後にインターコンチネンタル・ターミナル社に対して地方自治体として必要な物資を支援する旨申し出た。同社は発災のあった日に地方自治体の支援を求めなかったという。

■ 3月18日(月)午前1時30分時点、火災は隣接していた5基のタンクへ拡大した。新しく火災になったタンクの内液はガソリン用のブレンド油と潤滑油のベースオイルだった。消防活動はインターコンチネンタル・ターミナル社の消防隊が第一線で作業を行ったおり、泡を用いて火災を制御し、さらに火災が広がらないよう、防御的消火戦略がとられた。

■ 3月18日(月)午前5時30分時点で、タンク火災は8基に広がった。爆発する危険性は少ないが、インターコンチネンタル・ターミナル社の消防隊は、チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(Channel Industries Mutual Aid;CIMA、チャンネル産業協同組合)の支援を受け、泡消防車と高所泡放水車を用いて火災を制御し、さらなる火災の拡大がないよう消防活動が続けられた。CIMAは、ヒューストン圏内の石油精製・石油化学業界において消防業務および危険物取扱いを専門とする非営利団体である。

■ 3月18日(月)午前6時、ディア・パーク市は発災現場の近くにある学校の休校を決めた。

■ ヒューストンには、9つの製油所があり、1日当たり230万バレルの原油を処理しており、これは米国国内の12%を占める。この火災による製油所や港の出荷に影響は出ていない。

■ 3月18日(月)の早朝に近くの住民に対して避難勧告が出ていたが、その日のうちに解除された。しかし、屋内に留まるよう推奨された。テキサス環境保全委員会は、月曜昼の時点で、ただちに健康被害にかかわる汚染物質は出ていないと発表した。高度での排出量を監視するため、特別な航空機が飛ばされた。

■ 3月18日(月)午前10時時点で、火災になったTank80-8(ナフサ)の内液を減らすために、ポンプで別なタンクへの移送を始めた。また、火災のタンクは7基になったが、1基は空のタンクである。この時点で、火災を封じ込めることができず、あと2日間燃え続けるという予測であった。燃えている6基のタンクは同じ防油堤内にあり、この防油堤には計15基の貯蔵タンクが設置されている。消防隊は、これ以上火災が広がらないように消防活動を続けた。

■ 3月18日(月)大気排出物試験によって、施設から6マイル(9.6km)離れた場所で揮発性有機化合物が存在することが分かった。その濃度レベルは危険域を下回っているという。住民は屋内に留まり、ドアと窓を閉め、空調は止めるように推奨された。

■ 3月18日(月)午後3時時点で、消防隊が直面している火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-8(ナフサ)、Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基である。

■ 3月18日(月)の午後、火災から発生した煙は4,000フィート(1,200m)の高さに昇った。空気は比較的乾燥して澄んだ状態だったので、地上での汚染粒子は消散した形になった。しかし、ハリス郡当局は、空気が冷えて重くなるにつれて、煙は一晩で約400フィート(120m)の高さに落ちてくる可能性があるとみている。これは住民の健康に影響を与える恐れがあるという。

■ 3月18日(月)夜、インターコンチネンタル・ターミナル社から委託を受けた環境計測専門会社CTEHから測定場所や風向などとともに大気測定データが公表された。健康被害のある危険なレベルには無かった。

■ 3月18日(月)、現場に消火水を供給していた消防艇の水ポンプ2台が故障し、午後4時から10時までの6時間、水源が途切れたため、火炎が強まった。

■ 3月18日(月)夜、追加の泡薬剤が手配され、3月19日(火)午前10時に到着した。

■ 3月19日(火)早朝、インターコンチネンタル・ターミナル社から派遣要請されていたタンク火災の経験豊富な消防士15名が現場に到着した。派遣されたのはルイジアナ州の専門消防士のチームで、大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送してきた。

■ 3月19日(火)午前10時時点の火災のタンクは計8基だった。従来のTank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ベースオイル)の6基に加え、ほかにTank80-9とTank80-12の空タンクも火に包まれた。このうち、空のTank80-9(空タンク)とTank80-11(潤滑油ベースオイル)は火災の熱で崩壊した。 早朝にTank80-14とTank80-15(いずれも熱分解ガソリン)の2基が火災という情報があったが、当時、火は出ていなかった。

■ 3月19日(火)午後3時45分時点で火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-4(潤滑油ブレンドオイル)、 Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)、 Tank80-7(熱分解ガソリン)、Tank80-8(ナフサ)、 Tank80-11(潤滑油ブレンドオイル)の8基で、火に包まれているのがTank80-9とTank80-12の空タンクである。なお、同じ防油堤内にあるTank80-1(潤滑油ベースオイル)とTank80-10(熱分解ガソリン)は火災を免れている。

■ 消火活動に参加しているチャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(CIMA)は、3月19日(火)に防御的戦略から積極的戦略へ移行し、Tank80-7(熱分解ガソリン)とTank80-8(ナフサ)に攻撃を開始した。CIMAは、火災がタンクの配置されている施設の区画外に広がるとは思っていないと語った。

■ 3月19日(火)、はっきりと火災が続いているタンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-6(ガソリン・ブレンド)の4基だった。

■ 消防隊は、10,000~20,000ガロン/分(37,800~75,700 L/min)の消火泡をタンク施設へ放出した。タンク周辺から流れ出てくる油や消火泡は高さ6フィート(1.8m)の防油堤内に封じ込めようとした。しかし、油と水の一部が現場から出て、近くの水路と港に流出した。このため、漏れ出た液を回収するため、オイルフェンスが展張された。。

■ 3月19日(火)時点で大気の環境監視はテキサス環境保全委員会、米国環境保護庁、ハリス郡、インターコンチネンタル・ターミナル社の4つの組織がそれぞれ行っていた。モニタリング結果では、空気に毒性物質は無く、住民の健康に危険な状態ではないという。
                              黒煙の流れの足跡319日)      (写真はTwitter.comから引用)
■ 3月19日(火)夜、新たにTank80-14(熱分解ガソリン)が火災になった。熱分解ガソリンはエチレンとプロピレン製造時の副産物で芳香族の高いナフサ留分である。午後9時45分時点での火災タンクは、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)、Tank80-14(熱分解ガソリン)の4基だった。以前に燃えていたタンクの消火ができたため、燃えているタンクへ集中して泡薬剤による泡放射が可能となった。

■ 3月20日(水)午前3時頃、すべてのタンク火災が消えた。しかし、現場では、蒸気と煙が目でわかるくらいに立ち昇っており、再引火の可能性があるため、消防隊は泡と水による冷却作業を続けた。

■ 発災状況の動画が各メディアなどから流されている。主なユーチューブの動画を紹介する。
 ● 「 ITC Fire Deer Park: 7 tanks onfire」 (ABC13Houston、2019/3/18)
 ● 「LIVE:ITC FIRE UPDATE」 (ABC13Houston、2019/3/19)
 ● 「KHOU 11 Top Headlines at 10 p.m.March 20, 2019」 (KHOU11、2019/3/20)
 ● 「Raw video: ITC fire reignites inDeer Park」 (KHOU11、2019/3/20)
 ● 「WATCH LIVE: ITC Deer Park tanks onfire again」(KHOU11、2019/3/22)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はNbcdfw.comから引用)
(写真はNbcdfw.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はAbc.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)

(写真はYoutube.comから引用)
(写真はFox10phoenix.comから引用)
(写真はFiredirect.net.jpgから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
(写真はYoutube.comから引用)
                        大容量と思われる泡放射     (写真はYoutube.comから引用)
被 害
■ 13基の貯蔵タンクが火災で焼損した。内液の石油が焼失(量は不詳)したほか、防油堤や配管が損傷した。発災時や消防活動によるけが人は無かった。

■ ベンゼンなどの大気放出で1,000名以上の住民に健康被害が出た。 

■ 油や消火泡が港湾(水路)に流出し、海水の水質汚濁が出た。油まみれの鳥魚やカメの死体が浮かんだりした。

< 事故の原因 >
■ 事故の詳細要因は調査中である。

Tank80-7(ナフサ)と配管マニホールド付近
(写真はGoogleMapから引用)
■ ナフサ・タンクの配管マニホールドで油漏洩が起こった。この漏れた油に引火し、配管マニホールド内で火災となり、続いてナフサ・タンクが火災となり、隣接するタンクに延焼していったとみられる。

■ 3月20日(水)、タンクが過熱し、安全弁が機能しなかった際に火災が始まったという情報が一部のメディアから報じられている。

< 対 応 >
■ 火災が消えた3月20日(水)の午後、タンク施設から煙が上がっているのが見えた。Tank80-5(キシレン)で覆っていた泡が切れたため、まだタンクの熱い金属部によって再引火したものだった。この火災は約30秒で消えた。
                                   320日の再引火      (写真はYoutube.comから引用)
■ 3月20日(水)の夜、風向きが変わり、ベンゼンを含む熱分解ガソリンのTank80-14(熱分解ガソリン)を覆っていた泡が移動した。このため、ベーパーが大気へ放出され、住民に避難勧告が出た。インターコンチネンタル・ターミナル社は熱分解ガソリンを別なタンクへ移送する計画だという。

■ 3月21日(木)の午前6時20分、火災は消えたがベンゼン濃度が上昇しており、火災の影響が終わっていないことが明らかになった。施設の東側境界線でベンゼン濃度が検出されたので、午前6時55分、この地区の避難勧告が出された。
 米国環境保護庁はすべてクリアしていると語っていた一方、テキサス環境保全委員会は若干の問題があることを認めた。3月20日(水)午後1時、大気の状況は「健全とはいえない」としていた。7時間後には数値が減少し、改善傾向にあるとしていた。

■ 問題のタンクは最後に火災になったタンクのひとつで、通常は浮き屋根で保護されているが、火災によって屋根が損傷し、代替として泡で覆っていた。風が変わったとき、Tank80-14(熱分解ガソリン)には20,000バレル(3,180KL)弱の油が入っていたが、その後、別なタンクへ移送を始めた。この作業は8~10時間かかる見込みであるという。

■ 避難勧告が出されている間、家の中にベーパーが侵入してこないよう、住民はエアコンを切り、ドアの下にタオルを詰めるよう言われた。大気の状況が改善したため、3月21日(木)午前11時40分に避難勧告は解除された。また、パサデナ・フリーウェイ225号線がベルトウェイ8号線からテキサス146号線までの間で閉鎖されていた交通規制は午後1時11分に再開された。状況は刻々と変わっていた。

■ 3月22日(金)の朝、Tank80-7(熱分解ガソリン)の内液を別な容器への移送が始められた。しかし、午後12時15分頃、 タンク施設の周囲にある防油堤の一部が壊れたため、その対処が終わるまで、Tank80-7(熱分解ガソリン)の移送は中断された。

■ 3月22日(金)午後3時45分頃、Tank80-2(ガソリン・ブレンド)、Tank80-3(ガソリン・ブレンド)、Tank80-5(キシレン)が再引火し、状況が激しくなった。火災は防油堤から漏れ出た液が広がっていった。新たに発生した火災に対して、ただちに水と泡を放射し始め、発災から約1時間後の午後4時45分頃に消された。防油堤の壊れた原因は分かっていない。漏れ出した液は火災で燃えたタンクの内液と消火で使った泡と水の混合液だった。その後、堤の修復部分を補強するとともに、ほかの防油堤についても調査が実施された。
(写真はYoutube.comから引用)
■ 3月23日(土)午後3時30分に中断していたTank80-7(熱分解ガソリン)の内液を、水中ポンプを使って流速1,300バレル/時(206KL/h)で別な容器への移送が始められた。また、構内の排水溝に溜まった液をバキューム車で汲み上げる作業が始められた。 

■ 再引火の恐れがあるため、発災地区のまわりに追加の大容量の消火泡ポンプが設置され、泡による覆いが切れた場合、すぐに泡を供給できるようにした。

■ 3月23日夜~24日朝にかけて夜を通してTank80-7(熱分解ガソリン)の内液移送が続けられた。3月24日(日)午前2時時点で、12,647バレル(2,010KL)を移送した。移送速度は最高で1,700バレル/時(270KL/h)だった。タンク内には約20,000バレル(3,180KL)あったと推定され、あと残りの液回収が続けて行われる。
 タンクには固定屋根と内部に浮き屋根が付いており、浮き屋根上の油はすべて回収できた。この結果、タンクは安定した位置にあり、泡を張り込みながら残りの液を回収する予定だという。今後24時間で、タンク施設内のすべての油を系統的に回収し、きれいにして地元の心配がないようにするという。

■ 3月24日(日)、発災タンク近くの溝からバキューム車で回収された液は、午前6時30分時点で650バレル(103KL)だった。構内の排水溝に溜まった液の回収は2,080バレル(330KL)だった。

■ タンク施設の2次防止堤エリア内の液レベルは、3月23日(土)朝の時点で2フィート(60cm)だったのが、3月24日(日)朝には2インチ(5cm)に低下した。

■ ベンゼン成分を放出した熱分解ガソリン・タンクの近くの北側に設置されていた2次防止堤の一部が損壊していたことが分かった。これを受けて、この近くの住民に避難するよう促された。また、ヒューストン港の一部が閉鎖された。

■ 米国沿岸警備隊は、港湾内に流出した油と泡を封じ込めるのため、オイルフェンスの展張強化を行った。海へ流れ出た液による影響は約2マイル(3.2km)にわたるエリアであったが、大半は封じ込めができた。3月23日(土)は8,500フィート(2,590m)のオイルフェンスを展張したが、場所によっては2重、3重にする必要があり、 3月24日(日)は27,000フィート(8,230m)を展張した。

■ 3月24日(日)、インターコンチネンタル・ターミナル社は、作業目標を各タンクからの油除去、構内の排水溝の修復、港湾の機能回復の3つに焦点を当てたが、けが人を出すこともなく、3つの目標を順調に達成しつつあると語っている。特に、Tank80-7(熱分解ガソリン)から追加の油抜出しが実施されつつある。Tank80-14(熱分解ガソリン)の油が移送され、タンクは空となって安全な状態である。また、Tank80-10(熱分解ガソリン)の油は移送中で、もうすぐ空になる予定だという。つぎの油移送はTank80-13(熱分解ガソリン)が予定されている。なお、事故が始まって以来、構内の排水溝の修復も続けられている。

■ 3月26日(火)、Tank80-7(熱分解ガソリン)とTank80-14(熱分解ガソリン)は空になり、安全な状態になった。つぎに、Tank80-10(熱分解ガソリン)の油移送を実施中で、これが終われば、Tank80-13(熱分解ガソリン)を空にする作業が始められる予定である。

■ 3月26日(火)、火災になったタンク施設は少なくとも2フィート(60cm)の泡を保持する必要があり、消火泡を供給している。また、バキューム車とホースを使用して、排水溝からの残った油(水との混合液)を抜き出している。この混合液はTank100-28へ移されている。

■ 3月26日(火)午前6時45分時点、タンク施設からの水の混じった油と消火泡の回収量は約33,394バレル(5,300KL)である。港湾(水路)からの油と水の混合液の回収量は約12,897バレル(2,050KL)である。

■ 3月26日(火)、テキサス州は環境汚染防止違反に当たるとし、数日間の火災の災害による化学物質の大気中への放出や水路への流出の対応費用に関する損害賠償をインターコンチネンタル・ターミナル社求めた。例えば、米国環境庁によると、地元、州、政府機関は請負者を含めて1,100人以上が発災現場や水路で作業している。

■ ハリス郡公衆衛生局によれば、発災のあった週に1,000人以上の人が郡の診療所を訪れた。その多くは、呼吸器の問題、頭痛、肌の刺激、吐き気に関連したものだったという。この地域の大気モニタリングでは、先週、ベンゼン濃度が急に高くなった。これらの数値は長期的な健康への影響を引き起こすほど高いものでなかったが、空気質の監視は継続するという。

■ 3月27日(水)、熱分解ガソリンの入ったタンクの油移送は完了した。現時点では、排水溝や水源を含めたタンク施設全体の修復作業を継続している。

■ 3月27日(水)午前6時時点、タンク施設からの水の混じった油と消火泡の回収量は約35,724バレル(5,680KL)である。港湾(水路)からの油と水の混合液の回収量は約28,528バレル(4,500KL)である。
(写真はChron.comから引用)
(写真はFox10phoenix.comから引用)
                                        壊れた防油堤     (写真はYoutube.comから引用)
320日の湾内(水路)の状況
(写真はItcreponse.comから引用)
(写真はChron.comから引用)
(写真は、左:Icis.com、右: Itcresponse.com から引用)
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、メキシコと国境を接し、人口約2,510万人の州である。テキサス州はスピンドルトップで原油が発見されて以来、石油が州内の政治と経済を牽引する存在になってきた。テキサス州一人当たりエネルギー消費量および全消費量で国内最大である。従来、メキシコ湾の海底油田が主であったが、 21世紀に入るとシェールオイル採掘の技術が進歩し、内陸部を中心に石油生産量が増加した。
 「ハリス郡」(Harris County)は、テキサス州南東部に位置し、人口約465万人の郡である。
 「ディア・パーク」(Deer Park)は、ハリス郡の南東にあり、人口約32,000人の市である。
ハリス郡のヒューストン、ディアパークの周辺
(図はGoogleMapから引用)
■ 「インターコンチネンタル・ターミナル社」(Intercontinental Terminals Company)は、1972年にMitsui&Company(USA) Inc.によって設立された石油ターミナル会社で、日本の商社である三井物産の子会社である。ディア・パーク市の施設には約270人が働いているが、役員を含めて従業員は米国人である。
ディア・パーク施設は242基のタンクで総容量は1,300万バレル(207万KL)である。タンクの大きさは1,200~25,000KL級である。最長182mの船が着桟できる桟橋など5つのタンカー・バースがある。 
 三井物産はテキサス州にいくつかの会社を保有しており、石油・ガス投資会社のMEPテキサスホールディング、メタノール製造施設のMMTX社、飼料添加物製造工場のノーバス・インターナショナル社などである。
インターコンチネンタル・ターミナル社のディアパーク施設 (矢印が発災地区)
(写真はIterm.comから引用)
■ 最初に発災したナフサ・タンクは内部浮き屋根式で、容量が80,000バレル(12,700KL)である。グーグルマップによると、直径は約33mであり、高さは約15mとなる。今回の発災したタンク地区には15基の貯蔵タンクがあり、同じ防油堤内にある。15基の貯蔵タンクはいずれも同じ大きさで、内部浮き屋根式とみられる。油種はナフサ、ガソリン・ブレンド、キシレン、熱分解ガソリン、潤滑油ベースオイルといろいろあるが、内部浮き屋根を必要とする油を対象にしたタンク地区だと思われる。このタンク地区のタンク間距離は、グーグルマップによると約11mで、タンク直径の1/3であり、仕切り堤はない。

■ 「チャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド」(Channel Industries Mutual Aid;CIMA、チャンネル産業協同組合)は、ヒューストン圏内の精製・石油化学業界において消防業務および危険物取扱いを専門とする非営利団体である。1955年にヒューストン船水路産業災害援助組織として設立され、自然災害から産業事故に至るあらゆる種類の緊急事態に協力的な支援と専門知識を提供している。
 なお、ディア・パーク市消防署はボランティア型の消防署である。また、途中からインターコンチネンタル・ターミナル社に要請され、派遣されてきたルイジアナ州の専門消防士のチーム(タンク火災の経験豊富な消防士15名)は大容量の泡放射砲と泡薬剤を搬送してきた。このチームの組織は明らかにされていないが、ルイジアナ州で消防活動の相互応援を牽引している“ハイアード・ガン・ギャング” のグループだと思われる。このグループについては、つぎのブログを参照。
ャンネル・インダストリー・マチュアル・エイド(CIMA )の装備や訓練風景
(写真はCimatexas.orgから引用)
所 感
■ 今回のタンク火災の消火活動は、つぎのように極めて難しい条件にあった。
 ● タンク地区の同じ防油堤内に多く(15基)の貯蔵タンクがあった。
 ● 発災タンクが15基の真ん中であり、消火活動の最も困難な位置だった。
 ● 最初の発災がナフサの防油堤内火災だった。堤内には仕切り堤が無く、油が堤内に広がる恐れがあった。
 ● タンク型式が内部浮き屋根式タンクで、固定屋根が覆われたまま、火災になり、消火方法が難しかった。
 ● タンク油種がナフサのほか、ガソリンブレンド、キシレン、熱分解ガソリンと危険性の高いものが多かった。
 ● タンク間距離が直径の約1/3(11m)と狭く、延焼しやすかった。
 ● タンクに固定泡消火設備や散水配管は無かったものと思われ、移動式の泡消火設備や散水ノズルに頼らざるを得なかった。

■ さらに、緊急事態の対応組織に問題があったように思う。
 ● 発災日が日曜であり、発災事業所の緊急事態対応の体制が整っていなかったと思われる。
 ● 発災事業所の消防隊は、CIMAという消防協同組合組織であり、プラント内の設備や油種に熟知していなかったのではないか。
 ● 市の公設消防はボランティア型消防署であり、プラントの火災は発災事業所に頼らざるを得ないと思われる。このように主導する緊急事態対応の長が曖昧であったと思われる。
 ● 初期のタンク火災戦略ついて防御的戦略をとってしまった。
 ● 大容量の泡消火砲を保有していたものと思われるが、有効に活用できなかった。

■ このタンク火災の経緯や消火活動の詳細が明らかにされ、教訓として広く知らしめるべきだと思う。
 ここでは、現在の情報からとるべきだった初期の消火戦略・戦術を考えてみた。
 ● 発災が配管マニホールド漏れによる防油堤内火災であり、まず配管からの漏れを最小限に抑える。(関連配管のバルブを閉めるなど)
 ● 防油堤内に仕切り堤がないので、漏洩の油が止められない状態であれば、堤内に広がることを念頭に置いておく。(散水によって水が溜まれば、油は表面に浮き、堤内に広がる)
 ● 堤内火災に引き続き、タンク火災になれば、積極的消火戦略を指向し、大容量の泡放射砲と泡薬剤の確保(手配)を行う。必要な資機材が整うまで待つ。
 ● タンクへの延焼を防止しなければならないので、隣接タンクへの曝露対策(散水)を行う。曝露対策として冷却放水をしている場合、タンク側板部に水蒸気が出ている限り、冷却効果があると見て放水を継続する。散水量は、「タンク火災への備え」を参考にすれば、1基あたり3,780L/分である。今回の場合、内部浮き屋根式タンクであり、特に固定屋根の金属温度上昇に気を配る必要がある。(固定屋根の通気口付近で引火する恐れが高い)
 ● 隣接タンクへの散水によって配管から漏れた油が浮遊して遠い場所で引火する恐れがあるので、消火泡で覆う。高発泡の泡放射設備があれば、そちらを使用する。
 ● 大容量の泡放射砲と泡薬剤が揃った段階で、タンク上部に一斉に泡を放射する。通気口からの火炎の場合、一方向だけでは死角になる場所が出てくるので、2方向から放射する。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Firedirect.net,  USA – ITC Plant – Naptha Fire Spreads To Multiple Tanks,  March  18,  2019
     ・Jp.reuters.com,  Texas Petrochemical Storage Fire Rages, May Burn for Two Days,  March  18,  2019
     ・Houstonpress.com,  ITC Fire Extinguished Early Wednesday Morning, School Closures Continue,  March  20,  2019
     ・Houstonpress.com,  ITC Plant Fire Spreads Overnight,  March  19,  2019
     ・Houstonpress.com, Benzene Levels From ITC Worsen Overnight. Shelter In Place Issued For Deer Park and Pasadena,  March  21,  2019
     ・Houstonpress.com, ITC Transitions Into Clean Up, EPA Reassures Still No Hazardous Levels,  March  21,  2019
     ・Houstonpress.com,  Critical Hours Ahead as ITC Attempts to Remove Last Barrels of Benzene From Tank ,  March  22,  2019
     ・Houstonpress.com, ITC Reports Breach Cause Unknown, New Fire is Out, Pumping Suspended,  March  23,  2019
     ・Bloomberg.com, Houston Officials Vow Public Is Safe as Fire Plume Hovers in Sky,  March  20,  2019
     ・Chron.com, Deer Park plant fire could last two more days; authorities monitoring air quality,  March  19,  2019
     ・Cnbc.com, Texas Petrochemical Fires Spreads to more Storage Tanks after Firefighting Snag,  March  19,  2019
     ・Khou.com, Fire crews switch to attack mode at ITC Deer Park fire,  March  20,  2019
     ・Fox26houston.com, All tank fires extinguished at ITC Deer Park,  March  20,  2019
     ・Tankstoragemag.com, Deer Park storage fire extinguished,  March  20,  2019
     ・Houstonpublicmedia.org, Eight Tanks Are On Fire At Deer Park Petrochemical Facility As Of Tuesday Afternoon,  March  19,  2019
     ・Nbcdfw.com , Petrochemical Plant Fire Near Houston Intensifies Overnight,  March  19,  2019
     ・Hazmatnation.com,   Firefighters give closer look inside Deer Park tank fire,  March  22,  2019
     ・Reuters.com, Texas Sues Fuel Tank Company over Houston Chemical Fire, Aftermath,  March  28,  2019
     ・Abc13.com, Harris County Attorney Vince Ryan Sues ITC over Deer Park Tank Fire,  March  28,  2019
     ・Deerparktx.gov, ITC Fire Updates,  April  03,  2019
     ・Itcresponse.com, 2nd 80’s Fire Response,  March  23,  2019
     ・News.tv-asahi.co.jp ,   石油タンクが大火災 消火も歯が立たず4日以上炎上,  March  21,  2019
     ・Bloomberg.co.jp, テキサス石油化学施設での火災、健康被害広がる,  March  23,  2019
     ・Sankei.com,  三井物産子会社を提訴 米テキサス州当局、火災で,  March  28,  2019



後 記: 今回の事故は、最近における最悪のタンク火災事故です。日本でも、テレビで報道されましたが、米国でもいろいろなメディアが報じています。長いタンク火災に続いて、大気汚染による住民への健康被害の問題があり、さらに漏れた油や消火泡による港湾の海上汚濁問題と災害の連鎖が引きずり、事故情報の報道は見きれないほどたくさんありました。
 このブログの趣旨から、タンク火災の経過や消防活動の状況に関する内容を焦点を当てて調べました。しかし、刻々と変わる事故は期間が長く、いつの時点の話なのか分かりにくいものでした。特に、記事がアップデートしたものだと余計に混乱してしまいました。事故経過がはっきりしない中、ディア・パーク市が発災事業所の情報発表をインターネットで公表していることを知りました。この情報が役立ちましたが、感じたのは、発災事業所自身が事故や消火活動の状況を十分に把握できていないということでした。米国の緊急事態対応のマニュアルは官民問わず、形はキチンとできているように感じましたが、事故は後手後手の典型のような経緯をたどり、現場の実行力が伴っていないように感じました。世界の石油産業を牽引する米国テキサス州における実情を見たように思いました。